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お姉ちゃんが頑張る話。 

長年お蔵入りにしていた作品。とある閉鎖サイトの作品のストーリーの一部(「順子の羞恥日記」)をお借りし
そのまま自分なりのアレンジで書いてみた習作。
細かい描写はともかく起きる展開はほぼそのままなので公開していいものか迷っていたのですが
元のページが一切見れなくなって10年以上過ぎているのでとりあえず公開。




 新築のマンションが立ち並ぶ、首都圏のとある住宅街。
 大きな幹線道路に面したバス停には、子供を連れて通園バスを待つ大勢の主婦達に混じって、制服姿の少女の姿があった。
「もー。正樹、じっとしてなさい。もうすぐバス来るから」
「はーい」
 この春市内の高校に進学した井上美春は、歳の離れた弟の手を引き、主婦達の列に並ぶ。
「おはよう美春ちゃん。毎日大変ねぇ」
「ホントです。こいつももー少し落ち着いてくれれば手もかからないのに」
「頑張ってるものね、美晴ちゃん」
 弟が生まれてから離婚してしまった両親の間で、姉弟はそれなりに逞しく生きてきた。一応父親の元で暮らしてはいるが、家事のほとんどは美春の担当である。
 こうして歳の離れた正樹を連れて、私立の小学校行きのバスを待つのも、日課の一つであった。
「それにしても遅いわねぇ」
 隣のスーツ姿の女性が腕時計に視線を落とし、いらだたしげに薄化粧をした顔をちょっと歪める。
 覗きこんでみれば時間は朝の8時を少し回った所だった。
 いつもは時間きっかりに迎えに来る路線バスだが、今日はなぜか遅れているらしい。
 目の前の信号に並ぶ大型トラックがいらだたしげに空吹かしを繰り返していた。
「いやねえ、事故かなにかしら。こんなに混んじゃって」
「ですね」
 美春は隣の奥さんに頷きしながら爪先を立てて背伸びをする。びっしりと車で埋まった道路の隙間に目を凝らしても、白と緑の車体は影も形も見当たらない。
 高校の始業は8時45分。ここから自転車を飛ばせば10分と掛からないとは言え、美春の心にも少し焦りが産まれはじめていた。
「ねえお姉ちゃん、どうしてバスこないのお?」
 元気いっぱいの子供たちは、そろそろ我慢の限界を迎え始めているらしい。正樹もいい加減痺れを切らして、美春の制服の前のスソを上下に引っ張り駄々をこねだした。
「うーん。もうちょっとだと思うから待っててね。正樹」
「……んぅ? ……お姉ちゃん、どおしたの?」
「え!? べ、べつに何でもないわよっ。ほら、捕まってないで離してってば」
「うん」
 鋭い弟の指摘に内心ぎくりとしながらも、美春は平静を装って答える。
「……にしても遅いなぁ」
 爪先でとんとんと地面を叩き、きゅ、とスカートを押さえて。
 美春の額にはいつの間にかうっすらと汗がにじみはじめていた。

 


 学校が変わり、生活が変化したせいか美春は少し体調を崩していた。馴れない環境への疲れか、はたまた宿題か気晴らしの夜更かしのせいか、今朝は見事に寝坊をしてしまっていたのだ。
 昨日床についたのは夜中の2時。目が覚めたのは7時半過ぎで、父はとっくに出勤していた。美春はそれから超高速で朝食を作り着替えて支度をし、正樹を急かして家を飛び出した。
(こんなことならもっとゆっくりすればよかったなぁ……せめてトイレくらい行っておけばよかったよ……)
 父親の給料日ということで大好きなキムチ鍋などを夕飯に作ったせいか、寝る間際にジュースなんかをぱかぱか飲んでいたのが悔やまれる。黙って出ていってしまった父を少しだけ恨めしく想いながら、美春はそわそわとため息をついた。
 恐らく、父も疲れているであろう美張るをできるだけ寝かせてやろうと思ってくれたのかもしれないが、それは余計な心遣いと言うものである。
(そんなんだからママにも愛想尽かされちゃうんだぞ……)
 はぁ、と声にならない溜め息と共に、美春は再び渋滞の列に視線を戻す。
 できるだけ、身体の中に生じ始めた感覚を気にしないように。
(気のせい、気のせい)
 しかし、言い聞かせるたびにぞわりぞわりと込み上げてくる感覚は、一分一秒ごとに強さを増し、徐々に美春の下腹部を支配しつつあるのだった。
「ホントに遅いわねぇ……何やってるのかしら」
 スーツの女性が苛立ちをあらわに踵を踏み鳴らす。何人かの主婦達も今後の予定を控えているのだろう、バス停の周辺の空気は次第に不穏なものになりつつあった。
 長針はそろそろ8時20分を刻みつつある。
「ねー、まだ~?」
「もうちょっとだから、ね、我慢して」
 正樹に言い聞かせるように、美春はつぶやいてこっそりと足に体重を掛け直す。さわわ、と背中を駆け登る感覚を押さえ込むように、さりげなく膝を交叉させた。
 もう、これは気のせいでは済まない。
(あー、マズいかも。トイレ行きたいな……)
 はっきりと、トイレに行きたいと感じるほど美晴は本格的に尿意を覚え始めていた。
 先ほどから感じていた尿意は、すでにかなりのレベルまで少女の身体の中で膨らんでいる。それを意識すまいとすればするほど、下腹部に溜まった鈍い重みはその総量を増していく。
 しくんっ、と震える下腹部をなだめるようにそっと手を添える。わずかに膨らんだ感触は、軽く押しこむと弾力を持って跳ね返り、おなかのなかのとんでもない状況を知らせていた。
(ええと……今朝はトイレ行ってないし――昨日お風呂入る前も……え、ひょっとして……ごはんつくる前からずっと? ……ちょっとヤバいんじゃないそれって……ぁうっ)
 そう確認してしまうと、尿意は加速度的に増大を始めてゆくようだった。
 意識しないうちに腰が揺れ、爪先に力が入る。
 不自然な格好で我慢をしようとすればするほど、少女の身体を苦しめる尿意はその勢力を増し圧力を高めてゆく。
 暴れだした尿意の鈍痛は、徐々にその全貌をあらわにし始めていた。考えてみれば、寝る前に口をつけた2リットル入りのお茶のペットボトルには、まだ半分以上中身が残っていたはずなのだ。
 今にしてみれば、飲んでいる時なぜトイレにいきたくならなかったのかが不思議なくらいだ。
(うー……まだ、かなぁ……) 
 そわそわと落ち着きをなくし、尿意に苛立ち始めた美春はまた腕時計に目を落とす。8時20分を数分過ぎてもなお、バスの姿は見えなかった。通勤時間にしてはありえないほどの遅延である。
 周囲の主婦達の焦燥も、次第に形を取り始めている。
 そして、美春の我慢も次第に激しさを増しつつあった。
(……んぅっ…やば…ホントに、おしっこしたくなってきちゃった……
 どうしよ……トイレ、行って来ようかな。でも、バス来ちゃうと面倒だし……正樹放って置けないよね。……これ以上、待たせちゃうのも……ぁうっ)
 美春に要求される辛抱の度合いはとどまることを知らない。そろそろ外面を取り繕うのも難しくなってきた。
 意識をはじめてからわずか十数分。かなりの危険水域まで達し始めてきた尿意は大きな津波を作り、ざわざわと美春の膀胱で暴れ出す。
 きゅうんっ、と収縮した下腹部にあわせて、美春は息を詰まらせた。
(んん…っ……くぅ、…ぁうっ……)
 少女の全身を巡り、生命活動を営んだ結果の水分が抽出され、女の子の最も恥ずかしい場所に蓄えられてゆく。一晩掛けてじっくり煮詰められ、用意されたおしっこが美春の“お母さんのいない家でも平気なりっぱな優等生”の余裕を次々と奪い去る。
(くぅ……ぅ…ぁう…)
 尿意の波は収まらない。引いては返す排泄衝動はわずかの余裕すらも与えないまま、美春はだんだんと“おしっこなんかしたくありません”というポーズを取り続けることも辛くなってきた。
(や、やだぁっ……くぅんっ……なんで…こんな、急にぃ……っ……。さっきまでっ、全然…平気だったのに……)
 そう。いくらなんでもこんな短時間に美春の膀胱におしっこが溜まったわけではないのだ。
 美春は知る由もないことだが、美春の下腹部は彼女が起きる随分と前からこの危険な状況にあった。
 人間は睡眠中は起きているときに比べて尿意を覚えにくい。全身の筋肉は弛緩しているせいで普段よりも膀胱が拡張し、さらに足元ではなく背中に向けて重力がかかるために圧迫をも免れる。自律神経も緊張から解放されることで、我慢できる量は通常よりも遥かに多いものとなる。
 それほど尿意を感じなくとも、早朝の排尿の量が日中のものに比べて多いのもそのためだ。
 そして、夕食のときのちょっとだけお相伴に預かった父の晩酌のビール、辛いものを食べ過ぎたせいでの就寝前の2リットル近い過剰な水分摂取、昨晩の夕食の支度からから一度も行なっていない排泄、気候の変化によって汗をかかずに済んだことなど、様々な条件が重なった結果、美春の体内には実に普段の許容量の二倍を越えるおしっこが溜まっていた。
 これは彼女と同年代の少女の平均を遥かに上回るものであり、圧倒的な尿意を催すのに十分なものであった。美春の目覚めと共に活動を始めた自律神経は、1時間という時間を経てからおうやくそれを確認し始めたのである。
(で、ちゃううっ……)
 もはや、危険、どころの話ではない。
 美春はきつく膝を押し付け、不自然にならない程度に腰をかがめる。
 人目さえなければ、恥も外聞もなくしゃがみ込み思いっきり股間を握り締めていただろう。爆発的に高まる尿意と戦いながら美春は震える唇を噛み締めて耐える。
「…………?」
 先ほどから小刻みに震えだした美春の様子を、彼女の制服の袖を持ったまま正樹が不思議そうに見上げる。
「お姉ちゃん?」
「…………っ」
「お姉ちゃん? ねえ、どうしたの? ねえ?」
 返事がない事を不審に思い、正樹は美春の袖をくいくいと引っ張る。
 だが、ぎゅっと手を握り締め排出孔を打ち破ろうとするおしっこを必死に塞き止めている美春には、それに気付く余裕はなくなっていた。
「ねえ、お姉ちゃんってばっ!!」
 正樹は気付いて貰おうと、袖を握る手にさらに力を篭めてぐいぐいと乱暴に振り回した。
「……っ!! あっいっいやっ!! だっ、、だめぇえっ!!」
 たたらを踏んだ美春の股間に凄まじい衝撃が走る。
 どうにか安定を取り戻しかけていた膀胱が一気に収縮し、中にぱんぱんに詰まったおしっこを噴き出そうとする。美春はたまらずぎゅうっと両手で股間を押さえてしまった。
「ううっ……ぁっく…くうううっんん、んあああっ…!!」
「お姉ちゃんどうしたの? おなか痛いの?」
「くぅ……ま、正樹…っだめ……」
 下腹部を抑えたままよろけてつまずきそうになった体勢でなんとか踏み止まり、美春はスカートに爪を立てる。熱い吐息を唇の端からこぼしながら、美春はどうにかその衝撃をやり過ごした。
 限界まで張り詰めた括約筋は、皮一枚のところで収縮を繰り返し、崩壊の時を乗り切ったのだ。ほんのわずか、排泄孔に接する下着の股布にじんわりと染みが広がるが、美春にそれを感じる余裕はない。
「ま、正樹っ……も、もう少しだ……から、我慢……し…なさい……っ!!」
 正樹に言い聞かせると、美春はぎゅっとスカートの裾を掴んで足元に引っ張り下ろす。ローファーの爪先はピンと伸び、アスファルトの上で落ち着きなく揺れている。
 もう一刻の猶予もままならなくなってきた。少しでも力を抜いてしまえば、そのまま地面の上に誤魔化しようのない水たまりを作ってしまうだろう。
 羞恥に頬を染めながら、美春は浅く早く息を継いで、辺りに視線を向ける。
(ぁあ……どうしようっ、どうしようっ……おしっこ…でちゃう……っ、おしっこしたいよぉっ……)
 美春はきょろきょろと周囲を窺った。ここはマンションが多い区画ではあるが、200mほど先にはコンビニがある。もっともそんな場所まで尿意をこらえて走るくらいなら、自宅のマンションまでは20mだ。エレベーターを使う時間を考えてもまだ余裕がある。
 今すぐバスが到着し、正樹を送り出してからエレベーターに飛び乗り、自宅に戻ってトイレに駆け込む――そして待望のトイレに辿り着き、女の子が誰にも見せずに個室で行う行為の過程を思い描いて、美春ははぁぁ、と背筋を震わせる。
 トイレで、おしっこ。
 それだけの行為を、こんなにも心から待ち望んだ事はなかった。
「……く……ふ…っ」
(ぅぅ、はやく来て、よぉ……)
 けれど、それも全てバスが来てからのことだ。今はただ、美春は必死におしっこを我慢しつづける以外の選択肢はない。
(はやく……はやく……)
 いくらなんでもそろそろ来るはずなのだ。あと少し、少しだけと胸の中で繰り返しながら、美春はきゅっ、きゅっとローファーを鳴らす。
 そんなことを脳裏に巡らせている美春の後ろで、やはり子連れの奥さんが首をかしげた。
「ねえ、美晴ちゃん、さっきからどうしたの、そんなにそわそわして」
「…んぅ……えっ? は、はいっ」
 唐突の大きな声に、とりあえず返事をした美春だったが、すでにまともな受け答えをできる状況ではなかった。
「どこか具合悪いの? 無理しない方がいいわよ。ただでさえ美春ちゃん、色々頑張ってるんだから。もっと息抜きしてリラックスしないと」
 話しかけてくるおばさんの声は、かなり大きなボリュームだった。ただでさえバスの待ち時間で焦れている人々は、ちょっとした異変にも敏感だった。周囲の視線が何事かと一様に美晴のほうに集まってくる。
「え、ええと……その、べつに……」
(や、やだ……見ないでよっ……く、うぅうっ……が、我慢できなくなっちゃうぅ……)
 注視に晒されて、美春これまでは辛うじて取っていた前傾姿勢も、膝を交差させる我慢ポーズも取れなくなる。漏れそうなおしっこを我慢する事すら許されない苦痛に、美春の胸は激しく高鳴った。
 同時、羞恥に晒され、美春の下腹部で再び強烈な尿意の波が巻き起こる。
(えっ、や、やだっ、嫌ああっ!!)
 膀胱の中でおしっこが渦を巻き、出口に向かって殺到する。それに抗する美春の水門は徐々に力を失くし、ひくっと悲鳴を上げて引きつる。
「ねえ、美晴ちゃんてば。本当にだいじょうぶ?」
「ぅく、…は、だ、だいじょぶ……です」
「ちょっと……大丈夫じゃないわよぉ。顔真っ青じゃないの」
(やっ、触らないでよぉっ……!! お願いいっ!!)
 額に伸ばされた奥さんの手を振り払いたくなるのを美春は必死にこらえた。
 ただでさえわざわざ話しかけてくるような(しかも桁外れに声の大きい)お節介なおばさんだ。ここで美春がくねくねと身体をくねらせ、腰を揺すりでもして必死におしっこを我慢している仕草を見せてしまえば、『あらあら大丈夫? おトイレ? おしっこなの?』とでもみんなの前で大声で報告してしまうだろう。
(そんなの、絶対にイヤっ……)
 いい年をして、家を出る前にトイレにも行っておかなかった、ちゃんとおしっこも済ませられない女の子。
(と、トイレのしつけもできてないなんて言われちゃったら……っ)
 そんな事になれば、美春は明日から生きて行けないに違いない。
 真っ赤になっておしっこを我慢していた女の子。通勤、通学の人通りの最中で、その存在が目立たないはずはないのだ。ただでさえ父子過程ということで美春の家は注目を集めやすい。この上美春の恥態が知られれば、おしゃべり好きのおばさんたちに噂話の格好の材料を提供してしまうことになる。
 おばさんの問いかけに真っ青になって首を振りながら、美春は渋滞の車の列を睨みつける。
(まだ……なのっ!?)
 時計は8時25分を示していた。まだバスの影は見えない。
 背中を冷たい汗がひとすじ、ふたすじと這い降りてゆく。
「ねえボク、お姉ちゃんどうしたの?」
「わかんない。でもさっきからなんかヘンだったよ? いつもあんなことでおこったりしないのに」
 美春が答えなくなったことで、おばさんは質問の相手を正樹に切り替えたようだった。見知らぬ顔だということもなんのその、おばさんは持ち前の『誰とでもお話できるオーラ』を駆使して正樹と話し始める。
「そうなの。困ったわねぇ」
「うん。お姉ちゃんどうしたのかな……」
(ばか……余計なこといわないでよっ……き、気付かれちゃうじゃないっ……)
「やっぱり、お母さんがいないといろいろ大変なのかしらねぇ……」
(違うわよっ……そんな、そんなんじゃないのっ……)
「ねーねーママ、お姉ちゃんびょうきなのー?」
 正樹と隣の女の子が心配そうに美春のことを案じているため、おばさんはこれ幸いと美春の顔をじろじろと眺め回してくる。美春は失礼という単語を知らないらしいおばさんから不機嫌を装ってぷいっと視線を反らした。
 ――お母さんがいないから。
 それは、美春が一番言われたくないことだ。確かに普通の家とはちょっとだけ違っているが、そんなことでとやかく言われたくはない。だからこそ、美春は暴走しそうになるぱんぱんの膀胱を力ずくで捻じ伏せて、必死に平静を取り繕うのだった。
 しかし、そんなことで美春の体内に溜めこまれたおしっこと、それによって引き起こされる生理反応は着えてなくなるわけではない。おばさんは美春のうなじに浮かぶ汗を目ざとく見つけ、大きな声を上げた。
「うわ。すごい汗じゃないの。やっぱりなんでもない事ないじゃないっ」
「ち、ちが……も、もうっ!! さ、さっきから言って…るじゃない・・…ですかっ!! だっ…だっいじょうっ…ぶ……ですからっ、放っておい…て、くださいっ」
 きゅううんっ、と切なげに膀胱が震える。身をよじるほどの尿意がこみ上げ、美春の理性を吹き飛ばそうとする。もはや朦朧とする意識の中、美春は唇を強く噛み締めて必死に『おしっこなんて我慢してない』自分を奮い立たせる。
 それでも、すさまじい尿意は一向に収まる気配がない。まるで全身の水分を絞り上げられ、それが股間の一点に注ぎこまれているかのようだった。脚の付け根の大事な場所を熱く痺れさせる尿意に、美春の意識が薄れる。膀胱を直撃する排泄の衝動に、少女は全身を震わせていた。
(ふぁ、くうぅっ、ガマン、ガマンしなきゃ……っ)
 必死に自分に言い聞かせても、そのままの姿勢で耐え切る事は不可能だった。美春は両足をきつく交差させ、鞄で隠した下でスカートの股間をぐぐぐぎゅううっと押さえ込む。人目に晒されるなかで取れる最大限の譲歩だ。本当は恥も外聞も捨てて股間をぎゅうぎゅうと絞り上げたい。
「んうっ……くくっ……んああっ」
 必要以上に湿り気を帯びた、熱い吐息が美春の唇からこぼれる。
 誤魔化せているつもりだったのだが、その動作は傍から見ても少し調子が悪い、程度のものではない。美春の異変に気が付き始めた隣のおばさんは美春の事を心配と興味に満ちた視線で眺め始める。
(ぁあ…やば……っ、き、気付かれちゃった……のっ!?)
 おばさんたちは決してなにかをしてくるわけではなかったが、ぴったりと張りついた視線は『ねえ、美春ちゃんひょっとしてトイレ行きたいんじゃないの?』と問いかけられているかのようだ。無遠慮なおばさんの視線に、美春は全身が熱くなるのを感じる。
 同時に、底知れぬ冷たさが美春の背中を這い落ちてゆく。
(どうしようっ……ほ、ホントに、おしっこしたいって……バレちゃったらっ……)
 このマンションのおばさんたちは町内でも有名なお喋り好きで有名である。噂話ならまだしも、時には煙の無い所に火事を起こす事ような真似まで平気でやってのける。暇さえあればお喋りの相手を探し、さらに下世話な話が大好き――と、良識ある住人たちからは非常に迷惑がられるほどの悪癖であった。
 しかし、それで本人たちはお節介、世話好き、と思いこんでいるのだからタチが悪い。
 高校生にもなって朝からトイレにも行かず、バス停でくねくねとおしっこをガマンしている美春は、格好のおしゃべりの材料に違いなかった。
(っく……ダメ…っ。この人、の前でだけはっ……、ぜったい、にぃっ……)
 おばさんのお喋りの犠牲となった住人たちのことを思い出し、美春は背筋を震わせる。ただでさえ、父子過程で妙な勘繰りが耐えないのだ。ヘタをすれば、正樹まで『おトイレのしつけもできていない子の弟』と、そのおしゃべりの犠牲になりかねない。
「ねえぇ、美春ちゃん……?」
「ど、どうか……しました?」
 全身の神経を総動員して括約筋に集め、美春は平静を繕って姿勢を正した。ガマンに耐えかね排泄孔を直接塞ぎたくなる両手を鞄に添えて、こつこつとひっきりなしに爪先で地面を叩く。
 おばさんはなおも不審げに美春をじろじろ眺めていたが、その時、40分遅れで到着したバスが渋滞の向こうに姿を見せた。
「あっ、きたー、ねえ来たよ、お姉ちゃん、バス来たよっ!!」
(……っ、やったぁ……だいじょぶ、あとちょっとだけ……我慢すればっ……)
 クリーム色の大きな車体がようやく停車し、ぷしゅうとドアを開くと同時、バス停の前に待っていた一堂から安堵の声が上がる。
「あー。やっっときやがったかー」
「遅いよー。もう遅刻だ遅刻」
「申し訳ありません、ご迷惑をおかけしました」
「いいよいいよ。今日混んでたもんね」
 どやどやと乗り込んでゆくバス停前の一堂。
「っ……く、ぅ……~~……っ……!!」
 けれど、本来正樹を送り出してやらなければならないはずの美春は一歩も動けなかった。
 そう、ほんの数秒前から再び彼女の膀胱には強烈な尿意が猛威を振るっており、美春はぴんと全身を硬直させてそれに耐えていたのだ。
(やっ、だ、……だめ、おさまって……ぇ……っ)
 美春は必死に括約筋を引き絞りながら、おさまりのつかない自分の下半身に懇願する。

 じんっ、びりびりびりりっ!!

 だが暴れ狂う尿意に蹂躙され、猛烈な刺激に美春の排泄孔は緩みかける。背筋を貫く稲妻に意識が遠のきそうだった。
(うぁあっ……動いたら、で、ちゃう、かもっ……)
「ほらっお姉ちゃん!! バス、来たよーっ」
 正樹は手を握ったまま動こうとしない姉に痺れを切らし、目の前に停車したバスを指差して美春を急かす。
「ほらお姉ちゃん早くってばぁ。健二くんも乗ってるよぉっ」
「ちょ、ちょっと、待ってっ……正樹、おねがい、お願いぃっ」
 我慢の綱引きの真っ最中に、ふらつきながら懇願する美春。けれど、はしゃぐ正樹には聞こえていない。正樹は美春のジャケットの前のスソをぐいぐいと引っ張りながら、バスの扉の方に美春を引きずってゆく。無理矢理歩かされる刺激に満杯の膀胱の中身がたぽんたぽんと震え、今にも膝が砕けそうになる。
 美春の背中におばさんの視線が突き刺さる。
(ちが……違うの、これは、ち、違うんだからぁっ……)
 必死の言い訳も、内股で覚束ない足取りと下腹部に添えられた手を見れば一目瞭然だった。美春は暴れ回る尿意と戦いながら、辛うじて一歩一歩を進んでゆく。もはや地面に足がついているようにも見えない。
「ねえ、お姉ちゃんヘンだよ。早くぅっ」
 いつもと様子の違う姉に気付いても、思いやることのできない残酷な幼さで、正樹は美春をさらに急かしジャケットの裾を握り締め激しく揺さぶった。
 ぐい、と大きく前に引っ張られ、美春はバランスを崩してしまう。
「ぅ、あううっ……だっダメ、正樹っっ」
 つんのめった美春は思わず大股で一歩を踏んでしまった。

 じくん、きゅうううっ!!

(っッッ!! ……く、あ、や、ぁああっ)
 収縮する膀胱が激しくよじれ、内部の不要な水分を絞り出そうとする。破裂しそうなおしっこが収まらない。排泄孔に殺到する恥ずかしい熱湯に、今にも股間を貫かれてしまいそうだ。
「ばーかっ僕のが先だよっ」
 生涯したことのないほどのガマンに悶える美春の前に、いきなり正樹と同じ歳頃の元気な男の子が列の前に割り込んできた。
「うわっ? こら、横入りすんなよっ」
 叫ぶが、少年は止まらない。正樹は後ろに押しのけられた勢いで美春の方に倒れこむ。
「わわあっ!?」
 捕まる場所がなかったのだろう。バランスを崩した正樹の頭と背中が美春の張り詰めた下腹部に激突する。
(―――や、バカ、正樹っ!!)
 悲鳴を上げる暇さえなかった。
 ただでさえ限界まで張り詰めていた膀胱にすさまじい衝撃が走った。ただでさえもう1ミリも余裕のない恥かしい水風船が外部から圧迫され、必死で微笑んでいた美春の表情が一瞬にして硬直する。

 じゅわっ。

 じくん、と排泄孔に走る痛みと同時、確かに股間が爆発したように感じられた。我慢と尿意の間で張り詰めていた下半身を崩壊させる確かな引き金は、無常にも振り下ろされてしまったのだ。ぷしゅっ、と熱い雫が美春の脚の付け根で弾け、少女の下着に染み出したおしっこが、じわりじわりと股間に広がってゆく。
(だ……ダメ、だめ、ダメ、だめっ、だめぇっ、ダメぇえええっ!!!!)

