FC2ブログ



スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

冬の電車の話。 


 寒風の吹く1月末。コートにマフラー、手袋と防寒対策に身を包んだ人々が、一様に階段を昇り改札をくぐる。都心から電車で1時間という郊外の立地にふさわしく、朝の7時半過ぎともなれば、駅には雑踏が絶えない。
(はやく、はやくっ……)
 そんなせわしない朝の雑踏の中を、早足で駆けてゆく少女の姿がある。
 近所でもそれなりに有名な私立の中学校の制服を、しわひとつなく着こなしたショートカットの少女。長いマフラーとコートをしっかりと着込み、その一方でソックスの上は剥き出しの太腿が覗いている。良く見る登校の風景でありながら、どこか周囲の注目を集めているのは、彼女がどこか焦ったような表情を浮かべ、人ごみをかき分けるようにして先を急いでいるから。
 時計を見れば確かに遅刻を焦る時間だが、少女の表情の必死さはそれ以上のなにかが含まれているようで、行き交う人々は何の気なしに白い息を上げる少女を振り返る。
 そんな注視を振りきるように――あるいは気付きもしないまま、少女は混雑するエスカレーターを避けて、階段を手摺りを使いながらひょこひょこと昇ってゆく。
(はやくぅ……っ……ふぁあ!?)
 時折、ぴくんと肩を震わせて、持ち上げた足が制止する。階段の隅っこで立ち止まってしまった少女を、すぐ後ろを歩いていた背広姿の青年がいぶかしげに見つめ、仕方なしに迂回してゆく。
(や、やだっ……またぁ、急に……っ……っはぁ、…さ、さっきまで、ぜ、全然、へいきだったのに……っあ、……ダメぇ……まだ、っ……あ、あと、もうちょっと、だからぁっ……)
 ぎゅっとくっつけ合わされた剥き出しの膝が、小さく震える。前かがみになって、少女はコートの上、おなかの上あたりをきつく掴んだ。
 見るものが見れば、それは単なる寒さゆえのものではないのは明らかだ。
 彼女――佐々原ユミは、
(ぉ、おしっこぉ……、でちゃう、……はやくっ、トイレぇ……っ)
 いまや、絶えがたいほどの尿意との戦いの中にいた。






 ユミは4人きょうだいの末っ子だ。歳の離れた姉2人と兄は、それぞれもう社会人として働いている。昨日はめずらしく全員が夕飯前に揃ったので、みんな少し早い忘年会とばかり飲めや歌えの大騒ぎとなった。
 同席したユミもその場の気分に圧されて断りきれず、ついつい勧められるままにビールのグラスをぐいぐいと空けてしまった。
 もちろん未成年の飲酒は厳禁で、あっさり酔っ払ったユミはシャワーも浴びれずにそのまま夢の中。下の姉がどうにか着替えさせてベッドに運んだものの、そのまま朝まで夢も見ずぐっすり、目覚ましにも気付かず、飛び起きた時にはいつもとっくに朝ご飯を終えている時間だった。
 大慌てで支度を整え家を飛びだしたのが15分前。
 この時ユミは動転していて、トイレに入ることすら忘れていた。それがどんなに重大な事態を及ぼすものか、気付きもせずに。
 異変は間もなく起きた。家を出て数分もしないうち、ユミは強い尿意に襲われた。
 ここでユミはようやく、自分が昨夜の夕飯前から一度もトイレに行っていないことに気付いた。一旦家に駆け戻ろうかという考えが頭をよぎったが、時計を見ればそんな余裕はあまり残っていない。引き返していたら電車を一本乗り過ごしてしまうのは確実で、その次の電車だとかなりの確率で遅刻コースだ。
(し、仕方ないわね……駅までの我慢よっ……)
 結構厳しい状態だが、急いで10分程度の距離ならば我慢も持つだろう。なによりも、トイレが原因で遅刻なんて惨め過ぎる。そう判断して先を急ぐことにしたユミは、程なくしてその判断をひどく後悔することになる。
(うぅあ……や、やだっ!? な、なんで、こんな急にぃ……)
 肝臓でのアルコールの分解と、胃や食道粘膜からの直接吸収がもたらす利尿作用の相乗効果は、これまでにユミが経験したことのあるものをはるかに超えるレベルで代謝機能を活性化させていた。
 睡眠中は体が横たえられているため、膀胱に溜まったおしっこの重みは分散して感じにくく、起きたばかりの身体は自律神経が鈍く、尿意を覚えにくい。本来ユミが我慢を許容できるのよりも遥かに多いおしっこが、同時に少女の下半身を襲っているのである。
 加速度的に高まる尿意は、あっという間にユミの下半身を占領し、その行動までも制限してしまった。早足になることもできず、歩幅まで小刻みに小さくなる。腰は知らないうちに左右に振られ、緊張した下腹部にはかすかに痙攣しているかのよう。
 排泄欲だけに支配されたユミの身体は、切々とその限界を訴え、尿意の解放を望んでいる。
「はぁ……っ」
 ようやく階段を昇りきり、ユミは手摺りにつかまって大きく息を吐く。
 もはや尿意は限界に近く、いつ崩壊してもおかしくないほどののっぴきならない事態である。階段の途中で三回も立ち止まって決壊を堪えたほどだった。これならはじめからエスカレーターのほうがよっぽど早く着いただろう。
(は、はやく、トイレ……漏れちゃう……!!)
 こんなにもトイレのことで焦ったのは、産まれてからも初めてだ。一刻も早くおしっこがしたい――トイレに入りたい。頭の中をそのことだけでいっぱいにして、ユミはふらふらと改札口へ急ぐ。
(っ、……あとちょっと、…ガマン、ガマンっ……)
 そうして呪文のように我慢という単語を繰り返し、辿り着いた駅の構内にも、すぐにはユミの求める安息の場所はない。
 駅の多くがそうであるように、この駅にも改札口の内側にしかトイレがないのである。ユミはぎゅっと下腹部にむずがゆい熱を堪えたまま、身をよじって制服のポケットから定期を引っ張りだす。毎日繰り返したいつもの動作だというのに、今日はそんな些細なことまでがもどかしい。
(うぅ……っ)
 こみ上げてきたうめき声を喉の奥に飲みこんで、ユミは自動改札の列に並んだ。
 ここを通り抜ければトイレは目の前。もうすぐおしっこができる――ユミはそう自分に言い聞かせ、汗ばんだ手のひらで定期券を握り締めた。本来は通学のための定期券だが、今のユミにはこの定期こそがトイレに辿り着くための大事なパスなのだ。
(あとちょっと……!!)
 はやる気持ちをおさえ、ユミが早足で自動改札を抜けようとしたその時だ。
 ばちんっ、という音と共に赤いランプが光り、警告音が鳴る。
「え……っ」
 左右から飛びだした自動改札の通行防止板に行く手を遮られ、急いでいた勢いのままにユミはがくんとつんのめってしまう。
(ぁあああぅ?!)
 ちょうど突き出した板が、コートの上からぎゅぅっとユミの下腹部を圧迫し、ユミは反射的にびくんっと背筋を跳ね上げた。ただでさえ余裕のないほどずっしりをおしっこを詰めこんだ膀胱が、外からの圧力に無理矢理押し潰される。
(っ、ダメ、だめえ……が、っ、がまん、ガマンしてっ……!!)
 鞄を持った手で尿意を捻じ伏せ、慌ててもう一度定期を改札の読み取りに押しつけるが、結果は同じ。繰り返されて浮かんだメッセージは、定期の期限が昨日で切れていたことを知らせていた。
 答えは明白。
 このままでは、トイレに行けない。
(う、ウソぉっ……!!)
 よりによってこんな時に――悲鳴を上げそうになったユミの後ろで、並んでいたおじさんがことさらにはっきりと舌打ちをした。不機嫌そうな表情で、列の後ろの人々が隣の改札に迂回してゆく。
 人の流から切り離され、立ち止まってしまったユミの背中を、我に帰る暇もなくイケナイ感覚がじわじわと這い登る。冬の冷気がスカートの下に忍び込んで、下着の上を滑ってゆく。
(ふぁあああぅんっ……!!)
 たまらずユミは身体をよじった。通行禁止となった自動改札の中で、もじもじと剥き出しの膝が擦り合わされる。
 もう目の前に見える、トイレの入り口と男女のシルエットを示すマークが『おしっこのできる場所』としてさらにユミの尿意を煽った。そこに辿り着くには、ほんの数十歩を走れば済むのに、それが許されない。
 そうこうするうちにも、ホームからはプルルルル、と電車の発着を知らせる合図が聞こえてくる。ちょうど今まさに出発せんとしているのが、ユミがいつも乗っている電車の1本あとだ。
 この次の電車では8割方遅刻コース。
 時間がなかった。ぐずぐずしていたら次の電車も、おしっこも、どちらも間に合わなくなってしまう。
(っ、急がなきゃ……)
「あ、あの、すいません、通してくださいっ」
 どんどんと後ろから詰めかけてくる人ごみを掻き分けながら、ユミは声を上げる。おなかの中で暴れ回るおしっこをぎゅっと押さえ付け、ユミは唇を噛んで切符を買いに戻らねばならなかった。
 やっぱり混雑していた自動販売機で切符を買って、ようやく改札口を抜けた時には、次の電車が来るまであと5分も残されていなかった。これはいつもユミが乗っている電車の2本後のもので、途中から各駅停車になるためにおそらく到着はタイムリミットギリギリ。これを逃してしまうと完全に遅刻してしまう。
「はぁ…ぅ…っ」
 スカートの奥できゅぅんと疼く膀胱に、ユミは切ない声を押し殺す。
(でも……こ、これで、やっと……トイレ、いけるっ……)
 待望のトイレまであと5m。本当にほんのわずかな距離。これまでの我慢に比べればほとんど誤差のようなもので、個室に飛びこむまで10秒もかからないだろう。
 だが、その5mはあまりに遠かった。
 冬、1月という季節は決して甘くはない。
 我慢の末にようやく辿り着いたはずの安息の地には、ずらりと並ぶ大行列がユミを待ち構えていたのだった。
(っ、はやく、おねがい、はやくぅっ……)
 ただでさえ、朝の駅は多くの人が行き交い、トイレを利用する人も多い。まして寒さの厳しい冬にはどうしてもトイレが近くなる。さらに1回の利用に時間のかかる婦人用のトイレは、必然的に大渋滞となるのだ。
 列に並んだ自分がいつ個室に入って用を足せるのか――まったく見当がつかない。
 ふだんから駅のトイレの存在など気にも止めず、まして利用した経験もほとんどないユミには、まるで想定外の状況だった。
 あんなに頑張って自販機の列に並び、ほとんど、このトイレに入るために買ったような切符を握り締め、ユミは理不尽なまでのトイレの順番待ちを強いられていた。
(あと10人……一人おしっこするのに1分として、あと10分だけど、でもっ、個室もっとあるはずだから、もっと早く……お願い、トイレはやく行かせて……っ、でちゃう、おしっこでちゃうぅ……っ!!)
 ぐいぐいと前押さえを続ける明らかに尿意の限界に近い少女を見て、後ろに並ぼうとしていた数名の女性が距離を取っていた。万が一のための防衛対策である。
「ぁ、あっ……」
 こめかみに汗を流し小さく悲鳴をあげるユミの様子をみればそれも仕方のないことだ。
 くつくつとおなかの奥で似え滾るおしっこが、ユミの括約筋をこじ開けんばかりにうねる。膀胱が収縮し、一晩かけて抽出されたおしっこを絞り出そうとしているようだった。
(嫌……オモラシなんか、しないんだから…っ)
 なんとしても、なにがなんでも、トイレまで我慢しなければ――ユミが乙女のプライドにかけて、絶望的な決意をした、その時だった。
 プルルルル……
(ええ……っ!?)
 そんなユミをさらに急がせるように、ホームのほうからベルが響く。まもなくの列車の到着を知らせるアナウンスが続いた。
 反射的に時計を見れば、リミットまであと1分もない。
 もうすぐ、最後の電車が来てしまうのだ。
(ど、どうしようっ……)
 ただでさえ残り少ない時間が、迷っているうちにどんどんと短くなっていく。けれど目の前のトイレ待ちの列は絶望的なまでに長く続いている。どんなにユミが心の中で願っても、電車が来る前に順番が回ってきそうには思えなかった。
 いや。もし仮に、今すぐ個室に入れたとしても、おしっこが全部終わるまでには電車が来てしまう。
 ……遅刻か、トイレか。
 ユミにはもはやその選択肢しか残されていなかった。
 あまりにも非常な二択――けれどその時、ユミの脳裏に天啓が走る。
(―――そ、そうだっ!!)
 電車の、トイレ。
 車内にもちゃんとトイレはある。しかもそこなら、こんなにも苦しい思いをして何分も我慢しなくてもいい!!
「くぅっ……」
 そこまで思いつけばあとの行動は早い。
 ぐっと歯を噛みしめ、階段を1段飛ばしで駆け下りる。ただでさえじんじんと張り詰めた下腹部が、揺さぶられて尿意をきつくする。
 1歩ごとにどんどんと高まる尿意の波を必死で堪え、ユミはホームへと走った。
(っ、お願い、間に合って――!!)
 ホームにはすでに電車が来ていた。ぞろぞろと人が乗り込み、発車ベルが鳴り響いている。
 あの奥に、トイレがある。
 遅刻も、トイレも、両方が間に合う!!
(急げ……っ!!)

