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公爵令嬢のお話・1 

 森深き街道を馬車が行く。
 1頭立ての貧相な乗り合い馬車ではない。4頭立ての馬は全て毛並みのいい白馬、操る御者も正装の従僕服である。車体を飾る豪勢な装飾の中央には鷲と獅子を組み合わせた紋章が押され、この地を治めるジルベレット方伯の名に連なる高家の所有であることを明らかにしていた。
 かなりの速度を出していながら激しく揺れることがないことからも、仕立ての上等さや馬や御者の腕が飛び抜けていることは確かであり、馬車が乗っているのが余程の高貴な人物であろうこうとを予想させる。
 そして事実、後ろの席に座るのはその扱いを受けるに足る存在であった。
 上等なびろうど張りのクッションに腰掛け、広い車内にたった一人俯くのは、純白のドレスに身を包んだ幼い少女である。
 初々しさと共に無垢な純潔を象徴する白のシルク。スカートを覆うクリノリン。まだ十代の半ばを迎えていないであろうほっそりした身体の魅力を十二分に引き出したドレスは、長い手袋と控えめなティアラを備えて少女を飾っている。
 そしてそんなドレスにも負けぬほど、少女は美しかった。透き通るような白い肌に整った顔立ち。金の糸を梳いたような流れるブロンドは、エルフを思わせるほどに長く、水色のリボンで緩く編まれてクッションの上に滝のようにこぼれている。
 翡翠のごとき深く澄んだ瞳は、長いまつげの下で憂いがちに伏せられ、触れれば壊れてしまいそうな儚さを覗かせていた。どこか硬い表情は、それでも少女の美しさを決して損なうことなく、一目見た者の心を奪わんばかりであった。
 リタニア現国王の叔父にあたるジルベレット方伯ディオンの一人娘――リミエルを乗せた馬車は、方伯領郊外の田舎道をひた走る。
 力強く響く蹄のリズムを聞きながら、幼い令嬢は物憂げな瞳で窓の外を見つめていた。
(……ああ……)
 せわしなく鼓動を刻む胸をそっと抑え、桜色のくちびるがきゅっと引き結ばれる。
 そっと耳の後ろに伸ばされた指先が、乱れ一つない金髪の先を弄ぶ。
 そわそわと落ち着きのない様子で、美しき令嬢はは何度も馬車の窓から外の様子を窺う。鬱蒼と茂る森はなお暗く、いつまで経っても途切れることはなかった。
 森を横断する街道に入ってからもうどれ程経ったものか、リミエルは憂鬱な溜息と共に焦れる気持ちを抑え続けていた。
(はやく……)
 馬車の速度は、幼き令嬢の心地よさと安全を見極めた上での最高のものに近い。しかしそれでもなお、リミエルにはあまりに遅く、じれったいものに感じられていた。
「……っ、ふ……っ」
 小さな吐息がこぼれ、熱っぽく桜色の唇を湿らせた。もぞり、と軽く背中を揺らし、少女の手のひらは揃えられた膝の上できゅっと握られる。こくり、と音を立て、令嬢の細い喉が緊張を飲み込んでゆく。
 俯いた視線は絨毯の上に落ち、もどかしくも落ち着きなく揺れていた。
(……はやく、っ)
 衝き動かされるように、リミエルの焦りは増してゆく。しかし、ひた走る馬車をこれ以上急かすことができるはずもなく、公爵令嬢はただ、じっと強張った表情の内側で焦燥を噛み締めるしかなかった。
 手袋の下で汗ばんだ手を握り締めて、リミエルは再度、窓の外に視線を泳がせた。
 幾重にも重なった木々の枝の向こうには、僅かに橙色の夕日が覗いている。傾いた太陽が山の稜線にさしかからんとしている時刻、あたりには緩やかに夕闇が迫りつつあった。
 穏やかな夕暮れ。誰もが一日を終えてゆっくりと明日に思いを馳せるであろう、今日の終わり。
 だが、それでも少女の気は紛れない。むしろ遅い午後の日差しを浴びて穏やかに流れてゆく景色は、リミエルの気をいっそう焦らせていた。
 ドレスのスカートから覗く、かかとの高い小さな靴が、せわしなく絨毯の敷かれた床を叩く。
 時折、少女が身を強張らせて俯くと、爪先は揃えられてなにかを耐えるようにぐっと床に押し付けられる。
 びくっと緊張した脚は二度、三度と小さく震え――数十秒硬直しては、やがて小さな脱力と共に元に戻る。
 だが、安堵の時間もそう長くはない。再び小刻みに震え出す爪先は、いつしかこつこつ、と小さく床を叩き出していた。
(はやくして……、が、がまん……できなくなっちゃう……っ)
 小さく揺れる馬車の中。
 幼き令嬢を襲う尿意は、切なくも激しく高まり続け、いよいよその勢いを増しつつあった。





 ざわざわと下腹を撫で上げてゆく尿意――腰奥をむず痒くくすぐるそれは、刷毛で素肌をなぞられているかのよう。ぎゅっと閉じ合わされた内腿を小さく揺すりながら、リミエルは切なげに溜息を繰り返す。
「んッ……」
 形の良い眉がきゅっと寄せ合わされ、小さな唇がそっと噛み締められる。思わずこぼれそうになる小さな叫びを飲み込んで、リミエルはドレスの上で小さな手のひらを握り締める。
 下腹部で渦巻く下品な衝動――恥ずかしい熱湯で満たされた乙女の秘密のティーポットは、いまやその存在をはっきりと感じ取れるほどに存在感を増している。苦痛からの解放を求めて暴れようとする小さな入れ物をなだめるため、リミエルはそっと手のひらをドレスのおなかに添えた。
 まるで石のように硬い手ごたえが、手袋ごしにはっきりと伝わってくる。
 純白のドレスに包まれた幼い肢体は、その内部に恥ずかしい液体をなみなみと湛えて、今もひくひくと震えているのだった。
「……っっ…」
 がこっ。馬車が轍に乗り上げて上下する。些細な振動はそのまま令嬢の中に蓄えられた禁断の水面をちゃぷちゃぷと揺らし、ますます幼い令嬢を小さく身悶えさせた。
 リミエルの下腹部は、今朝からいちども排泄を許されないまま我慢し続けていた液体でぱんぱんに膨れ上がっている。少しでも気を抜けばはちきれてしまいそうな欲求に、先程から自覚できるほどに女の子の部分が伸び縮みを繰り返している。
(ああっ……だめ……っ……)
 もはや『我慢の限界』を感じてから既に半刻あまり。乙女の体内の秘密のティーポットをじわじわと高まる尿意で焙られ続け、リミエルはぐったりと疲れ切っていた。
 昨日の会食で従姉妹のジュリエッタお抱えの料理番によって披露された、隣領ネザーランドの地方料理。南方産の香辛料をふんだんに用いたスープを、はしたなくも3杯もお代わりした代償に、リミエルは無性に喉の渇きを覚え、ついつい何杯も喉を潤す木苺のジュースを口にしてしまっていたのである。
 出立の間際のお茶会でも、リミエルはすでに耐え難い尿意を覚えていた。いつもなら美味しい美味しいと口にするタルトも半分残し、一刻も早くその場を辞したい思いで一杯だったのだ。
 が、令嬢たるものが他家を出る直前にトイレを借りていくなど許されるはずもない。後ろ髪を引かれる思いで城を後にしたリミエルは、震えそうになる膝を押し隠し、馬車を走らせた。
 だが――耐えに耐え続けた我慢も、いよいよ切羽詰ってきている。
 公爵令嬢は縋るようにもう一度、窓の外に視線を巡らせた。無論の事ながらほんの数分で景色が変わるはずもなく、いまだ馬車は深き森の中だ。まだ目的地は遠く、その影も形も見えない。
(こんな……こんなところで……お粗相なんて……)
 リミエルは恐ろしい想像にぶるりと身を震わせる。それは貴族令嬢ならずとも、少女にとって最大の恥辱である。幼くとも淑女であるリミエルにとって、決して許されぬ醜聞であった。だが、少女の身体の扉は内側から熱い液体の圧力によって執拗にノックされ、溜め込んだモノを解き放てと訴えてくる。
 公爵令嬢は、そっと下腹部に触れて、自分自身が作り出した恥ずかしい熱湯をなみなみとたたえた秘密のティーポットの存在を確かめる。貴族令嬢として躾けられた厳粛な礼儀作法によって、少女のティーポットの容量は同年代の庶民の少女に比べても驚くほどに多い。
 そも、この国の王宮などではトイレがないことなどざらなのだ。高貴な人間は穢れとは無縁であり、貴族の子女などはトイレが遠ければ遠いほど慎み深いとされていた。爵位を持つ名家もそれに習い、滅多にトイレを作らないのが慣例である。
 しかし――いくら我慢に慣れた令嬢といえども、それにも限界というものはある。そして、いざ耐えられる容積がなまじ多いゆえに、限界が近づくとそのときの苦痛の並大抵のものではなかった。文字通り、下腹部の中で存在を誇示するほどにずっしりと膨らんだ膀胱が、ちりちりと焦げるように内臓を圧迫し、その重さを直接排泄孔に押し付けてくるのである。
 いまにもぷくりと膨らみそうになる排泄孔を意志の力できつく締め付けて、リミエルは荒くなり始めた息を整えようと深呼吸を試みた。少しでも楽な息を探して、試行錯誤を繰り返す。
 ドレスの細い身体は心持ち折り曲げられ、ぴんと床に突っ張った爪先は、浅く腰掛けたお尻をクッションの上に押し付ける。腰を小刻みに揺すり、幼い令嬢は座席の上ではしたなく身体をよじらせた。
(――ぁ、や……ダメ、ぇ……っ!?)
 不意に――穏やかだった水面に緊張が走った。
 ぞわりと波のように引いては押し返す衝動が、前触れもなくもっとも繊細な部分に押し寄せてくる。
「ぁ……んぅぅっ……!!」
 高貴な振る舞いも淑女のたしなみも忘れ、リミエルはたまらず脚の付け根に手のひらを押しつけた。ドレスの膨らみをくしゃりと握り締め、ぴったりと閉ざされた脚の隙間に押し付けられた手が、硬く張り詰めた下腹部をぎゅうっと押さえる。
 じんっ、と甘い痺れが腰骨を走り抜ける。かかとが浮かび、爪先が床を擦る。震えていた両膝は硬く緊張し、硬直して重ね合わされ、身体の奥でびく、びく、と震える衝撃に耐える。
 下着に覆われた股間では括約筋が痙攣せんばかりに引き絞られ、吹き出しそうになる熱い奔流を塞き止める。出口のないティーポットに閉じ込められた液体が、行き場をなくしてこぽこぽと渦を巻いた。
「ぁ、ふぅ…ぅッ、っは……っ、くぅうっ……」
 それに追い討ちをかけるかのごとく迫る、馬車が道の荒れた部分に差し掛かった。クッション程度では吸収しきれない振動が馬車を小刻みに揺らし、繊細な乙女のティーポットを容赦なく撹拌する。
(が、がまん、ガマンっ、我慢、がまんっ……!!!)
 熱い塊を飲み込んだように重い下腹部が、わずかな痛みとともにじんじんと疼く。
 今にも沸騰して爆発しそうになるティーポットを必死になってなだめ、おしりを小刻みに動かし、腿を絶え間なく擦り合わせて――リミエルは息をつめ切ない喘ぎを繰り返し、股間を蹂躙する排尿感に抵抗し続けた。