 じゅじゅっ、じゅぅっ、じゅわわっ、

 少しずつ漏れだす熱い迸りが下着の股布にぶつかって恥かしい音を響かせる。美春の全身は凍りつき、噛み締められた唇がぎゅっと引き締められ、額にはじっとりと油汗が浮かぶ。
「っ……んふっ……んんんああっ」
 堪えようとするも悲鳴は止まらない。しゅるしゅると漏れだすおしっこは美春の身体の芯にまで熱く響き、途方もない解放感をもたらした。急激に高まった尿意と排泄の快感は、まるで射精にも似た悦楽だ。
 もう恥も外聞もない。少しでも気を抜けばおしっこが容赦なく吹き出して、この往来の注視の中おもらしを始めてしまうことは確定的だった。美春は排泄の誘惑を必死に振り切りながら、ぐぎゅうぅっと交差した両足の付け根にぐいっと左手を突っ込んだ。
 スカートの下、湿った下着の上から包み込むように爪を立て、必死で渾身の力を込めて自分の股間を押さえあげる。
 全身の筋肉が痙攣したように引き攣り、美春の背が震える。絞り上げられ小刻みに震えながら虚空をにらみ続け、美春は息を止めて決壊の時を乗り切ろうと耐える。
 そんな、一世一代のおしっこ我慢を続ける美春を尻目に、正樹はバスに乗り込んでいった。
「いってきまーーっす」
 刹那、正樹を視界の隅で捕らえていた美春は爆発寸前の尿意を鉄の意志で押さえ込む。
(手、手、振って、あげない、とっ)
 鞄を放すわけにはいかない。美春は股間の手を引きはがし、今にも破裂してしまいそうな膀胱を絞り上げ、正樹に向けて手を上げる。じわりと濡れた指は、おしっこにまみれてひんやりとしていた。
 皆に見られながら、もじもじとお尻を震わせてがくがく脚をすくませて、おしっこで汚れた手を振って、弟を見送る。ぼろぼろの笑顔こそ浮かべてはいたが、美春の心はすでにずたずただった。
 やがてバスが渋滞の列に流れ込み、バス停に残った見送りの人々は一人、また一人と姿を消していく。
 しかし、さっき美春に声をかけてきたおばさんだけは、やや離れた位置からじっと美春を凝視している。下世話な興味が丸出しの視線は、美春がどうなってしまうかを楽しむかのような悪意すら感じさせた。
(くぅ、ぅううっ、やだっ、やだあっ、見られちゃ……ダメ、がまん、がまんんっ!!)
 本当なら今すぐこの場を走って逃げ出したい。しかしそんな衝動も、さっきの弾みで漏れ出したおしっこは美春の下着をぐしょぐしょに濡らし、薄い布地をぴったりと美春の股間に張りつかせている。そして今なお崩壊寸前のダムは恥かしい熱湯を一気に溢れ出させようと小刻みに脈動しているのだ。
(う、動いたら……でちゃう・…っ!!)
 このまま一歩でも歩き出そうものなら、それが呼び水になってまたおチビリがはじまってしまう。これ以上漏らし続ければ間違いなく、おばさんに決定的な瞬間を目撃されてしまうに違いない。
 せめて他の人の目のないところ。誰にも見られないところ。
 腰を伝う震えに耐えながら、美春は緊急避難場所を探し始めた。
 しかし、近くにトイレはない。美春の部屋まではあまりに遠いし、仮にコンビにまで我慢できたとしても、店の人や客にはっきりと見られてしまう。
 おしっこをできる場所は、どこにもない。
「…も、…もうだめっ……もれ、ちゃ…っ」
 絶望と共に美晴ががくん、と腰を落としかけた瞬間だった。
 ゴミ捨て場から戻るエプロン姿の眼鏡の女性……同じマンションに住む朝霧由梨絵。美春のクラスメイトの姉である。
 文字通りの地獄に仏。美春は藁にもすがる思いで由梨絵の名を呼ぶ。
「ゆっ、ゆりえ、さんっ……」
 かなり距離はあったが、バス停の向こう側から部屋に戻ろうとしていた由梨絵は怪訝そうな顔をして足を止め、辺りを窺う。
 おずおずと手を伸ばし助けを求めようとした美春だが、切羽詰った尿意はそれすらも許さない。元の位置に戻った手のひらで股間をおさえ、少女は必死の表情で由梨絵に救いを求める。
「美春ちゃん? ……どうかしたの?」
 今度こそ美春に気付き、由梨絵は柔らかな笑顔を浮かべて少女に歩み寄る。差し伸べられた天の救いに、美春は我も忘れて由梨絵に飛び付いた。
「きゃ……っ!? 美春ちゃんっ……!?」
「由梨絵さんっ、そ、そのっ…お、ねがいっ……」
 驚く由梨絵に、頬を赤くしながらも美春は歯を噛み締めて尿意を訴える。
「っ、もっもうだめ……っ、もれ……ちゃううっ」
「え……?」
「ごめんなさいっ……もっ、もうだめ…は、はやくぅっ、……」
 美春の異常に気付いたか、由梨絵も深刻な表情になって周囲を窺う。相手が二人になり、さすがにさっきのおばさんもじろじろと眺め続けることに気まずさを覚えたのか、そ知らぬ顔で視線を反らしていた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫っ? 美春ちゃんっ」
「……だっ、だめッ……お願いっ……由梨絵さんっ、早くぉトイレ……貸して……」
「え……美春ちゃん……トイレ?」
 由梨絵はきょとんとした声を上げたが、すぐに美春の切羽詰った様子と途切れ途切れの単語から危機的状況を察知してくれた。美春は由梨絵の肩を借り、おばさんの視線から逃れる。
 ようやく差し伸べられた救いの手に感謝する美春だが、再び切迫してきた尿意に身体をピンと竦ませる。
「ぅあ、うぅぅっ……あ…っく……」
「……ねえ、ひょっとして美春ちゃん、おなか壊しちゃってるの?」
 由梨絵が声を潜めて聞いてくる。美春は額にびっしりと汗を浮かべたまま小さく首を振った。こみ上げてくるおしっこを塞き止め、内股になってぶるぶると震える。
「ぉ……おしっ……こ……。もうだめ…ぇ…は……早くぅっ……」
「あ、そうか。今朝バスが随分遅れちゃったから……うちまでちょっと歩くけど、大丈夫?  美春ちゃん」
「は、はいっ……んうぅあっ……んんっ、くぅうぅっ……」
 由梨絵に手を引かれ、へっぴり腰のまま必死で進む美春だが、わずか2,3歩で突然立ち止まってしまう。低いうめき声をこぼして前かがみになった美春は、空いている方の手でスカートの上から股間を握り締める。
「あ……っ、ぁあっ……ゆ、由梨絵さんっ……ちょっ…ちょ…っと……ま…ってっ。も……ちょ…っと……ゆっ…くりぃっ……」
 肩で大きく息をしていた美春の全身がビクンと大きく震え、ソックスの足ががくがくと震える。歩くだけで膀胱が圧迫され、じゅじゅじゅっ、とおしっこが漏れてしまいそうだ。下腹部で弾ける尿意が、少女の恥骨に激しい衝撃を運んでくる。遠い路肩の先を焦点の失った瞳で見つめていた美春は、熱い吐息と共に由梨絵の手をギュッと握り返した。
「あっ……あ、あ、あああっ……も、う……っ、あ…ああっ」
「ちょ、ちょっとってばっ。美春ちゃん、ほらっ、立ってなきゃダメだよ。…しゃがんじゃったら出ちゃうよっ?」
「うぅっ……んあっ……はぁはぁっ…んああっ!!」
 由梨絵の手を握り締めたまま、ぎゅうっときつく足を交差させる美春。しかしどれだけ美春が健気に気を張り詰め、我慢を重ねようと、身体は勝手に生理的欲求の限界を訴え、おしっこを排泄しようと勝手に腰を落し排泄の準備を始めてしまう。閉じていたはずの排泄孔がじくんと歪み、溜まりに溜まったおしっこの圧迫に耐え兼ねて収縮を繰り返す。
「だめだよこんなとこで、ほらっ!!」
「はあっ…はあはあっ……んっ!!……ああっっ!!」
 由梨絵に促され、震える足先で一歩踏み出す。瞬間、美春の体が再びぶるっと大きく震えた。
「あっ……うぅぅ……」
「あああ、ダメっ!! 美春ちゃんっ!!」
 前にかがみ、後ろにひょこんと突き出した美春のお尻が、スカートの下で小刻みに震える。そして下着の内側でじわっ、と広がった染みが、紺のスカートの外側まで染みだしてきた。それを見つけた由梨絵は、素早く美春の後ろに回りこみ、美春の持っていた鞄で少女のお尻を隠す。
「がんばって!! もう少しだからっ!! もうちょっとだけ我慢すればおしっこできるんだからっ!!」
「はぁ…はぁぁっ……んああっ……ううううっ」
 もはや脊椎反射でふらふらと歩き始める美春。しかし、またも5、6歩進んだところでぎゅうっと前かがみに立ち往生をしてしまう。今度は両手でおしっこの出口を塞ぎ、唇を噛み締めてくねくねと腰を揺する。
 だが、そんなはかない抵抗も空しく、美春の股間から再度ぶじゅううっと水音が響く。同時に美春の内腿を伝って幾筋もの水流が流れ落ちる。ぽた、ぽた、とこぼれる雫は地面に黒い点々を描き、美春の荒い息に合わせて広がってゆく。
 さっきのおチビりとは比べ物にならない、あきらかな『おもらし』だった。とっさにぎゅっと力をこめて膀胱の出口を塞いでも、尿道に詰まった雫は我慢しきれず、美春はさらにぶぢゅっ、とおしっこを吹き出させてしまう。熱い雫が下着の股布に勢いよくぶつかり、スカートのお尻に浮かんだ黒い染みがひときわ大きくなる。
「だめだよ……美春ちゃんっ、ほら、さっきのおばさんまだ見てる……我慢しなきゃだめ、もうちょっと、ほんのちょっとだけだから、ね?」
「う、うんっ、んんっ、くぅうううっ……ぁああああっ……」

 じゅ、じゅぅ、じゅっ、しゅるるっ……ちょろろっ……

 おばさんの視線は美春の背中にも痛いほど突き刺さる。今ここでお漏らしをしてしまったら、一体どんな噂を立てられるか。しかし既に美春は『おしっこも済ませられない恥かしい女の子』として十分すぎるほど目立ってしまっているのだ。由梨絵の言葉は気休め以外の何者でもなかった。
 しかし、由梨絵の声に理性を奮い立たせ、美春はどうにか決壊だけは乗り切った。下着はびっしょりと濡れてしまったが、まだこぼれたおしっこは少しだけだ。
 美春はなおも歩いては立ち止まり、前かがみになっては必死に腰をよじってを繰り返し、何度も何度も限界寸前の尿意を堪えてやっと大通りから由梨絵の部屋に続く階段の入り口に這いずり込んだ。
「ほら、あと少し……もうちょっとだから、美春ちゃん頑張ってね、もうちょっとだよっ」
 まるで自分のことのように必死に励ましてくれる由梨絵にしがみつくような格好で、お尻を突き出し腰を折ったままでよろよろと歩きつづける美春。しかし、震える足を辛うじて持ち上げ階段を登りきって、入り口まであと数メートルという距離で、少女の辛抱は途切れてしまった。美春の下半身がおしっこを受け止める地面の誘惑に屈するようにがくん、と落ちる。
 もはや尿意を我慢するためのステップも踏めない美春の身体が一瞬大きく震えたかと思うと、凍りついたように硬直する。
「あっ…んはぁあっ……!! だっだめ、由梨絵さんっもっもう、でっ……出るっ、でるうっ、でちゃうよおっ!!」
 かすれた声で振り絞るように由梨絵に叫んだ美春は、股間をのスカートに激しく皺を寄せて絞り上げ、ぎゅうっと目を閉じてしまった。その間にもじゅうぅっと排泄音が響き、股間を押さえる美春の左手の脇から溢れだしたおしっこが太股を伝って滴り落ちてゆく。ぽた、ぽたたっ、と床のコンクリートに恥かしい模様を描いてしまう。
「あぁ……美春ちゃん、あとほんのちょっとだから我慢しなきゃだめ!! ほら、立って、しゃがんじゃったらおしっこ始まっちゃうからっ!!」
 声を荒げないよう、由梨絵は美春の耳元で叫ぶ。ほんの少し限界を超えてしまっただけでこの量だ。美春のおなかに溜まったおしっこの総量は一体どれほどのものになるか。
 由梨絵の励ましを頼りに、美春は涙の滲む目を開き、意を決してずりずりと足を動かし始める。
「あっ…うぅっ!! んあっ、ダメぇっあうううっっ!!」
「美春ちゃぁんっ!!」
 腰を砕くほどの強烈な尿意の大波が少女に襲いかかる。もはや冷静な判断力を失い、美春は自分の股間を押さえていた手の平を少しずらし、股間の下で受け皿のように構えてしまう。
「ほら! 手はなしちゃだめっ、美春ちゃんっしっかり!!」

 じゅぅうぅつ、じゅじゅじゅぅうっ、しゅるるるっ

 美春は戦慄と共に大きく染みの広がりだした自分の股間を見下ろし、肩を大きく震わせた。少女のあごから汗がぽた、ぽたと滴り落ち、地面にこぼれたおしっこの跡の上に新しい黒い跡を作る。
 それには、もしかすると少女の恥辱の涙も混じっていたかもしれない。
「あ…だめ…ゆ、由梨絵さんっ……わたしっ、もう、だめ、おしっこ、……っ、……こ、ここでしちゃうっ……」
「ねえ、ねえ、しっかりして美春ちゃん……ここってトイレじゃないんだよ? おしっこするところじゃないんだよ!? 美春ちゃんっ!」
「だめっ、……ガマン、できな……でちゃう、っ……」
 猛烈な尿意の蹂躙に晒され、ぼろぼろに疲れきるまで理性を陵辱された美春は既に冷静な判断力を失っていた。おしっこがしたい、もうガマンできない。それだけの意識が清らかな乙女のプライドを打ち砕き、本能のまま欲求に従えと美春の身体を衝き動かす。美春の下半身は理性を失い、まるで動物と同じように、ところ構わずに排泄を欲している。
 美春はちょこん、とお尻を突き出した姿勢のまま、両足の間に手のひらで作った器を構えて『おしっこを漏らすポーズ』を取ってしまった。今にも腿の間からほとばしりそうなおしっこを、手の平で少しでも受け取めようとする。
「美春ちゃんだめっ、だめっ、がまんしなきゃだめだよぅっ!!」
 由梨絵は美春の背中を叩き、必死になって少女の姿を周囲から隠そうと覆い被さった。だが次の瞬間。
「あ、あああ、あああああああーーーッ!!」

 じょじょっ、じじゅるるるうっ、びちゅびちゃじゃぱっ……

 突き出した美春のスカートの奥でくぐもった音が響き、少女の脚の付け根の染みが一気に拡大した。美春が自分の股間の下で構えた手の平に、熱い濁流が小さな滝となって迸る。
 耐えに耐え続けた、少女の本当の勢いでの排泄が間近だ。排泄とは無縁の、マンションの入り口でそれが繰り拡げられようとしている。誰が通りがかってもおかしくないというのに、美春はここでおしっこを始めようとしていた。
「だめ――!! 美春ちゃん、だめだよっ!!」
 少女の心の貞操を守るため、由梨絵は心を鬼にして強引に美春を前にグイッと押し出した。
「ぁっんっ……!! だっだめっ、ぃやっ……っ、ゆりえさん……いじわる、やめてぇ……もうここでいいよぅっ、ここで、っ、ここでするのっ、しちゃうからぁっ……」
「だめ、だめだよ美春ちゃんっ!! 女の子なんだから……ほら、立ってっ、もうすこしでおトイレ入れるんだからっ!!」
 前のめりになった美春はぽたりぽたりと飛沫を股間から振り撒きながら、必死で股間を押え込み、何とか奔流の決壊だけはまぬがれる。足元にぱちゃぱちゃと水流の跡を残し、少女は崩壊の一歩手間を保ち続けて足を進め、ようやく由梨絵のアパートの部屋の前までたどり着いた。
「ほら、あとほんのちょっとだよっ!! 今鍵開けるから我慢して、がんばってっ!!」
 まるで自分の事のように、大慌てで鍵を開けてくれる由梨絵。しかしそんなわずかのタイムラグさえ、股間を握り締め尿意の大波に攫われるたびビクンと背を伸ばし続ける今の美春にとっては地獄のような苦しみだ。
「ゆっ、由梨絵さんっ、はやくっ、はやくはやくっ、はやくぅうぅっ……」
「うっ、うんっ!! ほら開いたよっ!! トイレの場所っ、分かるよねっ!」
 背中から念を押され、美春は前かがみになったまま股間を押え込みながらもふらふらと玄関に向かう。廊下はあまり広くはなく、もう由梨絵が支えに入るスペースはない。美春はトイレまでの数メートルを自力で進まねばならない。
 両足は前できつく交差され、皺を寄せて押え込んだ美春のスカートには、既にどう努力しても隠し通せないほどに大きな染みが広がり、腿やふくらはぎまでにもいくすじものおしっこの跡が残っている。床にも地面にも、これまでの道のりで美春はすでに十分すぎるほどおしっこを漏らしていた。
 だが、それでも全然足りないのだ。美春のお腹を占領した恥かしい熱湯を出しきるのには、まったく足りていない。むしろ数度の排泄と中断がますます尿意の激しさを増している。
「はぁっ……はぁっ……ふぅうんっ、んんぅぅううっ……」
 美春が熱い吐息を漏らすたびに、内腿に広がる染みがじわりじわりと広がってゆく。下着の中で、少女の排泄孔はすでに緩みはじめていた。一歩ごとに膀胱にぱんぱんに詰まったおしっこが外に漏れ出してくる。
「あっ……ぁうううっっ……はぅうぅううっっくぅう!!」
 美春のお尻に張り付いたスカートの奥で、じゅるるるるるぅうっ、とくぐもった音が響く。
「きゃっ……ダメだよ、もうトイレすぐそこなんだからっ!! 美春ちゃん、おしっこあとちょっとでできるよ!? がんばってっ!!」
「……ぁぅううっ……だっだめっ!! も、もぅ……」

 じゅわわっ、じゅるるう、じゅじょじょじょっ!!

 背中から由梨絵の応援を受けるも、ビクン、と足を止めた美春の靴下が一瞬で色を変え、スカートの裾から小さな滝が足元に滴り始める。

 ぶじゅっ、びゅるっ、じゅぅぅっ

 少女の股間の先端から、荒い息に合わせたように熱い濁流が間断的に噴き出す。
「んふぁあああっ!! だめぇええええっ……」
 叫びながら美春は必死に玄関の段差に脚をかけた。同時、少女の股間からこぼれ出した雫が、激しく音を立てて直接床を打つ。少女のおしっこ我慢の行進の道のりを示すかのように、美春の歩いた後には水たまりが点々と続いている。
 美春を先に入らせた由梨絵が後ろ手にドアを閉める。前かがみになりながら俯いた少女は、靴を脱ごうとした姿勢のまま硬直し、お尻を突き出したまま喘ぐ。
 そして、再び激しい排泄の先走りを床へと吹きこぼした。
「んんんっ……くぅっ…ぁっ!! ……ふぅっ…はっはうぅうっ、はあっ……はあっ、んぁはあっ!!」

 じょじょっ、じゃぁっ、じょじょじょわあっ、びちゃびちゃばちゃっ!!

「ああ、だめだよっそんなところでっ……!! 美春ちゃんっ、しっかりっ!!」
 美春の股間から噴き出したおしっこの熱い濁流が、玄関に置いてあった靴に降りそそぐ。他の家の床と玄関を台無しにしてなお、美春の尿意はとどまる所を知らない。
 美春はじょぼじょぼと音と立てて止まらないおしっこを手のひらで受け止めながら、震える足で無理矢理に前に進もうとする。玄関のマットの上に靴も脱がず昇ったところで、再び少女は身体を硬直させた。
 激しく肩が震え、右手がこれ以上ないほどきつくスカートを掴み、左手は必死に内腿を擦っている。
 少女の視線は既に焦点を失い、ふらふらと左右に揺れるばかり。スカートから染み出したおしっこの奔流は、すでに足元の水たまりまで途切れること無く続いている。
 由梨絵の目の前で、美春は最後の尿意の大津波に飲み込まれた。
「ぁうあぁあああっ……っ、く、く、ぁ、ぅ、あ、っ……」
 少女の背中がびくんと仰け反る。限界を超えた膀胱が自律神経に支配され、収縮の予兆に震えた。括約筋が千切れそうなほどに熱く焼けきれる。永遠にも思える壮絶な我慢で、酷使された美春の大切な部分は真っ赤に色を変えていた。
「もっ、もぅ……」
 はぁーっ、はぁーっ、という堪えようもない荒い吐息。渦を巻き暴れ狂うおしっこに蹂躙されて、美春はもう一歩も動けない。
「も、もう……だめっ!! ごめん、ごめんなさいいぃいっ……」
 次の瞬間、美春の身体から一気に力が抜け落ちる
「み、美春ちゃんっっ!!」
「ぁっ、あっあっ!! ああああっはぅうっ!!!」

 じょわわわっ、じょぼじょぼじょぼぼぼぼっ、じゅるるるるぅ!!

 足に張り付いたスカートを引き剥がすかのような膨大な水圧と水量で、少女の股間が弾けた。限界を迎えた排泄孔から一気におしっこが吹き出す。羞恥の洪水は瞬く間に下着とスカートを水浸しにし、美春の下半身を侵食した。
「ぁ……っ、ぁ、ぁ、ぅ、ぁ……っ~~~…!! だめ、だめ、由梨絵さ…んっ、もうだめっ、ガマン…で、きなっ、ぁ、っ・……」
 排泄の快感にふらりと傾いた身体をを支えるため、美春は反射的に左手を壁についてしまった。外から押さえる力の半分になった股間がびゅじゅっぶじゅっと激しい潮を吹き上げる。疲弊した括約筋では押さえこむことなど叶わなかった。

 じゅぶっ、ばちゃ、ぶじゅっばちゃばちゃじゅぼぼぼぼっ、じょばばばっ

 おしりを後ろに突き出した姿勢のまま、美春は排泄の甘い痺れのなすがままに侵されてゆく。溜まりに溜まったおしっこはホースからの放水にも似た勢いで床に叩きつけられてゆく。
 その時。廊下の奥の方の部屋の戸が開き、中から由梨絵の弟――美春のクラスメイトである幹也が顔を出した
「あっ、ぁ、あ――――、ダメえっ……で、でちゃ、でちゃうぅっっ!!」
「姉貴、どうしたんだよっ…て、美春? …うわっ!? おっ、おい、なにしてんだお前っ!!?」
「や、馬鹿、バカっ、見るな、見るなぁあ!!」
 幼馴染の目の前で、女の子が絶対にしてはならない行為が始まってしまう。
 既に制御下を離れた股間を必死に隠しながら、そう叫ぶのが精一杯だった。
 押さえられたスカートの下、すでに悲惨な状況になった下着のなかで、美春の敏感な突起だけが薄い布地を突き破らんばかりに震えている。
「はあっ……、はああっ、んぁあぅっ!!!」

 ぶじゅっ、びゅるるっ、じゅびゅっ

 美春の股間の先端からは荒い息に合わせたように熱い濁流が漏れ出していた。
「ん…ふぁあ…っ!! …だ、めぇ……」
 美春は身体を小刻みに震わせながら、股間に残った右手を太腿でぎゅっと締め上げる。ぐしょぐしょに濡れたスカートが股間を塞ぎ、下着の先端から滴り落ちる熱い雫を受け止めてゆく。だがそれは少女の下半身の衣服をさらに壊滅的な状況にしてしまうことに他ならない。
「ああっもうだめ、、ぉ…しっこ…もれ……ちゃううっ、、んはぁあああぅぅうっ!!!」
 熱い吐息と共に、美春は尿意を一気に放出した。
 ぐっしょりと濡れて色を変え、脚に張りつくスカート。両足を広げぎみに、アヒルのようにおしりを突き出したまま、真っ赤な顔で美春は下着をつけたま本当の勢いでおしっこをはじめてしまう。唇をぎゅっと噛み締めたまま、定まらない視線を泳がせながら、決壊しはじめたオシッコが床に大きく水たまりを作っていた。

 ぶしゃあぁッ!! ぶじゅしゅじゃじゃっゃぶしゃじゃじゃあああああっ……!!

 美春の引けた腰の太腿の付け根に広がっていたシミが一気に拡大し、瞬間バケツをひっくり返したような大量のおしっこが紺のスカートの布地から滝のようにあふれだす。限界を超えたおしっこはまるで生き物のように太い流れをいくつもくねらせ、張りついたスカートの腰、股間、腿、脚、靴下に至るまであらゆるところを侵食して洪水のように流れ落ちてゆく。

 びじゅぶじゅぶじゅぶびちゃばちゃびちゃばちゃ……っ!!

「美春・・…お前……っ」
「やだ…なんでいるのよっ…止まって、止まってよぅっ」
 幹也の視線は美春の股間にくぎ付けになっていた。美春は悶えながら脚をよじり、流れ落ちるオシッコを塞き止めようとする。しかし一度始まってしまったオシッコを、ガマンの上に我慢を重ねたおしっこを、いまさら止めることができるはずもない。
 玄関マットの許容量をはるかに超えたオシッコの津波は廊下に流れ出し、床の上に湖を形成し始めている。湯気の立つほどの熱気を伴なって流れるオシッコをからとっさに身を引いた幹也が悲鳴を上げた。
 身を切るような羞恥に襲われながらも、美春は自分の股間から流れてゆく濁流の行方をなすすべなく見下ろし続けるしかない。
 括約筋はすっかり機能を失い、排泄孔は壊れた蛇口のようにじょろじょろとオシッコを出し続ける。熱くなった水門をぐっしょりと濡れた股間の上から押さえながら、美春はふらふらと脚を動かす。

 じゅぅうっ、じゅじゅじゅじゅじゅぅうぅっ、ぼちゃちゃぼぼぼべちゃぼちゃ……

 排泄の途中だというのに再び美春の尿意が高まり、閉じた股間に食い込んでいたスカートの先端から熱い濁流が一気に溢れ出す。脚の付け根に挟んだスカートから太い奔流をからめ合いながら、オシッコが大量に滴り落ち、激しい濁流の重みで、スカートは大きく膨らんで熱い流れが床に激しくはじけていく。
 悪魔の水が作りだした大量の羞恥失禁。美春のオシッコはまだまだ終わらない。



 (了)
[ 2017/09/19 23:08 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

トリシア様のお粗相について 


 いまよりも、少し昔の事でございます。
 その頃、アトラテアのシャルナーズ方伯のご令嬢トリシアさまと言えば、幼いながらその類稀な美貌と、それ以上に生来の気の強さ――たとえお父様であるシャルナーズ伯が相手とあっても、己が正しいと思えば物怖じせずその舌峰を向けることで有名でありました。
 とは言え、トリシア様は本心ではけして誰彼構わず憎んでいるというわけではありませんでした。母君を早くに失い、多忙な方伯様の負担にならぬようにと、他の姫君がまだ無邪気であられるころから、貴族令嬢たらんと精一杯の背伸びをしてきたことがその要因にあったようにも思われます。
 世間の評判とは裏腹に、トリシア様は本当は心優しいお方であるということを、方伯様や方伯様のお城に古くから仕える使用人や侍従たちはよくわかっていたものでした。心を許した方には、一見冷たいような態度をお取りになられても、トリシアさまがその者のことを慮っているのがわかるようになるのです。
 それは、トリシアさまの幼馴染みにあらせられるカイル様――後のカイル4世様にあっても、同じ事でございました。
 幼い頃から交流を持たれ、気心の知れたご友人として健やかに育たれたカイル様を、トリシア様はいつしか慕われるようになっておりました。しかし、カイル様が王位継承を間近に控えられるようになる頃には、トリシア様はそれはもう、カイル様に辛く当たられていました。
 トリシア様は聡いお方でしたので、ご自分のような生意気な娘が、後の国王様と頻繁に会うことによって、カイル様の宮廷でのご評判が損なわれることを畏れていらっしゃったのです。
 ……もっとも、それ以上にトリシア様は、カイル様の前では素直に想いを伝えることができず、ついついその場の勢いで心にもない事を口にしてしまっては、夜毎後悔に枕を濡らすようなこともしばしばであったようでございますが。
 無論のこと、カイル様もそれを十分にご存知でしたので、トリシア様を遠ざけるようなことはせず、お忙しいなか、よく方伯領まで訪ねていらっしゃったものでした。
 これをトリシア様は冷たくあしらうのですが、その嬉しさが言葉の端々に隠しきれずに現れるのは、とても微笑ましいものでございました。