 だんっ!!

 まさにベルの鳴り終わったその直後、ユミは閉まりかけたドアの隙間に滑りこむ。 
「っは、はぁ、はぁっ……」
 ばたん、と閉まるドアに寄りかかって、反射的にぎゅっとおなかをおさえる。ホームでは、駅員さんが駆けこみ乗車は危険なのでおやめくださいと繰り返しアナウンスしていた。
(っ、ごめんなさい、でも……き、緊急事態なんだもんっ……しょうがないじゃないっ)
 それでも――とりあえず、間に合った。
 遅刻の問題は、万全ではないけれどこれで解決したのだ。ユミはほっとの溜息をついた。

 きゅぅぅッ……

(っくぅあ…!!)
 だが、もうひとつの差し迫った問題はそんなユミに安堵の時間を許してはくれない。急激な運動を引き金に、圧迫された膀胱がおしっこを無理矢理絞り出そうと尿意を増す。ぷくりと膨らみそうになった排泄孔に、ぐっと悲鳴を飲み込んで、ユミは直ちに行動を開始しなければいけなかった。
(と…トイレ……っ)
 おなかの中でぐるぐると渦を巻き、暴れるおしっこをなんとかなだめ、がたごとと揺れる通路を歩いて、車両の中を移動する。
 本音を言えば駅のトイレなんかよりもさらに使いたくはないけれど、もうこうなれば覚悟を決めるしかない。この電車の中のトイレを使っておしっこを済ませてしまうのだ。
(は、恥ずかしいけど、しかたないってば……!!)
 男女共用のトイレ、というのはそれだけで思春期の女の子であるユミにはかなり抵抗のあるものだったし、本来のトイレとは違う、金属製の便器やお世辞にも清潔とは言いたくない水、壁の1枚向こうには大勢の男の人もいて、ひょっとしたら色々な音が聞こえてしまうかもしれない。
 それになにより、走り続ける電車の中でおしっこを済ませる、ということがとても異常なことのように思えて、これまでユミは一回も電車の中のトイレを使ったことがない。
 ……だが、それでもお漏らしよりはずっとマシだ。もはやそんな選択をしなければならないくらい、ユミの尿意は限界に近付いている。
 しかし――
 そんなユミを嘲笑うかのごとく、運命は残酷だった。
 前から2両目の座席シートの隣にあるトイレの入り口には、はっきりと赤い『使用中』の文字があった。
(な、なんでよぉ……っ!?)
 ここまで来ると、不幸というよりもなにか悪意があるようにすら思えてくる。まるで世界じゅうがユミにおしっこをさせまいと共謀しているかのようだ。
 まるで壁があるかのように、ドアは硬く閉ざされていて動こうとしない。まるで封印のように、『使用中』の文字がユミの行く手を遮っている。
 切望を裏切られた衝撃にふっと暗くなった視界で、『使用中』の文字がぐにゃぐにゃと
曲がり、『残念、ユミちゃんはおしっこできません』という文字に変わってゆく。
「はぅぅっ……!?」
 思わずノックをしてしまおうかと、ドアに近寄りかけたユミだが、それでは自分がおしっこが我慢できないほどしたくてたまらないのを電車の中の人たち全員に教えてしまうのと同じ事だと気付いて、辛うじて思い止まる。
 それにもし中に入っている人が男の人だったら。そこまで思い当たって、ユミはぞっとした。
 とにかく落ち付いてじっと待つしかない。幸いなことに、他にトイレの側に立っている人はおらず、待ってさえいれば次は確実にユミの番だ。
(っ……でも、こ、こんな所にずっといたら、次にトイレ入りたいんだって思われちゃう……おしっこ、我慢してるって気付かれちゃう……!!)
 トイレに入る瞬間に、一人二人に気付かれるくらいならもうこの際構わない。しかしいつになるのかも分からない順番を待ち続けている姿は、あきらかにユミがトイレに入りたがっていることを、周りの人たちにはっきりと知らせてしまうことになる。
 目的地のちゃんとしたトイレまで我慢できないくらい、おしっこがしたくてたまらないのだと――そう宣伝しているようなものだった。
「…………っ」
 眉をしかめ、震える顎をおさえ、さりげなく距離をとりながらユミはトイレからふたつ乗車口を挟んだ吊革まで移動した。
 目の前ではスーツのお姉さんがマフラーに顔をうずめて居眠りをしている。これなら少しくらいユミが不審な動きをしても気付かれないだろう。
 本当なら乗車口のドアにおしりを押し付けて、我慢の仕草も見えないようにしたいのだが、外の風が吹きこんでくるドアの近くは立っているだけで辛い。それに向かいの電車や線路に並行する道路から見られてしまうかもしれない。
 いちど意識したことで過敏になった羞恥心は、ユミを不必要に疑心暗器の渦へと落とし込んでしまう。
(ふぅぅ…っ)
 ざわざわとおちつかない、危険水域の恥ずかしいダムをスカートの奥に抱えながら、ユミは引きつり始めた内腿をごまかすように、そっとおしりを揺すりはじめた。
 小刻みに繰り返されるその場足踏みと、時折きゅうっと噛み締められる唇。できるだけ自然な風を装いながらも、不自然さでいっぱいの手の指が、鞄の下でスカートの裾を掴んでいる。
(ま、まだ……?)
 何度も何度もトイレのほうを振り向いては、ドアのロックを確認する。ユミにしてみればできる限りさりげなく見るようにしているつもりなのだが、その格好はもはや誰が見てもはっきりと、『トイレの順番を待ちきれない女の子』だった。この光景をカメラに収めれば、そんなタイトルがしっくり来るほどだろう。
(もうっ、まだなの? ……早くしてよぉ……っ)
 揺れる車体の傾きが、いっそうユミの我慢を加速させる。時折硬直する少女の身体は、限界へのカウントダウンを教えているかのよう。一つの波を乗り越えるたびに、最後の瞬間は刻一刻と迫ってくる。
 我慢に我慢を重ねやっと漕ぎ付けた待望のトイレを前にしながら、ユミの膀胱はいつまでも『おあずけ』を喰わされていた。ちょっと油断すれば、トイレでもなのにおしっこの準備をはじめてしまいそうになる股間を必死に押さえつける。
 しかし、焦る気持ちとは裏腹に、まったく順番は回ってこない。たった一人だけ、自分の前には列もなく、次はユミがおしっこできる順番のはずなのに。
(お願い……はやく、はやく、おしっこさせてぇ……っ!!)
 は、は、という荒い息ももう聞こえない。大きく動けばそのままダムの崩壊が始まってしまいそうなのだ。アルコールという成分がもたらす尿意は、自然のそれとは遥かに違う、あまりに暴力的な刺激である。一呼吸ごと分解が進み、新たに精製をされたおしっこが膀胱の中に注ぎ込まれる。ずっしりと重さを増す恥ずかしい液体が、ユミの下腹部を膨らませ、ベルトをきゅうきゅうと締め付ける。
(っ、漏れちゃううぅ……っ)
 かり、と吊革に細い指の爪が立てられる。いうことを聞かない足の代わりに、吊革にぶら下がる滑稽な姿勢。ユミの足は小さく震え、いまにも崩壊しそうな脚の付け根のおしっこのダムを塞き止めるのに精一杯で、まともに立っているのもむずかしい。
 悲痛な少女の胸のうちなどお構いなしに、いつまで経ってもドアは開かず、硬く閉ざされた『使用中』の文字だけがユミの前にそびえていた。
(こんなに待ってるんだから、と、途中でもいいから、はやくおしまいにして出てきなさいよっ……!!)
 苛立ちながら足踏みを繰り返して気を紛らわせ、じっとトイレのほうを睨み、ドアの奥に見えない相手を想像して、心の中で文句をぶつける。
 ほとんど八当たりの理屈なのだが、切羽詰った尿意と必死の綱引きの最中にあるユミにしてみれば、ずうっとトイレを占領している相手のほうがよほど理不尽に思えてしまうのだ。
 まさか、自分がトイレを使いたいのを知っていて、わざと中に閉じこもっているんじゃないかと、見えない相手にそんな悪意までを想像してしまうほどだった。
 そんなユミをさらに追いたてるかのように、スカートの下で下腹部が痙攣を始めた。