 どれほどそうしていたか。やがて、波立っていた水面がわずかにおさまってゆく。
「っ、はぁ……」
(っ、お、おさまった……みたい……)
 せり上がってきた尿意を押さえ込み、ひとまず勝ち取った勝利の合間、リミエルは訪れたわずかな安堵の時間に小さく息を吐いた。
 今なお水面は上昇を続け、不穏に小さく小波を立てていたが――形振りかまわず我慢しなくとも、なんとか耐えられるレベルに落ち着いたのだ。
 だが――そう間をおかず、次の波がやってくるのは火を見るよりも明らかだった。
 城に辿り着くまでに、あと何回――今のような危機がやってくるのだろう。たとえ1回か2回はなんとなかったとしても、それ以上こらえ続ける自信は、リミエルにはなかった。
 城まで間に合わないのであれば、どこかで用を足すしかない。
(でも……)
 少女の白磁のような肌には朱が差し、柔らかな頬と耳を染める。
 まもなく夕刻。暗くなる前に戻らなければ父は不安に思うだろうし、そうなれば何故そんなにも遅くなったかを問われるのは間違いない。
(ジルベレット公の娘が、おしっこ、我慢できなくなって馬車を止めたなんて……そ、そんなの言えるわけ……ない、です……っ)
 ここは人の近づかぬ深い森だ。旅人も滅多に立ち寄らぬ古い街道沿いには馬車を止められるような場所はなく、まして公爵令嬢が用を足せるようなご不浄はどこにも見当たらない。こんな場所で急に馬車を止めれば、一体何事かと思われるのは避けられないだろう。
 馬に鞭をくれる御者の背中をそっと見、リミエルは緊張に身を硬くする。純朴そうな青年の御者は、リミエルが何を命じようと素直に従うだろう。だが彼も愚鈍ではなく、リミエルが茂みの奥に姿を消せばその意味を察しないはずがない。
 だが、自然の摂理に反する行いを嘲笑うかのように、尿意は跳ねあがるように高まり幼い令嬢の身体を襲う。
(や、やだぁっ……)
 御者台で馬車を操る青年の目を意識し、リミエルの頬がさらに紅く染まる。
 と、その時。
「お嬢様」
「は、はぃっ!?」
 不意に御者台から声をかけられ、リミエルは心臓が口から飛び出さんばかりに驚いた。
「申し訳ありません、少し揺れます」
 訥々と、誠実な声音で事務的なことだけを告げる御者の青年――しかし、一旦意識してしまったリミエルには、彼ははっきりと異性として認識されてしまう。
「っ、や……ッ」
 羞恥心に刺激され、緊張した下腹部から尿意が沸き起こった。馬車の揺れも手伝ってたちまち増幅した尿意は、もどかしいむず痒さを伴って排泄孔を刺激し、熱い衝撃がぱんぱんに膨らんだ膀胱を、熱い砂が詰まったように錯覚させる。じんじんと高まる水圧は内臓を圧迫し、身じろぎするたびに鈍い疼痛とちくちくと細い針を突き刺すような切なさを訴えた。
「お嬢様? どうかなさいましたか?」
 聡い御者はすぐに主人の異常を感じ取った。褒められるべき青年御者の察しの良であるが、リミエルにしてみれば憎らしいほどである。
「な……なんでもっ……なんでもありませんっ……」
 馬車の振動によって掻き回される繊細な乙女のティーポット必死に庇いながら、リミエルは辛うじて平静を取り繕い、声を絞り出した。
「なんでも、ないですから……す、すこし驚いただけです……」
 どう見ても全く大丈夫とは言えない青ざめた顔と、せわしなく擦り合わされる足元。リミエルが虚勢を張っていることは明らかだった。
(は、恥ずかしい……っ、足、動いちゃうっ……見ないでっ……)
 御者の青年は椅子の上で小さくなる彼女を見、はっと何かに気付いたように視線を反らす。
 そして御者は躊躇わず鞭を振るい、馬車を減速させにかかる。馬がいななき、揺れが大きくなって車軸が軋む。
「っ……!?」
 御者の行いに、リミエルもその気配を感じ取った。
(ぁ、あ……やだ、気付かれちゃった……っ、ぉ…しっこ……したいの、ガマンしてるの、き、気付かれちゃった……!!)
「お嬢様」
「ち、違いますっ!! その、そんな――わたし、全然っ、が、がまんなんかしてないですっ!!! ちょ、ちょっと、暑くて、あ、そう、汗……汗ですからねっ」
 猛烈な羞恥と動揺から、思わず語気を荒げて叫んでしまうリミエル。
 そう誤魔化しながら震える膝を抑えこもうとするが、間断的に襲い来るま尿意の波を誤魔化し切ることなどできるはずもない。
「――以前、耳にしたことがありますが、この森の近くに大層珍しい花が群生しているそうです。お嬢様が手づからお摘みになってお持ちになったとなれば、御主人様もお喜びになられるでしょう」
 朝からずっと、おしっこを我慢しながら――貴族であること、少女であることのプライドゆえに、なによりも渇望する「トイレ」の一言が言い出せないでいる。傍から見ればとても滑稽な、羞恥と生命活動の袋小路。
 御者の青年は、幸か不幸かそんなリミエルの胸中に気付けないほど愚かではなかった。
「そのために遅くなってしまった事、お許し頂けるようわたくしからもご説明いたします」
(っ……)
 リミエルはすぐさま御者の心遣いを悟った。つまり彼は迂遠な言い回しで、漏らす前にトイレに行って来いと言っているのである。
「ぁ……っ」
 猛烈な羞恥が、公爵令嬢の幼き美貌を耳まで赤くする。何から何まで知られてしまったことに、死んでしまいたいほどの恥辱が少女を苛んだ。
(……やだ、ぁ……そんな、こんなトコロでなんか……っ)
 停止した馬車のドアが引き開けられ、地面に降りるための準備がてきぱきと済まされる。
 つまり――その辺の茂みで、はやくおしっこをしてこい、と言う意味だ。
「わ、わたし――お、お外でなんか……っ」
「お嬢様。どうかお聞き分け下さい」
 有無を言わせぬ調子で、御者が告げる。それはまるで、聞き分けのない子供に言い聞かせるような言葉。幼いながら必死に保とうとしていたリミエルの、令嬢としてのプライドを無残に踏み砕くものであった。
 リミエル・エリザベート・レィ・ジルッベレットは、まだトイレの躾もできていないような、みっともない子供であるのだと。そう告げられたも同じである。
(――嫌ぁ……っ)
 ずたずたに引きちぎられてゆく少女の羞恥心。しかし、そんな少女にも大自然の摂理は容赦なく襲い掛かる。震え出す下半身は、再び大波の予兆を覗かせる。
 森の茂みでのおしっこと――このまま、馬車の中でのオモラシ。
 二つを天秤にかけ、リミエルに残された選択肢は無論ながら、ひとつしかなかった。





 ぞわり、ぞわりと一歩ごとに足元から這い登ってくる激しい尿意を堪え、できる限りなんでもないというように装いながら、リミエルは御者の手を借りて馬車を降りる。もはや、足を大きく広げるのも難しい。
「ごゆっくり、なさってください」
「……っ」
 地面に降りたところで御者から声をかけられ、とうとうリミエルは耐え切れなくなって駆け出してしまった。街道の茂みを分け入るように、木々の隙間に飛び込んでしまう。
 と――

 ぶじゅっ、ぶじゅあああああああああああ!!!

 すさまじい勢いで、水音が響く。なんとリミエルの背後で、馬車から放たれた馬の一頭が放尿を開始していたのだった。
 馬たちも朝からの仕事で、息をつくひまもなかったのだろう。
 体内に溜めていた水分を全て吐き出してしまうような激しい音を響かせ、獣の放つ猛烈な水流が地面を穿ち、ばしゃばしゃと地面をえぐり、周囲にびちびちと泥を巻き上げて乾いた土を侵食してゆく。
 まるで、桶で水を撒き散らしているかのように、圧倒的な放水――
(ぁああ……っ!!)
 その光景に、公爵令嬢の頭が真っ白に沸騰する。
 これから、自分もあれと同じ事をするのだ――
 そうはっきりと認識してしまったリミエルは、羞恥に突き動かされるまま全速力で茂みの中へ走り去った。





 鬱蒼とした森は、確かに視界を遮るのにはうってつけだった。柔らかい地面はふかふかの絨毯のように靴を受け止め、重なり合った梢は夕暮れの日差しのほとんどを遮断している。
 立ち並ぶ木々はどこまでも続き、動物の鳴き声一つなく静まり返っている。これなら確かに姿勢を低くしてうずくまれば、誰にも気取られずにいられることも難しくはないだろう。
(……で、でもっ……こ、こんな……お外で、なんてっ……)
 貴族令嬢として、一人の少女として。このようなことは決してあってはならないことであった。今まさに自分が禁忌に踏み入れているのだと知り、リミエルは羞恥に顔を染め上げる。
 衝立どころか、屋根のない場所で下着をずり下ろしドレスをたくし上げ、少女としてもっとも大切な場所をあらわにし、無防備な姿を晒してしゃがみ込む――それだけでも気絶してしまいそうに恥ずかしい。あまつさえ、リミエルはこれからここで己の体内に満たされた恥ずかしい熱湯を勢いよく吹き出させるのである。
 だが、最悪の事態を避けるためには、リミエルはその動物にも均しい行為を受け入れるしか道は残されていないのだ。貴族のプライドと疼く下半身の板挟みになる彼女をあざ笑うかのように、秘密のティーポットに詰め込まれた液体は、リミエルのもっとも恥ずかしい部分を突き破ろうとざわめき、激しく渦を巻く。
「ふぁ……ぅん…っ」
 しかし、切羽詰った下半身は少女の身体を知らずクネらせ、半開きの唇からは甘い喘ぎがこぼれる。
 尿意の波はさらに強まり、ずぅんと下腹部に抱え込んだ重いティーポットの中身が、リミエルの原始的な衝動を刺激した。
「あ……ああっ……ダメっ……来ないでぇっ……」
 また、『さっきの』ような大波が押し寄せる。迫り来る発作はじりじりと水位を高めてゆく。
 リミエルの意思に反して、なみなみと熱い液体を湛えた容器が、勝手に収縮を始める予兆である。
 羞恥に突き動かされてぎゅっと股間を押さえたリミエルの手のひらの下、一旦はぎゅうときつく引き締められた排泄孔が、尿意に耐え兼ねるように再びじわじわと押し広げられる。美しい少女がその幼い容貌を羞恥に染め、切なく吐息をこぼす様は、見蕩れるほどに艶かしい。
 両足ががくがくと震え出した。股間に間断的に走る痺れが、リミエルの思考をぐらぐら揺らす。
(ダメ……ダメなのにっ…ぁあっ、……こんなこと、絶対に……しちゃいけないのにっ……)
「くぅうっ……!! も、もうダメ……、で、でちゃうっ……」
 人目のないことをいいことに、リミエルははっきりと尿意すらを口にしてしまう。
 大切なところを剥き出しの外気に晒し、そこから地面の黒土にむかって激しい水流を吹き出している姿――さっきの馬たちと同じように、まるで理知も気品も全くないままに、獣のような行為を望んでしまっている自分に、少女の耳は真っ赤に染まる。
 それでも、下半身を襲う尿意はもはや一刻の猶予もなくリミエルを急き立てる。ここでおしっこを済ませてしまえば――耐えに耐え続けた排泄の解放感は想像だけで幼い令嬢の心を震わせた。
 いくら我慢を重ねても、少女の幼い身体にはいつか限界が訪れてしまうことは明白だった。
 もし城まで間に合わず、粗相をしてしまうようなことがあれば。密閉された馬車の中に響き渡る激しい水音と立ち昇る湯気、身を切るような羞恥は繊細なリミエルの理性を侵してゆく。
 じくん、と再び膀胱の中でおしっこが暴れ出す。
「ふあぁ……あぅううっ……!!」
 とうとうリミエルは切なげな嬌声を漏らしてしまった。
 耐え切れなくなった腰がくねくねと左右に揺すられ、それにあわせて令嬢の体内の秘密のティーポットもたぷたぷと中身をざわめかせる。
 少女の体内、例えるならば精緻な細工を施された陶器のティーポットは、下品な衝動に猛り狂う悪魔の熱湯に占拠されてしまっていた。
「んっ、んんっ、んんぅ…っ!!」
 突き上げるような尿意の衝動に晒され、リミエルは崩れ落ちるように木の根元にしゃがみ込んでしまう。
 とてつもなく危険な体勢だった。ドロワーズがくしりと軋み、薄布一枚を隔てた内部から熱い雫をにじませようとする。張り詰めた下腹部を必死にさすりながら、リミエルは大きく息を繰り返す。
(うぅうぅっ、くぅうぅうっ……ぅうあうぅうぅっ!!
 でちゃう――だめ、もう、でちゃうっ……!!)
 だが――
 それでもなお、令嬢の理性は、淑女として躾けられた深窓の令嬢のたしなみは。
 野外での排泄という恥も外聞もかなぐり捨てた行いを、許せなかった。
(だめ、がまん――ちゃんとした、おトイレまで――っ)
 こんな場所で、地面を濡らし土をえぐり、湯気を立ち昇らせて激しくおしっこをすることを、リミエルは躍起になって否定する。
(ちゃんとしたおトイレじゃなきゃだめ――だめなのっ……!!)
 何十秒、そうしていただろうか。
 永遠に続くかと思われた尿意の洪水は、緩やかに引いていった。もちろん完全になくなるような事はない。
 単に、また次の発作までのわずかな時間を稼いだに過ぎない。次の大波は、今のものよりもさらに激しくなることは確実なのだ。
「はぁ、はぁっ……はあ……っ」
(な、なんとか、おさまった……みたい)
 息を荒げながら、リミエルはそっと股間を探り、どうにか自分が下着の純潔を守り通したことを知る。猛烈な尿意に打ち勝った安堵から、ゆっくりと息を吐く。
 そんな彼女には、“次”のことなど考える余裕はなかった。一時的に耐え切ったとしても、それはほんの少し限界が遠のいたに過ぎない。少女の下腹部に蓄えられたおしっこは、遠からず更なる脅威になって押し寄せてくることを。