 その日も、トリシア様はヴォンテルブローからリトリューゲンの離宮に向かわれる間、カイル様より同じ馬車に乗るようにとお誘いを受けておりました。
 これはまったく光栄なことで、世のご令嬢方がその話を耳にすれば、我先にと押しかけ詰め寄り、カイル様のお側に選ばれなかった悔しさに手袋を噛むようなものでありましょう。
けれど、トリシア様ときたら、こうしてカイル様と同じ時間を過ごせることが嬉しくてたまらないというのに、
「――はあ、どうして私があなたなんかと一緒にいなければいけないのかしら。国王様はご令嬢一人を送り迎えする馬車も用立てられぬほど窮しておられると噂されてもよろしいの?」
 つん、と窓の外に視線を向けながら、心にもなくそんなことを仰るのです。
 そうした態度をお取りになられてはいても、白くシルクの手袋に包まれたトリシア様の指はそわそわと座席の羅紗をなぞるばかりですし、流れるような美しい金髪の隙間から僅かに覗く耳は、かあっと朱く染まっているのです。
 トリシア様はカイル様とひとつの馬車にいらっしゃる、ただそれだけで、天にも昇る心地なのは、見るものが見れば明らかなのでした。
 そして勿論ながら、カイル様はすっかりそんなことはご存知ですので、いつものように穏やかな笑みを浮かべられて、そうだね、とお答えになるばかりでした。
 そんな態度がますますトリシア様を困惑させるのです。
 一層忙しなく白手袋の指を組み合わせながら、本来ならばピンと伸ばしていなければならない背筋をお行儀悪く丸めて。トリシア様はむうっと眉を寄せ、カイル様をじっと見上げます。
「もう、分かってらっしゃるの? 私も貴方も、いつまでも幼馴染みのトリスとカイルのままではいられませんのに。ご自分の立場をご理解なさって、軽妄はお慎みなさいませ、カイル殿下」
 ああ、なんとお労しいことでしょうか。トリシア様は折角のひとときをこうしてご自分から突き放されるような御言葉を選ばれ、あえて冷たい態度を取るのです。恐らく今宵も、トリシア様は今日のご自分を思い起こし、なぜ、ああも自分は素直になれぬのか――と深く深く後悔されることでしょう。
 世のご令嬢が美しく儚げに小さな胸を焦がし、季節の彩りや鳥の囀りになぞらえて、恋を、愛を語ると言うのに、自分ときたらこのように詰まらぬ政治と宮廷を気にして外聞のことばかり。これではたとえ方伯の娘であろうとも、恋文のひとつも届くまい――そうお思いになっているのですから。
 けれど、この日ばかりは少し、様子が違いました。
 トリシア様は、お昼前にカイル様からお誘いを受けてからはすっかり浮かれてしまい、何もかもが上の空で、ついつい、大切なことを失念しておられました。
 とても、とても大事なことを。
 それは、そう。いまもトリシア様のもう一方の、白い手袋に包まれた小さなお手がそうっと撫でさする、ほっそりとしたお腹のその奥に秘められた一大事でございます。
 ふっくらとした布花を膨らませるドレスに包まれた細い腰は、馬車の座席の上で静かに、けれど精一杯の強さで、ぐ、ぐっと擦りつけられ。
 向かいに座るカイル様の目を盗んで、トリシア様の小さな手は、ふわりと膨らんだスカートの上から、はしたなくも閉じられしきりに擦り合わされる足の間へと滑り込み、白いドレスの布地をきつくきゅうっと握りしめていらっしゃるのです。
 浅く開いた桜色の唇がきゅっと引き結ばれ、荒い息を押さえます。
(……っ、ダメよ、弱気になってはダメ、トリシア……っ)
 焦燥と緊張に強張る表情を、できるだけ覚られぬように、鈍い幼馴染みへと向けるいつもの不機嫌な仕草に装いながら。
 がた、がたと揺れる馬車の震動に、時折びくっと身体をすくませて。
 トリシア様は、精一杯のさりげなさを装いながら、スカートの間を何度も、白手袋の指で握り締め――懸命に、乙女の幸せなひと時を、絶望の窮地へと追い込まんとする、猛烈な尿意と戦っておられたのでした。



 トリシア様を苦しめておられるのは、その小さなおなかの中の秘密のティーポットの中で――くつくつと激しく煮立ち沸き立つ、恥ずかしい欲求の根源。乙女の秘密たるティーポットの中に注ぎ込まれ、いまにも『注ぎ口』から溢れださんとするホットレモンティのもたらすものにございました。
(っ……はぁ、はぁ…っ、はぁ……っ、ふ、ひぁッ!?)
 がくんと揺れる馬車の震動が、トリシア様の敏感なティーポットに、大きな波の揺れをもたらします。もう何度、たまらずにスカートの奥、脚の付け根を押さえ、溢れそうになるポットを支えててしまった事でしょう。
 リトリューゲンまでの長い道のりを、馬車は淡々と進み続けていきます。
 無論ながら、いかに王家のものとは言え、この馬車の中にご夫人が御用を足せるような場所などあるはずもなく、さりとて方伯のご令嬢が、いかに幼馴染といえど、まさか男性の前で尿意を口にできるはずもありません。
 トリシア様はただお一人、静かに襲い来る生理的欲求と戦い続けていらっしゃるのでした。
 途中、何度か馬車は道端に止まり、休憩を挟みはしましたが、従者達もまさか国王様と方伯のご令嬢をやすやすと一人にできようはずもありません。お二人はずっと同じ個室の中に腰掛けて、時折談笑なさる程度です。
 いやはや、もともとが勝気なトリシア様、小さな頃はお転婆でも有名で、木登りかくれんぼもお手の物でございました。いざとなれば大胆な行動力を発揮されるのは今でも同じで、その気になれば従者の目を盗んでそこいらの茂みに駆け込み、おしっこを済まされることは決してとっぴな想像ではありません。
 我慢に我慢を続けて、みじめに令嬢としての醜態をさらされるくらいなら、その前の恥を選ぶ――そうした合理的なことを、判断なさることができるお方でございます。
 けれど、お慕い申しあげるカイル様を前にして、まさかトリシア様がそんなことを口に出せようはずもありませんでした。
 そのようなはしたない振る舞いに出て、カイル様のご機嫌を損ね、嫌われてしまうことを畏れ、トリシア様は鋼鉄の意志でこみ上げてくる激しい羞恥の衝動に耐えていらっしゃいました。
 いかに幼馴染といえども――いえ、御幼少の頃からまるで兄妹のようにご交遊をもたれていたからこそ、トリシア様はその事を恐れていたのです。
 もし、カイル様が何の気にもせず、いつものように――ああ、行っておいで、と。優しい声で、それをなんの抵抗もなく受け入れてしまったら、と。
 誰よりも優しく理解のあるカイル様であるからこそ。
 自分が婚約相手として釣り合うご令嬢ではなく、まだ御不浄のしつけもままならない、小さな妹のトリスでしかないのだと。
 ――そう思われることを、トリシア様は心から恐れておられました。
 そのような按配ですから、次第にトリシア様は、ただただ揺れる馬車の上で、おなかの中にぐらぐらと沸き立つティーポットを抱え込み、震える指先でドレスのおなかを撫でさすり、しきりに脚を擦り合わせて、言葉すくなに黙り込むことが多くなってまいりました。
 そうなれば、カイル様とて不安に思われるのは当たり前のことです。気分が悪いのかと馬車を停めさせ、窓を開けさせ、飲み物を勧めることを繰り返します。これらは全てトリシア様を慮ってのことでしたが、どれも今のトリシア様にはあまりにも酷なことでございました。
「い、いえ……結構ですわ」
 懸命に、胸中の焦りを押し殺し、硬い表情でそうお答えになるのが精一杯。それでもカイル様のお心遣いだからと、トリシア様は健気にも、揺れ動く腰を押さえつけ、両手でスカートを握り締めんとするはしたない衝動を必死に堪えて、冷たい飲み物に口を付けるのです。
(んぅぅ……ッ)
 いまにもぶるぶると震えだしそうになる膝頭を抑え、トリシア様は健気にもこくりこくりと冷たく冷えた飲み物を喉へと流し込んでゆきます。胃の腑の奥へ流れ落ちる冷えた木苺のジュースは、まるでそのまま身体の奥の貯水池へと沈みこみ、限界の膨らみをなお膨らませていくようでした。
 そうしたことが何度もあったものですから、なお尿意は募るばかり。激しさをいや増してトリシア様を襲い、もはや方伯ご令嬢の鋼鉄の意思をもってしても我慢の限界を超えんばかり。
 トリシア様はきゅうっと脚を閉じあわせ、席の上で腰を浮かしかけては体重を左右に揺らし、お身体を小刻みに震わせます。
「あ。あの……っ」
 何かを話しかけられても上の空。さざ波立つティーポットは『注ぎ口』を湿らせ、周囲の布地まで滲みを広げていきます。
 猛烈な水の誘惑に苦しみは酷さを増す一方。トリシア様は迫る最悪の事態を前に今度こそ打ち明けて降ろしてもらおうとカイル様にお声をおかけになるのですが――
 なんだい、とカイル様に見つめられれば、そのまま言葉を失って、
「な、なんでもありませんわっ」
 と、恥ずかしさを誤魔化すように声を荒げてしまうばかりです。そうしている間にも、方伯ご令嬢のティーポットにはどんどんと、恥ずかしくもはしたない熱水が溜まり続けてゆくのです。



 ……ああ、なんという事でしょう。
 がたんっ、と跳ねる車輪から、クッションでも吸収しきれぬ衝撃を受け、トリシア様の『乙女』は上下左右に揺さぶられ。
 満水のティーポットの『注ぎ口』からは、じわっ、じゅわあ、ちょろろっ、と、羞恥のホットレモンティがこぼれ出してゆくばかり。
 絶体絶命の窮地へと追い込まれ、トリシア様のお顔は真っ青でございます。
(はぁああ……く、ぅぅう……っ)
 身体を伸び縮みさせ、腰を揺すり、背筋を揺らし。いまにもがばりとスカートをたくし上げ、その根元を脚の付け根を『ぎゅうッ』と握り締めてしまいたい衝動を必死に堪えながら。
 トリシア様は馬車が進むのを、憧れの離宮が見えてくるのを、待望の『お手洗い』が見えてくる瞬間を、今か今かと待ち焦がれていました。
 大切な、大切な、お慕い申し上げるカイル様と共に過ごすひととき。一分一秒でも長く共に過ごしたいという時間を、はやくはやくと口の中で繰り返しながら。
(はやく……おねがい、はやく……ぅ……ッ)
 トリシア様が少しでも気を抜けばそのまま足元にはしたない水音をたて、湯気をあげながらも大きな大きな水たまりを作ってしまうことは間違いないでしょう。何度も交差された脚の間ではじっとりと湿った下着の布地が嫌な感触を伝えてくるのです。
 トリシア様は、それは汗だと、自分に言い聞かせていらっしゃいましたが――はたしてそれは真実のことでしたでしょうか?
 けれどもさすがトリシア様は、なんとか気力だけでリトリューゲン領内までは持ちこたえたのです。
 ですが、そこまで。いかなトリシア様とても、もうそれ以上の辛抱は、どうにもならないことでございました。
 もう、どうすることもできず、方伯ご令嬢は我慢の限界をむかえてしまったのでございます。
 最後の休憩として馬車が止まると、トリシア様は身を揺すりながら、とうとう両手ではっきりと、スカートの前を押さえ混み、手袋の指で『ぎゅううううううッ』と脚の付け根を握り締めながら、ドレスの布花に、みっともなくも大きな皺をつくり、はしたなくご自身の欲求を口にされたのです。
「お、お願いです……ご、ご不浄に……っ、行かせて、くださいまし……! こっ、このままじゃ……お、っ、ぉ……し、っこ……ぅ、ぁ、ぉ、おなかが、はち切れて、しまいますの……っ」
 そう、トリシア様は、泣きべそをかいてカイル様に訴えられたのでした。



 桜色の唇をきゅっと引き結び、俯き切なく息を切らせ、微かな喘ぎを堪え、白いお顔を耳まで真っ赤になさってのシャルナーズ方伯ご令嬢・トリシア様の懇願。
 それに、カイル様はすぐにお応えになりました。
 聡明なカイル様でございます。いつも気丈なトリシア様が、小さなおなかの中で湧き立つ恥ずかしいホットレモンティに責め苛まれ、窮地へと追い詰められていらっしゃることをすぐにご理解なさったのです。
 方伯の令嬢としての体面や乙女の矜持と、恥ずかしい下半身の要求の板挟みとなり、絶体絶命の瀬戸際に追いやられたトリシア様でございます。
 押し寄せる羞恥を懸命に堪え、か細い助けを求めていらっしゃいました。そのことを慮り、カイル様はすぐに事を荒立てるようなことはなさいませんでした。
 しかし、トリシア様はカイル様が優しく差し伸べてくださったお手を取ることはかないませんでした。なにしろ白手袋に包まれたトリシア様のお手は、今にも噴きこぼれそうなティーポットの出口を押さえ込むので精一杯。ドレスのスカートを握り締め、一時もそこを離れることは叶わなかったのでございます。
 馬車の座席、クッションの上に身をうずめるようにしてうずくまったまま、一歩も動けないと首を振るトリシア様でございました。
 もはや押し寄せる下品な衝動に抗うことも危うい、お可哀想な幼馴染みをご覧になり、それを察したカイル様のその後の判断は、まことに迅速であり、なんとも大胆なものでございました。
 カイル様はすぐさま御者に声をかけると、強い調子で申し伝え、街道のその場に馬車を止めさせたのでございます。
 この時の急ブレーキにともなう衝撃にも、馬車の中でトリシア様はきつく目をつぶり、ぎゅうっとスカートの前を押さえ込む手に力を込めては、『んうぅッ……!』と熱い喘ぎをこぼされるほどのあり様でございました。
 まさに、我慢の限界がトリシア様に迫っていたのでございます。
 そうして幼馴染のご令嬢にもはや一刻の猶予もないことを改めて察したカイル様は、トリシア様のお体を軽々と抱え上げると、そのまま馬車のドアを開け、猛然と外へ飛び出されました。
 その時、その場に居合わせた従者たちの驚きと言ったらそれはもう、ひとしおでございました。
 カイル様は呆気にとられる従者たちに向け、誰にも後を追わぬようにきつく言いつけた後、腕にしがみ付いて震えるトリシア様をしっかと抱え上げ、街道にほど近い、梢繁る森の中へと風のように駆け込んだのでございます。
 鬱蒼と茂る森の中は、枝を張り苔生した木々に覆われて、昼なお薄暗い程でした。山野の獣や怪しげな盗賊どもですら、立ち入ることも躊躇うような森の中を、カイル様はトリシア様を伴ったまま、臆することなく駆け進んでいきます。
 囁く虫の声、怪しげなる鳴き声、梢を揺らす羽音。
 深き森の中にあって、トリシア様は普段の気丈さも失い、震えながらぎゅうっとカイル様の腕にしがみ付くのですが――実のところ、トリシア様にはもう、森の恐怖など感じている暇はございませんでした。
 カイル様はできるかぎり優しくトリシア様のお体をを抱えてくださっていたのですが、なんということでございましょう。この時のトリシア様にとっては、馬車が街道の小さな轍を乗り越えるときの細かい振動ですら、耐えがたいほどに下腹部を揺する辛い衝撃となるのでした。
 トリシア様の下腹部のティーポットには、たっぷりと羞恥の熱水が注ぎ込まれ、いまにも噴きこぼれんばかりの水位に達していたのです。
 苔生した木々の隙間を飛び越え、倒木と岩の間を潜り、泥濘をまたいで走るカイル様の腕の中にあって、その振動と言ったらばもう、言葉にできぬほどでありました。
 カイル様に抱えられている間じゅう、トリシア様ははしたなくも、ドレスの脚の付け根に『ぎゅうっ』と両手を重ねて押し当てて、シルクのスカートに皺が寄るのもかまわず、ただひたすらに指先に力を込めて『注ぎ口』を塞ぎ続けねばならなかったのです。



(だめ、でちゃう、でちゃう、もれちゃうっ)
 波濤のごとく押し寄せる猛烈な尿意。馬車の中で長い間、一人孤独に戦い続けたトリシア様は、すっかりお疲れでございました。立て続けの出来事に混乱し、頭の中が沸騰せんばかりの羞恥に覆われ、もはや何も考えられなくなっていらっしゃいました。
 ただただ、カイル様がこの窮地から助けてくださるのだと、お信じになるしかなかったのでございます。
 そうして、森の奥へ奥へと踏み入ったカイル様は、人気のないそこが苔生した大木や、木々の梢、生え繁った草むらによって作られた緑の緞帳によって、すっかりあたりの視線が遮られるようになったことを確かめると、ゆっくりと立ち止まり、腕の中のトリシア様にそっとお声をおかけになりました。
 もう平気だ。ここなら大丈夫だよ。誰も見ていない。
 それを聞いて、トリシア様はわずかな安堵ともにしばし呆けられ――それから、すぐにカイル様の意図を知って、ぼんと頭から湯気を吹かんばかりに真っ赤になられました。
 その通り、このような時ですらトリシア様は聡明でございました。この状況が何を意味するのか、すぐにご理解なさったのです。
 ここなら誰も見ていない。
 だから、――どうすればよい、というのでしょうか。
 いっそ、何もかも投げ出してしまえたのなら、トリシア様もここまで苦しむことはなかったことでございましょう。
 幼いころから想い慕い、いまは立場を慮ってその恋心をひた隠しにされている、あろうことかその当のお方が、ご自身のご不浄の為に森の中へと連れてきてくださった。
 その事実に直面させられるなど、方伯令嬢として――いえ、一人の乙女としてはあまりにも恥ずかしく、辛いことでございました。
「な、なにを仰るの!! じょ、冗談でしょう!!? こっ、ここで、ここでなんてっ、ッ、そんな、破廉恥なっ!」
 もはや一時の猶予もないというのは間違いないはずでございますが、素直になれぬお心のまま、乙女の羞恥によって、反射的に言い返してしまうトリシア様でございます。
 ですが、もうご自分では一歩も動けないのは間違いありません。カイル様が助けてくださらなかったら、あのままな馬車のなかで、はしたなくも熱い雫を足の付け根に迸らせ、後から後からとめどもなく噴き出す黄色い噴水に、ご自身の白いドレスを見るも無残に汚してしまっていたことでしょう。
今もこうして、カイル様が支えてくださらなかったら、一人で立つことも難しい有様なのでございますから。
「わ、わたくし、ッ、が、こんな、トコロ、でッ……!!」
 頭から湯気を吹かんばかり。首元まで朱に染まり、ドレスの前を握り締めたままもじもじと激しく身をよじり、トリシア様は叫ばれます。
 ああ、なんとお可哀想なトリシア様でございましょう。
 離宮までの道中に、貴族のご令嬢がご不浄を済ませることのできる場所などないのです。もはや我慢がならぬとなれば、村娘のように森の木陰、草むらの茂みに腰を下ろし、ドレスの裾をたくし上げ、満杯のティーポットの中身を零すしかないのでございます。
 無論、トリシア様にもその状況は飲み込めぬはずがありません。もう辛抱できないと訴えたのはトリシア様なのでございます。
 ですが、こうして深い森の中にカイル様と二人きりになっては、恥ずかしさに頬は紅潮するばかり。容易く下品な欲望に身を任せることなど、そうそうできるはずがありませんでした。
「………、………ッ」
 そうして。
 トリシア様は、決して短くは無い葛藤の中、何度も何度も悩み抜き、みっともなさと羞恥を懸命に押さえ込んで、『そのための』覚悟を決めねばなりませんでした。
「ッ………わ、わかり……ました、その、ッ、み、見ないで……くださ」
 押し寄せる尿意に身を震わせ、追い詰められた先、ついに、『そのこと』を口になさらんとしたトリシア様。
 ……ですが。運命のいたずらは、なおトリシア様を苛んだのでございます。
 カイル様は、最後の慈悲を願わんとしたトリシア様のお体を地面に下ろすことはなさいませんでした。
 いえ――あろうことか、カイル様はトリシア様のお体を腕の中に離さぬまま、方伯ご令嬢を背中から抱きかかえるように抱え上げ、その脚を掴むようにして、大きく左右に割り開かせたのでございます。
「え……ッ!? きゃああ……ッ!? ッ、ちょ、ちょっと!! なっ、な、なにをッ、カイル様ッ!!」
 無論のこと。ご令嬢にはあってはならぬはしたない姿でございます。あまりにもみっともない格好を強いるカイル様の真意がわからぬまま、トリシア様は絹を引き裂かんばかりの悲鳴をあげられます。
 咄嗟の事にトリシア様は暴れもがくように、カイル様の腕の中を抜け出さんとなさいましたが――まるで羽毛のように軽く小柄なトリシア様では、逞しいカイル様のお力にはまるで抗う事はかなわないのでした。
 まったく、その通りでございます。トリシア様の現在のご容態を深くご理解されていたのはカイル様のほうでございました。
 と言いますのも、トリシア様の足腰は長い長い我慢によってすっかり力を失い、生まれたばかりの小鹿のように歩みもおぼつかないのでございます。
 ここでトリシア様を地面に下ろしたところで、一人ではご不浄の御準備をなさるなど満足にはいかぬ、まして剥き出しの土と泥まみれの地面でございます、ご令嬢の美しきドレスを汚さぬままに用を足すことなど不可能であろうと、カイル様はそう案じていらっしゃったのです。
 言わばこれは、トリシア様に方伯ご令嬢としての恥をかかさないようにという、カイル様のご配慮でありました。
「いや……ッ、いやぁあッ……!!」
 けれど。……ああ、けれど。
 そうしてトリシア様が強いられる、背中から抱きすくめられ、大きく股を広げられ、太腿から膝を左右に割り広げられるお姿は、閨の中で愛するお方にすら見せることを憚るような、恥辱の極みと言っても過言ではないお姿でございました。
 そう。それは、まさに。
 『おしっこしーしー』のポーズでございました。
 まだ、お一人ではご不浄を済ませることのできないほどに幼いお子様を、乳母や子守役が、ご不浄の中でそっとお助けするお姿。
 まだ恥を知らぬ赤子や御幼少のころであればともかくも、夜界デビューを間近に控えたご令嬢がなさるには、あまりも、はしたなくもみっともない格好でございます。
 貴族のご令嬢にとって、屋外で晒すなどありえない、恥辱のお姿でございました。まして、トリシア様はお慕いするカイル様の前でこのお姿を強いられ――いえ、カイル様の前であるからこそ、トリシア様はこのような格好を見られるのは耐えられなかったのでございましょう。
 何度も悲鳴を上げ、顔を涙でくしゃくしゃにして叫ぶトリシア様。その胸中は窺い知ることはかないません。いったいそのお辛さ、恥ずかしさ、悔しさは、いかばかりであったことでしょうか。
 けれど、いくらもがいてもカイル様はのお力は強く、トリシア様はもう逃れることは叶わなかったのでした。


 カイル様は、トリシア様の白いドレスの裾が汚れぬよう、これを大きく捲りあげられます。
 大胆に持ち上げられたスカートの上、バニエ諸共に白い下着(ドロワーズ)が露わになり、トリシア様はふたたび、喉も張り裂けんばかりの声で悲鳴をあげられます。
 ですが、その声もまた深い森の中に飲み込まれるばかり。
 これも、トリシア様の羞恥を案じてのカイル様の深慮でございました。
 ここには他に誰もおらず、誰も見ていない。
 だから、恥ずかしがる事はない、と。
 カイル様はそうトリシア様を諭したのでございます。
「ッ~~~………!!」
 もはや、トリシア様は声もありません。ぐるぐると目を回しながら、カイル様の手を懸命につかんで抗おうとなさいます。さしものトリシア様も、この異常事態にあって、冷静な判断力を失っていらっしゃるようでございました。
 トリシア。手を。
「――――ッ、あ、っ、な、なッ……!!」
 それは、乙女のプライドの最後の砦。
 腰上まで捲られたスカートの一部と共に、ドロワーズの付け根をきつく握り締めつづけるトリシア様の白手袋の手に、カイル様は訴えます。
 手を離して。汚れてしまう。
 そっと顔を覗きこみながらの、その真摯なお声に。ただ一心にトリシア様の身を案じてのカイル様のお言葉に。
 ついにトリシア様はふっと諦めるように、お手の力を抜かれたのでございました。
 ぶるるっ、と小さく身震いされたトリシア様の細いお体。腰上まで捲られたスカートと共に。ぐいと力強くの下着が膝まで引き下げられます。
「っ…………!!」
 そうして露わになるのは、緊張と羞恥に赤く染まったトリシア様の、まるで白雪のように滑らかに美しい肌でございました。
 懸命の我慢に震える内腿、暴れ回る羞恥のホットレモンティを閉じ込めた下腹部は、いまやはち切れんばかりに張り詰め膨らみ。
 ほんのわずか、日に透ける様な白金の御髪とおなじ、柔毛が薄く張り付いた、清廉なる乙女の部位が、外気に晒されていきます。
 長い間、ドレスの上からしきりに握り締められ、押さえつけられ、すっかり擦れて赤く色づいたその先端は強く熱を持っていました。『そこ』が森の中のひやりとした外気に触れるやいなや、トリシア様は「ひぅっ」と高い声をあげられます。
「あ、あっ、嫌…っ」
 いよいよ後がなくなり、まるで本当に、子供がむずがるように、首を左右に振っていやいやをなさるトリシア様。
 その耳元に、カイル様の優しいお声がかけられます。
 もう、だいじょうぶ。
「あ、あっ、あ……っあ、っ」
 心の安息をもたらす、想い人の優しい言葉。
 その声に、張り詰めていた緊張がついに途切れたのでございましょう。
 ぴゅっ、ぷしゅっ、ぷしゅうっ。
 懸命に塞ぎ続けていた『注ぎ口』が緩み、たちまち腿の間に雫を迸らせます。
「み……ッ、みない、で……ぇっ……!!」
 噴き出す水流の飛沫を感じながら、トリシア様は、燃えるような羞恥で染まったお顔を白手袋の両手で覆い、かすれた喉から懸命に声を絞り出すので精一杯でした。
 その微かな懇願の声をかき消さんばかりに。
 トリシア様の脚の付け根、色づく部位から激しい水流が噴き出すのは、まったく同時のことでございました。

 ぷしゅッ、しゅしゅうゥッ! ぶッしゅシュィイイィいッッ!!

 中身を限界まで詰め込み、伸びきって張り詰めた水袋に、小さな穴が開いたかのよう。噴き上がる奔流は、乙女の密やかな花片の合わせ目を押し開かんばかりに真っ直ぐに前に迸り、目の前に構えた苔生した大木を勢いよく直撃いたしました。
 わずかに弧を描きながらも、宮殿の噴水と見まごうばかりの勢いで、ぶじょじょぶしゅううじょじょじょぶじゅううううと叩き付けらる水流は、たちまち幹の四方に飛沫を飛ばし、激しくも下品な音を響かせて地面に猛烈な勢で注がれてゆきます。
 もはや辛抱も慎みもなく、方伯令嬢がその身を下品な欲望へと委ねるばかり。激しく打ち重なる水流が地面を叩き、猛烈な水音を響かせてゆきます。身体の中心に孔があいたかのように、トリシア様はなお激しく水流を噴出させます。いまやこの深い森の一角は、トリシア様専用のご不浄も同然でございました。
 長い馬車の旅の中、方伯ご令嬢がその小さな体で耐えに耐え続けてきた羞恥の熱水は、大木の幹を伝い、滝のごとく流れ落ちて、剥き出しの地面へ注ぎ、まるで大海のとばかりの大きな大きな水たまりを作っていくのでございます。
 深窓のご令嬢が、耐えがたい羞恥を必死に押し隠し、おなかを不格好に膨らませてまでお体の内側に閉じ込め続けたホットレモンティ。特別性のトリシア様のお体とあっては、『注ぎ口』から噴き出すその勢いは途方もなく、受け止めるティーカップなど、ひと噴きで吹き飛ばしてしまうことでございましょう。
 健気にも、トリシア様がカイル様のとのささやかな逢瀬の最中、必死になって乙女のティーポットに押さえ込んだ羞恥の熱水。その解放の凄まじい様と言ったらもう、街道沿いに停車した馬車馬が地面に噴き出すそれよりもなお激しく、多かったに違いありません。

 ぶじゅうぅううッ、じゅじゅじゅううううううッ……
 じょじょぼぼぼぼぼぼぼぼ……!!!

