FC2ブログ



スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

春休みの話 

 
 暦の上では春とは言っても、まだ幾分寒さの残る風が吹き付け、商店街を行く人々の間を駆け抜けて行く。あいにくと曇り空の下、雨の気配を感じた店の人が傘立てや雨除けを引き出し、夕方からの下り坂の天気に備えていた。
 そんな雑踏の中を進む、ポニーテールの少女の姿があった。
 知らない街を歩くことへの緊張からか、幾分硬い表情の少女は、学校指定の制服とコートを着込み、手提げ鞄からは大きな封筒を覗かせている。
 葦原ユミは、無事推薦で合格を決め、この春から通うことになる私立学校の校舎に、案内を貰うためにやってきていた。
 新しい学校はこれまでユミが通っていた学校と同じ市内にあるが、距離としては倍近く、家までは歩いて30分ほどもかかる。道を覚えるためにも時間をとって歩いてきたのだが、不案内な道で途中、何度か迷い、案内を受け取れたのは受付時間ギリギリにになってからだった。
(もう少し、あとちょっと……)
 ユミが向かっているのは通りの向こう、普段は滅多に使わない、市内北西部の私鉄の駅の南口だ。電車通学の生徒はここを利用するらしいが、ユミの通学路とはまるで正反対である。
 ユミが、またも通学路から大きく外れたこの商店街を歩いているのは、また道に迷ったから――ではない。もっともっと、切迫した理由からのことだった。
「ん、ぅ……」
 小さな呻きと共に、少女の腰が左右に揺すられる。
 暖かくなり始めたこの季節には少々重たいコートの前をぴったりと合わせ、その上からそっとお腹に手を添えて、ユミは時間と共に険しくなる下半身の緊張を少しでも和らげようとする。
 硬くこわばった表情は、頬にわずかな赤みが差していて、荒い息が小さな唇から漏れている。まるで全力疾走でもしてきた後のようだが、むしろ少女の足取りは重くおぼつかない。視点は前方の一点に固定され、周囲を気にしている余裕はないようだった。
 ユミの視線の先には、通りの反対にある駅舎南口の階段がある。
(あとちょっとだけ……あそこまで、我慢すれば……っ)
 あとほんの数十メートルで、この3時間にもおよぶ戦いにも終止符が打てる。それを心の支えに、ユミは内腿の筋肉をぎゅっと緊張させる。
 目的地を前にざわつき始める水面と、今すぐにでも放水の誘惑に屈しそうになる排水口を感じ、下腹部を押さえる手のひらにきつく力が篭る。
 とにかく、校舎でトイレを借りなかったのは失敗だった。かなりおトイレに行きたくなっていたのに、家まで我慢できるだろうと思ってしまったのが運のつき。学校を出て10分もしないうちに、事態はユミの想像を超えて急速に進行していった。
 その頃にはもう引き返すまで辛抱する気力もなくなり、ユミはまっすぐに、このあたりでただひとつ心当たりのあるトイレである、この駅へと向かったのだった。
(もうすぐ、おトイレできるから……あと、ほんのちょっとだけ……っ)
 駅舎の南北通路に繋がる階段。あそこまでたどり着け、ば硬く張り詰めた膀胱の中身を、残らず出すことができるのだ。そう思うだけでじんじんと脚の付け根に響く甘い痺れがさらに強まり、ユミを苦しめる。
 コートの上から制服のスカートの前を押さえ、もじもじと腰を揺すりながら、ユミはぎゅっと唇を噛んだ。ますます頼りなくなった足取りでもたもたと進む小柄な少女を、買い物帰りの主婦や帰宅途中の生徒達が次々と追い抜いてゆく。
(は、はやく、おトイレしたい……っ)
 もう何時間も前から、心の中を占めている切なる願いを繰り返し、ユミは小刻みに震える足で横断歩道を渡り、駅舎の階段に足をかけた。
 エスカレーターならば緊迫する下半身に余計な負担をかけずに済むのだろうが、生憎と築30年を数える古い駅舎にはそんなものは備えられていない。手摺を使いながら、ユミは一歩一歩、慎重に階段を上ってゆく。
 ようやく昇りきったユミは、記憶に頼りながら駅舎の通路を見回した。ほとんど使わない駅だが、ここに、トイレの案内板があったのは辛うじて覚えている。  
 落ち着きなく周囲を巡る少女の視線は、やがてすぐにトイレの文字を刻んだ案内板を捕まえる。
 だが――
「ええっ……!?」

 おぼろげな記憶の通り、確かにトイレへの案内板は壁にあった。しかし、

『トイレ→』

 無常にもその矢印は、改札口の向こうへと続いていたのだった。
 予想外の事態にユミはしばし呆然となる。
 築30年の駅舎には、二つも三つもトイレを設けている余裕はなかったのだった。改札口の横には、小さな張り紙があり、そこには『お手洗いをご利用の方は声をおかけください』と書かれている。
 だが――
(そ、そんな……ぁ)
 衝撃だった。マラソンを走り終え、ふらふらになってたどり着いたはずのゴールが、まだ10キロも先にあると宣言されたようなものだ。
 きゅううん、と下腹部で尿意が高まり始める。ここまで我慢すればという心の支えが大きく揺らいでいた。
(え、駅員さんに、おトイレ行きたいですって言わなきゃいけないの……? そんな、は、恥かしいよぉ……)
 ただでさえ繊細な思春期の少女だ。まして、ユミの羞恥心は、こと排泄に関しては非常に敏感なものだった。本当ならトイレに入るところすら誰にも見られたくないくらいである。
 だが、駅員にトイレを借りたいことを説明して改札口を抜けるということは、いまユミが絶賛トイレ我慢中であり、ここのトイレを使わなければ、とても間に合わないということを口にするに等しいのだ。
(な、なんでこんな、イジワルするの……っ!?)
 無機質に並ぶ自動改札のゲートは、ユミをトイレに行かせるまいと硬く閉ざされた城門のよう。傍に立つ制服姿の駅員は、さながら門番のようだった。
 本当なら公衆トイレに入るのすら嫌なのに、人前で尿意を口にするなんてとんでもない。ユミにはとてもそんな勇気はなかった。思わず俯いてしまったユミの頬が、一層赤くなる。
 だが、そんな事情などお構いなしに、じんじんと疼く下腹部はますますその限界を訴えている。鉄壁の守りを見せる改札口に対し、ユミのおヘソの裏側のダムを塞き止める水門は見るからに頼りなく、わずかな刺激で脆くもこじ開けられてしまいそうだ。
「……んぅっ……」
(だ、だめ……間に合わなくなっちゃう……!!)
 思わず小さく声を上げてしまってから、ユミはもう余裕がないことを改めて悟る。3時間の我慢を経て、排泄孔を締め付ける括約筋はもう限界を訴えていた。これ以上焦らされ続けたら、遠からず貯水量を越えた奔流が激しくスカートの中からあふれ出してしまうだろう。
「………っ」
 迷いと共にちらりと駅員を見、胸の奥で激しくなる鼓動を感じながら、少女は覚悟を決めて、改札口横の切符売り場へと向かった。人がまばらなのをいいことにもたもたと制服のポケットから財布を取り出し、百円玉を二枚、券売機に放り込む。
 一番左端の安い区間である160円のボタンを押すと、切符とおつりの40円がじゃらりと出てきた。ユミはやるせない気分と共に切符を掴み、おつりを乱暴にポケットに放り込む。
(お母さん、こんなのにおこつかい使っちゃてごめんなさい……)
 缶ジュースよりも高いこの金額が、言わばずトイレへ入るための入場券だった。思春期の少女が、繊細な羞恥心を守りながらあの堅牢な城門を潜り抜けるために、必死に考えて出した答えなのである。
 ただオシッコがしたいだけなのに、こんなお金を払わなければならない理不尽に唇を噛み、ユミは踵を返して改札口に向かった。
 自動改札に切符を差し込む一瞬だけ、言い知れぬ不安を覚えて駅員のほうを窺うが、無論ながら彼等はユミの『目的』に気付いている様子はない。
 そのことにわずかなりとも安堵を覚えつつも、ぱしゅん、と開くゲートをくぐって、ユミはできるかぎりの早足で駅構内へと進んでいった。
 おなかの中ではくつくつと尿意が沸き立ち、ユミの一番敏感で脆い部分が、身体の内側から執拗にノックされ続けている。腰をさりげなくくねらせるだけではもはや分散しきれない、大きな波が脚の付け根に向けて打ち寄せているようだ。
(は、はやく――)
 構内のトイレは改札口を抜け、右に曲がった突き当たりにあるらしい。道案内の黄色い凹凸タイルを辿るように続く矢印を追いかけ、ユミは一目散にそちらへと向かう。