 きゅんっ……きゅうぅ……っ

(ふぁあああ!?)
 さっきよりもさらに強く鋭い、膀胱が絞り上げられるかのような強烈な尿意の大津波だ。もうぱんぱんに膨らんではちきれそうなおなかの中の水袋が押し潰され、無理矢理追加された中身が出口へと滲み出す。
「っぁああっ……」
 押し殺した悲鳴と共に、ユミは鞄を下げた手の甲でぎゅぅっと下腹部の下あたりをおさえつけてしまった。吹き出しそうになる恥ずかしい水流をなんとか乗り越えようと、ユミはぎゅっと目をつぶった。
(や、だぁ……っ、だめ、もう立ってたら、ガマン、できなっ…)
 大自然の摂理に伴って押し寄せる怒涛の尿意に対し、少女の抵抗など儚いものだ。脚の付け根の堤防は今にも決壊しそうに痙攣し、軋み、滲み出す濁流の先走りに細い隙間が今にもこじ開けられそうになる。
(っ、だめ、だめだめぇえ……っ!! ガマンして、ガマンするのぉっ……)
 下着に広がるじわぁっ、とした熱い感触。
 声にならない悲痛な叫びと共に、ユミは腰をヒクつかせ、爪先立ちになって吊革に体重を預けながら、ぐりぐりと身体をねじった。
 だが、立ったままの姿勢ではガマンにも限界がある。足がふらついて太腿をぎゅっと閉じ合わせるのも難しく、片手は吊革、もう片手は鞄で塞がっているのだ。
(っ、やだ、でっ…でちゃう、でちゃうぅぅっ、~~ッ……!!)
 絶体絶命のもじもじダンスの真っ只中にあるユミは、とうとう訪れた崩壊の予兆に、か細い悲鳴を上げてぎゅっと吊革を握り締めた。いまにも崩れ落ちてしまいそうな腰を保つため、頼りない足の分まで吊革に体重を預ける。
 せめて、手と足を十分に使って我慢すればこの尿意もやり過ごせるかもしれない。しかし立っている今の状態ではそれは叶わない。腰は砕け、今にもしゃがみ込んでしまいそうになる。それがおしっこを我慢するのに一番危険な体勢だと分かっているのに、力の入らない足ではそれも上手くいかない。
 大勢の人が乗っている電車の中で、まるで幼稚園児のようにはしたなくもスカートの前を押さえ込むユミ。
 金属製の手摺りや座席の角といった、『ちょうどいい場所』が次々とユミを誘惑する。あそこに思うさまパンツの股間を押し付けて腰を揺することができれば、おしっこの孔を塞いで堰き止めることもできるはずなのだ。
 その時――

『倉橋、倉橋です。お降りの方は足元にお気を付けください。向かって右手のドアが開きます』

 アナウンスと共に電車が次の駅のホームに滑りこむ。
 何人かの乗客が立ちあがり、ぞろぞろと乗車口に向かう。
 ユミの目の前の席に腰掛けていたスーツの女性も、会わせて席を立った。
「……あ」
 女性が席を立ったその後に、縞模様の空白の座席シートがぽかりとできあがる。
(あ、空いたっ……!!)
 ほとんど倒れこむように、ユミはその席に飛びついた。荷物を抱え込むように深く腰を下ろし、同時にできるかぎりのさりげなさを装って(と、本人は思っていた)スカートの前に鞄の角を押し付けてぐいぐいと股間を押し上げる。
(んんぅっ……っ、ふぁ……)
 そこは、本来ユミが待ち望んでいたトイレではなかったが、尿意からの解放という意味ではまったく的外れでもない。
 これまで禁じられていた分、両手での前押さえの効果は覿面だった。じんじんと痺れるような股間の疼きが、手の力を借りたガマンによってわずかにだが和らいでゆく。
 疲弊していた括約筋をねぎらうような気持ちで尿意を押さえ込み和らげるその行為は、ある種擬似的な排泄であり、いっそ快感すら覚えるほどだ。
 ユミがしばらくその体勢で尿意の様子を窺っているうちに、電車のドアが閉まり、発車ベルと共に不安定に揺れた速度が次第に増してゆく。

 がた、がたん、がたん……

「はぁ……っ」
 列車を揺らすかすかな震動に合わせるように、リズミカルに股間を押さえながら、ユミはどうにか危機を乗り越えた安堵に溜息をこぼす。
 下半身に刺激を与えないようそっと座る位置を直し、ぎゅっと脚を閉じ、さらなる尿意の波に備え、我慢のための体勢を整える。
(お、落ち付いてきたみたい……)
 限界に近い波を辛うじて乗り越えた反動のせいか、膀胱はいくらか落ちつき、尿意もわずかばかりの安定期に入ったようだった。電車が目的地につくまとなるとまだ予断を許さないが、せめてトイレが空くまでくらいならガマンを続けることができそうな気がした。
「ねえ、ちょっと?」
 どうにか勝ち取った平穏の中、ほっと胸を撫で下ろすユミに、不機嫌そうな声が掛かったのはその時だ。
(え……っ?)
 ふと気付いて顔を上げれば、周囲から向けられる奇異の視線。
 混み合う車内の多くの人々が、ユミに注視を向けていた。その中心にいるのは、マフラーを巻いたスーツ姿の女性。さっき席を立ち、電車を降りたはずの彼女だった。
「あなた、そこ……優先席よ? 座りたいのは分かるけど、ダメでしょう?」
「あ……」
 そしてユミはようやく理解する。
 あろうことか、ユミはたった今、スーツの女性が足を怪我した男性に譲ろうとしていた優先席を、まるで横取りするように占領してしまっていたのだった。
 状況を理解できないユミに、スーツの女性は不機嫌そうな顔をして告げる。
「あなたも、具合、悪いのかしら?」
「え……あ、あの……っ」
 突然の事態に混乱し、はっきり頷くことも否定することもできず、曖昧な答えを口にしてしまうユミ。
「……そうよね。やっぱり違うのよね? だったらこの人に譲ってあげて。それがマナーよ」
 教え諭すような口調ながら、女性の言葉には有無を言わせない迫力があった。
 いっそユミがウソであろうと気分が悪いと答えでもすれば場も収まったのだろう。しかし、ユミの曖昧な返答はまるで答えをごまかしてうやむやにしてしまおう、という態度に捉えられてしまっていた。
 たちまちのうちにユミに対する周囲の視線は『しつけのなっていない子供』に対するものへと変化してゆく。
「ほら、早くしてちょうだい」
「あ、え、えっとそのっ……」
 動揺のもたらした高度の緊張が、せっかくおさまりかけていた激しい尿意を再び呼び戻してしまう。座席の上でもじもじと反応しはじめてしまった下半身をもてあまし、ユミには思うように立ちあがることも許されない。
(ぁ、くうぅっ……!!)
 アルコールの魔力がもたらした大量のおしっこがおなかの中で激しく暴れている。少女の手のひらが汗ばんで、きゅっと鞄を握り締める。
 いくら言っても言うことを聞かず、俯いてばかりの少女に対し、スーツの女性は次第に苛立ちをあらわにしていた。
「ねえ、どうしたの? 黙ってちゃわからないわよ?」
「あ、あのっ……」
 尿意の波に襲われながら、ユミは辛うじて唇を動かす。カラカラの喉では思うように話もできそうにない。
 立ちあがろうにも、ぴくぴくと引きつる股間の括約筋は、腰を下ろしていることで辛うじて均衡を保っているのだ。慎重に身体を動かさなければ、ガラスのように敏感になった脆い排泄孔はたちまちひしゃげて、おしっこをそこらじゅうに撒き散らしてしまう。
(だ、だめ、……いま、立ったら……でちゃう……っ!!)
 ユミにははっきりとした予感があった。いや、もはやそれは予知といってもいいほどに確実な未来だ。
「ねえ、あなた……?」
「す、すいませんっ……あの、っ、・……わ、わたし……っ」
 とうとう堪えきれず、ユミのおしりがもじもじと揺すられ始める。座席の上にぐりぐりと股間をねじ付けるように腰をよじって、ユミは羞恥の告白をしてしまった。
「と……お、トイレ……っ」
「……お手洗い?」
 怪訝そうに聞き返す女性に、ユミは小さく頷いて声を絞り出す。
「そ、その……わ、わたし、……お、おしっこ……っ」
(も、漏れちゃうんですっ……立ったら、出ちゃうんですッ……!!)
 トイレに行きたい。おしっこが漏れそう。立ったらガマンできない。
 その三つの事実を、ユミは切羽詰った下半身を必死に押さえこみながら、途切れ途切れに口にする。しかし、その態度は逆にますます女性を呆れさせてしまっていた。
「……ならなおさらよ。はやくお手洗い行ってくればいいじゃないの」
 出来の悪い子供に諭すような口調。
 そもそも、優先席は身体の不自由な人や具合の悪い人、おなかに赤ちゃんがいる人などが座るべき席だ。たかだかおしっこがしたいくらいで、座ることは許されない。優先席はおしっこを我慢するための席ではないのだから。
 スーツの女性にとって、ユミが並べ立てる言葉は、いいわけにも何にもならなかった。
「なにやってるの、ほら!!」
「ッ……や、やぁあ!!」
 ユミを立たせようと伸ばされた女性の手を、反射的に振り払ってしまう。
 はたかれた手のひらを呆然と見下ろし、とうとう女性が声を荒げて叫んだ。
「ちょっと……ねえ、あなた、いい加減にしなさいよ!? 恥ずかしくないの!? そんなふうに席を横取りして!! 朝からそんなことくらいで怒らせないでくれる!?」
(っはぁああぅぅ…っ!?)
 激しい言葉をぶつけられた衝撃で身体が竦み、ヒクン、とユミの排泄孔が疼く。恥ずかしい肉の管がぴくぴくと蠢き、ぷくりと膨らんで熱い雫を下着の股布に染み込ませてゆく。
(や、う、やだ……でちゃった…っ!!)
 かすかではあるが、コートのなかに漏れ出したおしっこは確実にユミの足の間に熱い感触を広げてゆく。
(た、立たなきゃ……ッ!! と、トイレ、はやく!!)
 女性の叱責よりも、オモラシの危機というひり付くような焦燥に衝き動かされ、ユミはぐっと腰を浮かせかけた。
 しかし、じぃんっ、と甘い痺れが恥骨から背骨を駆け抜け、湧き上がる尿意に膝が笑ってしまい、思うように身体が持ちあがらない。
 それでもどうにか、ほんのわずか、中腰になって浮き上がった少女のスカートの中で、ついに尿意が限界を迎える。

 ぷしゅ、しゅるるるるるぅ……

 明らかに電車の中に響くべきではない水音がこぼれ、ユミは小刻みに震える内腿にじわぁっと広がる熱い湿り気を感じる。
「や、やぁあ……っ」
 か細い声を絞り出しながら、短く叫んだユミの股間で、尿意の波が爆発する。鞄を股握り締める両手にぐっと力を込め、括約筋を引き絞ろうとするが、もうその程度では崩壊したダムを塞き止めることは不可能だった。