 じょぼじょぼぶじゅううっとみっともない水音を力強く森の中じゅうに響かせ、脚を深く抱えられたまま、前方の地面に、苔生す大木の根元に向けて、黄色く熱い羞恥の噴水を噴き上げさせながら。
トリシア様は長い長い苦痛からの解き放たれ、まさに天にも昇らんばかりの心地でございました。
「っ……ぁ、はぁあああああ……ッ」
 固く閉じられた栓が開き、身体の奥の熱が乙女の身体の最も奥底、一番大切なる秘めやかな部位に空いた孔から迸るその心地。
 それはそれは筆舌に尽くしがたき解放感。
 幼い子供が無邪気にそうするように、お体が不要なものを排除せんとする欲望のままに身を委ね、己を律していたシャルナーズ方伯令嬢という立場からの解放。
 この、屋外露天でのご不浄は、トリシア様にすっかり我を忘れさせ、いと高き天の国へと連れてゆくに相応しいものだったのでございます。
(おしっこ……いっぱいでてる……キモチいい……)
 あるいは。この瞬間は、奥様を早くに失い、物心がつかぬ頃から気丈に振る舞い、ひたぶるに貴族令嬢の模範たらんとし続けたトリシア様が、御幼少のみぎりに置き去りにしてきた、幼心の発露であったのかもしれません。
 カイル様のたくましい腕に、まるで小さなの子供のように足を抱えられ、森の茂みにご不浄を済ませる、その間ずっと、ずっと。
 トリシア様の手はぎゅっと、スカートの端と、そしてカイル様の腕を握り締めていらっしゃったのでした。
「ふぁ……んぅ……っ」
 大きく開かれた裸の下半身、剥き出しの脚の付け根から、なおもばしゃばしゃと水流を地面に噴きつけながら。
 言葉にできぬ想いをぎゅっとかみしめ、トリシア様は、じゃれるようにカイル様の胸板に、お顔を擦りつけます。
 ぐりぐりと押し当てられたトリシア様の目元は赤く滲んでいましたが――そのお顔は、これまで一度もないほどに、安らいでいるのでございました。
 そして。
 トリシア様のご不浄はなお途切れることなく森の中の地面を濡らし続け、いつしか森の奥に確かなる美しい乙女の泉を広げるにいたったのです。
 たっぷり、3分以上もかけて。
 シャルナーズ方伯ご令嬢が乙女のティーポットをすっかりの空っぽにしてしまう頃には。
 トリシア様はカイル様の胸に顔をうずめ、すんすんと眼に涙を滲ませながら、そっと鼻声でお甘えになるばかりでございました。
 馬車へとお戻りになったお二人を見て、従者たちはさらに首を捻るばかりでございました。と言いますのも、森から戻ってきてなお、カイル様が変わらず、トリシア様のお体を抱きかかえたままだったからです。
 いつもであればこのような時、トリシア様は声を荒げ、余計なことをなさらないでくださいまし! と鋭い叱責と、時には平手まで飛ぶこともあるのですが――
 トリシア様は赤く泣きはらした瞳で、けれどぎゅっとカイル様のお体にしがみ付き、離れようとはなさらなかったのです。
 もっとも、それも仕方のないことでございましょう。長い長い苦痛からの解放にトリシア様はすっかり腰を抜かしてしまい、まっすぐ歩くどころか立つことも叶わなかったのですから。



 そうして、これより後。
 シャルナーズ方伯ご令嬢・トリシア様は、以前よりも頻繁に、カイル様の元へと通うようになられました。お二人の関係は以前よりもぐっと近しいものとなり、トリシア様ははっきりと、ご自身の想いを口にされるようもになりました。
 トリシア様とカイル様は、あの日の秘密を境に、深い絆で結ばれたのでございます。
 そうして。カイル様との逢瀬の約束のため、どこか恥ずかしげに御者に命じ、離宮への道に馬車を急がせる時。
 トリシア様のお顔はどこか上気し、あどけないお顔には、えも言われぬ妖しい魅力が宿り。ドレスの裾から覗くその脚がいつも落ち着きなく足踏みを繰り返し、懸命に何かを堪えるように、その白手袋のお手が、ま白いスカートを握り締めている事が常であったといいます。
 街道への道を、馬車が離宮への道をひた走る最中。
 馬車が轍にその車輪を跳ねさせるたび。
 お座席にある室内には、トリシア様の「んっ……ぁんっ……」と甘い声が漏れ、荒い息がいつまでも途切れることなく続いていたそうでございます。


 (了)
[ 2017/01/03 20:02 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

中央分離帯取り残されのお話。 

 久々の投稿。




 照り付ける真夏の太陽は、ビルの反射と相まって路肩に影狼を立ち昇らせていた。大通りを走る車は、32度の気温よりも高温の熱気を吐き出して、歩道の街路樹を萎びさせる。
「はぁ、はぁッ、はぁ……ッ……!」
 荒い吐息に赤く染まる頬、上下する肩。真夏の日差しに炙られたアスファルトの上を、サンダルが激しく踏み鳴らす。
 髪は湿って汗ばむうなじに張り付き、左右の手は指先が白くなるほど力が込められていた。
 ずれたワンピースの肩紐の下に、水着の日焼けあとが覗くのにも構わず、少女は懸命に走る。
「はぁ、はっ、あっ、あ……っ」
 緊張に強張る頬が、こみ上げる吐息を飲み込み、くちびるを噛んで息を殺す。覚束ない足元が乱れ、もつれるようにしてたたらを踏んだサンダルが地面を擦った。
 片道3車線の大通り。高速の出口に繋がる路線をまたぐ交差点へと辿りついた少女は、横断歩道脇の信号に飛びついて、歩行者優先の横断用ボタンを押し込んだ。
 ちかちかと点灯する【おまちください】の文字。変わる様子のない六つ目信号を見上げ、少女の表情には焦燥感と絶望が広がっていく。
(はっ、はやく、はやく、はやくうっ……!!)
 声にならない声を絞り出し、少女はさらに何度もボタンを連打した。それが何の意味ももたない行為だとしても、そうせざるを得なかったのだ。
(は、はやくっ、はやくして、……っ、と、トイレ……っ、トイレ、間に合わないぃい……っ!!)
 激しい足踏みとともに身をよじり、少女は猛烈な尿意に耐える。その視線は横断歩道の向こう、夏の日差しの中にも涼しげな青葉を広げる公園を見据えている。正確には、その公園の中にある公衆トイレを。
 少女のもう一方の手は、ワンピースの上から足の付け根をきつく掴み、もはや少女の我慢が限界に近いことをはっきりと示していた。
(お、おしっこ……、おしっこ、で、出ちゃう…、ううぅっっ!!)
 少女の下腹部をぱんぱんに膨らませる尿意は、ずっしりと恥骨上のダムに圧し掛かり、その水門を力任せにこじ開けようとしていた。
「っ……~~ッ、!!」
 びくん、と少女の丸まった背中が震える。スカートを握りしめる指に力がこもり、白い布地にくしゃくしゃと皺が寄る。股間を握りしめた手を、太腿がぎゅうっと挟み込んだ。
「っ……は、はっ、く、ぅう……っ」
 波濤のように押し寄せる尿意。信号柱にもたれかかるようにして、少女はきつく唇を噛み締めた。耐え切れぬ喘ぎが熱い吐息となってこぼれ、突き出された小さなお尻がゆらゆらと上下左右に揺すられる。
 ぎゅ、ぎゅう、ぎゅううっ、尿意の波の周期に合わせて断続的に足の付け根を押さえ込む手のひらが、乙女の恥ずかしい場所を何度も何度も握り込んだ。
「っ………」
 切実な大自然の欲求を懸命にこらえながら、少女は切羽詰まった表情で頭上を振り仰ぐ。しかし、無情にも車両用の信号は燦然と輝く青。片側3車線の大通りを、大型のトラックが走り抜けてゆく。
「は……やく、してぇ……っ」
 でちゃう。おしっこでちゃう。
 か細い声を上げながら、少女は再度、横断用ボタンを連打した。かちかちとむなしい機械音が響く。が、やはり信号がすぐに切り替わる様子は見られない。
「だめ……だめえ……っ、と、とっ、トイレ…ぇっ」
 切実な訴えが少女の唇を震わせる。
 それは、堪え切れぬ内なる欲求が少女の自制心を押しのけて小さな形をとったものであったが――行き交う人々の間に、ささやかな注目を集めるには十分なものであった。
 最初に足を止めたのは、少女のすぐ近くを歩いていた二人連れ。彼らは少女の言葉を聞きとがめ、その場に足を止めて怪訝そうに首を傾げる。
 そうしてすぐ、切羽詰まった少女の様子に事態を察した。蒼白な顔、汗ばんだ首筋、前かがみの上半身、激しく足踏みを繰り返すサンダル。ぎゅうぎゅうと脚の付け根を握りしめる両手。少女が猛烈な尿意と戦っているのは、誰の目にも明らかだ。
「ね、ねえ、あの子……」
「しっ、見ちゃだめだよ。可哀想じゃん」
 囁き交わされる会話は、少女の耳には届かない。彼女の意識はすでに公園の奥にある【約束の楽土】へと飛んでいた。自分を苦しめる猛烈な尿意から、解放される場所――お手洗い。白いコンクリートの建物の奥にある小さな個室と、その中央に鎮座する白い陶製の器。そこにまたがりありったけの尿意を迸らせる姿だけが、少女の頭の中を占めていた。
 横断歩道のすぐ前で、道路の向こうを凝視する彼女には、背後に集まる好奇の視線など振り返っている余裕などなかった。
「っ、あ……んぅ、ぁ、っく……ぅう……」
 喘ぐ口の中はからからに渇き切って、思うように声も出ない。全身から搾り取られた水分が羞恥のダムに注ぎ込まれ、はち切れんばかりに膨らんでいる。
 交通量の多い交差点、ビジネス街にも近い立地とあって、周囲の人通りは少なくない。日傘を差した女性、汗をぬぐうサラリーマン、バス停へ急ぐ老人、公園に向かおうとしている親子連れ。台車を押して奔走する店舗のアルバイト、談笑する学生。
 信号の前で激しく身悶えする少女に、交差点を通りかかる人々の視線が寄せられる。好奇と蔑視の入り混じった注視は、彼女の一挙手一投足を見逃すまいとしているかのようだった。

 ちか、ちかっ。
 光の点滅が視界を揺らす。交差するもう一方の歩行者信号が点滅を始めたのだ。少女は顔を輝かせ、小さく吐息を漏らした。
(あ……っ!!)
 もう一つの歩行者信号が赤に変わる。それはつまり、もうすぐ目の前の信号が青になり、横断歩道を渡れることを意味していた。つまり、もうすぐトイレに行ける。おしっこができる。待ち焦がれたときがやってくるのだ。
 ぶるりと背中を震わせ、少女はその瞬間を思い描く。あとちょっとでトイレ。あとほんのちょっとでおしっこ。固唾をのんで息を止める。気分は短距離走のスプリンター。横断歩道の信号が変わった瞬間に、走り出すのだ。
 車道の信号が黄色に変わる。あと少し。ほんの少し。
(…………っ、あ)
 その時だ。
 切っ掛けは、ほんのわずかの気の緩み。我慢と限界の狭間、ぎりぎりのところで保たれていた緊張が、『もうすぐトイレ』という心の緩みとなって解けてしまった。それが全ての過ちだった。
 ひくっ、ひくんっ、きゅうううんんっ。
 下腹部に伝播する周波が、股間の先端にむけて走り抜ける。恥骨を震わせ、乙女のダムの水門を直撃する猛烈な刺激。イケナイ感覚をも呼び起こすほどに、甘い痺れにも似た黄色い稲妻。
「んきゅぅううッ!?」
 ダムの底、一番脆い水門を揺るがす衝撃に、少女は背筋を強張らせた。びくんと上体を跳ねあげ、喉をそらして声を震わせる。
 足の付け根、押さえ込んだ下着の奥でぷくんっと排泄孔が膨らむ。それは、先に限界を迎えた身体が、少女の意志を無視して勝手に水門を押し開こうとする動作。理性や羞恥の枷など無関係に、自然の摂理が猛烈な欲求となって少女に牙をむく。
 このまま、ここで、おしっこをしろ――と。
 もはや体力の限界を訴えた下半身は、大自然の摂理のまま、少女の体面も外聞もまるで無視して、強引な要求をねじ込んできたのだ。押し寄せる波濤のごとき尿意に、少女の力などか細く飲み込まれてしまう。
「んゅ、ぅ、…ぁ……ッ!?」
 少女は戦慄して両足をきつくとじ合わせ、力づくで羞恥の水門を閉ざそうとする。しかし、

 ぷしゅっ、しゅうっ、じゅううぅうッ!!!

 下着とスカート越しに、押さえ込んだ手のひらにまではっきりと感じる、熱い雫の気配。股間を甘く伝播する途方もない開放感。
「ぁ、あっあ……ぁ……ッ!?」
 がくがくと腰が震え、膝が笑う。我慢に我慢を重ねた末のおチビリは、とても少量とは言えず、夏の下着と薄いワンピースでは吸収しきれない。
 つう、と腿の内側を伝う熱い水流に、少女はパニックに陥る。
 車道の信号が黄から赤に変わる。注意、危険、危険。
「や……だ、だめっ、だめ、だめぇ……っ!!」
 うつろに繰り返される拒否の言葉もむなしく、少女の身体は、大自然の摂理は、このままこの場所での排泄を欲求していた。まともに立っていることすらできず、少女はその場にしゃがみ込んでしまう。
 じゅうっ、無防備になった姿勢を見逃さず、また下着の奥で羞恥の熱水が噴き上がり、くぐもった水音を響かせる。
(だめえ……っ!! お、お漏らしなんて……っ、だめ、っ、と、トイレ、すぐそこに、トイレあるんだからぁ……ッ!!)
 少女は最後の抵抗とばかりに、サンダルの踵に股間を押し付けた。激しく身をよじりながらぐりぐりと股間を押し当て、全体重をかけてしゅるしゅるとだらしなく口を開く排泄孔を塞ごうとする。
 ちかっ。
 信号が点滅する。青。通って良し。進め。
 待望の青信号。待ち焦がれたトイレへの道のスタートの合図。けれど少女は動けない。膝立ちになって股間をかかとにねじつける姿勢のまま、ピクリとも動けない。少しでも身を浮かせようものなら、少しでも余計なことをしようものなら、
(う、動いたら、でちゃう……っ!!)
 極限の集中――全身全霊の我慢。青信号なのに、渡れない。そのもどかしさばかりが少女を焦らせる。けれどダメ。我慢、おもらしは駄目。
 信号は青々と「GO」「すすめ」を示している。けれど、少女は猛烈に容易に晒され続ける自分の股間をきつく抑え込んで、全身全霊の赤信号、おしっこの「緊急停止」を叫び続けるしかなかった。



 長い長い、永遠にも続く綱引きの果て――
 ほんのわずか。少しだけ、尿意が遠のいた。じくん、と下腹部が重く熱く疼く。もうこれ以上引き伸ばすことができないと悶えていたパンパンの水風船が、少女の鉄の意志に耐えかねたように、さらにほんの少しだけ体の内側に広がって、尿意の限界を先延ばしにしたのだ。薄く薄く、限界の状態でさらに引き伸ばされ、乙女の水風船は不承不承それに応じたのである。そこに溜め込んだ反動、不満をやがて訪れる収縮のエネルギーへと変えて。
 重苦しくのしかかる下腹部の鈍い痛みを感じながら、少女は汗の滲むうなじを震わせた。研ぎ澄まされた神経が、いっとき自由を取り戻す。
 周囲の雑踏が帰ってくる。
 ざわざわと聞こえる声。
 遠慮なく少女を舐めまわす視線。
「え……っ」
 少女はようやく気付いた。気づいてしまった。自分が、人通りのど真ん中で――車も歩行者でごったがえす交差点の真ん中で、片側3車線の大通りに面した横断歩道の最前列で、はしたなくも足を広げ、ぐりぐりと踵を脚の付け根に、股間に押し付けるみっともない姿を、見せつけんばかりに披露していたことに。
 それだけではない。
 女の子の恥ずかしい場所を握りしめ、激しく足踏みをする姿も。
 信号柱にもたれ掛り、下腹部を懸命に押しもむ姿も。
 足をとじ合わせ、太腿を擦り合わせて懸命に身をよじる姿も。
 はしたなくも突き出したお尻を、左右に振りたてる姿も。
 全部、全部、衆目の中に晒してしまったことも。
 特に、横断歩道の反対側――こちらに渡ろうとしている人々にとっては、まさに見せつけるような格好だった。横断歩道の向かい、真正面で、恥ずかしいところをぎゅうぎゅうと握りしめ、押さえ込み、しまいには全体重を乗せてかかとを股間に押し当てる姿さえも。
「ぁ、う、や。やだ……ち、ちがう、の、ちがっ」
 沸騰した羞恥が噴き上がる。瞬く間に耳まで赤く染まりながら、少女は言葉にならない言い訳を繰り返した。そんな彼女を見下ろしながら、行き交う人々が声を囁き交わす。明らかに混じる、蔑視と下卑た欲望の声。
「ねえ、ママ、あのおねえちゃん――」
「しっ、ダメ!! 指ささないの!!」
(っ…………~~!!)
 煮えたぎらんばかりの羞恥に身もだえし、少女は手を放し、腰を浮かせかけた。
 じいんと響く尿意に、たちまち耐え切れず、ぎゅうっとスカートを握りしめてしまう。
(っあ、だめ、あ、っ)
 そうこうしているうちに、目の前の信号に変化が生じていた。
 歩行者信号がちかちかと点滅を始めていたのだ。点滅。赤。
 赤信号。止まれ。進むな。危険。
 横断、禁止。
「やぁっ……んっ、んきゅううっ!?」
 目指す先、尿意からの解放を約束された楽園――トイレへのか細い道は、無情に閉ざされようとしていた。
 渡れない。
 もう一度信号が青になるまで、またここで、待機。我慢。延長戦。
(そんなの、無理っ、だめ……!!)
 下腹部がごぽりと不気味な脈動する。はち切れんばかりの尿意が鋭く恥骨を貫く。背筋に感じる寒気とともに、少女は横断歩道へ反射的に足を踏み出していた。しかし、しゃがみ込んでいたせいで脚は痺れかけ、ふらつく。股間をぎゅうっと握りしめたままではまっすぐ歩くのもおぼつかない。
 じんっ、びりびりびりっ、
「んきゅぅうぅううう……っ!?」
 靴底がアスファルトを擦るたび、振動が満水のダムに響き、猛烈な尿意の呼び水となって湖面を揺らす。黄色い波がダムを乗り越え、水門を押し崩さんばかりに荒れ回る。
 じゅっ、じゅうっ、と圧迫された膀胱が、固く閉じたはずの水門から断続的に噴き出した。熱い水流が股布にぶつかり、新鮮なおチビリが握り締めた手のひらの奥で下着を湿らせていく。
 恥骨をじんじんと痺れさせる甘い解放感。オモラシの誘惑が少女を揺さぶる。耐え続けた括約筋が限界を訴え、無駄な抵抗を放棄せんと少女に迫る。
(だめ、だめ、で、でちゃだめ、っ、と、トイレ、おトイレ、もうすぐそこ、なんだ、からぁあ……ッ)
「んきゅう…ッぁ、あっあ、だ、だめぇっ」
 ふらふらと左右に揺れ動く身体。ほんの数歩で決意は揺らぎ、立ち止まって膝を懸命に擦り合わせ、腰を揺すって尿意に耐えなければならなくなる。急がなければいけないのに。もうすぐ目の前にトイレがあるのに。
 もはや自分の意志ではどうにもならない、猛烈な尿意への懸命の反抗が、屈辱的な『おしっこ我慢ダンス』を乙女に強いる。
 一秒、また一秒と削られていく残り時間。無情なるカウントダウンの中、震える脚を引きずるようにして横断歩道を急ぐ。
 しかし。ここでも残酷な運命は、少女を翻弄し続けた。
(あ、あっ、あ……だめ……だめえ、ま、待って……っ)
 鎮まることのない尿意に揺れる視界の向こう。無情にも点滅する歩行者用青信号。
 片側3車線の大通り、閉じ合わせたままのすり足ではあまりにも長い横断歩道。少女の必死の抵抗をあざ笑うように、信号は無情にも点滅を終え、赤へと切り替わった。
 止まれ。進むな。横断禁止。危険。
 ――時間切れ。
「ぁっ、あ、や、やだっ、だめ、っ、ま、待って、まだ、っ、まだぁ……っ……!! や、うあ……、んきゅぅ……っ!?」
 気付いたのが遅すぎたのだ。決して短いとは言えない歩行者用の青信号だが、哀れにも少女は道路の半分も横断しきることができなかった。
 絶体絶命の少女を追い立てるように、車道の信号が青へ。

 パァン、パパパパァン。

 交通ルールを守らない少女に対し、容赦なくクラクションが飛ぶ。無機質な車列は、異物を排除せんとエンジン音を唸らせて、か弱い少女を追い詰めてゆく。
「ぁ……ぅ……」
 立て続けの大音量に追い立てられ、もはや少女に冷静な判断力など残されていない。呆然としたまま前かがみになったまま少女が追いやられたのは、横断歩道の中間点にある小さな中央分離帯であった。
 片側3車線の大通りの中央に設けられた、ささやかな避難場所。そこは本来、横断の間に合わなかった歩行者が、一時避難をする場所であった。
 しかし――前後を行きかう車に挟まれ、信号によって隔てられ。進むことも、戻ることもできないその区画は、まさに、増水する河中の小島に取り残されたごとし。
「んぁう……ぁ、あ……ぁっ……」
 ぶるぶると肩を震わせ、身悶えし、脚を擦り合わせて懸命に尿意を堪え。横断歩道の信号待ちをしていた時から、少女は周囲からの注視を集めていた。それが今や、衆目のど真ん中、恥辱の舞台の上に放り出されたも同然なのである。雑踏の中にもざわめきが波紋のように広がり、少女の苦しげな様子を見て通行人たちが足を止め始める。
「あっおしっこ! オシッコ我慢してるよ!」
(…………ッ!?)
 走り去る車の騒音にも負けない甲高い子供の声。先程横断歩道を渡った親子連れのグループだ。
 母親たちに手を引かれた子供たちは、目ざとく少女の我慢ダンスを見つけ、残酷な無邪気さで叫ぶ。
「あーホントだ、お姉ちゃんなのにオシッコしたいんだ!」
「ほらねえママっ、あのお姉ちゃんおしっこ我慢してるよっ! おトイレ行きたいんだよ!」
 少女を指さし口々に叫ぶ子供たち。隣の母親はそれを止めようとするが、まるで効き目がないばかりか、むしろ彼らの興奮はヒートアップするばかりだ。
「ねえ、お姉ちゃんなのに、ちゃんとおトイレ行かなかったのかな」
「ねー。おしっこしたいですって先生に言わなきゃだめなのにねー」
 既に、先程のおチビりで、ワンピースのスカート部分にはごまかしようのない染みが広がっている。
 お立ち台同然に道路の中央に取り残された少女の繰り広げるみっともないモジモジ我慢は、子供たちにとってまさに格好の注目先だった。
(や……やだ、見られ、っ……が、我慢してるとこ、見られ、てっ……ぁ、んきゅうぅうっ!?)
 羞恥に染まり俯く少女の下腹部で、なお激しく尿意が暴れ回る。中央分離帯に取り残された少女は、文字通りの籠の中の鳥であった。
「あ……ぁぅ……っ、んきゅぅう……っ」
 大きく足踏みを繰り返し、きつく太腿に挟んだ両手で股間をぎゅうっと押さえ込む、恥辱の極みの『おしっこ我慢』のポーズ。
 身を隠すこともできない小さな分離帯の中央。横断歩道のどちら側からも視線を遮ることのない、広い広い道路のど真ん中。
「ぁ、あっあ……ぁっ……!!」
 気の毒に、あるいは好奇のままに。そしてあるいは、下卑た感情を隠すこともなく。無数の視線が少女に突き刺さる。
 一刻も休まらなない足踏みを繰り貸しながら、少女の視線は、横断歩道の向こう、公園のトイレへと向けられていた。
 約束の楽土。この苦痛からの解放場所。おしっこのできる場所。
 はやく。はやく。もう一度信号が変わって、そうなったら真っ直ぐに横断歩道を渡って、トイレまで一直線。並んだ個室のどれでも好きな場所を選んで、ドアを閉め、下着を下ろし、しゃがみ込んで、
 そうすれば、おしっこが、おしっこができる。目いっぱい、ありったけ、思い切り、おしっこができる。
 もう、ガマンしなくてもいい。
(はぁ、ぅ、ぁ、んゅうう……ッ!?)
 暴走する想像が、一足先にトイレの中へと飛んでいた少女の股間を直撃した。先走った意識のままに、押さえた下着の奥、排泄孔がぷくっと膨らみ、緩む。
 ぷしゅっ、じゅぶぶっ。
 下着にみるみる広がる熱い感触。少女は反射的に股間を握り締めた。
(だ、だめ、だめぇ、で、出ちゃ、だめ……ッ、んきゅうう……ッ!!)
 がくがくと腰が上下する。膝を強くこすり合わせる「X」の字型に足をくねらせ懸命に耐えようとする少女だが、スカートの下、押さえ込んだ下着の股布には、ぷしゅっ、じょわっ、じゅうぅ、と断続的に熱い雫が噴き出してゆく。もはやおチビリと誤魔化せない水流が、緩むダムの底穴を通り、少女の指を濡らし、ぽたぽたとアスファルトの地面に水滴をこぼす。
 じょわっ、ぷしゅっ、しゅうっ、
 ぷしぃぃいっ、じゅびびびっ、
 下着の奥で饒舌に排泄音を響かせる、小さな乙女のダムの出口。みるみる白いワンピーススカートの黄色い染みがその勢力圏を拡大してゆく。まるで、レモン味のかき氷。時季外れのホットレモンティを堪え切れず、中央分離帯で羞恥のオモラシ姿を晒すことを強制される少女。
 そんな少女の激しい我慢ダンスがぴたりと停止した。宙空を見つめ、赤らむ頬、汗ばむ首筋を拭うこともなく、ぎゅっと唇を引き結ぶ。
 ぷるぷると小刻みに震え、縋るように見つめる先。歩行者用の信号はいまだ堅牢に停止の赤を輝かせている。停止。止まれ。進んでは駄目。

 ――トイレに行っては、いけません。

(んきゅううぅ、っ、だ、だめ……も、漏れっ、もれちゃ、ぅ、お、おもらし、……お、おトイレ、まだなのに、い、いろんな人に、みられ、てる、のにぃ……っ!! は、はやく、しんごう、はやく、かわって……ぇ)
 羞恥と、尿意と。限界を訴える生理現象との極限の綱引きを続ける少女の、すぐ背後に。排気音を響かせて大型車両が停車する。
 六つ目信号の右折車線に入ったのは、あろうことか満員の路線バスだった。もはや背後を振り向く余裕のない少女には預かり知らぬことであったが、バスの車内からはまさに、前かがみになり股間を握り締めた少女が後ろに突き出した腰の揺れ具合や、くねくねと揺すり続けられるお尻、しわくちゃに握り締められて真っ黄色に染まったスカートや、その奥でひときわ湿り気を滲ませ熱い雫を滴らせる下着の様子すら、至近距離のかぶりつきで見物することができる特等席だった。
 そして。少女をこの日一番の不幸が襲う。
「んきゅうううううう……っ!?」
 つい先ほど。青信号の中で、先延ばしにした尿意の大波――そのぶり返しが訪れたのだ。引き伸ばされ内圧を高めた水風船が、限界を迎えその反動とともに収縮を始めたのである。
 その絶望的な『予兆』に、少女の目が大きく見開かれる。
 パクパクと声もなく開閉される唇が、ぎゅうっときつく結ばれ――
「ぅう、んぅう、んゅ、っ……ぅうう……ッ!!!」
 もはや、酷使された水門はその内圧を押し留めることができなかった。長時間の我慢の反動、不随意筋による猛烈な膀胱の収縮は、限界まで引き伸ばされていた乙女の水風船をすさまじい勢いで引き絞る。
 乙女のダムの一番底にある、敏感な水門は一気にこじ開けられ。大きく前かがみになった少女の、脚の付け根から。
 それまでのおチビリとは段違いの水流が一気にあふれ出した。

 ぷしゅっ、しゅうう、しゅわああああ……
 ぶしゅぅううううううっ!! じゅわあああああ!!!

「あっあっああ、っ、だめ、だめぇえ……!!」
 悲痛な叫び声と共に。いじましくも、涙ぐましい努力で、少しでも外にこぼすまいと、両手を重ねた指の器。それを瞬く間にいっぱいにして、黄色い奔流が少女の足元へと噴き出してゆく。とじ合わせた太腿を伝うナイアガラの滝。
 腿を、膝裏を、脛を伝って、黄色い濁流が一気に少女の足元へ駆け降りる。夏の日差しの中、繰り返した水分摂取と発汗を経て、少女の排泄器官で濃縮された特濃おしっこ。

 ぶじゅうううううううっっじょわあああああああ!!!
 びちゃびちゃびちゃびじゅじょじょわっぶじゅしゅうううう!!!