 そして――

「う、うそっ……!」
 目の前の光景に、ユミはとうとう声を上げてしまっていた。
 わざわざ入場券を買ってまで厳重な警備の改札口をくぐり抜けたその先、待望のトイレを目前にして、ユミの足はぴたりと止まってしまう。あとほんの数m先に、自分を苦痛から解放してくれる場所をみつけながら、ユミの脚は止まったまま、その場から進むことも戻ることもできなくなっていた。
 一刻の猶予もない尿意にせかされ、すぐに駆け込まねばならないそのトイレの入り口には、『清掃中』の立て札があった。
(っ……や、やだっ、なんで、こんなぁ……)
 ユミは今日の不運を呪って泣き出したい気分だった。立て札には添え書きのように『ご利用の方は一声おかけください』とあるが、そんなものはユミにとって慰めにもならないものだ。
 少女にそんなことができるくらいなら、改札口を抜けるのにわざわざ切符を買ったりしない。
(ど、どうしよう……っ)
 確かに清掃中とは言え、トイレそのものがまるっきり消えてなくなったわけではない。入り口が岩で塞がれていたり、コンクリートで塗り固められているわけでもない。ユミの行く手を阻む立て札も、物理的にはただちょこんっと隅に置いてあるそれだけのもので、左右を遮るロープすらない。その気になれば中に入ることは簡単なことだ。
 しかしそのためには、『ご利用の方』として『一声おかけ』しなければならない。清掃員や、駅構内にいる人々に、ユミがなりふり構わずトイレに駆けこまねばならないほど、我慢が切羽詰っていることを教えてしまうのも同じことだった。
(そ、そんなの……やだっ、できないよぅ……っ。……こんな、お掃除中でも、……平気でおトイレに行く子だって思われちゃう……)
 それは、学校でトイレに行くのを悟られることすら恥かしがる、この年代の少女にとってあまりにも重い行為だ。思春期特有の過敏な羞恥心は、排泄という行為を激しく拒絶していた。まるで中世の貴族のように、自分がそんな下品な行為とは無縁の存在だと示したいかのようにさえ振舞うことがある。ユミもまた、小さな頃の失敗が理由で、トイレを人に知られるのを極端に嫌がっていた。
 また、忙しそうに清掃作業に走り回る清掃員たちが出入りをしているトイレの中は、とてもではないけれど気軽に入り込める様子はないことも、ユミの躊躇に拍車をかける。
「……あら?」
 またも立ちすくんでしまうユミのそばで、改札口のほうから歩いてきたスーツ姿の女の人がいったん脚を止め、小さな吐息と共に通り過ぎてゆく。どうやらこの女の人もトイレに用があったらしいが、入り口の『清掃中』の立て札を見て考え直したようだった。
 ホームに下りていくその背中を思わず追ってしまいながら、ユミは赤くなって俯いてしまう。
(どっ、どうしようっ……)
 そう、あの女の人が普通なのだ。ここのトイレが使えないなら、他のトイレまで我慢すればいい。それだけのことだ。けれどユミの脚はまるで靴底が床に接着されたみたいに、その場を離れない。
 ここのトイレは使えないと、頭では判断しているのに、ユミは立ち去ることができずにいた。下半身は惨めたらしく、むずがるようにここのトイレを使いたいと訴え続けている。いっそここが完全に使用不能であれば踏ん切りもつくのだろうが、なまじ侵入が容易そうに見えるだけ、ユミはその誘惑をたち切れなかった。
 いつしか、立ち尽くすユミの手のひらは、コートの上から再び脚の上に添えられている。細く小さな手のひらはさっきお腹を押さえていたよりもさらに下のほう、直接出口を塞ぐような位置に移動していた。
「ぅ、くっ……」
 ソックスに包まれた脚がぎゅうっとクロスされ、かかとが緊張に触れて持ち上がる。もはや、駅員に知られずにトイレにいこうとした努力も、まるっきり地に返すような状態であった。
(オシッコしたいっ……も、漏れちゃうっ……)
 待望のトイレを前に、生理的欲求はますます激しいものとなる。朝から我慢をし続けている恥ずかしい液体を納めた入れ物、おなかの中からせり出して、脚の付け根の出口に向かって下降してくるかのようだ。
 ちくちくと針のような刺激が下腹部に走り、沸騰する尿意が少女の理性を激しく焦がす。体重を預ける足を入れ替え、身体を左右に揺するたび、たぷんたぷんと身体じゅうが揺れるようだ。
 今から改札口までもどり、そこから再度、別のトイレを探すか、あるいは家を目指すなんて、とても出来そうになかった。そもそも、本当にそこまで我慢できる自信があるなら、こんなところのトイレを使おうとは思わないのだ。
(お、お掃除終わるまでここで待てば……おトイレ、いけるから……それまで、が、我慢すれば……っ)
 現実的に考えれば、それこそあまりに非合理な行いだ。砂漠やら人跡未踏の地でもなければ明らかに他のトイレを見つけるまで我慢したほうがいいはずだが、さらなる我慢の延長戦を続けながら、本当に見つかるかも分からないトイレを探すよりも、待ってさえいればいつか空くであろうトイレの傍にいるほうが、今のユミには楽に思えてしまうのだ。
(だ、だいじょうぶ……じっとしてれば、我慢できるから……っ)
 その思いとは裏腹に、ユミの身体は激しく左右にくねり、その場で足踏みをするように両のかかとがステップを刻み、爪先はぐりぐりと床のタイルに押し付けられる。
 小さな子でもしないような我慢の仕草は、見るものにはっきりと危機感を抱かせるほどのもの。ユミがトイレに行きたくて仕方がないのは、誰が見ても一目瞭然だった。事実、行き交う人々はトイレの前で身体をよじらせて腰を揺する少女を、奇異の視線で見ている。
 けれど、ユミは周囲の怪訝な表情に気付く余裕もないまま、トイレの入り口をじいっと見続けていた。
(あぅっ……も、漏れちゃ……だめ、だめぇ……っ)
 暴れ回る体内の尿意にストップをかけながら、掃除が終わって、綺麗になったばかりのトイレで一番にオシッコを済ませる――そんな妄想のなかで、ユミは執拗な尿意を紛らわせようとした。現実の自分にはできないことを、空想の中でさせることによって、少しでも現実の苦痛を和らげようとする。
 ずらっと並んだトイレの個室の中から、どこでも好きな場所を選んで、個室にしっかりと鍵をかけ、スカートをたくし上げ下着を下ろして、清潔な便器を使って思いっきりオシッコをする権利。一番乗りのユミにはそれが与えられるのだ。
 オシッコのための場所で、オシッコをする――至極当たり前の行為が、ユミにはとてつもなく魅力的だった。ずっと遠ざけられていた排泄を許されるという快感が少女の身体を打ち震わせ、頭の奥に消えない熱を点す。
(トイレ、出ちゃう、漏れるぅ……っ)
 脚の付け根の敏感な場所から、もう我慢する必要のない恥かしい液体を恐ろしいほどの勢いで弾け散らせる。股間から噴き出す蛇のようにくねる薄黄色の水流が、白い便器の底を叩き、音消しに流れる水の中に深々と注がれて行く。我慢に我慢を重ねた苦痛が全身の熱とともに迸り出る。その解放感はどれほどのものだろうか。
「あ、あっあ、あっ」
 禁忌の想像に先立ってじわりと滲みかけた先走りが、交差させた脚の付け根に広がる。小さな水滴をこぼし、股布に染みを作った液体は、そのまま辛抱しきれない股間の先端からじょわ、じゅぅ、とあふれ出してゆく。
(ふぁ、あっ、……っ、き、気持ち、ぃい……)
 少女はじわじわと色を変えてゆく股間を両手で押さえたまま、小さな唇を小さく開閉させる。
 スカートの半分ほどを色濃く染めながら、滴り落ちる雫が太腿を伝って、ソックスに流れて行く。ひと筋、ふた筋と溢れこぼれる水流は、たちまち数を増し、少女の脚を伝いぱしゃぱしゃと音を立ててゆく。タイルには少女の体内で温められた液体の水たまりが広がり、わずかに湯気を立ち昇らせてゆく。
「ぁ、あっあ、あっ……」
 ふわふわと定まらない足元は、まるで雲の上を歩いているようだ。熱に浮かされた頭はぼうっと霞み、お腹は本当にトイレを済ませたときのように楽になってゆく。
 それが想像の中のことでなく、実際にいま自分の身体に起きていることだと理解できないまま、ユミは駅構内の隅でオモラシを続けていた。



 (初出:書き下ろし)
 