 続く。

 (初出:書き下ろし 2008/11/16)

[ 2008/11/16 22:27 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

みんなのお手洗い:ガラス容器編 


 小さな部屋には、しきりに腰をよじり膝をすり合わせ、落ち着きなく悶える少女達の姿があった。
 その数は総勢8人。部屋は十分に広かったが、それでもそわそわと歩き回り、じっとしていることのできない少女たちにとっては、やや手狭にも思える広さである。
 室内にはほとんど家具もなく、四隅に手摺と、鍵のかかった大きなドア、そしてテーブルが置かれているのみの簡素なもの。壁紙や照明の装飾も最小限に抑えられ、窓もなくどこか息苦しい。板張りの床は丁寧にワックスが掛けられて、鏡のように光を反射している。
 そんな床板の上を、こつこつと小刻みに足踏みの音が響く。
 スカートの前をはしたなく押さえながら、少女達は前かがみになっては小さく息をこぼし、強い尿意を堪え続けていた。
 この部屋には、トイレがない。
 少女達の我慢は、そろそろ限界に達しつつあった。





 ――トイレがない、と言ったが、正確にはこの部屋の中に、少女たちがオシッコを済ませるための設備がないわけではない。少女達が熱い視線を重ね、じっと見つめる部屋の中央、小さな樫のテーブルの上には、光を反射してきらきらと輝くひとつの製品が安置してあった。
 これこそが、この部屋にある唯一の、オシッコのための設備である。
 しかし――なによりも機能的に少女のオシッコのために作られておきながら、部屋にいる少女達の誰もが、それを使うと呼ぶことに激しい抵抗を覚えていた。
 少女達の尿意が軽いものではないのは、傍目にも明らかである。が、それでもなお彼女達は、みっともない姿を晒しながらもおしりを揺すり、小さく飛び跳ねてすらオシッコを我慢している。
 その理由は、テーブルに置かれた器具の正体にある。
 透明なガラス細工で作られ、女の子の脚の付け根の、ふっくらとしたゆるやかなカーブにぴったりと沿うようにデザインされた入れ物は、曇りひとつなく磨き抜かれ、美しいまでもの芸術性を兼ね備えていた。
 未発達な少女の身体の中心部に秘められた放水孔をぴったりと受け止め、ひっそりと合わせられた割れ目からほとばしるおしっこを、外にこぼすことなくきちんと注ぎ込めるようにされた機能美、それはまさに、排泄のための設備としては理想の形状を保持している。機会による大量生産などではなく、名のある名工の作であるに違いなかった。

 テーブルの上に安置されたそのガラス器具――いわゆる『シビン』を前に、少女達は苦悩と逡巡を続けているのだった。

 確かにテーブルの上の透明容器は、少女たちがオシッコをするために作られ、それ以外にはおよそ役割を持たない器具である。使用した経験がなくとも、その用途は容易く想像できるだろう。
 むしろ、室内の少女達は皆我慢の限界に近いレベルで尿意と激しい戦いを続けており、部屋の床を汚さずに排泄を済ませることができるなら、ある程度の妥協はする覚悟を決めていた。
 たとえその本来の用途ではない方法であったとしても、何がしかの『入れ物』――バケツなり、なんなりがあれば、それを使って下腹部でたぷたぷと揺れるオシッコが噴出すのを受け止め、切実な排泄欲を十分に満たすことをためらわなかっただろう。
 だが、この状況――身を隠す場所など何一つない部屋の中、同じような多くの少女達の視線を感じながらでは、その行為の難易度は桁違いだ。
 まして、テーブルの上にあるのはことさらにはっきりと、『オシッコをするための』容器なのである。たとえその意思がなくとも、実に感覚的に尿意を刺激する形状のガラス容器を見せつけられていれば、それを使ってオシッコをすることでの羞恥心はいや増した。





 たしかに、このガラス細工はそれは十分以上に少女達の排泄欲を満たす役割を果たすだろう。
 が、このガラス容器は、少女達が求めている理想のトイレ――清潔に保たれ、個室という空間で他者の目を遮ってプライバシーを守り、音消しの機能を備えて恥ずかしい行為を隠蔽するための設備とはまるでちがう。ただ、オシッコを受け止めるだけの最低限の機能しかないのである。
 なかでも最大の問題は、この器具を使って排泄したオシッコはどこにもいかず、じっとそこに残ったままだということだ。
 たとえ羞恥を乗り越えこのガラス容器を使用してオシッコを済ませたとしても、彼女たちが腰を揺すりスカートの前を押さえ、膝を寄せ合わせて我慢し続けたオシッコは、膀胱を膨らませていた時とのママに、残らず全て透明な容器の中を満たして、白日の下にさらけ出されてしまう。
 部屋の中には他になにひとつ、彼女たちが我慢している恥ずかしい液体を受け止める設備はなく、視線を遮る物陰すらもない。オシッコをしている瞬間の物音や、容器の中にぶつかる音。その時の自分の格好までも皆に見られてしまうのだ。
 そして挙句、色や、匂いや、勢いや、泡立ちかたですら――愛する相手にすら見せるコトは許されないであろう、羞恥の熱湯の様子を素通にして、他の少女達の目の前にさらけ出してしまうのだ。
 自分がいったいどれほどオシッコを我慢し続けていたか、それをつまびらかにされてしまうのはある意味、オモラシよりも辛いことであると言えた。
 そしてまた、この容器には別の問題もある。これはある種、1番目の問題とも関わりのある事だが、――つまりは、容器の中にオシッコが残ったまま、ということは、一人の少女がオシッコを済ませたからといって、次々に少女達がその後に続くことができない点にある。
 無論、まったく知らない仲ではないとは言え、他人のオシッコが満たされている場所に、そのまま自分のオシッコを注ぎ込むことには羞恥以上の激しい抵抗があるだろう。
 だが、それに加えて問題となるのは、もっと物理的――数学的な問題である。
 単純な、少女達の我慢し続けているオシッコの総量と、ガラス容器の容量――そのふたつは、明らかに不釣合い、不等号で結ばれるべきものだ。
 これを使用するのがたとえまだ身体の発育の整っていない少女たちだとしても、彼女たちがその小さなおなかの中をぱんぱんにして、精一杯我慢し続けたオシッコが、実に8人分。それに比べてしまえば、ガラス容器の大きさはあまりにも頼りなく、とてもではないが全員分を注ぐことができるとは思えないのだった。





 故に少女たちは苦悩する。たったひとつの小さな容器を、確かにオシッコをするための器具を目の前にしながら、誰一人それに手を伸ばすことができない。
 少女達は、ガラス細工よりも繊細な下腹部に、おしっこを満たしたまま――言葉もなく、切なげに実を揺するのだった。


 (初出:書き下ろし)
[ 2008/11/16 22:23 ] 小ネタ | トラックバック(-) | コメント(-)

お花摘み 


(……だ、だめっ、もう…が、我慢できないっ!!)
 藤原早紀はとうとう音を上げた。ちりちりとおヘソの裏側を炙る尿意はいや増し、下腹部は石のように張り詰めてずっしりと砂が詰まったように重く、すでに自由な身動きすら難しい。我慢の限界を悟った早紀は、上品にお喋りに興じているクラスメイトの輪からそっと抜け出すことを決意した。
 部活のお茶会の席を中座し用を済ますなど、伝統ある御園学園の生徒としてあまりにもはしたない行いだが、もはや仕方がない。緊急避難で情状酌量の余地はあるだろう。
「…………失礼します」
「――あら、藤原さん、どちらへ?」
 会話の間を見計らってさりげなく席を立ったつもりだった早紀だが、斜向かいに座っていた1年上の先輩である美鈴が、そんな彼女を目ざとく見つけて声をかける。
「す、すみません、わたくし、ちょっと……その、お…お花摘みに、行ってまいりますわ」
「あらあら……それは。大変ですのね。……どうぞ、ごゆっくり」
「し、失礼しますっ」
 予想外の答えであったのだろう。一度軽く眉を跳ねさせた美鈴が、にこりと微笑んで優しく声を掛ける。いたたまれなくなった早紀は真っ赤になりながら再度頭を下げると、お茶会のテーブルから離れ、一目散に手近な木々の梢の中へと走りこんだ。
 お茶会の開かれている広場のある学園の東の森は、近くの建物まで1時間。とてもではないがそこまで走って戻る余裕はない。
 仮にも学園の生徒が屋外で用を済ますなどあってはならないことだが、このまま黙って最悪の事態を招くよりはまだマシな選択肢であると思えた。……いや、そうでとも考えなければやっていられない。
(ぅうっ……くぅ……)
 背丈の高い茂みを掻き分け、震える爪先をせわしなく動かしながら、早紀は森の奥へ奥へと向かってゆく。じんじんと震える下腹部の痺れは、徐々に足の間へと下りてきていた。もはや一刻の猶予もない。
「……こ、この辺りなら大丈夫かしら」
 広場から十分に離れ、物音が聞こえなくなったことを確認しながら、早紀は小さく張り詰めていた息をこぼした。ゆっくりと周囲を見回し、『これは』という場所を茂みの中に探す。
 そろそろ辛抱も限界に近い。焦るキモチを押さえ付け、込み上げてくる尿意に耐えるため揺すってしまいそうになる腰をそっとおしとどめ、慎重にあたりを確認した。
 ほどなく、令嬢は青々と育つ草むらの中に、黄色の花をみつける。
「ぁ……っ」
 それが引き金となって、早紀の下腹部は敏感に反応をはじめてしまう。
 はしたなくくねくねと腰をモジつかせながら、少女はよたよたとそこに歩み寄り――ついにたまらずしゃがみ込んでしまった。
 けれど、もう心配は要らない。ここでなら誰の目にも触れることはないのだ。
「ぁあ……よかった……」
 安堵と共に小さな花の茎を摘んだ早紀は、花弁の根元からそれを軽くちぎった。手慣れた動作で茎の根元から滲む透明な蜜を口に含む。
 じんわりと口に拡がる甘い味。
 同時に、下腹部の緊張もゆるやかにほどけていく。
 この花はキヨハセンカと呼ばれる薬草の一種で、自律神経の一部に作用しある種の感覚を麻痺させる効能がある。
「ふぅう……」
 それはつまり、自律神経の一種である尿意の緩和である。固く強張った膀胱はゆっくりと弛緩し、限界寸前だった許容量をやんわりと受け入れてゆく。
 無論ながら、いちど膀胱にたまったオシッコがどこかに消えてなくなるわけではない。依然として、早紀の下腹部は大量のオシッコに占領されたままだ。しかしそれでも、さらに我慢ができるだけの余裕が戻ってくる。
 キヨハセンカの効能はいわば、腹下しを止める薬に近い。排泄物そのものは残っていても、尿意を感じる原因さえ取り除けばすぐに漏れ出してしまうことはないのだ。
「……んっ」
 自然を愛し、博愛をもって尽くすというのが早紀が通う御園学園の理念である。きちんと排泄のための設備が用意されていない場所でオシッコなどをしてしまおうものなら、たちまち大きな水たまりが地面や草花を汚してしまう。
 尿に含まれる女性ホルモン、エストロゲンは、昨今環境ホルモンとして問題が取り立たされている。下水から排出された女性のおしっこが原因となって環境破壊が進んでいるのだ。
 美しい自然を愛し、守ることを信条とする早紀には、屋外でオシッコを済ますなど論外である。だから、こうしてキヨハセンカの効能を使って我慢の一助としていた。
 “お花摘み”とはトイレの隠語だが、早紀にとってはこのキヨハセンカによって迫り来る尿意を一時的に凌ぐ行為を示していたのである。それゆえに、早紀には比較的簡単に口にすることができる言葉でもあったのだ。
 もっとも、野外排泄に至らないとは言え、トイレを我慢していることを悟られるのは、年頃の少女にとってあまりにも恥ずかしいことではある。
(ふぅ……)
 だが、不幸なことに、健気な乙女がオシッコを我慢し乙女のたしなみを保とうとするこの行為を指しているこの言葉が、他のクラスメイトたちにとっては屋外で我慢しきれずトイレを済ませる意味であることを、早紀は知らない。
 早紀ににとってお花摘みとはあくまで花を摘む行為であった。

 だからこそ、この後に待ち受けている悲劇を、早紀は予想もできずにいた。

(もう少し、いたいですけれど……そろそろ切り上げないといけませんわ……)
 次第に楽になってきた下半身を軽く撫でさすり、早紀はそっと立ち上がる。
 “お花摘み”は無事終わった。ずしりと重い下腹部は鈍く疼き、下半身はまだまだ辛さを訴えていたが、先刻までに比べれば格段に楽になっている。
 後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、早紀は慎重に服装を改める。しゃがみ込んでいたことでスカートにできてしまった皺を丁寧に伸ばし、汗に滲んだ手のひらを綺麗にハンカチでぬぐい清め、我慢の痕跡をすっかり消し去ってゆく。
 まるで本当にトイレを済ませたかのような手順で、ゆっくりと身づくろいを終えた少女は、落ちついた下腹部に余計な刺激を与えないよう、ゆっくりとした足取りで茂みを後にした。


