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イジメの話/美術室にて 

 

 絵の具を乗せた筆が、画用紙の白に鮮やかな青空を描いてゆく。
 あと二週間に迫った美術コンクールに向けて、一之瀬マナは丁寧にデッサンした画用紙に向かい、一心不乱に筆を動かし続けていた。
 今日は日曜日。本当なら学校もお休みなのだが、美術部を始めとしたクラブ活動のために校舎は一部解放されていた。クラブ顧問の浅月先生は用事があって、昼前に一度顔を出してから席を外している。
 美術室には、マナと同じ美術部の生徒たちがお喋りに興じながら作品に向かっている。……どちらかと言えばマナ以外の生徒はあまり真面目に取り組んでは居ないようだったが。
 マナは前の学校でも美術部に所属していて、その時に描いた絵は市のコンクールに出たこともあった。文化系の活動に力を入れている風見が丘小学校に転校してからも、マナは迷わずクラブ活動に美術部を選んだ。
 顧問の浅月先生の熱心な指導もあり、マナはまたもコンクールへの出展を勝ち取ったのだった。
「ふぅ……」
 しゅ、と最後の一筆を引き、小さく深呼吸。
 グラウンドから海を見下ろす光景が、画用紙の中に余すところなくおさまっている。完璧、とは言わないまでも改心の出来だ。
 筆を置き、数歩あとずさって全体を眺めてみる。
(……よし、っ)
 心の中で小さくガッツポーズ。ここまで思い通りに描けるなんて、なかなかあることではない。浅月先生に何度も励まされ、休まずに頑張り続けた結果だった。
 出来栄えを確認するため、右から左から画用紙に向かっていたところ、唐突に少女のお腹がぐぅ、と音を立てる。
「あ……」
 マナは頬を赤らめた。
 時計は1時を回っている。朝から昼過ぎまで、ご飯も食べずに熱中していたのだ。それはお腹もすくだろう。喉の渇きを感じて家から持ってきた水筒を確認すると、1リットル入りのお茶も中身はほとんど空っぽだ。
(お弁当の前に……お手洗いかな)
 下腹部に感じる尿意に、マナは腰を上げる。
 熱中している間は気付かなかったが、よくよく考えてみれば普段の授業ではマナは午前中に2回はトイレに行くようにしている。1リットルもお茶を飲み干して、さらにお昼過ぎまで一度もオシッコを済ませていなければ、したくなるのも当たり前だった。
「あ、一之瀬さん。ちょっと待ってくれる?」
 机の間を縫って美術室を出ようとしたマナを、呼びとめる声があった。
 美術部の部長、6年生の御園アヤ。眼鏡の奥に吊り目がちの瞳をした、背の高いショートカットの少女だ。部長という肩書きを使って無理矢理手伝いや用事を皆に押し付けるアヤは、同じ6年生の取り巻きを除いて、部員のみんな……特に下級生にはあまり快く思われていなかった。
「え、っと……なんですか?」
「ちょっと、ねぇ?」
 意味ありげに言葉を区切り、アヤは周囲の6年生たちとくすくすと笑い合う。なんだか嫌な予感がして、マナは一歩あとずさった。
「ちょっと手伝って欲しいの。一之瀬さん、課題終わったんでしょう?」
「は、はい……でも」
「あたし達、人物デッサンしたいんだけど、今日モデルの子が休んじゃったのよね。だから一之瀬さんに代わりにやってもらおうと思って」
 頼むような形こそとっていたが、そこには有無を言わせない迫力があった。
 お腹の奥にずんと響く刺激に、マナはぎゅっと脚を寄せてしまう。
「あ、あの、でも、わたし……お手洗いに……」
「ダメよ、すぐに始めないと間に合わないんだから」
 いつの間にか、マナの背後に回りこんだ6年生が、美術室の入り口を閉めてガチャリと鍵をかけてしまう。
 場を支配し始めた不穏な気配に、マナはあとずさった。
「な……なに?」
「別に?」
「だ、だって、いま、鍵……」
「なんのことかなー?」
 ドアに鍵をかけた6年生はそうおどけてみせると、マナがドアに近付けないようにくるりとその背中に回りこんで腕を掴んだ。とっさに振り払おうとするマナだが、思うように振りほどけない。
「そうよ。逃げなくったっていいじゃない」
「そ、そのっ……わたし、本当におトイレに……っ」
「へえ。そういうこと言うんだ? 自分の課題が済んだから、あたしたちの課題なんか間に合わなくったっていいってこと? さっすが違うわねー。コンクールに出れちゃう子は」
 詰め寄ってくる6年生たちの迫力に、マナは萎縮して俯いてしまう。
「ち、違います……そんなこと、思って、ないです……」
「じゃあ、いいでしょ? モデルお願いね♪」
 笑顔の下に、底知れぬ悪意を覗かせて念を押すアヤに、マナはひぅ、と息を飲む。
 小さなおなかの中で、じくん、と重苦しい尿意が増したような気がした。





「……ほらぁマナちゃん、さっきから動いてばっかりじゃない!! じっとしててくれなきゃモデルにならないよ?」
「あーあ、また失敗だぁ」
 これ見よがしに、6年生たちが描き損じた画用紙を丸めて破り捨て、床の上に放り投げる。またデッサンは一からやり直しだ、という意味らしい。
 ほんのちょっとだけ、10分くらい、という約束で始まったはずのモデル。しかしあれから既に1時間近くが経っている。マナは机をどかした教室の真ん中に置かれた椅子に座るよう強制され、トイレに行くどころか立つことも許可されていなかった。
「ねえ、じっとしてなってば。我慢足りないよ? マナちゃん」
「うぅっ……ぁ、はぁあっ……」
 アヤ達は、マナにポーズを取らせたまま動かずに居るように命令していた。それも普通の格好ではなく、片方の膝を胸に抱え込ませるような格好だ。ちょっと角度を変えれば下着が見えてしまいそうな恥ずかしいポーズなのだ。それだけでもマナの頭は沸騰寸前である。
 しかも、マナのおなかの中では、いまだ解放を赦されない尿意がくつくつと煮立ち、激しくマナを苦しめている。とてもじっとしていらない。
 びくん、と脚の付け根にイケナイ感触が走る。
「はぁぅ…っ…んっ……」
 じわ、と緩む水門の気配に、マナはたまらず脚を動かしてしまう。おなかの中で暴れ出すオシッコを塞き止めるため、広げていた脚を閉じ、ぴったりと膝を揃えて椅子の天板に股間を擦りつけもじもじと激しく腰を揺する。
「ちょっと!! マナちゃん!!」
 とたんにアヤから鋭い叱責が飛んだ。
「ほぉらまた動いた!! もぉ、動くなって言ったでしょ? マナちゃんはモデルなんだから、動いちゃダメっ!! まーた失敗だよぉ」
「でっ、でもっ……」
 いくら我慢しようとしても、自然に腰が動いてしまう。オシッコを我慢しているときの自然現象なのだ。それを分かっていて、アヤ達はマナにポーズを取ったままの静止を強要している。叱られるたびに姿勢を正しはするものの、すぐにまた尿意に負けてもじもじと膝を擦り合わせるマナを取り囲み、6年生たちはくすくすと笑い合っていた。
「なにやってるの、手どけなさいよ」
「そうだよー、そんなトコロ押さえてちゃ恥ずかしいよぉ、マナちゃん。おんなのこでしょっ?」
「だ、ダメ……我慢……できなぃ……」
「ダメじゃないってば。部長命令よ? ほら」
「や、いやぁあっ……っ!!」
 席を立ち、無造作に近付いてきたアヤはマナの股間から両手を引き剥がすと、無理矢理に脚を広げさせる。ただでさえ両手と内腿の助けを借りて我慢していたところに、一気に支えを失ってマナの股間は爆発する尿意に負けそうになる。
「ぁ、あっ、くぅっ……」
 なんとか、股間の括約筋だけで決壊を食いとめようと必死なマナが、椅子の上でがくがくと悶える様子を面白がるように、6年生達がどっと笑った。
 オモラシ寸前の状況で必死に苦しむマナに対し、心ない言葉が次々とぶつけられる。
「あーあ、みっともない。あんなにシたくなってるんだ?」
「もっとちゃんとトイレ行っとけばいいのにねぇ」
「ほんとほんと。ねえ、私もっと変わったポーズがいいなぁ。もっと足開かせてよ」
「そうね。で、そのまましゃがんでもらうの。どう?」
「えー? 漏らしちゃわない? あの子」
「でも、それいいかもねっ。出しちゃったら自分で片付けさせればいいわよ」
「題して……ションベン小娘、とかどう?」
「あはっ、それ最低ー!!」
 その中には、明らかに、マナにオモラシを強要するセリフもあった。
 女の子としての最大の恥辱を強制する6年生達。一体、どんな悪意があればこんなにも残酷な事ができるのだろうか。理解を超えた先輩の言葉に、マナは背筋にぞっと冷たいものを感じる。
 だが、その底知れぬ悪意は、そんなものではとどまらなかった。
「や、やだ……なんで……?」
「ねえ、聞・こ・え・た? マナちゃん? そういうことらしいから」
「や……やだぁっ、やだっ!!」
「……聞こえたわよね? 部長命令よ?」
 しきりに首を振り、なんとしても逃れようとするマナだが、アヤはまるで万力のようなすごい力でマナを押さえ付ける。抵抗を試みたマナに対して、アヤは容赦なくマナの下腹部に手を当ててぐいっと押し込んだ。
「ふぁう……~~ッッ!!?」
 石のように張り詰めた膀胱が、無理矢理外部からの力によって絞り上げられる。爆発しそうなオシッコが暴力的なまでに猛烈に暴れ回り、マナは目をぎゅっと閉じて必死にオモラシの誘惑に抵抗する。その間にも、脚の間にはじわりと熱い感触が膨らんでいった。
「ね、手伝って。マナちゃんひとりじゃポーズ取れないって言ってるし」
「えー? 漏らしたりしないよね? ひっかけられたりしたらヤダなぁ」
「加減してるもん、平気よ」
 そして、アヤと数名の6年生によって、マナは椅子の上に両足を乗せ、お尻を深く下ろして脚を開いた、いわゆる体育座りの変形したポーズを強制される。遮二無二振り回そうとした腕はガムテープで椅子の背もたれに固定され、さらに両の足首まで椅子の上に括りつけられてしまう。
「や……ぁうっ、ぁ、く、ぅっっ……」
 体を折り曲げ、おなかに圧力のかかる姿勢。まる出しになった下着の股布は、既にいくらか湿って色を変えているようだった。
「うわー、かっこ悪。もう漏らしてない? あの子」
「我慢しなよ。終わったらおトイレ行かせてあげるって言ってるんだからさー」
 これはもう、完全にオシッコをする体勢だ。頭では必死に禁止の命令を出しているのに、マナの身体は長年染みついた習慣のままにオシッコの準備を始めようとする。
 マナの膀胱がきゅうと収縮し、排泄器官がじくんと疼く。溜めこんだ熱い雫がじわじわと漏れて、下着に小さな染みを作る。自由にならない両手足をばたつかせ、マナは必死に許しを請う。
「お、お願いです、もうっ、おトイレ……でちゃうっ……漏れちゃうのっ!!」
「ダメよ、今は部活の時間なんだから。トイレは終わってからよ」
「そ、そんなっ……、部長っ、意地悪しないでぇっ……」
「意地悪じゃないわ、規則よ。それともアンタ、部長の言うことに逆らう気?」
「あ…く、ごめんなさい、謝りますっ……お願いします、だから、おトイレ、おトイレぇ……っ、オシッコでちゃう~~っ!!」
 トイレに行く事にすら許可を要し――オシッコすら自分の意志ですることができないという、惨めな状況。排泄の自由を他人に握られて、マナはパニックに陥っていた。混乱のままに惨めな謝罪を繰り返すマナを、アヤ達は嘲り笑い合う。
「ダメだって言ってるじゃない。あんた、あたしの言うこと聞けないの? だったらもう解いてあげないんだから」
「そ、そんなぁ……っ」
「どうしても我慢できないなら、そこですればいいじゃない。オシッコ、でちゃいそうなんでしょ? ほら、手伝ってあげる」
 そろそろマナの限界が近いと見て、被害に遭わないようマナの側を離れ、遠巻きに見守る6年生の中から、アヤがすっと進み出た。
 その手には水彩用の筆と、筆洗いが握られている。
 どちらも、マナ自身の持ち物だった。
 これまでなんとしても、浅月先生のお気に入りであろうとしていたアヤは、転校してくるなりあっさりと自分から浅月先生の関心を奪ったマナを、はじめから許すつもりはなかったのだ。
「くぅううっ……」
 どうすることもできず、腰を揺するマナに、アヤはすっと身体を寄せる。限界寸前の尿意に襲われながらも、マナは警戒に身体を竦ませる。
「な、なに……する……」
「別に? そんなにオシッコしたいなら、我慢は身体に毒だからね。マナちゃんにオシッコさせてあげるの。嬉しいでしょ?」
「っ……ぁあああぅっ!?」
 マナの悲鳴が上がる。アヤが筆の先端でマナの股間をなぞりあげたのだ。びくびくと痙攣する少女の下着に薄く色のついた染みが広がってゆく。じわじと拡大した染みは、とうとう椅子の天板に広がり、水たまりを広げてゆく。
 自分の大切な筆をオシッコで汚し、マナはもがいて暴れた。
「あ、ぁっ、あ、で、で、ちゃう、でる……っ!!」
「ねえちょっと、本当に出しちゃうの? ダメよこんなところで。我慢しなさい」
「っ、だめ、ダメ、離して、といえ、といれぇ・・…っ」
「あーあ。仕方ないなぁ。……じゃあ、マナちゃんのトイレだよ」
 マナの股間にぐいっ!! と固いものが押しつけられる。それはマナの愛用している筆洗いだった。
 筆洗いには、コピックの乱暴な文字で、『マナちゃん専用トイレ』と書き殴られている。
 アヤは、ここにオシッコをしろ、と言っているのだ。
「っ、やだ、やだぁっ!! 離して、離してよぉっ!!」
 暴れるマナの足元に、ぽたぽた、ちょろろっ、と水滴がこぼれ始める。自分の大切な、絵を描くための道具を、自分のオシッコで台無しにしてしまう。そんなことは絶対にできない。
 けれど、生理現象の極限を迎えた身体は、マナの鋼鉄の意思を無視して勝手に排泄を開始してしまう。
 そして――
 激しい水流が、筆洗いの奥へと注ぎ込まれるその刹那。
「いやぁああああああ!!」
 マナは感情を爆発させ、脚を固定するガムテープを無理矢理引きちぎった。自由になった右足をくねらせて、筆洗いを跳ね除ける。
 同時、激しいオシッコが始まった。
「うわああっ!!」
「わぁ……オモラシ? 本当に?」
「あーあ。我慢してって言ったのになぁ」
 嗜虐の笑みに頬を紅潮させながら、アヤはマナを見下ろす。自分でも止められない羞恥の水流を恥ずかしい股間から吹き出させながら、マナはいやいやと頭を振り続けた。1リットルのお茶がそのまま変じたオシッコが下着の股布を通過して、椅子の天板を通り越し、放物線を描いて床の上に撒き散らされる。腰をよじるマナに合わせ、水流は湯気を立てびちゃびちゃと床にこぼれ落ちてゆく。
「ねえ、ほら。……マナちゃん? ちゃんとオシッコ、おトイレにすればよかったのにねぇ。……我慢できなかったから、せっかくの傑作が台無しになっちゃったよ?」
「え……?」
 マナが、ふと涙で滲んだ視線を上げる。
 床の上――茶色い板の上に、いつの間にか、マナには覚えのない青い色彩が広がっていた。
 画用紙の上に散る水滴が、まだ乾ききっていない画用紙を濡らしてゆく。
 マナの足元に広げられたのは、さっき描き上げたばかりの水彩画だった。
「っ、いや、、だ、だめぇええええええええっ!!!」
 少女の金切り声が美術室に響く。
 オシッコを中止して立ちあがろうとしたマナだが、脚は自由でも両手はいまだに拘束されたまま。もはや暴走した尿意は完全に少女の身体のコントロールを離れている。激しい水流が床上の画用紙を直撃し、マナが二週間かけて書き上げた力作を台無しにしてゆく。
 しびれた足では満足に立ちあがることもできず、吹き出すおしっこ水流はのたうつ蛇のようになって床に飛び散った。
「うわっ!?」
「ちょ、汚なぁいっ!!」
 跳ね散るオシッコから逃げ出すようにクラスメイト達が一斉に距離を取った。
「やだ、やだぁ!!! 出ちゃダメ、ちがうの、オシッコとまって、とまってよぉお……っ!!! やだ、やだぁ……!!!」
 激しい黄色い水流に絵の具が溶けて、緑色になった画用紙が、くちゃくちゃに折れ、汚れてゆく。マナの悲鳴と涙を伴って、床の上に生み出される前衛芸術を見下ろして、アヤは薄く笑みを浮かべる。