 じゅじゅ、じゅじゅじゅっ、じゅぶぶ……っ

「ぁああああ……だめ、だめぇ……!!」
 くぐもった音を篭らせながら、長い間少女のおなかに閉じ込められていたオシッコが、締め付けられた括約筋の隙間、狭い出口をこじ開けてユミの脚の間を伝い落ちてゆく。
 鞄の留め金が外れ、ユミの足元に、教科書とノートがばさばさとこぼれ出す。その上にもユミのおしっこは激しく振り注いだ。
 むぁっと込み上げるオシッコの匂いに、女性が何事かと後ろに下る。
 禁じられたアルコールの分解のため、代謝機能がフル稼動して作りだした少女のおしっこは、普段のそれに比べて色も濃く匂いもきつい。床に落ちてなおはっきり色の分かるほどの黄色いおしっこの水たまりがあっというまに広がってゆく。
 身体の不自由なひとが、おなかに赤ちゃんのいるひとが。いたわりと優しさで作られた座席を、あろうことか自分のおしっこがめちゃくちゃに汚してゆく。
 異常はたちまち密閉された車内に伝播した。
「お、おい、なんだ?」
「……漏らしちゃったのか、あの子」
 遠巻きにそんなざわめきが聞こえてくる。ユミの隣に座っていたサラリーマンが慌てて席を立った。ぐるりと自分を取り巻く混乱と好奇の視線のなか、ユミはか細い声をあげて儚い抵抗を試みる。
「うぁ……やだ、だめぇ……もう出ないでぇ……っ…ちがうの、わたし、オモラシ……してな……っ」
 自分のおしっこでびしょ濡れになった優先席のシートに、ユミは濡れた自分のお尻を押し付けてしまう。なんとかおしっこの噴出をとめようと腰が左右に揺すられ、スカートの下から覗く下着がぐりぐりとシートの上に擦りつけられる。
 少女の排泄孔は股間を包む白い布地を濡らして透けさせながら、激しく熱い水流を吹き上げる。色違いの優先席の座席シートは溢れんばかりのおしっこを直接吹きつけられてあっという間に色を変えてゆく。
 吸収しきれないおしっこはユミの足を伝い、ソックスに染み込み革靴までを汚してゆく。ぱちゃぱちゃと滴り落ちる雫は優先席の前に水たまりをつくり、じわじわとその領域を広げてゆく。
「ね、ねえ……大丈夫?」
「っ!! ごめんなさい、ど、どきます……すぐ立ちますからぁ……!!」
 さすがにうろたえながら声を掛けた女性に対し、ユミは泣きべそをかきながら無理矢理身体を持ち上げようとした。その瞬間下着に包まれた排泄孔からおしっこがじゅぶじゅぶと溢れ、地面を跳ねて周囲に飛び散る。こんどははっきりざわめきが響き、周囲の乗客達が一斉に距離を取った。
「と、トイレ……ちゃんと、トイレで……おしっこしますからっ……ちゃ、ちゃんと……ぁあぅ…っ」
「ちょ、ちょっとあなた!! ねえ!!」
 スーツの女性の手を振り切り、呆気に取られる車内を横切って、ユミは足を震わせたままふらふらとトイレに向かおうとする。その間にも我慢の果てに崩壊してしまった排泄孔はだらしなくおしっこを噴き出し続け、車内の床にびちゃびちゃと黄色いおしっこを撒き散らしてしまう。
 あまりにも異様な光景に、車内の乗客たちは自然と道を明けていた。
 ユミの歩いた後にはおしっこがまるで河のように続き、電車の揺れにあわせて低い方へと流れてゆく。
「っ……ねえ、開けて……っお願いぃ……!!」
 辿り着いた車両の端、ユミはスカートの前を押さえてびしょびしょに汚れた手でトイレのドアを叩く。
 それでもドアは空かない。硬く閉ざされ、鍵をかけられ、赤文字の『使用中』がユミの行く手を塞いでいる。
 ユミはがんがんとドアを叩き、しゃくりあげ、涙を流しながら懇願する。自分でも経験したことのない呆れるほどのおしっこを漏らし続けながら、ずっといつまでも。
「あ、空けてよぉ……お願い、まだ全部出てないからっ……うぅ……残りだけ、でもっ、いいから、おしっこ、トイレでさせてぇ…!! おねがい、順番っ……全部、オモラシっ、ひっく、でちゃう、前にぃ……!!」
 そう叫んでいる間にもユミのおしっこは止まらず、満タンだった膀胱は残量を0へと近づけてゆく。ばちゃばちゃと滴り落ちる滝のように、トイレの目の前でユミはドアにしがみついてしゃがみ込んでしまった。たっぷりとおしっこを吸った下着が引っ張られ、さらに床上にぱちゃぱちゃと雫を注がせる。
 靴下も、革靴も……どうしようもないほどにずぶ濡れのびしょびしょ。もう二度と使うことは出来ないだろう。
 あまりにも悲痛に泣き崩れる哀れな少女を乗せ、ユミのおしっこまみれとなった電車は、まもなくユミの降りる駅へと到着した……



(初出:おもらし千夜一夜2 406-417 2008/02/17)
[ 2008/02/29 23:13 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

保育園のお話。 

「ねーねーおねえちゃん、はやく、はやくっ!!」
「ちょ、ちょっと待ってってば……そんなに引っ張ったら……きゃぁあ!?」
「うわぁっ!?」

 ――べしゃんっ。






「……災難だったわねぇ」
「あ、あはは……みんな、元気いいですから」
「ごめんなさいね、詩織ちゃん。付き合わせちゃって」
「そんな、気を使わないでください。わたしがお願いしたことですから」
 前原詩織――15歳。保母さんを目指して勉強中の彼女は、椅子の上でまだ湿った髪を拭きながら答えた。大滝保育園、私立のこの保育園は、詩織の叔母にあたる女性が経営する施設である。
 詩織は毎日、学校が終わってからこの保育園で保母さんの見習いをしていた。
 元気いっぱいの園児達は、詩織を『おねえちゃん』と慕い、毎日あちこちへ遊びに引っ張ってゆく。詩織もすっかり溶け込んでいるが、遊びたい盛りの園児たちのパワフルさにはまったくもって圧倒され、舌を巻くばかりだった。
「でも、平気? 身体が冷えちゃったでしょう。風邪、ひかないようにね」
「あはは……はい、気をつけます」
 今日もまた、詩織は子供達に引っ張られているときに間違って足を滑らせ、水たまりの上に転んでしまったのだった。防寒・汚れ対策のジャージはおろか下着までびしょ濡れになってすっかり壊滅だ。どうにか頭だけはシャワーを浴びて泥を流したが、服はこのままクリーニング行きで決定だった。
「……それで、あたしはちょっと外すけど、あとは頼んでいいかしら?」
「え? 園長先生もおでかけなんですか?」
「あら。ひょっとして城崎先生もなの? ……まあ、それは困ったわねぇ……」
 城崎先生が先程、このあと急な用事で1時間ばかり外出するのでお願い、と伝言を頼まれたことを説明すると、園長先生はむぅ、と眉を寄せて考え込んでしまう。どうやら相当大切な要件のようだった。
「どうしようかしら……」
「……あの、お急ぎのご用事でしたら、行ってきてください。ちょっとくらいならわたし一人でも平気ですから」
 そっと切り出した詩織に、園長先生はしばらくためらい、答えた。
「……ごめんなさいね……本当に悪いんだけれど、前原さん、お願いしてもいい? すぐに戻ってくるわ」
「はい、任せてください!!」
 ぐっと胸を張り、詩織は答える。それを見て園長先生はふっと表情を緩め、席を立った。
「あなたももう立派に『おねえちゃん』なのね……頼もしいわ」
「あ……ごめんなさい、ちょっと言いすぎました」
「いいのよ。そんなに謙遜しないで。みんなもあなたのことを慕ってくれているし。じゃあ、お願いしていいかしら」
「はい!!」
 部屋を出てゆく園長先生を見送り、詩織も椅子から立ち上がる。
「さあ、早くしなきゃ……みんな待ってるしね」
 目を輝かせ、詩織の手を引いていた園児達のことを思い出しながら、詩織は更衣室に入って自分のロッカーを開け、着替えることにした。
「えっと……あれ?」
 しかし、中を探る手に物足りなさを感じ、ロッカーの中を覗きこむ。
 改めて見てみれば、着替えの中にはジャージの上着とエプロンの替えだけしか残っていなかった。
「あ……そっか…」
 よくよく思い出してみれば、昨日も別の園児達との泥遊びで汚してしまい、着替えを使ったたばかりなのだ。あと一式あると思っていた着替えは、もうその一部だけしか残っていない。
(……えっと……)
 着替えようにも服はなく、かといって下半身は水浸しの泥だらけで冷たく湿っている。このまま着続けている訳にもいかない。
(ど、どうしよう……)
 予想外の事態に、詩織はロッカーの前で困惑を隠せなかった。





(……うー、なんか、すかすかする……)
 結局、詩織は被害の壊滅的だったジャージと下着を脱ぎ、どうにか汚れの少なかったスカートと、替えのエプロンだけを身につけていた。
 下着は脱いだままだ。あんな泥だらけのショーツはどうも履く気になれなかったし、かといってほかに替えの下着もない。まさか他の先生のものを黙って借りるわけにもいかないのだ。
 頼りない足もとの感触に、なんとなく違和感を感じる。大切なところがすっかり丸出しという状況は、なんとも非常に困ることではあるのだが……まあまさか見られることもないだろうし、気になるものの、急ぐためには仕方のない処置だった。
(1時間くらいで乾くし……それまで我慢しよ……)
 と、いまいち吹っ切れない気分を無理矢理切り替えようと、頭を振ったときだ。

 ぶるるるっ……

 不意に込み上げてきた感触に、詩織は軽く身をよじる。
(う……やだ。濡れたままでいたからかな……)
 恥骨をじんと震わせる切ない感覚。どうやら着替えるのに少々手間取り、腰を冷やしたままでいたためか、トイレを求める生理的欲求が増してきたらしい。気付けば下腹部にも軽い重みが感じられ、詩織は自分の身体が思っていたよりも我慢を続けていたことを知る。
 ――おしっこ。
 たとえ『おねえちゃん』であろうとも避けられない自然の摂理に背中を押され、詩織はそそくさと方向転換し、トイレの方へと急ごうとした。
 だが。
 それを見咎めるようなタイミングで、廊下に園児達の声が響いたのだ。
「あー、おねえちゃんいたー!!」
「もう、どこ行ってたの!? はやくはやく!!」
 リョウタとアカネ。ついさっき、詩織の手を引っ張っていたふたりだった。
 廊下をまっすぐに、全速力で走ってきたふたりは、そのまま勢いよく詩織の身体に飛び付く。
「ちょ、廊下は走っちゃ……きゃんっ!?」
「ねえ、おねえちゃん行こうよ、はやく、ねえはやく!!」
「そうだよ、はやくはやく!! みんなまってるもん!!」
「わ、わあ!? ひ、引っ張らないでってば!! す、スカート握っちゃダメ!!」
 かなりの力で両手を引かれ、詩織は倒れるのをこらえるので精一杯になる。どうやら二人とも、詩織がいちど事務室に引っ込んでいるあいだもだいぶあちこちを探しまわっていたらしく、すっかり待ちきれない様子で詩織をせかすように玄関の方へとぐいぐいと引き寄せる。
 その下にはなにも身につけていないスカートの裾を掴まれ、さすがに焦った詩織は慌ててエプロンの上から布地を掴む。
「え、ええと、リョウタくん、アカネちゃん、ちょっと待って……おねえちゃん、おトイレ行きたいんだけど……」
「そんなのいいから!!」
「そうよ、おねえちゃんなんだからガマンしてよ!! ねえ早く!!」
(い、いいからって……きゃっ!?)
 あまりに勢いよく遮られ、一瞬呆気に取られてしまう詩織を、二人は力を合わせて玄関へと引きずってゆく。たとえ小さな子供でも、夢中になっている時のエネルギーはすさまじい。まして二人がかりなのだ。詩織はずりずりと引きずられるままに玄関に押しだされてしまった。
「おねえちゃん、こっち、こっちだよ!! もう、遅いってば!!」
「わぁ!? あ、アカネちゃん、引っ張ったら危ないんだから……ってさっきも言って……」
「ほら、おねえちゃんはやく!! 早くしてよぉ!!」
「あ、あのね、だからリョウタくんもちょっと待って……うわっ!?」
 サンダルを履くやいなや、二人は見事なコンビネーションで詩織の両手をしっかりと掴み、表へ走りだす。バランスを崩しかけながらも、詩織はどうにか転ぶのをこらえて二人に付いてゆくしかない。
(うぅ……しょうがないや、ちょっとの我慢だもん……)
 声を跳ねさせ、遊ぼう遊ぼうとはしゃぐふたりがあまりに強引なもので、とうとう詩織も諦めざるを得なかった。それに、こうまでしてふたりが見せたがっているものを無視するのは『おねえちゃん』としてもなんとなく気が引けてしまう。
 じん、と重みを感じる下腹部に、後ろ髪を引かれながらも、詩織はリョウタとアカネに引っ張られるまま、玄関を出た。