 まるでさかさまの噴水だ。押さえた手のひらにぶつかる水流は、下着越しだというのにそれを貫通するかの如く猛烈な勢い。おもらしというよりは、噴出、噴射というに相応しい。
 路肩に停車したバスの窓にまで、その飛沫が飛び散るほどだった。
「ねえっお姉ちゃんおもらししてるよ! おしっこ出ちゃったよ!!」
「お姉ちゃんなのにおトイレまでオシッコ我慢できなかったんだ……いーけないんだー!!」
 囃し立てる子供たちの声。囁き交わされる通行人たちの声。

 ぶしゅううじゅじゅじゅっじゅぶぶぶじゅうううう……

 両手の中に水まきのホースを握り込んだような状態で、少女のおしっこはぶじゅうううう、と猛烈な音を響かせ、激しい水流が弾き出される。見る間に広がる足元の水たまりは、小さな中央分離帯を覆い、そのまま道路のほうまで流れ落ちてゆく。
「はあっ、あ……っ、あ、んぅ、んきゅうぅ……っ」
 腰骨を伝う猛烈な開放感。身体の中心を貫く、甘い痺れ。がくがくと脚を震わせ、ついに膝から崩れ落ちた少女は、中央分離帯の中にへたりこんでしまう。自分の作った黄色い水たまりの中に、白いワンピーススカートはもはや半分以上が羞恥の黄色に染まる。
 注意。注意。おしっこ注意。
「ぁ……んゅ、ぅ……っ」
 しゃくりあげるように小さく肩を震わせ、半開きの口から、はあはあと荒い息を吐き。紅潮した頬に涙の筋を滲ませながら。羞恥と屈辱に歪みながら、どこか蕩けたように緩む少女が、虚空に視線を彷徨わせる。
 横断歩道の向こう。届かなかった、公園のトイレ。
 そこでするはずだった、おしっこ。
「で……ちゃっ、た……っ」
 やがて。悲惨な姿となった少女を迂回するように、右折車が六つ目の交差点信号を去り、車列が整然と制止する。
 歩行者用信号が緩やかに緑に色を変え、人々が遠巻きに、横断歩道を渡り始める中。
 なおも押さえ込んだ両手の内側。少女の股間は、なおもじゅううじゅうっと熱い奔流を噴き出し続けていた。



 (了)


 (初出:書き下ろし)

[ 2016/06/25 19:13 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

一日中我慢をする羽目になった女の子の話。 

 しーむす! 11で頒布した「不幸な偶然で一日中ずっとおしっこ我慢をする羽目になってしまった女の子の話」より。
 もともとこのあと続く予定だったのをページの都合でカットしてしまったので、あと半日くらい我慢は続く予定。





「お姉ちゃんっ、いつまで入ってるのー!?」
 真新しい制服と、通学鞄。出かける準備を整えた少女が、トイレの前でノックを繰り返す。忙しなく中を急かす千佳に、しかし姉の返事は「んー、もうちょい」ばかり。朝から一体中でナニをしているのかと文句の一つも言いたくなるのだが、いくらやっても千佳の抗議は暖簾に腕押しだ。
「もぉー、私が先だったんだよ!? ご飯食べたらトイレ行こうと思ってたのにー!!」
 さっきまでは父親が生活に必需なこの個室を占領していたため、千佳は仕方なしに朝起きて一番のトイレを諦め、先にご飯を食べることにしたのだ。
 前原家の大黒柱はいつもトイレの中で新聞をじっくり読みこむのが日常で、家族からの評判はすこぶる悪い。
 水を流すのもそこそこに、遅刻遅刻とつぶやいて玄関を飛び出していく父を呆れた顔で見送り、ようやく入れると思ったのもつかの間。やってきた姉が順番を無視してするりと個室に滑り込み、鍵をかけてしまったのである。
「ねー!! 百花姉ぇってば!!」
「待ちなよ、もうちょいなんだから……」
「百花姉ぇ、まだ時間あるんでしょ!? わたし今日日直なんだよ? 先に入れてくれたっていいじゃないっ!!」
「んー……」
 日直は担任の連絡や、花瓶の水換えなど、いつもより15分ほど早く家を出なければならない。そろそろその刻限が迫っており、千佳としてはその前にぱぱっとトイレを済ませて、キモチ良く出かけたかったのだが……。
「あと五分……」
「そんなに待ってらんないよ! 急いでるんだから、早く代わって、百花姉ぇ!!」
 聞こえてくる唸り声から察するに、姉はどうも何日かぶりの『ご無沙汰』であるらしい。千佳だって女の子だ、事情くらい分からなくはないけれど――昨日も遅く帰ってきて寝坊しておいて、妹の事情も考えずにのらりくらりとまともな返事もしない態度に、いい加減千佳も限界だった。
「もぉ、いいよ、学校でするからっ」
 憤慨と共にバンと一回、ドアを叩き。千佳はそのまま通学鞄を背負って家を飛び出した。
 玄関のドアがバタンと閉じると同時、トイレのドアから姉が顔を出す。
「千佳ー、空いたぞー って、あれ、もういないの?」
 いつの間にか取り残され、百花は部屋の中を見回して溜息。
「せっかちだなあ……ちょっとぐらい待てばいいのに。日直なんてちょっと遅れたくらいじゃ怒られないでしょ」
 妹が聞いていたら火に油を注ぐような言い分は、しかし既に家を出かけた本人に届くことはない。千佳はとっくに家を出、ぷりぷりと怒りながら、家の前の通学路を早足で歩いていたのである。
 時の流れに『IF』は ないが。
 この時、もう少し大人しくじっと我慢して、順番を待っていれば――と。千佳はこの日、最後の最後までその事を後悔することになる。



 ◆ ◆ ◆



 片道1キロ、まっすぐ歩けば15分の通学路を足早に、千佳は学校へと辿り着いた。日直の事で気分が急いていたのもあったけれど、いつもならきちんとできるはずの、朝一番のトイレをちゃんと済ませられなかったせいで、どうにもおさまりが悪かったのも確かである。
 しかも、途中で道路工事のせいで通行止めになっている路地を迂回して、大通りを通ったせいで5分ほど余計に時間がかかってしまい、気付けば予鈴の数分前。日直どころか、どうにか遅刻はせずに済んだけれど……といったかなりギリギリの時間であった。
 昇降口で上履きに履き換え、階段へと急ぐ。ちらりと覗いた昇降口前のトイレは、下級生たちで混雑しているようだった。入学して半年もたてば、慣れや気のゆるみから朝寝坊や遅刻もちらほら見え始め、学校でトイレを済ませる子達も増えてくるものだ。
(……うー、トイレ行きたいけど、あと、あとっ)
 ちょっとだけ後ろ髪を引かれながらも、千佳は教室へと向かった。そのためにいろいろなものを我慢してやってきたのだ。まずは日直の仕事を先に終えてしまわなければならない。
「おはよー」
「あ、おはよう、千佳ちゃん」
 隣の席の智美に応え、千佳は鞄を下ろす。鞄の中身を机に入れ――もちろん几帳面な千佳は横着して教科書やらノートやらを学校に置きっぱなしになどしていない――智美が手元に体操着袋を抱えているのを見て、あれ、と千佳は声を上げた。
「え、今日一時間目から体育だっけ?」
「うん。時間割変更だって――昨日、先生言ってなかったっけ?」
「えーっと……」
 さらりと返され、千佳は視線を泳がせて思い返す。
 そう言えば昨日の帰りの会でそんな連絡があったのを、今更ながらに思い出す。今日は担任の先生が一日留守にしていて、そのせいで時間割が変わっているのだ。その影響で朝の会も中止になっていたはずである。
 決して忘れていたわけではなく、昨日の夜授業の準備をしている時にも、あさ、身支度をしているときにもちゃんと頭の中には入っていた。その後、トイレの前でバタバタしていたせいで、すっぽり注意が抜け落ちてしまったのである。
(あー……馬鹿だ、わたし)
 担任の先生がいない場合、よっぽど緊急の用事でもないなら朝の会の連絡もない。つまり、千佳が済ませなければならないのは精々花瓶の水換えくらいであった。そんなもの者の重病で終わってしまうことで、いっそ授業が始まる前の時間でだって簡単に済ませられる。千佳が急いで来る理由などどこにもなかったのである。
(んっ……)
 ぶるるっ、と背中が震える。日直の役目と家族へのいらだちで後回しにしていた感覚が、ぐうっとおなかの下に膨らんでくる。
 やることがないとなれば。優先すべき用事もない千佳はまず、なによりも向かいたい場所があったのだが――
「朝から体育って、ちょっと嫌だよねえ」
「う、うん。……そうだね」
 運動が苦手な智美は単純に言葉のままの意味で言ったのかもしれない。が、千佳にとっては少しばかり意味合いが違っていた。
 体育の武蔵先生は、風紀委員の顧問で生徒指導を兼ねており、毎朝、校門の前で生徒達に声をかけている。もちろん体罰とかそういうのはないけれど、規則や時間に厳しく、授業開始前に全員揃って着替え、ランニングと準備体操を済ませていないと怒られてしまうのだ。
(ぅ、その前に――おしっこ、したいのに……)
 教室の黒板上の時計を見上げる。時計の針はもうすぐ8時15分になろうとしている。朝の会がないとはいえ、今から着替えて、体育館まで移動するとなると、それだけで授業開始までぎりぎりだ。加えて準備運動にランニングもしておかなければならないとなれば、とてもトイレまで寄っている余裕はない。動揺する千佳を追いたてるように予鈴が鳴り響く。
「なんだよ、まだ女子残ってんのか? 着替えらんねーじゃねえか、早くしろよー」
 入り口に詰めかけるのは隣のクラスの男子達だ。体操着入れを振り回しながら、彼らは早々と教室に入ってくる。彼らは暇さえあればグラウンドを駆け回っているような連中で、体育の授業前に一遊びしようというつもりらしかった。
 千佳のクラスの女子達が抗議の声を上げるが、ずかずか踏み込んでくる男子達は悪びれもせず、人目も関係なしに着替え始める。
 今回ばかりは男子の言うことが正しい。体育は2クラス合同で行われ、着替えは女子と男子がそれぞれ別々の教室に移動して行う決まりなのだ。
 気づけば智美も着替えをもってもう教室を出ていた。
「もぉ……わがままばっか言うんだから」
 口を尖らせて手早く花瓶の水を換えてから、千佳は渋々体操服を抱えて教室を飛び出した。一応、職員室にも寄って連絡があるかどうか確認しなければならない。
 この分だと、朝一番のおトイレも諦めるしかなさそうだった。



 ◆ ◆ ◆



 途中、こっそりとトイレに寄れないかと回り道をしてみたものの、やっぱりそんな時間の余裕はなかった。息せき駆けつけた体育館では、もうクラスの大半の生徒が集まっていた。目にもとまらぬ早着替えで早々と体育館についていた男子達が、冬の初めの温度にも関わらず走り回っている。
(ひゃぅっ……寒いーっ……)
 吹き付ける風が、千佳の足元に染み込むように浸食してくる。夏冬兼用のジャージと体操服では、冬の朝1時間目の寒さを遮断するにはあまりにも心もとない。
 染み込んでくる寒さがさわさわと千佳の下半身を撫で、強張った膝裏、ふくらはぎ、足の付け根を意地悪く刺激する。
 ぶるるっと身を震わせると、おなかの奥にむず痒さがじいんと広がっていく。
(うぅ……おトイレ……)
 後ろ髪を引かれる思いで校舎のほうを振り返るが、早々と体育館では当番達が準備を始めていて、ジャージ姿の武蔵先生もパイプ椅子に陣取っていた。
 いまさら「ちょっとおトイレ行ってきます」とは言い出せない雰囲気の中、千佳はしぶしぶ準備運動に参加した。ラジオ体操を終え、体育館をぐるりと3周する。ガマンを続けながらの準備運動は、どこか気もそぞろで、足取りもおぼつかない。
「よーし、揃ったな?」
 千佳が体育館の周りを走り終えるのと、本鈴はほとんど同時だった。どうにか間に合った千佳を見て、先生が点呼を取りはじめる。
 そそくさと列についた千佳だが、その様子はどうにも落ち着きがなかった。そわそわと回りを見回し、時折体育館履きを爪先を重ねるように足踏みを繰り返す。
(……うーっ……やっぱり、おトイレ行きたい……)
 家を出た時に比べても、下腹部の欲求は随分とはっきりしたものになっていた。気にするまいとすればするほど、下腹部の疼きはその強さを増していく。
 それもそのはずで、通常、眠っている間は姿勢や神経の鈍化によって、人の身体というものは尿意を感じないようになっている。そうでもなければ、夜中の間中……7時間も8時間もトイレに行かずにいられるわけがないのだ。
 朝一番のトイレが勢いも量も多いのはそのためである。
 目を覚ましてから1時間半。千佳の身体はすっかり覚醒し、下腹部に溜まったおしっこの量を明瞭に察知するには十分だった。
 本来、朝一番のトイレは目が覚めてすぐに済ませていなければならないものだ。一晩をかけて溜まったおしっこは、少女の意識するよりもずっと大量に下腹部を占領しているのである。
 それなのに、家のトイレを使えないまま学校に来て、そのままなし崩しに始まってしまった1時間目。千佳の下腹部では、本来ならとっくに済ませているはずだったおしっこに、一向に排水許可が下りない乙女のダムが、予定が違うと抗議の声を上げはじめていた。
(んっ……ふ……)
 体操服のスパッツの上からそっと下腹部をさすり、千佳はちらりと列の後ろ、用意された器具に視線を向けた。
 今日の授業はマット運動と跳び箱だ。なんというか、よりにもよって、と言うか。……どう控え目に表現しても、あまりタイミングのいい課題とは言えない。
(さっき、走ってる時もちょっとキツかったのに……)
 登校時には意識しなかった、ずうんと足の付け根にのしかかる下腹部の重み。一歩を踏み出すごとにじいんと腰骨に響く刺激は、徐々に無視できないものとなっていた。
 思わず下腹部に伸びた手のひらが、そっとおなかの下の方をさする。ジャージの上からとは言え、だいぶ危険な仕草である。
(トイレ……)
 知らず、膝が寄せ合わされ、太腿がすりすりと擦り合わされてしまう。
 強くなり始めた尿意は、一度意識し始めるともう忘れることは難しかった。そわそわと我慢の仕草を始めてしまいそうになるのを堪えて、千佳は俯きがちに説明を聞く。
 運動は得意な方の千佳だが、今日の課題であるマット運動と跳び箱は、どうにも頂けない。だって、どっちも――あまりにも、いかにもだ。
 せめてバスケットボールとか、バレーボールとか、勝負で気がまぎれるようなものなら良かったのに――そう思いはするが、まさか今から急に内容が変わるはずもなかった。
 渋々参加する千佳の隣で、智美が嫌そうな顔をしていた。
「いいなあ、千佳ちゃん、跳び箱得意だもんね……」
「そ、そうだね」
 羨ましそうに言われ、千佳はそう答えざるをえない。しかし残念ながら、今はちょっと事情が違う。
 実際、この日の千佳の成績は散々なものだった。
 出席番号順で跳び箱に挑んだものの、どうにも気になるおしっこを下腹部に抱えながらでは助走の歩幅も狭まり、踏み切りも力いっぱい、思い切りとはとてもいかない。普段なら軽々と飛べるはずの6段にもつまずいて、跳び箱の上にどしんと尻餅をついてしまう始末。
(……ひゃんっ!?)
 お尻がぶつかった衝撃で、一瞬足の付け根の水門が緩みそうになり、千佳は慌てておしっこの出口を引き締めた。幸いにして被害はなかったものの――下着の奥にはじぃんという痺れがいつまでも残り、そのまましばらく跳び箱の上から動けなかった。
 マット運動でも同じようなもので、脚を揃えてマットの前にしゃがんだ時点で千佳のおしりは小さくモジモジと左右に揺れ、我慢したままの開脚前転を途中で失敗してしまう始末。
 じっと閉じておきたい足を大きく広げ、おなかを圧迫するように前回りする姿勢は、とてもではないけれど今の千佳には簡単にできることではない。
「んっ……ぁ……ぅ」
 思わず小さな声を上げてしまい、慌てて脚を閉じて顔を紅くするなど、周囲のクラスメイトも不思議に思うくらいの状況だった。それでも、我慢しながらではどちらも厳しいと思われる器械体操を、下着やスパッツを汚すこともなく、特に失敗なく乗り越えたのは、千佳にしてみれば花マルを貰っても良いくらいの頑張りだったのである。



 ◆ ◆ ◆



「――良し、今日はここまでとする」
 生徒指導も兼ねている武蔵先生の授業は、しっかり授業終了のチャイムと同時に終わる。時間を切り上げてあとは自由、なんてことはまずあり得ない。
(終わったあ……!!)
 そして、今日もチャイムと同時におしまいになる体育の授業。落ち着かない体育座りからきりつ、れいを済ませ、千佳は内心で喝采を上げた。
 これでやっとトイレに行ける――その喜びに胸を一杯にしながら、そのまま立ち上がると、千佳はまっすぐに体育館横のトイレに向かおうとした。
 その時だ。
「千佳ちゃん、ちょっとちょっと! 今日、3班と4班が片付け当番だよ」
 背中から呼び止められ、千佳はつんのめるようにその場に立ち止まる。腰を当てて眉をとがらせているのは、同じ班の田中さん。その険しい視線には、千佳のサボりを見逃してくれそうな様子は見られない。
 体育の授業では、準備当番と片付け当番が週替わりの交代制で決まっている。授業の必要な道具を用意したり、片づけたりを担当するのだ。今日の授業、準備は他の班の分担だったのだが、片付けは千佳の3班も含まれているのである。
(うぅ……早く終わらせて、早く、トイレ行こ……)
 呼び止められているのに、それを無視するなんて千佳にはできない。田中さんとはあんまり親しくないせいで、こっそりトイレを我慢していることを打ち明ける気分にもならなかった。
 仕方なしに千佳は、3班の他の女子と跳び箱を運び始める。並んだ跳び箱は全部で四つ。女子4人で片づけるには結構な大仕事だ。しかし向こうでは当番のはずの男子達が、担当のはずのマットを放り出したまま、倉庫から勝手にバスケットボールを出して遊び始めていた。
「ちょっとお! 男子、片付けなさいよ!!」
「わかってるよ、後でやるから!」
 最近バスケ部でレギュラーになった瀬戸という男子が中心になって、即興の3オン3まではじまる始末。女子がいくら注意の声を上げても、ゲームに夢中になっている男子達は聞き入れない。具合の悪い事に、こういうことに厳しい武蔵先生は席を外している。
「ねえ! 先生に怒られるよ! 次のクラスの子だって来ちゃうし!! はやくしなよ!!」
「うっせーなあ、わかってるよ、よし、じゃあよ、あと1点――あ、3点取った方の勝ち!! 勝ちな!!」
 全く聞く耳を持たない彼等に、3班の女子達は溜息。
「しょうがない、私達でやっちゃおうよ」
「えー!? なんで!? 男子がやればいいじゃない。私達ちゃんとやることやったよー?」
「でも、他のクラスの子に迷惑になっちゃうし、良くないよ。みんなでやればすぐ終わるし……男子には、後で先生に怒って貰おうよ。ね?」
 風紀委員の田中さんの意見もあり、女子達は渋々マットのほうも片付け始める。
 しかしそんなのは、千佳にはまるっきり余計なお世話であり――
(そんな……ぅう、ぐずぐずしてたら休み時間、終わっちゃうじゃない……)
 特段の切羽詰まった事情が千佳を急かす。せめて急ごうとする千佳だが、もともと男子の仕事なのに、と田中さんを除いて女子達はいまいちやる気がない。もたもたとしているうちに時間は過ぎ、休み時間も残り数分となってしまった。
「あ、もうこんな時間、みんな、急がなきゃっ」
 まだ白熱の3オン3を続けている男子たちを尻目に、体育館横のトイレに入る時間もないまま、千佳は教室に戻ることになった。途中、トイレの入り口を横切るときに、そっちに身体が引っ張られるような気がしてしまったのは、錯覚ではない。
 着替えの時間も、千佳はすっかり上の空。授業のことなんかそっちのけで、さわさわ、ざわざわと下腹部で揺れる尿意の波のことばかり気にしていた。
「………んっ」
 スパッツを脚から抜き取る時、じんと脚の付け根に感じるむず痒い尿意に、千佳は思わず声を上げてしまう。反射的にもじもじと足をすり合わせ、腰をよじってしまい、千佳はかあっと頬を熱くした。
 そんなところでチャイムが鳴る。千佳は大急ぎブラウスを着直し、スカートを穿いて、体操服をたたむ暇もなく自分の教室へと戻った。



 ◆ ◆ ◆



 2時間目は算数の時間だった。
 体育館で遊んでいた男子たちは案の定遅刻して、先生にこっぴどく叱られた。罰として宿題を追加されたことに彼らは不満たらたらだったが、正直ちょっといい気味だと千佳は思う。
(あんたたちが真面目にやってれば、私もおしっこできたんだからね……!)
 1時間目から体育で動いた後とあって、教室の雰囲気はどこか気怠い。黒板に刻まれる図形問題が、ますます眠気を誘ってくる。
 今日の問題は、水槽の容積を求める計算。
「いいですね、基本的には体積の求め方と同じです。水槽の底面積と、高さの掛け算で表されます。ただし、水槽のガラスに厚さのある場合は少し注意が必要で――」
 呪文みたいな計算問題に、いつもの千佳なら思わずうとうとと舟を漕いでいただろう。けれど今日ばかりは、千佳の目はぱっちりと冴えていた。
 けれど、授業に集中できているかといえば、お世辞にもそんなことは言えない。
(ぅう……トイレ……っ)
 千佳の尿意はさらに強さを増していた。そわそわと椅子の上で腰を揺すり、ときどき机の下に手を差し入れてそっとスカートの前を押さえてしまうほどだ。
 体育の時間では、まだそんなに気にならないくらいに弱まるときもあったのだけど――2時間目に入ってからは、強弱の波はあっても、千佳の下腹部は尿意を感じ続けている。
 授業が始まる前、つい水飲み場に行ってしまったのも良くなかったかもしれない。体育の後で喉が渇いていたのもあって、がぶがぶと冷たい水を飲んでしまったことを、いまさらのように千佳は後悔していた。飲んだ分がそのままおしっこになるわけではないのは、千佳もわかっていたけれど――
「じゃあ、問い四を――前原さん!」
「は、はいっ」
 先生の指名に、千佳はあわてて立ち上がった。こんな時に限って当てられてしまうなんて。運命の理不尽さを呪いながら、千佳は黒板の前に出て、チョークを手に計算式を書き始める。
 問題は、底に穴の開いた水槽に、水を注ぎ込むものだった。水槽の体積を使って10分後に水面の高さがどうなるかを計算するもので、水槽に空いた穴から中身の水がこぼれだすのが問題を難しくしている。
 意地悪な問題だ。自分だったら絶対、こんな穴なんかあけておもらしなんかさせないのに。ついそんなことを考えて、千佳はぶんぶんを首を振る。
(んっ……)
 黒板に向かい合ったところでタイミング悪く尿意の波が押し寄せ、千佳は背中を強張らせた。チョークの先が止まり、指先が震える。
 いますぐ「ぎゅうっ」と脚の付け根を握り締めてしまいたい。けれど教団の上、黒板の前で皆の視線にさらされながらそんな事が出来るはずもなく、千佳はスカートの裾をきつく掴み、尿意の波が和らぐのを願うしかなかった。
 押し寄せる尿意に我慢しながら板書した計算式は大きく歪み、読めない数字が2カ所ほど並んでいた。苦労して書いたのに減点をもらい、千佳は理不尽な想いに唇を噛んで席に戻る。
(……やばぁ……もうちょっとで、出ちゃうトコだった……っ)
 板書の間中、強まっていた尿意は、椅子に腰を下ろすと幾分楽になった。周りの視線が遠のいたことを感じながら、千佳は机の下でそっと足の付け根を押さえ、パンパンに膨らんだ下腹部をなだめる。
 ノートをとる暇もなく教科書がめくられ、板書が進む。結局その時間、千佳はほとんど足の付け根に押し寄せるおしっこの波をやわらげながら、残りの授業の時間を過ごした。



 ◆ ◆ ◆



 それからも。千佳の我慢は際どいところの綱渡り。意地悪な尿意と女の子のプライドの綱引きは一時も気の休まらないまま続き、どうにか残り時間の25分を乗り切った。
 途中、何度も危険な瞬間があり、もう少しで下着を湿らせてしまいそうになったものの――そこは根性で回避して。
 2時間目を乗り切った千佳に、待望のチャイムが鳴り響く。まさに、苦難の道を乗り切った少女にとって、ゴールの瞬間を知らせる祝福の鐘。
(よかった……ちゃんと我慢できた……!)
 胸の中で喝采を叫び、日直の号令もないうちから腰を浮かしかける千佳。しかし。
「ん。もう時間か……ちょっと中途半端だな。この例題だけ終わらせるぞ」
「えええーーっ!?」
 思わぬ授業延長の宣言に、クラス中からブーイングが起こる。千佳もそれに混じって思いっきり叫んでいた。
 けれど、その理由は皆とは違う。下腹部に切迫した女の子の危機のためだ。
(は、早くトイレ行きたいのにぃ……っ!!)
 一度期待してしまった心は抑えきれない。はやばやとトイレに飛んでいた千佳の心は、もうすっかり準備万端でおしっこの用意を始めている。
(ぁ、っ、やば……っ)
 一瞬の油断はすぐさま排泄欲求の『呼び水』となった。きゅうううんっ、とおなかの奥の水風船が収縮し、強烈な尿意の波となって足の付け根に押し寄せる中。千佳は椅子に腰かけたままばたばたと足を動かして、懸命に下腹部を直撃するイケナイ衝動に耐える。
 きゅんきゅんと疼く足の付け根は甘く痺れ、女の子の水門がひくひくと震え始めていた。それを下着の股布の上からぎゅっと手のひらを当てて押さえ、力を込めておさえこむ。
「っくぅう、……っは、ぁあっ……」
 一秒が一分にも思えるほどの長い長い延長戦は、休み時間の半分ほどをオーバーして終了した。
「では、ここまでとする。宿題を忘れないように」
 本来なら20分はある2時間目と3時間目の休み時間。たっぷりと遊ぶことができるはずだった。ほかのクラスの生徒たちで混雑し始めた廊下を横目で窺いながら、皆の視線が恨みがましい目で先生を見つめる。
 クラスからの避難の視線の集中砲火にさらされても、先生は涼しい顔をしていた。
(うぅっ……授業普通に終わってたら、トイレだって楽勝で行って帰ってこれたよ……!! 先生の意地悪っ……!)
 やっとトイレに行けると思った瞬間の、10分間の延長我慢。千佳だって文句の一つも言いたくなろうというものだ。
 ともあれ休み時間だ。短い残り時間にもさっそく外に遊びに行こうとする男子たちを尻目に、千佳は授業の片付けもそこそこに席を立った。
 早くトイレに――そう思ったところで背中から声がかけられる。
「前原さんもお手洗い?」
 廊下にはクラスメイトの女子数名が連れ立っているところだった。千佳ほどではないとはいえ、トイレを我慢していた女子は結構いたらしい。1時間目がいきなり体育で、そのあとに授業の延長。着替えに教室移動があったせいで、トイレに行きそびれた子たちは結構いるようだった。
「ねえ、じゃあ一緒にいこ」
「う、うん……」
 申し出を断ることもできず。千佳は彼女たちと連れ立ってトイレに向かうことになった。今すぐトイレまで全力ダッシュしたい千佳にしてみれば、みんなと一緒にのんびりお喋りしながらなんて遠慮したい気分だったのだが――
(あんまり慌てるのも恥ずかしいよね……)
 ついそんな気分になってしまったのは仕方ない。しかし、階段下のトイレにやってきた千佳たちが目にしたのは、思わぬ光景だった。