『わたしのオモラシ   5年3組 一之瀬マナ』

 おしっこでぐちゃぐちゃに汚れた画用紙に、そうタイトルを付けられて、むりやり壁に張り付けさせられ。
 美術室を後にするアヤ達6年生を、もう振り向くことすらもできず。
 マナはいつまでも、自分の作った水たまりの上で泣きじゃくっていた。



(初出:学校でトイレを禁止されるいじめ 173-179 2007/10/15)

 
[ 2007/10/27 09:19 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

運動会のお話。 

 
 たっ、たっ、たっ、たっ、たっ……
 運動靴の底がリズムを刻む。わずかに荒くなった息と、汗で湿って首筋に張りついた短めの髪。体操服の胸には和泉小学校5年4組の所属を示すゼッケンと、3位入賞の緑のリボン。
 見学の父兄と、応援席のクラスメイトでごった返す校庭には、午前最後の競技である6年生の400mリレーの実況が響いている。
 20点の僅差でシーソーゲームを繰り広げる運動会は、佳乃の赤組がわずかにリードして午前中を折り返そうとしていた。
「はぁ、はっ……」
 口の中にたまった唾をこくんと飲み込んで、小刻みの歩幅。
 渡り廊下をくぐり、職員棟から中庭を横断して。何度も足を止めては注意深く周囲を確認し、人の気配の少ないほうへ、無いほうへと急ぐ。
(ぅ、くぅ、ぅううっ……)
 ぎゅっと寄せられた太腿を隠すように、体操服の前を引っ張って。
 全校生徒と観覧の父兄が揃って勝負の趨勢を巡り、グラウンドに注目する中。
 佳乃は、一人――並んで走る競走相手もなくプログラムにも載っていない、オシッコ我慢競走に参加していた。