[ 2009/03/25 21:20 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

倉庫とビニール袋の話・4 

 
「まだなの……!? もうっ……どこ、行っちゃったのよぉ……っ」
 苛立ちながら、美智佳は赤くなった顔をごしごしと擦る。
 少年が立ち去ってから、どれくらい経ったのだろう。もう何時間も前のように感じられていたが、相変わらず日は高く、地面に落ちる影の位置もそう動いていない。実際は30分と過ぎていないだろう。
「す、すぐに戻るって、行ってたのにぃっ……」
 それでも、閉じ込められたまま待ち続ける美知佳には途方もない時間だった。ぎゅっと握られた拳がぽすん、と袋詰めの園芸土を叩く。
 アキたちも一向に戻る様子がない。いったいひょっとして、表では彼らを邪魔するナニモノかがみんなを捕まえたりしてるんじゃないだろうか、とまで不安になってしまう。もしそんなことがあれば、それは美智佳の責任なんだろうか。
 おとなしく、もういちど大人の人を呼んでもらえばよかったのかも……なんて後悔もしてみるが、後の祭りだ。
 そして、美智佳の焦りは、単なる苛立ちだけにとどまらない。
「っ、っふ、くぅっ……」
 ぎし、ぎし、ぎっ、と軋む音が、小さな密室に響いている。
 座り込んだままもぞもぞとお尻を動かし、身体を左右に小刻みに倒して、美智香はせわしなく倉庫の天井を見つめていた。
「ぅっ、く、ぁあっ……」
 鈍く痺れる腰骨から、恥骨の上でじんじんと熱い衝撃が伝わってくる。
 ワンピースのスカートの太腿はじっとりと汗をかいて、布地に複雑なしわを寄せ、その間に挟まれた細い腕をぎゅっと締め付けていた。
 脚の付け根に重ねて当てられた両手が、もどかしげに股間を握り、ねじり、押さえつける。
(や、やだぁ……な、なんでよぉ…っ!?)
 ありえない、と思っていた。だから何度も何度も違うのだと思いこもうとした。
 だって、ついさっき、あんなにいっぱい出したのに。
(なんで、こんな、また――おしっこ、したくなっちゃうのよぉっ……!?)
 嘘だと思い、気のせいだと言い聞かせ、何度首を振ってみても、身体のうちから沸き上がってくる鋭く激しい尿意は和らいでくれない。決して錯覚ではありえなかった。わずか数十分で、美智香の尿意は再びトップギアに入る勢いで加速している。
 胃の中がたぽたぽと揺れるのが解るくらいの勢いで、一気に空にした500mlペットボトルまるまる一本分の清涼飲料は、一適残らず乾いていた身体に吸収され、いまは別の場所――少女の膀胱をたぷたぷと揺らしている。
「うぁああ……ぅっ、で、ちゃうぅ……っ!!」
 きゅんっ、と疼く下半身に、美智香は小さく悲鳴を上げてしまう。
 ぎゅっとスカートの前を押さえる手のひらは、しゃがみ込んで停止したまま動かなかった。執拗に繰り返されるオシッコの波は怒涛のように激しく、一時たりとて気を抜けそうにない。
 おしっこの出口を締め付ける括約筋はすっかり弱って、我慢を続けるためには両手の協力が欠かせない状況である。
「っ、やだぁ……」
 美智佳のじわ、と潤む視界は、縋るように倉庫の中を巡った。しかし、無論ながらそこに突如としてトイレが出現するはずもない。蒸し蒸しと汗を呼ぶ倉庫の中には変わらず、尿意を和らげるためのものなど何も見つかりはしない。
 そして美智佳の視線は、必然的に隅に放置されていたビニール袋へと向かう。ほんの数十分前にトイレの代わりになって、美智香のおしっこをたっぷり受け止め、すっかり重くなっている半透明の袋は、初夏の熱気に晒されていまにも破裂しそうなくらいに膨らんで見えた。
「も、もう嫌……っ、なんで、こんなに、おしっこ、くぅう、……し、したくなっちゃうのよぉおっ……!?」
 最初のオモラシと合わせれば、おしっこが我慢できなくなったのはこれで3回目だ。こんなにわずかな時間に、何度も何度もオモラシをしそうになる恥ずかしい身体を、美智香は激しく恨んだ。
 しかし、そんなことで今の窮状が変わるわけではない。
 膨らむ膀胱は激しく収縮し、大自然の摂理のまま、溜まった中身を絞り出そうとしている。じっとりと身体を湿らせる汗と、繰り返されたおチビリに濡れたスカートがぐちゅっと音を立てて美智香のお尻にへばりつき、不快な感触をさらに加速させる。狭い倉庫の中は、いまなお美智香自身のおしっこの匂いに満ちていて、まるで本当のトイレの個室のようだった。
(っ、だめ、ぇ……!!)
 急激に、凄まじいまでもの加速度で尿意は膨れ上がる。喩えるなら洪水か鉄砲水か。少女の下半身は自然の摂理に従って不要な水分を排出せんと収縮し、ぱんぱんに膨らんだ水風船を圧迫する。
「うう、ふぅう、はああっ、…っく、あ、あと少し、少しだけ……がまん、あとちょっとだけ我慢……っあとちょっとで、出られるんだから……」
 なんとか心を奮い立たせようと、そう口にしてみるが、あまりにも空虚な自分の言葉に、かえって心は萎んでしまうばかりだ。
(少しって、いつまで……? やだ、もうやだよぉ……ホントにもう、出ちゃいそうなのにっ……!!)
 焦りと怒りが失望に混じり、一瞬、美智香の目の前が暗くなる。一秒でも早くここから出て、トイレまで猛ダッシュをしなければいけない事態なのに、その目処すら立たない。
 いちど出口を覚えたおしっこは、容赦なく美智佳に二度目の屈辱を要求する。さっき激しい水流を迸らせたばかりの排泄孔が、切なく疼きぷくりと膨もうとする。ほんのひと撫でではしたなくも熱い雫を吹き上げんばかりに、少女の下腹部は我慢のきかない状態になっていた。
(あ、あたしのおしっこの出るところ、こ、壊れちゃったのかも……っ)
 こんなにも我慢がきかないなんて、想像すらしたことがなかった。よっぽど小さかった時はさておき、これまで、美智佳はどれだけオシッコがしたくてもちゃんとトイレまで我慢のできる、おトイレの優等生だったのだ。
 それなのに、この小さな倉庫の中で、美智佳はとうとう人生3回目の、トイレ以外でのおしっこを始めさせられようとしている。
「ね、ねえ、誰かっ、誰かいないの……っ!?」
 美智佳は、掠れた声で助けを呼んだ。
 この密室を押し開き、こじ開けて、美智佳をトイレへと連れて行ってくれる誰かを求めて、か細い声で懸命に呼びかける。
「ねえ、お願い、開けてよ、ここ開けてよぉっ……もう嫌なの、もう、こんなところでおしっこなんか嫌なのぉっ……お願い、お願いっ……!!」
 力ない拳がドアを叩き、堅い鍵をかちゃかちゃと揺する。
 それをあと千回繰り返せば閉じられたドアが開くというなら、美智佳は迷わずそうしたかもしれない。
 美智香の目元を熱い雫がこぼれる。
 こんな場所で、二度とするまいと思っていたおしっこを――またも強いられたことに。少女の羞恥心は激しく傷ついていた。あのビニール袋を、おトイレの代わりするのは、もう嫌だった。
「お、オシッコでちゃうのっ……お、おトイレ、おトイレ行かせてよぉ……ちゃんとしたおトイレでなきゃ、いやなのっ……」
 さっきの一回で、一生分の恥は使い尽くしたと思っていたのに。わずか数十分で、また同じ事をさせられるなんて、思いもしなかった。
 だが、無常にも、涙にかすれた美智佳の呼びかけに答えるものはない。
 閉ざされたままのドアの奥で、美智佳はまたも、屈辱を強いられるしか道はなかったのだ。
「ぅ……くぅ……っ」
 もはやためらっている暇はなかった。美智香はずっしりと重いビニール袋を再び引き寄せ、汗ばんだスカートと下着をまとめて引きずり下ろす。
 もう二度とすることはないと思っていた、死にそうに恥ずかしい行為――このビニール袋の中へ、下着と水着を一緒に詰め込んだ入れ物に、さらにもう一度オシッコをすることを決意したのだ。
 1度目の排泄で水を吸っている袋の中身は、もはやありったけの布地を動員しても全ての水分を吸収してはくれないだろう。今度の美智佳のオシッコによって、はっきり分かるほどビニール袋の水位は上昇し、内側に水面が見えるほどになるだろうことは想像に難くなかった。
 そうなれば、もう二度と言い訳の聞かない状況になることも承知の上である。それほどに美智佳の尿意は凄まじいものだった。
 最初のオモラシをあわせ、都合3回分のオシッコを受け止めることを強いられたビニール袋。それを前にして、美智佳はいまにも泣き叫びたい気持ちだった。
(もうやだよぉ……っ……もうやだ、もうおしっこなんかしたくないのにぃ……っ)
 それが偽らざる美智香の本心でもあった。
 床を汚し、ビニール袋には溢れんばかりの、黄色い水。
 事情を知らない人が見れば、美智佳がこのビニール袋に収まりきらないくらいの量のオシッコを一度に出してしまったのだと思われるかもしれない。
 もっとも、たとえ本当のことを言ったとしても、美智香がこの倉庫の中に閉じ込められていた数時間あまりの間に、3回もオシッコをしてしまったことは事実なのだ。
 だがもはや思案の時ではない。行動の時だ。美智佳はビニール袋の口を開けるべく結び目に指をかけるが――
「あ、あれ……?」
 さっき、嫌悪感に駆られながらあまりに強く力を入れて結んだためか、結び目は硬く縛られたまま、びくともしない。いくら爪を立ててみても石のように堅い結び口は、美智佳の手を拒んだ。
「や、やだっ、嘘でしょ……!?」
 ここにオシッコができなければ、一体どうすればいいのか。焦る美智佳は再度結び目を引っ張るが、どこをどう絡まったものか、まったく結び目は動かない。それはまるで、ビニール袋自体がその内側に溜め込んだ美智佳のオシッコを一滴も漏らすまいとかたく口を閉ざしているかのようだった。
「な、なんで開かないのっ……と、トイレっ、だめ……出ちゃうのにっ、もう出ちゃうのにぃっ……!?」
 スカートと下着は足首まで降りて、すでにオシッコの準備は万端整っている。それなのにオシッコを受け止めるビニール袋だけがそれを拒んでいるのだ。
 ビニール袋の中にするのは、嫌で嫌でたまらなかったけれど。
 それでも、倉庫の床におしっこをびちゃびちゃに撒き散らしてしまうことと、比べるなんてできない。だってそれは、オモラシなんかよりももっともっと下品でみっともない、最悪の行為だ。
 もしも万に一つでもそんなことが美智佳にできたなら、そもそもタオルや水着、パンツの入ったビニール袋をつかって、オシッコなんかしない。
「あ、やッ……!?」
 きゅうんと疼く股間に、美智佳はたまらず片手をむき出しの脚の付け根に押し当てた。今にも開きそうになる排泄孔を、直接指で押さえてぐぐっと放水を押しとどめる。そうしておいて、なんとかビニール袋の口を開けようとする美智佳だが――しかし、両手でも解けなかったビニール袋の結び目が、片手だけで開くはずもない。
 がくがくっと突き出されたおしりが上下し、いまにもスプリンクラーのようにオシッコを撒き散らそうとする。おなかの中で暴れ回る猛烈な尿意の大渦に、美智佳はぎゅうぎゅうと声を絞り出してしまう。
「で、でちゃうでちゃうでちゃううぅ……!! やだぁ、トイレ、オシッコぉ……っ!?」
 トイレの代わり。オシッコのできる場所。おなかをパンパンに膨らませる、オシッコを注いでおけるもの。パニックに陥った美智佳の視線が、ついさっき放り投げたペットボトルを、土嚢の影に発見する。 そう、いま美智佳を苦しめているオシッコは、元はと言えばこのペットボトルの中身の液体が原因なのだ。
(っ――あ、あっ、あっあ、!!)
 ほとんど反射的にペットボトルの蓋を開け、美智佳はしゃがみ込んだ股間にそれをあてがう。
 だが、震える手と限界の尿意が噴き出す排泄孔が、おとなしくそれを許すわけもない。美智佳の股間から、思いもよらぬ勢いと角度で水流が吹き出し、ばちゃばちゃばちゃぁっと床に飛び散った。 小さくひしゃげた排泄孔から、ホースの先をつぶして庭に水でも撒くような勢いでおしっこを撒き散らす。水筒の口の縁にぶつかって熱い奔流があちこちに飛び散り、飛び散り、美智香の手までを汚した。
「だ、ダメぇえ……っ!!」
 反射的に下腹部に力を込め、排泄を塞き止めようとする美智佳だが、一度出口をみつけ、出始めたオシッコは完全にはとまらず、じゅじゅる、ぶしゅっ、と間断的に吹き出し続ける。
 美智佳がむりやり押し付けた飲み口から大きくそれたおしっこは、透明な入れ物とはまるで見当違いの方向へ飛び散った。

 じゅる、ぶしゅっ、じゅじゅっ、びちゃびちゃっ!!

「や、だぁっ……!!」
 再び。調節しようと思ったオシッコが、地面にたぱたぱと散る。
 なおも吹き出すオシッコは、ペットボトルにはほとんど入らずに凄まじい勢いで当たりに飛び散った。短時間に何回もおしっこをして、すっかり出口を覚えた下半身は、容赦なく激しい圧力で膀胱の中身を絞り出す。
「あ、、あっあっあ、あっ」

 ぷしゅるるる、びちゅ、ぱちゃちゃっ!!

