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『おねえちゃん、おしっこしたいの…!』 


 ゆっくりと、進んでは止まるバスの中。遠足で元気いっぱい遊び疲れた『晴空の会』の皆を乗せて走る車内のそこここから、可愛らしい寝息が聞こえる。
 インターチェンジの前、慢性的な渋滞にせき止められた高速道路、のろのろと動く車の列に挟まれた高速バス、その午後の気怠い雰囲気の中で。
「あ、あのね……あの、お、おねえ、ちゃん、ね? ……、その、っ、……」
 言葉に詰まり、ぱくぱくとくちびるを開閉させる星佳を、不思議そうに見上げて首を傾げる沙希。
 あどけない瞳に見つめられるなか、耳の先まで真っ赤になった星佳の唇が、小さく「お」の形をつくる。擦れた声、荒い吐息。
(い……言わなきゃ……っ。ちゃんと言わなきゃ……。も、もう、だめ、無理よ……っ!!)
 震える指先を握りしめて、星佳はくじけそうになる勇気を振り絞る。いくら恥ずかしくても、もうこれ以上、黙っているわけにはいかなかった。
「その、おねえちゃん、……ぉ……ぉ、……お、っ……、ぉしっ、……こ…! っっ、……ぉ、しっこ……、おしっこが、したいの……っ!!」
 沙希の耳元に顔を近づけ、「お」から始まる恥ずかしい四文字言葉の欲求を、星佳は何度も何度もつっかえながら、口にした。
 ○学生にもなって、こんな恥ずかしいことを――しかも、自分が『おねえちゃん』として引率すべき子供たちに、打ち明けなければならないなんて。星佳の整った顔は、みるも顕わに羞恥に染まってゆく。
「ええええー!? おねえちゃん!?」
「っ……沙希ちゃん、しずかに!」
 あれだけ秘密よ、と念を押していたのに、秘密を打ち明けられた途端に大きな声を上げた沙希に、星佳はあわてて口の前に指をたて、しーっ、しーっと強くアピール。沙希が、あ、そうかとばかりに両手で口を押さえた。
 おくちチャックのまま、隣の席の沙希は信じられないというよう大きく瞬きをする。それはそうだろう、自分よりもずっと年上の『おねえちゃん』が、おしっこが我慢できないと告白したのだ。つぶらな瞳に見上げられ、星佳は耳の先まで顔が紅潮していくのを感じていた。
(だ、だって、しょうがないじゃないっ!! ……きょ、今日、ずっと……おトイレ、できてないんだもの……っ!!)
 キュロットの上、ぎゅっと白い手が握りしめられる。子供たちの引率のため、活動的に整えた服装は、しかしいまや押し寄せる生理的欲求の前に縮こまり、可憐に小さく震えるばかりだ。
「ねえ、どうしておトイレいかなかったの? おねえちゃん。先生も、バスにのるまえにおトイレにいきなさいって言ってたよ?」
「………っ……」
 当然の疑問。沙希の無邪気な問いかけは、おそらく本人も無自覚のまま叱責も暗に含まれているものだった。無論、星佳だって長い高速の上、おそらく重体になるとわかっているバスの出発前に、トイレのことを考えなかったわけではない。その時点でかなり強い尿意を覚えていたこともあり、なにがなんでもトイレに行っておかねばならないと考えていた。
 それができなかったのは、やんちゃに暴れ回る子供たちに振り回され続けていたためである。
(しかた、ないじゃない……っ!!)
 心の中をぶちまけ、反論したかったが、ここで沙希にあたり散らしたって意味がない。沙希だけが悪いわけではないし(むしろ、彼女はおとなしいほうの部類だった)、そうしたところでこの尿意が消えてなくなるわけがないのだ。
(……おしっこしたい……っ。トイレ、トイレ、行きたい……っ)
 先生たちの確認にも生返事、きちんと言い出すことができないまま、出発するバスの中に乗り込んでしまった事を星佳は深く後悔する。たとえ皆を引き留めてしまうことになっても、あそこで星佳は自分がトイレを済ませてくるまで待っていてもらうべきだった。
 もう、かなりおしっこがしたくて困っているくらいだったのに。どんどんと募る一方の尿意に、『帰るくらいまでなら、だいじょうぶかな……』と、根拠もない自信に安易な決断をしてしまったことを、強く強く悔いていた。
「ふぁ……う……っ」
 バスがゆっくりと道路の継ぎ目に乗り上げ、かすかな振動をもたらした。それに連動してきゅうん、と下腹部でうずくイケナイ感覚が、じいんと恥骨の上に響く。
 艶めかしい喘ぎ声が、少女の唇を震わせた
「……もぉ、やだ……っ」
 自分を苦しめる、おなかの中の悪魔の尿意に、俯いた星佳の目元に涙が浮かぶ。
 引率の子供たちは皆、休憩時間中に、バスに乗る前に、しっかりとトイレを済ませてきている。すやすやと可愛らしい寝息は、お昼寝前のきちんとしたトイレのおかげだ。
 こんな小さな子たちでさえできることが、できないなんて。……そう思うと、下腹部の重みが一段と増すような気さえしてくる。
「おねえちゃん、へいき? 我慢できるの?」
 俯く星佳の顔を覗き込み、沙希がそう聞いてくる。心配すると言うよりは、おトイレのしつけも満足にできていない『おねえちゃん』を、責めているようにすら聞こえた。
 けれど、沙希達よりずっと大人のはずの星佳は、俯いたまま、ぎゅうっとスカートの奥で膝を寄せ合わせ、小刻みに擦りつけながら、ぷるぷると首を横に振ることしかできない。
 いま、まさに星佳は、ふいに押し寄せてきた尿意の大波にさらされ、羞恥と我慢が激しく綱引き合う、せめぎあいの最中にいた。
(っあ……あ、ぁっ、あ、ダメ……が、がまんできない……っ、で、でちゃう……っ、でちゃう、よぉ……お、おトイレ……っ!)
「ねえ、おねえちゃん? おねえちゃん?」
 答えない星佳に、ぐいぐいと袖を引っ張る沙希。騒ぐ彼女に目を覚まし、周りの席の子供たちが目を覚ます。『おねえちゃん』のおしっこ我慢とその限界に、にわかに皆が声を上げ始めた。
「おねえちゃん、おしっこ?」
「えー? おねえちゃん、トイレ行ってないの?」
「いけないんだー! ちゃんと、先生のいってること、まもらなきゃだめだよ! ねえ、おねえちゃん!!」
「おねえちゃんへいき? がまんできる?」
 無邪気な言葉が、次々に星佳を責めたてる。もはや少女のプライドはずたずた。『おねえちゃんは、おしっこがしたいの!』。誰にも秘密のはずの告白はあっというまに、バスの後部座席に広まっていく。
(ぁあ……だめぇ……)
 声にならぬ悲痛な叫びが、星佳の喉を震わせた。こんなことになるなんて。意を決して、覚悟を決めて「おしっこ」の欲求を口にしたはずなのに。どこか予想していたけど、けれどやっぱり覚悟が足りなかった。
 沙希に尿意を告白したのは、なにも彼女に縋るためではない。一緒に座る沙希に席を交換してもらい、バスの座席を立って、車体の前のほうに座る、先生たちに尿意を訴えるつもりだったのだ。
 どこか――近くのサービスエリアの、トイレに寄って。
 おしっこを済ませるための、休憩時間を取ってもらう、ための。
「ちょっと、今井さん、本当? 我慢できないの!?」
 騒然となる車内のさわぎは、やがてバスの前方まで届き。先生たちが次々に立ち上がり、後ろのほうを見る。本当なら、最小限――あと一人。主任の松中先生にだけ知らせるはずの、秘密が――運転手さんや、他の付き添いの子たちも含め、バス全体の公開共有情報へと変わっていってしまう。
「すみません、すぐにサービスエリアに寄ってください。あの子、トイレが我慢できないみたいで――」
 まるで、小さな子のように。トイレのために、バスを止める。そんな相談が堂々とはじまり、子供たちが口々に叫ぶ。
 バスに乗る皆が、星佳のトイレのことを心配し、そのために動き出し始めていた。猛烈な羞恥の中それを感じ、星佳は、けれど――
(だめ、ま、まに、まにあわ、ない……っ、でちゃう、もう、出ちゃうよお……っ)
 バスは高速道路の中、ゆったりと車の列を走り続けている。
 道路標識によれば、次のサービスエリアまでは、少なくとも8キロ。
 子供たちが息を呑んで見守る中、星佳の――『おねえちゃん』の、長い長いオシッコ我慢劇場が、その第一幕の幕を上げた。


 (初出:@kurogiri44 ツイッター投稿より加筆再録)
[ 2015/05/03 14:48 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