 佳乃がこの尿意を最初に意識したのは、開会式の後のラジオ体操でのこと。ぐっと屈伸をするたびに響く、軽く張り詰めた下腹部の鈍くむず痒い感触に、今朝トイレに行かないまま家を出てきたことに気付いたのだ。
 とは言え、プログラム最初の競技は5年生全員参加の100m走。すぐさま入場門に整列し、最後から3番目の走者となった佳乃がゴールに走りこむ頃には、すぐに次の競技が待ち構えている。
 5年生、学年全員参加のダンス、障害物リレー、学年対抗の借り物競走……立て続けにやってくる競技をこなすうち、佳乃の尿意はだいぶ切迫した事態に達しつつあった。普段、体育の成績ではクラスでも後ろの方から数えた方が早い佳乃が、午前中最後の競技となる400mリレーで個人8位という順位に食い込んだのは、一刻も早くトイレに行きたいと言う執念ゆえであった。
 しかし、グラウンドを退場し、クラスメイトとのお喋りもそこそこに向かった昇降口で、佳乃は厳しい現実に直面する。
(う、そ……)
 お昼が近いためか、昇降口から階段下の女子トイレまでの30mには、父兄や生徒たちの順番待ちの列がずらりと続いていた。
 ざっと見ただけでも50人近く。普段は絶対にありえない混雑は、防犯上の理由から校舎が運動会の開催時間に限り1階の昇降口付近をのぞいて閉鎖されていたことによる。
(……あ、あんなに待たなきゃ、いけないの……?)
 午前いっぱいをかけてたっぷりと増水した恥骨の上のダムは、すでに危険水位を突破し、なおも尿意が高まり続けている。股間も時折痙攣するように引きつり、限界が近いことを訴えていた。疼く下腹部は、いつ本格的なオモラシを始めてもおかしくなさそうに思えた。
 その場で小さく脚踏みを繰り返しながら、佳乃は込み上げる尿意を堪え、ぎゅっと脚の付け根を握り締めぐいぐいと腰をゆする。
 列の順番待ちには、まだ小さな一年生や家族に連れられた幼稚園くらいの小さな子までが整然と行儀良く並んでいた。あの中できちんと順番を待ち続けるなんて、とてもできそうにない。
(だめ……ほ、他の、おトイレっ……)
 じっとしていられない下半身をごまかすように、佳乃はグラウンドを歩き回った。
 しかし、場所を変えようとも、グラウンドには普段よりも遥かに多い人が溢れ、その一方で使うことのできるトイレはごくわずか。利用者に対して圧倒的に不足したトイレは、体育館横も、第2昇降口も、職員棟の来賓用も、どこもかしこにも長蛇の列を築いていた。
(あぁ……っ)
 そうこうしている間にも、他の学年の生徒も午前中最後の競技を終えて次々と順番待ちの列に加わってゆくのだった。
 切なく甘い悲鳴を上げる股間にぎゅっと力を篭め、当てもなくグラウンドをさまよう。
 そしうてとうとう、佳乃はぐるりと校庭を回りこみ、人気の無い校舎裏にまでやってきてしまっていた。オシッコを我慢していることを悟られないよう、自然に人目の無い場所を選び続けた結果、グラウンドからも大きく離れてしまっている。
「うぅっ……」
 他者の視線の無いのをいいことに、はっきりとスパッツの股間を押さえながら、よちよちと小股になって佳乃は校舎裏を歩き回る。
 しかし寂れた校舎裏には大したものがあるわけもなく、入り組んだ校舎の裏階段のデッドスペースには雑草がぼうぼうに生え茂っているだけ。無論のこと、佳乃の切望するトイレなど影も形もない。
「オシッコ……っ、でちゃう……っ」
 はっきりと尿意を口にして、佳乃はきゅっと身をよじる。
 少女のおなかの奥にジンと熱い痺れが走る。運動靴が砂利を踏むだけのわずかな震動でもたぷたぷと熱い液体が揺れ動くようだった。
 しかし、トイレは遠い。
 普段なら汚くてほとんど誰も使わない体育館横のトイレすらも、今日は順番待ちの列で人が溢れ返っていた。今から引き返しても、順番が回って来るまで我慢できるだろうか、果てしなく怪しい。
「どう、しよう……が、がまん、できないかもっ……」
 身体の奥から襲い来る『オモラシ』の恐怖と戦いながら、排泄孔を抑え腰を前後に揺する佳乃の視界に、校舎の奥まった場所にある茂みが映る。
 ちょうど佳乃の腰の辺りまで、背の高い草が綺麗に生え揃った、いかにも『ちょうどいい』場所だった。
(くぅ……んぅっ…)
 イケナイことだと分かっていながらも、いちど“そういう視点”でそこを見てしまえば、そこは佳乃が尿意から解放されるのにあまりにもぴったりな場所だった。すくなくとも他者の視線はなく、下着を脱いでしゃがみ込んだ下半身もしっかりと隠してくれる。足元の地面に広がる水たまりだってちょっと外から見たくらいでは分からないだろう。
(んんっ……)
 その状況がリアルに頭の中で想像できてしまうだけに、込み上げてくる排泄の誘惑を振り払うのは困難だった。佳乃の腰の揺れは次第に大きくなり、我慢のステップも激しさを増す。
 本来、用を足すにはあまりにも相応しくない屋外の茂み。しかし、今やそこは佳乃にとって待望にして唯一残されたオシッコのできる場所だ。切なく疼く股間が今にも熱い雫を吹き上げようとヒクつき、膀胱は収縮の蠕動運動を繰り返す。
 そして、堪えきれない生理現象に衝き動かされるように、佳乃の足は茂みのほうへと吸い寄せられていった。
(……だ、誰もいないよね? 見られて、ないよねっ……!?)
 震えるあしでさくさくと雑草を踏み、掻き分けてその中央に立った佳乃は何度も何度も慎重に周囲に視線を巡らせ、念入りに人の気配を確認する。
 足元の背の高い草むらは膝上までを覆い隠していたが、いくら小柄な佳乃でもそこに隠れることは不可能だ。こんなところでしゃがみ込んでいるのを見られれば、何をしようとしているのか一発でバレバレだ。
(こ、こんなところで……おしっこ……なんてっ……)
 多感な十代の少女には耐えがたい羞恥に、佳乃の顔は耳まで赤く染まっている。
 5年生にもなってトイレまで我慢できずに校舎裏でオシッコを済ませたなんて、もし誰かに知られたら明日から学校に来れなくなる。
 しかし、もはや選り好みをしている余裕はないのも事実だった。
(ダメ、で、でちゃう、うぅっ……!!)
 断続的に股間を突き上げてくる尿意に急かされ、少女のプライドは敗北を許容した。
 オシッコを塞き止めるため足踏みを続けねばならない両足から、もたつく指先に焦れつつ下半身を覆うスパッツと下着をまとめて踝まで引き下ろす。
 むき出しになった股間が外の風に触れて、少女の下腹部はますます切なげに疼く。同時に深く腰をかがめると、じんっ、と腰骨に甘い解放の予兆が響いた。
「ぁうっ……」
 我慢に我慢を重ねていた如意が、一気に下半身を侵食してゆく。限界を超えて我慢を続けてきた尿道口に、ぢくっと鈍い痛みが走る。
 佳乃の身体はあっという間に排泄の準備を整え、小さく幼いつくりの割れ目が、しゅあっ、と小さな水音を立てて弾ける。
(ふ、あぅぅ……っ)
 佳乃が安堵とともに股間の緊張を解こうとしたその時だ。
「――ちょっと!! なにやってるの!? あなたっ!!」
「えっ……!?」
 静かな校舎裏に響き渡る怒声に、佳乃はほとんど反射的に立ち上がっていた。足首の上まで降りていたスパッツと下着を無理矢理引っ張りあげるまで、半秒もかからない電光石火の早業。
 大慌て振り向いた先には、しかし誰の姿もない。
「――いいから!! 早く立ちなさいっ!!」
 再び声が響いた場所は佳乃からちょうど死角になる、非常階段をひとつ挟んだ反対側だった。
「――ちょっと!! 聞いてるの、あなたっ!?」
(な、何……?)
 続けざまにぴしゃりと叩きつけられるような怒声に、さっきまで溢れそうだったオシッコすら引っ込んでしまう。背筋を竦ませながら、佳乃は恐る恐る非常階段の影からそちらを覗きこんだ。
 そこでは、腕を組んで仁王立ちになった風紀委員会顧問の風間先生が、ジャージの上だけを着た小さな女の子を見下ろしてじっと睨み付けているところだった。
 ジャージの隙間から覗く女の子の体操服には、2-1と書かれたゼッケンがある。おでこに結ばれた赤いハチマキを見るまでもなく、佳乃と同じ赤組の下級生だった。
「ちょっと、いったいあなた、こんなところでなにをしようとしていたの!?」
 風間先生は6年生の担任で、規則に厳しく、ちょっとしたことでも見逃さずにお説教をすることで有名だった。響き渡るキンキンとした声にすっかり怯えてしまった女の子は、小さくなって俯くばかりだ。
「答えなさい!! 何をしようとしてたの!?」
「あ…その……っ」
 だが、女の子がうまく答えられない理由は他にあった。女の子のむきだしの両足はくねくねと折り曲げられ、膝がせわしなくきゅきゅっとくっつき合わされている。
 その様子を見て佳乃も気付いた。
(あの子も、わたしと一緒なんだ……)
 どうやら、彼女も大混雑のトイレを使うことができず、佳乃と同じように校舎裏で済ませてしまおうと考えたらしかった。そこを通りがかった風間先生がそれを見つけたのだ。
 オシッコを我慢しているためにまっすぐ立てない女の子にイライラと足を踏み鳴らし、風間先生は大きな声を上げる。
「しゃんと立ちなさい!! そんな格好、恥ずかしいでしょっ!!!」
「ひぅっ……」
 いくら怒鳴られても、無理なものは無理だ。けれど風間先生はそんなことをまるで配慮せず、小さな女の子を怒鳴りつける。
「………、……っこ、……です……」
「声が小さいわよ。ちゃんと先生に聞こえるようにお返事しなさい!!」
「っ……ぉ、……お、しっこ……です」
「おしっこ!? こんなところでおトイレしようとしたのね?!」
「ひぅ……」
 はっきりと自分の尿意を露にされて、女の子はぎゅっと背中を震わせる。
 それはあまりにも残酷な仕打ちだった。
 たとえ2年生だって、女の子にとって『トイレにいく』ということはとても恥ずかしいことで、それをはっきり言われるだけでも死んでしまいたくなるくらいなのに。まるでそれを悪いことのように騒ぎ立てる風間先生が、佳乃には信じられなかった。
「あなた、もう2年生でしょう!? 幼稚園じゃないのよ!? こんなところでオシッコしちゃいけないことくらい分かるでしょう!!」
 次々と辛辣な言葉をぶつけられ、女の子はいまにも泣き出してしまう寸前になっている。小さな両膝がせわしなく擦り合わされ、左右の運動靴の爪先が地面をぐりぐりといじり、スパッツは両手でぎゅうぎゅうと引っ張り上げられている。とてもではないが返事をするどころではないのがはっきりと見て取れた。
「なにしてるの!! おんなのこなのに、はしたないっ!! ちゃんとお手洗いまでガマンしなさいっ!!」
「ご、ごめん、なさいっ……」
 必死に我慢しようとする女の子の仕草に、一度は忘れていたオシッコが再び佳乃のおなかの中で激しく暴れ始める。
 解放寸前のところで塞き止められたためか、尿意はさっきよりもさらに強く激しい。なにしろオシッコの準備は完全に終わっていたのだ。脚の付け根、オシッコの出る孔のすぐ上が、ぐつぐつと熱く煮え滾っているかのようだった。
 佳乃はずり落ちかけたスパッツと下着を慌てて引っ張り上げ、その場でオシッコを我慢するための足踏みをはじめてしまう。
(はぅっ……くぅ、ぅうっ……)
「2年生にもなって、おトイレのしつけもできてないのね……最近の子はっ!!」
 風間先生の声が響く。
 2年生どころか、佳乃はあの子よりも3歳もお姉さんなのに、我慢できずに草むらでオシッコをしてしまうところだった。沸騰するような尿意と、自分が叱られているような惨めな気分に、佳乃はその場を動けなくなってしまっていた。
(ぉ、おトイレ……はやくっ……)
 一刻も早く、オシッコを済ませなければならなかった。こんな校舎裏の茂みではなく、ちゃんとしたおトイレで。
 ……そんな佳乃の願いも虚しく、事態はさらに最悪なほうに転がってゆく。 
 不意に顔をあげた風間先生と、佳乃の視線が合ってしまったのだ。
 慌てて隠れようとした佳乃だが、もう遅い。風間先生は女の子の手をつかむと、「だめぇっ」という必死の抗議も聞かずに佳乃のもとまで無理矢理ひきずってくる。
「……あなた、どうしてこんなところに……まぁいいわ。この子、トイレまで連れてってあげてちょうだい」
「え、あの、でも……」
 トイレは今大混雑の大入り満員、長蛇の列。並ぶだけでも何十分かかるのかわからない。そんな事は風間先生だって十分に分かっているはずなのに。風間先生はまるで佳乃が悪いことをしたかのように眉を大きく吊り上げた。
「なあに、あなた上級生でしょ!? おねえさんなんでしょ!? 嫌がるんじゃありませんっ!! 上級生は下級生のお手本になって、ちゃんと面倒を見てあげなちゃダメじゃないのっ!!」
 言外に篭められた、トイレ以外でのオシッコを許さないという強い強制。
 その迫力に、気弱な佳乃が抗うことができようはずもなく――
「は……はい…」
 今にも漏れてしまいそうな我慢の限界の下腹部を抱えたまま、佳乃はそうやって頷くしかできなかった。