「ね、ねえ……リョウタくん、お姉ちゃん、そろそろ……」
「あー!! おねえちゃん立っちゃだめ!! ちゃんと持ってて!!」
「え、えっと、その……」
 30分あまりが経過し。詩織の姿は依然、園内の隅にある砂場に留まっていた。
 エプロンとスカートの端を折り込んでぎゅっと寄せ合わされた膝は、せわしなく左右にを入れ替えている。
 無論のこと、トイレにはまだ行けていない。詩織の下腹部では、さっきまでの尿意がさらに増して感じられ続けている。
「あの、アカネちゃん、お姉ちゃんちょっとご用事があるんだけど……」
「お姉ちゃん、ほら、お姉ちゃんの番だよ!?」
「うぅ……」
 腰を浮かしかけるたび、隣のリョウタとアカネは目ざとくそれを見つけて詩織を制する。園児二人に囲まれて、詩織は思うように身体を動かすこともできなかった。
(っ……どうしようっ……だ、だいぶ、辛くなって、きちゃった……っ)
 時間の経過と共に膀胱に蓄えられたおしっこがさらに量を増しているのだ。おまけに屋外の風も、下着を身に付けていない詩織をさらに攻め立てている。
「ふぅ……っ」
 そっと息を詰めるものの、誤魔化しきれないおしっこの重みにもじもじと詩織の腰が揺れる。脚の付け根にぐっと力を入れてみたり、さりげなく肘のあたりでおなかをさすってみたり、少しでも下腹部に負担をかけないよう、詩織は姿勢の微調整を繰り返しながら、次第に高まり続ける尿意の波をやり過ごしていた。
「じゃあ次ね、次!!」
「まって、あたしのが先よぉ!!」
「ちがう、ボクだよぉ!!」
 リョウタとアカネのふたりが見せたがっていたものは、みんなで協力して築き上げた砂のお城だった。
 あれだけ一生懸命になるのも確かなことであろう。普段のお遊戯の時間とは一味違って、砂場の砂を全部かき集めて作られたお城のてっぺんは、詩織の背の高さの半分を超えているほどに高い。
 園児達にしてみればそれこそまるで見上げるような高さなのだろう。みんなは思い思いにグループを作り、お城のあちこちにミニカーを走らせ、お人形を並べて楽しそうに遊んでいる。
 そして、どうやらリョウタとアカネがこのお城の建造の発案者らしい。いつもの何倍も大きなお城は、子供達のテンションを高め、すっかり夢中にさせているらしかった。
「はい、お姉ちゃんっ!!」
「あ、ありがとう……」
 おままごとをしている園児から泥団子を受け取り、詩織はお礼を返す。しかし下半身を襲うざわめきのせいで、その言葉もどこか上の空だ。
(や……また、来ちゃうっ……)
 おなかの奥でたぷん、と黄色い水面が揺れる。波紋のように広がる水の予兆が詩織を焦らせた。
 ぎゅっと腿を寄せ合い、少女の腰が左右にくねる。大切なところを覆う下着のない状態でまだまだ寒い屋外に居続けているのだ、生理現象が加速するのも無理はない。しかも今の状態は園児達に囲まれて、屈伸運動の途中のように脚を折り曲げしゃがみ込んだ状態だ。これはまさしく和式便器での排泄の体勢に他ならない。
 下着を脱いでしゃがむ、という行為はそれだけで高まりつつある尿意を膨れ上がらせるものだ。本来トイレでしか取ることのない姿勢は、詩織の排泄器官をじわじわとなぶり続け、少女の思考をそのことだけで塗り潰してゆくのだ。
(トイレ……トイレ、早く……)
 まるで、おなかの中のティーポットを弱火で火にかけているような、もどかしくも切ない尿意。ポットの口ぎりぎりまで注がれた秘密のレモンティーは今にもぐらぐら沸騰し、縁を超えて吹きこぼれ溢れ出してしまいそうだ。いや、その程度のちょっとしたあふれ出しならまだいい。もしポットが倒れ、中身が全部撒き散らされてしまうようなことがあれば……
 自分の意志とは無関係にヒクつきはじめる排泄孔を、エプロンの布地をぎゅっとつかむことでなだめ、詩織は浅く息を繰り返し、危険水位を突破しつつあるダムの決壊を防ぐ。
「はぁ……っ」
 ぐっと我慢をし通し、なんとか小康状態を取り戻した下半身に、わずかな安堵の息をこぼす詩織。
 この切羽詰った事態を解決するためには、とれる手段はひとつだけ。とにかく一刻も早くトイレまで戻ることである。それ以外に助かる方法はないのは明白だった。
「お姉ちゃん、ほらぁ、早く!!」
「う、うん……」
「ねえお姉ちゃん、こっち来てこっち!!」
 しかし、目を輝かせる園児達が、まるで四方から詩織を奪い合うようにエプロンを掴み、放さない。みんな大好きな『おねえちゃん』と一緒に遊びたくてたまらないのだ。下手に拒絶すれば、大騒ぎに発展しかねない。
(っ……まだ、先生戻ってこないの……?)
 園長先生か、城崎先生。せめてもう一人、先生が遊びに参加してくれれば抜けだすチャンスもある。しかし詩織の大ピンチにも関わらず、助けが駆け付けてくれる様子はない。
 なみなみと注がれた恥ずかしい液体で下腹部を膨らませ、いまもたぷたぷと揺れるおしっこの存在感はあまりに重く、忘れてしまおうとすることもできない。なんど考えまいとしても、腰骨に響く甘い痺れは、避けられない排泄の瞬間を思い起こさせるばかりだった。
 遠くない爆発の瞬間をせめて少しでも先延ばしにしようと、詩織はサンダルのかかとをぐりぐりと地面に押し付ける。軽く腕をつねって痛みでごまかす。しかし、そんな抵抗を繰り返してもおなかにずっしりとかかるおしっこの重みは消えてくれない。当たり前だ。
「おーねーえーちゃーんーーっ!?」
「ふあぁ!?」
 その瞬間だった。詩織が相手をしてくれないことに痺れを切らしたリョウタが、詩織の背中にジャンプして抱き付いたのだ。詩織がおなかのなかで暴れそうになるおしっこに対する備えのためぐっと縮こまっていたのも状況を悪化させた。
 ぐらりと揺れた詩織の身体は、たたらを踏みふらふらとバランスを崩す。
(い、嫌ぁ……っ!?)
 もともと、ぎりぎりのところで保たれていた均衡だ。破られてしまえば後はすさまじい勢いで崩壊が始まってゆく。
 脚の間に巻き込んでいたスカートが乱れ、反射的に体重を支えようとした脚が広がってしまう。程良く開いた脚の幅は、スカートの奥で剥き出しの排泄孔を刺激し、その奥の膀胱を致命的な角度できゅぅと絞り上げた。
(や、やだっ、っ……っ、でちゃ…っ!!)
 詩織はとっさに悲鳴を上げかけた口元を噤む。
 ただの『しゃがんでいるだけのポーズ』から、『おしっこをするためのポーズ』へ。些細な変化は、しかし爆発的に詩織の尿意を爆発させる。追い討ちをかけるように、閉じ合わせていた内腿に外気が触れ、ぞくぞくとイケナイ感覚を加速させた。
 排泄孔が内側から高まる尿意の圧力に耐えかね、自然にぷくりと膨らむ。
「あ……はぅっ……っ!!」
(だ、め、来ちゃう、次の来ちゃうっ!! せ、せっかくさっき、我慢できたのにっ!!)
 たちまちおしっこ我慢の真剣勝負、緊迫の綱引きに直面する詩織をよそに、リョウタとアカネは大好きな『おねえちゃん』の所有権を巡って取り合いをはじめてしまう。
「ねーえーっ!! おねえちゃん!! だからこっちだってばぁ!!」
「なによ、おねえちゃんはあたしとあそんでるんだよ!? 邪魔しないで!!」
「ちがうよ、ボクとだよっ!! そっちこそじゃまするなよ!!」
「うーそーだー!! ちがうもんっ!!」
 とうとう言い合いは怒鳴りあいのケンカに発展してしまった。リョウタとアカネは、それぞれに詩織の手を取って、乱暴にぐいぐいと引っ張りあう。まるで詩織を独り占めしてしまうかのようで、腕が引っこ抜けても構わないとばかりの剣幕だった。
「や……だめ、やめてぇ……!!」
 か細い声で詩織が抵抗する。だが、リョウタもアカネもまるで意に介さない。
「はなせよー!! おねえちゃんがかわいそうだろー!!」
「リョウタがいじわるしてるんじゃない!! あんたこそどっかで遊べばいいのよ!!」
 いや、詩織は決してケンカの仲裁のために声を上げたのではなかった。
(っ、だ、だめ、でちゃう、でちゃうっ、でちゃうぅ!!! おしっこっ、と、トイレっ、は、はやくぅ……っっ!!)
 やさしく諭すべき言葉は押し寄せる尿意の津波に掻き消され、詩織はただただ漏れそうなおしっこを塞き止めることに全力を割かねばならなかった。
(このままじゃ……オモラシ……、や、やだ!! みんなの前で、おしっこなんか……ダメっ、ぜったいダメ……っ!!)
 叫ぶ理性とは裏腹に、猛烈な尿意が詩織の下半身を占領してゆく。ぶるぶると震える膝で爪先を地面にねじつけ、前後に揺れる腰がひく、ひくと持ちあがる。不自然に力の入ったふくらはぎと内腿が痙攣し、詩織が唇を噛むたびに小刻みに跳ねる。
 だが、いまにも爆発しそうな股間へ即座に応援に駆けつけるべき両手は、それぞれリョウタとアカネにしっかりと掴まれている。いくら緊急事態、火事場の馬鹿力をもってしても、園児一人が体重をありったけ預けてぶら下がるのを持ち上げるだけの力は詩織にはない。なりふり構わず股間を握り締めることも許されず、エプロンの下で詩織の脚は激しく擦り合わられ、ヒビの入り始めた恥骨の上のダムの決壊を必死に押さえ込もうとする。
「おねえちゃんはボクとあそんでたほうがいいよね!?」
「ちがうもん、おねえちゃんはあたしと遊ぶの!!」
 そんな限界寸前の詩織にはまるで気付かず、ふたりは口々に詩織に問いかけた。大好きな『おねえちゃん』を奪われたくない一心で、リョウタもアカネも自分の方に詩織を引き寄せようと、地面に足を踏ん張ってその手を引く。
 倒れないようにと不必要に緊張した下半身が、さらに詩織の股間に不必要な刺激を伝播し括約筋を緩めてしまう。
「あ、あ、ぁッ……だめ、でちゃ、ぅ……っ!!」
 いや増す尿意の限界は、とうとう少女の喉を震わせた。
 激しく足を踏み鳴らした反動で、スカートはいつしか膝下まで捲れ上がり、エプロンの下に空間を開けている。視線を低くして覗き込もうとすれば、詩織の大切な場所は丸見えだった。羞恥に身体をくねらせるも、それ以上の身動きは許されない。
 詩織の足元には砂場が広がり、いつでも詩織のおしっこを受けとめられる状態にあった。
 もはやこれは疑いようもない『おしっこのポーズ』だ。トイレの中、鍵をかけた個室の中でだけ許される、排泄の準備が、なんと屋外、しかも園児たちの多数の視線が交わる砂場の上で進んでゆく。恥辱に顔を染める詩織は、とうとう声を荒げてしまった。
「お、お願い、放して……はなしてぇ……っ!! っ、でちゃ、うぅ!!」
 これまで消極的だった『おねえちゃん』の突然の豹変に、リョウタとアカネはびっくりして目を丸くした。ふたりが同時に手を離し、詩織は待ち焦がれていた両手の自由を取り戻す。
 だが――詩織はそのまま切なくヒクつく股間をぎゅううっと握り締めることも、紅潮した頬を隠して立ち上がり、トイレを目指して駆け出すこともできなかった。
 事態はさらに急変する。
「や……ぁっ!!」
 これまでリョウタとアカネに引っ張られていた左右の手がいきなり空を掻いた為、詩織は派手にバランスを崩した。もともと詩織の脚はもうただ寄せ合わされ擦り合わされるばかりで、おしっこの重みに耐えかねまともに立つ事も難しかったのだ。
 ぐらりと傾いだ身体を支えようと、反射的に伸びた詩織の両手が砂のお城に突っ込んだ。
「あーーーーっ!! おねえちゃんっ!!」
「あーあああーーっ!!」
 前代未聞の大きさを誇りながらも、さしもの詩織の体重を支えるには不十分だったのだろう。お城は詩織が手をついた場所から大きく崩れてしまう。
 大好きな『おねえちゃん』が、あろうことかみんなのお城を崩してしまったことに、園児達がいっせいに非難の声を上げた。
 だが、詩織はそれどころではない。
(っ、ダメ、でちゃう、……もぅ、げんか…い……っ……しちゃう……おしっこ、ここでしちゃうっ……、みんな、いるのにっ……で、でるとこ、いっぱいでるとこ、見られちゃうぅ……!!)
「ぁあんっ……やだっ、だめっ、だめええっ!!」
 長い間しゃがみ込まされていたせいで足はしびれ、思うように少女の体重を支えてくれなかった。砂山のお城に両手で体重を預けたまま、詩織は完全に動けなくなってしまう。それでも少女は健気に、耐え切れるはずもない尿意に対し、辛うじて脚の付け根の筋肉だけで、じわじわと漏れ出すおしっこを塞き止めようとする。
 みんなの『おねえちゃん』である自分は、そのお手本にならなければならない。
 絶対にこんなところでおしっこをするわけにはいかないのだ。つとめて忘れようとしていた、3年前の記憶が詩織の心に蘇る。
 詩織のなかでは、もう『なかったこと』になっていた――中学生のときの大失敗が。
「もう、もうしないのに……今度こそ、ちゃんと『おねえちゃん』になったのにぃ……っ!! オモラシ、だめなのにぃ……!!」
「え……」
「おねえちゃん? ……おトイレ行きたいの?」
 ようやく詩織の様子がおかしいことに気付いたアカネが、きょとんと聞き返す。リョウタも驚いたまま、真っ赤になって俯いた詩織の顔を覗きこもうとする。
(いやぁ……っ、だめ、だめええっ)