後輩と一緒の話。 

 細かい設定変わってるけど昔書いた「お姉さまと一緒の話」と同じ世界観。





 グラウンドに、部活の声がこだまする。チャイムが鳴り、一日の終わりを告げる放送が校舎に残る生徒たちの帰宅を促す。夕陽に染まる煉瓦作りの校舎を背負った中庭に、二人の少女の姿があった。
 目を引くのはその片方、そわそわと落ち着きのない様子の少女である。
 紺のブレザーに膝下のスカート。白二本線のリボンタイ。言わずと知れたこの学院の制服、優麟館学院のものだ。伝統あるお嬢様学校として有名な制服は、街中を歩いていても人目を引くもので、独特の通学鞄と合わせて近隣の少女達の憧れである。
 芦原結衣――優麟館学院の二年生である。
 落ち着かない様子で辺りを見回す少女の表情には明らかな焦りをみえた。まだあどけなさを残す顔は青ざめ、寄せられた眉は困惑によじられている。
 厳しい礼儀作法に知られる学院の生徒は、学院の内外に関わらず常日頃、慎み深き良家の子女としての振る舞いを求められるものだが――あまりそんな印象は無い。左右に括った栗色の髪が余計に子供っぽさを強調しているせいもあるのだろう。紅色のリボンタイは既に彼女が上級生であることを示しているが、先輩らしい威厳は感じられない。
 その隣、彼女にピタリと寄り添うのは、さらに小柄な少女である。
「どうなさいましたの、結衣おねーさま?」
 結衣よりも頭半分は低い、小動物のようにくりくりと大きな目をした、サイドテールの少女だ。制服胸元の緑のリボンタイは結衣と呼ばれた娘の一年後輩であることを示している。
 けれど、どこかおどおどと回りの様子を窺っている結衣に対して、少女の堂々たる振る舞いはむしろ学年を逆にしてみた方がしっくりとくるかもしれない。
 それもそのはず、緑リボンの彼女――篠守裕乃は、優麟館幼稚舎からのエスカレーター組である。学院で過ごした年数で言えば結衣の数倍も上なのだ。
 そわそわと足踏みをしながら、結衣はしきりに背中を気にしている。
 彼女の意識が校舎の昇降口――正確に言えば『その奥』から離れないことににんまりと口元を緩め、裕乃は背伸びをして結衣の耳元に囁きかける。
「うふふ、結衣おねーさま? そんなにあちらが気になりますの?」
「そ、それは、その……っ、だって……っ」
 みるみる挙動不審になる結衣。足元が落ち着かないように身を揺すり始めてしまう先輩のそばで、裕乃がくすくすを笑みを漏らす。
 そう、まるで――小悪魔のような笑みを。
「あは、結衣おねーさま、恥ずかしい格好……」
「っ…!? ひ、裕乃ちゃん、おねがい――や、やめてっ」
 先輩を気遣うように伸びた裕乃の手のひらに、結衣は反射的に身を竦ませる。裕乃の手が、はっきりと『そこ』を目指していたのに気付いたのだ。ますます落ち着きを失い、左右に揺れ出す少女の身体――その場にじっとしていることもできなくなった結衣の様子に、裕乃はもういちど笑みをこぼす。
「ダメですよ結衣おねーさま。わたしが許可するまで、おトイレは禁止です」
 かあっと結衣の頬が紅くなる。
 はっきりとその事実を指摘され――けれど、結衣は押し寄せてくる欲求に耐えられなかった。こんな場所で、誰の目があるかも分からないのに。してはいけないことだと、わかっているのに――。
 意地悪な後輩の誘惑に負けて。ついに、少女の手のひらは、スカートの上から女の子の大事な部分を押さえこんでしまう。
「っ……ぁ……っ」
 スカートの上から恥ずかしい場所を握り締め、前屈みになった結衣の耳元に、サイドテールを揺らして口元を寄せ、そっと囁く。
「うふふ、ねえ結衣おねーさま、どこを押さえてらっしゃいますの? くすくす……そんなに我慢できませんの? ねえ、どうしても、『オシッコ』、したいんですの?」
「っ……」
 はっきりと尿意を囁かれ、結衣の顔が紅潮する。優麟館の生徒がこんな往来で、スカートの前を押さえて脚をモジつかせるなんて、断じてあってはならないことなのに。学院生徒どころか女の子として落第だ。
 羞恥と屈辱に耐えかねて、結衣は黙って俯いてしまった。裕乃はますます嬉しそうに微笑んで、わがままを言う小さな子に言い聞かせるよう、身をかがめて結衣の顔を覗き込むんでくる。
「ねえ、黙ってちゃ分かりませんよぅ。ちゃんと分かるようにお返事、してください?」
 裕乃はぴたりと寄り添うように必要以上に身体を押し付けてくる。
 するりと伸びた裕乃の手のひらが、結衣の腕の隙間をすり抜け、制服のブラウスの上からやわやわと下腹部をさする。
「ふぁ!?」
 硬く張りつめ敏感になった下腹部を撫でさすられて、結衣は大きな声をあげてしまう。じいんと腰骨に刺激が走り、甘い痺れとなって脚の付け根に押し寄せてくる。こみ上げてくる大きな尿意の『波』。結衣はたまらずぎゅうっと太腿を寄せ合わせ、小刻みに腰を揺すって耐えた。
 前屈みの上半身はさらに前傾を増し、結衣は身体をよじって裕乃の手から下腹部を庇おうとする。しかし裕乃はふらつく足の結衣を支えるかのように身体を寄せたまま、恥ずかしい液体をぱんぱんに詰め込んで硬く張りつめた下腹部の感触を楽しむように、絶妙な力加減でそこを揉みほぐしてゆく。
「っ、んぁあああ……ッ」
 たまらず喘ぎを上げてしまい、耳まで赤く染まる結衣の耳に唇を寄せて、裕乃はくすくすと笑いながら、
「ねえ、結衣おねーさま? ちゃんと教えてくださらなくちゃ、私、分かりませんよ。ほら、どうなさったんですか?」
「っ……ぁ……」
 おヘソの下でぐらぐらと沸き立つ羞恥のティーポットを刺激され、ぐいぐいと押し揉まれるたび、激しさを増した水圧がダムの一番底にある脆い水門を押し開けようとする。びく、びく、と酷使された括約筋が悲鳴を上げ、短い水路がうねり、くねり、ぷくりと膨らんで熱い雫を滲ませる。
 もはや、結衣に正常な判断力は残されていなかった。桜色の唇を震わせて、結衣はとうとう、後輩の前で自分から、恥ずかしい欲求の告白を始めてしまう。
「だ、だめ……なの、も、もっ、もうっ……が、っ、がまん、できなっ…できない、ぃっ」
「我慢? うふふ、なにが我慢できませんのかしら? 『なに』が、ですの? ねえ、ユイおねーさま?」
「っ……ぁ、っ、や、やだっ、やだぁあ……ひ、裕乃、ちゃんっ……いじ、わる、しない、でっ……」
「あら。だってわたし、ユイおねーさまがどうして苦しそうなのか、分からないんですもの。ちゃんと教えて下さらなくちゃ。ねえ? うふふ♪」
 少女の手のひらが、悪魔じみた力加減で、巧みに結衣の下腹部を押しこねる。嬲るように繰り返される下腹部絵の刺激に、結衣は食いしばった唇の隙間から熱い吐息をこぼした、
「っ、あ、っあ、………っ、し、……っ、……」
 ぱくぱくと唇が開閉する。恥骨に響く甘い痺れが、稲妻のように背筋を這いあがり、ぞくぞくと少女の身体を震えさせる。
 かあと頬を染めて、結衣は半ば自棄になって叫ぶ。
「ぉ、……おしっこ……、おしっこが、がっ、がまん、できない……のぉっ! もっ、もう、で……、で、でちゃう……っぅっ!!」
 絞り出すようなはしたない訴えが、けして小さいとは言えない声量で校庭に響く。誰かに聞かれてしまうかもしれない、そんな事に気が回らないほど、結衣は追い詰められていたのだ。
 ほんの数時間前に出会ったばかりの新入生の前で、その模範となるべき上級生であるはずの自分が、まるで初等部の子のように腰を揺すり、足をモジ付かせ、懸命にトイレの限界を訴えてしまったのだ。堪えようのない羞恥に、結衣は耳まで赤くしてしまう。
 その様子に満足したように、裕乃はにんまりと満面の笑みをみせながら、口元をぬぐう仕草をした。
「くすくす……よく出来ました。花マルを差し上げますわ、結衣おねーさま♪ でも、これからは恥ずかしがらずに、ちゃあんと自分から『おトイレ行きたいです』って言わなきゃ駄目ですよ? でないと――」
「んぁ…ッ!?」
 ぐい、と心持ち強めに、結衣の下腹部が圧迫される。
 小さなお腹をぱんぱんに膨らませた水風船が押し揉まれ、出口に強烈な水圧がかかった。強引に肌を掴まれる感覚に結衣は目を見開き、口をパクパクと開閉させる。
「ふ、ぁ、ぅ、あぁあっ……」
 同時に凄まじい勢いで尿意の波が押し寄せてくる。結衣は反射的に足を交差させ、スカートの上から股間をきつく押さえつけた。全身の力を振り絞って、オシッコの出口、括約筋にありったけの力を込める。
 それでもなお足の付け根にはじゅっ、じゅぅうっ、と熱い雫が吹き上がる感触と、じいんと腰を痺れさせるような甘い排泄の解放感が溢れだした。
「ぁっあ、あっ、あ……!!」
 目に涙すら浮かべて、結衣は必死に、オモラシの誘惑に抗う。
 ここは神聖なる学び舎の一角なのだ。慎み深く、貞淑であるべし――人前でトイレに立つ事すらはしたないとされる場所で、女の子としてのプライドも当然ながら、歴史ある優麟館の生徒として万が一にも、足元の地面に恥ずかしい水たまりを広げてしまうようなことなど、決して許されない。
「くすくす……ね? 意地を張りすぎて、そんなふうに我慢できなくなっちゃったら、どうするんですの?」
 前屈みになり、言葉も失って、ただただ全身全霊の力を振り絞って尿意に抵抗する結衣。ぷるぷると腰を震わせ、きつく脚を交差させ、両手の力も借りて排水孔を締め付ける。
 永遠にも思える地獄の時間は、しかしどうにか結衣の勝利で終わった。辛うじて乗り越えた尿意の大波の揺り戻しを押さえ込みながら、結衣は裕乃に縋りつくように、懇願の視線を向ける。
「わ、わかった、からっ……わかったからぁ……っ、と、トイレ……おねがい、裕乃ちゃんっ、と、っ、トイレ、行かせてっ……」
「くすくす……もぉ、恥ずかしいですねぇ、結衣おねーさま。そんなに大声出したら他の子にも聞こえちゃいますわよ? ふふ、そんなに必死になって……おしり、モジモジさせて、そんなに『オシッコ』したいんですか?」
「…………っ」
 自分が認めた事ではあるが、ことさらに明け透けに、羞恥を煽るかのような裕乃の囁きに、結衣は真っ赤な顔を何度も小さく縦に振る。曖昧にしていては裕乃はまた『あら、違いますの? じゃあ平気ですわね』とでも言い出すに違いない。これまで何度も、そうやって結衣は恥を忍んで後輩に訴えたトイレの要求をうやむやにされてしまった。
「本当に? そんなに、オシッコしたいんですか?」
「っ、そ、そう、も、もうっ、我慢、できない……で、でちゃう……から、っ、だ、だから、早く…っ」
 焦らすように執拗に確認してくる裕乃に、結衣は必死になって肯定し、トイレを訴える。上級生の尊厳など微塵も残らない無様な姿だが、もはやそうでもしなければ解放してもらえるとは思えなかった。
「くすくす。しょうがないですわねえ……結衣おねーさま、上級生なのにみっともなすぎですわよ。……ふふ、そんなにしたいんでしたら、『オシッコ』、してきてもいいですわよ♪」
 そう言って、裕乃はぱっと結衣の手を離した。
 それまでの拘束を突然緩められ、一瞬つんのめりそうになりながらも、結衣はすぐに我に帰った。これで自由だ、もう邪魔されない。その事を全身が理解するより早く、ばっと身を翻し、校舎へと走り出そうとする。
 トイレ、トイレ、トイレ!!
 もうそれ以外考えられない。執拗な尿意に嬲られた下腹部は悲鳴をあげて限界を訴えている。ようやく解放されたその足で、結衣は一目散に一番近い、昇降口のトイレに向かった――その、直後。
 がしっと凄い力で、結衣の手首が掴まれた。
「あらあら。どこ行くんですかおねーさま?」
 くすくす、といつもの笑顔で、裕乃は再び結衣の行く手を阻む。
「っ、ぅ、うそつきっ、な、なにするの!? ひ、裕乃ちゃんっ、裕乃ちゃんがぁ、も、もういいって言ったんじゃないっ……!! も、もうやめてよっ、もう意地わるしないでっ!! ぉ、おトイ…レ、いかせてよお!!」
 結衣の様子と言ったら、まるで幼稚園の子が、駄々をこねているみたいな有様だった。我慢できずにじたばたとその場で足踏みまで始めて、結衣は全身をねじりながら抗議の声を上げた。しかし裕乃は退く気配はなく、至極真面目な顔をしている。
「ですからおねーさま? どこに行かれるんですか?」
「だ、だから、お……お手洗い……っ」
 くねくねと腰を揺らしながら、トイレに行きたいと叫ぶ結衣の顔は、もう取り返しのつかないほどに真っ赤になっている。優麟館の生徒ならずとも、年頃の少女が口にしていい言葉ではないのだ。
 しかし、裕乃はそうやって必死に羞恥の訴えを繰り返す結衣に、にんまりと笑みを返し、
「うふふ。おねーさま。わたくし、『オシッコ』はしてきてもいいって言いましたけど、おトイレに行ってもいいなんてい・ち・ど・も言ってませんわよ?」
「えっ……!?」
 意味が分からず呆気に取られる結衣に、すっと歩み寄って、裕乃はその下腹部をつんっとつつく。
「うぁあ……っ!? や、やめ、てっ……裕乃ちゃんっ」
 外からの刺激にさらにみっともない格好を披露して必死の我慢を続ける結衣。激しく腰を左右にクネらせてしまう結衣に、裕乃はうっすらと口元を緩め、
「うふふ、ですから。結衣おねーさまがどうしても『オシッコ』させて欲しいと仰いますから、その許可はさしあげましたの。でも、お手洗いに行く許可は差し上げていませんわ。ですから、結衣おねーさまが行くのはあちらですわよ?」
 そう言って、裕乃が指差したのは――
 学舎の一角に作られた、遊戯用のアスレチックの足元。幼稚舎の女の子達が使う、どんな学校にも必ず一つはある、砂場だった。
 意味が分からず、結衣は眼を瞬かせる。
 どうして、トイレとあのアスレチックが繋がるのか。あそこには別に、トイレも何もなかったはずで――
「あ、あの、裕乃ちゃん、よく、い、意味が……」
「で・す・か・ら? 結衣おねーさまのおトイレは。『オシッコ』をなさる場所は、あ・そ・こだと言っていますの」
 もう一度。しっかりと、砂場を指差して。裕乃はくすくすと笑みを深くする。
「あのお砂場でなら、『オシッコ』、いくらでもなさってもよろしいですわよ。結衣おねーさま♪」
 にっこりと――
 最高の笑顔で、裕乃は言う。




 犬みたいに――あの、砂場にしゃがみ込んで、おしっこを――大きな音を立て、地面の上を大きくえぐって激しく泡立ちながら足元を水浸しにする――
 理解を超えた羞恥に、オーバーフローしかけた結衣の思考がヒートする。
「で、できるわけないでしょっ、そ、そんなのっ!! す、砂場って……っ、そ、そんなこと、絶対にっ……だ、だって、あそこは皆が遊ぶ場所で……そ、そんなところで、おトイレなんか――!!」
「うふふ、結衣おねーさまがなさりたくないのなら、それはそれで一向に構いませんわよ。わたくしは、結衣おねーさまがどーしてもおしっこを我慢できないと仰るから、そうしてはいかがですの、と提案しただけですもの。
 構わないというなら、まだまぁだたぁーっぷり我慢できるってことですものね、結衣おねーさま?」
「ふぁああ!?」
 言いながら、裕乃はさわさわとイヤらしく結衣の下腹部を撫でる。さっきまでの圧迫とは違う微妙な力加減の手つきは、けれどますます結衣の羞恥を炙る火力を上げ、恥ずかしいティーポットをぐらぐらと沸き立たせる。
 脚の付け根で沸騰し、蓋を押し上げしゅんしゅんと噴きこぼれそうな、羞恥のホットレモンティ。ぴったり閉じ合わせた脚の付け根にじわっと熱いものを感じ、結衣はたまらず出口を懸命に押さえ込む。
「ぁあっ……ぁっあ…だ、だめ、裕乃、ちゃんっ……」
 ちょこんと突き出したおしりが左右に揺すられる。恥ずかしくクネクネと腰を揺すり、モジモジと膝を擦り合わせ、結衣は一時もジッとしていられない。裕乃の意地悪な指によって揺さぶられるティーポットに、注ぎ口のぎりぎりまで注ぎ込まれた恥ずかしいレモンティを溢れさせないようにするので精一杯だ。
「ほら、どうしましたの? 宜しいんですか、結衣おねーさま? ふふ。『おしっこ』なさりたいんでしょう? そんな有様で、ちゃあんと夜までガマン出来ますの?」
 くすくすと――裕乃が結衣の耳元で熱っぽく囁く。小悪魔めいた誘惑は、愛くるしい容貌と相まってぞくぞくするほどに蠱惑的だ。裕乃はこうやって、結衣の欲望を見抜き、ぎりぎりのところを煽るのが実に得意だった。
 この理不尽な仕打ちに、上級生としてせめて何か言わねばならないと考え、結衣がなけなしの勇気を奮いたてて叱ってみても――