(初出:書き下ろし)
[ 2008/11/16 22:04 ] 小ネタ | トラックバック(-) | コメント(-)

水音のある風景・1 

 
 たたん、たたん。単調なリズムで車内が揺れる。
 都心からやや離れた私鉄沿線の各駅停車の列車で、『私』はじっと彼女を観察していた。
 指定の制服であろう紺色のブレザーを、崩すことなくしっかりと身につけ、やはり校則で定められたものであろう肩上で切り揃えられた髪が年齢相応の幼さを覗かせる。薄紅色の唇と、長いまつげが印象的な少女は、控えめに言っても美しかった。
 しかし、そんな少女の表情はどこか曇り、かすかな焦燥感すらつのらせて、視線はじっと窓の外に固定されている。
 列車は二つ前の駅で急行に接続したため、夕方ちかくの混雑の時間帯にも関わらずさほど混んではいない。座席の半分ほどしか埋まっっていない車内の中で、空いている席に座ろうともせずドア近くの吊革に捕まっている少女の姿は、一度気にし始めるとやけに目を引いた。
 たたん、と揺れる車内の振動に、わずかに少女の身体が傾く。
 途端、少女の唇がきゅっと引き絞られた。まるで――不快な何かを必死に堪えるかのように。
 背伸びに近い姿勢で精一杯手を伸ばし、高い吊革を無理して掴み。少女は肌寒い車内にも関わらずしっとりとうなじに汗を浮かべていた。
 列車内とは言え吐く息も白い季節。用意を忘れたのかまだ平気と判断したのか、いずれにせよコートなしでは寒いだろう。だというのに、少女は隙間風の入り込むドア前から離れようとしない。『私』は次第に少女の様子に興味を覚えていた。
 吊革を握る手を落ち着きなく握り締め、提げた鞄はさりげなくスカートの前に。ローファーの爪先は、できる限りのさりげなさを装って、左右に小刻みのステップを踏む。
 列車がレールの継ぎ目にさしかかり、たたん、たたんと音を鳴らすたび、少女の小鼻がひくりと震え、詰めたような息が切なげに漏らされる。形の良い眉はきゅっと寄せられて、あどけない容貌には不似合いな困惑をかたどっていた。それはまるで、幼さに似合わぬ色香のよう。
 左右に流れた少女の視線は、通過する踏み切りの一つを捕らえ、そのままドア上の停車駅表示へと向かう。各駅停車とは言え次の駅まではまだ数分――しかし、少女はいまからその到着を待ちわびているようだった。
 焦る気持ちを押さえつけ、一刻も早く、トイレに駆け込むために。
 もはや間違いはないだろう。
 少女が懸命に尿意を堪えているのは、明らかだった。





 ふくらはぎの半分ほどまでしか覆っていない黒のソックスを擦り合わせるように、小さな脚がぴたりと寄せられる。健康的な細い足は、左右に振られる体重に耐えかねるように、間をおかずくねくねと揺すられる。わずかに揺れるスカートは、少女の清楚さを彩るには十分になモノではあったが、それでも初冬の寒さから十分に少女を守っているとは言いがたい。
 曇り空の下の風景は、背筋を震わせるほどの寒さをじんわりと車内に忍び込ませてくる。『私』がこうして座っているだけでもこたえるのだから、彼女が感じている寒さはどれほどのものか。
 わずかな暖房の庇護など吹き飛ばす冷たい隙間風は、少女の脚を這い登るようにしてスカートの下から潜入を続けているはずだった。じわじわと冷え続ける下半身に急かされて、少女のステップは次第に大きなものへと変じてゆく。
 鞄の下でそっと押さえられたスカートの前、前後に小さく揺すられる腰。寄せ合わせ、交差する膝。こつこつと床を叩く爪先。時折息を詰め、きゅっと閉じられる愛くるしい瞳。どれもが『私』の興味をかきたてる。
 ――それでも少女は、尿意を堪えていることを悟られないように必死だった。気付かれていないと思っているのだろう、ローファーの靴底が音を立てるたび、さりげなく再度靴底を床に擦らせ、それと同じ音を立てたり、尿意の大波に耐えるため“ぐいっ”と大きく脚を交差させてしまった直後に、なんでもないという風に膝をこすってみたり。
 そうした様は、少女がとても潔癖に――人前でオシッコを我慢することすらもはしたないと思っているのであろうことを容易に想像させる。
「はぁ……っ」
 じんじんと響く水の誘惑をを堪える小さな吐息が、ドアの窓ガラスを曇らせてゆく。
 不幸なことに、この4両編成の各駅停車にはトイレがない。ゆえにここは少女にとって動く牢獄に等しいのだろう。停車と同時に駆け下りる体勢のまま解放の瞬間を待ちわびるように、少女はじっと、外を流れる灰色の風景を見つめている。
 まだ未成熟な肢体の奥に、そっと秘められた乙女の秘密の場所――恥ずかしい器官を膨らませ、ちゃぽちゃぽと揺れる大量の液体を、意志の力でぐっと押さえつけて。
 量にすれば、おそらくはコップに数杯分でしかない水分を、身体の中に溜め込み続けること――その辛さに、狂おしさに切なげに身をよじる少女は、どこまでもいとおしく思えた。

『カーブです。揺れますのでご注意ください――』

 がたん――
 車内アナウンスとほぼ同時。ゆるやかなカーブに差し掛かった車体が真上に跳ねる。『私』の隣で転寝をしていた買い物帰りらしい主婦がびくっと姿勢を正した。
 不意の衝撃は、車内にいた乗客たちを区別することなく降りかかり――ちょうど込み上げてきた波を押さえ込もうと脚をクロスさせたばかりの少女をも、例外なく狙う。
「っ!!」
 片足立ちの上、いまにも床上に落ちてしまいそうに膨らんだ水風船を抱えて、吊革に半分体重を預けていた少女は、突き上げる衝撃に耐えかねてたたらを踏んでつんのめった。
 閉じていた脚を無理矢理開かされた格好で、細い体が硬直する。
 慣性の法則に振り回され、体内の水面が大きく揺さぶられ――これまで平穏を保っていたためなんとか耐え切れていた尿意が、容器の縁を乗り越えて膨らむ。
 息を呑んだ少女の手のひらが、鞄の上からぎゅうっとスカートの前を掴んだ。車内には背を向けているが、脇から覗き込めばスカートに大きく皺がよっているのははっきりとわかるほどだろう。小さな子供のように脚の付け根を押さえ込み、前かがみになって少女は小さな身体を懸命に震わせる。
 開きそうになる袋の出口をぎゅっと締めつけ、閉じ合わせた太腿をしきりに擦り合わせる。高まる水風船の内圧に耐えかねるように、持ち上げられた脚が交差する。
 半開きの唇からは小さく息がこぼれ、丸まった背中は制服の上からでもわかるほど、小刻みに震えていた。
「っ……」
 三十秒ほどそうしていたか、やがて寄せ合わされていた眉がわずかに緩み、少女は小さく安堵の息をこぼす。
 なんとか、すれすれのところで決壊の危機を乗り切ったようだ。
 だが、それは限界の瞬間をわずかに先延ばししたに過ぎない。高まり続ける水位は依然そのまま、ますます険しいものとなるのは火を見るよりも明らかだ。
 いまや彼女にとって、次の駅までの数分は一秒が数十分にも感じられるであろう長い長い焦燥の時間だろう。しかし少女にできることは、ただじっと耐え続けることだけ。漏れ出しそうなオシッコの出口が緩むのを締め付けて、到着までの時間をやり過ごすことだけだ。
 視線はカタチだけ窓の向こうに向けられているものの、もはや流れる風景を楽しむ余裕などない。少女の意識はいつしか車内を離れ、一足先に次の駅へ――そこに設えられた“オシッコを済ませるための場所”へと飛び立っているようだった。

『まもなく、取崎、取崎――』

 やがて――減速した列車は、車内アナウンスと共にホームへと滑り込んでゆく。先行する急行の待ちぼうけを食ったホームには、少なからぬ人々が列を作って並んでいた。次の次の駅でこの各駅停車は再度特急に接続するためだろう。
 少女はといえば、既にじっと立つ事もできずにいた。もはや取り繕う余裕も失って、ひっきりなしに姿勢を変えては小さく足踏みを繰り返している。
 はぁ、ふぅ、と繰り返される熱っぽい吐息は、少しでも楽な呼吸を探しているのだろう。少女がいつ限界を迎えてしまうかと、半分不安、半分期待で見つめていた『私』は、どうやら彼女が厳しい勝負に耐え抜いたことを知り、心の中で拍手を送る。
 もはや一刻の猶予もないであろうしょうじょだが、それでも列車がさらに減速し、停車線にさしかかると、ドア向こうの人々の視線を気にしたのか、いじらしい努力で慌てて背を伸ばし、足を揃え口を結んで、我慢の足踏みダンスをやめようとする。
 ぷしゅ、と左右に開いたドアから――ほとんど出口に並ぶ人々を押しのけるようにして。少女はホームへと早足で駆け出した。

「…………、……!!」

 恐らくは普段利用することもない駅なのだろう。勝手のわからない様子できょろきょろと周囲を見回した少女は、案内板を見つけてそちらへと走り寄ってゆく。
 地下鉄といくつかのバス路線への乗換えを記した案内板から、目的のマークを見つけ出した少女は、真っ直ぐにそちらへと歩き出した。しかしもう足取りがおぼつかないようで、『私』にも後を追うのはさして難しくない。
 いつもの降車駅ではない駅で降りたということは、それだけ少女が切羽詰っていることの証明だ。目的地まで我慢することも難しいと判断するほどの尿意に身を焦がす少女の内心はいかばかりか。抑えきれない興奮をそっと押し隠し、『私』は少女の後を追う。
 乗り降りで混雑する階段を、手摺を使って登り切った少女は、そのまま躊躇うことなく改札横のトイレへと向かった。
 駅のトイレといえば、多くの利用者もあり、一般には清潔とは縁の遠い場所だ。他人の目も多く、思春期を迎えた少女には使うことに抵抗のある場所だろう。彼女が外見どおりの潔癖な性格ならなおさら利用することは避けたいところのはずだ。
 しかし、余裕を完全に失った少女の様子では、既に頭の中にはそこを利用すること以外の選択肢は残されていそうになかった。途中二度ほど、少女が身を竦ませ、不自然に立ち止まったのを『私』は見逃さない。