 ペットボトルがオシッコを受け止める役に立たないことを悟った美智佳は、そのまま藁にも縋る思いでビニール袋に手を伸ばした。
 だが、自分をほったらかしてペットボトルに浮気をしようとしたことを責めるかのように、固く口の結ばれたビニール袋はおしっこで汚れた美智佳の指の間からするりと逃げ出してしまう。
「う、あ、あっあ、あっ」
 美智佳が呻きながら、ぎゅうっと手のひらを挟み込んだまま足を閉じあわせ、ひくっと喉に息を詰まらせたまさにそのときだ。
「おい美智佳、だいじょうぶか?」
「おねーちゃん、ダイゴ連れてきたよ!!」
(えっ……!!)
 まるで悲鳴を上げた自分の声にかぶさるように、聞き覚えのある声が響く。さっきの少年と、アキたちが、連れ立って倉庫のそばにやってきていたのだ。
「爺ちゃんがすっげーヘンなとこに鍵しまっててさ、探すのに時間かかっちまった。今すぐ開けてやるからな。待ってろ!!」
「おねえちゃん良かったね!! 出られるよ!!」
「ちょ、ちょっと、え、待って……」
 突然のことに、美智佳は頭が真っ白になる。
 スカートをまくり、パンツも穿かず、床にびちゃびちゃとおしっこを撒き散らし、それでも飽き足らずに、ビニール袋かペットボトルの中に、3回目のおしっこを始めようとしている、まさにその目の前で。
 少年――ダイゴは、倉庫の鍵を開けようとしている。
「や、やだあ待って!! やめて!! 開けないで、開けないでぇ!!」
「何言ってんだっての、ほらお前ら、離せってば、鍵開けらんねーだろ。そのまま閉じこもってたら、トイレとかどーすんだよ」
「っ………!!」
 ダイゴの言葉は美智香をおもいやってのものなのだろうが、我慢しきれずに倉庫の中でオシッコをしてしまった少女にはあまりにも残酷な言葉だった、じわ、と喉の奥が涙の味に塞がれて、美智香の声は出なくなってしまう。
 そうしている間にも、美智佳の下腹部はおしっこを絞り出そうと激しく収縮を繰り返した。切なくも腰を揺すり、掠れた声を張り上げ、なんとか崩壊を耐え抜こうとする美智佳。
「う、うそ、や、ま、待って……だめえ……!!」
 ペットボトルも、ビニール袋にも、おしっこを受け止めることを拒否されて。もう美知佳には縋るものがない。
 後に残されたのは、そのまま倉庫の床の上に、おしっこを撒き散らすことだけだ。
「おい、どうした? 美智佳? 美智佳ってば!!」
 ダイゴが声を荒げる。 
 すると、それに応じた声があった。
「あー、あのねえ、美智佳おねーちゃん、おしっこがまんしてるの!! おトイレ行きたいんだって!!」
「や、やあ、やめてぇ!!」
 金切り声で、美智佳は叫んだ。あろうことか、アキは美智佳が絶対に隠しておかなければならなかったことを、あっさりと暴露する。
「ちょ、おい、マジか?」
「うん。だっておねえちゃん、もうおしっこがまんできないって言ってたよ。もうオモラシしちゃうかも!!」
 ええー!? と子供達の間から驚きの声が上がる。それはそうだ、美智佳のように年上のおねえちゃんが、オモラシなんて、彼らにしてみればありえない。
「おいおい美智佳、やめとけよ、漏らすなよ? 今出してやるからトイレまで我慢しろよ?!」
「や、ち、違うの、違うのぉ……」
 ダイゴが鍵を弄り、声を荒げる。
 美智佳は力なく首を左右に振るが、か細い否定の声は、子供達の騒ぎにまぎれて聞こえない。おしっこ? おねえちゃんオモラシしちゃうの? おねえちゃんおしっこ? 幼いゆえの残酷さで容赦なく叩き付けられる小さな子供達の声に、美智佳の羞恥心は致命傷を埋め込まれてゆくばかりだ。
 かすれた声を上げながら、美智佳は股間を激しく握り締め、雑巾を絞るようにして排泄孔を塞ごうとする。
(っ、違うの、違うのにぃ……)
 何も違いはしない。
 美智佳は今、中腰で、スカートも大きくまくり上げて、その姿勢から動くこともできず、倉庫の床の真ん中で、じゅじゅ、じゅるるるぅ、と股間から断続的にオシッコを迸らせているまさにその真っ最中なのだ。
(と、止めなきゃっ、お、オシッコ、見られ……ちゃうっ)
 しかし、満水のダムから放水される水流は、蓋をしようとする手を押し破らんばかりに凄まじい圧力だった。腹圧に反応して、身をよじる美智佳の脚の付け根から吹き出して、股間を押さえ込む手のひらを激しく汚す。
 がちゃ、がちゃ、がちゃっ、鍵が軋む。
「……あれ? くそ、なんだこれ、鍵開かねーっ……? おい、お前らこれなに入れたんだよ? 鍵穴詰まっちまってるじゃねえか!!」
 ダイゴが舌打ちをして叫ぶ。
 美智佳は、もうそれを聞いている余裕もない。
「おい美智佳、ちょっと待ってろ? もう少しだからな!! あとちょっとだけだからな!!」
 呼びかける声。
 だがもう、美智佳はこの目の前のドアが開いて欲しいのか、開いて欲しくないのかわからなかった。とうとう倉庫を囲む全員に、おしっこを我慢し続けていることがバレ、オモラシのことまで気付かれ、突然の事態に混乱し、長い長い我慢の繰り返しに擦り切れた思考は、今なお激しい尿意にすっかり占領されている。
「は、くぅ、ぅうう……」
 美智佳は掠れた声で、本当の勢いで出始めるおしっこを押さえ込み、無我夢中で――倉庫の床を這う。少しでも見られないように、奥に逃げようと、ドアに背中を向けて。
「あ、あ、ぅあ、っあ、あっあ」
 手を付いて、動物のように四つんばいになった美智佳の、片手が押さえ込んだ足の間から、激しい水流が迸る。足の間に飛び散り、ワンピースのスカートにぶつかったおしっこは、あっという間に美智佳の服をびしょぬれに変えていった。

 ぶしゅうううううううっ……じゅぶ、じゅぼぼぼぼぅ……

「ぁふぅッ……、あ、あっあ、あっ」
 猛烈な勢いでほとばしるオシッコは、もはや遮るものがない倉庫の中に激しく広がって行く。3度目のおしっこだとは思えないほどの途方もない量で、床にはみるみるうちに湖が出現した。
 激しい水流を受け止めた倉庫の床上の水面が、氾濫する川のように広がって行く。倉庫の床一面を覆いつくさんばかりの量だった。このまま出し続ければひょっとして、倉庫からも溢れてしまうのではないだろうかと思わせるほどだ。
 そのすぐそばには、2回のオモラシを受け止めたビニール袋まである。
 自分の身体が作りだしたあまりにも大量の、黄色い汚水に、美智香は心臓を握り潰されそうになる。
「美智佳っ!?」
 がらぁ、と倉庫の壁が開く。
 ちょうど、美智佳は床にはいつくばったまま、ダイゴやアキたちに背中を向ける格好だった。おしりをちょこんと突き上げ、ワンピースのスカートは背中に大きく捲れ上がり、何も穿いていない足は太腿からおしり、爪先まで完全に丸出しだ。
 その付け根を、ぎゅうっと手のひらで隠し、おしっこの出口を塞ごうとしているのまで、すっかり――まるで見せ付けるような有様だった。
「っ、いや、いやぁあ……」
 掠れ声で悲鳴を上げた美智佳の下腹部が、感情の高ぶりにしたがって伸縮する。
 激しく撒き散らされた3回目のオモラシの上に、さらに追加で激しく熱い水流を叩き付けながら、美智香は泣き叫んでいた。
「違うの、違うのぉ……っ、こんなにしないの、いつもこんなにオシッコ出たりしないのっ!! わたし、こんなにオシッコしないんだからぁ……っ」
 ビニールバッグをぱんぱんに膨らませるオシッコと、その床に大きく大きく広がるオシッコの海。
 もはや、倉庫の中はどんなトイレよりも酷く、オシッコで汚れていた。
 トイレではない場所を、3回もオシッコのために使い、なおもまだオモラシを続ける恥かしい女の子。美智佳はいまやそんな存在だった。
 そして、いまなお広がり続ける大きなオシッコの海の、その水源であるオモラシの大滝をつくりだす、美智佳の股間。
 美智佳の身体じゅうを巡ってやってきた水分は、その小さなお腹の膀胱を溢れ、なおも小さな割れ目を押し広げて、おなかの中で暖められた熱い雫を、水鉄砲のように吹き上げた。
 自分の身体の下、水浸しになった倉庫の床の上に、広がったオシッコの海に涙までこぼして。
 美智佳は、もう二度と起き上がれなかった。



 (初出:書き下ろし)
 