 ぴゅるるるぅ!! じゅ、じゅぅ!

 いやいやをするように首を振った詩織の脳裏を、バスの中の光景と共に溢れ出した悪夢が埋め尽くす。
 閉じ合わせた内腿の間に、あたたかい雫が広がる。ぎゅっと締め付ける排泄孔の隙間から勝手におしっこが漏れ出して、激しい水流は腰をよじる詩織の股間でびちゃびちゃと跳ね回る。

 ぷしゅるっ、ぱた、じゅじゅっ、じょおお!!

 断続的に噴き出す黄色いおしっこが、砂場の地面を激しく打った。なんとかしておしっこを止めようとする詩織の努力は、かえって括約筋をうねらせ一回一回のおしっこの勢いを増していた。まるでのたうつ蛇のように、たちまちすさまじい勢いを得た水流が、詩織の足元にばちゃばちゃと撒き散らされてゆく。砂場は水をすって激しく掻き混ぜられ、泥と泡の浮かぶ水たまりを広げ始めた。
「ああっ、おねえちゃんオシッコしてるっ! オシッコしてるよっ!!」
「おねえちゃんおしっこだ、オモラシだよ!!」
 アカネとリョウタが揃って気付き、園児達は声を上げながら砂場から飛び出した。
「ち、ちがうのっ、ちがうのぉっ!! おしっこ、でちゃうけど、……もう、おねえちゃんだから、オモラシしないの、オモラシしてないもんっ!! ぁあああぅぅう……っ!! ほ、ほら、ぱ、ぱんつだって、汚してないんだからぁ……!!」
 混乱の中、3年前の悪夢を否定するあまりに、詩織は自ら屋外での排泄を認めてしまう。
 詩織ははげしく腰を振っておしっこを塞き止めようとしたが、一度始まった少女のおしっこが止まるわけもない。両手が塞がったまま動こうとしたせいで詩織はさらにバランスを崩し、お城の上半分を押し倒してしまった。園児達が再び不満をあらわに大きく叫ぶ。
 そして、なおも吹き出し続ける詩織のおしっこは、残るお城の土台、根元の部分を勢い良く直撃し、たちまちのうちにお城の入り口をえぐってゆく。
 詩織が必死になって我慢を続けたせいか、股間から吹きあがる水流はまるでホースの先端を潰して庭に水をまくかのような激しい勢いだった。まるで怪獣の吐く光線で吹き飛ぶように、お城があとかたもなく消えてゆく。
 詩織の猛烈なおしっこの前には、園児達みんなが力を併せた巨大なお城もまるで歯が立たない。みんなの憧れの『おねえちゃん』は、瞬時に暴れん坊の嫌われもの、オモラシっ子に変貌してしまった。
「おねえちゃんオシッコだめ!! 止めて!! お城くずれちゃう!!」
「そうだよ、ガマンしてよ!! おねえちゃん、もうおねえちゃんなんだからちゃんとトイレでしなきゃだめだよ!!」
「あーーんっ!! あたしのお人形、おねえちゃんにオシッコひっかけられてるぅ!!」
「ひっどーい!! オモラシおねえちゃん!!」
「オシッコ怪獣だよ!! お城ぜんぶこわしちゃった!!」
「うぇ、きたねー!! どうすんだよ、もう遊べないじゃんかー!!」
 園児たちが口々に叫ぶ。みんなの努力を破壊しつくす『オシッコ怪獣』を退治しようと、園児たちは精一杯の視線を詩織に投げつけた。
「やだ、とまって、止まってぇ……!!!」
(おトイレ…しちゃうっ……み、みんなのお砂場、おトイレにしちゃってるぅ……!!)

 じゅじゅじゅじゅっ、ぶじゅじゅじゅじゅぅぅうぅっ!!
 
 あまりにも盛大な『おねえちゃん』が、あろうことかお外ではじめたおしっこに、園児達の大部分は激しく非難を繰り返す。日ごろ自分たちのトイレのことは気にしていても、詩織のように大きな『おねえちゃん』が目の前でおしっこをするなんて考えられないのだろう。
「おねえちゃん、どうしておトイレいかなかったの? おトイレじゃないところでおしっこしたらいけないんだよー?」
「そうだよ、おねえちゃん、せんせいにはい、オシッコいきたいですって言えなかったの? ダメだよ? あたしだってちゃんと言えるのにー!!」
 そんな中でリョウタとアカネは次々に詩織に話しかける。だが、ふたりにとってはおそらく悪気のない一言が、詩織の羞恥心を無残なまでにえぐってゆく。もう二度としないと誓っていたオモラシが、こんな最悪の形で起きるなんて、夢だと信じたかった。
 たとえ下着は濡れていなくとも、おしっこを我慢できなかったのだからオモラシと同じことだ。

 ぶじゅじゅぶぶぶぼぼぼぼじゅぼぼぼぼっ、じょろぼじゅるぶぼぼぼぼぼっ……

「ぐすっ……終わって、はやく終わってよぉ……っ!! やだ、もうやだぁ……!!」
 一体どれだけを我慢し続けてきたのかと言わんばかりに、詩織のおしっこは一向に止まらない。それがまるで、ずっとずっと『おしっこ』を言いだせなかった、トイレのしつけもなっていないことの証明のようで、詩織は泣きじゃくりながら腰を振りたてる。
 見事にそびえていたお城は見る影もなく崩れ、詩織の作り出した大きな大きなおしっこの湖の中に沈んでゆく。『オシッコ怪獣』の大暴れはまだまだ続く。これくらいじゃ物足りないと吠え、足でぐちゃぐちゃとおしっこと砂でできた泥をかき回す。
 流れ出した河は砂場を大きく流れ、真っ黒に濁っては白い泡を立ててどこまでもどこまでも続いていった。



(初出:書き下ろし 2008/02/29)

 
[ 2008/02/29 22:46 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

第7夜 三匹のこぶた 


 むかしあるところに、ポー、キィ、ピックという3人の姉妹が住んでいました。
 3人はとてもなかよしで、いつも一緒に暮らしていました。
 ある日、一番物知りで一番お姉さんのポーが、眼鏡をくいっと直しながらいいました。
「この家のトイレもだいぶ古くなってきた。どうだろう、二人とも。そろそろ新しいお手洗いを作ろうと思うのだが、どうだろう?」
 キィとピックもそれには大賛成でした。あまりはっきりとは言いだせなかったものの、古くて汚れてしまったトイレを使うのは、二人ともあまり好きではなかったのです。
「ええ、とてもいい思い付きだと思いますの、お姉さま。わたくしにいい考えがありますわ。こんなお手洗いはいかがですかしら?」
 と、姉妹の真ん中でおしゃまなキィが自分のアイディアを話し出せば、
「ボクねぇ、こんなのがいいなっ」
 末っ子のピックも画用紙いっぱいに絵をかいて説明を始めます。
 3人の姉妹は、トイレを作りなおすことにこそ賛成でしたが、それぞれが自分の意見を譲らず、話はいつまで経っても決まりませんでした。とうとう夜中になって、いいかげんに疲れてしまったポーは、二人の妹に提案します。
「……よおし。ならば、いっそ3人でそれぞれ別にトイレを作ることにしたらどうだ? 3人が一つずつトイレを持てば、これまでのように順番を待って困ることもない」
「そうですわね。それにそうすればどれがいちばん素敵なお手洗いか、わかるはずですもの。ピックはどう思いますの?」
「うんっ、ボクもさんせーいっ」
 実は、3人の姉妹たちはこれまでにも何度か、トイレの順番を待っている間に我慢しきれず、オモラシをしてしまうことがあったのでした。さすがに一番お姉さんのポーは、ちょびっとだけチビってしまうくらいでなんとか乗り越えていましたが、キィはこれまでにもなんどか失敗してしまっていましたし、ピックに至ってはそれこそ、大失敗も両手の指に余るほどです。
 と言うわけで、みんなが自分専用のトイレを持てるというのは大歓迎なのでした。
 3人はそれから1週間かけて、それぞれにおトイレを作りました。
 ピックのトイレは藁でできていました。きちんと回りからは見えないようになっているのに、いつでも風通しが良くて、トイレに座ってオシッコを済ませているときでもとても爽やかです。
 キィのトイレは木でできていました。スカートと下着を下ろしてしゃがみ込んでいる時でも森の木々の匂いがほんのりと香り、とても心地よくお手洗いを済ますことができました。
 そしてポーのトイレは頑丈なレンガでできていました。びっしりとセメントで固められた分厚い壁は、おしっこの匂いや音を外に漏らさないため、いつトイレを済ませたのかを気付かれない素敵な工夫でした。さらに、窓もなく入り口は一つだけ。これなら絶対に外からのぞかれる心配もありません。
「どう!? ボクのおトイレ、スゴイでしょ!?」
「あら、わたくしのお手洗いが一番素敵ですわ!!」
「いやいや、私のものがもっとも優れているとも」
 3人はぞれぞれ自分のトイレの素晴らしい場所を自慢しあいます。けれど、どれが一番すごいトイレなのかについてはポーも、キィも、ピックも譲りませんでした。仕方なく3人はそれぞれのトイレを自分の専用として使うようになったのでした。