 が――

 必死になって少女が辿り着いた駅車内のトイレには、無常にも侵入者を拒絶する『清掃中』の立て札があった。
「うそ……っ」
 すっと青褪めた少女の唇が、小さく絶望の言葉を紡ぐ。
 待望のトイレを使うどころか、中に入ることすらも拒絶され、途方にくれる少女をさらなる尿意の波が襲う。
 ぁ、と小さく声を漏らし、少女は恥も外聞もなく足を交差し、くねくねと身を揺すった。
 トイレの前でもじもじと震え、立ち尽くしている不審な少女を、目ざとい数名の乗客たちが奇異の目で見つめる。
 それに気づいた少女は、かぁっと耳までを紅く染めて、弾かれたように駆け出していた。
 乗客たちの視線を振り切るように、定期券を取り出して改札をくぐる。おもむろにその後を追った『私』は、ほどなく駅前の広場を歩きながらそわそわと周囲を見回す少女の背中を見つけた。
 ぷるぷると震えだしている脚は、もう溢れそうになる熱い雫を塞き止める役には立ちそうにない。
 枯れ木に残った落ち葉を吹き散らし、ひゅう、と吹き付ける寒風は車内の比ではなかった。ダッフルコートの襟を合わせ、『私』は少女を逃さないようにさりげなく視界に収めておく。
 もはやいつ漏らしてしまってもおかしくない様子の少女は、鞄の下で手を重ね、スカートの上から股間を握り締め、唇を噛み締めて、うなじを震わせ小さく声を漏らしながら広場の片隅へ早足で駆けてゆく。
 知らない駅の広場では、どこに行けばトイレがあるのか解らなかったのだろう。道路を一本挟めばコンビニ、喫茶店、食堂のチェーン店も並んでいたが――多感な年頃の少女には、ただトイレを借りるためだけにそれらの店に入ることは躊躇われることだ。
 そして、不幸にして駅前の公衆トイレは、少女が選んだ出口とは反対側にあった。そちらのすぐ近くにはデパートもあり、もしそちらに彼女が向かっていれば、今頃はトイレに間に合っていたかもしれない。
 だが、予想外の『おあずけ』を食らって、既に少女の我慢は限界に達していた。
 内股の狭い歩幅は、もう少女が下着に小さくない染みをつくっていることの証左。頬を赤くしたまま、少女は広場のすぐ裏手、ひとけのない路地裏へと走り込んだ。
 老朽化したビルに囲まれた路地裏は、曇り空の下で一層薄暗い。周囲に誰もいないことを念入りに確認してから、少女は路地の片隅に並ぶゴミバケツの影に走り込んだ。
 本来なら、ちゃんとしたトイレでされるはずだった少女の排泄は――屋外のゴミ捨て場の物陰という、ありえないロケーションで行われるようだった。こんな場所でトイレを済ませようものなら、むき出しのアスファルトに叩きつけられた水流が泡を立て、大きく広がって水たまりを作り、隠しようもない屋外排泄の証拠となるだろう。
 多感な年齢の少女にとって、それは繊細な羞恥心をずたずたにしてしまうほどの行為のはずだ。
 それでもせめて、このまま成すすべなくオモラシをしてしまうよりはマシだと、少女はそう判断をしたらしかった。
 ならば。と『私』は思考をめぐらせる。
 ――スカートを捲り、下着を膝まで下ろしてしゃがみ掛け――いよいよ少女が排泄の体勢をとり、オシッコの準備を終えようとしたところで、路地に面していた裏口のひとつが蝶番を軋ませて開いた。
「え……っ」
 警戒していた視線のすぐ前、全くの予想外のところからの他者の乱入。錆び付いたドアはとても使われているとも思えぬ状態で、そこは少女にとって全くの心理の死角であった。
 それゆえ、しゃがみ込んだ少女の大切なところは遮るものなくすっかり露になり、――今まさに激しい水流を迸らせる瞬間であるのが、はっきりと分かった。
「きゃぁああああっ!?」
 小さな悲鳴と共に、ほとんど反射的に少女は立ち上がり、膝にかかっていた下着を引き上げようとする。同時に身体をよじって、ドアの向こうの相手から顔を隠そうとした。
 だが、
 解放を目前にもはやすっかり準備の整っていた排泄口は、今さらの中断など受け入れることはできず、溜め込まれていた熱い雫をを激しく迸らせてしまう。半脱ぎの下着に勢いよくオシッコがぶつかり、飛び散った雫はまるでホースで水を撒いたように少女の足元に散らばった。
「や、やだっ、でない…でっ……でちゃダメ……ぇ!!」
 じゅじゅじゅぅっ、と吹き出すオシッコを隠すように、少女はぎゅうっと股間を押さえようとする。しかし猛烈な勢いでほとばしる水流はとどまることなく、濡れた布地にぶつかってはくぐもった音を響かせ、あっという間に少女の下半身を侵食してゆく。布地に広がる水流は少女のスカートを色濃く染め、内腿を伝い落ちてソックスに染み、さらには地面にまで広がってゆく。
「ち、違うの――違うんですっ……」
 必死の否定も言葉にならない。そして、今まさにオモラシの最中にそんなことを言っても、説得力など皆無だった。
 この小さな身体で、一体どれほど我慢していたのだろうか。恐らくはずっとずっと長い間、トイレにいけず我慢し続けた結果だろう。下着とスカートをぐしゃぐしゃに濡らし下半身をずぶ濡れにしながら、少女のオモラシは止まらなかった。
 『私』の目の前で、堪えに堪えていた尿意の崩壊に、少女はいつしか快感にも似た開放感に我を忘れて、下半身から激しく水流を迸らせ続けた。
「ぁ……」
 全身から急速に熱が失われてゆくのに気付いた少女が、ぶるる、と背筋を震わせる。
 ぱちゃぱちゃ、と少女自身が作り上げた水溜りには、なおも水流がぶつかって音を響かせる。
 呆然となって立ち尽くす少女の足元からは、ゆっくりと湯気が立ち昇っていた。少女の体内でたっぷりと暖められていたオシッコは、初冬の路地裏の寒さに晒されて、狭い路地裏に、少女特有のほんのりと甘い匂いを漂わせている。
 美しい少女が、下半身を自分の身体から溢れさせた恥ずかしい熱湯に浸してゆく様を――『私』は満足と共に見下ろす。





「っ、……っく、ぐすっ……」
 やがて――長い長い時間をかけ、少女のオモラシが終わった。
 しでかしてしまった失敗を悟るにつれ、呆然としていた少女の表情がくしゃりと歪み――瞳は光を失って、しゃくりあげるように涙が頬を伝う。
 恥辱に押し潰されそうになりながら、ふらりと揺れた少女の膝が折れ、足元の水溜りにぺしゃん、と小さな身体が尻餅をつく。
 少女の目の前には、無人のまま開いたドア。
 器用にそれを押し開けた黒猫は、少女をちらりと見、目を細めてにゃあ、と一声鳴いた。



 (初出:書き下ろし)
 
[ 2008/11/10 20:01 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

第9夜 オオカミと七匹の子ヤギ  

 -1-

「じゃあ、おつかいに行ってくるわ。みんな、お留守番お願いするわね」
「はーいっ、いってらっしゃーい!!」
 お出かけするお母さんヤギにそろって手を振りながら、7人のヤギの姉妹たちは頷きます。森の向こうにお母さんの姿が見えなくなるまで、仲良しの姉妹たちは見送るのでした。
「さあ、みんなおうちに入って。鍵かけるわよ」
「うんっ」
 一番上のお姉さんに促されて、下の姉妹たちは無邪気に笑いながら、家の中に走ってゆきます。
「……姉さん、本当に私達だけで平気かな?」
「そうよ、オオカミが出るって、噂じゃないんでしょう? ママだって……」
 いっぽう、上のお姉さんヤギ達は不安げでした。
 じつは、昨日から森には乱暴者のオオカミが現れるというのです。もともとこの森にはそんなオオカミは住んでいませんから、どこかの森を追われてやってきたのでしょうか。
 お母さんの留守中に、もしおなかを空かせたオオカミがやってきたら――あの大きな牙の生えた口で、みんなはたちまちぺろりと食べられてしまうに違いありません。次女と三女のお姉さんヤギ達はその時のことを想像して、ぶるっと身体を震わせます。
 そんな二人を励ますように、一番お姉さんの長女のヤギが言いました。
「大丈夫。母さんなら平気だし、しっかり戸締りしてればオオカミなんか入ってこれやしないわ。私達が弱気だと、妹たちまで心配させちゃうわよ。しっかりしなきゃ」
「……うん、そうよね」
「気にしててもしょうがないか。おやつにしましょう!!」
「わーいっ!!」
 心配を振り払うように、お姉さんヤギたちもおうちの中に入ってゆきました。
 みんな揃ってテーブルに着き、いっせいに『いただきます』をします。七つの席には木苺のジュースと緑苔のプリンがおいてありました。おでかけのまえにお母さんがつくってくれた、とびきりのおやつなのです。
 テーブルについた姉妹は、仲良くおやつを食べ始めました。








 -2-

 それから、しばらく経った頃です。
「……ねえ、なにか聞こえない?」
「え……?」
 みんながとても美味しい木苺のジュースに夢中になって、3杯めのおかわりをしていた時、四女がふいにそんなことを言いました。姉妹のなかでも一番勘のいい四女の声に、思わずみんながお喋りを止めて耳を済ませます。

 ……っ……んっ……ぁ……

 すると、確かに家の外から、草を踏み分ける足音と、小さなうめき声のようなものが聞こえてきました。
「え、えっと……」
「お姉ちゃん? なに? どうしたの?」
 想像したくなかった事態に、お姉さんヤギ達は青ざめました。その様子に気付いて、妹たちも不安を顔に滲ませます。

 ぅ……んっ……ふぅ……

 はあはあという荒い息の隙間から聞こえる、力強い声。
 それは姉妹たちの誰も聞いたことがないうめき声でした。
「ま、まさか……本当にオオカミっ!?」
 がたりと椅子を鳴らして、次女が叫びました。
 得体の知れない足音は、がさがさと乱暴に茂みを掻き分けながら、一直線にこの家を目指しているようでした。

 はぁ……はぁっ……あと、すこし……

 次第にはっきりしてきた物音は、もう姉妹全員の耳に届いています。ドアを破るのも時間の問題でしょう。
 怖い怖いオオカミが、来る。
 次女の叫び声に、ヤギの姉妹たちはパニックにおちいってしまいました。
「きゃぁああ!? やだ、やだぁ!?」
「オオカミ……あたし食べられちゃうの!? やだ、やだぁ!!」
「ママ、ママぁ!!」
「ま、待って!! みんな静かにして!! 早く隠れるのよ!! はやく!!」
 泣き叫ぶ妹たちを叱り、一番上のお姉さんである長女ヤギが叫びます。それをきっかけに、姉妹たちはそれぞれ、クローゼットの中や柱時計のなか、テーブルクロスの下、家のあちこちに隠れました。
「いいわね、静かに、声を出しちゃダメよ!!」
「う、うんっ」
「ね、ねぇ……お姉ちゃん、待って……」
 みんなの隠れ場所を確認するお姉さんヤギに、末の妹――七女が不安そうに訴えます。末妹はぎゅっとスカートの前をおさえて、もじもじと脚をこすり合わせていました。じつは、彼女は今とても切羽詰って困った状態にあったのです。
「お姉ちゃん、あたし……」
「ほら、急いで、早く隠れて!! あなたはここ!!」
 けれど、オオカミがやってくることに気を取られて、姉妹たちは誰も妹の異変に気付けませんでした。有無を言わさず妹を柱時計の下に押しこんで、よっつ上のお姉さんである三女ヤギはそっと言いつけます。
「いい、何があっても動いちゃダメ、わたしがいいって言うまで出てきちゃダメよ!! さもないとオオカミに食べられちゃうんだから!!」
「え、えっと、でもっ……」
「いいわね、約束よっ」
「あ、待って、待ってよ!! お姉ちゃんっ!!」
 最後にドアに硬く鍵をかけ、窓にはカーテンを引いて、次女、三女、長女のお姉さんヤギたちも物陰に隠れました。
 しんと静まり返る家の中で、姉妹達はじっと息を潜めて、表の様子を窺いました。