『そんなの決まってますわ、結衣おねーさまが可愛過ぎて、いじめたくなっちゃうのがいけないんですのよ?』

 と、じゃれつくように言ってくるのだから性質が悪い。本当の悪意があればともかくも、慕ってくる相手まで無碍にできないのが結衣の性格である。
「うふふ、夜まで……いち、にい……5時間くらいですかしら。さっきいーっぱい、お茶を飲んで頂きましたから、結衣おねーさま、もっともぉーっと『おしっこ』したくなりますわね。きっともっと、もじもじ恥ずかしいカッコをなさるんですかしら。……ああ、楽しみですわ」
 腕に抱きつかれ、ぎゅっと小さな胸を押しつけられる。はたから見れば年下の生徒が先輩にじゃれついているような光景だが、その実、結衣は片方の手を塞がれてしまっているのだ。本当なら、今すぐぎゅうっとスカートの上から、はしたなくも制服の股間を押さえてしまいたいくらいなのに。
「ぁ、あっあ…っ」
 これも言外に、お姉様は人前でそんなはしたないことなさいませんよね? と言われているに等しい。裕乃の他にはだれもいない初等部の校庭だというのに、不安定な姿勢のまま結衣は太腿を擦り合わせるしかない。
「あ、そうそう。これ、内緒でしたけど――あのお茶、お味はいかがでしたかしら? きっとその様子だと、とっても気に入っていただけましたのよね、結衣おねーさま。……うふふ、あのお茶、とっても、とぉーっても、『美容に良い』って評判なんですのよ?」
「え?」
 美容、健康茶――話の方向に不穏なものを覚え、結衣は思わず訊き返していた。その類のものには、以前に嫌な思い出がある。
「代謝を良くして、身体の中の余計なものをぜんぶ、ぜぇーんぶ、からだの外に出してくれるそうですの。うふふ、そのせいで、ほんのちょっとだけ、おトイレが近くなっちゃうんですけれどね」
「そ、それって……!?」
「……うふふ。彰子お姉様にあのお茶を差し上げたの、わたくしですのよ?」
 とんでもないことをさらりと告白して、悪戯っぽくウインクする裕乃。
 しかし、結衣は告げられた事実にがあまりにも衝撃的すぎて、ただぱくぱくと口を開閉させるしか出来ない。
(あ、あのお茶……なの、本当に!?)
 結衣の手のひらは反射的に下腹部を擦っていた。
 脳裏を、二度と思い出したくなかった記憶が閃光のようによぎる。
 二月の連休の『お泊まり会』で彰子に飲まされた、あの忌まわしき「健康茶」のことは、忘れようったって忘れられない。ほんのわずか、たったティーカップに一杯口にしただけなのに――それから2時間もの間、結衣は20分おきにトイレに駆け込まねばならないようなものだった。言う事を聞かない『おんなのこ』をはしたなく押さえ込み、もじもじとみっともない足踏みをしながら彰子に懇願して許しを乞い、なんど、洗面器に向けて恥ずかしい水音を響かせてしまったかわからない。
 それを、あろうことか、一度にあんなにたくさん!? いくら喉が渇いていたからと言って、500mlのペットボトルに1本分も?! あまりの事に結衣の思考はパニックに陥る。
「うふふ、ちょっと淹れる時の温度と、お湯を変えるとあんな感じに、冷やしてもすっきり飲めるようになりますのよ。これでもわたくし、以前は華道部の副部長をつとめておりましたのよ」
 ウインクしながら恐ろしい事実を告げる裕乃。結衣の耳にはもうほとんどその言葉も入らない。
 独特の苦みと渋みがないせいで油断していた。あの猛烈な利尿作用が、結衣を待ちうけているのだ――そう思った瞬間、下腹部の尿意が一気に強さを増した気がした。
 気のせいだ――とは言い切れない。裕乃のお茶を飲んでからそろそろ1時間。あのすさまじい利尿効果が表れ始めてもおかしくないころだった。
「あっあ、あっ……」
 ガクガクと膝を震わせ、結衣は激しく腰を揺すり始める。いよいよ煮詰まった尿意が限界を迎えつつある。
「うふふ、それじゃあ、おトイレでなければ我慢なさるんでしたわよね? 行きましょうか、結衣おねーさま。そろそろ戻らないと正門も閉まってしまいますし。先生にもに怒られてしまいますわ」
「…………」
 言葉を失った結衣の手を抱きしめたまま、くすくすと笑い、裕乃はそのまま歩き出そうとする。もう駄目だ。もう無理だ。
 全てが彼女の手のひらの上だと分かっていても、結衣にはもう無理だった。
 ――結衣は、顔を紅くして、小さく答える。
「……わ、わかった、から」
「はい? なんですの、おねーさま?」
「も、もう……だめ、ガマン、できないから……っ、も、漏れ、ちゃう……!! だ、だから、こ、っここ、で、……っ」
 ちらり。砂場に視線を向け、結衣はこれから口にしようとするはしたない言葉で、先に耳まで赤くなってしまう。
 ここは小さな後輩たちの大事な遊び場所なのに――限界の尿意が結衣を追い詰めてゆく。
「こ、ここで、オシッコ……する、からぁ…っ!!」
 はしたない懇願が、最後は小さな、けれど切実な叫びとなって結衣の口をついた。実際に尿意は限界に近く、裕乃の巧みな言葉で責め嬲られた少女の小さな出口は、いまにも緩みそうに悲鳴を上げているのだ。
 ぱんぱんに膨らみ、シクシクと鈍い痛みを訴え始めた下腹部を擦り、結衣は戦く。
(あ、あのお茶を飲んで、夜までなんて……絶対に、無理……だよぉっ!! 絶対に、絶対に我慢できない……ぉ、お、オモラシ……しちゃう……!!)
 一度体験したからこそ、その恐ろしさは骨身に染みていた。彰子の手によって施された健康茶による体中の水分を絞り出されるような感覚と、なんど噴き出させてもまったく弱まらない猛烈な羞恥の水流。繰り返すたびに鋭敏になってゆく『おんなのこ』の中心から噴き出す水流の感覚――強力な利尿作用による強制的な排泄の連続は、結衣の心を完全に屈服させていたのである。
 だから。
 だから、ここで。
 今すぐに。
 トイレでなくったっていい。
 ここで、オシッコをする、と――。
 学院の生徒にあるまじき訴えを、結衣は口にする。
「あら。あらあらあら。あらぁ♪」
 口元を押さえて笑顔を見せながら、裕乃は俯いた結衣の顔を覗き込む。殊更に、少女の羞恥を煽るように。
「うふふ、きちんとご自分で言えましたのね、結衣おねーさま。花マルですわ。……結衣おねーさまは、ここで、このお砂場で、『オシッコ』なさりたいんですのね? おうちに戻るまで我慢できないから、こんなお外で、誰がが見てるような、お外で、お尻を丸出しにして、『オシッコ』なさりたいんですのよね?」
「…………ッ」
 こくり。羞恥に歯を噛み締め、悪魔の誘惑に従って、結衣は小さく頷く。きつく握り締められたスカートの奥で、今にも尿意が溢れそうだ。
「うふふ……それじゃあ今すぐ……あ!」
 とてもいいことを思い付いた、とばかり。ぱん、と手を打ちあわせた裕乃は砂場の近くに転がっていた――恐らく幼稚舎の子達が片付け忘れたのだろう――砂遊び用のシャベルを手に取る。
「そうですわ♪ お砂場を使うのでしたら、これがありませんとね! 貸して差し上げますわ、はい、どうぞ、結衣おねーさま!」
「え……?」
 にこりと、極上の笑顔でシャベルを結衣に押し付ける裕乃に、結衣は眉を潜めてしまう。
 後輩の意図が掴めず、けれど彼女の笑顔に不穏な気配だけは感じ取って、結衣は困惑のまま瞬きする。
「うふふ、どうぞ? ほら、これ、使ってよろしいですわよ、結衣おねーさま」
 さも『これはいいものだ』と言わんばかりに押し付けられる、砂遊び用のシャベル。ますます混乱する結衣に、裕乃はとんでもないことを言ってきた。
「あら、お分かりになりませんの? うふふ、結衣おねーさま? いけませんわよ? ねえ、うふふ、ま・さ・か、結衣おねーさま、そのままお砂場に、直接、そのままで、『オシッコ』なさってしまうおつもりでしたの?」
「…………っ!!」
 まさかも何も、そう強いたのは裕乃であるはずなのに――あまりの言い分である。しかし切羽詰まった下腹部を抱え、それに従うしかない悔しさに、結衣は非難と懇願のの入り混じった視線を、縋るように裕乃に向けてしまう。
「うふふ、そんな困った顔なさらないでくださいまし。心外ですわ。私、ちゃあんと結衣おねーさまの事を思ってご忠告さしあげてますのよ。だって、猫さんや犬さんだって、おトイレの準備と、後始末はなさいますものね? 結衣おねーさまのココに、いぃーっぱいになってる恥ずかしいオンナノコの『オシッコ』。そのまま、このお砂場になさってしまったら、大事な大事なお砂場が、おねーさまの『オシッコ』で泥だらけの水たまりになってしまいますのよ? ねえ、『オシッコ』なさっている後で、そんなどろどろのぐちゃぐちゃになったお砂場を、幼稚舎の子達が見つけたら、いったいどうなさるおつもりでしたの?」
「っ、な、なに、言って……そ、そんなトコで、し、しろって、いったの……裕乃ちゃんじゃないっ……!!」
「で・す・か・ら! うふふ、はい、おねーさま。ちゃあんと『コレ』で、結衣おねーさまも、お砂場を汚さないように、おねーさまの『おトイレ』の準備をなさらないと。ねえ?」
 裕乃の言いたいことは簡潔だった。
 要するに。
 このシャベルで砂場に穴を掘って、そこにおしっこをしろ――ということなのだ。
「ひ、裕乃ちゃんっ、そんな……っ」
「あらあら。おねーさま? まさかのまさかですわ。幼稚舎の子たち、毎日ここをお遊戯に使ってるんですのよ? 大事な大事な遊び場所ですのよ。そんなところをまさか、ただ、おトイレが我慢できないというだけの我儘で、『オシッコ』でびちゃびちゃにしてしまってもいいとおっしゃいますの、結衣おねーさま?」
 裕乃がふいに、くいっと下腹部を押し揉んだ。結衣はたまらずその刺激に『ひゃうんっ』とはしたない悲鳴を上げてしまう。
「そ、そんな……っ」
 有無を言わせぬ勢いで、裕乃は結衣の手にシャベルを握らせてきた。自由を奪われた結衣の背中に回り込み、そのまま砂場の方へと、足元のおぼつかない結衣を押しだす。
 目の前に近づいてくる砂場――清潔に保たれた学舎の一角。あろうことかこんな場所で――改めて、自分のしようとしていることを意識させられ、結衣の思考は羞恥の炎に炙られてゆく。
「っ、あぁ、や、ひ、裕乃ちゃん、や、ぁ、っ、ま、待って、待って!! わたし、やっぱりこんなのっ……っぁ、んくぅ……ッ」
 できない、と言いかけて。
 じんと激しく押し寄せる尿意の波に、結衣は言葉を失った。思わず脚の付け根を押さえ込み、きつく唇を噛んで脚の付け根を閉じ合わせる。
 早くもあの健康茶の利尿効果が表れてきたのか、更なる尿意が下腹部を膨らませていくのがはっきりと感じるかのようだ。全身をめぐる水分が、片っ端から絞り取られて下腹部の一点に注ぎ込まれるような――あの、抗いがたい感覚。脚の付け根の恥ずかしい排泄公が、壊れた蛇口のように火照り、何度も何度も猛烈な水流を噴射させる――トイレから一時も離れられなくなるような、あの感覚の予兆。
 我慢――我慢しなければ。乙女のプライドは弱々しく抗議の声上げる。
(がまん、夜まで――我慢……っ……そ、そうよ、夜まで我慢すればいいだけ……なんだ、から……っ 、んぁあああ!?)
 幽かな抵抗の意志は、しかしあっさりと、押し寄せる尿意に打ち砕かれた。
「……ん、ふ、ぁ……ぅ……ッ」
 ダムの出口へ向けて押し寄せる水圧が増す。激しく身を揺すり、結衣ははしたなく声をあげてしまう。物理的に、もうこれ以上の我慢なんて――不可能だ。
(だ、ダメ!! あのお茶、飲まされて、そんなの――ぜ、絶対無理……!!)
「うふふ、どうしましたの、結衣おねーさま?」
 しれっとした顔でよくわからない、という顔をしてみせる裕乃。もちろん演技であるのは結衣にだってわかる。こうなるように仕組んだのは、この可愛らしい後輩なのだ。
(あ、あと、5時間なんて……ぜったい、無理、だよぉ……っ)
 今ですら、こうしてじっとしていることもできず、足踏みして、恥ずかしくスカートの上から股間を押さえていなければならないほどなのに。あのお茶を半リットルも飲まされて――夜まで我慢なんて、何をどうやっても、絶対に、絶対に不可能だと、結衣の身体は訴えている。
「っ……」
 長い葛藤の末、結衣はついの自分の意志で砂場用のシャベルを手に取った。覚束ない足取りで砂場へと向かう。
「うふふ、ごゆっくり♪」
 思わせぶりな裕乃の声援が飛ぶが、ゆっくりしている暇などない。結衣は下腹部を庇うように砂場に腰を下ろし、羞恥を堪えて顔を俯かせ、握ったシャベルを動かし始めた。
 しかし。普通の地面に比べればいくら柔らかな砂場とは言え、プラスチックの小さなシャベルでは思うように掘ることは難しい。まして、恥ずかしい乙女のホットレモンティでぱんぱんに膨らんだ下腹部を抱えたまま、しゃがみ込んでの作業である。
「んっ、ぁ、う、ふ……ッ」