[ 2009/03/25 21:17 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

倉庫とビニール袋の話・3 

 
 とうとう、倉庫の真ん中で我慢しきれずにおしっこをしてしまい、美智佳はその事実にすっかり打ちのめされてしまった。
 女の子としてありえない行いに、美智佳は情けなさと恥かしさでばらばらになりそうで、唇をぎゅっと噛み締めて涙をこらえる。
 と、不意に。沈みきっていた美智佳は、閉ざされたままのドアの向こうに気配を感じた。
『おい、誰かいるのか?』
 壁一枚向こうで低い声がする。同時にがちゃがちゃと、ドアノブと鍵を弄る音。
 それははっきりと、ドアを隔てた美智佳に投げかけられたものだった。
 どんどん、と美智佳のしていたよりも数倍力強くドアが叩かれる。その音の大きさに驚きと恐ろしさを覚え、美智佳は思わず口を押さえ、後ずさりドアから距離をとった。
『おーいっ!! 聞こえるか? 誰かいるなら返事しろよっ』
 聞こえてきたのはやや低い少年の声だった。
 一瞬、アキが誰かを呼んできてくれたのかと思うが、ならば中に誰がいるのかも分かっているはずだと考え直す。それに、アキの声も聞こえる様子がない。
「っ……」
 スカートの下の剥き出しの下半身が、恐ろしいほどの不安をかきたてた。何も穿いていないのを見られてしまうかもしれない。声の主が男の子だと気付いて、脈絡もない考えに美智佳の頭が凍りつく。
 たった一枚のパンツがなくなっただけなのに、美智佳はまるで足元が底のない穴になったかのような恐怖を感じていた。
 知らない相手を前に、答えるべきかどうか一瞬ためらう美智佳だが、先刻の一生出られないかもしれないという想像がぞくりを背中を粟立たせる。
『誰もいないのかー? おーい……』
(どうしよう……でも、中にいるって気付いてもらわないと、出られないし……)
 このまま黙っているのは簡単だが、いまだにアキが戻ってくる気配もない今、意地を張っている場合ではないのは確かだ。
「あ……あの、はいっ、います、中にいますっ」
 覚悟を決め、恐怖心を押さえ込んで、美智佳は恐る恐る返事をする。ドアの向こうにいる誰かはすぐにそれに応えてくれた。
『なんだよ、やっぱりか……鍵かかってるから変だと思ったんだよな……。なにやってんだ? 閉じ込められたのか?』
「え、っと……その、アキちゃんたちと一緒に、かくれんぼしてて……」
『なんだよ、こんなトコ勝手に入るんじゃねえよ。ボロ倉庫なんだから』
 舌打ちとともに少年が言う。やや苛立ちを含んだ低い声に思わず萎縮してしまう美智佳だが、どうも相手はあまり怒っている様子はないらしかったことがすぐに分かった。
 がちゃがちゃと鍵を弄り、ドアを叩く気配が続く。しばらくの後、少年は諦めたようにため息を付いた。
『だめか、開かねえ。やっぱ鍵かかっちまってるみたいだな……なあ、お前、平気か?』
「えっと……」
 ビニール袋の中の大洪水の状況が、美智香の応答を澱ませる。美智香の大切な水着も、お気に入りだったパンツも、オシッコで悲惨なまでに水浸しだ。とても大丈夫といえる状況ではなかったが、素直に口にできるわけもない。美智佳は口ごもりながらそう答える。
『熱いとか頭痛いとかないか? そういやお前、名前は?』
「み、美智佳……」
 自分のおしっこの匂いの中で、美智香はつっかえながら自己紹介をする。
『美知佳か。返事できりゃ大丈夫か? いつから閉じ込められてんだ?』
「わ、わかんない……けっこう前から」
 思わず倉庫の中を見回し、時計なんかないのだということを思い出して、美智佳はうなだれた。少年はまたなんだよ、と小さくつぶやく。
「ね、ねえ、ドア、開かないの?」
『ああ』
 もう一度試すようにがちゃがちゃとドアノブを弄り、少年は美智佳に聞こえるようにか、幾分声を大きくする。
『……あのな、落ち着いて聞けよ? ここの倉庫の管理、俺の爺さんがやってんだけど。知ってんだろ、町内会の爺さん』
「ごめん、知らない……」
『そっか。まあいいや、そんで、俺もその手伝いしてんだけど』
「じゃ、じゃあ鍵もってるの!?」
 降って湧いた天の助けに、美智佳は顔を輝かせる。だが、少年はすまなそうに声を落とし、
『それがな、爺さんいまちょうど留守にしてんだよ。俺もどこに鍵あんのかわかんねえからな……。ったくボロいから早く直せって言ってんのに、横着するから』
「そんな……」
 期待を裏切られ、がっくりと肩を落とし、美智佳はその場にしゃがみ込んでしまう。声の主の少年に悪いところがないとわかっていても、思わず文句を言いたくなった。
『美智佳、ちょっと待ってろよ?』
 そう言うと同時、足音が倉庫を離れてゆく。まさかまた見捨てられてしまったのだろうか、一瞬不安になった美智佳だが、足音はすぐに戻ってきて、
『これ、やる』
 ぶっきらぼうな声と共に天井近くの窓の格子から、真新しいペットボトルが放り込まれた。地面でぼこんと跳ねたそれは、まだ買ったばかりのように冷たく冷えた未開封の清涼飲料だ。
『お前、喉乾いてるだろ。なんか飲んどけ、熱射病になっちまうから。で、とりあえず、一旦家帰って鍵探してきてやるから』
「あ……」
『いいな、待ってろよ? 美智佳』
「う、うんっ」
 予想外の優しさに触れて、美智佳は顔を輝かせた。
 アキもどこかにいってしまって、本当にこのまま出られないまま見捨てられてしまうのかもしれない。そう思っていた心細さが、少年の声によっていつの間にかゆっくりとほどけてゆくのだった。
『じゃあ、待ってろよ』
「うんっ」
 もう一度言って、少年の足音が遠ざかってゆく。
 地面に落ちたペットボトルを手に、美智佳はゆっくりと安堵の息を吐いた。





「よかった……」
 これで、もうすぐ出られる。
 わずかな、けれど確実な希望。美智佳の緊張に強張っていた全身から力が失われてゆく。ふらふらと倒れ掛かった小さな身体は、近くの土嚢にぽすんと腰掛けた。
「はぁッ……」
 疲れきったため息が、少女の唇からこぼれる。
 閉じ込められてからどのくらい経ったのだろう。
 二度の排泄は美智佳の身体から水分を絞り上げ、いつの間にか喉がカラカラになっていた。緊張のピークを過ぎ、落ち着きを取り戻した身体は素直に排泄した分の水分の補給を訴えている。
 ただでさえ30度近い気温の密室に長時間閉じ込められているのだ。その上、最初のおチビリもあわせてこの短時間に2回もトイレをしてしまっている。身体が水分を求めるのも仕方のないことである。
(のど、乾いた……)
 まるで熱した塩のかたまりを飲み込んだよう。胃と食道が新鮮な水分を求めて身悶えしている。砂漠で遭難したような気分で、美智香はぼんやりと、さっき手渡されたペットボトルを見る。
 壁の隅に追いやられたビニールはできるだけ視界に入れないようにして、美智佳はふらふらとペットボトルの飲み口に手を添える。
 いけない、と思う気持ちはなくもなかった。
 しかしぼうっとする頭は熱に浮かされ、ほとんど余計なことを考えられなくなっていた。二度も壮絶な我慢と排泄を強いられたせいで、少女の神経は磨耗し、思考はぼんやりと霞んでいる。
 よく冷えた清涼飲料のペットボトルは、手が震えるほどに冷たい。服の裾で両手を念入りにぬぐってから、美智香は飲み口の封を切り、口をつける。 そもそもオシッコをした場所で飲み物を口にすること自体にも抵抗がなかったわけではない。しかしひり付くような喉の渇きはもはや限界に近く、きんきんに冷えた冷たい水分の誘惑から逃れることは不可能だった。美智香は迷わず、よく冷えた半透明の液体を飲み下してゆく。
 こくりと飲み干したとたん、きゅうっと喉がすぼまり、甘美な冷たさがおなかの奥へと滑り落ちてゆく。
「はぁ……」
 頭の芯まで染み入るような冷えた清涼飲料の一口ごとに、融解していた理性が形を取り戻してゆく。喉を潤した水分は瞬く間に全身に広がって、頭から爪先まで隅々へと行き渡っていった。
 ペットボトルをほとんど水平まで傾け、ごく、ごくと喉が音を立てる。
 ちゃぽん、とう音に我に帰って見れば、すでにペットボトルの中身の半分近くがなくなっていた。さすがにそこで、だいぶ冷静さを取り戻した理性が警鐘を鳴らす。喉が乾いたのは仕方ないが、またこんなものを飲んでしまえばすぐにトイレに行きたくなってしまうのではないかという予感だった。
 だが、渇いた身体はまださらなる水分の補給を訴えており、その欲求には逆らえない。
(……だ、だいじょうぶだよ……、もう、2回もしちゃったんだもん……)
 美智香は誰にともなく言い訳をして、そのままペットボトルの中身を喉の奥に流し込む。
 渇ききった身体にとって、よく冷えた水分はあまりに心地よい。密閉されてかなりの高温となった倉庫内の気温に比べれば、実に20度以上差のある清涼飲料のもたらす美味しさに抗うことはできなかった。
 さらに通常の生水とは違い、疲弊した身体が必要とする成分各種を含み、水分補給に最適化した液体は、かなりの量でありながら少女の喉をあっという間にすべりおちてゆく。
 ひとくちふたくちと夢中になって飲み続けるうち、その大半はあっさりと喉を通りすぎ、少女の胃の中へと落ちてゆく。
「ぷは……っ」
 とうとう500mlペットボトルの底まで完全に空にして、美智佳はほぼ全部を飲み干してしまった。
 ようやく行き渡った水分に、朦朧としていた頭に余裕が戻ってくる。数時間ぶりの水分摂取によって、全身が生き返ったようなすがすがしささえ覚えていた。文字通りの人心地ついて、美智佳は倉庫の壁に寄りかかる。
「……全部、飲んじゃった……」
 後悔がなかったわけではない。いつ出られるのか動かもわからない密室の中で、後先を考えずにペットボトルを空にしてしまったことへの不安はもちろんあった。
 確かに、喉は乾いていた。
 けれど、さっきの少年――そういえば名前も聞かなかったけど――がいつ戻ってきてくれるのかは、冷静になってみればわからない。少なくとも、確実なことは言っていなかったようにも思う。
 それなのに水を、少なくともあんなにたくさん飲んでしまったのは間違いだったかもしれない。
「……っ」
 落ち着きを取り戻せば、倉庫の隅に押しやられたバッグが嫌でも目に入った。バッグの傍に押し込められているビニール袋は、中身を残らずおしっこで水浸しにせんばかりに、なみなみと黄色い液体を注がれている。
 美智佳のタオルや水着や、パンツまでもを台無しにした、美智佳の“オモラシ”の証。
 まさか、とは思うけれど。
 もう一度、あんなことに――
「大丈夫、大丈夫だってば……」
 脳裏によぎった最悪の想像を、ぶるぶると首を振り追い払って、美智佳は空のペットボトルを放り投げる。
 けれど、もしそうだとしても。
 見るのも嫌なビニール袋は、倉庫のドアが直って外に出られたときには、どうやっても、持っていかなかればならないものだ。まさか捨てて置けるわけもない。
「……どうしよう……」
 硬くぎゅっと縛られた袋の口を、恐る恐る美智佳は再確認する。
 このままそっとバッグに入れて持ち運べば、なんとか中身に気付かれずに済むだろうか。オシッコをなみなみと蓄えた袋を、そのままバッグに入れるのには激しい抵抗もあったが、まさかこのままぶら下げて持ち歩くわけにもいかない。
 美智佳の思い出すのは、まだ低学年だったころ、学校でトイレにいけなくて“失敗”してしまった子たちが、保健室で着替えて持ち帰った“おみやげ袋”だった。汚したパンツやズボンやスカートを、洗って小さく包んだあの袋は、まさしくオモラシの証拠として、見つかればしつこくからかわれたものだった。
 まして、薄黄色の中身を透けさせる半透明のビニール袋は、その“おみやげ袋”よりもさらに酷いもので、美智佳がこれをトイレ代わりに使ったことを何よりも明白に示している。
 改めて事実を思い返していると、またオモラシのショックが蘇ってきて、美智佳の目元に熱い雫が滲む。
 倉庫に閉じ込められ、あげくおしっこまで。どうしてこんな不運な目に遭わなければならないのかと、美智香は俯いてしまう。
「ぐすっ……」
 早くココから出たい。そう切望すると同時に、美智佳はどうかこの硬く閉じたドアが開きませんように、とお願いしている矛盾した自分に気付き、ちいさくしゃくりあげるばかりだった。
 だが――
 乾きに任せ一気に飲み干した水筒の中身がもたらす当然の結果が、やがてそんな悠長なことを言ってられなくさせてしまうことに、まだ美智佳は気付いていなかった。
 少女を襲う悲劇は、まだまだこんなものではなかったのだ。