 -3-

「つ……着いたっ、……間に合ったぁ……っ」
 レンガの家の前に辿り着いて、オオカミは安堵の息をこぼしました。
 森の中を長い間さまよい、じっとりと汗をかきながら茂みを掻き分けて歩き続け、やっと見つけた目的地です。
(ふぁ……っ!?)
 目的地を目の前にして、ほっと緩んだ瞬間、ぞわりとオオカミの背筋をイケナイ感覚が這いあがってゆきます。オオカミは慌てて腰をぐいっとよじり、せわしなくその場で脚踏みをはじめてしまいました。
(っ、だめ、まだダメっ……あとちょっと、ちょっとなんだからぁ……っ!!)
 じりじりと焦る気持ちをぐっとおさえつけ、悲鳴を飲み込んで。オオカミは小さく深呼吸をすると手を丸めてドアにノックをします。
「ご、ごめんなさい、誰かいる!?」
 梢を振るわせるほど大きな声が出てしまうのは、オオカミに全然余裕がないからでした。ありあまる元気をうまく制御できず、オオカミのノックはドアをぎしぎしと歪ませます。
(う……く……)
 はあはあと息をつき、オオカミはぐっと前かがみになって耐えます。一旦は大きな波を堪えることができましたが、キュロットから伸びた健康的な脚は内股になったままぴったりと閉じ合わされて、かかとは小刻みに地面を叩いています。
 いつもはぴんと尖っている耳も、ぺたりと左右に伏せられて、すっかり情けない格好でした。
 タンクトップの裾をぐいっと引っ張り、もう一方の手で脚の間を押さえながら、オオカミはもう一度ドアを、さっきよりも強く叩きました。
「……ねえ、いないの!? ねえってば!! 留守なの!? ねえっ!!」
 焦るあまり力加減がうまくいかず、ドアががたがたと揺れてぎぃぎぃと軋みます。ですが、オオカミはそれどころではありません。
 ちょこんと口元から覗いた八重歯が、きゅうぅっと可愛い唇を噛み締めます。
(ああうぅ……マズい、マズいってばぁ……)
 オオカミがこの森にやってきたのは昨日のことです。
 もともと、このオオカミは隣の森に住んでいました。人付き合いがあまり上手ではなく、何を聞かれてもついついむすっとした態度ばかりしてしまうオオカミは、いつも回りのみんなから恐れられ、悪者だと誤解されていたのでした。
 そしてとうとう、乱暴者のオオカミを退治してやろうと、狩人がやってきたのです。
 オオカミは住処を追われて、仕方なく家を捨てることにしました。
 確かに森のみんなに比べればちょっと力が強いオオカミですが、別に乱暴者でもなく、噂されるように誰かを食べたりもしません。狩人と出会わないように家を出たのも、オオカミがケンカを嫌ったからでした。
 オオカミだってちゃんとした年頃の女の子なのです。痛いことも、怖いことも嫌いでした。
 だから、オオカミはいま、とても困っていました。とってもとっても、困っていました。
 この森に住むみんなも、オオカミのことを怖がって、誰も家に入れてくれないのです。
「あああっ、もう、開いて、開けてよぉ!! だ、誰かいないのっ!?」
 だから――オオカミは、昨日から1回も、トイレに行けていませんでした。
 オオカミのおなかの中は、夕べから我慢し続けたおしっこでたぷんたぷんになっていました。膀胱はぱんぱんに張り詰めて、もう立って歩くのも辛いほどです。いつもの元気もどこかへいってしまうくらいでした。
 でも、オオカミだって女の子です。まさか、お外でオシッコをするなんて、できるはずもありません。
 だから、オオカミはずっとずっと我慢を続け、一日近くも森をさまよって、ようやく辿り着いたのが、このヤギの姉妹とお母さんの住む家なのです。
「ねえ……お願い、もうダメなの、もう我慢できないのっ!! 誰かいるんでしょう!? ねえっ、開けてよ、中に入れてちょうだいっ!!」
 そんなわけで、オオカミは今にも漏れそうなオシッコを我慢するので精一杯なのでした。
 くねくねと腰を揺り動かし、おしりをちょこんと後ろに突き出して、尻尾も小さく震えながらくるんと丸まって、必死になって縮こまっています。
 女の子のダムを満水にして、ちょっと油断すればあっという間に下着に染み出してしまいそうなオシッコは、オオカミの懸命の努力でなんとか塞き止められている状況でした。ここでトイレを借りなければ、たちまちオモラシしてしまうに違いありません。
「ちょっと、本当に誰もいないの!? ねえ、お願い、開けてよぉ!!」
 激しくドアを叩きながら、オオカミは込み上げてくる尿意を堪えるためドアノブにしがみ付きます。ガチャガチャと揺れるドアノブは、オオカミの強い力で今にも壊れてしまいそうでした。
(だ、だめ、出ちゃう、オシッコでちゃうっ……!! も、もう小さい子じゃないのに、お、オモラシなんて……っ!!)
 くじけそうになる心をなんとか奮い立たせて、なんとかここまで辿り着いたのです。もう、別の場所までトイレを我慢し続ける事はできそうにありません。それなのに、この家が留守では、もはや、オオカミに残された道はオモラシしかないのでした。
(っ、そんなの、できるわけないじゃないっ……!! で、でも、っ……!!)
 そんな事はお構いなしにオシッコは限界を訴えます。しくしくと疼き始める下腹部は、ずんと重くなってオオカミを苦しめます。
 焦るオオカミはちらり、と家の裏手の方に視線を向けました。
 ちょうど、ヤギの姉妹達の住む家の裏には、鬱蒼とした森になっていて、背の高い草が生え揃った物陰ができています。誰にも見られないようにするには格好の場所でした。
(い、いっそ……あのへんで、こっそりしちゃう、とか……?)
 辛い尿意にせかされ、思わず心に浮かんだイケナイ考えに、オオカミは真っ赤になってぶんぶんと首を振ります。
 いったいこれまで何度、我慢できなくなりかけて、いっそ茂みの中でオシッコをしてしまおうと思ったことでしょう。
(って、だ、ダメに決まってるじゃない……ひとの家のすぐ近くなのに、勝手にそんなこと……!!)
 でも、もし誰かに見られたら――そう思うと恥ずかしくて恥ずかしくて、オオカミは死んでしまいそうになるのでした。
 このままではそう遠くないうちに本当にオシッコが漏れてしまうことでしょう。
 オオカミの視線があちこちをふらふらとさまよっては、『オシッコのできる場所』を探します。けれどどこも、とてもではありませんが女の子がオシッコを済ませることが許されるような場所ではありませんでした。
 そんなことをしているうちにも、オオカミのダムは刻一刻と崩壊のカウントダウンを進めてゆきます。
「ちょっと、ねえっ……!!」
 オオカミが涙を浮かべながらぶん、と振り上げた拳が、ひときわ強くドアを叩きます。
 すると、とうとう家のドアはばきりと音を立てて壊れてしまいました。
 開いたドアの奥に、一瞬呆然となるオオカミでしたが、すぐに我慢しているオシッコの事を思いだして家の中に飛び込んでしまいます。
「ご、ごめんなさいっ!! 壊すつもりなんかなかったんだけど……!! 本当よ!? ずっと探してて、それで……も、もう本当に……うぅっ、……く、ぅぅ……あ、ダメ、ダメ……っ、ごめんなさい、は、入るわね!!」








 -4-

 ……ぎしり。ぎし、ぎし。

 大きな足音を立てて、家の中に踏み入ってきたオオカミたちに、ヤギの姉妹たちは震えあがりました。
『本当にオオカミだっ!!』
『ドア、壊れちゃった……どうしよう!!』
『もう我慢できないって……!!』
『みつかったら食べられちゃう!!』
 悲鳴を上げそうになるのを必死に押さえこみながら、ヤギの姉妹達は震えるのをなんとか我慢しようとします。
「ご、ごめんね、あとでちゃんと、謝るから……!!」
 オオカミが叫びました。
 もし家の人がいれば、トイレを借りるための許可を得ることもできたのですが、鍵もかかっていましたし、なにより明かりも消えてカーテンも閉まっていて、どう見ても家の中は留守なのです。
 オオカミは、あとでお詫びをすることにして、先にトイレを済ませるため、家の中を探すことにしたのです。
「も、もう本当に、我慢できなかったの。だ、だから……!! しょうがないのよっ…」
 言い訳をしながら、オオカミはぎしぎしと足を踏み鳴らして家の中を歩き回ります。
 じろじろとあたりを見回すオオカミに、自分の隠れているすぐ側を見つめられるたび、ヤギの姉妹たちは心臓が口から飛びだしそうになりました。
『謝られたって、食べられちゃったら……どうしようもないわよ!!』
『おねえちゃんっ……あ、あたし……』

 ――ぎしいっ!!


 突然、家じゅうに響いた大きな音に、一緒に隠れていた2番目の妹、六女の口を塞いで、四女のヤギは息を潜めます。
『しっ、静かに!!』
『…………っ!?』
「はうぅっ……」
 一方のオオカミはいきなりやってきたオシッコの大波と戦うのに必死でした。
 ぴくんと背中を伸ばして、テーブルに寄りかかって爪先立ちになります。尻尾がきゅるんと丸まって、ぐいっと膝がクロスし、内股になって腿がぎゅうぎゅうと寄せあわされていました。
(っ、やだ、出ちゃう、出ちゃううっ!!!)
 はあはあと息を荒げ、脚の間をぎゅううううっと押さえて、オオカミは必死にオシッコを我慢します。留守中の家の中にあがりこんでオモラシしてしまうなんて、どうやっても言い訳ができません。
 きつく目を閉じて息を飲み込み、なんどもなんども脚を押さえ、オオカミはどうにか大きな波を乗り越えることに成功しました。
「はぁ……はぁ……」
(ま、マズいわ……つ、次に、いまみたいなのが来ちゃったら、もう……が、我慢できないかもっ……)
 どうにか押さえこみはしたものの、オオカミのおなかの中の入れ物では、いまもオシッコが激しく揺れ動き、水面をざわめかせています。固く石のように張り詰めた膀胱は、外から見ても分かるくらいにはっきりと膨らんでいました。
 ほんの少しだけできた猶予の中で、オオカミはどうにかしてオシッコを済ませてしまわなければなりませんでした。せわしなく脚踏みをしながら、オオカミはなりふり構っていられなくなり、手当たり次第に家の中を物色しはじめます。
「っ……ぅぅ!!」
(ど、どこ? と、トイレ、トイレ、どこなのっ!? ……は、はやく、早く見つけなきゃ!!)
 手が震え、脚がわななき、ぶつかった洋服掛けが倒れます。テーブルが揺れて床に落ちたお皿が、がちゃんと音を立てて割れました。
『きゃぁあっ!?』
『オオカミが暴れだしたわ……!!』
『みんな、声を出しちゃだめ……!!』
 見つかったら食べられてしまうに違いない――そう信じているヤギの姉妹達は、まるで生きた心地がしません。ぎゅっと目を閉じ、身体を小さくして、込み上げてくる恐怖の衝動に耐えるのでした。








 -5-

 いっぽうのオオカミだって必死でした。黙って上がりこんだ人の家で、万が一にもオモラシなんてしようものなら、それこそ生きて行けないのですから。
「っ、どこ、どこよぉ!!」
 片っ端から家の中を歩き回り、探しまわり、そしてとうとう、オオカミは階段の下に目当ての場所をみつけました。
 そう、トイレです。待望のお手洗いです。『空いてます』とかかれた裏側に『使ってます』と記されている小さな木のプレートは、長女の手作りのものでした。
(あ、あったっ……)
 顔を輝かせて、ふらつく足取りでトイレに駆け寄るオオカミ。
 けれど、待ち焦がれていたトイレへと続くはずのドアは、固く閉ざされたまま、びくりとも動きません。
「な、なんで!? どうして開かないのっ!?」
 ドアノブにしがみ付いたまま、オオカミは力任せにドアを引っ張りました。がちがちと激しい音を立てながら、ドアが軋みます。
 それでも、ドアは開きません。
 それもそのはずです。トイレの中には、ヤギの姉妹の五女が隠れていたのでした。
 激しくがたがたとドアを揺すって開けようとするオオカミに、五女は必死になって身体ごとドアノブを掴み、抵抗します。
『や、やだ、こっち来ないで、来ないでよぉ!!』
「っ、ここなのにっ、この奥なのにぃっ……なんで開かないのよぉ!! あ、空いてるって書いてあるじゃないっ!!」
 オオカミは我を忘れてドアを引っ張っていました。この一枚向こうに、心の底から待ち焦がれたトイレが、オシッコのできる場所があるのです。あと数歩というところにトイレを見つけて、オオカミのお腹の中ではふたたび猛烈な尿意が渦巻き始めていたのでした。
『お姉ちゃん、あそこに隠れてるの気付かれちゃった!?』
『だめ、負けちゃダメよ!! 頑張って!!』
 他の場所に隠れていた姉妹達は声に出せないまま、トイレに隠れ続けている五女を応援しました。あのドアさえ開かなければ、オオカミにも見つからず、食べられずに済むのです。
「ちょっと、鍵……かかってないでしょ!? どうして開かないの!? どうして邪魔するのよっ!? あああぅぅ……っ!!」
 とうとう脚踏みだけでは堪えられなくなり、オオカミは、ドアノブを掴んでいた手を片方離して、キュロットの前をぐいいっと握り締めてしまいました。
 太腿の付け根をじぃんと痺れさせ、ぞわぞわと絞り上げるような尿意は、どんどんと激しさを増してゆきます。
 オシッコの重みに耐えかね、腰が引けた姿勢になって、オオカミはがちゃがちゃとドアノブを揺すりながら情けない声を上げ続けました。
「くぅ……や、開きなさいってば……と、トイレ……っ」
『っ、お願い、開けないで……!! た、食べられたくないぃっ…!!』
 さしもの力自慢のオオカミでも、腰が引けたままの姿勢では思うように力を篭められるわけがありません。ヤギの五女だって必死です。全身を使ってドアノブにしがみつき、オオカミに負けまいと身体全体でドアを押さえ込んでいるのです。
 オオカミは、ドアをこじ開けるのを諦めざるを得ませんでした。
 青ざめてドアノブを離し、おぼつかない足取りでよろよろと後ずさります。
「あ、開かない……そんなぁ……っ なんでよっ!!」
 八当たりに蹴飛ばした壁が、ぼこんとへこみました。
 オオカミはもう我慢の限界なのです。すぐ目の前にトイレがあるのに、そこにたどり着くことができないなんて、こんな辛いことがあるでしょうか。
 せっかくここまで必死になって我慢したのに、それを裏切られ、女の子の意地で必死に守りとおそうとしていたものが、とうとう負けそうになりつつありました。
(あ、あ、あっ、やばい、ダメっ)
 トイレに入ることができないと分かり、しゃがみこんでしまいそうになったオオカミの脚がぶるぶると震えだします。不自然くらいの内股で前かがみになって、少しでもオシッコの重みを軽くします。
「ど、どうしよう…っ」
 オオカミは、自分がほとんど動けなくなってしまっていることに気付きました。トイレまで辿り着きながら、『おあずけ』を強制された身体は、言うことを聞かずに勝手にオシッコを出そうとしています。
 けれど、オオカミがトイレの前から離れていっても、五女はドアノブを離すことはできませんでした。ドアの向こうを窺い知ることができないヤギの少女は、いまにもまたドアノブが恐ろしい力で引っ張られるのではないかと、強張った指でドアを握り締めます。
(っ……)
 涙の滲む可愛らしい目元が、ぷるぷると震えていました。
 恐怖と、ショックと、なんとか逃げ延びたという安堵感。みっつが入り混じった感覚に、小さな身体が小刻みに震え、限界を訴えます。
「ぁ……っ」
 じわぁっ……とヤギの五女の脚の間に、熱い滲みが拡がってゆきます。
 五女がトイレに隠れたのは、実はおやつが始まる前からトイレに行きたかったからなのでした。けれど、オオカミがいつドアを開けるかまったくわからないので、すぐ目の前にトイレがあるのに、ドアにしがみ付いたまま離れられなくなってしまっていたのです。
『やだ、やだ、ぁ……』
 どうすることもできませんでした。
 ほんのすぐ後ろにトイレがあるのに、怖くてたまらない五女はドアノブを離せません。それどころか、手を自由にしてスカートの前を押さえることすらできないのでした。
 ぱたぱたと震える脚が内股になり、ぎゅうっと寄せあわされ、それでもじゅんっ、じゅわわあぁ、とオシッコがパンツに滲み出していきます。
 しょろっ、しょろろっ、しゅわああ、と水音をこぼしながら、五女の白い脚を伝って、我慢しきれなかったオシッコがトイレの床にこぼれていきます。オモラシの証はあっというまに拡がり、水たまりを作ってトイレの床を満たしてゆきます。
 溢れ出すオシッコは、とどまる勢いを知りません。
『やだぁ……お、お手洗いの前なのにっ……お、オモラシなんか……ぁ』
 けれど、それでもやっぱり五女には、ドアの前から離れることはできませんでした。
 中腰になって震え続ける五女の足元で、オシッコは薄黄色の大きな湖をつくってゆきました。