 ◆ ◆ ◆



 トイレの前にずらっとならんだ順番待ちの列、列、列。
 廊下まではみだした行列に、千佳はおもわずうえっと顔をしかめてしまう。
(ちょ、ちょっと……! なによこれ……!)
 長く続く列を前のあたりにして、さっそく敏感に反応を始めてしまった下腹部。小刻みに足踏みを始めてしまうのを押さえ切れず、口の中に溜まった唾をこくりと飲み込む。
「うわー……混んでるねー」
「どうしたんだろ?」
 クラスメイト達の反応は呑気なものだ。一緒にトイレにやってきたとはいえ、彼女たちの多くは、学校に来る前や朝の会の前にトイレを済ませているのである。朝からずっとトイレに入りそびれ、今なお、おなかをおしっこでぱんぱんにさせた千佳とは、いろいろ事情が違っていた。
 近くにいた先生に話を聞いてきたクラスメイトが、ぱたぱたと駆け戻ってくる。
「……聞いてきた。なんかね、上のトイレ故障しちゃってるんだって」
「それで下級生もきてるんだ……参ったなあ。これじゃ入れないかもよ」
「うん。……そうだね」
 排水管のトラブルがあって、2階3階のトイレが丸々使えなくなってしまっているらしい。結果、ほかの学年やクラスの子たちもここに集まってきてしまっているということのようだった。
「工事の人がもうすぐ来るから、そんなにかからないで使えるようになるって言ってたよ」
「そっか……」
(うう、仕方ないけど、並ぶしかないわね……)
 そう思って千佳が、順番待ちの一番後ろに近づこうとする。
「どうしても我慢できないなら、男子のほうを使ってもいいって」
「えー、なにそれ。やだーっ!」
 1階の隣のトイレに、女子用とマジックで書かれた張り紙がされている。先生手作りの緊急用だろう。
 しかし、いくらそうなっているとはいえ、男子トイレに入ろうとする少女たちは一人もいない。当然だ。いろいろ複雑な年頃である。男の子のトイレなんてそんな簡単に使えるはずがない。
 つんとおすまし顔で、女子トイレの順番待ちに並ぶしかないのである。
「どうする? 並ぶ?」
「うーん……」
 複雑な顔をするクラスメイト。その視線には、上の階からやってくる下級生たちの姿もある。
「いいや。次の時間まで我慢する。すぐ直るみたいだし」
「そうだね」
「えっ……」
 思わぬ展開に、つい驚きの声が千佳の口を突いて出た。
「千佳ちゃんは?」
「あ、あたしは……」
 ついもじもじと腰を揺すってしまい、千佳は頬が紅くなるのを感じていた。
「並んでみる。順番回ってくるかもだし」
「そっか。じゃあね」
「…………っ」
 小さく脚を踏み鳴らし、その最後尾に並ぶ千佳。
 授業延長で削られた休み時間はあまりにも短く、続く列はあまりに長い。そしてとうとう、千佳の順番が回ってくる前に授業の予冷が鳴り始める。
(そんなあっ……、ま、まだ、私、トイレ行けてないのに……っ)
 鳴り響くチャイムの中、ぐりぐりと廊下に上履きを押し付ける千佳。
「えー? もう時間?」
「……ねえ、授業始まっちゃうよー。次まで我慢しよ?」
「そうだね、まだそんなにしたくなかったし」
 並んでいた生徒達も次々に仕方なしに教室に戻ってゆく。
(もうっ! 我慢できるなら、最初っから並ばないでようっ……!!)
 まだ余裕のある子たちが、最初からそうしてくれていれば――もしかしたら千佳まで順番が回ってきたかもしれないのに。八つ当たりと分かっていてもそう思わずにはいられない。
 列に残されたのは、切羽詰まって余裕のない子たちばかり。千佳の前にはまだ3人の順番待ちがおり、個室が開く様子はない。廊下からみるみる人がいなくなり、次の授業の用意をした先生たちがやってくる。
「っ……」
 戻るか、留まるか。しばらくの葛藤の末。千佳は後ろ髪を引かれながらも、待望のトイレを後にせざるをえなかった。



 ◆ ◆ ◆



 3時間目、地理。
 千佳のクラスの担任の周防先生の授業だが、やってきたのは別の先生。千佳の良く知らない、白髪の先生は、周防先生は急な用事ができてお休みだという連絡を短く告げた。
 その知らせに教室がわっと湧いた。
「ということで、この時間は自習とし、DVD鑑賞の時間とする。……うるさくしないようにな」
 カーテンを引いて電気を消し、暗くなった教室のスクリーンに、古い外国の映画の映像が流される。遊び疲れた男子は居眠りをはじめ、興味深げに映画の字幕を見る女子たち。
「……っ……ふ……っ」
 そんな中。薄暗い教室の机の下で、千佳は誰も見ていないのをいいことに、スカートの前をぎゅっと押さえ続けていた。閉じた腿の間に手を挟み、足の付け根をぎゅうっと握りしめる。
 ぎし、ぎし、軋む椅子が小さな音を立てる。映画の音声が大きいので今はなんとか誤魔化せているが、千佳の姿はいまや立派なおしっこ我慢の真っ最中。浅めに腰かけた椅子を揺らし、机にもたれかかるように上半身を倒し、上履きのかかとを交互に持ち上げる。
(うーっ……おしっこ……トイレ…っ、おトイレ行きたい……っ)
 誰も見ていないのをいいことに、千佳の我慢はますます大胆になってゆくばかりだ。
 少女の下腹部、募る尿意は高まる一方。きゅんきゅんと疼く膀胱が、固く張りつめているのが分かる。
 下腹部の重みがぐんと増し、千佳の『おんなのこ』の出口に圧し掛かる。朝から一度もできていないおしっこは、3時間目に入ってどんどんその勢力を増していた。朝食で飲んだお茶と野菜スープが、少女の健康な新陳代謝によって新たな尿意のもととなり、小さな下腹部のダムへいまなおどんどんと注ぎ込まれている。
 ぴたりと閉じ合わされ、細かく擦り合わされる太腿の奥。水門を閉ざす括約筋がひくひくと震え、ダムの水圧に耐えかねたように膨らむ。
(ん、ぅ、くぅううっ……っ)
 押さえた手のひらの応援で押し寄せる波をやりすごし、荒く息を繰り返す千佳。一層激しく揺れた椅子の足が床を擦り、ぎしっぎしっと尾をと響かせる。隣の席の亜里沙が、怪訝そうな顔をした。
「千佳ちゃん、どうかしたの? 平気?」
「ぇっ!? う、ううん、なんでもないっ」
 咄嗟に答え、へいきへいきと首を振る。
 そう答えてしまってから、すぐに千佳は後悔した。具合が悪いとでも言って、保健室に行くことにすればよかったのだ。調子が良くないのは本当だし、トイレに行く恰好の口実だったのに。
「……?」
 まだ少し、不思議そうな亜里沙に、精一杯の平静を取り繕いながら。千佳はちらりと代理の先生のほうを見る。白髪の先生は、普段は千佳のクラスを教えていない、別の学年の担任らしい。
「…………」
 どうしよう。トイレに行きたいと言おうか。たとえ最初は恥ずかしくても、勇気を出したほうがいいかもしれない。切羽詰まった下腹部のダムを考えれば、意地を張っている場合ではないかもしれない。張り詰めたおなかをさすって、千佳はぎゅっと口を引き結ぶ。
(……トイレ、行きたいって……言わなきゃ)
 でも、それでも。それが一番いいというのは分かっているのに、女の子の羞恥心が邪魔をした。クラスの皆の前でそれを口にするのが、どうしても躊躇われてしまう。
 さっきの休み時間、千佳はクラスの皆とトイレに行った。予鈴が鳴った時に順番待ちの中に残っているのだって見られている。
(またトイレかって思われちゃうのも、やだな……)
 千佳の心が揺れる。クラスの皆と一緒に映画に熱中している先生は、ちょっとやそっと手を挙げたくらいでは気付いてくれそうにない。気付いてもらうには、大きな声を出すか、席を立って言いに行くか。いずれにしても皆の注目を浴びてしまうのは間違いなかった。
 時計をちらりと見上げる。残り時間は20分。
(あと20分くらいなら……我慢できる……かな)
 人目を気にせず我慢できているおかげか、それくらいの余裕はありそうだった。我慢しよう。こんどはまっすぐトイレに行く。授業が終わってすぐに行けば、トイレだって空いているはずだ。
 あとほんの少し。ほんの少しだけ我慢すれば大丈夫。すぐにトイレに行ける。おしっこできる。
 ――だから、できるだけ気を紛らわそう。前かがみになって小刻みに足踏みを続け、千佳は映画に集中することにした。
 この決断を千佳が後悔するのは、授業が終わる直前のことである。



 ◆ ◆ ◆



 失敗した――。千佳の頭の中を激しい後悔が渦巻いていた。自習となった社会の授業が終わり、4時間目は音楽の時間。
 そう、音楽室への移動教室である。そのことを千佳はすっかり忘れていたのだ。
 しかも、今日は笛のテストが実地される予定だという。授業が終わるや否や、クラスの皆はすぐに準備を終え、移動をはじめる。
「て、テストって、本当なの?」
「あれ? 千佳ちゃん知らないの? この前先生言ってたけど……」
「わ、私、先週お休みだったもんっ……」
「ああ、そうだっけー?」
 呑気な返事をする亜里沙。しかし千佳は衝撃の事実を前に気が気ではない。
(そんなの聞いてないよおっ……!)
 教室はたちまちがらんとなり、取り残された千佳はたちまちパニックになる。今日がテストだとは知らず、リコーダーは家においてきてしまっていた。いまから家に取りに帰るなんてもちろん無理だ。
「笛、借りなきゃ……っ」
 ほかのクラスの誰か――去年、クラス替えで別れてしまった理穂を訪ねてみたが、タイミング教室には不在。別のクラスの友人を頼ってさらに遠くの教室にも行ってみたが、そこでもまたすれ違いになってしまう間の悪さ。みるみる休み時間もなくなってゆく。
「…………もぉ、やだあ……っ」
 トイレなんて寄っている場合じゃなかった。教科書とノートだけを掴んで、音楽室へ急ぐ。尿意を感じて全力疾走できない千佳が音楽室に滑り込んだのは、授業開始のチャイムぎりぎりだった。
「前原さん、いけませんよ、先生の話はちゃんと聞かなければ」
 遅刻と、忘れ物で音楽の先生に叱られて。席に着いた千佳を待ち、授業が始まる。
 一人一人前に出て、先生の伴奏に合わせて笛を吹く。それを1クラス28人分。千佳の出席番号は「前原」の18番だ。音楽室の備品であるリコーダー――きちんと消毒はしてあるものの、誰が使ったかもわからないということで、クラスの皆にはとても不人気である――を借りて、惨憺たる気分でテストに臨む。
(……っ、ふぅ、はぁっ、はあーっ……)
 自分の前に18人。テストの順番が回ってくるまで、千佳はじっとおとなしく待っていなければならない。この間、音を出して吹くことはできなくても、指使いの練習くらいはできる。順番までにはまだ時間がある。すこしでも結果をよくするため、最後の復習をするべきなのだったのだが――今の千佳には、静かな音楽室の中で物音を立てずにじっと順番を待っていることのほうが何十倍も辛いことだった。
 一刻も早くテストを終わらせ、そのままトイレに駆け出したい。そのことばかりが頭を占め、リコーダーのテストなんてまったく気にしている余裕はなかった。
(っ……ダメ、トイレ……っ、で、ちゃう、出ちゃう、おしっこ……!!)
 しかし、テストの順番を控えた千佳に、そんなことは許されなかった。弱り切った『おんなのこ』を見逃さず、尿意は断続的に千佳の下腹部で暴れ回る。千佳はろくにリコーダーを握ることもできないまま、ぐっと息を堪えて足の付け根に力を込める。
 閉ざされた水門が震え、貯水量の限界を超えつつある少女のダムが水面を揺らす。もはや机の上にじっとしているのも難しいほどだ。ぎし、ぎしと椅子を軋ませてしまい、何度か先生から注意される。
(ぁ……っ、だめ、お、おしっこ……出るっ、漏れちゃう…っ!)
 そのたびに、恥を忍んで「先生、おトイレ」を言おうとする千佳だが、先生はテストの採点にかかりきりで千佳の様子を確認しようともしない。 どうして休み時間中に済ませておかなかったのかと言われるかもしれないし、いい歳をしておしっこが我慢できないなんて思われたくない。千佳の握りしめた笛は、ぎゅうぎゅうと捩り合わされる足の付け根に挟まれて、トイレを我慢するための一助にされてしまっていた。



 ◆ ◆ ◆



 20分近く待たされた末、ついに千佳の順番が回って来た。
 押し寄せる尿意はさっきまでの比ではなく、平静を保とうとしても千佳の足は自然と寄せあわされ、膝が重なり、交互に交差を繰り返してしまう。上半身は前かがみ、腰は後ろに引けて左右に揺れ、太腿をすりすりと擦り合わせながらではじっと立っているのも辛い。
 そんな状態でみんなの注目の前に出て、課題曲を一曲吹き終わるまでじっとしていなければならないのだ。
(だ、だめっ……我慢しなきゃっ……!! あぁ、あっあ……っ!!)
 席を立ったその瞬間から、緊張で強張った下腹部は過剰なまでに尿意に反応した。脚の付け根がきゅうんと疼く。張り詰めた膀胱がこぽりと音を立て、おさえた手のひらの下で収縮をはじめた。
「次は前原さんね。いきますよ」
 テスト最後の一人とあって、クラスの皆の注目も増す。
 重い足を引きずり、どうにか皆の前に立ったその瞬間。股間に熱い雫の予兆を覚え、千佳はその場に硬直して動けなくなってしまう。
(ぁ、あっ……んゅ、ぅあ……ッ!!)
 人目をはばからずぎゅうぎゅうと寄せ合わされる太腿。握りしめられたリコーダーが震え、力のこもった指が白くなる。いまや千佳はクラスの注視の中、尿意の大波の上でサーフィンの真っ最中だ。
(はぁあ……ッ、く、ぅ、で、出ちゃ、あぅ、だめぇ……っ!!)
 しかし、先生は無情にも千佳の様子など考慮せず、テスト開始の合図を出た。伴奏が始まる。テスト。吹かなきゃ。震える唇にリコーダーをくわえ、指を動かし始める千佳だが、その音はひどいものだった。演奏は大きく音を外し、乱れる息は定まらずに荒く震えて、ぴぃぃ、ぽぉお、と雑音を混ぜる。
(ぁ、だ、だめ、だ、め、でっ、でる、っで、でちゃ……ぁ、ぁあっ)
 両手でリコーダーを持てば、自然、足は無防備になる。下腹部を押さえていた手のひらを失い、すぐに千佳の脚元は不自然なくらいに立ち位置を変えはじめた。体重を左右の足に乗せ換えて、大きく左右に揺れながら、ぎし、ぎしと教壇を軋ませる。しまいにはその場で足踏みまではじめてしまい、クラスメイトが怪訝そうに首を傾げた。
 手にはじっとりと汗が滲み、孔を押さえる指が滑って、演奏どころか旋律の体も成していない。
 甲高く外れたリコーダーの音は、千佳の「おしっこしたい」という叫びだった。
「……前原さん。不合格よ。ちゃんと練習したのかしら?」
 散々な結果になったあとで、先生は不満げな顔で、千佳に再試験を言い渡した。不合格は千佳だけだ。音楽嫌いの男子たちの演奏よりもよっぽど、千佳のリコーダーはひどいものだった。
「みんなが終わった後、一番最後にもう一度、再テストをします。それまで皆の演奏をみて、ちゃんと練習しておきなさい。いいですね」
「…………っ、あ、あのッ――」
「返事は? 前原さん」
 低く威圧的な先生の声。千佳はそれ以上何も言えず、蚊の鳴くような声で「はい……」としか答えられなかった。
 そのお達しで――千佳はとうとう、音楽の時間の間も授業を抜け出してトイレに行くことはできなくなってしまう。
 机に戻され、じっとそのまま授業の最後まで外出を禁じられた千佳の脚の付け根。いっときも収まらずにモジ付く脚の付け根を包む下着には、いつしか小さな黄色い島が出来上がっていた。



 ◆ ◆ ◆



 音楽の授業。終了から10分を過ぎて。
 再テストの後、さらに不合格になった千佳は、居残りで再々テストまでさせられて――次の授業までに課題曲をちゃんと吹けるようにしておくことと宿題を出され、ようやく千佳は音楽室を解放された。
「あ……っ、はぁ、ぅ……ッ」
 膝ががくがくと震え、まっすぐに歩くことも辛い。気持ちだけは今すぐに廊下を駆け抜けてトイレに飛び込みたいのに――千佳はずっしりと重い下腹部を庇い、のろのろと亀のように進むのが精いっぱいだった。
 一歩ごとにじいんと響き震える、満水のダム。恥骨の奥でひくひくと震える『おんなのこ』。ぎゅっと押さえたスカートの下、きつく引っ張られた下着は、おしっこの出口の部分を中心にじわりと湿り、黄色い染みを広げている。
(でる、でちゃう……っ、おしっこ出ちゃう……っ!! っはぁあ、ぅ、だ、だめっ、我慢……っ、がまん、しなきゃ……っ!!)
 登校して一番に済ませるはずだったトイレ。いや、もともとは朝起きてすぐにできていたはずのおしっこ。溜まりに溜まった悪魔の熱水は、千佳の下腹部をぱんぱんに膨らませ、少女を意地悪に誘惑する。
 下着の股布、濡れて張り付く水門の部分の感触が、ゆっくりと冷えながら千佳に『おチビリ』の現実を意識させる。
(違うもんっ……こ、これ、ただの汗だから……っ、ま、まだ平気……っ、トイレまで、がまん……するの……っ!!)
 下着に滲む熱い感触は、あくまで気のせいだと言い聞かせて。千佳は懸命に廊下を急いだ。
 登校から4時間。すでに少女の我慢は限界に達しつつある。緩み始めそうになった水門に、恥も外聞もなく両手を足の付け根に押し当て、きつく握りしめてしまったのも一度や二度ではない。
(ぁ、あっあぁ……お、おしっこ、おしっこ……、だめ、でる、でちゃう、おしっこでちゃうぅ…ッ)
 トイレ。ずっと辿りつくことを禁じられてきた、焦がれ求める場所。いますぐあの小さな秘密の個室の奥で、白い便器にまたがって、ありったけのおしっこをぶちまけてしまいたい。足元めがけ激しく噴射する水流を思い描き、千佳の下腹部がきゅうんと疼く。
 ――そんな欲望を、無情にも遮る事実がある。
 給食当番。今週、千佳の3班はその担当だった。
 専用の給食衣に着替え、昼食の始まる前に給食を取りに行って、クラス全員分の配膳を済ませねばならないのだ。
 でも。いくらなんでももう無理だ。訳を話して、先にトイレに行かせてもらうつもりだった。
 この時までは。
「前原さん、おーそーいーっ!! みんなもう始めてるのよ!?」
 給食衣を着た委員長の早希が、腰に手を当て、目を吊り上げて叫ぶ。居残りテストを受け、ひとり遅れていた千佳に、班の他のメンバーも不満たらたら。ただ一人、亜里沙だけは先生も怒ってたしとフォローをしてくれたのだが、早希が語気荒く自業自得だと言い切ったため、千佳はそれ以上何も言うことができなかった。
「あなたひとりがぐずぐずしてるから、みんなが迷惑するんだからね! ちゃんと係としての責任持たなきゃ! ほら、早くして!!」
「な、なによ、そんな言い方……っ」
「なによ、なにか言いたいことでもあるの!? 自分のこともちゃんとできない人に言われたくないわね!!」
 トイレに行きたいです。おしっこ、我慢してるんです。気弱な自分が本音を吐きそうになる。それでも、挑発的な早希の視線に、千佳はむっとなって黙り込む。
(できるわ……できるにきまってるじゃない。こ、これ、終わったら、トイレ――行けるんだから、も、もう少しだけ我慢するくらいっ……へっちゃらなんだから……!!)
「ほら、急いで着替えて!! 支度してよ!!」
「わかってるわよっ!!」
 売り言葉に買い言葉。女の子のプライドを刺激され、千佳はつまらない意地を張って、またもトイレの機会を逸してしまう。
「……ふぁあっ!?」
 冷たい水で手を洗った瞬間、千佳はぶるっと背中を震わせ、またじわあっと下着に温かい染みを広げてしまった。



 ◆ ◆ ◆



「ぅ……ぁ……っ」
 落ち着かない足元、下腹部を庇いながら白い割烹着と帽子をかぶり、校舎の端にある配膳場で給食を受け取ってワゴンに乗せる。今日のメニューにはパンがあり、それはワゴンには載せきれず別に運ばねばならなかった。亜里沙と一緒にパンの担当になった千佳は、苦労しながら大きなトレイを運ぶ。
(あ……っ、あ、っ、く、ぅぅう……はぁ、ぁああっ……)
 脚の付け根で千佳の『おんなのこ』が激しく疼き、しきりに我慢の限界を訴える。少しでも油断して気を抜けば、このまましゃがみこんで、おしっこが出始めてしまいそうだ。
 大きな荷物を抱えながらでは、ふらつく足を制御できない。猛烈な尿意を訴える下腹部を庇おうにも手が塞がっており、前押さえすらかなわなかった。そもそも、みんなのごはんを運んでいる最中にそんなことできるはずがなかった。
「ねえ……千佳ちゃん」
 トレイを抱えて息も荒く身もだえする千佳を見かね、亜里沙がその隣に並んだ。周囲の視線を窺い、そっと千佳の耳元に囁いてくる。
「千佳ちゃん、トイレ……我慢してるよね?」
「っ………!!」
(気付かれちゃった……っ!?)
 クラスメイトに秘密を言い当てられ、千佳の身体が恐怖にすくむ。しかし、もはや異状に気づかれないほうがおかしいくらいに、千佳の様子は普段とは違っていた。
「無理しないで、おしっこ、いってきなよ。……漏らしちゃうよ?」
 案じるような亜里沙の声。けれど。
「だ、大丈夫よっ!!」
 本来なら、千載一遇の助け舟。けれど千佳は激しく虚勢を張ってしまう。じわあっと脚の付け根に広がる暖かい湿り気。隠しようもない『おチビリ』の事実が、少女のプライドを強く刺激していたのだ。
(へ、平気よ、ちゃんと我慢できる……!! 幼稚園の子じゃないんだし、お、おもらしなんか、オモラシなんかするわけないじゃないっ、……!! ちゃ、ちゃんと、我慢できるんだから……っ!!)
 無謀な、そして後先を考えない強情さ。なおも続けようとする亜里沙をさえぎって、千佳は無理やりに走り始めた。
 きゅんっ、きゅうううんっ、ひくひくっ……!
 無理やりに意地を張る千佳の、白い割烹着の下。千佳の下着に広がる黄色い島は、いまや大陸のように大きく、お尻のほうにまで広がっている。色を変えた股布に包まれたおしっこの出口が、濡れ空けた布地の奥で、じわじわと羞恥の雫を滲ませながら、ひくんっ、きゅううっんと激しく収縮を繰り返していた。



 ◆ ◆ ◆



 教室に戻り、千佳たち3班は並べた給食を配膳する。千佳の出遅れもあって、いつもより少し遅い昼食だ。いつも気にもならない列の乱れや、ご飯の量が少ないとごねる男子の挙動までが、千佳がトイレに行くのを邪魔しているかのように思えてならなかった。
(そんなのいいから、はやく、はやくしてぇえっ)
 配膳台の向こうで激しく足踏みをしながら、千佳は必死にトイレの誘惑耐えていた。はやく、はやく。焦る気持ちとは反対に、配膳は遅々として進まない。まるで、クラスメイト全員が示し合わせて意地悪をし、千佳にと大手を振ってトイレに行かせないようにしているのではないか――少なくとも千佳にはそう思えた。 上げ下げする腿の奥では、支えを失った股間がじゅっ、じゅぅっと恥ずかしい音を繰り返している。
「っ……」
 おチビりをしながら給食をよそうなんて、こんなにみっともない事があるのだろうか? 野菜スープをお椀に注ぐ度、千佳の下着にも新鮮な水分が供給されてゆく。
(だ、だい、じょう、ぶ……っ、に、決まってるじゃないっ、ちゃんと、最後まで終わらせてから、っ、トイレに行くんだから……っ、そ、それまで我慢するのなんて、簡単よ……っ!! いままで、ちゃんと我慢できたんだから、あと少しくらい、楽勝……なんだ、からあっ……!!)
 もはや意地だ。すでに白い給食衣の下、千佳の下着の状況はお世辞にも「きちんと我慢できた」といえるような有様ではなかったが――それでも千佳は強情に、給食係の使命を果たすことにこだわった。
 どうにか配膳が終わり、給食全てが皆にいきわたる。それでもなお――千佳はなおトイレに駆けだすことはできなかった。
 担任の周防先生の代わりに、お昼の様子を見に来た学年主任――厳しいと有名な三浦先生の存在が原因だった。いつもと違う厳しい雰囲気に、クラスの皆も俯きき気味。
 千佳たち3班も給食衣を脱いで、席に着かされる。
「では、給食を作ってくださったセンターの皆さん、野菜をいたいだ農家の皆さんに感謝して――いただきますをしましょう」
「「「「……いただきます」」」」
 委員長の号令と共に、皆がいっせいに唱和した。
「いいですね。お喋りはせず、お行儀よく。ゆっくり噛んで食べましょう。きちんと食べ終わるまでは席を立たないこと」
 声は静かでも、三浦先生の言葉には有無を言わせぬ迫力があった。学年でも乱暴者の3組男子グループも、三浦先生にだけは逆らえないらしい。
 実際、きちんと食べおわるまで席を立ってはならない。クラスにはそんな取り決めがあった。男子達がちゃんとご飯も食べないうちから外で遊び始めてしまい、先生が怒ってそんな決まりを作ったのだ。
 いつもとは違う雰囲気の中、それでも給食自体はさほど騒ぎも起きずに進んだ。遊びたい男子達は急いで給食を食べ、「ごちそうさま」をして外に飛び出してゆく。食器を片付け損ねた一人が三浦先生に指摘されて、あわてて戻ってきたくらいだ。



 ◆ ◆ ◆



 そんな中。
 千佳は、ろくにお箸も動かせないまま、机の上でじっと俯いていた。
 今日の献立は野菜たっぷりのスープにハンバーグ、パン、そして牛乳。
(こ、こんなの、もう、飲めないよぅ……っ)
 もはや我慢は限界に近い。こんな状態で、これ以上水分を採るなんてできる訳がなかった。飲んだ分がすぐにおしっこになるわけではないとわかっていても。
 パンを一口、ハンバーグの端っこを口に運んだが、ぎゅうぎゅうと脚を寄せ合い、懸命におしっこの出口を押さえながらでは、味なんてほとんどしなかった。
 乾いた口につばを飲み込み、千佳は給食に手を付けられず、もじもじとしきりに腰をよじる。いつしか教室からは人が消え、千佳と数名、嫌いなものを食べられず残している子たちばかりが残されていた
「――前原さん」
 教卓から、三浦先生の声が聞こえたのはその時だ。
「前原さん、好き嫌いは駄目よ」
「え、えっ、でも…わ、わたしっ」
「ちゃんと食べなくちゃ大きくなれないわよ? きちんと食べなさい」
 有無を言わせぬ迫力。千佳はそれに圧倒され、思わずお箸を取り落としかけてしまった。眉を潜める先生に、激しく椅子の上で身をよじり始めてしまう。机の下、スカートの上を押さえる掌はもうそこから離れない。
「あの、先生っ」
 隣で不安そうな顔をしていた亜里沙が、手を挙げた。
「千佳ちゃん、おトイレ我慢してるんです……!」
「っ、馬鹿……っ!!」
 亜里沙の行為は、この期に及んでなお意地を張り、強情に無謀な我慢を続ける千佳を案じてのことだったのだろう。しかし、周囲の状況も省みず、秘密にしていた尿意を公開されて、千佳の顔に一気に血が上る。
「先生、千佳ちゃん、もうずっと前からおしっこ我慢してて――」
「幸村さん、お行儀が悪いですよ。食事の途中です」
 やんわりと、しかし確実に亜里沙の言葉をさえぎり。席を立った三浦先生は、千佳の隣までやってくる。
「前原さん、本当なの? どうしてお食事の前に済ませておかなかったんですか?」
「…………………」
 千佳は答えない。答えられるわけがなかった。けれど、一時も収まらない身じろぎが、その場の皆に明らかな「YES」を伝えていた。
「わかりました」
 三浦先生は大きく息を吐いて、けれど、明らかな赦免の気配の中で、とんでもないことを言ってきた。
「はやくお食事を済ませて、行ってきなさい」
「え………っ」
 今の流れは。『早くトイレに行ってきなさい』というものではなかったか。腰を浮かしかけていた千佳は、縋るように先生を見上げる。しかし、相変わらずの厳しい顔つきで、三浦先生は厳かに言い渡した。
「前原さん。あなたはこの学校の生徒として、下級生たちの規範とならなければいけません。授業のことだけではありませんよ。毎日の生活も、学校で学ぶべき立派な勉強です。しておくべきことをしないのは、良くないことです。それを心に刻みなさい。
 ……きちんとお食事を済ませてから、はやくお手洗いにいきなさい。後片付けはしなくても結構です。……いいですね」
 ざわり。教室内がざわめきに包まれる。給食当番に遅れたことも。黙っていたことは、悪いことなのだと。これまで我慢できたのだから、それくらい簡単だろうと。そう言わんばかり。
(そ、そんな……っ)
 そうだけど、そうじゃないのに。千佳の反論は、しかしもう声にはならない。
「この給食もそう。農家の人たちに毎日、一生懸命お世話をしたお野菜に、それを料理してくださったセンターの方たちがいます。そのことに感謝をして、全部きちんとおいしく食べなければいけません。……皆さんも一緒です。残してはいけませんよ。いいですね」
 有無を言わせず。教室を見回す三浦先生に、クラスに残った皆が身を縮こまらせる。周防先生とは全然違う。
 かくして。先生に迫られるまま、千佳は猛烈な尿意を我慢しながら、ぱんぱんに膨らんだおなかに、無理やり野菜スープと牛乳を飲まされることになってしまった。
 もうこれ以上、一滴だって身体の中に水分を入れたくないのに――涙を浮かべながら、必死になってスープを口に運び、牛乳のストローを啜る。一口ごとにおなかにずしんと重さが加わるようで、千佳はそのたびに悲鳴を上げそうになる。
 それでも――
(これ、これさえ飲めばっ、お、おトイレに、行けるっ……、おしっこできる……っ)
 それだけを心の支えに、必死になって千佳は食事を終えた。