 ふと気を抜けばスカートを握り締め、下着の股布にまでじゅうううぅと熱い迸りを滴らせてしまいそうな状況で、体重を左右の脚に載せ換え、膝を揃えてぐりぐりと動かし、時には、はしたなくも靴のかかとに下着を押しつけて。
 我慢で精一杯の状況では、深い孔を掘るなど不可能に近い。結衣の額にはうっすらと汗も滲み、息も荒くなるばかりだ。
(も、もう、これで――)
 中途半端にほじくり返した砂場の穴。――自分専用の『おトイレ』を見降ろし、結衣はわずか数十秒で結衣は音を上げかける。込み上げる猛烈な尿意に比べればはるかに小さく頼りない、とてもではないが排泄欲求を満足させるには不十分な砂場の穴、けれど、結衣の下半身はもう今すぐにでも下着を下ろしそこをまたいでしまいたいという切なる訴えを続けていた。
 もう、いいよね――と、諦めようとするなり、見計らったように裕乃の声が飛んでくる。
「うふふ、結衣おねーさま? どうしましたの? お手てがお留守になってますわよ? ねえ、おねーさまの『おトイレ』、そんなに小さくてもよろしいんですの? あは、おねーさまの我慢してる恥ずかしい『オシッコ』、そんな小さな『おトイレ』じゃ溢れてしまいすわよねえ?」
「……そ、そんなこと、言わないでよぉっ」
 まるで見透かすように、じっと結衣の下腹部を見つめて裕乃が言ってくる。
 結衣だって、自分自身、どこかで理解していることだった。今の切羽詰まり具合を考えて、しゃがみ込んだ脚元に噴き出す水流がちょろちょろなどという生易しいものではないだろうことは、結衣だって分かっている。
 音消しもない屋外で、近くでも聞こえるくらいに激しく、はしたない、ぶじゅじゅじゅうぅという水流音が地面を抉り、じょぼぼと辺りに恥ずかしい音を響き渡らせる決まっているのだ。
 自分自身のことだ。結衣は、自分のオシッコが同年代の女の子に比べても極端に激しく猛烈で、量の多い体質だという事を、これ以上ないくらいはっきりと理解していた。何度も、何度も、彰子の前で恥ずかしい思いをさせられて、死ぬほど実体験として覚えこまされてきた。
 結衣がひとたび我慢の限界を迎えた時、決壊したダムから噴き出すオンナノコの恥ずかしい水流は、500mlの計量カップを一杯にして溢れさせるくらいの途方もない量なのだ。
 地面に開いた、わずか拳一つが隠れるくらいの小さな穴など、跨いでしゃがみ込んだ途端にあっという間に一杯になってしまうに違いない。
(ううぅ……っ)
 自分のおしっこのために、自分自身で砂場に穴を掘るなんて――それだけでも死んでしまいたくなるほどの恥ずかしさだ。しかもここは、幼稚舎の子達が遊ぶ大事な場所だ。そんなところを、自分の欲望の為に使ってしまうなんて。『オシッコ』のために使うなんて。
 理不尽に打ち震える心は、しかし裕乃の言葉によって巧みに操られている。
 キャンプ等で山の中に行ったときは、こうしてトイレを作ることは、お嬢様の結衣でも知識として知っている。けれど仮にもお嬢様学校に通う結衣にそんな経験はまだなかったし、優麟館の制服を着たまま、学校の片隅に、オシッコを済ませるための穴を掘らされるなんて――ありえないことでしかなかった。
「っ……~~ッ!! も、もういいでしょっ!? も、もうっ、もう駄目……っ」
 なおも乱暴にシャベルを動かし続けていた結衣だが、ついに掘りかけの孔をまえに、シャベルを投げ出して、結衣は限界を訴えた。
 ちらりと裕乃を窺うが、これまであれこれと割り込んできた彼女は特に口を出してこない。いよいよ限界の結衣を見て、これ以上邪魔をすまいと思ったのか。
 あるいは――これから結衣がしようとしている恥ずかしい行為を、一部始終しっかり見届けようとしているのか。優麟館の生徒が砂場の前でスカートをたくし上げ、しゃがみ込むなどと言うはしたない行いを続ける結衣から視線をそらすどころか、しっかりと見つめている後輩の姿に、結衣の羞恥はなお激しく沸騰する。
 しかし、少女の身体はもはや言う事を聞かない。下腹部は完全に尿意に屈し、排泄欲求を全てに優先していた。結衣は砂場に掘った小さな穴――自分専用の『おトイレ』を跨いだ。
 トイレ、おトイレ。
 今は一刻も早く、おしっこをしたい。
 ここがその場所だ。この砂場に掘られた小さな穴が、結衣のためのトイレなのだ。その為に恥も外聞もなく、後輩に訴えてきたのである。今更止めるなどあり得ない。たとえお外で、トイレではない場所であっても――下腹部をぱんぱんにふくらませ、くつくつと沸騰を続ける尿意はもう一刻の猶予もない。
 砂場の穴を見降ろし、ほんのわずか、一瞬だけの躊躇のあと、結衣はすぐに行動に出た。慎重に周囲を見回して、他に誰も視線がないことを確認し、そっと腰をかがめ、スカートの下へと手を差し入れて、股間を覆う下着に手をかける。スカートをたくし上げ、下着を引き下ろし、砂場に掘ったばかりの穴を――結衣専用の『おトイレ』をまたいでしゃがみ込む――
 その、瞬間。
「すとーっぷ。そこまでですわ。結衣おねーさま」
「え……っ」
 割り込むように前に出た裕乃は、スカートへと伸びた結衣の手をしっかりと掴み、じっと結衣の顔を見上げてきた。そのまま、結衣の肩を掴んで無理矢理立たせ、下着をぐいっと引き上げる。
 ぱちん、と下腹部を叩く下着のゴムに、結衣は『はぁんっ』と身をよじった。
 手を押さえられて前押さえすらできないまま、結衣は恥ずかしく腰をよじり、モジモジと太腿を擦り合わせてしまう。
「ひ、裕乃、ちゃん、離してっ……と、トイレ……っ、お手洗い、させてっ……!!」
「あら、結衣おねーさま? 何をおっしゃってるんですの?」
「なに、って……っ、も、もう意地悪やめてよ!! も、もう我慢できないの、お、オシッコ……漏れ、ちゃう……っ!! ちゃ、ちゃんと、こ、ここで、裕乃ちゃんの言うとおりに、こ、ここで、お、オシッコ、する、からぁっ……!!」
 降ろした途端に元に戻された下着を葦の付け根に食い込ませ、身をよじる。
 だんだんだんっ、いまにも緩みそうな水門を引き締めるため、激しい足踏みを繰り返し、靴の爪先をぐりぐりと地面にねじ付ける。ほぼ準備を終えかけたところで急に邪魔されてしまったのだ。手を塞がれて、前押さえすら自由にならず、結衣は激しく身悶えして暴れる。
 しかし、裕乃は明らかな失望の顔。
「結衣おねーさま。本当に、何をおっしゃってますの? さっきから、一体何の事ですの?」
「え……で、でもっ」
 いきなりの裕乃の態度の豹変に、結衣は困惑する。さっきまであんなにも煽るような事を言っておいて――目の前には、激しい尿意と、羞恥を堪えて必死になってシャベルを動かし、せっかく作ったおトイレがあるのだ。
 それなのになんで今になって邪魔をするのか――なおも誘惑を振り切れず、砂場と裕乃の顔を交互に見比べる結衣を、裕乃はピシと指差して。
 裕乃は、たっぷりと悪意を含んだ笑顔を見せる。
「でも、っておねーさま。うふふ。ねえ、結衣おねーさま? おねーさまは、そこで、そんなところで、いったい、『ナニ』をなさるおつもりだったんですの? ねえ?」
「な、なに、って……っ」
 決まっている、おしっこだ。我慢できない、漏れそうな、下腹部の乙女のダムをぱんぱんに膨らませているおしっこだ。いきなりの前言撤回。結衣の身体はもうおしっこの準備をすっかり整えており、いきなりの排水命令の緊急停止に、下腹部では乙女のホットレモンティが激しい抗議を上げている。
「で、でも、っあ、ぁっ」
「ねえ♪ 結衣おねーさま? そこは、幼稚舎の子たちが遊ぶ大事なお砂場なんですのよ? そこで、おねーさまはいったいなにを始めようとなさっていましたの? うふふ、差し支えなければ教えてくださいませ?」
 砂場に掘った穴を指差し、くすくす。意地悪に口元を緩め、八重歯をのぞかせて。小悪魔めいた笑顔が結衣に近付いてくる。
「だ、だって、だってっ、ひ、裕乃ちゃんが、言ったんじゃない、こ……ここで、ぉ、おしっこ……しなさいってッ」
「あらあら。何をおっしゃいますの結衣おねーさま。ひどいですわ、心外ですわ……ううっ、ぐすっ」
 あからさまな泣き真似まで始める裕乃に、結衣はもはや混乱の極みである。トイレを我慢することで精一杯の頭は、裕乃の態度の豹変についていけない。
「……わたくしは、本当にどうしても我慢できないなら、そこでおしっこしてもいいですよ、って言っただけですのよ。結衣おねーさまに命令なんて、そんな大それたことなんかしてませんわよ?
 それにですねえ、結衣おねーさま。そんなの常識で考えて、冗談に決まってるじゃありませんの。ねえ?」
 くすくす。目を細め、口元手を当てて。とても優雅に、上品に。
 優麟館の生徒に相応しい態度で、裕乃は結衣を見て微笑む。
「……ふつうのオンナノコは、どんなに我慢できなくても、こんなお外で『オシッコ』なんか、絶っっっっ対にしませんわよ、ねぇ?」
「っ………そ、そんなっ……」
 改めて羞恥を刺激され、結衣は耳まで赤くなってしまう。仕向けていたのは裕乃であるはずなのに、梯子を外される行為をされても結衣は反論できなかった。激しい尿意にそれだけの余裕がなかったのも事実だが、裕乃の言っていることは全く正しく、理にかなったものだからだった。
「それなのに結衣おねーさまったら、勝手に勘違いして、本当にパンツまで脱いで、しゃがんでしまいそうなんですもの。いったいどこで誰が見ているのかもわかりませんのに。ここは、幼稚舎の子達の、大事な遊び場所ですのよ? そこに、『オシッコ』なさろうとしてたんですのよ? ねえ、本当の本当に、本気でしたのかしら、結衣おねーさま? まさか本当に、『ここ』で『オシッコ』なさろうとしてましたの?」
 くすくす……ことさらに結衣の羞恥をくすぐるような言い回しは、しかし覿面に効果を見せる。崩壊の危機を迎えたダムの水門を押さえこんで、膝を擦り合わせ、身体をくねくねと揺すりながら、じたばたとみっともない足踏みすら始めてしまった。
「で、でもっ、でも、も、もう我慢できないのっ、あ、あんなにお茶、飲まされちゃって、夜までなんて――」
「うふ、うふふふふ。ねぇ、おねーさまって、本っ当に可愛いんですのね♪ あーんなデタラメ、本気で信じちゃったんですの?」
「えっ……!?」
 結衣の懇願を遮るようして、裕乃はちろりと舌を出してみせる。
 小柄な身体をぴたりと結衣に押しつけて、無防備になっていた結衣の下腹部をさわさわと撫でさする。。絶妙の力加減でもたらされる刺激に耐えかねるように、結衣は「はぅぅっ」と呻いて身体を折り曲げてしまう。
「うふふ。ねえ結衣おねーさま? わたくし、一言もあのお茶が、彰子お姉様のお茶だなんて言ってませんわよ?」
「そ、そんな、だってっ……」
「ですから、結衣おねーさまがお飲みになったのは、ごくごく普通の、なんの変哲もない、ただのお茶ですのよ? 天地神明に誓ったってよろしいですわ。……うふふ、ねえ? それなのに、結衣おねーさまったら、そんなにみっともなく悶えて、前屈みになって、スカートの前を握り締めて……そんなになるまで我慢できないくらい、『オシッコ』がなさりたいんですのね?」
「え、ぁ……」
 急転直下のネタばらしに、結衣の心が揺らぐ。いまにも下半身を突き抜けてしまいそうな衝動に、結衣はぱくぱくと口を開閉させるだけだ。
「その、普通のお茶を飲んだだけですのに――結衣おねーさまはなにをなさろうとしてらしたんですの? うふふ、この、幼稚舎の子達の大切なお砂場で、穴を掘って、『オシッコ』をなさろうとしてましたのよねぇ? わたくしより先輩ですのに、おトイレまで我慢できなくて――ううふ、ねえ? こんな見晴らしのいいお外で、スカートをたくし上げて、下着を下ろして、大事なところを丸見えにして、しゃがみこんで――」
「ぁ、やだ、……やだ、やめて……やめてよう……っ」
 熱を持って囁かせる後輩の言葉は、まるで毒のように結衣の心に染み込んでゆく。限界を煽ると同時に、いかに結衣がはしたなくみっともない女の子であるのかと――優麟館の生徒にあるまじき、恥ずべき行為をしようとしていたのか、と。
「“ただの”お茶なのに……そんなになるまで我慢ができなくなるなんて――おねーさま、ここって、そんなにゆるゆるの、ガマン出来ないはしたないオンナノコなんですの? うふふ、結衣おねーさまって、本当に恥ずかしいオンナノコですのねぇ……♪ 下級生の皆さまがが知ったら、みーんな幻滅ですわよ? それとも結衣おねーさま、こんなところで『オシッコ』済ませてしまおうなんて……まだお手洗いのしつけもできてらしゃらないのですかしら? ……うふふ、幼稚舎の子達だってとっくに済ませていますのにね……?」
 もはや言葉もない。俯いてしまう結衣のそばで、裕乃はにこりと笑顔。
 心から、先輩を信頼し、思いやるかのように――悪魔の言葉を告げる。
「さ、ですから結衣おねーさま? ちゃんと、夜まで我慢、できますわよね?」
 永遠にも等しい結衣の地獄は、まだ始まったばかりだった。