 3人の姉妹がそれぞれのトイレを使うようになって、一週間が過ぎました。
 その日は、季節外れの分厚い雲の下でごうごうと風が吹いている、嫌な天気の日でした。
「……これは、今夜は嵐になるな」
「そうですわね……でも、きっと大丈夫ですわよ。お家もちゃんと倒れないように補強もしましたし、ご飯もお水もたっぷり用意してありますもの」
「うんっ、みんなで頑張ったもんねっ」
 3人は笑いあって、夕飯の準備をはじめました。
 今日の夕飯は、羊のおじいさんから買った南の国の香辛料をたっぷりきかせた特性の野菜炒めです。料理当番のキィの味付けは少し辛かったのですが、とても美味しかったのでみんなは何度もお代わりをしてしまいました。
「そろそろ風が出てきた……今日は早く寝るとしようか」
「ピック、寂しかったら一緒に寝てあげてもいいですわよ?」
「へーきだよ。ボク、ひとりで眠れるもんっ。キィお姉ちゃんこそ怖いんじゃないの?」
「な、ち、違いますわよっ!!」
「二人とも、遊んでないでしっかり寝たほうがいいぞ。明日は庭の片付けをしなければいけないしな。……今日は3人で一緒に寝よう」
「わかりましたわ、お姉さま」
「はーいっ!!」
 ポーの提案で、3人はベッドに入ります。がたがたと窓枠が揺れて、ぎしぎし屋根が軋みましたが――3人でぎゅっと身体を寄せあっていれば怖いことはありませんでした。やがて、ごうごうという風の中で、3人はゆっくり眠りに落ちていったのです。





 さて、その夜中、一番最初に目を覚ましたのは、末っ子のピックでした。
 夕飯の野菜炒めを食べる時に水を飲みすぎて、朝にならないうちにおしっこが我慢できなくなるほどトイレにいきたくなってしまったのです。
「……お姉ちゃん、キィお姉ちゃんってば……」
「……もぅ、なんですのピック……? ふわぁ……まだ夜中じゃありませんの……静かにしてくださいまし」
 ごろんと寝返りを打つキィを揺り動かして、ピックは困った顔をします。
 吹き付ける風がごうごうと唸っているのが、まるで怪物の叫び声のように聞こえました。
「ねえ、お姉ちゃんっ……起きてよっ……」
「もう、一体なんですの……?」
「あ、あのね、その……ボク……おトイレ……」
「もう……そんなの一人でできるでしょう?」
「で、でもぉ……」
 確かにいつもなら、ピックも一人トイレに行けるのですが、今日ばかりは外に出ていくのが怖かったのです。
「……仕方ないですわね……今日だけですわよ?」
「う、うんっ」
 はじめは面倒くさがっていたキィでしたが、気付けば自分もとてもとてもオシッコに行きたくなっていたこと気付いて、一緒にベッドを降りることにしました。
 すると、ポーも目を覚まして起き上がります。
「なんだ、ふたりともトイレなのか?」
「え、ええ。ひょっとして、お姉さまも、ですの?」
「……まあ、ね。まったく、みんな揃って少しばかり水を飲みすぎたな。……うぅっ」
「そ、そうですわね……んんっ」
「は、はやく、行こうよっ……ポーお姉ちゃん、キィお姉ちゃんっ……」
 実はポーもいまもにも漏れてしまいそうなくらい我慢しているのです。目は覚めていたのですが、なんとなくベッドを抜けだせないまま悶々としていたのでした。
 結局、3人は揃っておトイレに行くことになりました。
 こういう時、それぞれにおトイレがあるのはとても便利です。
「ピック、気を付けろよ。暗いからな」
「う、うん……」
「お姉さま、わたくしも……その、あんまり」
「あ、ああ」
 かたく閉めていたドアを開けるとごうごうと唸る風が聞こえてきます。幸いなことに雨は降っていませんでしたが、暗い嵐の中にざわめく突風は、いまにも家を薙ぎ倒してしまいそうに思えました。
 3人は足早に家を出て、それぞれのトイレに向かいます。
 ピックは藁のトイレに。キィは木のトイレに。そしてポーはレンガのトイレに。





「おしっこ、おしっこ……っ」
 ピックはパジャマの前をぎゅっと押さえながら、大急ぎで自分のおトイレに走っていきました。こんなこともあろうかと、ピックのおトイレは家から一番近い場所に作ってあるのです。夜中に怖い思いをしないようにしたためですが、一分一秒でも早くトイレに行きたくなっていたピックには幸いでした。
 びゅうびゅうと吹き付ける風にバランスを崩しそうになりながら、ピックはなんとか藁のトイレに到着します。鍵をかけるのももどかしくドアを閉め、ピックはほっとしながらパンツと一緒にパジャマを脱ごうとしました。
 その時です。
 突然強く吹き付けた風が、藁のトイレを直撃しました。
「わ……わぁああっ!?」
 吹き飛ばされそうになって、慌てて床にしがみ付くピック。けれどそんなことお構いなしに、嵐の巻き起こした暴風は藁のトイレをなぎ倒しました。
 なんと、ピックがトイレに座る間もなく、藁のトイレはこなごなになって吹き飛ばされてしまったのです。
「ぁ、や、やだっ、ダメぇええっ!!」
 もうすっかりオシッコをするつもりでいたピックでしたが、そのトイレがなくなってしまってはそのまましてしまうわけにも行きません。なにしろいまやトイレを囲む壁も屋根もなくなって、まるっきりお外でオシッコをするのと同じ格好なのです。
 いくらピックが小さくても、女の子にそんなことができるはずもありません。
 ピックはぎゅうっとパンツを引っ張り上げ、きちんとおしりも隠せていないまま大急ぎで走りだしました。
「で、でちゃう、でちゃううぅ…っ!!!」
 まっすぐにピックが目指したのは、ポーの作った木のおトイレでした。





「ピック? ど、どうしましたの?」
 キィは自分専用の木のトイレのドアの前にいました。あとほんの数秒でパンツを下ろしてオシッコを始めるところでしたが、血相を変えて駆けてきたピックに思わず手を止めてしまいます。
「お、お姉ちゃんっ、トイレ、おトイレ貸してっ!!」
「えぇ!? ど、どうしてですの!? ピックにはちゃんと自分のお手洗いがあるじゃありませんの!!」
「だ、だって、今、すっごい風がびゅうって吹き飛ばしちゃって……お、おトイレなくなっちゃんたんだもんっ!!」
 半脱ぎのままのパジャマから、可愛いおしりを覗かせながら。足の間をぎゅうっと握り締めて足踏みをするピックの姿は、見ているだけでオシッコが我慢できなくなりそうです。
「お願い、お姉ちゃん、ボクに先に、おしっこさせてよぅ!!」
「そ、そんな……待ってくださいまし、わ、わたくしだってもう我慢できませんのに……!! ぴ、ピック、やめて!! 離しなさいなっ!!」
 二人してドアノブを取りあいながら、キィとピックは言い争いをはじめてしまいます。もうほとんど余裕がなく、何分も我慢できそうにないふたりにとって、どっちが先にオシッコをするかというのは、負けてしまったほうがオモラシをしてしまうのと同じ意味なのです。
「と、とにかく――いくらピックでも、これだけは譲ってあげられませんの!!」
「やだぁ!! お姉ちゃあんっ!! い、いじわるしないでぇーーっ!!」
 キィは叫びますが、ピックだってこればかりは譲れません。トイレの目の前でオモラシだなんて、絶対にあってはならないことでした。
 とうとうピックは、キィのおなかをちょこんとつつき、キィが『ひあぁんっ!?』と悲鳴を上げて腰をくねらせた隙に、姉の脇を擦り抜けて木のトイレのドアを開け放ちます。
「ボ、ボクが先だよっ!!」
「ぅ、ぴ、ピック、ずるいですわよっ!?」
「お、オシッコ……でちゃうぅ!!」
 今にも漏れそうなオシッコを抱えてトイレに駆け込んだピックでしたが、そこには予想外の光景が広がっていました。
「え……?」
 ドアも閉めず、トイレの中で呆然と立ち尽くすピックに、キィは声をかけます。
「ピック……? ど、どうしましたの?」
「な、なにこれ、お姉ちゃん……ここ、どうやってオシッコするの!?」
「どうやってって……そっ、そんなの、しゃがんで……するに決まっているじゃありませんの!! も、もう、いいですから早く済ませてくださいまし!!」
「そんな……そんなの、できないよぅ!! ボ、ボク、しゃがんでオシッコなんてできないっ!!」
「え、えええ!?」
 これにはキィも驚きます。
 なんと、キィの作った木のトイレの構造は、ピックの作った藁のトイレとは全然違っていたのです。産まれてから、トイレといえば座ってオシッコをするところだと思い込んでいたピックは、キィが図書館で本を調べて作った、しゃがんでオシッコを済ますトイレのことを知らなかったのでした。
「キィお姉ちゃん……っ……や、やだ、出ちゃう、ボク、おしっこ出ちゃう!! ど、どうしよう……っ」
「どうって……そんなの、わたくしに言われても困りますわよっ……!! は、早く代わってくださいまし!!」
 ピックがオシッコをしないとわかって、キィもたまらずに木のトイレの中に駆け込みました。おろおろするばかりのピックを脇に、キィはトイレをまたいでしゃがみ込み、オシッコの準備を始めます。
 その瞬間、また、あのごうごうというすごい風がやってきます。
「きゃぁああああ?!」
 叩き付けるように吹き付けた風は、開けっぱなしのドアの中から一気にトイレの中を吹き抜けてゆきます。
 突風の後には、キィの木のトイレも影も形もなく、すっかり吹き飛ばされていました。
「い、いやぁあああああっ!!!?」
 おしりをまる出しにしたキィが、いままさにオシッコをせんばかりの姿のまま凍りつき、悲鳴を上げました。