「いいわね、早くしなさいよ!?」
 頭から湯気を立てているかのように怒りながら去ってゆく風間先生を見送り、佳乃はたまらずぎゅっとスパッツの股間に手を添える。
 お説教の間は禁じられていた我慢がようやく許されたのだ。
「う…はぁぅ…っ」
 人目を気にせずぎゅっと足を交差させて、どうにかおなかをなだめてゆく。ほんのわずかだけ楽になった膀胱に、佳乃はしゃがみ込んでしまっている女の子のほうを振り向いた。
「あ、歩ける?」
「っ……」
 女の子はほんのちいさく、わずかに首を横に振った。
 しかし、だからと言ってここで立っているわけにもいかないのだ。
「行こ……先生に、怒られちゃうよ」
「おねえちゃん……っ」
「だ、だいじょうぶ。……トイレまで、すぐだから。……我慢できるよっ……」
 それはほとんど佳乃自身に向けられた言葉でもあった。女の子を励まして立たせ、佳乃は校舎裏を回りこむ方に歩きだした。
「お、おねえちゃんっ、……だめ、もっとゆっくりっ!! ……で、でちゃうっ」
「う、うん……」
 身体の小さいせいか、佳乃よりもさらに余裕のない女の子の歩みはじれったくなるほど遅く、ほとんど立ち止まっているのと同じような状況だ。
 一歩ごとにびくん、と背中を反らして、くねくねと足を曲げる。
「あっ、……っ……うぅっ」
 既に女の子のスパッツには、前から見てもはっきり分かるくらいの大きな染みができてしまっていた。何度もおチビリを繰り返しながら、それでも最後の一線だけは健気に守ろうとしている。
 そんな女の子を見ながら、佳乃は想像してしまわずにはいられない。
(い、一緒に並んで……何分くらいかかるのかな……あんなに、混んでるのに…っ)
 込み上げてくる尿意の波を、スパッツをぐいっと引っ張り上げてごまかし、荒くなった息を押さえこむ。
(や、やっぱり、この子に、先に譲ってあげなきゃダメだよね……が、ガマンしなきゃ……)
 今すぐこの小さな手を振り払って、校舎裏にUターンしたいという本心をぐっと飲み込んで、佳乃はようやく校舎を半分回りこみ、給食場のほうまでやってきた。
 しかし、一番近い第1昇降口前のトイレまであと半分、というその場所で、とうとう女の子は足を止めてしゃがみ込んでしまう。
「だっ、だめ、っ、おねえちゃんっ……!!」
 掠れた涙声で、女の子は佳乃の手をきつく握り締める。
「もうだめっ!! でるっ、おしっこ、…っ、でるぅ!!」
 とうとう我慢の限界がやってきてしまったのだ。そう言う間にも、女の子のスパッツはおしりの方までみるみる色を変え、地面にはぽたぽた、ちょろろっ、と染みが広がってゆく。
「ま、待ってっ!!」
 ぎゅっと目を閉じ、脚を震わせて、今まさに『オモラシ』をはじめてしまいそうになった女の子に、佳乃は慌てた。
 ほとんど反射的に小さな女の子を抱えて、すぐ近くに生えている松の木のそばに駆け寄る。同時に女の子の股間ではオシッコが激しく吹き出し、地面にばちゃばちゃばちゃっと飛び散った。
「ぁあああぅぅっ……!!」
 女の子が松の木の根元にしがみ付くように倒れこむと、すぐに激しいオシッコが始まった。スパッツをびしゃびしゃに浸した女の子のオシッコが、揺すられる腰に合わせて地面に撒き散らされてゆく。
 目の前で繰り広げられる盛大なオモラシから、佳乃は慌てて目を反らす。女の子のことを思いやったのではなく、つられてオモラシを始めてしまいそうだったからだ。
 壊れた蛇口のようにいつまでも止まらないかと思われた女の子のオモラシだったが、およそ1分近くもかかってやっとスパッツから吹き出す水流が細くなり、やがてぽた、ぽた、と雫に変わる。
「っく…ひっく……お、おねえ、ちゃんっ……」
 どう言い訳してもごまかせない、完璧なオモラシ。
 我慢しきれなかったオシッコで股間をびちゃびちゃに汚してしまった少女は、縋り付くような視線をを佳乃に向ける。
「あたし、オシッコ……おしっこ、しちゃったぁ…っ」
「っ……」
 佳乃はあわててジャージの上着のポケットからティッシュを引っ張りだして渡した。
「これ……つかって」
「……ぅん……おねえちゃん……ごめんなさい……」
「う、うん……でも、しかたないよ……我慢、できなかったんだよね」
「っ……」
 大失敗してしまったことに涙ぐみ、ぐす、と小さく鼻を鳴らして、それでも女の子はのろのろと後始末を始める。オモラシのショックも大きいだろうが、お尻が濡れたままでは気持ち悪いのだろう。股間を覆っていた濡れたスパッツをずり下げる。
 女の子の股間は、まだ少しずつオシッコを漏らし続けているようだった。向きだしのあそこからぽたぽたと止まらない雫をさらに地面に振り撒いて、女の子はちいさくしゃくりあげる。
(っ……だめ、我慢、がまんっ……)
 今なお、おなかの中にオシッコを溜めたまま我慢を続ける佳乃にとっては、女の子の姿はまるで自分の事のようだ。哀れな下級生を見捨てることもできず、せわしなくスパッツの股間を握り締めながらそこに立ち尽くしていた。
 ぐちゃぐちゃに濡れたスパッツと下着はすこし拭いたくらいで渇くはずもないが、それでも女の子はティッシュで股の部分を拭い続けた。
「保健室までいけば、着替えあると思うから……」
「うん……」
 励まそうとする佳乃の前で、女の子は湿ったスパッツの股布の部分を気にするようにひっぱりながら、ひょこひょこと立ちあがった。
 そして、佳乃が予想もしていなかったことを言ってくる。
「でも、いいよ。おねえちゃんも、おしっこでしょ? ……あたしなら、ひとりで行けるから」
「そ、そんなことっ……!!」
 気付かれていない……などと思っていたのは佳乃だけだった。内股で俯き加減な佳乃の様子は、誰が見てもはっきりと分かるほどにオシッコを我慢しているのが明らかだった。
 自分よりずっと小さな女の子にオシッコの心配をされてしまう恥ずかしさに、とっさに首を振るも、今なおもじもじダンスがおさまらないままでは説得力もない。俯き、唇を噛んだ。
「へいき。前にも……おもらししちゃったこと、あるもん。だから、おねえちゃん……トイレ行って、いいよ」
「……そ、そんなっ」
 大変なのは女の子も同じなのに、放っておけるわけがない。
 けれど、佳乃の頭の冷静な部分は、保健室まで往復している間、自分の我慢が持たないことを告げている。
「じゃあね、おねえちゃんっ」
「……あ」
 出すものを出してしまったからだろうか。さっきよりもしっかりした足取りで、少女は心配する佳乃にちいさく笑顔を見せて走り去ってゆく。
「う・……」
 小さな背中を見送って、一人、あとに残された佳乃は、茂みの奥にくっきりのこされた少女のオシッコ跡を見てぶるっと背筋を震わせる。
(……ここで、オシッコ……)
 少女の残したオシッコの残り香が、まるでトイレの個室に入ったかのような誘引作用をもってして尿意を加速させる。本来、排泄とは無縁の街路樹の根元を、佳乃の頭は『オシッコをする場所』と定められた区画と認識してしまっている。
 確かに野外での排泄には激しい抵抗があるものの、一度は校舎裏で済ませてしまおうと思ったのだ。そして一度下級生によってマーキングされた先例があれば、1回も2回もかわらないように思えてくる。
(……気付かれ……ないよね。一緒にしちゃおう……もう、我慢できそうにないし……)
 そっとスパッツのゴムに指をかけた佳乃だが、いざしゃがみこもうとしたところではたと大事なことに気付いて動きを止める。
「あ、紙……!!」
 少女に手渡したままのポケットティッシュに思い至り、佳乃はぎゅっと前を押さえ、オシッコを一時中断して周囲を見まわした。
 すると、中身のからになったティッシュの袋が、茂みのすみに落っこちている。
 慌てて中身を確認するも、そこにはもうほとんどティッシュは残っていなかった。まだ半分以上あった中身は、どうやらあらかたびちゃびちゃに汚れた少女の股間を拭い清めるのに使われてしまったらしい。
「……これしかないや……」
 わずかに残った一枚を握り、佳乃は溜息をつく。
 女の子のオシッコは、男の子の場合とは根本的に違う。出したらぶんぶんと振って雫をきっておしまい、というわけにはいかないのだ。オシッコのあとを綺麗にするティッシュは、排泄のための最低必須条件になる。たったこれだけでは十分に後始末もできない。
 それでもないよりはずっとマシだ。佳乃は袋に手を伸ばそうと腰をかがめ――
「ちょっと!! どういうことなの、これは!?」
「え、あ……」
 鋭い怒声に、弾かれるように振り仰ぐ。
 いつのまに近付いていたのだろう。そこには腕組みをして仁王立ちになった風紀の風間先生がいた。予想外のことに混乱する佳乃に、風間先生は大きな声で叫ぶ。
「あなた!! あの子はどうしたの!? ちゃんとお手洗いまで連れていったの!? なんでこんなところでまだぐずぐずして――」
 言いかけた言葉が止まり、風間先生の眉がぐいっと吊りあがる。
 先生の視線の先には、女の子が出したオシッコの跡と、丸まったティッシュがあった。佳乃は反射的に、手の中のポケットティッシュを握り締めてしまう。
「ちょっと!? あなた、こんなところでオシッコなんてしたの!?」
「ち、ちが…っ」
「ねえ!? ここがどこだか分かってるの!? 創立記念の記念植樹よ!? 学校で一番大切な木なのよ!? ねえっ!?」
 佳乃の言葉を掻き消して、怒鳴り声が校舎に反響する。風間先生はすっかり頭に血を昇らせ、松の木に括られた白いプレートを指差して、ヒステリックに叫んだ。
「ああもう、ちゃんとお手洗いがあるじゃないの!! どうしてそこまできちんと我慢できないの!? あなたもう5年生でしょうっ!?」
「あ、あの、違い、ます、これ、わたしじゃ……」
「ウソつかないの!! 先生はちゃんと見てたんですからね!? あなたがそこの茂みに入ってしゃがんでるのを!! 幼稚園の子じゃないでしょ!? きちんとお手洗いのしつけもできてないなんて、恥ずかしいと思わないの!!」
「ち、違い、ますっ……!! 聞いて、聞いてくださいっ」
「なにが違うの!! あなた、担任の先生は!? 名前はなんていうの!? ご両親と先生にお話ししなきゃならないわ。……5年生にもなってお外でオシッコなんて、信じられないもの!! お医者様に診てもらいなさい!!」
 あまりに無慈悲な、一方的な潔癖感だけを押しつける言葉の暴力。
 オシッコ、という当たり前の排泄行為をことさらに貶め蔑む風間先生の癇癪に、佳乃の繊細な心は無残なまでにずたずたに切り裂かれてゆく。
「どうしたんですか、落ち付きのないっ!! せんせいがお話をしてるんです、じっとして聞きなさい!!」
「ち、ちが、わたし、わたしッ……」
 無理矢理きをつけを強制されたせいで、込み上げてくる尿意をあからさまに堪えることも許されない。もう両手の力を借りていないとオシッコを我慢することもできないのに。
 いくら言っても落ちつきを見せず、くねくねと腰を揺すり続ける佳乃を、先生は鋭く叱咤する。
「なんです、さっきから……そんなに先生のお話が嫌なんですか!? でしたらいいわ、罰を追加します。そこをお掃除なさい。徹底的に綺麗にするのよ」
 呆然と、佳乃は風間先生の指差す先、自分の足元を見下ろした。
 風間先生は、女の子のしてしまったオシッコのあとかたづけをしろ、と言っているのだった。
「それは校長先生と理事長先生が、創立の記念に植えてくださった大切な木なんですからね。汚いオシッコなんかで汚してしまってごめんなさい、って謝りなさい!! ……ほら、どうしたの!? あなた、先生のお声が聞こえないの!? お返事なさい!!」
「っ、う」
(ちがうの、ちがうのっ……わたし、まだ、オシッコして、ないっ……)
 必死の訴えももう声にならない。
 佳乃が、オシッコで校庭を汚してしまうのはこれからだった。
 いままさに、佳乃の股間では押さえきれない尿意が爆発し、緩んだ水門の隙間からオシッコがしゅるしゅると漏れ始めている。
 じゅじゅっ、と散った雫が地面に散り、ぎゅっと握られた指の間で色を変えたスパッツから、熱い雫が滲み出して、股間を覆う両手の器を溢れて少女の脚を伝う。
 ひとすじ、ふたすじ、堰を切ったように溢れだす黄色い放水が、ぱちゃぱちゃと音を立て始めた。
「ああ、ちょっと!? なに!? まだ漏らす気!? まだそんなに出し足らないのっ!? あんなにいっぱい出しておいて!! ……どれだけだらしないのよ、あなたのオシッコは!?」
「ぅ……ふぇ…っ、ち、違う、ちがうの……これ、違うのぉっ」
「何が違うんですっ!! 全部あなたのオシッコじゃないの!! はやく止めなさい!! 恥ずかしいわねっ!!」
「そんな、やだっ……止まんない……っ、したいの、オシッコ、……先生、オシッコさせてぇ……っ」
「――いい加減になさいッッ!! こんなところでなに言ってるの!? あなた、それでも5年生なの!? 女の子でしょう!? みっともないと思わないのッ!? ああもう、幼稚園からやりなおしてきたらどうッ!?」
 この後に及んで、トイレを禁じようとする先生に、佳乃はべそをかきながら必死に許しを請おうとする。
 くねくねと脚を擦り合わせるが、そんなものでもうダムの放水が止まるわけがない。小さな手のひらに受け止めきれないオシッコが、壊れた水道のように流れ落ち、ソックスを濡らし運動靴をびちゃびちゃに浸してゆく。
「ぁあ、あああっ、ぅぁあああ……」
 あまりに理不尽な言葉の暴力を浴びながら、
 いつまでも、いつまでも。佳乃は涙といっしょに、大量のオシッコを漏らし続けるのだった。