 (了)
[ 2014/02/16 19:05 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

男子トイレ閉じ込めの話。 

 上手くまとまらなかったのですごく中途半端。




 いったい、なんの冗談だろう。
 人に話したら笑われてしまうような現状を、私はけれど決して笑い飛ばすことなどできないままに、口を噤む。
 私がここで目を覚まして2時間――つまり、私がこの部屋に閉じ込められて2時間以上が過ぎている。――私の携帯の時計が狂っていなければ、だけど。
「んぁ……っ」
 身じろぎとともに、思わず小さな声が漏れる。
 腰上を伝う、耐えようのない刺激が、ちくちくとおなかの中を刺激する。まるで焦げるようにむず痒い感覚は、刻一刻と激しさを増していた。
 決して綺麗とは言い難い床の上に、力なく腰を下ろしたまま。私は懸命に、『そこ』から意識を遠ざけようとしていた。
 けれど、気を失う前にたっぷり口にしたジュース2杯が、いまや耐えがたいほどの水の誘惑を伴って、足の付け根に押し寄せてきている。
 『そこ』から視線を逸らそうとすればするほど、私はちらりちらりと、部屋の片隅を見つめてることを止められずにいた。
「っ…もぉっ…」
 憤りとともに、怒りが口を衝いて出る。
 何もかも自由にならず、やがてはこの状況を仕組んだやつの思い通りになってしまうことが、たまらなく癪だ。
「っ、ねえ、見てるんでしょ!? いい加減、馬鹿なことはやめてよっ!!」
 振り仰いだ天井。
 たぶん、どこかで見ているであろう誰かに向けて、私は叫ぶ。声が届いているかは果てしなく怪しいが、叫ばずにはいられなかった。
「まだ今なら、大したことにはならないんだから!! 早く、ここから出して!! ドアを開けなさいよっ!!」
 無駄と分かっていでも、叫ばずにはいられない。もう何十回も、何百回も同じことをして、けれど一度も反応はなかったのだ。
 でも、だからと言って、やめるわけにはいかなかった。
 私にはもうそれくらいに、余裕がない。
 今はまだこうして考えている余裕があるけれど、そのうち本当に切羽詰まってしまえば――もう、きっと形振り構わなくなってしまうだろう。それこそがこの部屋を用意したやつらの目的なのだとわかっていても。
 私はまた、ちらりと。ほとんど無意識に、見まいと心に決めていたはずの部屋の隅視線を向けてしまう。
 そこにずらりと用意された『設備』は、白く輝いて、私の忌々しい視線を受け止めていた。


 『それ』は、馴染みこそ薄いものの、決して知らない構造ではない。
 たぶんどんな女の子だって、小さな頃には一度くらい目にしたことはあるんじゃないだろうか。お父さんに連れられてとか、学校の掃除の時間に、とか。
 けれど、『それ』は私たちには生涯ずっと、関わることのないはずのものだ。
 ……よっぽど特殊な趣味や、専門に関わるような仕事をしているのでもなければ、まともな神経でそれを欲することなんて普通はないだろう。
 そもそも、それを言い出すならいま私が閉じ込められているこの部屋自体、私の人生にとって縁遠いもののはずだった。

 ――男子、トイレ。

 幼稚園やら小学校低学年の頃ならいざ知らず、まさか今になってこんな場所に踏み入れるなんて、それ自体が屈辱だ。けれど私は理不尽にも、この異性専用の排泄設備の中に、閉じ込められてしまっていた。
 歓迎一色のムードの中、美味しいジュースとお菓子を振舞われて、ふいに猛烈な睡魔に襲われ、気付いたら男子トイレの床の上。
 あまりにも最悪な目覚めに、気分も最悪だった。勿論すぐに手も顔も洗ったけど、まだ少し吐き気もした。
 ……あまり自分のことは言いたくはないけれど、私はどちらかと言えば、異性には(同性にも)人気のあるほうだ。告白された回数だって少なくない。
 そんな女の子をわざわざこんな場所に閉じ込めるなんて――どう控えめに考えても、不埒な目的があるとしか思えなかった。
 鞄は無くなっていたけれど、お財布や生徒手帳は無事。携帯もポケットに残っていたものの、電波は全く入らない。現状、ほとんど時計代わりぐらいにしか役に立たない。
「…………ホント、信じらんないっ……」
 苛立ちまぎれに床を蹴る。かつん、と高い音を立てるタイルの音が、室内に反響する。
 靴底に響く衝撃に軽く背中を竦ませ、身震いした。
「んっ……」
 最初はもっと悪い、犯罪的な、誘拐とか拉致とか、別の想像をしていたのだけど。どうやらここに私を閉じ込めた連中の目的は、もっと全然、違うところにあるらしい。
 その理由が、この男子トイレの……私の監禁されている部屋の構造だった。

 たぶん、どこかの大きなデパートみたいな建物の中なのだろうと思う。大声を出しても誰の返事もないし、小さく唸るモーターのような音以外何も聞こえないことから、近くに人は誰も居ないのだろうと分かった。
 壁のどこにも窓がないことと、天井の換気扇から、なんとなく地下なのじゃないかと想像していた。
 全体の広さはだいたい教室の4分の1くらい。女の子1人が座り込んでいるには、少々手広いくらいだ。
 天井の照明は蛍光灯で、わずかにちらついて点灯していた。床の汚れ具合から見ても、あんまり使われている場所ではないらしい。
 入り口は当然のように一つだけで、そこにはご丁寧なことに、無数の南京錠とチェーンロックが駆けられており、体当たりでもびくともしないほどに執拗に閉ざされていた。ことによると、ドアの外にも何かかんぬきみたいなものが用意されているのかもしれない。
 洗面台がひとつと、個室がふたつ。掃除用具入れが一つ。そして――壁に並ぶ、小用便器がよっつ。それが室内の全てだ。
 このうちの個室と掃除用具入れは――男子トイレにだって『大』用の個室があることは、流石に私だって当然の知識として知っているが――それらの個室のドアも、入り口と同じように徹底的に封印されていた。個室の上と下にわずかな隙間はあるが、とてもそこを登ったり潜り抜けたりできるような余裕はない。
 要するに。ここには洗面台と男子トイレの小用便器だけが、ずらりと壁に並んでいるだけなのだ。
 このトイレの訳の分からないロケーションは、不可解であると同時に不快であり、恐ろしくもあった。目を覚まして最初の1時間くらいは一体これから何をされるのかといろいろと嫌な想像もしたし、怖くなって泣き出しそうにもなった。
 つまり、誰かがやってきて、私を動けないようにして酷い事をするのじゃないかとか。どこかに連れて行かれる途中で閉じ込められているのじゃないかとか。このまま誰にも見つけてもらえずに、ここで飢えて死んでしまうのじゃないのかとか。
 けれど恐らく、私をここに閉じ込めたやつの目的は、そんな事じゃないのだと、しばらくするうちに分かってきた。
 時間の経過と共に、私はこの部屋の構造の意味を、嫌でも思い知ることになったからだ。
 そう。こんな場所に閉じ込められて、時間が経てば。やがてどうしても、困ったことになってくるものがある。

 ……トイレ、だ。

 初めのうちからその事に気づいてはいた。けれど、少なくともその時まだ、私は尿意なんて欠片も覚えていなかったし――困るとしてももっとずっと先のことだと考えていたのだ。けれど、わずか数十分で、私はもう形振り構わずに股の間を押さえ込んでいなければならないほど、オシッコが我慢できなくなっていた。
 けれど。この部屋の中には、洗面台のほかは男子用の小用便器しか残されていないのだ。
 その事実に気づいたとき、私は少なからず動揺していた。閉じ込められてから1時間近くが経ち、急激な尿意が迫っていた頃だったからだ。
 そうなってみると、私をこの部屋に閉じ込めた連中の意図は、それ以外あり得ないような気がしていた。
「じょ、冗談もいい加減にしてっ……ねえ、はやく!! はやく、ここ、開けなさいよッ!!」
 震える爪先をぐりぐりと床にねじ付け、引けた腰を左右に揺すり。一時も同じ姿勢を保てないまま、ぐるぐるとその場を歩き回り、大きく足踏みし、ぴょんぴょん飛び跳ね、両手をきつくスカートの上から脚の付け根に押し当てる。
 遠からず限界が来るのは明らかだった。
「ね、ねえ!! はやく!! 早く出してよおっ!! あ、あとで、なんでもするからっ……わ、私っ、も、もうっ……!!」
 オシッコ我慢できない。
 最後の一言を飲み込んで、狭い部屋の中を何度も見回す。けれどそこにある光景はさっきと変化のないまま。
 このまま――もし、本当に我慢できなくなってしまったら。
 洗面台と、男性用の小用便器。
 あとは、せいぜい床の隅にある、清掃用の排水口。
 私はそのどこかで、オシッコを済ませるしかないということになる。

「っ……」

 ぶる、と込み上げてくる衝動に、背中が震える。
 できるだけ弱味を見せまいと、懸命に堪えていたのが仇になってきた。スカートの上からでもわかるくらい、ぱんぱんにオシッコを溜め込んだ下腹部が、大きく前にせり出してきている。
 自然、視線は壁に並ぶ白い、男性用の小用便器へと吸い込まれていく。決して綺麗とは言い難く、誰が使ったのかも想像したくないような、薄汚れた、女の子のためのものではないオシッコの設備。
 けれど、――私はいつか、あそこでオシッコを済ませなければならない。
 それが嫌なら、オモラシか、あるいはあの洗面台か、このトイレのどこかの床の上で、オシッコを垂れ流すしかない。
 それが恐らくはこの部屋用意した奴等の目論見ということなのだろう。
 一体どこの変態どもか知らないけれど、思い通りになるのは癪だった。折れかけた心を奮い立たせて、背筋を伸ばす。
「負けるもんですか……っ」
 いつ終わるとも知れない我慢は、続く。




 (初出:書き下ろし)
[ 2012/12/26 17:24 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

お嬢様我慢の話 

 御令嬢我慢のバリエーション。




 街中を、曇り一つない黒い車体を輝かせ、高級そうな送迎車が行く。
 ほとんどエンジン音も響かせない車内の後部座席には、一人の少女の姿があった。
 冬の穏やかな日差しにも美しく輝く深い黒髪は、絹を紡いだように乱れなく、すべらかな肌は処女雪のように無垢で。触れただけで溶けてしまいそうに淡い桜色の唇は、我を忘れてそこに触れてしまいたくなるほど。
 少女はひとめ見ただけで忘れようのない美しさを備えていた。
 そしてその美しさは外見だけに及ばない。行儀よく並ぶ膝は、革張りのシートの上に慎ましやかに揃えられ、重ねた手のひらがその上に乗せられている。伸ばされた背筋もぴんと芯が通っているようにまっすぐで、わずかな気の緩みも見えない。
 真新しい制服は、この春から通うことになった進学校のもの。御仕着せの制服でさえ、少女が纏えば神々しく光に包まれているかのようだ。
 少女の名は橘霧香。政財界には名の知れた橘家のご令嬢であった。
 戦後の混乱期でその勢力を大きく弱めたものの、いまだに旧橘財閥の名は広く知られ、その影響力は計り知れない。そんな名家の一人娘である霧香が、都内有数の進学校とはいえ、私立の学校に通うことになったというのは、一部ではかなりの驚きをもって迎えられた。
 橘家のご令嬢ともなれば、進学先と言えどもそれ相応の品格を持つ学院であるというのが普通のことだからだ。場合によっては海外の学校への留学もありうる。
 だが、一般の学舎への進学は霧香の強い希望によるものだった。いまの時代、前時代的な橘家令嬢としての特別扱いを嫌うゆえの行動であり、その為に霧香の父はあちこちを奔走し、説得を試みたのだが――最終的には霧香の強情さに折れたという結果となる。
 最初、霧香は電車通学を希望していたのだが――それだけはやめてくれ、と父に懇願され、運転手による送迎ということになったのだった。
 狭い道をほとんど振動もなく進む送迎車の後部座席。シートベルトを着けた霧香の表情は、しかしどこか硬いものを含ませている。
 ハンドルを握る運転手は、わずかに視線をあげ、ミラー越しに霧香を見る。
「あと5分ほどで到着いたします」
「……そうですか」
 運転手の言葉にも、霧香はわずかに表情を強張らせ、小さく頷くのみだった。
 その表情が硬いことに気付きつつも、運転手はフロントガラスへと視線を戻し、黙って車を走らせる。
 年に不似合いな落ち着きを見せてはいても、まだあどけない少女なのである。慣れない体験に緊張しているのだろうと、そう考えたのだ。
 この時、この場に居合わせたのは彼だけで、最後に霧香と言葉を交わした使用人も彼であった。それゆえに、この時彼が気を利かせていれば、これから起こる悲劇も回避することは容易だったろう。
 だが、それを理由にこの初老の運転手を責めることはできまい。
 不意の事態にも対応できるよう、心を砕くことが一流の使用人の務めであるとはいえ、なにもかも予想して行動できる人間など居る筈もない。
 まして、彼にとってはあまりに予想外だった。
 まさかこの時。橘家のご令嬢が、既にもうどうしようもないくらいに猛烈に、トイレを催してしまっていたなどということは――