 ◆ ◆ ◆



 三浦先生の厳しい環視の中、どうにか全てを飲み終わり、千佳はふらふらと教室を出た。教室では静かなざわめきが続いていたが、もう、そんなことに構っている状態ではなかった。くねくね、もじもじ、まっすぐ歩けない下半身を引きずって、懸命にトイレへと急ぐ。
 おしっこでぱんぱんに膨れた下腹部に加えて、無理に飲み切った水分で、胃までたぽんたぽんと震えている。まるで二連の給水タンク。
(とっ、トイレっ、おトイレぇ……っ!!)
 閉ざされたドアの奥、小さな小さな秘密の個室。焦がれ求めた『おしっこをするための場所』。昼休みは長い。たとえどれだけトイレが混んでいたって、順番が回って来ないことなんてありえなかった。
 もっとも、もしも仮にまた、3時間目前の休み時間の時のように、女子トイレに長蛇の列ができていた場合、その光景にもはや千佳の心は耐えきれず、折れてしまっただろうことは想像に難くない。その上でなお千佳が自分の順番まで我慢できていたかは、とても怪しい。
 とはいえ。
 この時、千佳の視界に見えてきた女子トイレには人の気配もまばらで、順番待ちなどせずにほぼフリーパスで個室まで駆け込めるような状態にあった。
(おしっこ、おしっこできる……っこれでやっと、おしっこ……っ♪)
 女子トイレの奥の奥、閉ざされた個室の中に鎮座する白い便器を思い描き、千佳は待望の喜びに心躍らせる。遠距離恋愛の恋人同士が出会いを待つのにも似た、至福の心境。いまなら、白い便器と結婚したっていいとさえ思えた。
 個室の前に立ち、千佳は気も早くトイレの準備を始めてしまう下半身を懸命になだめる。ドアが開いたら飛び込んで、スカートをたくし上げ下着を下ろし、便器をまたいで腰を下ろし、思い切りおしっこを噴射させる。我慢に我慢を重ねた熱水を、ありったけ地面に噴出させるのだ。
 ――その瞬間を思い描き、何度もシミュレートした解放の瞬間を心待ちにする。
 じゃごぉおお……
 後始末に水を流す音が響き、千佳がスタートの号砲を待つ短距離走の選手ばりに、飛び出さんばかりにしていたまさにその時。

 けたたましいサイレンが校舎に鳴り響く。

 構内の火災警報器が一斉に放つ赤い輝きは、火事の発生を知らせるものだった。
 一気に校舎の中がざわつき始める。たったいま空いた個室からでてきた生徒と鉢合わせ、すでに足踏みの中スカートの中に手を突っ込んで、下着に手をかけていたまさにそのタイミングで、千佳も一瞬静止した。
 同時に、校内放送が避難の案内を告げる。直後、先生の一人が声を上げてトイレに駆け込んできた。
「みんな! 火事よ、早く外に出て!! 早く! 早くして!! あなたも早く!! 逃げるの!! 逃げるのよぉっ!!」
「っえ、あ、やだっ、待って、待ってっ、わ、私まだっ……!!」
(まだなのに、おしっこ、まだ、してないのに!!)
 必死になって抵抗するが、生徒の千佳と大人の先生では勝負になるはずもない。ヒステリックに叫ぶ先生に、ほとんど追い出されるような格好で、千佳はトイレから追い出されてしまった。
 目の前、ほんのわずか50センチまで迫っていたトイレまでの距離は、見る間に絶望的なほどに遠ざかる。あんなにも苦労して、苦しいのを我慢して、スープと牛乳と、全部を飲み干したのに。千佳の視界が暗くなる。
「あ、ぁ。あ……ッ」
 じゅわああ、じゅうううっ。きつく抑え込んだスカートの下、くぐもった水音が断続的に続き、絶望の予兆がさらに大きく、千佳の下着に広がってゆく……。



 (続)
[ 2015/08/03 00:35 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

満員電車(略)の話。 

 しーむす11で頒布した「事故で停車した満員電車の中でオシッコが我慢できなくなってしまった女の子とその友人の話」の再録です。




 ▼

 藤倉葉子。眉目秀麗、容姿端麗。才色兼備。そんな四字熟語が並ぶ私の親友。
 葉子なんて古風な名前の通り、イマドキ珍しいくらいの良いトコのお嬢様。別段、郊外に大きなお屋敷を構えているとか財閥のご令嬢であるとかそんなマンガみたいなことはないのだけど、お家は古くから続いているところだそうだ。
 葉子のご両親は窮屈な家のしがらみなんかにとらわれないようにと自由にさせてくれているということなんだけど、お箸の上げ下ろしとか、笑う時の仕草とか、授業中に当てられたときにすっと立ち上がる時の姿勢の綺麗さとか。そういうのは真似しようとしてもできない育ちの良さを感じるのである。
 本人も嫌がるから、あまり言わないようにはしているけれど。かくいう私のようにガサツな女子とは雲泥の差。幼稚園のころから砂場で男子と取っ組み合いの喧嘩をし、学校に上がっても運動部で朝から晩まで練習となれば、そりゃ諦めてはいたけれど、内心こっそり女の子らしい姿にだって憧れもあろうというもので。
 クラスが一緒だったという程度のきっかけだったけど、いまは無二の親友である。休日に友達同士でお出かけをするとか、学校帰りにちょっと寄り道して買い食いをするとか、そんなのに憧れていたのだそうで。
 進学した先にちょうどいい部活がなかったというのもあって、いまは帰宅部まっしぐら。長年男子と間違われそうな短さだった髪も伸ばし始めてみたり。……まあ、伸ばしたら伸ばしたでライオンのたてがみみたいにみっともないばっかりで、思うようにならないもんだなあと思ったりもしたけど。
 それでも、お休みには駅で待ち合わせて新都の駅までウインドウショッピングなんて毎日が、私はとてもお気に入りなのである。
「……あー。参った、ちょっと遅刻だ」
 バスが遅れたのは言い訳にもならない。待ち合わせの時間を過ぎた駅前の時計を見上げ、足を速める。全力疾走なんて数か月ぶり。部活レギュラーを勝ち取った足もすっかり錆びついてしまったらしい。
 葉子のことだ。待ち合わせに遅れるなんてことはまずないように行動しているはずだ。ことによったら何十分も待たせてしまっているかもしれない。お昼過ぎの集合だからおなかをすかせてるってことはないと思うけど――
 飲みかけのスポーツドリンクをカバンの中に放り込み、階段を駆け上がり、約束の駅前の噴水へ。
 予想通り、そこにはすでに葉子の姿があった。遠目にもわかる長い絹みたいな黒髪と、すらりとした背筋。同性の自分が言うのもなんだけど、とても清楚で美人だ。うちのガッコにだって可愛い子はたくさんいるけど、美人で綺麗な子となるとそう多くはない。まして、女子たちの間からも認められているとなれば、なおさらだ。
 当然ながら人目を引いてもおかしくないのだけど――
「ありゃ」
 葉子の周りには、あまり柄のよろしくない感じの男どもが数名。困惑した様子の葉子を取り巻くようにして、なにやらしきりに話しかけている。葉子もそれを断ろうとしているのだが、連中がしつこいらしくなかなか引き下がらない。
「まったく……」
 大きくため息をついて、私は葉子と男どもの間に割って入った。 
「はいはい、邪魔邪魔」
「あ、ヒロ」
「んぁ、なんだオイ、お前、何よ」
「その子は私と約束があるの。邪魔しないでくれる? いこ、葉子」
 こういうのは有無を言わせずやるのがコツだ。葉子の手を掴んで引き寄せる。
「オイ、おめー、なんだよ、おら」
「聞こえなかった? 私たちこれから約束があるの。じゃね」
 追いすがる連中を一蹴し、そのまま葉子の手を引っ張って大股で歩きだす。オウだのヨウだの言い続けてるのは無視して、そのまま一気に改札へ。
 ホームへと降る階段の前で、さりげなく背後を確認。追いかけてくる様子はないことをチェックし、そっと息を吐く。ああいう連中は部活やってた頃になんとなく付き合いはあったけど、こうしてその辺から距離が開くと、今更ながらに緊張していた。じっとりと汗をかいた手のひらをひらひらと降る。
「葉子、へいき?」
「う。うん。ありがとう。……ちょっと、困っちゃってて」
「気を付けなよ。葉子は美人さんなんだから、ずっと一人で待ってりゃ目につくって」
「そ、そんなこと……っ」
 とは言え、待ち合わせに遅れてしまった私だってその責任の一端はある。そこについてはしっかり謝った。
 まあしかし、葉子だってこう見えて押しに弱いわけじゃない。薙刀とかも習ってるらしいし、普段はあれくらいの連中、もっと毅然と追い払うくらいできるような気もするんだけど……
「っと、電車来ちゃうわね」
 ホームに快速が到着する旨のアナウンス。最寄りの駅から新都までを結ぶこの私鉄は、やたらに駅が多く、急行を逃すと三十分で済むところが倍近くかかってしまう。
「いこ、葉子」
「え……あっ」
 引いた手がぎゅっと握りしめられ、私は階段の前でつんのめりかけた。何事かと思って葉子を見れば、彼女はちらりと改札の向こうに視線を送る。
「……どうしたの? 電車、乗り遅れちゃうよ」
「え、っと……その」
「さっきの連中? 大丈夫大丈夫。追いかけてこないわよ。なんなら帰りはJRからバスでもいいんだし」
 待ち伏せなんてされてるとも思わないけど、葉子にフォローを入れる。それでもなお葉子は動こうとしないことに、少しばかり私が違和感を覚えたとき――電車が発着を知らせるベルが鳴り、階段を乗降客がせわしなく上り始める。
「あ、まずい! 待って待って、乗りまーすっ」
「ひ、ヒロっ」
 私は葉子の手を引いて、そのまま快速の待つホームへとダッシュしていた。


 ◆ ◆ ◆


 飛び乗った快速は、やけに混雑していた。新都までの近道である快速は普段から利用者が多いけれど、休日の午後というよりは通勤ラッシュに近い人口密度である。どうやらさっきまで踏切故障があったらしく、そのせいでダイヤが大幅に乱れているということだった。振り替え輸送もが行われているようで、一気にホームに乗客が殺到しているらしい。
「わ……っ、ちょ、っちょっとっ」
「っ……」
 こちとら自転車通学の毎日だ。ラッシュなんてほとんど未体験の混雑の中、人並みに押し込まれながら一気に車両の奥へと押し込まれてゆく。
 乗り換えの接続もあってぎゅうぎゅうと乗り込んでくる後続の乗客たちに背中を押し込まれながら、私たちはドアからも奥まった地点に押し込められてしまった。
「んぎゅっ……!?」
「っ……!!」
 ドアの奥に立った葉子のすぐ前に到着し、どうにか足場を確保したと思った瞬間、背中を思い切り押されて思わずつんのめる。顔をこわばらせた葉子がいた。葉子の身体を押しつぶすように押し寄せてくる人の圧力に必死に対抗し、倒れそうになる体を支えるため、片手は手すり、もう片手はカバンを握って壁に押し当てられていた。
 もがいて姿勢を保とうとするが、なおぐいぐい後ろから押し込まれる圧力はまったく弱まる様子がない。
 葉子がびくと背中を震わせ、身を強張らせるのがわかった。
「よ、葉子、へいき?」
「う……うん」
 むぎゅっと押し付けられる身体を、壁に手をついてどうにか押し返す。
 私は壁を背にしてなんとかささやかな自由を手に入れていたものの、葉子の両手は人ごみと大混雑の中、まったく自由の利かない状態になっていた。
 葉子が薄く顔を青ざめさせる。
「大丈夫?」
「次の駅までいけば、空くと思うから……」
 言いながら、葉子はもどかしそうに足踏みをする。足元に置かれた他の人の荷物のせいで前につんのめった体勢を、なんとか手で支えている状態なのだ。
 せめて変わってあげられれば――そう思うが、なんともならない。発車ベルは鳴り響いていたが、ほかの車両でもこんな感じで入り口に人が殺到しているらしく。ドアがなかなか閉まらない。
「無理な乗車はなさらないでください」「後続の各駅停車をご利用ください」「お荷物、お体を強く引いてください」
 途中まで閉じては開きなおし、また閉じては閉まらずアナウンス。そんなことを十回近く繰り返して、いい加減社内の雰囲気がいい感じに苛立ち始めたところで、ようやく快速はホームを出発したのだった。


 ◆ ◆ ◆


 しかし、考えが甘かったことに気づかされるのにはそうかからなかった。まだ復旧して間が開かないためか、あるいは普段の倍以上の乗客を詰め込んだためか、急行の速度は普段の比ではないくらいにのろのろとしている。もどかしいくらいの速度で通過駅のホームを抜け、時折減速しては信号待ちで停車してしまう。先行している各駅停車が線路に詰まっており、思うように進めていないのだ。
 普段なら5分程度で着く隣の停車駅までは、たっぷり10分以上の時間を要した。無論、その間も車内はぎゅうぎゅうのすし詰めである。同じ姿勢を保つのに足首が悲鳴を上げ、痺れにつま先が痛くなる。私はまだ身動きができるからいいけれど、葉子は完全に姿勢が固定されてしまっており、だいぶ辛そうに見えた。
 そうやって辿りついた次の駅でも、ホームには電車遅延で待たされた乗客が詰めかけており、ほとんど降りる人がいないのにさらに乗車率は増大した。私たちの周辺でも降りるお客さんは一人もおらず、むしろそこにさらに外から乗客が押し込んでくる始末。
 とにかく乗り込んでしまおうとぐいぐい中に押し込んでくる人たちがいるせいで、私たちはますます電車の奥の奥に押し込められてしまう。
「んぎゅ……こりゃ、新都まで降りれないなあ」
 どうせ大きな乗り換えのある駅だ、到着さえすれば空くだろうけど、そこまではずっとこの混雑と付き合わねばならないらしい。乗客数の多さに車内は蒸し暑く、天井で動いているファンの送り出す風も生温い。
 じっとりと背中に汗が浮かぶのを感じながら、少しでも気を紛らわせようと、葉子に様々な話を振る。明後日の学校の話。もうすぐはじまる中間試験、そのあとの修学旅行の話。ちょっと早いけど夏休みの予定。
 どこか切羽詰まった面持ちの葉子の緊張を解せればとおもっていたのだけど、肝心の葉子の返事はひどく上の空で、ええ、うん、と小さない相槌を返すばかり。
「ねえ、葉子、だいじょうぶ? ……場所、変わろうか?」
「…………」
 問いかけるも、葉子は顔を赤らめて俯き、無言でふるふると首を横に振るばかり。
 ひょっとして、何か怒らせるようなことをしてしまっただろうかと疑ってみたが、さっきの待ち合わせの遅刻を除けば、いまいち心当たりがなかった。
 発車ベルが鳴り始めると、葉子ははっと顔を上げた。動かせない背中はそのまま、首をひねって視線だけをちらちらと、ホームのほうへと送る。やっぱり辛いのだろうか。
「どうする? 降りる?」
「……う、ううん。へいき……、だよ。新都まで……だいじょうぶだから」
 葉子がそういうものだから、それでいいのかと一瞬納得しかけるが――堪えるように、とぎれとぎれに熱い息をこぼす葉子の様子は、やっぱりちょっと普通ではなかった。
 るるるる、と発車ベルの音を響かせながら、何度も何度も試行錯誤してようやくドアが閉まる。そのあともなおずぐずぐずとアナウンスを繰り返し、がこんがこんとドアを揺らして、ようやく発射準備を終えた急行はよたよたとホームを滑り出した
「たぶん、前の各停もこんな感じだから、遅れてるのね」
「そう……だね。まだ、かかりそう、かな」
「1時間くらいはかかっちゃうかもねー。あーあ、時間余ったら映画でも行こうって思ってたんだけど、お店見て回るだけになっちゃうかな。……あ、それとも新しくできたカフェって言ってみる? 水出しのアイス珈琲がおいしいって聞いたんだけど」
「んっ……そ、そう、ね。いい……かも」
 ゆっくり進みはじめる電車がホームを抜け、がたんがこんとのろのろ運転で踏切を横断していく。こっちも長く遮断機が下りているようで、道路のほうも渋滞が起き、歩行者に自転車を抱えた人たちが不満げに通れるのを待ちわびていた。
「本当、事故とか勘弁してほしいよね……いつ着くかわかんないのが一番困るよ」
「……う、ん……っ」
 上の空の返事。さすがにこのあたりで私もいい加減、葉子の様子がおかしいのには気づいていた。
「ねえ、葉子、本当に平気? さっきからなんか、様子が――」
 いいかけたその時。急に車内の照明が明滅し、列車ががくんと揺れる。
 ぎぃいいいいいいい! 急ブレーキーと共に車体が揺れ、がっくんと傾くようにして停車した。慣性の法則が混み合ったままの車内をぎゅうっと圧迫し、私たちは満員の乗客にむぎゅっと押しつぶされる。
「ひぅ………ッ」
 葉子の、ひきつるような悲鳴が耳元で聞こえる。車内にざわめきが満ちる中、停車した電車に明かりが戻り、車内アナウンスが放送される。
『ただいま、付近の踏切に車が立ち入っており、緊急停止ボタンが押されました。状況を確認しているため、しばらく停車いたします。お急ぎのところ誠に申し訳ありませんが――』
「……なに? また事故……?」
 ぼやいて、私は葉子と密着した体を動かし、押しつぶされた乗客の中でもがく。と、
「っふあ……ッ!?」
 耳元で、切羽詰まったような声。何事かと顔をあげ、私はそのまま言葉を失っていた。
 葉子の顔は血の気が失せ、真っ青に青褪めている。もともと彼女の白い肌はとてもきれいだけれど、これは明らかに普通じゃない。
「ちょ、ちょっと、ホントに平気? 具合悪いの?」
 小さくかぶりを振る葉子。けれどその形のいい唇はきつく噛みしめられ、シャツから覗く首筋には汗がすごい。それなのに、袖から見える腕には鳥肌が浮いていた。
 いままで真面目に注意を払っていなかったことを、今更ながらに後悔した。何が親友だ、こんなことに気づけていないなんで。
「葉子、無理しないで。顔真っ青だよ……次の駅で降りよう」
「っ……」
 ふるふると首が左右に振られる。まったく、強情な奴め。
「電車? すぐに動くって。大丈夫大丈夫。私のことなんか気にしないでいいから。調子悪いんでしょ? ごめんね無理させちゃって。だから、そんなんで我慢しなくてもいいんだってば……」
 まったくこの混雑だ。私だって快適とは言えないのに、混雑の真ん中に押し込まれた葉子にはさすがに国だった。気分が悪くなっても仕方ないかもしれない。こうなる前に位置を代わっておけばよかったのだけど、後の祭りだ。
「無理しちゃだめだよ。途中で降りたっていいし、休むならどの駅だってできるもの。あと少しで……」
「ち……ちがうの……」
 それでも。葉子は堅固に首を振った。ちがうの、ちがうの、と、俯いた顔の、さらりと流れ落ちる長い髪の間から、真っ赤に染まった耳の先端が覗いている。
「……ぉ……、っ」
 掠れるような葉子の声は、最初、言葉になって私の耳には聞こえなかった。だから、思わず耳を澄ませ、首を傾けてしまう。
「……ぉ……ぃ、……の」
 そうして顔を近づけた先、葉子は爆発してしまいそうに真っ赤になった顔を俯かせ、顔全体から蒸気を噴き出させんばかりに俯いて。

「……お手洗いに、行きたいの……っ!!」

 湯だったみたいに真っ赤な顔で、小さな唇を震わせて。
 切実で、切羽詰まった、女の子の危機を私に告げた。


 ◆ ◆ ◆


「ちょ……え? マジ?」
 訊ねる私に、ぷるぷると顎を震わせて、葉子はこくん、とちいさくうなづいた。
「……も……がまん……できないよぉ……」
「ちょ、ちょちょちょ、待っ!? そんな急にっ……」
 思わず身じろぎした私のほうを、近くの人たちが一斉に振り向く。吊革の上に細くたたんだ新聞を読んでいた(曲芸みたいなポーズで、執念を感じた)おじさんにじろっと睨まれ、私はあわてて口をふさぐ。
 がたん、がたん。ゆっくり進むレールの音を聞きながら、そっと声を潜めて葉子に訊ねる。
「え、い、いつから……?!」
「…………っと……。ずっと、前、から……っ」
 聞いて唖然とした。
 なんでも。葉子は私との約束に待ち合わせる、そのはるか前から、ずっとずっとトイレを我慢していたらしい。家を出る前にもトイレに入ることができず、途中でどこかに寄り道すればいいものを、待ち合わせを優先するためにそれらも諦めてきたらしい。
 約束の時間の30分も前に来ていながら、私が来た時にいないと困ると思って、律儀に噴水の前を離れないようにしていたのだという。
 思い返してみれば、ナンパ男たちに絡まれていた時も、葉子の言動は妙に歯切れがよくなかった。あれも、ずっとトイレに行きそびれていたせいで、それどころじゃなかったからなのだ。
 ようやくそれに思い至り、私は今更のように目の前の靄が晴れたようだった。
「その、じゃあ……朝から、ずっと?」
「…………っ」
 こくん。顎の先が震えるのとほとんど変わらないくらいの、小さな小さな肯定の頷き。
 あまりにも衝撃的な告白だった。いろいろ不都合と妙な間の悪さが重なってしまったためか、葉子は朝から一度もトイレに行けていないらしい。信じられない話である。私なんか、朝寝坊してからもう3回……いや、途中のコンビニへの寄り道も入れれば、4回もトイレを済ませているのに。
「ヒロと……っ、会ったら、行けばいいやって、おもってた、から……っ」
「そんな……気にしなくてよかったのに……!」
「だって……、時間の前にいなかったりしたら、嫌、かなって……」
「…………」
 さすがに呆れた。いくらなんでも真面目すぎる。呆然となる私に、葉子は慌てたように首を振って、違うの、と付け加える。
「それに、その……一度は、もう、どうしようもなくなって……先に、その、っ、お手洗いに……行こうって思ったら」
「あー……あの連中……」
 まるで見透かしたみたいなタイミングで、あのガラの悪い連中に絡まれたということだろう。いや、どこまで気づいてたかわからないけど、ああいう手合いは不安だったり余裕のない感じの女の子を見つけるのが上手いものだ。葉子の内心を見抜かれていた可能性もあるかもしれない。
 トイレに行きたいから邪魔しないで、というのは女子の断りの必殺技の一つだが、どう控えめに見ても男子に免疫のない箱入りお嬢様の葉子にとって、男の前でトイレに行きたいなんて言い出すことはできなかったんだろう。
 あれは恥ずかしい姿なんて絶対に見せていい場面ではなかっただろうし。
 私が着いた時点で、もうずいぶんあいつらは葉子に絡んでいた様子だった。それでなお断り切れないってことは葉子もよっぽど辛かったに違いない。
 電車に乗ったのは2時少し前くらいだが、のろのろ運転とホームでの大混雑の乗り換えのせいで今はもう二時半を回ろうとしている。
 待ち合わせの時間も考えると、私との約束をほっぽり出して(別にそんなのどうでもよかったんだけど)今すぐにトイレに駆け込みたいような状態に陥ってから、葉子はもう1時間以上も限界の我慢を続けていることになる。
 それでようやく今になって音を上げるとか――いったい葉子のおなかのダムはどうなってるんだろうと言いたくなった。
 片方の手は荷物ごと拘束され、もう一方の手は押し寄せる人波に耐えるため手すりを掴んでいる。
 とは言え満員電車の中、ぎゅうぎゅうとすし詰めに押し込まれている状況では満足に足踏みもできないだろう。腰を浮かせるようにして、葉子は懸命に腰をくねらせていた。
 体勢的に、ちょうど友人の痴態をまじまじと見つめる格好だ。なんとも微妙な気分で視線をそらそうとする私を見て、涙声で葉子が声を絞り出す。
「どうしよう……っ」
「どうしようたって……」
 こっちが聞きたい。この車両には少なくともトイレはない。電車をくまなく探せばあるのかもしれないが、普段あまり意識したこともないため確証はなかった。いずれにせと、この満員すし詰め状態をかき分けてほかの車両に移動するのは無茶だろう。大声をあげて通してもらう――にしても、うまくいくとは限らない。
 ちらりと向けた視線の先、涙目になりながら訴える葉子。さっきまでの青白い顔は一気に紅潮し、耳は先まで赤い。同性で友達の私に告白しただけでこんな有様だ。社内全体に聞こえる声で、「すいません、トイレです! 友達がおしっこ漏れちゃいそうなんで!通してください!」なんて言えるわけがない。
 そもそも、仮にトイレがあったとして、そこまでたどり着いたとして、この混雑で都合よく空いているだろうか?
「……ヒロ……ぉっ……」
「ああもう……っ」
 唇を震わせる葉子は、もう5分も持ちそうにないくらいに切羽詰まっていた。はっきりといつからとは分からないけど、限界になってからもう1時間以上も我慢し続けているわけで、そりゃ頼りたくなるのだって分からなくもない。
 代わってあげられるものなら代わってやりたいが、こればっかりはどうしようもない。声にするわけにもいかず、心の中で葉子を応援する。
 しかし。
 白い首筋に汗をうっすらと浮かべ、うつむいて頬を染め、長いまつげの目を伏せてきつく唇を噛み、
(ん、ぅっ……!)
(……ふぁ……ぅっ!)
 そんな声ばかり上げて、息をつめる葉子の姿は、間近で見るとなんだかイケナイものを見ているようでわけもなくドキドキしてしまう。もう本当に限界間近なようだ。そりゃそうだろう、あの葉子が形振り構わず私におしっこを告白してくるくらいだ。もう本当のぎりぎりまで一人で我慢し続け、どうしようもなくなって私に言ってきたのだろう。
「いま、何時くらいなんだろ……」
 電車が停まってもう随分経つような気がする。時計を確認しようにも自由にならず、見慣れない窓の外をじっと眺めて、早く電車が動き、駅のホームまで到着するのを待つしかない。それまで葉子の我慢はもつのだろうか? 冷静に考えて、激しく怪しいと言わざるをえない。一刻も早く電車が復旧して、次の駅まで動いてくれるのを待つしかなかった。
 が、最初のアナウンスから新しい情報はない。ぎゅうぎゅう詰めの車内に、乗客たちの苛立ちがすこしずつ、しかし確実に折り重なっていく。
「ね、ねえ、ヒロ………っ」
「だ、だから頼まれてもどうしようも……」
「ち、違うのっ……!!」
 もじもじと腰をゆすり――たぶん、それでも精一杯、外に見せないように耐えているんだろう――耳まで真っ赤になりながら、葉子はとんでもないことを頼んできた。
「もぅ、ホントに……駄目……だ、だから、お願い……、お、押さえて……っ」
「は?」
「お、おねがい……ぎゅって、して……っ」
 そんな顔でそんなこと言われちゃったら、おそらく世の男どもの9割は勘違いするに違いあるまい。
 だが違う。そういう意味じゃない。ある意味もっときわどくて怪しいことを、この友人は私に頼んできたのである。
 つまり。私に――両手の自由にならない自分の代わりに、丁度具合よく手の空いている私に、代わりに、あそこの前押さえをしてくれ、と言っているのだ。
「い、いいの?」
「いいから、はやく……!!」
 間抜けにもそんな確認をしてしまった(後で考えれば、もっと嫌がるとか困るとか、仮にも少女としてまともな対応があったようにも思う)私だが、葉子は普段の控え目でおしとやかな物腰とは似ても似つかない、切羽詰まった鬼気迫る迫力で言ってくる。それでもなお、可愛らしさがまったく損なわれてないというのはまさに驚嘆というほかない。
 そう。さっきの告白時点で、我慢の状態はもはやぎりぎり。葉子の女の子のダムは、決壊のカウントダウンを始めている緊急事態であるのだ。このまま、その、万一のことがあれば被害をこうむるのは、ほぼ密着状態で押し込まれている私も一緒なのだ。
 ええいままよとばかり、私は覚悟を決めて葉子の脚の方へと手を伸ばした。
 綺麗なフリルとプリーツのついたスカートの上から、適当に見当をつけて手のひらを添える。
 できるだけ刺激を与えないよう、優しくしたつもりだが、葉子はとたんに肩を震わせ小さく声を上げた。
「っ、くぅ……ッ……」
 きれいな形の眉がきゅうっと寄せあわされる。
「っ………ぁ……っ」
 ぶるる、とあごを反らし、背中を震わせる葉子に、私の背筋にも緊張が走る。
「ちょ、ちょっと……?」
「、っ、ち、ちがう、も、もう、ちょっと、上……っ」
「こ、こう?」
「んっ。……っ…ッ」
 言われるまま、私は位置を微調整する。自分がトイレを我慢している時のことを考えて、どこをさすり、どこを押さえれば少しでも楽なるか。それを考えて。慎重に、ゆっくりと。けれど大胆に。
「ち、ちがうの、そこ、押されるとダメ……っ!! ……もっと、下、足のほう、きつく、おさえて……ッ!!」
「わ、わかった……」
 自分を基準に考えてはいたものの、どうもそれでは多少外れていたらしい。女の子の大事なポイントというのは、人によってミリ単位で違う、繊細で敏感なものなのだ。葉子に言われるまま、指を這わせ、そっと手を動かす。
「んっ、ご、ごめん、そっちじゃ、駄目……!!」
「あ、う、うん……」
 スカート越しにも、はっきりとわかるくらいに、葉子の下腹部には猛烈な力が篭められていた。みなぎるくらいに羞恥が詰め込まれた、まるでタイヤでも触ったみたいな硬い手ごたえ。はちきれんばかりにぱんぱんに中身が詰まっていることははっきりわかる。
 葉子さんの「おんなのこ」もよくもまあこんなに耐え続けたものだ。
「はぁ……っ」
 どうにか、丁度いい「前押さえポイント」が見つかったか。葉子が小さく息を吐きながら、ぐりぐりと股間を押し付けてくる。私の手はぎゅっと葉子の太腿の間に挟み込まれ、押し包むように摺り合わされた。熱く篭った熱気がスカートの根本をしっとりと湿らせる。不安定な姿勢でそうなったものだから、つま先立ちになった彼女の体重もぐっとこちらに預けられ、私はあわてて倒れないようにそれを支えこむ。
「っは……くぅ……っ」
 耳元で倒れこむようになった葉子の吐息が、艶めかしく響く。
(すごい……こんなに? どれだけ我慢してんのよ……)
 これ、もし私が男だったら、一発で痴漢犯罪検挙の状態じゃないだろうか。……いや、女の子同士でもちょっと言い訳の聞かない格好してる気がするけど。
「っはああ……ぁ……っ」
 ぎゅうぎゅう、もじもじ、くねくね。目の前で熱っぽく繰り返される友人の吐息。おしっこ我慢の様子を、ゼロ距離の特等席で見せつけられ、私も思わず足をそっと擦り合わせてしまう。
 葉子は全体重をあずけるようにして、股間に挟み込んだ私の手を足の付け根に抑え込んでいた。そうしていないと、もうおそらくダムの『水門』をせき止めていられないのだろう。
 つまり、これ。
 私が……ちょっと気まぐれをして手を離してしまえば、葉子はそのまま――限界を迎えてしまうのだ。
 そう考えると、ぞくぞくと背中を這い上がる、嗜虐心のようなものがあった。
「……っ、いかんいかん」
 思わず首を振る。才色兼備で知られ、校内でも下級生憧れの的である友人が、こうして身を縮こませ、切なげに腰をモジつかせて震える様には、背徳的なものがみえないでもないけれど。もし、ここで葉子が限界を迎えれば、そのまま噴き出したホットレモンティは、密着する私めがけてスプラッシュである。このせっぱつまった状況において、興味本位でやっていいことではない。
「ぁ。あっ、あ……ッ」
 葉子が目を伏せ、ぷるぷると首を震わせた。
 かあっと、そのうなじが朱に染まる。
「ぁ……ッ……」
 ぐうっと抑えこんだ手のひらに、ほんのわずか、熱い湿り気が増えたように感じた。『それ』が何を意味するのかを悟り、思わず手を引きかけるが、途端に切なそうに足をぎゅっと閉じてそれを停めようとする葉子。反射的な行動だったようで、ごめんっと言って震える足を放そうとするが、いま葉子の支えになるのは私の手だけで、これがなくなったらもう葉子は一人じゃ耐えられないはずなのだ。
 ああもう。そんな顔されたら、無視できないじゃないか。
 ぷしゅ、しゅっ、しゅ。ほんの少しずつ、レモネードの瓶の底で炭酸がはじけるような音。スカートの布地の奥で、わずかな湿り気が、ゆっくり、ゆっくりひろがっていく。熱のこもった下着の奥で、葉子の『おんなのこ』がひくっ、ひくっと細かく震えていた。
 あれだけおなかを固く張りつめさせ、パンパンにさせているんだ。どれだけ辛いか。
(……がんばれ、がんばれっ)
 声には出せない。けれどせめて。友人の立たされた苦境に、少しでも力になろうと。私は葉子を心の中で応援する。