(初出:移転記念の書き下ろし 2007/10/15)

 
[ 2007/10/15 19:32 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

第5夜 鶴の恩返し 

 
 おつうは本当に良く働きました。
 与ひょうよりも先に起きていてご飯の支度をし、与ひょうが寝るよりも遅くまで起きていて繕いものに精を出しています。一体いつ眠っているのだろうと思うほどでした。それだけではありません。おつうはご飯もあまり多くは食べませんでしたし、与ひょうが用事で出かけて家に戻る時もきちんと与ひょうを待ち、なにかあれば必ず与ひょうに譲り、いつも与ひょうに優しく笑いかけてくれるのでした。
 あの反物のことといい、まるで人間ではないみたいだ――と、与ひょうがおつうのことをそう思うのも不思議はありませんでした。なにしろ、与ひょうはおつうが厠に立ったところを見たこともないのです。
 いったいおつうが何のために自分に尽くしてくれるのか、そして本当は何者なのか。何度も聞こうと思う与ひょうでしたが、そのたびにぐっとそれを飲みこんで暮らしていました。





 与ひょうはおつうとふたりで暮らし始めて、はじめての春が訪れました。このころになると与ひょうとおつうはすっかりうちとけて、反物をたっぷり売り払ったおかげで手に入れたお金で、のんびりと暮らしていました。おつうの反物はすっかり町でも評判になり、とても高い値段で売れるになっていたのです。
「どうじゃ、大黒屋の大旦那さまも大層お気に入りじゃった。これでしばらくは表に出んでも暮らしていけるぞ」
 今日与ひょうはいつも以上に上機嫌でした。町の呉服屋に持ちこんだおつうの反物が、いつもの何倍もの値段で売れたのです。見た事もない大金を前に、与ひょうは浮かれていました。お土産をいっぱい買って戻った与ひょうは、町で起きたことを面白おかしくおつうに話して聞かせます。
 けれどおつうはそんな与ひょうを見かねたように言うのです。
「ねえあなた、ゆっくりするのもいいけれど、たまには外に出て働いてください」
「何を言ってるんじゃ、まだこんなに金もある。それにいざとなれば、またあの反物を売ればいいことじゃ。……また織ってくれるんだろう?」
「……え、ええ、でも……」
 どこか歯切れの悪いおつうに、与ひょうはにっこりと笑いかけます。
「そんなことよりほれ、この前買ってきた干菓子だ。お前も食べろ。うまいぞ」
「はい……」
 心配そうなおつうの顔を晴れやかにしてやろうと、与ひょうは色々なものを持ちだしては見せびらかしました。全部、反物を売りに町まで行った帰りに買ってきたものです。
 けれど、与ひょうが何をしても、何を見せてもおつうの顔は曇ったままでした。
 何とはなしにおつうのその顔が気にはなったものの、ひさしぶりの酒に酔っ払った与ひょうは、そのまま眠ってしまったのでした。
 そうこうしているうち、一日が過ぎ二日が過ぎ、五日が過ぎ十日が過ぎて、反物のお金もだんだんと減り始め、与ひょうは困るようになりました。具合の悪そうなおつうを案じて、与ひょうは一日中おつうの側を離れず、町まで使いを頼んだりしておいしいお米や魚を買ってきてもらっていたのですが、もちろんそんなことをしていてはいくらお金があっても足りません。
 そこで与ひょうは、またおつうにあの反物を持ってきてもらうように頼むのでした。
「なあ、そろそろ金がなくなってしまう。おつう、またひとつあれを織ってきてくれ」
「え、ええ……でも、あなた、その……」
「なあに、これで最後、最後にする。約束だ。……な?」
 与ひょうが前にもそんなことを言っていたのを、おつうは覚えていました。けれどここで強く断れない理由がおつうにはあったのです。





「では、あなた。決して見ないでくださいね」
「ああ、わかってるわかってる、行ってきてくれ」
「あなた、約束ですよ」
「ああ。もちろんだ、約束だ。」
 そう何度も念を押して、おつうは奥の間に入ってゆきます。
 やがて、ぎぃ、ぎぃ、ばたん、というはたおりの音が響き始めました。
 与ひょうはごろりと横になって、煙草に火をつけます。昔の与ひょうならこの間に一仕事すませてくるべぇと思い、畑をたがやしてきたものですが、おつうのおかげで贅沢な暮らしに慣れてしまった与ひょうは、すっかり家の外に出なくなっていました。
「…………」
 ぎぃ、ぎぃ、ばたん。ぎし、ぎし、ばたん。
 それにしても、今日のはたおりには時間がかかっていました。一番最初の時は、それこそ煙草を一服ふかしている間に織りあがっていたのですが、今度は待てど暮らせどふすまは空きません。
 気のせいか、いつもよりはたおりの調子が悪いようにも聞こえます。
 与ひょうはすっかり待ちきれなくなって、まだかまだかと囲炉裏の前を行ったり来たりし始めます。それでもおつうはさっぱり出てこず、時には突然ぎぃ、ぎぃ……とはたおりの音が止まってしまうこともありました。
「……おかしい。変じゃ」
 さすがの与ひょうもとうとう待ちきれなくなって、与ひょうはふすま越しに声をかけました。
「なあ、まだか、おつう」
「…………」
「どうした、おつう。まだかと聞いてるんじゃ」
「…………は、はい」
 どこか、おつうの声も苦しげです。
 不安になって、与ひょうはふすまに手をかけようとしました。けれど指が触れようとしたところで、それをおつうの声が制します。
「あなた、み、見ないでくださいね。約束しましたよ」
「あ、ああ。じゃが」
 いくらなんでも、おかしいことが多すぎました。
 大金持ちになって毎日なまけていた与ひょうでも、心根の優しさまでは変わっていません。苦しそうなおつうに声をかけます。
「どうかしたか、おつう。なんぞ身体でも悪いのか。無理はせんでもええ。明日でも明後日でも、構わん。今日は休んだらどうじゃ」
「い、いえ……そんな、とても……」
 おつうの声はあきらかにうろたえていました。
「もうええ。わしが悪かった。無理をさせておったんじゃな。すまなかった。……もう今日早めにして、休め、おつう」
「だ、大丈夫です……す、少し考え事をしてしまって……あなた、あと少しで全部できあがります」
 そう言って、ふすまがつと開いて、そこからおつうの手が伸びてきました。
 与ひょうの前に指しだされたのは、ずいぶん短い反物でした。
「ほ、ほら、もうこんなにできています……ですから、できあがったらすぐに町へ売りに行ってきてくださいまし」
「……お、おう」
 けれど、おつうが差し出した反物は、しわくちゃで汚れていて、とてもとても売り物にはならないような貧相なものでした。いつもの出来栄えとはまるっきり違う反物に、与ひょうは言葉を失ってしまいます。
「で、では……あと少しですから、絶対に、絶対に見ないでくださいましね」
「ま、待ておつう。何があったんじゃ、これは……」
「お願いです、見てはいけませんよ……っ!!」
 焦ったようなおつうの声に、与ひょうはとうとう我慢できなくなってしまいました。
 ぎし、ぎし……ぎし、ぎし……ばたん。ぎぃ……
 不安定な調子の機の音が、与ひょうの不安をいっそう掻きたてます。
(……許せ、おつう)
 大事な大事なおつうとの約束でしたが、これだけおつうの様子がおかしくては黙っていられません。与ひょうは足音を潜めてふすまに歩みより、ゆっくりと押し開けて、奥の間の様子を覗いてしまいます。
 開いたすきまの向こう――そこで起きていたことを知って、与ひょうはあっと声を上げてしまいました。