 来賓室の調度は丁寧に整えられていて、霧香の目にも品良く映るものだった。
 学院に到着するなり大勢の教員に出迎えられて面食らったまま、まるで召使いにかしづかれる姫君のような対応で来賓室に通されてはや10分。
 すぐにやってくると言っていた理事長はいまだ、姿を見せなかった。
 テーブルの上には上等なティーセットで紅茶が湯気を立て、半分ほど中身の減ったティーカップが置かれている。
 今日は休日と言うこともあり、窓の外の校庭には人影もなく、野球のフェンスが風になびいているばかりだ。
「っ…………」
 辺りにも人気はなく、部屋唯一の出入り口である樫のドアは重く閉ざされたままである。来賓室の中に一人、じっとソファに腰を下ろし。
 霧香は、耐えがたいほどの尿意と戦っていた。
「……っ、は…ぁ……っ」
 あどけなさを残す整った顔立ちは困惑に歪み、荒い吐息が形の良い唇を震わせる。
 無駄な装飾もなく整えられた爪をもつ小さな手のひらは、紺の制服に包まれた細い腰の上、脚の付け根に近い下腹部にぴったりあてがわれていた。
 革靴のかかとを持ち上げ、爪先だけを揃えて絨毯の上に下ろし。浮かせ気味の腰を揺らしてはきしきしと椅子を軋ませて。
 はしたなくも片方の手を脚の付け根へと重ね、せわしなくそこをさする姿は、深窓のご令嬢がいままさに、恥ずかしい欲求に屈せんばかりの瀬戸際にあることを知らせていた。
「っ、ふぅ……、っ」
 ぴくん、と汗のうっすらと滲むうなじを震わせ、霧香はもう一方の指先を口元へ寄せた。
 こぼれそうになる喘ぎ声を堪えるため、曲げた小指にそっと歯を立てて、己のうちから湧き上がる衝動に必死に耐え続ける。
 きつく足の付け根と押し当てられる手が、プリーツのスカートを脚の間に巻き込むようにして皺を寄せているものだから、小刻みにせわしなく擦り合わされる太腿の動きまでもが手に取るように見て取れる。
「ん、ぁ……っ」
 プリーツスカートを握り締めた白い指先が小さく震え、はしたなくも脚を隠す布地を絞り上げるような皺をつくる。休むことなく擦り合わされる内腿は、上等なソファをなおギシギシと軋ませるほどだ。
 ひとけのない来賓室の中、深層のご令嬢の催した尿意はますます猛烈なものへと激しさを増ず。美しき少女は、必死に息を詰めながら、身体をよじって込み上げてくるはしたない衝動に抗い続けていた。
「あっ、あ……っ……ふぁ……ぁあっ」
 桜色の唇が小さく開閉し、甘く切ない吐息を繰り返す。
 ぎゅっ、ぎゅっ、と細い腕が撫でつける手のひらの下では、石のようにぱんぱんに張り詰めた下腹部が、硬く指先を押し返す。
 押さえこんだ足の付け根、一番脆い部分をびりびりとむず痒い痺れが刺激し、乙女の秘密の出口はわずかな油断を突いて大きく緩みそうになる。
(……だ、だめ……お、お手洗いぃ……っ)
 来訪途中の送迎車の中で、すでに限界に近かった尿意は、時間の経過とともに大きく膨らみ、いまやあどけないご令嬢の身体を余すところなく支配していた。
「んぅ、……くぅぅ……ぁっ……」
(だ、だめぇ……っ。あ、あっ、こんな……っ……お、お手洗い……お手洗い……っ!!)
 たとえ天上の美しさを備えた可憐な乙女であろうとも、一日に数度の“ご不浄”を済ませないわけにはいかない。身体の内側に膨らむ下品極まりない衝動に身をよじるように耐えながら、霧香は『おトイレ』を欲していた。
 どうして先に用を済ませなかったのかと問われれば、不運なめぐり合わせと、とてもそんな事を切り出せる雰囲気ではなかったからだとしか言いようがない。霧香とて年頃の少女であり、年上の男性に囲まれる中でお手洗いを申し出るのは口にし辛いことだった。
 様々な偶然の積み重なりで、なんと霧香は今朝から一度もお手洗いに行っていない。昨夜から済ませることができていない排泄欲求が、もはや限界だと下腹部で激しく暴れ回る。
 もはや猶予は残されておらず、一刻も早く、排泄を許された場所へと駆け込まねばならない状況なのだが――
(あ、あっ……だめえ……っ!!)
 仮に部屋を抜け出してお手洗いに立ったとして、その間に理事長がやって来てしまったらどうするのか。
 進学を決めるにあたって、父がこの学院にあれこれと無理を言ったことは、霧香にも理解できていた。そんな霧香を快く迎え入れてくれた、言わば恩人でもある学院の理事長を放り出して、先にお手洗いを優先させる訳にはいかないのである。まかり間違えば、学院を出かけ先のお手洗いにしたとも取られかねないのだ。
 霧香の常識に照らし合わせてみれば、お手洗いを借りることが許されるのは精々が来訪の予定がすべて終了した帰り際である。訪ねて行った早々にトイレに駆け込むなど、はしたないを通り越して言語道断だ。滞在が長時間にわたる場合であれば、一段落したところで申し出ることも不可能ではないかもしれないが――それにしても失礼にあたることに変わりはない。
 一般大衆とは少々かけ離れた社会通念に、幼い頃から触れて育ってきた名家の令嬢にしてみれば、そんな己の育ちへの矜持もあったのかもしれない。
 かち、かち、と柱時計が振り子を刻む中、霧香は半分意地にになって我慢を続けているのだった。
 だが、遅い。
 霧香の来訪を歓迎していたはずの理事長が来賓室を訪れる気配はいまだない。
 誰も居ないのをいいことに、そわそわと落ち着きない様子を隠すこともせずに、霧香は何度もドアの方を伺う。これだけでも十分なマナー違反だが、幼い頃から繰り返し躾けられた礼儀作法を忘れてしまうほどに、霧香の我慢は切羽詰まっているのだった。
 さほど広くはない来賓室はしかし、作りつけの窓に重い樫のドアと、柔らかなソファに壁紙に至るまで調度を統一し、美しい調和を保っている。床に敷かれた絨毯は、霧香も知らない見事な飾り織りで、部屋の彩りを増していた。
 しかし、退屈な時間をくつろいで過ごすための工夫が随所になされた一室は、いまや霧香とって牢獄に等しい空間である。
「あっ……ああっ……」
 身体の内側で渦を巻き荒れ狂う恥ずかしい熱湯は、制服の下腹部をパンパンに張りつめさせ、ぐらぐらと下品な欲求を湧きたたせる。
 堪えようとしてもどうしても抑えきれず、小刻みに揺れ動く腰の上、石のように硬く張り詰めた下腹部には、少女の身体が長時間かけて作り出した恥ずかしい水が、今にも溢れんばかりになみなみと湛えられていた。
(お、お手洗い……っ)
 今すぐにでも、トイレに駆け込んで熱い本流を思い切り身体の外へとほとばしらせてしまいたい。慎み深い令嬢にあるまじき想像が、霧香の脳裏をかすめる。
 あまりにも恥ずかしく、はしたない想像に、少女の白い頬がすうと赤くなってゆく。
 しかし、幼い頃から厳格な躾を受けて育った深窓の令嬢をして、いよいよ高まる尿意はなお耐えがたく、紺の制服に包まれた細い肢体にはさらに強く、激しく、身体の内側で膨らみ続ける圧力が圧し掛かる。
(ま、まだなのかしら……)
 本来、迎えてくれる側の理事長を急かすようなまねはしてはならない。無論相手側の不作法もないわけではないが、それを表だって責めるようなことは、自信の品格にも関わることだ。
 こうして尿意に苦しめられているのは、あくまで霧香の都合であり、どんな理由があれど訪問前にお手洗いを済ませていなかった霧香の自業自得なのである。
 しかし、耐えがたいほどの尿意に晒され続け、霧香は、いまだ訪れる気配すらない理事長に対し、自分の立場も忘れて苛立ちを覚え始めていた。
(だ、だめ……こ、このままじゃ、本当に……)
 後に続く言葉を飲み込んで、切羽詰まった表情をみせ、霧香は何度も室内を見回す。なんでもいいから、何か頼れるものが欲しかった。
 最初この部屋に案内された時、霧香は名家のご令嬢らしい思い込みで、来賓室というくらいだからご不浄が備え付けられているのではないかと期待していたのだが――勿論、市井の学校にそんな特例があるはずもない。
 それどころか来賓室の中には余計な装飾はほとんどなく、精々がテーブルの上のティーセット程度だ。
 少し冷めた紅茶が視界に入ってしまい、霧香は慌てて視線をそらした。
 手をつけないのも不作法にあたる。無理をして半分口をつけはしたが、もう一滴も水分は身体の中に入れたくはなかったのだ。
(は、はやく……ココ、空っぽにしたいのに……っ)
 きゅうっ、と下腹部をさする手のひらに力がこもる。
 本当は思い切り脚の付け根を握り締めてしまいたいのを堪え、何度もうねる尿意の波を、意志の力と、乙女の秘密の場所、水門の力で懸命に押さえこむ。
 だが、少女の事情なとお構いなしに、水の誘惑はますます激しさを増すばかりだ。
 下半身は切に排泄を訴え続け、わずかに口にした紅茶すらも、早々と恥ずかしい熱水へと変わり、乙女の下腹部へと集まって行くようにすら思えてならない。
(お手洗い……はやく……、はやく……っ)
 冷静に考えれば、果たしてこのまま最後まで我慢が続けられるかは怪しいものだ。橘家の令嬢の直接の来訪なのだから、まさか『これからよろしく』の一言で話が済むはずもない。理事長との面談の後には学内の見学や教師の紹介などもあるはずだった。
 その途中で、訳を説明してお手洗いを借りるべきか? 霧香の心が揺れる。しかしこちらから訪ねていった学院での歓待の最中、さして時間も経っていないうちにお手洗いを要求するのは、やはり礼儀に反する行いだ。
 たとえば。そう、仮に。
 ありえない仮定としても、霧香は想像を巡らせてしまう。2時間や3時間、学院に居たというなら、常識的に考えて女の子がお手洗いに立ってもおかしくはないだろう。では一体、どれくらい待てばお手洗いの場所を訪ねても良いものだろうか? 1時間? 30分? 10分などというのは論外だろうか? しかしうまく理事長が話を切り上げてくれれば、そのタイミングを見計らって――
 はしたないにも程がある想像を繰り返してしまうのは、それほど霧香が追い詰められていることの証だ。
 もっとも、たとえ3時間だろうが5時間だろうが、本来は出先でお手洗いを汚すなんてこと自体が霧香の礼儀の基準からすれば、できる限る慎むべきことで、余程切羽詰まったことがなければ避けるべきだと言っている。
 だが。いまの霧香はそんな選り好みを出来る状態にはない。家に戻るまでどころか、今すぐ理事長がやって来て、面会の最初のあいさつが終わるまでの10分の我慢すらできないかもしれないほどに追い込まれているのだ。
(そ、そうよ……こ、こんなところで、お粗相してしまったらっ…………)
 不意に、霧香の心の中で恐怖が膨らむ。
 確かに礼儀作法も大事だろう。でも、まさか。もしも、万一。
 無理に意地を張って、我慢しきれなかったら――そんな最悪の事態の想像が頭をよぎったのだ。具体的な『お粗相』という言葉に、これまでにも何度か浮かしかけた腰が、躊躇と困惑の袋小路の中で、再びソファから持ちあがろうとする。
(やっぱり、先にお手洗いに――あ、後で、お詫びすれば……っ)
 差し迫った下腹部の事情に衝き動かされ、霧香はかたく張りつめた下腹部を庇うように、腰を浮かせる。
 その体制で、霧香はしばし静止してしまった。じっとしているでもない、行動に移るでもない、実にぐずぐずとしてみっともない姿。しかし霧香はなお迷ってしまう。
(…………っ)
 あと少し、あと少しだけ待てば。ちゃんと我慢して、失礼のないように――家に戻るまでは無理だとしても、せめて不自然でないくらいまできちんとして、それからお手洗いを借りれば。乙女の、令嬢の羞恥心が必死に自制を叫ぶ。乗り切ってしまえば、一切の恥をかかずに済むかも知れないのだ。
 こんなに迷っている暇があったら、もっと早く、こっそりとお手洗いに行っておくべきだった――そんな後悔も一緒に頭をよぎる。そもそもこんなに我慢を続けてしまうこと自体、令嬢としてどころか、一人の乙女としてあってはならない話なのだ。
 躊躇と逡巡、諦観と決断。いくつもの選択肢が、令嬢の中でせめぎ合う。
 それでもなお、刻々と高まり続ける尿意は決して和らぐことはないのだ。
(や、やっぱり……も、もう駄目……!! が、我慢できないわ……!!)
 おそらく1分以上もそうしていただろうか。
 とうとう、霧香は恥ずかしい尿意に屈したことを自ら認め、席を立ってしまう。
 理事長に挨拶もなく、勝手に外のお手洗いを使ってしまう――それだけ自分が切羽詰まっており、もうどうしようもないくらいおしっこを我慢していたと宣言しているのに等しい行為だった。
 後ろ髪を引かれる中、霧香はゆっくりとソファから身を起こす。
 身体を曲げた瞬間、じんっと膨らむ尿意に思わず声をあげそうになる。敏感になった下腹部の重みをずしりと感じながら、本当は忙しなく擦り合わせたい脚を、驚異的なまでの自制心で押しとどめ、焦る気持ちを押し殺しながら、そろりそろりと脚を進めてゆく。
 霧香は重い樫のドアにそっと手をかけ、ドアの向こうの気配を伺い、誰も居ない事を確認する。
(…………し、仕方ないのよ……も、も、本当に……)
 最後の躊躇を振り切って、霧香はドアをそっと、静かに押し開けた。