「おねーちゃん、ねー、どうしよう。誰もいなかったー」
「っ……!?」
 不意に響いた高い声に、美智香ははっと振り仰ぐ。さっきの男の子が鍵をもってきてくれたのだろうか、顔を輝かせかけた美智佳だが、ドアの向こうのつまらなそうな声音は、もっと幼い。
「あ、アキちゃん?」
「おとなのひと、誰もいなかったよ? ねー?」
「うんー」
「そうだよー」
 ざわざわと、アキに続く小さな声が口々に言葉を継ぐ。
「ねえ、おねえちゃんこの中にいるの?」
「じゃあおねえちゃんが鬼ー? おねーちゃん、見つけたよー? ねえ、つぎはおねーちゃんだよ?」
「ばか、おねえちゃん閉じ込められてるんだぞ!!」
「え、おねえちゃん出られないのー?」
 騒々しいほどの騒ぎが、ドア一枚向こうで起きていた。
 倉庫の壁に集まってきた小さな子達の気配は、少なくとも数名、下手をしたら十人近いかもしれない。思いも寄らぬ事態に美智佳は身体を強張らせる。
「ちょ、ちょっと待って、アキちゃん、みんな連れてきちゃったの?」
「うん。みんな連れてきたよっ」
 えへん、とアキが胸を張っているのだろう。その様子がなぜか、美知佳には手によるように分かった。
 思いも寄らぬ大事だった。美智佳としては、ちょっと話の分かる大人に声をかけて、鍵をあけてもらえばそれで済むと思っていたのである。けれどアキが引き連れてきたのはみんなアキと同じか、それよりも小さな子達ばかりなのだ。
「おねえちゃん出られないんだ。どうしよう?」
「先生に言ったほうがいいと思いまーすっ」
「俺知ってる、おまわりさんとか呼ぶんだよ!」
「えー。ちがうよ。こういうときはレスキューって呼ぶの!」
 倉庫を取り巻く小さな子たちの台詞が、どんどん剣呑なものになってゆく。一方、ドアの鍵をがちゃがちゃと乱暴に弄る音も始まっていた。
「ねえ、僕にもやらせて!!」
「まってよ、あたしが今やってるんだからっ」
「あーずるい、順番だぞー」
 どうやら、何人かは健気にも倉庫の鍵を開けようとしてくれているらしい。だが――
「これでほら、こうやって――」
「ばか、砂なんか入れたら壊れちゃうぞ!!」
「俺知ってる。前にテレビでこういうので開けてたぜ!」
「押すなって、折れちゃうだろ!!」
「そんな枝なんかで開くわけないでしょ、貸してよ!!」
 立て続けに響く、不穏な台詞に何かをつっこんだり、押し当てたり、揺さぶったりする、どう考えても危うい音が響いてくる。本人たちは真剣なようだが、いつしかそれは、『ここの鍵を開けて美智佳を一番に助けだした人の優勝』という雰囲気に熱を帯び始めていた。
「俺が先だってば!!」
「順番守れよー!! 横はいりすんな!!」
「じゃあじゃあ、10秒で交代ね! いーち、にーぃ、さーんっ……」
「勝手に決めないでよ、集中できないじゃないの!!」
 なぜだかぞっとしたものを覚え、美智佳はたまらず声を上げてしまった。
「待って、いいってば!! ねえ、アキちゃんっ、いいから!! もういいから!!」
「えー、なんで? おねえちゃん出られないんでしょ?」
 せっかくみんなで頑張ってるのに、どうして邪魔するのといわんばかりの不満な声。とたんに不機嫌になったアキがぷうと頬を膨らませるのが、見えないのにはっきりわかる。
「だ、だいじょうぶ!! さっき鍵をもってる人に来てもらうことになったの!!」
 本当は、鍵が開くかどうかはまだはっきりしていない。 
 けれど今はそう言うしかなかった。
「えー、ほんとう?」
「う、嘘ついたってしょうがないじゃない!!」
 アキにしてみれば、好意を踏み躙られたようなものなのかもしれない。ざわざわと周りのささやきが濃くなる。
「あ、俺知ってる。ダイゴでしょ?」
「ダイ兄ちゃん?」
 誰かがその名前を呼んだ。どうやら、子供たちの中にもさっきの少年のことを知っている者がいたらしい。
「なあ、俺、ダイゴん家知ってるぜ」
「じゃあ、迎えに行こ。おねえちゃん出してあげようよ!!」
「そうだね」
 なにやらいつの間にか、話がまとまり出していた。美智佳が気を揉んでいる間に、アキを中心に意見が交わされる。
 どうやら、警察だのレスキューだのという大事からは話がずれ始めているようだった。なによりも、大人に頼らず囚われの美智佳を自分たちの手で救い出す、というところに、小さな子たちの興味は集約したらしい。
「じゃあ、そうしよ。おねえちゃん。行ってくるね!!」
「う、うん……」
「よぉし、しゅっぱつー」
 安心していいのだろうか。どう答えたものか困惑する美智佳が曖昧な返事をすると、アキはみんなの先頭にたって号令をし、そのままどこかへと走って行く。
(え、えっと……っ)
 取り残された美智佳は、安堵と共に、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。


 (初出:書き下ろし)
 
[ 2009/03/25 21:15 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

倉庫とビニール袋の話・2 

 
(はぁ……っ)
 アキの足音が遠く響く子供達の喧騒に紛れて聞こえなくなり、美智佳は大きく息を吐く。
 一時はどうなることかと思っていたおチビリはどうにか止まっていた。……いや、あるいは我慢できない分を、全部漏らしてしまったのかもしれない。オモラシの余韻でじんわりと痺れた股間は、まだはっきりとした感覚がない。
 事実、いまや美智佳の下着は甚大な被害を被っていた。股布どころかお尻まで布地はぐちゅりと濡れぼそり、オシッコに透けて少女の肌に張り付いている。
 サンダルの足元も美智香自身が排泄した雫に濡れてきらきらと輝き、倉庫の床にはぽたぽたと雫が飛び散っていた。
(……っ)
 いくらか楽になった脚の付け根を握り締めながら、なかば放心状態のまま、美智香は頭が真っ白になってゆくのを感じていた。
 指と手のひらを汚すぬるぬるとした感覚。ずっしりと重くなった下着。冷たくなった手のひらに、いっそ心地よいほどの熱い奔流がぶつかる余韻。下腹部をびりびりと走り抜ける甘い痺れ。我慢に我慢を重ねていたものが、大切な場所から勢いよく吹き出す瞬間の開放感。
 その全てが、今は激しい罪悪感に化けている。
(も、漏らしちゃった……っ、こんなに……っ)
 再度、下半身の惨状を確認し、美智佳は悲痛な呻きを飲み込んだ。
 『オモラシ』の衝撃は、少女の羞恥心を無慈悲に蹂躙してゆく。
 もう立派なお姉さんなのに、トイレを我慢できなかったことは、繊細な乙女心には耐え難い屈辱だ。
「ぅあ……」
 身じろぎした下半身が、じゅくっと濡れた感触を響かせる。お尻を包み込む暖かい液体の感触は、ずっとずっと昔に卒業した懐かしいオネショの時にそっくりだ。
 蝉の鳴き声が、代わらず響いている。
 美智香がしゃがみこんでしまえば、他にはほとんど人が入るようなスペースもない小さな小部屋。まるで本当にトイレの個室にも似たそこは、しかし決してオシッコを済ませるための場所などではない。
「ぁうっ……」
 時間の経過と共に、冷たくなり始めたパンツがおしりに張り付いて、ぐちゅりと音を立てる。股間からおしりの後ろまでを濡らすオモラシの不快な感触が、美智香の幼い羞恥心をざくざくと切り刻んでいた。
 美智佳にとって、オシッコがうまくできないなんていうのは、小さな、それこそアキよりも小さな子供にしか許されないことだ。美智佳が最後にオネショをしたのだってもう何年も昔のことだ。とっくに卒業したはずのオモラシの再体験は、知らず潔癖に育った美智香の心に深く根付いたかつてのトラウマを呼び起こしてしまっていた。
(キモチ悪い……よぉ……)
 ぐす、とこみ上げてくる涙を啜り、美智佳はのろのろと動き始める。
 こんな格好、誰かに見られたら死んでしまうに違いない。
(このままじゃスカートも汚れちゃう……ぬ、脱がなきゃ……っ)
 そもそも、オシッコで汚れ、ぐしゃぐしゃになった下着なんて、気持ち悪くてこれ以上濡れたままの下着を穿いていられそうにもなかった。なんだか今もまだ、オシッコが出続けているような錯覚さえ感じてしまう。
 ぐちゅりと音を立て、脚の間にべったりと貼りついた下着の股布部分を指で引っ張り、美智香は脚を大きく開いて腰を突き出したガニ股の格好で、ふらふらと倉庫の隅にある棚に寄りかかる。内腿を伝って落ちるオシッコの筋が、これ以上スカートを汚さないように中腰の姿勢をとる。
「アキちゃんが、誰か呼んでくる前に……なんとかしなきゃ……」
 幸いなことに、と言うべきか。漏らしてしまったオシッコの大半は下着に吸収されたため、ワンピースには甚大な被害はない。それでも小さくはない染みがついているが、誤魔化しきれないことはないかもしれない。
 しかし、このままの状態で家まで帰ることはまず不可能にも思われた。
 ゆっくりと慎重に、美智佳は下着を足元へ引きおろしてゆく。
「ぅう……っ」
 ぐしゅ、と音を立てる下着に、罪悪感と嫌悪感がこみ上げてくる。誰も見ていないとはいえ、家でもなんでもない場所で下着を脱ぐのは強い抵抗があった。
 ワンピースのスカートが触れないようにおなかの上まで引っ張りあげて口で端をつまみ、ぐっしょりと湿った下着を、注意しながらゆっくりと引き下ろしてゆく。美智香のオシッコをたっぷり含んだ小さな布地はぽたぽたと黄色い雫をこぼし、倉庫の床に点々と水滴を落とした。
 その痕跡をサンダルの爪先でぐりぐりとこすり付けて誤魔化しながら、美智香は慎重にゆっくり下着を脚から抜く。むき出しになった股間は、まだ乾いていないせいでひんやりとした感覚を覚える。
「ぐすっ……」
 オシッコまみれになった下着は、我慢の最中に無理矢理引っ張り続けられたせいで大きく伸び、形が崩れてしまっていた。お気に入りのパンツを台無しにしてしまった絶望感に、美智香は小さくしゃくりあげた。
 このまま捨ててしまいたい気分にも駆られたが、パンツをなくしたまま家に帰ってもお母さんに説明できない。美智佳は濡れた指で下着をつまんだまま、倉庫の中を見回す。
(…………うぅ…っ。嫌だけど、し、しかたないよね……)
 少なからぬ躊躇を飲み込んで、美智佳は近くにあった水泳バッグを引き寄せた。水中眼鏡やキャップといった水泳の道具と一緒に、バッグには濡れたままの学校指定の水着も中に入っている。
 バッグを開いて、美智香はそこから使用済みの水着を詰め込んであるビニール袋を取り出して広げる。
 オモラシぱんつを水着と一緒にするのは嫌でたまらなかったが、ほかにどうしようもない。まさかこのまま帰るわけにいかないのだ。
「…………っ」
 濡れたスクール水着の傍に、美智佳は躊躇いながら別の水分で濡れたパンツをくるんと丸めて押し込んだ。
 中身が出てこないように厳重にビニール袋の口を結んで、一仕事を終える。すうすうと落ち着かない下半身の上をスカートで押さえながら、美智佳は重い気分で溜息をついた。
「はぁっ……」
 これでなんとか、外に出たときにオモラシしたことは悟られずに済むだろう。
 タオルの端でこっそりと手を拭いて、そろそろとスカートの裾を気にしながらくるりとその場で一回転して、被害がないかを確認する。夏場のワンピースのスカートは大胆の膝の上に切り上げられていて、ちょっとしたことでめくれてしまわないかと気が気ではなかった。
 まだ湿っている剥き出しの股間はすぅすぅと風に触れる。激しい動作をしなければ下着を付けていないことがわかるような短さではないはずだが、大切な場所をまるで隠すことができていない美智香の心理状態ではほんの少しスカートが揺れるだけでも息を飲むほどのショックだ。
「っ……」
 後始末が一段落すると、再びつぅん、と鼻に熱いものが染みる。
 まさか、この年齢になってオモラシをしてしまうなんて、ぜったいに絶対にありえなかった。もうとっくの昔に卒業したはずの、脚の間を汚す不快感。おしりを包み込む暖かさ。忘れていたい小さいころの『失敗』の数々が美智香の脳裏をよぎる。
 また泣き出してしまいそうになるのを必死にこらえながら、美智香はじっと、開かない倉庫のドアを睨みつけた。