 ぎし、ぎし、ぎぃ……ぎし、ぎしっ、ぎし……
 おつうは機の前で着物の前をはしたなく緩め、片手でぎゅうぎゅうと脚の間を押さえていました。もう一方の手は辛うじてはたおりの前に届いていますが、ふらふらと震えていてとても見ていられない危なっかしい手つきです。
 それよりも与ひょうの目を引いたのは、おつうのおなかでした。
 緩められた着物の下で、おつうのおなかははちきれんばかりに膨れ上がっていました。まるで赤ん坊でも入っているように、ぱんぱんに丸くなり、今にも破裂してしまいそうです。
 けれど、それがなんであるのか、与ひょうにはすぐにわかりました。
「ああ……っ、だめ、だめ、もう……漏れちゃう……ぅ!!」
 おつうの手が止まり、両手が脚の間にねじ込まれます。
 ぎし、ぎしとおつうが身体をよじるたびに床がきしみ、寄せられた脚がせわしなく動き回ります。おつうが何を我慢しているのかは、何よりもあきらかでした。
「お、おつう」
「え……きゃ……きゃあああああっ!?」
 思わず与ひょうが漏らした声に、おつうは跳ね上がるように立ちあがりました。その手がはたおり機を突き飛ばして、がたんと大きな音を立てます。ばさっと拡がったくしゃくしゃの反物の上に、おつうはふらふらと手を突きました。
「お、お前、まさか、あれから一度も厠に」
「ぁ……ち、ちがうんです、これは、そのっ」
 おつうは首を振りますが、ふるふると震えている腰と、ぴったり寄せられた膝が、おなかの中に途方もない量の恥ずかしい熱湯を堰きとめていることをはっきりと知らせていました。
 おつうは、とんでもないくらいの恥ずかしがり屋でした。与ひょうと一緒にいる時は一人で厠に立つことも出来ず、じっと我慢しているくらいだったのです。
 与ひょうが畑に出かけていた頃は、誰もいない時を見計らって一日分のおしっこをこっそりと済ませていたのですが――大金を手に入れてしまったせいで与ひょうがすっかり家から出なくなって以来、どうしようもなくなってしまい、おつうはおなかがそんなになるまでずっとずっと我慢を続けていたのでした。
 こうして一人になれるはたおりの時だけが、恥も外聞もなくして脚の間を押さえて我慢できる時間だったのです。
「あ、あ、あっ、あーっ……」
 おつうの腰がくねくねと動き始めます。与ひょうにだけは見られまいとじっと我慢していたおつうですが、立て続けの衝撃にとうとう我慢が限界に達してしまったのでした。
 そもそも、普通なら絶対に我慢のできるはずのない量のおしっこです。おつうはもう何日もあんな風になってしまったおなかを抱えながら、毎晩与ひょうに付き合ってお酒を飲んでお菓子を食べていたのでした。さぞ喉が渇いたことでしょう。
 けれど、いくら水を飲んでも飲んでも、おしっこはおつうのおなかに溜まるばかりだったのです。
「や……だめ、だめ……見ないでぇ……っ」
 絞りだすようなか細い声と共に、緩められたおつうの着物の裾から、ぷしゃあぁっと激しい水流が弾けます。
 色濃く黄色いおしっこが激しく滝のように流れ落ち、おつうの着物と織ったばかりの反物をぐしゃぐしゃに濡らしてゆきます。
「あ、ああ……ち、ちがうんです、あなた、これは……違うんです……っ」
 すさまじい勢いで迸り、ばしゃばしゃと雫を飛び散らせて白い反物と白い着物を染め上げてゆく黄色い海。何日も何日も、それこそ気の遠くなるほど我慢を続けていたおつうのおしっこは、いつまでたっても終わりそうになりませんでした。
 おつうがくねくねと腰をよじるたびに、滝のようなおしっこがあちこちに飛び散ってゆきます。一度破れてしまった堰は、もはやとても止めようとしても止まらないのでした。
「ぁあ……あああああ……ぅぅ、ああああ……」
 おしっこを漏らしながら泣き崩れるおつうから、与ひょうは目を離せずにいました。
 はじめておつうにあった時と同じような、焼けるような激しい胸の高鳴りが、与ひょうを捉えて離しませんでした。うつくしく可愛いおつうが、可憐な悲鳴を上げながらおしっこをもらし続ける――それは、与ひょうがいままで一度も見たこともない衝撃的な光景でした。
「おつう……」
「ああ、あなた、見ないで、見ないでくださいまし……っ」
 ただただ呆然と見つめ続ける与ひょうの前で、おつうはぱんぱんに膨れがあったおなかが空になるまで、ずっとずっと長く、おしっこを漏らし続けるのでした。





 ……それからしばらくして。
 町では大黒屋の主人が新しく着物を仕立てて売るようになりました。
 その着物は、まるで黄金のようにきらきらと美しく輝く色に染め上げられた、とてもきらびやかな反物でできていたのでした。
 山奥に住む与ひょうが売りに来たというその反物は、たちまち周囲の評判となり、十倍の重さの金と引き換えでも飛ぶように売れてしまいました。金のように輝く着物で着飾る商家や武家の娘を遠くから眺めながら、一体どのようにすればあんなにも綺麗な反物ができるのかと町の人々は首を捻って噂し合ったのでした。
 そして、おつうと与ひょうは数えきれないくらいのお金を貰って、いつまでもいつまでも幸せに暮らしたということです。


 ――めでたし。めでたし。



(初出:旧ブログ書き下ろし 2007/09/27)

 
[ 2007/10/13 11:23 ] WetMarchen | トラックバック(-) | コメント(-)

第4夜 ひらけゴマ 

 
 ある日、悪戯好きのアリィがいつものように商売の売り上げを数えていた姉のカシィのところにやってきました。
 アリィは女の子のくせにとてもわんぱくで、いつもあちこちを走り回って冒険しています。お姉さんのカシィはことあるごとにアリィに『アンタはもっと女の子らしくしなきゃダメよ!』とお説教をするのですが、アリィはまったく聞こうとはしないので、カシィはすっかり困っていました。
 そうしてその日もアリィはいつものように、カシィにこの前してきたばかりの大冒険のお話をしているのでした。
「……ねえ、まだ終わらないの?」
「もうちょっと。それでね、わたし、その洞窟の中で迷っちゃったの。朝からずっとオシッコしたかったのに、もうどうしようもなくって、我慢できなくなっちゃってねっ」
 アリィの冒険は、街の西にある洞窟を探検してきたという話でした。あそこは美人の女親分が率いる盗賊団がねじろにしているところで、とても危ない場所として知られています。そんな場所には、カシィはぜったいにちかづいたりしないのですが、アリィはもちろんそんなことお構いなしに忍び込んでしまったのでした。
 そうして案の定、アリィは洞窟の中で迷子になり、しかもものすごくおしっこがしたくなってしまったというのです。
「それでね、どんどんどんどんおしっこがしたくなっちゃって、もうあとほんのちょっとで出そうになっちゃって、もうダメだって思ってたんだけど……その時にね、盗賊たちが帰ってきたの」
「ふぅん。で、アンタは見つかっちゃったの?」
「そんなことないよぉ。隠れたもん。わたしかくれんぼ得意だから。でね、盗賊の女親分が、盗賊たちをつれて洞窟の奥にある岩の前に行ってね、大声で“ひらけゴマ“って言うのを聞いたの。そうしたら、どれだけやってもびくともしなかった大きな岩がごごごごって音を立てて開いたのよ。その奥にはとってもきれいなお手洗いがあったの!!」
 女盗賊たちは、ふだんから街の中でいばっているため、けっして弱みをみせようとはしません。だから『あたしたちはこんなにすごいんだぞ!!』というところを見せるために、街ではけっしてお手洗いを使わないのでした。
 だから盗賊たちは、その洞窟のなかにある秘密のトイレに魔法をかけて、合言葉がないと使えないようにしていたのです。
「それでね、盗賊たちが終わった後に、わたしもその合言葉で岩のドアを開けてお手洗いに入って、どうにか間に合ったのよ!!」
 とても嬉しそうに自分の冒険のお話をするアリィ。けれどカシィはそんな妹の話に興味はありませんでした。おしっこの話なんてはしたない、と思いながらも渋々付き合っていただけなのです。
 なにしろ、カシィはアリィとは違って立派なレディなので、オシッコが我慢できなくてたまらなくなるようなことはないと思っていたからです。本当の本当は、そんなことは決してないのですけれど。
「へぇ…本当なの? アンタみたいなお子ちゃまがきちんと我慢できたの? ちょっとくらいチビっちゃってたりして、パンツ汚したりしてたんじゃないの?」
「し、してないもんっ!! ちゃんと最後まで我慢したようっ!! 盗賊、ぜんぶで40人もいて、すっごく大変だったけどオモラシしなかったもんっ!!」
「どうだかねぇ。できっこないにきまってるわ」
「ふんだっ、わたし、お姉ちゃんとは違うもんっ」
 ぷんぷんと怒って胸をはってみせるアリィ。とっておきの大冒険をはなしたのに、全然聞いてくれないカシィにアリィはあいそをつかしてしまっていました。けれどカシィはいつものことなので気にもとめません。
「アタシをアンタと一緒にしないでくれるかしら? だれがそんなはしたないコトするもんですか。いいことアリィ、そもそも一人前のレディってものはねぇ、ひとにトイレの場所なんて聞いたりしないものよ? お手洗いを我慢しているなんてひとに聞かれたら恥ずかしいじゃない」
 お姉さんぶって話すカシィに、アリィは首を傾げます。
「そうかなぁ……それで間に合わなかったりして、オモラシしちゃったら、もっと恥ずかしいと思うけど……」
「お馬鹿さん。間に合わないわけがないじゃない。いいこと、アタシはレディなんだから、オモラシなんてし・な・い・の・よ。アンタみたいなお子ちゃまじゃないんだから。ほほほ」
「うーっ、お姉ちゃんのばかっ!! もうしらないからねっ!!」
 そのときカシィは、アリィを馬鹿にしてばかりで、まるっきりアリィの話を聞いていませんでした。だからカシィは、目の前のたったひとつだけのトイレのドアを開ける合言葉を、すっかり忘れてしまっていたのです。





 そしてカシィは今、アリィのときとまるっきり同じに洞窟の中で迷ってしまっていました。足はがくがくと震え、昨日の夜からがまんしつづけたオシッコは今にも漏れてしまいそうです。
 もう一度出口を探そうにも、ぶるぶると震える膝は言うことを聞いてくれません。
「あっ、あふぅっ……開いて、開いてよぉ……ひらけ!! ひらっ、けぇっ…!!」
 カシィは大岩をバンバンと叩きます。普通の木のドアならそれだけで壊れてしまいそうな勢いでした。けれど、そこにあるのは見上げるような大きな大きな岩なのです。カシィがいくら頑張っても、びくともしませんでした。
 この向こうにトイレがあるのは分かっているのに、カシィはそこに入ることができません。カシィのおしっこはもう限界で、もう一秒だってがまんを続けるのは無理なくらいでした。
 それなのに、カシィはおしっこができないのです。
「なんで開かないのよぉっ……ふざけ…っ、ないで……っ、ひらけ、ひらけぇ……っ!! 開きなさいよぉっ!! アリィのときは開いたんでしょうっ!?」
 ドアを開ける合言葉を忘れてしまったカシィがいくら叫んでも、トイレのドアは開きません。
 もうすぐここに盗賊たちがやってきます。アリィがしたようにこっそり隠れて合言葉を聞けば、カシィもオシッコを済ませることができるでしょう。でもカシィには、40人の盗賊たちが全員オシッコを済ませるまでなんて、絶対に我慢できっこありませんでした。
「ひっ、ひらけ……おおむぎ!!」
 何度試しても、岩は閉じたままです。それでもカシィは諦めるわけにはいかないのです。だって、オモラシなんて立派なレディにゆるされることじゃありません。
 脚の間にじわぁっと広がる熱い感触に、カシィはますます焦ります。
 オモラシなんて、目の前にトイレがあるのにオモラシなんて。お姉さんとして絶対にありえないことです。
「ひらけ……か、からすむぎ!! そらまめ!! ひ、ひらけ…っ!!」
 少しずつ染みが広がるおしりをもじもじと押さえながら、カシィは思いつく限りのありったけの言葉を叫びます。けれど、どれもこれも間違っていました。
 それもこれも、アリィのお話を馬鹿にして真面目に聞いていなかったからなのです。
「ひ、らけぇっ……開いて、よぉ……お願いっ…こんなところで、お、オモラシしちゃうじゃないっ……!! あああっ、でちゃう、でちゃううっ!!」
 カシィの悲鳴がむなしく洞窟に響きます。
 けれど、ずっしりと大きな岩はけっして動こうとはせず、カシィはいつまでも腰を揺らしながらおしっこをがまんしなければいけないのでした。