 廊下はひんやりとした空気に満ちていた。
 勝手の分からない校舎ではあったが、あまりゆっくりしていて誰かに見咎められる訳にもいかない。出来れば誰にも知られないままお手洗いを済ませ、手早く戻り――可能なら気付かれないように振舞う。それがベストな選択だ。
(……本当なら、お手洗いを借りたこと、言わなければいけないけれど……)
 礼儀に反していると頭は理解していても、もし誰もに気付かれないまま、きちんとお手洗いを済ませられたなら。一人の少女として、わざわざそれを口にすることには強い抵抗があった。
 そんな事を考えていた霧香の背中に、ぶるりと震えが走る。
 悠長なことをしている余裕はないのだ。後のことは後で考えるとして、いまはこの差し迫った事態を解決することが最優先である。霧香は廊下の左右に視線を巡らせる。
 来賓室から出た廊下のすぐ近くには、職員用と兼用の来賓向けのお手洗いがあったが、霧香はそこに入るべきか、しばし足を止めてしまう。
 確かに今日、霧香は来賓者として迎えられてはいるが、春からは生徒としてこの学院に通うのである。そんな立場で、図々しくもこのお手洗いを使っていいものだろうか。
(……そうよね)
 理事長を待っている間に、勝手にお手洗いに立ってしまうのだ。せめて最低限の礼儀は守るべきだろう。使うなら生徒用の方であるべきだ。
 そんな思いと共に、霧香は廊下の反対側、渡り廊下を通って教室の並ぶ校舎のある方へと歩き出す。
 折角目の前にあるお手洗いから遠ざかることに、少女の下半身ははしたなくも強く抗議をしたが、霧香はそっと下腹部を撫で、それを押さえこむ。
 まさか堂々と脚の付け根を押さえるようなものではない。ごく自然に、女の子として大事な下腹部を庇うような慎ましやかな動作だったが、見る者が見ればはっきりと、尿意を堪えていると明白な体制。人目がないとはいえ、橘家の令嬢にあるまじき行いであった。
(は、はやくしないと……)
 いよいよ限界が近い。羞恥に頬を染めながら、霧香はわずかに震える脚を速める。
 市井の進学校の構内は、霧香の知っているものとは大きく異なっていたが、同じように大勢の生徒が通う学舎であることに違いはない。まさかお手洗いが存在していないなんてことはないはずだった。
(こっち……で、いいのよね?)
 歴史ある進学校という名の通り、修繕はされていでも深い年月の重みを感じさせる校舎の中を、わずかに逡巡しながらも進んでゆく。
 寒風の吹き抜ける渡り廊下を通り抜けて、霧香は教室棟へと辿り着いた。
 幾分、暖かな気配のある廊下はやはり無人で、物音一つない。まっすぐな廊下にはずらりと並んだ教室と、黒地の板に白ペンキで書かれたと乏しき達筆な漢数字表記の組番号の案内が続いている。
 その間に、同じ案内板に記された『女子便所』の文字を見つけ、霧香は僅かに安堵した。
 霧香の感覚からすると、少々直接的な物言いすぎるが、これも仕方のないことだろう。この学院が古くからの伝統を持ち、築百年を超える校舎をなお使っていることは有名でもある。黒地の板に白ペンキの達筆な『女子便所』の文字も、恐らくは年季の入ったものなのだろう。
 少なくとも分かり辛いよりはよほどいいはずだ。
 ――しかし“お手洗い”の本当の目的を全く隠すこともなく堂々と晒している『女子便所』の文字に、自分がこれから何をしようとしているのかを否が応でも思い知らされ、見せつけられている気分ではあった。
 頬がわずかに赤くなるのを感じつつも、それもいったん脇にどけておくつもりで、霧香は廊下を、小走りにならない程度に急ぐ。
(間に合った……)
 緊急警報を発令しつつある下腹部をかばい、スカートの裾を乱さぬように辿り着いたお手洗いの前、霧香はそっと胸元を押さえ、丁寧に何度もペンキの塗り重ねられた薄桃色のドアを、そっと押しあける。



 年季を感じさせる漆喰塗の壁を、天井付近に小さな窓からの明かりがぼんやりと照らしている。
 右手前には、清潔ではあるが長年使いこまれたと思しきホーローの流し台と鏡が並び、その反対側の壁に4つ、茶色のペンキを塗られた板張りの壁に仕切られた個室が仲良く身を寄せ合うように並んでいる。
 何度も漂白されたであろうタイルの目地を踏まないようにして、霧香はお手洗いの奥に並ぶ4つの扉のうち、一番右端へと向かってゆく。
 かつ、かつ、と響く固い音は、否が応でも霧香に緊張を強いていた。ここは霧香にとって未知の領域、異邦の空間なのだ。
 個室を仕切る壁は、管理のため上下に大きく隙間を空けており、覗き込もうと顔を床に押し付ければ、中の様子が見えてしまいそうだった。
 分けてもわずかな衝立だけが視線を隠しているだけの、個室同士が隣り合った構造のトイレである。衝立も上からのぞきこめるような高さではないが、天井までつながっているわけではなく、個室は真上が完全に解放状態である。
 さらに個室のドアも、足元には5センチばかりの隙間があき、その気になれば身を伏せて顔を近づければ中を窺うことも可能だった。
 霧香は思わず身を硬くしていた。
(…………、)
 橘家ご令嬢という立場もあり、霧香にはごく普通の『公衆トイレ』などに足を踏み入れた経験などほぼ皆無である。これまでに通っていた学校や施設のお手洗いは、ここまであけすけに無防備なものではなかった。
 かつり、と靴底がタイルを叩く。
(……あ……)
 静けさの中で、冷たい壁は足音すら大きく反響させる。
 もし他に誰かがいれば、お手洗いの最中に立てた物音は隣の個室はおろか、あたりにまで丸聞こえになってしまうだろうことが一目で見て取れた。
 そのことに気づいて霧香は顔を赤くしてしまう。
 本来、誰にも気付かれてはならないはずの、“お手洗い”という秘密の行為。下腹部の恥ずかしい部分に溜まった、薄い琥珀色の液体を、女の子の一番大切な部分から迸らせる排泄という行ないは、誰かに“そう”と悟られるというだけでも恥ずかしい行いである。また、それゆえに決してそうと気づかれぬように振る舞うこともまた、乙女としての嗜みであった。
 だが。この学院のトイレは、霧香の想像していた『お手洗い』とは大きく基準を異にしていたのだ。
(…………郷に入っては、郷に従え、ということよね……)
 自分にそう言い聞かせはしても、すぐ隣に自分の用足しの音をそのまま聞かれてしまうような構造のお手洗いで安心できようはずもない。
 建物に文句を言っても仕方ないとはしても、プライバシーへの配慮が大きく欠けた前時代的な『女子便所』の構造は、あまりにも慎みに欠けているように、霧香には思えてならなかった。
 これ以上ここにとどまることにすら多少なりとも抵抗を覚えながら、霧香は個室のドアに手をかけた。
 すっかり色の落ちた金属製のノブを握る。

 ぎぃ……。

 かすかに軋むドアの奥にある光景を見て、霧香は絶句した。
(え……!? な、なに、これ……っ!?)
 信じられないという思いで、霧香は瞬きを繰り返す。
 しかし、目の前の光景は消えてはくれず、幻や夢ではない現実であることを告げている。
(そ、そんな……っ……)
 思わず揺れ動きを激しくしようとする腰を、ぐっと脚の内腿に力を込めて自制する。
 個室に鎮座していたのは、霧香の予想していたのとはまるで違うモノ。前後左右を仕切る衝立の中、四角いスペースの床に沿うように設えられていたのは、大きく天井に向けて口の開いた白い陶器。先端でゆっくりと反り返り、跳ね返りを受け止めるようなカタチになっている緩やかな曲線――
 『女子便所』に相応しい古式ゆかしき和式便器が、その役目を全うせんと控えていたのだ。
(あぁ……う、嘘……)
 そう。何を躊躇うことがあろうか、あとはそのまま踏み入れて、スカートをたくしあげ下着をおろしてしゃがみ込み、存分にお手洗いを済ませればいい。
 しかし、待望の『オシッコのできる場所』を目の前にしながら、霧香は困惑を深めてゆくばかりだった。
 ふらふらと後ずさった霧香は、儚い願いを込めて隣の個室を覗く。さらにそのまま隣、また隣と順に個室を確認してゆき……最後の個室の前で、顔を覆ってがくりと窓枠にもたれかかった。
(そんな……ぁ……)
 空席ばかりの4つの個室。
 そのどれを選んでも、限界寸前の尿意を解放するには十分すぎる場所だというのに。霧香にとってはそのどれもが、まるで意味のないものばかりだったのだ。
(せ、折角の、お手洗いなのに……っ。……ど、どうして、こんな……っ)
 そう。
 海外留学の経験もある霧香にとって、お手洗いというものは生まれてこの方“洋式”でしかない。
 霧香は今まで一度も、洋式以外のお手洗いを使った経験がないのだ。無論、知識としてそのようなモノがある事は知っていたし、その使い方もおぼろげながら理解はしている。
 しかし、彼女の生活範囲にそうした場所は一つたりとて存在せず、目にする機会すらなかったのである。
「あ……っ」
 慎みのかけらもなく下品に床に据え付けられたカタチの和式便器は、そこに大きくスカートをたくし上げ脚を開いてしゃがみ込むはしたない姿を強制するものだ。
 当然ながら音消しのための設備もなく、大切な場所から勢いよく噴き出した水流は、高い位置から便器の中に直撃して、大きな音を響かせることは間違いないのである。
 しゃがんで、おしっこ。
 この学院の生徒――否、普通の女の子ならば当たり前のようにできるその行為が、霧香にはできないのだ。
 しかし、曲がりなりにもお手洗いをを目の前にして、令嬢の下腹部でははしたない衝動がはげしく込み上げてくる。繊細な秘密の入れ物の中では恥ずかしい熱湯がぐらぐらと沸騰し、いまにも吹き零れてしまいそうに悲鳴を上げている。
「ぁあぅ…っ」
 か細い悲鳴を押し殺し、霧香はふらりとトイレの壁に寄りかかった。
 ぞくぞくと背中を這い登るイケナイ感覚が、限界が近いことを知らせている。
(ど、どうしよう……っ……で、でも、こんなお手洗いなんかじゃ、とても……)
 震え出しそうになる膝をぐっと押さえつけ、霧香は余裕の失われつつある頭で思案を巡らせる。
 恐らくは、霧香以外の少女達は普通にしていることだ。この学院のお手洗いが“こう”だというのだから、霧香以外の生徒全員が、問題なくこのお手洗いを使えているのに違いない。
 だが――霧香は、それが出来ない。
(い、いや……わ、私、ち、違うの、っ、お、お手洗いのしつけも、できていないなんて……っ)
 突き付けられた現実の前に、令嬢の困惑は、ますます深まるばかりだった。



 (初出:書き下ろし)
[ 2012/07/14 13:03 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

お嬢様ごっこ。 


 テーブルの上のペットボトルを取り、飲み口に直接口をつけてお茶を喉奥に流し込む。
「んく…んくっ、んくっ……」
 さかさまになったペットボトルの中で、ごぽっと泡立った水面が揺れる。
 これが初めてってわけでもないけど、なにしろ全部で2リットルもある。ジュースみたいに甘くもないし、炭酸がきいてるわけでもない、ただの苦いお茶だ。普段のボクなら、絶対に飲んだりしないと思う。
「んく…んく……っくん。ぷはっ」
 息継ぎをした瞬間、背中をぞわぞわぁっと小さな震えが這い上がってくる。
 思わず口元を離しそうになり、ボクは少しだけむせてしまった。けほけほと口を拭い、それでも頑張ってもう一度、ペットボトルに口を付けた。
「んっ……ぷは……」
 最後のひとくちを飲み下して、大きく深呼吸。残りの1リットルを、なんとかおなかの中に飲み込んだ。
「飲んじゃった……」
 制服のブラウスの下で、おなかがぱんぱんに張って苦しい。
 あらためて、空になったペットボトルを見下ろしてみれば、ちょっと信じられないくらいの量。その中身全部が、ボクのお腹の中に注ぎ込まれているのだ。少しくらい苦しくったって当然だろう。
 ……けれど、それもすぐに楽になることをボクは知っている。
 このお茶はある健康食品メーカーが売っている看板商品で、身体への水分吸収を助け、老廃物をそとに出す働きがあることで有名だった。美容のために最適と、ネットの掲示板などでもよく話題にされている。
 その効果は強力で、水を飲んだ時なんかとは段違いに速い。
 だから胃のなかをたぽたぽにしている水分はあっというまに吸収され――すぐに、ボクのおなかの、別の場所をたぽたぽにしてしまうのだ。
(ん……っ)
 ぶる、と腰が震える。
 お昼休みの前から、ボクはずっと、トイレを我慢している。6時間目の最後のほうは、我慢がかなりきつくなってきて、椅子の上でぎゅっとあそこを押さえてしまったくらいだ。 
 そのうえで、こんなお茶を2リットルも飲んでしまったのだから――もっともっと、オシッコがしたくなるのは間違いがない。
(はうっ……♪)
 そおっと触れてみたおなかは、もうはちきれそうにパンパンに張り詰めていて。同時に脚の付け根にもじぃんっとイケナイ感覚が電流のように走る。
「ん、んぁ…ぅ……っ」
 自分でも信じられないくらい、いやらしい、女の子みたいなえっちな声が出てしまう。
 ゆっくりと視線を隣に向ければ、ロッカー横の鏡に、見慣れた姿が映っていた。
 うなじで切り揃えたちょっと癖の強い髪、太めの眉。部活のせいで日焼けした肌。力を入れて睨めば、大抵の男子はビビッて逃げてしまう目つき。自分で言うのもなんだけど、胸もぺたんこで、腰回りだってすかすかだ。
 学校を上がって制服を着るようになって、ようやく男の子に間違われることは少なくなったけれど、いまでもジャージ姿なら男子トイレに入っても追い出されない自信がある。……全然いいことじゃないけれど。
 普段からオトコ女なんてからかわれているボク――工藤千尋が、ほんの少しだけ、“おんなのこ”になれる瞬間。
 それがこの、“お嬢様ごっこ”をしている時だ。
「……あやっ、もうこんな時間っ? 急がなきゃっ」
 ふと見れば、もう時計は4時を回っていた。急いで帰らないとすぐに真っ暗になってしまう。
 ボクは鞄を手に、部室の更衣室を後にした。廊下にはひんやりとししていて、ひと折り分短くしたスカートから染み込んできた寒さがきゅうんとおなかの中を刺激する。
 ボクは震えだしてしまいそうになる膝を抑えつけ、慎重に、きゅうっと閉じ合わせた。下腹部を圧迫するおしっこを意識しながら、歩幅も小さく、ゆっくりゆっくり、昇降口までを歩いてゆく。
 いつもは2段飛ばしで駆け降りている階段も、今は油断できない。爪先を意識しながらそろりそろりと脚を下ろすたび、じんっ、と身体の奥にイケナイ感覚が響いてくる。
「ん……ふ……」
 小さく息をこぼして、ぶるる、と身体を揺する。
 ぱんぱんに膨らんだおなかをそっと撫でるボクの頬は、かあっと熱くなっていた。