 どれくらい時間が過ぎたのだろう。
 ほんの数分、ということはないはずだった。小刻みに脚を踏み鳴らしながら、美智香は次第に焦れてくる心を必死になだめ続けている。
 スカートの下、オシッコで汚れたままの内腿は、うっすらと薄赤く染まっている。長い我慢とオモラシの十分な後始末ができなかったせいで、少しむず痒い。長い我慢に握り締められた股間は布地にこすれて、ますます少女の下腹部を敏感なものにしていた。
(ぁ……やだっ……)
 だから、はじめはそれも乾きかけたオシッコの跡のせいだと決めつけていた。
「ふぁ……んっ」
 鼻にかかった甘い声と共に、少女の腰が小さくくねる。交差された脚は、さっきまでと同じようにきゅっと寄せ合わせれ、脚の付け根にある大切な場所をガードしていた。
 気のせいだ。ちょっと痒いだけ。
 そう心の中で繰り返して否定しても、どんどんと高まる下腹部の違和感はたちまちのうちに膨れあがり、美智香を飲み込んでしまう。
(ま、また……したくなってきちゃったっ……)
 おヘソの裏側にある、少女のヒミツのティーポットがくつくつと沸騰する。
 あれだけパンツをびちゃびちゃに汚してしまったのに、ほとんど間もおかないうちに猛烈な尿意が美智佳を責め苛んでいた。
(さ、さっきあんなにしちゃったのに……なんで? こんな、お、オシッコ……っ!?)
 実のところ、さっきのオモラシでは美智佳の膀胱は完全に空っぽになったわけではない。必死になってオシッコの出口を圧迫した結果、排泄が中途半端な形で中断されただけだ。
 プールの中で半日ちかくをすごし、美智香の小さなおなかの中は、濃縮された色も匂いも特濃のオシッコに完全に占領されてしまっている。一旦はオモラシと言う形でいくらかの量を処分したものの、時間の経過と共に尿意は再び活性化し、少女の排泄器官は膀胱をぱんぱんに膨らませる不要な水分を絞り出そうと、一層激しい生理現象を訴えていた。
「はっ……はぁっ……」
 美智香のこめかみをつぅ、と汗が伝う。
 じわじわとこみ上げるオシッコの圧迫感は、いつしかさっきのオモラシの時に迫りつつあった。
 とどまるところのない尿意を堪え、美智香は倉庫の壁に爪を立てて、ぎゅっと力を込める。
 無慈悲にも、少女の代謝機能は乙女の繊細な羞恥心など省みることもなく、下腹部に溜まった老廃物の排泄を要求していた。だがそれを口にできるわけがない。たとえ訴えたところで、故障が直るわけではないのだ。
(や、やだ、オシッコ、オシッコしたいっ……トイレっ、トイレぇ……!!)
 もはや偽ることなく切なる願いを心の中で叫びながら、美智香はくねくねもじもじと身をよじる。
(い、いちどオモラシしちゃってるのに……っ、ま、また、出ちゃうっ……やだっ、やだぁ……っ)
 身体のあちこちから、小さな小さな入れ物に次々と送り込まれるオシッコに、恥ずかしい所の奥にある水風船はいまやパンク寸前になって、些細な刺激ですら破裂してしまいそうだ。切羽詰った尿意を悟られないよう、脚をぐっと交差させ前かがみになった姿勢で壁に寄りかかる。少しでも楽な姿勢を探して、美智香は落ち着きなくからだをくねらせる。
 狭い園芸倉庫のなかは、まるでトイレの個室にも見えてしまう。
「っは、っくぅぅっ……」
 とうとう辛抱できなくなって、美智香はその場で脚踏みを始めてしまう。まるで幼稚園の子のような、みっともない格好だ。ぎしっぎしっと倉庫の床が軋み、音を立てる。少しでも尿意が紛れればと思っての行為だが、さっきまでとは違いほとんどその効果はなかった。
(っ……ぅ)
 股間を押さえてトイレのことを強く想像しても、じんじんと疼く下腹部は少しもおさまってくれない。波のような尿意はいつしかさらに水位を増し、高潮のように間断なく高まり続けていた。
 一時の激しい尿意の最大値こそさっきよりもおとなしいものの、弱まることなくじりじりと高まり続けるオシッコの圧力が、脆い脆い排泄孔を押し破ろうとしてくる。
「っは、ぁふ、っくぅぅ……っ」
 見えない机の門に股間を押しつけるように、腰を前後に揺する。美智香の下腹部を占領したオシッコがたぷたぷと揺れているようだった。
 いまだ、ドアの向こうに誰かがやってくる気配はない。アキは一体どこまで行ってしまったのだろう。
(ひょっとして、私、ずっとこのまま……なの?)
 恐ろしい想像にますます身体が萎縮し、おなかをぱんぱんに膨らませているオシッコが暴れ出す。美智香の孤独な我慢の戦いは終わる気配を見せなかった。
「うぁ、だめぇ、えっ」
 再度込み上げてきた熱い感触をぐっと脚の付け根の奥に押し返し、美智香は倉庫のドアを恨めしげに見つめる。
「ね、ねえ、アキちゃん、いないの? まだ? 誰でもいいから、ねえ、開けてよっ……はやく、はやくここから出してよっ……」
 とうとう声を上げ、拳を握りドアを叩く美智佳だが、硬く閉ざされたドアは、無常にも少女の懇願を固く弾き返す。いても経ってもいられずにドアの隙間に爪を立てて力を篭めるが、少女の腕力では到底こじ開けることなど不可能なのは明白だった。
 それなのにオシッコは今にも出てしまいそうで、じっとしていられることができず、美智香はエレベーターの中をぐるぐると回り始めてしまう。
(はやく、早く、トイレぇ……っ!!)
 がんがんとドアを叩き、体育祭の入場行進のような大げさな足踏みを繰り返す美智香。膝を上げて、おなかの中のオシッコをたぷんと押し上げようとするかのよう。
「アキちゃんってばっ、ど、どこ行っちゃったのよぉ……ほ、ほんとに、間に合わなくなっちゃうからぁっ……は、早くして……お願いっ!!」
 涙の混じった声での懇願が狭い倉庫に響く間にも、美智佳の下半身はオシッコのできる場所を渇望し、トイレを切に求める訴えを繰りかえす。
 確かに、厳密な定義で言うならば着衣や下着に被害がなければオモラシとは言えないかも知れない。このまましゃがみ込んでスカートをたくし上げれば、オシッコをしてもワンピースに被害は出ないだろう。
 しかし、それはきちんと出てしまったオシッコの始末ができていればの話である。いまの美智香に言わせれば、正しくない場所でオシッコをしてしまったら、それはオモラシと変わらない。
 ここは閉ざされた園芸倉庫と言う密室の中で、美智香が一旦出してしまったが最後、オシッコは全部床の上にびちゃびちゃとこぼれてしまうのだ。自分のオシッコが倉庫のそこらじゅうに広がって大きな水溜りをつくり、匂いを立ち込めさせるその光景は、美智香の羞恥心を激しく揺さぶってしまう。
 もし、ここから出られたとしても、その瞬間――その場に居合わせた人たちに、トイレを我慢できず、ここでオシッコをしてしまったこと――それがどれくらいの勢いで、量で、音で、匂いで――そのすべてを知られてしまうに違いないのだ。
 しかし、いくら我慢を続けても事態が動き出す気配はなかった。
 一度も尿意は弱まらないまま、少女の秘密のダムは危険水域を突破してしまった。縁のぎりぎりまで注ぎ込まれた恥ずかしい熱湯が表面張力で盛り上がり、限界を超えてじわじわと溢れ出してくる。
(っ、……っ、ダメ、ぇ……っ!!)
 もはや一切の躊躇は許されなかった。女の子としての最大の恥辱、『オモラシ』を回避するため、美智香は必死になって身体をよじり、今にも緩みそうになるオシッコの出口を握り締めた。
(で、出ちゃうっ、出ちゃうでちゃうオシッコ出ちゃう……ッッ!!)
 全身全霊の我慢をしてなお、押し寄せるオシッコの波は押さえ込めない。ぎゅうっと強く引っ張られたスカートの下で、しゅる、じゅっ、と女の子の股間がみっともない音を響かせ、美智香の内腿の隙間を熱い雫が満たす。ぽた、ちょろっ、ちょろろっ、と吹き出したオシッコはくねくねと揺すられる少女の脚元、倉庫の床に雫を垂らしてゆく。
(や、だめ、ダメぇ……!!!)
 オモラシ。
 オシッコ。
 床を濡らさないために――美智香の身体は最後の力を振り絞って、最悪の事態を回避するための行動に出ていた。
 ほとんど真っ白になった頭での、反射的な行動だった。
 美智香は床に落ちていた水泳バッグを掴み、もう二度と使うまいと思っていた水着入れのビニール袋を引っ張り出す。
 この間にも、溢れそうなオシッコを塞き止めるため、美智佳の脚はひっきりなしにその場足踏みを繰り返していた。
 閉じた口の結び目を、焦りながら震える手でもどかしく解き、大きくビニール袋の口を広げる。
「っふぅあ……!!」
 脚の付け根で、排泄孔がぷくっと膨らむ。美智佳はスカートもたくし上げられず、ビニール袋を跨ぐように“がばっ”と足を広げ、むき出しの股間にきつくビニール袋の口を押し付けた。
 ほとんど間をおかず、、制御をなくした排泄孔がオシッコを出し始める。美智香の脚の付け根から激しい水流が吹き出して、あてがわれたビニール袋の内側に叩き付けられた。