 やがて、街から帰ってきた盗賊たちが、いつものようにがまんし続けたおしっこを済ませるためにど洞窟に入ってきました。
 けれど、盗賊たちはすぐに異変に気付きます。
「お頭、なんだか変です。知らない女の子がいますよ」
 盗賊たちの一人が、洞窟の奥に座り込むカシィを見て言いました。ざわざわと40人の盗賊たちはいっせいに騒ぎ出しました。ここのトイレのことは盗賊たち全員の秘密です。他の誰かが知っているはずがないのです。
「おい、どうしたんだい?」
 落ち着かない仲間たちのお喋りを聞いて、盗賊の女親分がやってきました。
 そして、トイレの前の大岩にすがり付いてしゃがみ込み、うつむいてしまっているカシィを見て言いました。
「なんだいお前は。いったいどこから入ってきた?」
「あ、ああ……だめ、お願い……お手洗いに……オモラシ、しちゃう……っ」
 ぐすぐすと泣きながら喋るカシィが、びくっと震ながら言います。けれど、もうとっくにカシィのお尻の下には大きな水たまりができていて、いまもじょぼじょぼとオシッコが漏れ続けています。トイレの前に泣き崩れてしまったカシィの足元で、みるみる水たまりが広がってゆきます。
「うわっ、オモラシしてるぞ、こいつ!!」
「あーあ、オシッコか?」
「なんだ。トイレまで間に合わなかったんだな……」
「おいおい、こんなところで粗相(※おもらしのこと)しないでくれよ」
 盗賊たちはくちぐちにカシィを指差して笑います。
 みじめでどうしようもなくなって、カシィは泣き出してしまいました。小さいアリィだってオモラシをしなかったのに、お姉さんで立派なレディのはずの自分がオモラシをしてしまうなんて信じられなかったのです。
 けれど、じんわりと濡れる下着はけっしてかん違いではありません。その証拠に、カシィのおしっこはまだまだ止まらないのです。
「うぅ……イヤぁ……アタシは違うのにっ……お子ちゃまじゃないのにっ……」
「なんだなんだ。こんな所でオモラシかい。もう子供じゃないんだろうに、なんてみっともないんだ」
「うわぁあああんっ……」
 大きな川を作って流れてゆくカシィのおしっこを見て、女親分があきれたように言います。
 カシィは情けなくて死にそうになって、妹のアリィを馬鹿にしたことにごめんんなさいを言いながら、いつまでもおしっこを漏らし続けるのでした。


 ――めでたしめでたし。











 (補足)
 このあと本編にはカシィがオモラシをしたことを街中に言いふらした40人の盗賊たちに仕返しするため、アリィが召使いのモルディアナと一緒に盗賊を家に招待し、全員にたくさんお酒とジュースを飲ませてトイレに行かせずにオモラシさせてしまう話や、女親分の機転でモルディアナ本人もたくさんお酒とジュースを飲まされ、必死におしっこをがまんしながら自慢の踊りを披露する素敵なシーンなんかもあるのですが、スペースの都合で割愛させていただきます。くわしくは世界オモラシ児童文学全集を参照ください。



(初出:おもらし特区 SS図書館 2007/06/15)

 
[ 2007/10/13 11:21 ] WetMarchen | トラックバック(-) | コメント(-)

第3夜 ヘンゼルとグレーテル 

 
「うぅ……っく……」
「ど、どうしようっ……お姉ちゃぁんっ……」
「あ、あたしに聞かないでよっ…!!」
 ヘンゼルとグレーテルは脚の間をぎゅっと握り締めながら小刻みに膝を揺らしていた。双子の少女達を襲う尿意はどんどん激しくなり、おしっこの出口がじんわりと熱くなっている。
 お菓子の家の中はたくさんの素敵なお菓子でいっぱいだったけれど、そんなものは双子の眼には入らない。二人がおなかのなかのおしっこを我慢しながらじっと見つめているのは、部屋の隅にある小さなドアだけだった。
「お、お姉ちゃん……」
「う、うるさいっ、静かにしなさいよっ!!」
 気丈なヘンゼルも、いまは泣きつく妹を邪険に扱うしかない。
 グレーテルのことを思いやっている余裕がないほど、おしっこに行きたいのだ。





 ……もう何日前のことになるだろう。ヘンゼルとグレーテルの継母は双子を育てるのにすっかり飽きたといって、夫に命令してヘンゼルとグレーテルを森の中に連れていかせた。おとなでも迷えば出てこれなくなるという深い深い森には魔女が棲んでいて、迷い込んできた人間を食べてしまうのだという。
 いくら継母が意地悪でも、そんな簡単に魔女のいる森に子供を捨てろなどとは言うはずがない。実は継母は日々成長する双子達に美しかった二人の母親の影を見て、このままでは夫を奪われてしまうかもしれないと激しく嫉妬を燃やしていたのだった。
 しかし、双子もそんな継母の悪意に気付かなかったわけではない。
「お、お父さん、あたし、おしっこ……」
「なんだ、またか?」
「う、うんっ……」
 ヘンゼルとグレーテルは、森を連れて行かれる間、交代で次々とおしっこがしたいと言って父親の足を止めさせた。曲がり角や三叉路、くねくねと曲がった入り組んだ小路。そんな場所に差し掛かるたび双子は道の隅っこの草むらに駆け寄って、ちょろちょろとおしっこをした。
「よし、行くぞ」
「う、うん」
「……お父さん、わたしもおしっこ……」
「ちょっと、あんたまだ違うでしょ? 次の番まで我慢しなさいよっ」
「だ、だってぇ……」
「おいおい、またかい。いったいどれだけ水を飲んだんだ?」
 のんびり屋のグレーテルとは違い、おませなヘンゼルは、継母が自分達に嫉妬して、自分たちを魔女の森に捨てようと父親に言いつけていることに気付いていた。
 そのために、森の中で迷わないように目印をつけておくことを考えたのだ。はじめは信じなかったグレーテルも、やがては自分に迫る危機を悟り、姉の意見に賛成した。

『じゃあ、お弁当のパンを千切って置いておけばいいよ、お姉ちゃん』
『馬鹿ね。そんなことしても鳥に食べられちゃうわ。それに、せっかくのお弁当を捨てたら、おうちに帰ってくるまでにおなかがすいて死んじゃうかもしれないでしょ』
『あ、そっか……じゃあ、どうするの?』
『そうね……』

 しばらく悩んでいたヘンゼルだが、ふとふもとの村の牧場が狩っている犬のことを思い出して、すぐに名案を思いついた。
「いい、ぜんぶ出しちゃダメなんだからね? ちょっとだけよ!!」
「う、うん……」
 茂みに歩いてゆく妹にこっそりと耳打ちして、グレーテルもぎゅっと脚を閉じあわせる。
 それは、とてもではないがたったいま茂みに駆け込んでおしっこを済ませてきたばかりの様子には見えない。
 ヘンゼルが思いついた目印とは、おしっこによるものだった。
 牧場の犬がいつも、同じ場所におしっこをして縄張りをつくっているのを知っていたヘンゼルは、森の中に自分たちのおしっこで目印を付けることを考えたのだ。
 しかしいくら双子が小さな女の子で、交代交代だと言っても、そんなに何回も何回もおしっこが出るわけはない。そこで二人は昨日はオネショをしてしまうかもしれないくらいたくさん水を飲んで、備えていたのだ。
 おしっこをするときも一度に全部出してしまうのではなく、ちょろちょろと地面を湿らすくらいにちょっとだけ出して、あとはまた我慢する。それを繰り返しているのだった。
「お、お父さん、おわったよ……・」
「もういいかい? じゃあ行こう」
「うん……」
「グレーテル、だいじょうぶ?」
「……また、パンツ汚れちゃった……気持ち悪いよぉ」
「我慢して。ぜんぶ出しちゃだめだからね?」
「うん……」
 まだ小さな双子には、一度出しかけたおしっこをうまく止めることはとても難しく、だから二人のパンツはすっかりびちゃびちゃに汚れてしまっている。
 それを何とかごまかして、父親のあとをついてゆくのだ。父親も自分の娘を捨てるということにいろいろ悩んでいるようで、気持ちが上の空なのがせめてもの救いだった。



「ここで、しばらく待っていなさい。いいね?」
「……はい」
「…………うん……」
 そして――
 はじめはおなかをたぷたぷにしていたおなかの中のおしっこがすっかりからっぽになった頃、父親は双子にお昼ご飯のパンを与えて、森の奥に姿を消した。
 二人はこうして、深い森の中に置き去りにされてしまった。
「馬鹿、泣くんじゃないわよっ」
「うん、でも、でもっ……」
「へ、平気なんだから。ちゃんと帰れるもの。そうすればお父さんだって考え直してくれる。あんな女なんか追い出してくれるわよっ」
「うんっ……」
「っ、な、泣いちゃだめって、いってる、じゃないっ……ひっく」
「うぇ、ふえぇっ……」
 覚悟はしていても、本当にそのことを実感するのは辛かった。
 ひとしきり泣いていた双子だが、お姉さんのヘンゼルはやがて泣き止み、ぐずるグレーテルを励まして歩き出した。
 きょろきょろと森の道端を見回し、自分達が残したおしっこの跡を探す。
 ――しかし。
「ウソ……なんでないの!? ここにあったはずなのにっ」
「おねえちゃん、ここ、どこ? ……わたし、こんなところでおしっこしてないよ……」
「そんな……」
 双子が残したはずのおしっこの跡は、どこもかしこもさっぱり、きれいに消えてしまっていたのだった。食べる物もなく、家に帰るための目印も見失って、ヘンゼルとグレーテルは本当に迷子になってしまった。



「おねえちゃん、あれ!! あれ見てっ!! お家があるよ!!」
「え、ホントだっ!!」
 そして――おなかをすかせて泣きながら歩いていた二人は、一日以上もずっと歩き続け、森の中でお菓子の家を見つけたのだった。
 お菓子の家には誰も人はおらず、壁はビスケット、屋根はウェハース、カーテンはチョコレートでできたリボン。色とりどりの窓は飴でできていた。
 恐る恐るチョコレートでできたドアを開けて中に入ると、そこには夢のような光景が広がっていた。
 クッキーでできたテーブルには、たった今できあがったばかりのおいしそうなタルトにパイ、ケーキが山と積まれていたのだった。焼きたてのおいしそうな匂いに我慢できずヘンゼルとグレーテルがちょっぴりケーキを食べてみると、ほっぺたが落ちそうなくらいにおいしかった。
「これ……食べていいのかな?」
「いいわよ。だって誰もいないんだもの。きっとあたしたちみたいなお客さんのために用意してくれてるのよ、きっと」
「……そうだね。わたし、もうおなかぺこぺこ」
「あたしだって喉からからよ!!」
 双子は我先にお菓子の山に飛びついた。
 飴細工の水差しの中には冷たいジュースたっぷりはいっていて、双子はそれを飲みながら夢中になってお菓子を食べた。なにしろおなかがすいていて、とても喉が渇いていたので、テーブルの上がすっかり綺麗になるまで食べてしまったのだ。
 家の中を探検した双子はひねるとメロンソーダやソフトクリームがでてくる蛇口を見つけ、つぎつぎに冷たい飲み物を飲んだ。おなかはいっぱいだったけれど、甘いお菓子をたっぷり食べて、喉はますます乾いていたのだ。
 すっかり満足したヘンゼルとグレーテルは、ふかふかのスポンジケーキのベッドで手を握りながら眠った。森の中をさまよい、眠れない日々を過ごしていた双子にとって、何日かぶりの深い深い眠りだった。