 校門を抜けて表通りへと出ると、いよいよ本番。いつもは背中に背負う鞄を、おしとやかに両手で持ち、身体の前を隠すようにして――ボクの“お嬢様ごっこ”が始まる。

『……あ、あっ……っ、ど、どうしましょうっ……ほ、本当に間に合わなくなりそう……っ』

 いつも通りの通学路のなか、ボクは頭の中で『下校途中、お手洗いに行きたくなってしまったお嬢様』になりきるのだ。
 とたんに周囲には雑踏が満ち、行き交う人々の視線が突き刺さる。殺風景な通学路には、大勢の通りすがりの人達が、じっとボクを見つめている。
 今のボクは、歩いているだけでまわりの人たちの目を引くような、そんな素敵で可憐なお嬢様なのだ。
 だから万が一にでも、ボクがオシッコを我慢していることに気付かれたりなんかしちゃいけない。

『……だ、だめ……っ。きちんとしなくちゃ……お、お手洗いにいきたいなんて気付かれたら、わたくし……もう、恥ずかしくて表を歩けませんわ……』

 頭の中の想像上のボクは、すっかり深窓のお嬢様になり切っている。どうしようもなく恥かしがり屋で、男の子の手を握るどころか話したことすらないような筋金入りの箱入りのお嬢様。
 今日は送り迎えの車がちょうど故障していて、どうしても歩いて帰らなくてはいけなくなった。――そんな設定。
 人前でトイレに行くどころか身じろぎするのも躊躇うようなお嬢様のボクは、学校でもほとんどお手洗いに立つことはない。たとえどうしても我慢できなくなっても、気づかれないようにこっそりと、慎み深く席を立つようにする。
 それでもいつもは取り乱したりしないんだけど、今日は特別な理由で――(細かいことは決めていないけど、とにかくタイミングが合わなくて)――お手洗いを済ますことができなかったのだ。

『だ、だめよ、ちゃんと、我慢しなければ……っ』

 当たり前だけれど、通学路の途中にはいくつも商店街があって沢山、たくさんのお店が並んでいる。コンビニだって2つあって、その気になれば簡単にトイレが借りられる。でも、世間知らずのお嬢様なボクは、そんなところにおトイレがあるなんて思いやしない。
 ううん――もし知っていたとしても、そんなところのおトイレを借りるような、みっともなくてはしたない真似は、“お嬢様”のほうのボクには絶対にできないのだ。

『そんなこと、……できるわけありませんわ……いい歳して、お、お手洗いのしつけも出来ていないって、思われてしまいますものっ……』

 “おトイレのしつけ”。ふと浮かんだこのフレーズが気に入って、ボクは想像を膨らませる。
 お嬢様のおトイレのしつけは、とても厳しくて、人前でトイレに行きたいそぶりを見せることすら許されないのだ。たとえどんなに切羽詰まっていても、おなかがおしっこでぱんぱんに膨らんでいても、優雅に、微笑みながら『少し、失礼いたしますわ』そう言って、ゆっくりと席を立つ。
 いや――違う。本当のお嬢様は、そもそも人前で勝手に席を立つような無礼なことはしない。トイレは自分ひとりのときだけにしっかりと済ませておくもので、誰かと話していたり、用事があるときには後回しにすべきことなのだ。だからこんなに我慢してしまう前に、きちんとトイレに行っておくことこそが当たり前。それができないのは、お嬢様失格の、とても恥ずかしいことなのだ。

『ふあぁ……んっ……』

 小さな頃からそうやって躾けられてきたはずのお嬢様のボクは、けれど今、限界寸前までトイレを我慢してしまっている。人前で気付かれてしまいかねないこの状況こそ、もうとっても恥ずかしい事態なのだ。
 膨らむ想像とともに胸がどきどきと高鳴る。もう一人のボクの状況に、自然と頭に熱が籠る。
 それは同時に、お嬢様のボクが感じている、恥ずかしい気持ちなのだ。
 交差点の横断歩道に差し掛かって、赤信号に従いボクは足を止めた。

『あ、あっ……い、急いでいますのにっ……』

 焦る気持ちを表現するように、ボクはそおっと腰をくねらせる。硬く張りつめたおなかに、脚の付け根にじいんんっ、と甘い痺れが走り、思わず息がこぼれる。
 もちろん、たったそれだけの動きで誰かが見ているわけもない。
 横断歩道には二人くらいしか人がいないし、周りの人はじっと信号を待っているだけだ。
 でも、想像の中では違う。びくびくと、尿意に負けて腰を揺すってしまったお嬢様のボクは、そこで恥ずかしい声を上げてしまうのだ。それを見て、何人も何人もの人が、怪訝そうな顔をして、お嬢様のボクを見る。

『いやぁ、み、見ないでぇ……っ』

 じろじろと無遠慮に見つめられて、顔から火を吹きそうになって、お嬢様のボクは俯く。
 横断歩道の前で足踏みを始めてしまい、信号待ちの人たち全員に、オシッコに行きたいんだと気付かれてしまった。そのことにお嬢様のボクは、死にそうなくらいに恥かしさを覚えている。

『ち、違いますっ……お、お手洗いなんかじゃ……っないんです……あ、だめ、え…っ』

 気分を盛り上げるように、小刻みに爪先を動かしてみる。
 じんっ、じいんっ、と響くおしっこの波が、ボクのおなかの中に溜まった液体をたぷんたぷんと揺らす。
「ん……っ」
 思わず、小さく溜息が出た。スパッツを内側から押し上げるように、おなかが外にせり出し始めている。あんなに飲んだ健康茶が、はやくもその効果を発揮し出しているみたいだった。
 信号が変わり、横断歩道で待っていた人たちが次々に歩き出す。
 けれどボクは、そのままそこで、誰かを待つふりをして立ち続けた。

『あ、あっ、だめ、え……おさまってぇ……っ』

 ボクの想像の中でお嬢様のボクはいま、猛烈な尿意の波に抗って、一歩も歩けないような状態なのだ。たまらずその場にしゃがみ込んでしまいそうになるのを、懸命にこらえ続けている。
 足を擦り合わせて、腰をくねらせて、通りすがりの人からじろじろと見られながら。けれどもうすっかり余裕をなくしてしまって、鞄の下でギュッとスカートを掴んでしまう。
 現実のボクも、そっとおなかをさする。まるでタイヤみたいに硬い感触に触れると、きゅうんっと足の付け根に甘い痺れが走る。ぞわぞわ押し寄せてくる波に、思わず何度も、いやらしい声を漏らしてしまう。

『そ、そんな……だ、だめぇ……っ』

 ちか、ちかと点滅する青信号。
 お嬢様のボクは、ついに横断歩道を渡り損ねてしまったのだ。
(そうだ……っ♪)
 そしてボクはふと思い付き、想像の中で、この赤信号は突然、一度切り替わると10分は変わらないということにしてみた。すっかり我慢の限界の状況で、10分なんて待っていられるわけがない。ここをまっすぐ帰るのが家への――“お屋敷”への近道なのだが、お嬢様のボクはそこをもう通れなくなってしまったのだ。
 もちろん実際の交差点はたったの2車線。ほとんど車通りもなくて、思い切って信号無視をしてしまえば5秒で渡ってしまえる。でも、お嬢様のボクにそんな事は出来るワケがない。

『うそ……そんなの意地悪よ……っ』

 理不尽な事態にも、しかしお嬢様はくじけない。
 後ろ髪をひかれる思いで、横断歩道を渡るのをあきらめ、別の回り道を探すのだ。





(えっと……)
 おなかにじんじんと響く尿意を感じながら、ボクは次の舞台を探す。……と言っても、だいたい候補は決まっていた。横断歩道から歩道沿いを歩いて、途中でわざとふらふらと脇道を曲がってみたりしながら、ボクは近くの公園にだとりつく。
 広い割にジャングルジムと砂場くらいしか遊具も無くて、人気のないこの公園は、ほとんどの人が素通りしてゆく。

『はぁはぁ……っ、あ、あともう少しよ……!!』

 公園の入り口でそっと腰を揺すり、ボクは“お嬢様”の演技を再開した。
 目指す場所は公園の端っこにある公衆トイレだ。わざと公園の入り口も遠い場所を選び、意図してゆっくりと、そこまでの道のりを歩いてゆく。お嬢様のボクは足元がもうふらふらで、急ぐこともできないということにして。
 ちょうど周りの視線も無いので、ボクはわざともじもじと脚を擦り合わせ、スパッツの上からそっとおなかを撫ででみる。じぃんっ、とおなかの底に走る甘い痺れに、思わずふうっと息がこぼれた。

『お、おトイレ……おトイレ、早く…っも、もう、お手洗いなら、どこでも……いいからぁ…っ』

 お嬢様のボクは渡れない横断歩道を諦めて、なんとかオシッコを我慢しながらここまでやってきた。本当なら、箱入り娘のお嬢様であるボクがこんな、誰が使ったかも分からないようなトイレを使うのは絶対に避けたいことなのだ。
 そもそも人前でトイレに駆け込むなんてはしたないことなのだけど、けれど今はそんな建前も忘れてしまうくらい、お嬢様のボクは我慢の限界なのだ。

『あ、あとちょっと、あそこまで……あそこまで我慢すれば、……っ』

 行く先に見える公衆トイレに向かいながら、何度も周りを見回してみる。
 もちろん誰も居ないんだけど、そこにはオシッコを我慢していてはしたない格好をしているお嬢様のボクに、興味しんしんな人たちがいる、ということにする。

『ああっ……駄目、駄目……みないで、見ないでくださいっ……』

 顔を赤くしながら、お嬢様のボクは何度も立ち止まり、しゃがみ込みそうになってしまうのをこらえて、それでもなんとか公衆トイレまで到達する。
 おぼつかない足取りで、婦人用トイレの入り口をくぐり――そのまままっすぐ個室へと向かう。

『ま、間に合った……っ!!』

 けれど。
 開いた個室の鍵を見て、お嬢さまのボクは、絶望するのだ。

『そ、そんなぁ……っ』

 普通に空いていたトイレの中の個室を『故障中』ということにする。
 もちろん他にも個室はあるけど、そっちも壊れているか、存在しないことにした。
 つまり、お嬢様のボクはここではオシッコができないのだ。
「んんっ……」
 実際に、ここまで来てやめようとすると、かなり強い尿意がやってきた。現実のボクもつい催してしまい、スパッツの上から手を挟みこむように、あそこを押さえこんでしまう。
 すると、想像の中でお嬢様のボクは、ドレスのスカートをはしたないぐらいにぎゅううううっ、と絞り上げていることになってしまう。
 真っ白でさらさらの、綺麗なドレスを――無残なくらいぐちゃぐちゃに握り締めて、ぶるぶると腰を震わせる、お嬢様なボク。
「ぁ、あぁ、あっ……だめえ、でちゃう……っ」
 想像の中のお嬢様になりきって、ボクも悲鳴を上げてみる。
 ぞわあっと背中を走り抜ける尿意の波が、じんじんと腰を熱くした。

『そんな……嘘よぉ……っ』

 ふと思いついて、想像の中で、ボクは個室のドアに張られた『故障中』の文字の下に、さらに意地悪な事を付け足してみることにした。

 ――『お急ぎの方は、紳士用のトイレをご利用ください』。

『そ、そんなの、できるわけないじゃない……っ!!』

 まあ、普段のボクなら、――オモラシしちゃうくらい切羽詰まればえいっと入ってしまうだろうけど。男の子と手を握ったこともない――いやまあ、現実のボクだってそんな経験ほとんどないけど――お嬢様のボクには、そんな選択肢はあるワケない。絶対にあり得ない決断だ。
 実はここの公衆トイレには紳士用と婦人用のふたつのトイレの間に、もうひとつ。車椅子用のトイレもあったりするんだけど、そこも想像の中で存在していないことにした。

『だ、だめよ……我慢しなくちゃ……』

 もう、限界も限界、いつ漏らしてしまっても分からないくらいの状況で、がくがくと腰を震わせながらも――なんとか、必死に波を乗り越えて。お嬢様のボクは、我慢を持ち直し、次のトイレまで向かう決心をする。
 そう。まだまだ、こんなものじゃ終わらない。
 ボクが本当に限界になるまで――お嬢様のボクの、永久我慢は続くのだ。



 (書き下ろし)

 
[ 2011/02/12 21:35 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)