「ふぅ……間に合ったか……」
 家から一番遠いところにあるレンガのトイレで、ポーはひとりこっそりと溜息をつきます。一番のお姉さんであるポーは、年頃の女の子として、トイレに行くことも恥ずかしくてたまらないのでした。そのため、できるだけトイレを遠い場所に作り、トイレを使っているのに気付かれないような工夫をしていたのです。
 自分がトイレを使うことすら恥ずかしいと思うポーには、ためらいなくトイレのことを口にできるキィやピックが、うらやましくもあり、少しはしたなくも思えるのでした。
「……さて」
 ポーが厳重にかけた南京錠を、胸に下げた鍵で開けていた時でした。
「お、姉ちゃんッ……!!」
「お姉さまぁ……!!」
 一目散に駆けてくる妹達に、ポーはなにごとかと目を見開きました。
「な、なんだ?! どうした、二人とも!?」
「ぅぅ……」
「はぅ…っくぅ」
 ポーの質問に答えることもできず、ピックとキィは閉じ合わせた足の間にぎゅうぎゅうと両手を押しこんで、足の間を握り締めています。あまりにあけすけなオシッコ我慢のしぐさに、ポーは顔が赤くなるのを感じてしまいます。
「お、お……おトイレ…ぇ」
「が、我慢できませんのっ……お姉さま、お願い、さ、先に、わたくしに、お手洗いを使わせてくださいまし……!!」
「ず、ずるいよお姉ちゃん、ボクが先……っ!!」
 先を争ってトイレをねだる二人に、ただ事ではないことを悟ったポーでしたが、ポーだっていままさに決死の我慢のまっただなかです。
「ちょ、ちょっと待て、ふたりとも、自分のトイレは……うわぁッ!?」
 聞き返そうとした瞬間、ポーは飛びついてきた二人の妹に押し倒されてしまいます。オモラシの惨劇を避けるため、厳重なドアの向こう、レンガの壁の奥にあるオシッコのための場所に入ろうと、二人はまさに必死なのでした。
「お姉さま……ぁ!!」
「だ、ダメ、オシッコ……漏れちゃうっ!!」
「ま、待て!! このトイレは一人用だ!! い、一緒に入るのは無理だぞ!? ふたりとも、わがままを言うんじゃないっ!!」
「ダメ……入れてぇ……」
「ボ、ボク、もう、げんかいっ……」
「わああああっ!?」
 キィとピックは二人がかりでドアを無理やりこじあけると、ポーがまさに使おうとしていたトイレに押し入ります。ポーも黙ってはいられません。ひとつしかないトイレを真っ先に使おうと、3人はもつれ合いながらパジャマを脱ごうとしました。
「出、ちゃうう……!! お、ねえちゃ、ボ、ボク、一番最初だよっ!! 」
「わたくしが、さ、先ですわよっ!! ピック、あなた、つい最近までオモラシしてたじゃありませんのっ……、も、もう一回くらい、別にいいでしょうにッ!?」
「や、やだぁ!! ボクもうオモラシしないもんっ!! お、お姉ちゃんこそ……が、我慢すればいいんだよぅ!!」
「うぁ……だ、ダメだ、ふ、ふたりとも、離してくれッ!!」
「お、お姉さま!! そうですわ、お姉さまが、い、いちばんお姉さんなんですから、わたくしたちに譲ってくださいませんの!?」
「そ、そんな、無茶を言うな!? こ、ここは私のトイレだぞッ!? あ、ま、待て、ど、どこを触って…ッ!!」
「ボ、ボクもうガマンできないっ、出ちゃう、出ちゃうよぉ!!」
「…うくぅ…っ!! ピック、待ちなさい!! ……いちばん、が、ガマンしてるの、わたくしですのにぃッ……!!」
「そ、それは私だって同じだッ!!」
「ボ、ボクだってぇ……!!」
 やっぱり、3人の一番は決まりません。
 けれど、どれだけ仲良しの3人姉妹でも、そこは一人用のトイレです。3人が一緒にオシッコできるようには、もちろんなっていませんでした。





「う、うううぅ……っ」
「ひっく……ひっく……」
「うわぁーーんっ……」
 頑丈なレンガの壁に囲まれて、とうとう嵐の中でもレンガのトイレは無事でした。
 けれど、朝になって3人が泣きながらトイレから出てきた時には、姉妹のパジャマは3人とも揃って見るも無残にぐっしょり濡れてしまっていました。
「わた、私、がっ、……い、一番……お姉さんなのに……オモラシなんて……」
「も、もう……お嫁に、いけませんわよぉ……っ バカ、お姉さまのバカぁ……」
「ボ、ボク、もうオモラシなんか卒業したのに……うわぁーーーんっ!!」
 ぴかぴかなままのレンガのトイレと、それとは対照的に水浸しの床。そしていつまでも泣き止まずにいる3人を、ゆっくりと嵐の後の朝日が出迎えてくれるのでした。
 

 ――めでたし、めでたし。



 (初出:おもらし特区 SS図書館 2008/1/24)
[ 2008/02/17 18:35 ] WetMarchen | トラックバック(-) | コメント(-)

裁判風味な。 


「つまり、被告――北条ユキさんは、藤宮邸の来賓室の中に敷かれた絨毯が時価数億円にものぼる高価な品であることを知りながら、下着を下ろし排泄行為に及ぼうとしたもので、これは明らかに屋敷の所有者である藤宮健之助氏の所有する財産を損壊せしめる意図があったことは明白であります。例え未遂とは言え中学2年生という年齢はこれらの行為がいかなる結果をもたらすものかを判断するには十分であり、邸内に4ヶ所ものトイレがあるにも関わらず子のような行為に及んだことに酌量の余地はないものと考えられます」


「異議あり!! 検察官、当日、北条ユキさんは藤宮氏の自宅を訪問していたとおっしゃいましたね。そこでこちらの記録を見ていただきたい。藤宮邸の管理は管理人・鈴代氏に任されており、規則正しい巡回と施錠の確認を行なっています。
 先程申し上げました通り、当日、急な訪問であった北条さんの来訪は使用人の栄氏によって直接藤宮氏に取り次がれており、鈴代氏は北条さんの来訪を知らなかった。このことは証言からも明らかです。
 そのため――この通り、北条さんが来賓室に通されてから5分後に、鈴代氏は外から確認を行ない、来賓室が空室であると勘違いし施錠をしてしまった。中に北条さんが取り残されているにもかかわらず、です。
 当時、北条さんはかなり強い尿意を感じていました。そこからさらに発見までの3時間を来賓室で過ごさなければならなかったのです。トイレもない部屋で長時間の我慢を強いられた北条さんが、ついに辛抱しきれずに排泄行為に及んだとしても何ら不思議はありません」


「なるほど。弁護人の言うことももっともです。一見そう聞こえますね。
 ……しかしこちらをご覧ください。来賓室にはこのように、花瓶、灰皿、植木鉢、最低でも3つの容器――排泄を行なうに値する容器がありました。北条さんは以前にも何度も藤宮邸を訪れ、この来賓室に敷かれている絨毯が大変高価なものであることを知っています。それを汚してしまうことを回避する手段は残されていました。にも関わらずそれを放棄したのは、やはり何らかの意図があったことを考えざるを得ません。思春期の少女にとって、床を汚すことは大変な恥辱です。ならばこのような容器を用い排泄した液体を隠そうとするのは至極当然の発想ではありませんか? それなのに被告はそのための努力を怠った!! これは間違いなく藤宮氏の財産を傷付ける目的があったことの証左に他ならない!!」


「ふむ。では実際に検証してみましょう。こちらに当日藤宮邸の来賓室にあった三つの容器、それと同じものを用意いたしました。いずれも事前に計量を終えています。結果、この通り――灰皿の容量は450cc、花瓶の容量は740cc、そして植木鉢に注がれた水が保水力の限界に達するのは約400ccを越えた時点でした。
 確かにこれならば検察官の主張も一見正しいように思えます。しかし、当時の北条さんが我慢していた量が、これよりも遥かに多かったとしたら?」


「異議あり。それこそ詭弁です! 平均的な13歳の少女の膀胱容量が400ccを上回る事はありえない!!」


「それはあくまで一般論です。水分を摂取し、限界まで我慢して頂いた時の北条さんの膀胱の容量は、700ccを越えるのです。こちらに市内の病院による検尿結果の診断書もあります。……検察官はご存知ないようですが、このような現象は貴婦人の膀胱と呼ばれるものでしてね。中世の婦人は慎みと嗜みのため、排泄を行なわないことこそが美徳とされていた。それゆえに日常的に我慢を強いられた女性に見られるものです。
 先ほど検察官もおっしゃいましたね。北条さんは極めて羞恥身の強い方です。日常的に排泄を控えていたとしても何の不思議もない!! そして日常的ゆえ、北条さんはそれを自分の身体のしくみとしてはっきりと知っていた!! ならばこれら三つの容器では排泄した尿が全て納まりきらないことも容易に想像が付いたのです!!」


「弁護人!! だが、花瓶はそれよりも多いとさっきの証拠の検分にありましたね!! そう、740cc。これならば被告は十分に排泄した尿を納めることが可能のはずだ!! ならば被告にはその意思がなかったことを自ら認めています!!」


「ええ。ですが、ようくお考えください。花瓶は空で使うものですか? 違います。切花を飾るためのものです。そして当時、藤宮邸の来賓室の花瓶には、花が活けてありました。当然、花瓶には花が枯れないだけの水が満たされ、花瓶の実質的な容量は400ccよりも遥かに少ない。つまり、来賓室には北条さんが完全に排泄をし終えるだけの容器はどこにも存在していなかったのです!!」


「待ってください!! それならば二つの容器を使えばいい!! それならば被告は最後まで排泄をすることが可能だったはず!!」


「検察官は少女の排泄の仕組みをご存知ないようです。成人男性のそれと違い、思春期の少女の括約筋は非常に繊細で、か細い。彼女たちの排泄は一度始まってしまえば途中で中断する事は不可能に近いのです。半分を灰皿に済まし、即座にもうひとつの容器に残りを排泄する――言葉にすれば単純ですが、尿意の限界で切羽詰った少女に、それをせよというのは保護法の観点上からも酷な話ではありませんか?
 以上より、弁護側は北条さんが藤宮邸で排泄行為に及ぼうとしてしまった事は決して害意によるものではなく、もはや最後の限界だった尿意にせかされての緊急避難的措置だったものと主張します」


「異議あり!! それは未必の故意だ!! 被告が来賓室の調度品の価値を知っていたことは事実です!! それなのに邸内で排泄行為に及ぼうとしたこと自体が、十分に悪意をもったものです!!」


「異議あり。弁護側は、北条さんが決して最終的な排泄行為を目的としていなかったことを主張します。あれは擬似的な排泄行為を真似ることで、少しでも尿意を和らげることを目的としたものだったのです」


「馬鹿な、でたらめにも程がある!! 弁護側はありもしない仮定を元に弁護を行なっています!! いや、百歩譲ってそんな仮定が成り立ったとしても、ならば下着をおろす必要がない!!」


「軽い失禁状態などで、下着に被害があった場合は? 限界に近い尿意を感じていながら、その上濡れた下着を身に付けたままではさらに下半身を冷やし、尿意を加速させるであろうことは明らかです。なによりも、発見当時北条さんは排泄行為そのものには及んでいなかった!!」


「異議あり! 弁護側は明らかに不当な事実をもって被告を弁護しようとしています!! 不確定な事実をもって論ずることは意味がなく、まさしく机上の空論です!! だいたい、少女である被告の膀胱容量がそのような膨大なものであるはずがない!!」


「ふむ。それではここで改めて検証のお時間を頂いてもよろしいでしょうか?
 先ほどから被告に落ち付きがないのは法廷内の皆様もお気づきのことと思います。そう。いま被告の北条ユカさんには限界まで水分を摂取し12時間排泄を控えていただいております。ここで実際に計測していただきましょう!!」



 (初出:書き下ろし 2008/02/17)
[ 2008/02/17 18:30 ] 小ネタ | トラックバック(-) | コメント(-)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。