 -6-

 悲劇が襲ったのは、五女だけではありませんでした。
 おやつに食べたプリンや木苺のジュースは、ヤギの姉妹達に、ひとしくおなじ苦痛を与えていたのです。
 いえ、トイレに篭っていた五女はまだ幸せでした。間に合わなかったとしても、オシッコのできる場所がすぐそばにあるだけ、五女は救われていたのです。
『お、おねえちゃぁんっ……』
 六女のヤギが、まだ舌足らずな声をあげ、ぐいぐいと4番目の姉の服の裾をひっぱります。六女もまた、木苺のジュースの飲みすぎで、さっきから途方もない尿意をじっと我慢していたのでした。
『あ、あたし、おトイレ……オシッコ…』
『だ、だめっ、我慢してっ……』
『だめ……でちゃう、でちゃうぅ……』
 これまでも何度も、姉である四女の言葉にしたがって、必死に我慢を続けてきた六女ですが、そろそろ限界が訪れていました。いくら足をぎゅっとくっつけて我慢していても、もうオシッコの方が勝手に出始めてしまうのです。
『も、もぉ、ダメぇ……』
『や、やだ……我慢して、お願い……っ、じゃ、じゃないと、あ、あたしまで……、一緒にっ……』
『おね、おねえちゃ、ぁ、ぁあぁ……~~っ』
 限界を訴える妹に、お姉さんの四女も慌ててしまいます。四女だって、妹に負けないくらいオシッコがしたくてたまらなかったのでした。
 でも、もうそれもオシマイです。俯いた六女の小さな身体がぷるぷると震えたかと思うと、その足元がじゅわじゅわと熱い雫に濡れていきます。
『だ、ダメよ……オシッコしちゃだめ、お願い……だからぁっ』
 四女のその言葉は、半分は自分へと向けられていたものだったのです。
 戸棚の中に拡がってゆく暖かい感触。目の前で始まってしまった妹のオモラシが呼び水になって、これまでなんとか姉の威厳を保とうとしていた四女まで、きゅんと疼く尿意を押さえ込めなくなってしまいました。
『ぁ、あ……ぅッ……』
『やだぁ……オモラシ……気持ち悪いよぉ……』
『あ、だめ、う、動かない、でぇ……ッ!!』
 おしりをびっちゃりと汚すオモラシの不快感から逃れようと、六女がむずがるように暴れます。それよって、おなかをぐいっと押されてしまったのが引き金になりました。
『ぁああ、あっ……で、でちゃ……ぅ……』
 二つの水音が、狭い戸棚の中に重なります。
 小さな妹だけでなく、お姉さんの四女まで、一緒になってオモラシをはじめてしまったのです。妹の前で我慢しきれずオシッコを出してしまう羞恥に、おませな四女は目の前が真っ暗になってゆくのを感じました。
 しゅわしゅわと入り混じって、戸棚の中に、二人分のオシッコのにおいが篭ってゆきます。狭い戸棚の中でぎゅっと身体を寄せあいながら、二人はとうとう泣き崩れてしまいました。








 -7-

 それは、他の姉妹達も一緒でした。
 柱時計とクローゼットの中。食器棚、暖炉の奥。
 オオカミから隠れたヤギの姉妹たちは、緊張と恐怖で、耐えがたいほどの激しい尿意を感じていました。一番上のお姉さんである長女すら、いつ漏らしてしまってもおかしくないほどでした。
 ですから、それよりも年下の姉妹たちが、いつまでも我慢を続けていられるはずもありません。ヤギの姉妹達はぞれぞれ繊細で敏感な小さな膀胱をパンパンにして、必死にオシッコを我慢し続けていました。
 全員、すっかり我慢の限界で、オシッコがしたくてしたくてたまりません。
 けれど――
『っ、お願い、早く出ていって……』
『も、もう、誰もいないんだから……』
『は、はやく……』
 けれど、そうやって隠れたままではオシッコをする事はおろか、身じろぎひとつうまくできません。体をゆすることも、腰をくねらせることも自由にならないのでは、ちゃんとオシッコを我慢することすら難しいのでした。
 でも、もしオシッコを漏らしてしまえば、その音と匂いですぐにオオカミに気付かれてしまうかもしれません。だから、ヤギの姉妹達は必死になって、オシッコの出口を閉めつけて、オモラシをしてしまわないように我慢していました。
 物音を立てないようにじっと息を潜めて、足の間に力を篭めて、手のひらや小さなでっぱりにぎゅっぎゅっとあそこを押しつけて、必死に必死に我慢します。
 なかでも、特にお姉さんである長女、次女、三女の我慢は強烈でした。
 オオカミに見つかってしまうかも知れないということがはっきり分かっている上に、妹たちの手前、お姉さんである自分たちが先にオシッコをもらしてしまう訳にはいかないと思っていたからです。








 -8-

 クローゼットの中に隠れた三女は、みんなの服を濡らしてしまわないように、足の間に手を挟んで、オシッコの出口を指で直接押さえこんでいました。
 まるで、指でオシッコの出口に栓をしているかのようです。
『か、替えのパンツならいくらでもあるけど……お、オモラシなんか……っ』
 なんとも運の悪いことに、つい最近、一番下の妹がオムツを卒業したため、クローゼットの中にはみんなの着替えしかありません。
 もし、まだここにオムツが残っていれば、何がしかの言い訳ができたかもしれないのですが――。
『って、ち、ちがうってば……!! そ、そうじゃなくて……、な、なに考えてるのよ、そ、そんなんじゃ、ま、まるであたしが、オムツ、使いたいみたいじゃ――!!』
 オムツというのはつまり、トイレと同じようなものです。トイレのしつけが終わっていない小さな子が、トイレの変わりにオシッコをしてしまう場所なのです。だから、もしオムツがあれば、三女はそこにオシッコを――
『だ、だからそうじゃないでしょ!? も、もうちゃんとお姉さんなんだから、我慢しなきゃ――!!』
 必死に頭を振ってイケナイ妄想を振り払おうとする三女でしたが、ひくつく股間はおさまりません。
 ましてここはクローゼットの中、着替えならいっぱいあるのです。
 そう、たとえば――
 たとえば、一番下の妹が、二番目の妹が、何かの拍子に我慢ができなくて、オモラシをしてしまい……その汚れたパンツや服を、こっそりここに隠していたとか――そんな言い訳がありうるかもしれません。
 つまり、妹達の誰かのパンツを使って、三女が我慢しきれずに溢れてしまったオシッコを吸いこませてしまえば――
『ば、馬鹿!! な、なにしようとしてるの、あたし……!? い、妹のパンツに、オシッコ、ひっかけちゃうなんて――!!』
 言葉では否定しても、三女の指は自然、妹達のパンツを掴んで握り締め、ぎゅっと爪を立てて離しません。
 たぶん、ひとり分じゃとても間に合わないでしょう、このおなかをたぷたぷにしているオシッコ全部を始末するには、同時に何枚も使わなければいけません。
 でも、自分より小さな妹達なのですから、たとえば本当に我慢できなくて、そんなことだってあるのかも――
『ぁ、あああっ……だ、だから、違うくって……っ!!』
 三女は、はしたない誘惑を振りきろうと、片手で自分のパンツを、もう片手で妹たちのパンツを握り締めて、終わらない苦悩を繰り返すのでした。








 -9-

 暖炉の奥にぎゅっと身を潜めた次女は、脚のかかとにぐりぐりとあそこをねじるように押しつけて、いまにも噴き出してしまいそうな熱い奔流を押さえ込んでいます。
 火の消えた暖炉の中には灰が敷き詰められていて、ちょっと動いただけでもすぐにそれが舞い上がってしまいそうなので、次女はほとんど身動きできないままでした。脚を動かすことも、お尻の位置を変えることもできません。
 荒くなりそうな息もぐっとおさえこみ、小さく小さくか細い呼吸を繰り返します。
『ぁ、あくっっ、う……』
 なにしろ、ちょうど暖炉のなかの、灰の上なのです。誰も見たりはしません。少しくらい漏らしてしまっても、証拠が残るわけもなく、我慢するのだって相当辛いものでした。
 でも、こんなところで万が一にでも、オシッコをしてしまえば――その勢いでたちまち灰がもうもうと舞いあがり、あっという間にオオカミに見つかってしまうはずでした。
『う、ぁ、あっ。……あ、あと、ひゃく、きゅうじゅうきゅうっ……きゅうじゅうはちっ……』
 微動だにせぬままでオシッコを我慢するのは途方もない苦行です。
 次女は、折れそうな心を支えるために声に出さずに数を数え続けていました。
 ――あと百数えたら、オシッコをしてもいい。
 そう自分に言い聞かせて、百を数えるあいだだけ必死に我慢をするのです。終わりのない我慢では心が負けてしまいそうでも、おしまいがある我慢なら、なんとか耐えきれそうな気がするのでした。
 ちょうど、かくれんぼで鬼になって数を数えるように。その間だけはじっと我慢をして、それが終われば、自由になれるのです。
『はちじゅうさん、はちじゅう、にぃ……っ、は、はちじゅう…い、いちっ……』
 でも、次女があと百数えるだけと自分に言い聞かせるのは、これで4度目なのです。
 いったいあと何回、『あと百数えるだけ我慢』を繰り返せば、オシッコを出していいのでしょうか。
『ろ、ろくじゅう、ご、っ……ろ、ろくじゅう、ろくっ……』
 だんだん頭がぼうっとしてきて、なにも分からなくなりながら、ときどき増えてしまう数字を繰り返し、次女は指を噛み締めて百を数え続けました。