 明け方に目を覚ましたのは、グレーテルだった。
 まだまだ暗い朝靄の中、彼女は眠っている姉のヘンゼルを起こさないようにそうっとベッドを抜け出し、きょろきょろとあたりを見回した。あまりにたくさん冷たいものを飲んだので、朝になる前にトイレに行きたくなってしまったのだった。
 しかし、グレーテルがお菓子の家の中のどこを探してもトイレは見当たらない。お菓子の家はとても暖かくて居心地が良かったけれど、明かりだけはないのだった。
 もじもじとおしりを揺すりながら、外に出て済ませようかと思ったグレーテルだが、薄暗い窓の外に広がる深くて濃い霧の立ちこめた森を見ると足が竦んでしまって動けない。
 グレーテルはしかたなしにトイレを我慢したままベッドに戻り、眠ろうとした。

 もちろん、眠れるわけがなかった。

 そしてようやく朝がきて、ヘンゼルが目を覚ますと、そこではグレーテルが股間をおさえて必死におしっこを我慢しているところだった。お姉さんのヘンゼルはグレーテルのみっともない様子に眉をひそめる。
「んもう、なにしてるのよ……恥ずかしい格好っ」
「だ、だって、お姉ちゃん、ずっと寝てるんだもんっ……お外、暗くて怖かったし…」
「はぁ……しかたない子ねっ」
 そんなふうにお姉さんぶってグレーテルを叱るヘンゼルだが、実は彼女も起きると同時に、猛烈に張り詰めた下腹と、鈍い痛みを感じていた。なんと双子はもう一日以上おしっこを済ませていない。
 ヘンゼルは表情だけは平静を装いつつ、そわそわとお菓子の家を探る。そしてついに二階に続く怪談の陰にある小さなドアを見つけた。そこには小さく『お手洗い』の文字を刻んだプレートがある。
「なんだ、ここにあるじゃない」
「え、ほ、本当っ!?」
 昨日の夜グレーテルが見つけられなかったのも無理はない。トイレのドアは本当に小さくて、ようく注意しなければまず見落としてしまうだろう。ヘンゼルはほっとしながらドアを開ける。外の草むらでおしっこを済まさなくてもいいと判って、ますますおしっこがしたくなっていた。
 けれど。
「・………ウソ……」
「お、お姉ちゃん……どうしたのっ?」
 ドアを開けたまま呆然となるヘンゼルの後ろから、おしっこを我慢し、ぴょんぴょんと跳ねながらグレーテルがトイレを覗きこみ、ええっ、と驚いて叫ぶ。
 双子が渇望していたおしっこをするための場所は、やっぱり他の部屋と同じようになにもかもがお菓子でできていたのだった。
 飴とホワイトチョコでできたトイレは、とてもおしっこをする場所ではない。それが作っているのは形だけのトイレで、オシッコが流れてゆくための穴も下水もない。当然、水も流れそうになかった。
 ただ一つ使えそうなのは、綺麗なソーダ水をためた洗面台。
(そんな、まさか――お手洗い、って……)
 ヘンゼルの想像は当たっていた。ここは文字通りの『お手洗い』。外から帰ってきた家の主が、お菓子を食べる前に手をきれいにする場所だった。
「……お姉ちゃんっ……ね、ねえっ、トイレ……おしっこっ……」
「ま、待ちなさいっ、ダメよっ!!」
 我慢しきれずにトイレに入ろうとするグレーテルの手をヘンゼルがつかむ。
 ヘンゼルは気付いていた。トイレのないというところを抜きにすればこのお菓子の家はとても素晴らしいところだと。ここでなら、グレーテルと二人で暮らしていけるかもしれない。いじわるな両親のところに帰らずに生きていけるかもしれない。
 けれどそのためには、節約して毎日少しずつお菓子を食べていかなくてはいけないのだ。
 だから、このトイレを使うわけにはいかない。一度おしっこをしてしまえば、ここにあるお菓子は全部台無しになってしまうのだから。
「うぅ……っ」
 それどころじゃない。一度したおしっこはどこにも流れていかない。このお菓子の家の中に溜まってしまうのだ。もし溢れだしたりすれば、床一面がびしゃびしゃになって、台無しになってしまう。
 そんな事は絶対に許されないのだ。
(もう嫌よ……あんな家、戻りたくない……っ)
 のんきなグレーテルとは違って、ヘンゼルは継母の悪意に気付いていた。このまま家に戻れば、継母は双子にもっともっとひどいことをしてくるに違いない。今だって、継母は双子を間接的に殺そうとしているのだ。
 ぐっと爪を噛むヘンゼルに、グレーテルがぴょんぴょん飛び跳ねながら言う。
「お姉ちゃん、なんでじゃまするの……? わたし、おしっこ……っ」
「……ダメ、ダメよっ! 外で、外でしなさいっ!!」
 ヘンゼルは、自分ももう我慢の限界に達しているくせにグレーテルにそう命令する。双子はそろってチョコレートのドアに掛けより、ノブを捻った。
 しかし、がちりと固まったチョコレートのドアはびくともしない。
「え……なんで!? どうして開かないのよっ!? 開きなさい…よっ!!!」
 力任せにドアを叩くヘンゼルだが、ドアはびくともしない。外の冷たさですっかり硬くなったチョコレートは、まるで鉄みたいになっていた。食べてしまおうにも、これではとても歯が立たない。
 いつしか、双子はこのお菓子の家に閉じ込められてしまっていたのだった。
「そんな……」
 愕然とするヘンゼルに、グレーテルがぎゅっと前を押さえながら言う。たとえ形だけとはいえ、目の前にトイレが、今にも漏れそうなおしっこをするための場所があるのだ。お姉ちゃんとはいっても、双子のヘンゼルももう我慢の限界だった。
「ねえっ、お姉ちゃぁん……だめ……もうでちゃう……いいでしょ? おトイレ、使ってもっ……」
「ダメよっ!! だ、だって、ここ使っちゃったら……食べられなくなっちゃうじゃないっ!!」
「いいもんっ!!」
「よくないわよっ!!」
「じゃ、じゃあおねえちゃんはオモラシしちゃってもいいのっ!?」
 グレーテルが叫ぶ。もちろんいいわけがない。ヘンゼルだって恥じらい深い女の子だ。オモラシなんて死んでもしたくはない。
「お姉ちゃん……お願い、おトイレ使わせて……っ」
 切羽詰った妹の有様は、まるで自分が我慢しているのを鏡に映して見せられているようで、こみ上げてくる尿意をさらにつのらせる。ヘンゼルはぎゅっとスカートの足の間を握りしめ、それでも首を振り続けるしかなかった。
(やっぱり……ここ、魔女の家だったのよっ……)
 ヘンゼルは悟る。きっと、魔女はどこかで二人のことを面白がっているのだ。おしっこをしたくてもトイレに入ることができずに、我慢してもじもじおしりを揺する双子のことを。
 夜中にグレーテルがトイレが見つけられなかったのも、こんな『お手洗い』があるのも、全部魔女の仕業に違いない。
「あ、あ、だめ、だめ、お姉ちゃぁんっ……!!!」
「や、だめっ、押さないでっ、ひっぱらないでええっ!!!」
 グレーテルがかすれた声を上げながらしゃがみ込む。
 もはや、ヘンゼルもそれを止めることはできなかった。ふわぁっと体が浮くような感覚とともに、熱い雫がじゅわっと脚の間に広がり、おしりまでを包み込んでばちゃばちゃと床に溢れ落ちてゆくのを呆然と感じるしかない。
 地面に落ちてゆく滝のような水音。
「ウソ…!? とっ、止まんない……なんで、やだ、おしっこ、オシッコでないでぇ……!!」
「オモラシ、オモラシやだよぉ……でちゃう、でちゃうぅ……」
 双子のおしっこは、勢いも量もは尋常ではない。激しく吹きつけられる水流が壁の根元に届き、ビスケットの壁はぐずぐずと崩れてゆく。お菓子の家がどんどんと双子のおしっこで壊れ、崩れだしていた。
 ふたりの止まらないおもらしがあたりに大きな湖を作って行くのを、空に浮かんだ箒に跨って見下ろす影があった。

「――まったく、ひどいことをしてくれるもんだねぇ」

 長い髪と灰色のローブ、三角帽子をかぶった魔女はヘンゼルとグレーテルのおもらしをじっと見下ろしている。
 森の魔女は、決して噂されるような人食い魔女ではない。森に住んでいるのは森に生えるキノコや苔をつかって魔法の研究をしているためだ。村の人々が魔女を恐れて森に近づかないうちは、一人で静かに研究ができてありがたかったのだが、最近では噂が広まり、こうやって子供を森に捨てる親が多くなっていた。基本的にかわいそうな子供を見捨てることができないおせっかいな魔女は、捨てられた子供たちを世話するため魔法で森の奥に大きな洞窟をつくって、そこで大勢の子供たちを育てていた。
「捨てられたのはかわいそうだけど、まったくとんでもない物で目印を付けてくれたものさ。少しは反省してもらおうかね」
 最近はやっと余裕ができて、ようやく魔法の研究を再開しようとその矢先。集めにいったキノコや苔が残らず誰かのおしっこでぐちゃぐちゃになっているのを見て、魔女は腰を抜かしそうになった。
 どうしても我慢できずに森の隅っこでおしっこをしてしまうくらいのことなら、魔女だって文句は言わない。しかしおしっこは一箇所だけではなく何十箇所も森を汚していた。さしもの優しい魔女もいいかげんに腹に据えかねてしまったのだ。
 そこで魔女は研究材料を台無しにした双子を見つけ、魔法をかけたお菓子の家に案内したのだ。
「うぁああああああんっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ……オモラシしてごめんなさい……」
「っく、ひっく……ふぇええんっ……」
「やれやれだ。捨てられたくないって言っても、そこらじゅうでおしっこして回るなんて、いくらなんでも女の子失格だよ。ちっとは懲りてくれるといいねぇ」
 お菓子の家にあるお菓子には、ぜんぶおしっこが止まらなくなる魔法がかけてあった。それをおなか一杯食べたり飲んだりしたヘンゼルとグレーテルは、いつまでもおしっこが止まらなくなってしまっていたのだった


 ――めでたしめでたし。



(初出:おもらし特区 SS図書館 2007/10/13改訂)

 
[ 2007/10/13 11:13 ] WetMarchen | トラックバック(-) | コメント(-)
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