 ◆ ◆ ◆


 10分ほど、過ぎたろうか。
 何度となく唇を引き結び、息をつめ、肩を上下させは吐息を殺し。
 耐えに耐え続けた葉子が、私の耳元で、ポツリ、とささやいた。

 ごめん。でちゃう。

 限界を告げるその声を、私は自然と受け入れていた。そうだろう。葉子はもうとっくに限界だった。普通の女の子だったら、最初の電車が止まった瞬間に音を上げていたに違いない。いや、そもそも私に会う前まで我慢して約束待ち合わせなんてできていたかどうか。
 何よりも慎み深く、がまん強い葉子だからこそ、ここまでなんとか、限界を先延ばしにしてきたのだ。
 だから。友人が尿意の限界を訴え、がまんできないことを知らせてきたのは、もう仕方のないことだった。「わかった。……だいじょうぶだよ」
 このまま、あるがまま結果を受け入れよう。どんなにひどいことになっても、絶対に葉子のことを見捨てない。そう決意を込めて。私は友人に微笑みかける。
 けれど。
「ヒロ……っ、か、カバンっ……」
 葉子が要求してきたのは、そうではなかった。
 言われるままカバンを探れば、中身は小さなプラカップとセットになった空っぽのペットボトルが見つかる。最近、健康にいいと有名な特保の健康茶である。
 ……その筋では、飲むとおしっこが近くなってひどい目に合うということで、評判の逸品だ。私も話のタネに、昼休みに一番小さなボトルを試し飲みして、午後の授業は休み時間のたびにトイレに駆け込む羽目になった。6時間目の英語の授業では。小テスト中についに耐えかねて、先生、トイレ行ってきていいですか! と幼稚園みたいな宣言をしてしまったほどだ。
 こんなものを500mlボトル1本も飲んでしまっていたのかと呆れてしまいそうになる。
 聞けば、健康のためお茶を毎日朝晩飲むのが葉子の家での習慣だということらしい。外出時の飲み物も当然のようにお茶で、今日葉子は美味しいからということで、お出かけ先ではじめてこれを試してみたらしかった。いや、けっこう細かいところで世間知らずとは思ってたけど、それにしたってこれはどうなのか。
(こっ、これ、にっ)
 喉を震わせて、ボトルを視線で示す葉子。彼女のことだから、律義にゴミを家まで持ち帰るつもりだったに違いない。
(お、おねがい、おねがいっ……!)
 空のボトルを示すその意図は、私にもわかりすぎるくらいわかっていた。あまりにも大胆で、あまりにもお嬢様らしくない発想。女の子としたって失格当然の発想だ。
 けれども――
「わかった。……動かないでね」
「ぅ、……うん、はや、くっ……!!」
 葉子のためなら何だってすると覚悟した。今更引いたら、乙女がすたるってもんだ。


 ◆ ◆ ◆


 満員電車の車内が、ギシギシと揺れる。人口密度300パーセント。身じろぎも満足にできない状態で、もう30分近くこうして閉じ込められている。冷房は聞いているけど車内温度は徐々に上昇し、不快指数も増してきていた。どこか遠くで、子供の泣き声が聞こえ、それに文句を言う様子も聞き取れる。
 そんななか、葉子は真っ赤になってうつむき、必死に声を殺して、唇を噛んでいた。
 そりゃあ恥ずかしいだろう。これからやろうと思っていることを考えれば、正直私だって頭から蒸気が噴き出しそうだ。
 でも、ぐずぐずしてられない。俯いたままの葉子の足の間。わずかに力を緩めた彼女の股間から手を引き抜き、そのままスカートの前をまくり上げる。反対側の手に掴んだペットボトルを用意しながら、
 スカートの下、手探りで葉子の足の付け根へ手を滑り込ませる。
 すべすべの太腿がほんのりと温かく、女の子としてうらやましくなるくらいにすらりと細い。そんな葉子の足の付け根、下着の股布をひっつかんで脇にずらし、空っぽになったボトルを突っ込んだ。見えない中で小さな飲み口を葉子の「そこ」に押し当てる。
(ぁンっ……)
 足を開かせた葉子の股の付け根に、丸い飲み口がぶつかった瞬間、そんな色っぽい声があった。ぎしっと軋むドアと窓の音がやけに大きく聞こえる。
(も、もうちょっと、前っ)
 いくら付き合いの長い親友のことだって、おしっこの出口の位置なんてわかるはずもない。まあ、そりゃ、すごく小さなころは一緒にお風呂に入ったりしたし、トイレだって一緒に行ったりしたけど。手探りで友人の『おんなのこ』、秘密の場所を探し当てるその状況は、まるで――とんでもなくいやらしいことをしているみたいで。こっちまで頬が熱くなるのを抑えきれない。
 いや、実際、これは友人としての範疇をこえてるのだ。
 ペットボトルの胴を握り、何度か確かめるように、『そこ』を探り当て。うまくいくように、おしっこの出口、水門を邪魔する部分を左右に押し開く。
「ぉ……音、きか、ないでっ」
 最後の懇願はそれだった。
 ぶしゅっ、とサイダーの栓を抜いたみたいな音を皮切りに、透明な容器の中に水流が噴射される。薄いポリ容器の中で跳ね返った水流が、じゃごおおおっっとすごい音を響かせるのを、私は手のひら越しに感じていた。
 ペットボトルの底を直撃するその勢いはとんでもないもので、掴んでいたペットボトルがそのまま水圧で跳ね飛ばされてしまいそうになるくらい。庭の水まきに、ホースの先端をつぶして勢いをつける、あんな感じに違いなかった。
「っ………ぁ……」
 きゅうっと寄せあわされる葉子の眉。おしっこの開放感よりも、こんな異常な状況での排泄の羞恥のほうが勝っているようで、その表情は苦悶に近い。
 葉子が目をつぶっているのをいいことに、私はこっそり彼女のスカートを持ち上げ、その奥に目を凝らした。
(うわ、すご……っ)
 私だって女の子だ。トイレを我慢しなければならない時だってあるし、そういう時、かろうじて間に合った個室の中で、音消ししても完全には消えないくらいものすごい勢いと音で、足元にめがけ恥ずかしい熱湯を噴き出させてしまうことだってある。
 でも。それが実際こんなにもすさまじい迫力であるなんて、知らなかった。そりゃそうだ普通に生きてたら見る機会もないしまじまじ観察するチャンスなんてあるわけもない。
 ましてそれが――自他ともに認めるいかにもな清楚で慎ましやかなお嬢様の、葉子のものだなんて思うと。
 取り落とさないようにつかみなおし、力を込めただボトルの中に、信じられないほど野太い水流が蛇行しながら注ぎ込まれていく。比喩抜きで、蛇口を全開したみたいな量と勢い。

 ぼじゅぅうううううううっ……

 その音も勢いもじゃぼじゃぼ程度ではないのだ。溜まったホットレモンティの黄色い水面を猛烈に泡立てながら、まっすぐに直撃するその様子は黄色いレーザービームめいてすらいた。
 幸いだったのは、ちょうどこの時、電車の隣を急にやってきた快速が通り過ぎ始めたこと。どうやらそろそろ電車が復帰するようだった。揺れる車体が窓越しにも顔をしかめるくらい喧しい轟音に包まれるなか、葉子は私の持つペットボトルの中に、我慢に我慢をし続けた限界おしっこを噴射させてゆく。
 たぶん、これがなければ、容子の排泄音は決して静寂とは言えない電車の中でも十分に周りに響きわたり、周囲の視線を一身に浴びてしまうくらい、ものすごい音だったと思う。
「はぁ……ぁ、ふ、ぁっ……」
 徐々に本当の勢いを取り戻す排泄とともに、葉子はとろけるみたいに気持ちよさそうな顔をして、堪えていた息を解放する。まるで、ひとりでこっそりいやらしいことをした後のよう。
 いや、これはもうそういうのと同じかもしれない。トイレを我慢していた時に感じるむずむずは、一人でえっちなことをしているきっかけになった子だって少なくないはずだから。
 ちらりともう一度、スカートの隙間に視線をやれば、すでに泡立つ水面の位置はペットボト全量の7割近くにも達しておいた。手ごたえもずっしりと重く、油断したらその重さと水圧でとり落としてしまいそうなほど。これだけ我慢してるんだから当然だとは言っても、まったく弱まる様子もない。
(このお茶、たしか500mlサイズのはずなんだけど――)
 いったいどんだけ我慢してたのこの子、可愛い顔して。これもギャップ萌えってやつなのだろうか。
 ○○学院の現役女学生、深窓のお嬢様の絞りたて生お小水……なんていったら、世の変態どもが高い額で買うかもしれない、なんて馬鹿げたことを考えていた、その時。
「っ、ヒロ」
「え!? あ、な、なに?」
 考えていたことを見透かされたのかと思ったが、まさかそんなわけはなかった。むしろその逆。容子は顔を真っ赤にして、余裕なく辛そうに身をよじる。じょぼっ、じゃぼっと押し当てた飲み口の奥に、断続的に水流がぶつかる。
「ま、に、あわないよぉ……っ」
「え?」
 どういうこと? 瞬きをする私のそばで、目に涙をにじませながら。葉子は衝撃の告白。
「まっ、まだっ、まだおしっこいっぱい出そうなの……っでちゃう……っ、こ、これじゃ、溢れちゃう。入りきらないよおっ……!!」
 なんですと。
「ヒロぉ……っ」
 縋り付くような視線。いや、500mlで足りないってそれいったいどういうことよ。思いはするが、目の前の現実がすべてだ。葉子の股間に押し当てたペットボトルはもはや満水。それでもなお、葉子は激しく腰をよじり、ぶしゅっぶしゅっとこらえきれない水流を断続的に噴射させている。
 女の子が、一度はじめちゃったおしっこを停めるなんて無理だ。我慢の限界で、一度トイレを前にしたら、女の子はもう辛抱できない。
 どうすれば――? 一瞬の迷いののち、私は葉子の足の付け根にボトルをあてがったまま、自分のカバンを空けた。奥に突っ込んでいた自分の分のボトルを引っ張り出す。自転車での移動中にのどが渇いたので買った、スポーツ飲料。
 中身はまだ半分くらい残っていた。構うもんか。蓋をあけるのももどかしく、飲み口に口をつけて、残る全部を一息に飲み干す。
「んくっ……」
 飲み終えるころには、葉子の股間のボトルはほぼ限界。飲み口のところまでいっぱいの、本当の意味での満水になりかけていた。見事500mlを一杯にしてなお、葉子のおしっこの出口はなお内側からの圧力に耐えかねるようにぷくぷくっと膨らんで、まだ足りない、もっと出ちゃうとむずがっている。
 瞬間の早業で、私は葉子の股間から中身の一杯になったボトルを遠ざけ、新しく殻にしたボトルを押し当てる。
 ぷしゅっ、ぱたたっ。
 地面に飛び散る小さな飛沫。
「もうちょっとでいいから! ガマンしてっ!」
 短く叫び、ペットボトルの交換を終えた直後。
 新しく押し当てられた飲み口の奥に、ぷじゃあああああっ!! と強烈な水流音。
 すでに500mlペットボトルを一本、一杯にしたとは思えない――あまりにも猛烈な勢い。ふたたびじゃぼじゃぼと音を響かせ、ボトルの中に注ぎ込まれていく友人のおしっこ。さっきにも勝るとも劣らない勢いで、透明な容器がみるみる泡立つ水位を上げていく。
(うぁあ……)
 その迫力に気圧され飲まれて、もう私は唸ることしかできなかった。握りしめたボトル内に注ぎ込まれるオシッコの振動が手のひらを震わせ、ほかほかと温かい、葉子のおなかの中で温められた羞恥の熱水が、黄色い水面をみるみる増していくのを黙って見続けるしかない。
 あっという間に、葉子のオシッコは切り替えたボトルの半分ほどまで水面を上昇させていく。こりゃ、確かにさっきの一本だけじゃ満足できないのは明らかだった。 本当、いったいどれだけ我慢していたんだろう、葉子ってば。
 まさかこれも溢れさせてしまうんじゃないかと思ってひやひやしたが、さすがにそうなる前に葉子のオシッコは見る間に勢いをなくし、じょっ、じょぉっと断続的に吹き付けられていく。
 最終的に、ボトルの8割強あたりのところで、水面の上昇は停止した。とりあえずの避難として、ボトルにキャップをはめる。驚いたことに、葉子はこの状況でもきちんとおしっこをボトルの飲み口の中に注ぎ込み、一滴も外側にはこぼしていなかったのだ。葉子のお行儀のよさは、こんな状態でのおしっこの仕方にすら反映されていたのだ。そういえば、自分と比べて葉子のおしっこはすごくきれいに、まっすぐ前に飛んでいた。あれもひょっとして、日ごろの訓練とか礼儀作法で培ったものなのだろうか。
 思わず妙なことに感心をしてしまう。
「よし、っ……」
 こぼさないように注意して、慎重にキャップを閉めた500mlペットボトル2本ぶんのおしっこ。健康茶とスポーツ飲料、どちらもラベルに偽りあり、だ。ずっしりと重いそれらは、つまり単純計算で約1リットル。こんなにも大量のオシッコを、葉子はあのほっそりしたおなかの中に押し込めていたというのか。
 その圧倒的迫力に魅入られて、黄色く泡立った中身をしげしげと見つめてしまい、葉子は顔を赤くして私の手を掴もうとした。
「ひ、ヒロっ、見ないでっ」
「ごめんごめん……でも、見られるわけにはいかないしね」
 現役学院生の生しぼりしぼりたてオシッコ。なんとも背徳的な響きである。
 空になっていたコンビニの袋を取り出し、二本をまとめて押し込む。半透明の袋に入れて、外から少し透けて見えるようになっているのは、葉子としても激しく抵抗があるみたいだったが――だからと言ってカバンに入れるのはさすがにナシだ。まあ、こういう色合いのお茶だとかスポーツ飲料だと言い切れば、ギリギリ言い逃れができなくもない外見だろう。


 ◆ ◆ ◆


 葉子がおしっこを終えてから、すぐにアナウンスがあって。あっけないくらいあっという間に、快速は運転を再開した。ほどなく、電車は問題の踏切を越え、駅に入る。
 降りる予定の駅ではなかったけれど、予想外の混雑と満員状態に耐えかねて、私たちはそのまま駅を降りることにした。
 そもそも電車内であんなことになってしまった葉子のショックは大きいだろうし、ほかにいろいろしなければならないこともあったからだ。なにしろ、手にはカバンのほかに葉子さんの絞りたておしっこ入り500mlペットボトルが2本もある。これの『処分』も考えなければならない。降りてすぐ、駅のトイレも探したけれど、さっきの事故のせいで婦人用トイレも混雑していて、しばらく順番待ちに並ばなければならなかった。さすがに今そんな気分にはなれない。
 私も葉子が目の前で見せつけてくれた大迫力のせいで、すこしばかり『催して』いたのだけど――まあ、これは我慢できるはずだ。
 それよりも葉子だ。あんなことになったショックはただ事じゃない。結果的になんとか、最悪の事態は免れたとしても――満員電車の中、乗客に囲まれて立ったままペットボトルにおしっこだなんて、女の子として相当のダメージを受けているに違いなかった。最悪、今日のお出掛けは中止にしなければならないかもしれない。そんなことを考えながら葉子の手を引いて、改札を出る。
「でも、替えの下着とか――ないとだめでしょ? コンビニ行ってくるから、ちょっとここで……」
 と。葉子の様子がおかしいのに、私はここでようやく気付いた。妙に足取りが重く、なお、顔が赤い。
「? どうしたの、葉子」
「ご、ごめんなさいっ!!」
 葉子はばっと身を翻し、駅の出口から外へ駈け出してゆく。走り出す彼女を、私は慌てて追った。ちょっと余計なこと言い過ぎたか。あまり深刻になってほしくなかったのだけど、よく考えてみればちょっとひどい物言いだったかもしれない。でも、それだけ私にとっても衝撃的な出来事だったわけで――
「って! 違う!」
 言い逃れしている場合じゃない。よたよたと走っていく葉子の背中はすぐに見つかった。追う私に距離を詰められながら、葉子の足取りは繁華街を離れるように、駅のそばの路地を曲がり――
「葉子っ」
 そうして、追いかけた先。路地を曲がった彼女を追いかけ、そこで見たものは、あまりにも私の想像を超えていて。
 それが何を意味しているのか、一瞬私には理解できなかった。
 行き止まりの路地裏――ビールケースやゴミ箱の積み上げられた、お世辞にも綺麗とは言いがたい場所。剥き出しのアスファルトに汚れた行き止まりの、その路上で。
 長いスカートを引っ張り上げ、追いかける私に背中を向けるようにして、路地裏の隅に深く腰を落として。
 お尻を突き出し、足を開き、ガニ股になってしゃがみ込み。
 切羽詰まったせいだろうか、下着を下ろすこともできず、股布部分だけを指でつかみ、ぐいいっと真横に引っ張って。
 どう言い逃れのしようもない、完全無欠な『野外おしっこポーズ』100%の体勢で、しゃがみ込み開いた足元に、猛烈な勢いでおしっこを噴き出させる、親友の姿。
「っ……!?」
 なんで、どうして、こんな?
 
 ぶしゅううううじゅぼぼぼぼっじゃばばばばば!!

 路地裏に響くこの猛烈な音は、広がる水たまりの黄色さは、飛び散るしぶきは、立ち込めるにおいは、幻なんかじゃありえない。
 だってついさっき、葉子はあんなにもいっぱい。500mlペットボトルを2本近くも一杯にさせるくらい、とんでもない量と勢いで、おしっこをしていたのに。いくら健康茶の利尿作用がすごいと言ったって、あれからまだ10分も経っていない。いくらなんでも、たった10分でもう我慢できないほど強烈に、急に効いてくるはずが、ない。
 それなのに、なんで葉子はまた――こんなに、オシッコをしてるんだ。
「み、みないで、ヒロ、お願いっ、見ないでよぉ……っ」
「え、だって……さっき……」
 思わず踏み出しかけた手の中、コンビニのビニール袋にずっしりと手の中にかかる重さ。それは夢でも幻でもなく。袋の隙間から500mlペットボトル容器、二本をほぼまるまる一杯にして、泡立つ親友のおしっこ。ほんの10分前にしぼりたて、出されたばかりの羞恥のホットレモンティは、まだほんのりと温かい。
 ああ、それなのに。葉子はまたも、野太い水流を、勢いよく――まるで、トイレでするのとまったく同じように、露天の、路地裏の、だれがいつ通りかかるかもわからないような、行き止まりの道端で、足もとのアスファルトに向けて、盛大に、激しい水流を噴射させている。
 あまりにも非常識な光景に、私は親友の路地裏でのおしっこから目が離せない。
「お、おトイレまで……がまん、しなきゃ、いけないのに……でっ、できなかったからっ」
 消え入るような、親友の告白。
 つまり。
 葉子は。電車の中でこの500mlペットボトルを2本、ほとんどいっぱいにしてなお。
 それで、おなかの中のおしっこを全部、完全に、ありったけ出し切ったというわけではまったくなくて。むしろ、これだけの――約1Lに及ぶおしっこを排泄して、ようやく、電車を降りるまでの一時的な我慢が可能になるレベルまで、尿意を抑えることができた、ということで。
 さっきのボトル内水面への断続噴射も、おしっこを出し切ったときのしぐさではなく、強烈な精神力と鍛えられたお嬢様の括約筋で、羞恥のダムの水門、なお水流を噴出させるおしっこの出口を、塞ぎ、せき止めることに成功した、ということだったのだ。
 でも、一度中断したところでおしっこはあくまで一時しのぎ。どうにか電車が駅までたどりつくまで我慢するので精一杯。中途半端な排泄は、かえって大きな尿意の呼び水になる。それは女の子のトイレの常識だ。
 類まれな精神力と、排泄器官の制御で、どうにか駅までは辛抱したものの。そこでもうなけなしの我慢は品切れで。改札前の婦人用トイレが外にまで並ぶ大行列なのを見たところで、葉子は再び限界を迎えてしまったということらしかった。
 だから、せめて人に見られない場所に逃げ込んで――路地裏で、オシッコを始めようとした。
「……………っ」
「みな、い、で、よぉ……っ、ヒロのばか……ばかあ……っ」
 地面をたたきつける水流は、強く激しく野太く、アスファルトの上の小砂利を押し流すほどに凄まじい。さっきあんなに大量におしっこを出したとはとても思えなかった。
 長い我慢を続けたあとは、ちゃんとトイレを済ませても――、一気に全部出しきれなかったり、キチンとすっきりしたとしても、すぐにまた行きたくなったりすることがある。あんまりにも我慢しすぎて膀胱がパンパンになっていると、腎臓のほうで作られるおしっこは渋滞を起こしてそこにとどまっているらしい。
 それでも、葉子のおしっこの様子は、そんな理屈では説明つかなかった。
「……葉子……」
 ともかく。葉子の三度目のおしっこは、そこからなお1分以上たっぷりかけて、路地裏の中を一面水浸しにするほどの派手さを保ち、ようやく終わった。
 ついさっき、出したばかりの、私が持つ、500mlペットボトル2本分のおしっこに加えて、さらにそこから、私が我慢に我慢しきった時の量と同じくらい、長く、激しく続いた。
 その合計量は、推定で、たぶん……1.5L以上。下手をしたら、2L近いかもしれない。

 ぽた、ぽた、ぷしゅっ、しょろろろろお……

「はああ……っ」
 ようやく全部を出し切ったという、安堵と開放感に震える葉子の、とろけるような吐息。
 両手にずしりと感じる重さに、食い込むコンビニのビニール袋が、指の先を白くする。
 静かに、『おんなのこ』から細い水流と、名残りのしずくを滴らせる友人の姿を、私はただ、じっと、食い入るように見、その姿を一時も忘れぬよう、目に焼き付けていた。


 (了)



 (初出:2015.5.3 しーむす11)
[ 2015/06/03 00:20 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)