 -10-

 長女は、食器棚の中で必死に誘惑と戦っていました。
 たくさんの食器がしまわれた食器棚で、長女が隠れている目の前にはちょうど、みんながごはんに使っているミルク入れがあります。姉妹全員とお母さんの分、あわせて8人分のミルクをいれておく壷から、長女は目を離せずにいました。
 長女のそばでは、オシッコ我慢の悪魔がイケナイことを囁き続けます。
『だめよ、だめだったら……そ、そんなの、できるわけないじゃないのっ……』
 オモラシなんて許されない、一番上のお姉さん。
 どうしても我慢できないのですから、せめて、下着を濡らさずに、こっそりとでも、どこかにオシッコを済ますことができれば――そんな風に考えてしまったのがいけなかったのです。
 家族みんなが飲み干しても、まだ余るほど、たっぷりとミルクを注いでおける、大きな壷が――目の前にありました。
『だ、だから、だめだってば……っ!!』
 この、大きな入れ物になら、いまもなお膀胱をはちきれんばかりに膨らませている、おなかの中のオシッコを、全部、すっきり、ありったけ、出してしまえるのではないでしょうか? 長女は、その考えを振り切ることができませんでした。
『み、みんなの使う、だいじな食器なんだから……で、できるわけ、ないじゃないっ……』
 女の子として当たり前の羞恥心と、お姉さんとしてのプライド。それをもってしても、暴れ続けるオオカミの恐怖と、もう限界を超えつつある尿意は耐えがたいものです。
 ぞわぞわぁっ、とお尻から腰を伝って背中に昇るイケナイ刺激に、長女は情けなく声を上げてしまいそうになります。
『あ、ぁああっ』
 我慢、我慢、我慢。
 イケナイこと、しちゃダメなこと。自分にそう言い聞かせようとする長女でしたが、必死に奮い立たせようとする勇気も、尿意の大津波にさらされてへにゃんと萎えてしまいます。
『うぅ……く、ぅ……っ』
 このまま。
 このまま、オモラシしてしまうくらいなら、せめて――、いっそ。
 こんな所で、下着や床を、汚してしまうくらいなら。せめて――汚すのはあのミルク入れ、ひとつだけにしたほうが、まだマシなのでは――
『っ…………み、みんな……』
 ほとんど無意識に、“ごめんなさい”と口にした長女の手が、勝手にミルク入れを掴み引き寄せます。
 大きな壷の口を脚の付け根の間に沿えて、ぐいっと下着の股布を横に引っ張り、ひくひくと震えているオシッコの出口を――
 そこで、長女ははっと我に帰りました。
『あ、あは、……なんてね、で、できるわけ、ないじゃないの、ねえ……。な、なにしようとしてるのかしら、私……だ、ダメに決まってるじゃない。……こんな、こんなの……っ、わ、わたしが、いちばん、お姉さんなんだから……こ、こんな、ところで……しちゃうなんて……っ』
 あと一歩。あとほんの、ひと押し。
 最後の最後の一線で我に帰り、理性を取り戻し、長女は自分のしようとしていたコトをごまかそうとしました。
 込み上げてきた後悔に、胸が押し潰されそうになります。
 長女はぎゅっと目を閉じて俯きました。一番お姉さんなのに、一番我慢できなきゃいけないというのに、こんなにもあっさりくじけてしまいそうになるなんて。
 これでは、まだオムツも取れたばっかりの妹に、おトイレのしつけをすることも許されないでしょう。
 けれど。
 なまじ、被害を出すことなく、もう限界のオシッコを受け止める事ができる入れ物がある、という分だけ、ほんとうは一番我慢ができなければならないはずの長女は、オシッコを堪えつづけるための意志を揺るがされていました。







 -11-

 そして――
 限界ギリギリの我慢が、そうそういつまでも続くはずもありません。

『あぁああ、あっ』
『だ、だめ!!』
『んんぅぅっ!!』

 じゅわ、じゅじゅ、じゅぅぅう!!

 3人の姉たちは、仲良く、ほとんど同時に、隠れていた場所の中であそこから恥ずかしい熱湯を噴き出させてしまいました。
 おさえようとする声が、くちびるから小さく漏れてしまいます。
 耐えに耐えて辛抱し続け、それでもとうとう我慢できなくなったオシッコを漏らしてしまう解放感に、3人の姉は抗いきれませんでした。
 おチビりはあっというまにオモラシになり、妹達よりもいくらか育ったお姉さんヤギたちの下半身を水浸しに変えてゆきました。
 我慢の果てに訪れた強制的な尿意からの解放に、姉としてのプライドを微塵に砕かれながら、長女、次女、三女の3人は、それぞれの場所で本格的にオモラシをはじめてしまうのでした。








 -12-

 柱時計のすぐ側を、激しい足音が行き来します。
 暴れるオオカミの息遣いすら、はっきりと聞こえてくるほどでした。
「やだ、やぁ、……あ、開けないでぇ……っ」
 オオカミの気配にすっかり怯えきり、もう声を潜めていることもできず、七女……一番年下の妹ヤギは、恐怖と孤独に戦いながら、全身を使ってオシッコを我慢していました。
 我知らず、ガクガクと膝が震えます。恐怖が理由なのか、オシッコがしたいのかはもう自分でもわかりませんでした。
「やだ、やだ、やだぁ!!!」
 泣きじゃくりながら、末の妹がしゃがみ込んだ柱時計の中は、どんどんと色濃く変わってゆきます。
 じつは、姉妹たちのなかで一番オシッコを我慢していたのは末妹の七女なのでした。
 隠れる前にも、何度も姉にオシッコがしたいと、トイレに行きたいと訴え続けていたのに、オオカミから逃げることに夢中になっていた姉達には聞きいれてもらえなかったのです。
 だから、これまで七女がオシッコを我慢し続けていられたのは、ほとんど奇跡のようなものでした。
 夜、寝る時のオネショ防止用のオムツが取れたばかりの七女は、押しこまれた柱時計の中で、お姉ちゃん達の言い付けを守って、ただじっと声を殺し、オシッコを我慢していました。姉妹でも一番小さな身体で、一番たくさんオシッコを我慢し続けていました。
 でももうダメです、もう限界です。まるで弾けた水風船のように、倒れたガラスのコップのように、高く高く吹き上がる噴水のように、オシッコはあとからあとから溢れ出してきます。
「あああ、やだ、やだよぉ…!!」
 じゅわぁあとパンツの股布にぶつかる熱い雫が、一番年下の妹の、小さな身体を伝って太股から足元へと滴り落ちてゆきます。座り込んだお尻の下で、パンツと服をびちゃびちゃに汚し、じゅわじゅわと拡がり、オモラシの決定的な証拠を増やしてゆくのです。
 自分の身体なのにどうすることもできず、七女はただ、もうこれ以上オシッコが出ないように、お願いを続けるしかありませんでした。
 けれど滝のように溢れるオシッコは止まりません。オシッコの出口が壊れてしまったかのようでした。これまで末の妹がしてしまった、どんな限界ギリギリのオモラシよりも、オネショよりもさらにさらに激しく、オシッコは出続けます。
「あう、あ……ぁ、あぁ……~~っ……」
 その勢いと量といったらすさまじく、いったい末妹が、こんな小さな身体で、どれくらい我慢をしていたのか、呆れてしまいたくなるほどなのでした。


 





 -13-

 そして――

 だんっ、だん、だんっ!!

「ぁあう、あっ、あ、ま、あぁあ!!」
 オオカミもまた、とうとう居間の真ん中で、一歩も前に進めなくなっていました。ガクガクと震える膝が、その場でばたばたと床を踏み鳴らします。まるでふくらはぎが丸太のように突っ張って、自分のものではないかのようです。
 オオカミは歩くかわりに、吹き出しそうになるオシッコの出口を塞ぐための脚踏みを繰り返していました。握り締めた椅子の背中がぎしぎしと軋み、我慢の末にぱくりと開いたくちびるからは、荒く切羽詰まった息がこぼれます。
「あ、……は、うっ、あ、くぅ……」
 そんな有様ですから、ヤギの姉妹たちもすっかりおびえてしまって、誰一人として出て来れないのでした。何度もおチビりを繰り返した末、すっかりびちゃびちゃになってしまった下着が、ぐっしょりと脚の間にへばりつきます。
(も、もうダメ、オモラシ……出ちゃう、オシッコ……っ)
 じゅじゅ、じゅぶ、じゅうぅ、と現在進行系でどんどんと色を変えるキュロットの前を押さえ、きつく握り、オオカミは涙をこらえてすがるように――あたりを見回しました。
 このオモラシが、もはや避け得ない運命なら、せめて、誰も見ていない事を確認しようとしたのです。
 その時でした。
(え……っ)
 オオカミの目の前で、ぎしぎしと、壊れていた玄関のドアが軋みます。
「あら、玄関が壊れちゃってるわ。……みんな、なにかあったの?」
 そう。ヤギのお母さんが帰ってきたのでした。








 -14-

「あら……?」
 傾いて軋んだドアを開けた先の、家の中の惨状に、お母さんヤギは思わず眉を潜めてしまいました。洋服掛けは倒れ、食器は床に落ち、壁はへこみ、絨毯はくしゃくしゃに寄っています。
「あらあら、みんな、お留守番はどうしたの――」
 不審げに家の中に踏み入れたお母さんヤギ。
 それと同時に、

「「「「「「「うわぁあぁーーーんっ!!」」」」」」」

 家の中のあちこちで、一斉に泣き声が上がりました。
 食器棚、クローゼット、暖炉の奥、戸棚の下、トイレ、そして柱時計の中。
 隠れていた姉妹たちが、お母さんの声に我慢しきれず泣き出してしまったのです。
 それぞれオモラシをしてしまった七人のヤギの姉妹たちは、次々と濡れた脚を引きずって、隠れていた場所を飛びだし、居間のお母さんに抱きつきます。
「ごめんなさい、お母さんっ……」
「お、オモラシ……」
「と、トイレ、が、我慢できなかったのっ」
「わたしなんか、一番お姉ちゃんなのに……」
「オシッコ、でちゃった……」
「ごめんなさいぃ……」
「ママっ……うわぁーーんっ!!」
「……ちょ、ちょっと、いったいなにがあったの……!? あなたたち…?」
 オシッコまみれの下半身のまま、お母さんにしがみつき、べそをかいて泣きじゃくる七人の姉妹に、お母さんヤギはさらに呆気にとられてしまいました。
 それだけではありません。
 居間には、もうひとり大変なことになっている女の子がいたのです。
「あ……ぁ」
 床にぺしゃんと座りこんで、閉じた脚の間に両手を押し込んで、オシッコ我慢の限界にぐいぐいと腰をくねらせねじりつけ。
 両膝をまるめ、尻尾を垂れさせ、耳をくたりと倒し、必死にオモラシを堪えているオオカミの少女を見て、お母さんヤギは目を丸くしました。
「あなた……?」
「お、お願い……み、見ない、で……ぇ」
 目をうるませながら、か細い声で悲鳴を上げるオオカミ。
 オオカミの身体は、勝手にオシッコを絞り出そうとしていました。オモラシのカウントダウンに入り、パンパンに膨らんだ膀胱の膨らみが、脚の付け根に向かって降り、キュロットのおなかをまあるく膨らませています。
 なにしろ、オオカミは昨日からオシッコができていないのです。そのおなかはまるで赤ちゃんがいるみたいにまるーく膨らんでいて、その激しさといったら、まるで姉妹7人分のオシッコを全部一人で我慢しているかのようでした。
 オシッコの出口のすぐそこまで、ずっと我慢し続けだった大量のオシッコがやってきているのでした。オオカミはもう、動けません。
 見知らぬ少女の大変な有様に、お母さんヤギはぽかんと口をあけるばかりです。
「ひっく、こ、この、オオカミのお姉ちゃんが……っ」
「あ、あたしたちね、食べられちゃうの……」
「怖かったのぉ、ママ……ママぁ……っ」
 口々に訴える姉妹たちは、オオカミの少女を指差しました。
「そ、そんな、違ぁ……やだ、ぁ……ち、違うのぉ……っ!!」
 けれど、オオカミにはそんなつもりはないのです。
 ただただ、トイレに行きたい――オシッコがしたいだけなのでした。耳まで真っ赤になりながら、掠れるような悲鳴をあげるオオカミは、どこにでもいる、ごく普通の女の子でした。
 そんな女の子の足元で、じゅじゅぅ、じゅわああ、と篭った水音が響きはじめます。
「やだぁ、……と、トイレ……オシッコ、ぜ、ぜんぶ……でちゃう……、出ちゃうよぉ!!」

 じゅじゅじゅしゅわ、じょわあああぁっ、
 じょば、じょじょじょっ、じょぼぼぼぼぼぼぼぉ……

 ヤギの姉妹とお母さんの見ている前で、オオカミの少女は、とうとうオシッコをはじめてしまったのでした。
 オオカミの膨らんだ風船のようなおなかから、まるで滝のようにものすごい勢いでオシッコが噴き出し、床の上に撒き散らされてゆきます。
 丸一日我慢し続けていたため、オオカミのオモラシはヤギの姉妹たちのどんなオモラシよりも激しいものでした。あんまりすごい勢いなので、姉妹のうち、下の妹たちの中にはそれにつられて、まだおなかに残っているオシッコを絞り出し始めてしまう子まで出てしまいます。
「ひっく……ぁう……っ……」
 オオカミは真っ赤になった目をこすります。
 オシッコの湖に拡がる波紋は、ぬぐいきれなかった涙の雫でした。ヤギの姉妹たちも、同じように内腿の間にオシッコの筋を伝わせながら、ぽろぽろと涙をこぼし続けていました。
「ええと……どうしましょう……?」
 七人の姉妹と、オオカミの少女――8人のオモラシによってそこらじゅうオシッコまみれになってしまった家の中で、お母さんヤギはすっかり事態についていけずに、ひょっとしてわたしもオモラシしなければいけないのかしら……なんていうようなコトを考えているのでした。





 ……めでたし、めでたし。




(初出:おもらし特区 2008/07/27 2008/09/27改訂)
[ 2008/11/10 19:10 ] WetMarchen | トラックバック(-) | コメント(-)
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