 じょっ、じょぼっ、じょぼぼぼぼぼぼぼぉおーーーっ!!!

 まるでホースの先端を潰して庭に水を撒いているかのような、激しい激しい水流だった。
 堰を切ったように溢れ出す激しい水流が、半透明の袋の内側にぶつかって、雨が傘にぶつかるようなばらばらという激しい飛沫を飛ばした。美智香が我慢に我慢を重ね続けて溜め込んだオシッコの大放流は、倉庫の床を汚す代わりに、簡易トイレと化したビニール袋の中に注ぎ込まれていく。
「ぁ、あっ、あっ」
 激しいのは音だけではない。長い間の我慢で濃縮されたオシッコは、色も匂いも強く、熱気の篭った2m四方の密室のなかに濃い匂いを立ち込めさせてゆく。
 激しい水流を受け止めるビニール袋の中では、少女の身体に不要な成分をたっぷりと含み、ちくちくと鋭い尿意をもたらしていた特濃のオシッコが、中身をびちゃびちゃに浸していた。美智香がついさっきまで穿いていた下着も、紺の水着も、薄黄色の暖かい液体の中に沈んで行くのだ。
「ぁ……はぁっ……」
 しかし、そんなビニール袋の中の惨状には気付けないまま、美智香は恥ずかしさも忘れて、我慢の局地に達していた尿意からの解放感に夢中になっていた。少女の唇は薄く開き、まるで喘ぎにも似た声をこぼす。
 焼けた砂を飲み込んでいたようにきつい尿意を訴え、ぱんぱんに膨らんでいた膀胱が、緊張から弛緩へと変化する括約筋とともに中身を空っぽにしてゆく。
 おなかの中を占領していた熱がごっそりと抜け落ち、背筋が震える。苦痛からの解放はいっそ快感にも近いほどだった。耐えに耐えたオシッコを思う存分出しきる快感に、ビニール袋を支える手の指にぎゅっと力が篭り、美智香の腰がぶるぶると震える。
「ふぁ……ぅ」
 美智佳のオシッコは長く続いた。それは本来、少女の繊細な羞恥心によって隠され、他人の視線には決して触れることのない秘密の行為のはずだ。女子トイレという禁域の、秘密の個室の中でだけ、少女はオシッコをすることが許されている。
 美智佳はそれを、おそよトイレとは無関係の場所でしているのだった。中腰になってスカートの下にビニール袋をあてがうという、およそありえない姿で。しかもあろうことか、そのオシッコの注がれる先は、便器でもなく、彼女自身の下着を詰め込んだ安っぽいレジ袋の中である。
 美智香は今、自分の着ていた水着と下着を、自分自身のオシッコで取り返しのつかないほどに汚しているのだった。考え方を変えればこれはもはやオモラシとまったく変わらない。
「ぁふっ……ぅあぁ……」
 ビニール袋の中に響くくぐもった水音が、次第にゆるやかなものに変わってゆく。時間にして数えれば実に1分近い放出は、どれだけ美智香が我慢を続けていたのかを示すに十分なものだ。
 そして勢いもまたそれに比例して激しかった。しっかりとビニール袋をあてがっていたにもかかわらず、入りきらなかったオシッコは倉庫の床に小さな飛沫を撒き散らしている。

 ちょろ、ちょろろ……ちょろっ、ぴちょ……

 水流が雫に変わり、水滴の音で締めくくられる。ちいさくいきむと同時に、残っていた水滴がちょろろっとこぼれてビニール袋の水面を揺らす。
 とうとうおなかの中が空っぽになるまで、美智香は溜まっていたオシッコを全部ビニール袋の中に出してしまった。
「……で、ちゃった……」
 そして、猛烈な尿意が去ると共に、徐々に美智佳の頭にも冷静な自分が戻ってくる。
 自分がどこで何をしてしまったのかは、ずっしりと重いビニール袋が教えてくれた。美智佳が小さなおなかの中に抱え込んでいた恥ずかしい液体で水浸しとなったビニール袋の熱さと重さが、美智佳の羞恥心をざくざくと切り刻む。
(こんなところで……お、オシッコしちゃった……っ……ビニール袋なんかに、オシッコ、しちゃったっ……!! ……水着も、パンツも入ってたのに……あんなにしちゃって、もう着れないよぅ……)
 すん、とすすり上げると、狭い倉庫の中いっぱいに満ちたオシッコの匂いがはっきりと感じられた。蒸し暑い気候にくわえ、密閉されて空気の澱んだ園芸倉庫の中ではより一層、自分の匂いが強調されているような気までしてくる。
 美智香の目元にじわっと涙が滲んだ。
「ぐすっ……」
 オシッコでいっぱいになったビニール袋をぶらさげたっまま、しゃくりあげながら、熱い目元をこする。美智香はあとからあとからこぼれそうになる涙をぬぐうので精一杯だった。
(っ、どうしよう……お母さんに、ぉ、怒られちゃう……っ)
 大切な水泳道具を入れた袋を、トイレの代わりに使ってしまったことへの途方もない罪悪感が少女を責めたてる。自分のオシッコで水浸しになったビニール袋を抱え、美智佳は途方にくれてしまう。
 女の子として絶対にあってはならないことを、してしまった。飲み込んだ嗚咽と共に、じっとりと湿った空気が、美智香のおしっこの匂いと一緒になって鼻奥をつんと刺激した。
 まるで、倉庫の中全部が、自分のオシッコでいっぱいになってしまったんじゃないか――そんな風に美智香には感じられた。


 (初出:書き下ろし)
 
[ 2009/03/25 21:12 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

倉庫とビニール袋の話・1 

「もーぉいーぃかーいっ!?」
「まーだだよぉーっ!!」
 はしゃぐ子供達の小さな声が、窓の向こうへ遠ざかってゆく。汗ばんだTシャツの裾をつまんでぱたぱたと風を送りながら、美智佳はぽすんと積み重ねられた園芸肥料の袋の上に腰掛ける。
 目鼻立ちの整った表情はわずかな期待といくらかの退屈を覗かせ、短いワンピースのスカートから突き出した細い素足は、サンダルを引っ掛けたままぱたぱたと揺れている。
「もぅ、まだ? ……いつまで隠れてるんだろ」
 肩上の髪がうなじに張り付いているのは暑いからではなく、プールで湿った髪がまだ乾いていないから。塩素の匂いをわずかにさせた前髪をつまみながら、はぁ、と溜息をつく。
「本当、アキちゃんたちの相手してあげるのも疲れるわよね」
 ことさら自分が“お姉さん”であることを強調し、美智佳は大人びたつもりの口調でそうつぶやいた。プール帰りに近所の低学年の子たちとばったり出くわした美智佳は、帰る予定を変更して一緒に遊ぶことになった。かくれんぼなんて子供っぽいと思いはしたが、上級生の“お姉さん”としてはたとえ幼稚でも付き合ってあげるのがオトナのやりかたというものである。
 しかし、付き合いはじめてかれこれ30分。美智佳が見つかったのはまだたったの1回だけだった。もっとちゃんと探せばいいのに、アキたちは鬼になってもまるで見当はずれのトコロばかり探しているのだ。
 いい加減、美智佳は苛立ちはじめていた。
「あっついなぁ……」
 公園の片隅の園芸用品倉庫は、格好の隠れ場所になってくれはしたが、どうにも暑いし、空気も澱んでいてキモチ悪い。手のひらでぱたぱたと顔を扇いでみるが、気休め程度でしかなかった。
 退屈を象徴するように、宙に浮かんだ美智佳の脚はぷらぷらと前後に揺すられる。園芸用品倉庫は2m四方くらいの小さな部屋で、窓がひとつあるだけの狭い空間の半分くらいに、シャベルと肥料、ロープなどがぽつぽつと置いてある。
 春先や秋口にはもっといろいろなものがしまわれているが、この季節はほとんど空なのを、美智佳は去年、夏祭りのお手伝いをして知っていたのだった。とは言え、いまは退屈を紛らわせるようなものも何もないことこそが問題なのだ。
「もぉーいぃーよぉー!!」
 アキたちの合図の声が聞こえる。
 しかし、はしゃぎ声はどんどん遠くなるばかりで、この分ではしばらく美智佳の隠れている園芸倉庫付近まで誰かがやってきそうには思えなかった。
 足元には美智佳の荷物の青いバッグもあったが、中には着替えた水着とタオルが詰まっているくらいで、こちらにも暇潰しになるようなものはなかった。
「はぁ……」
 もう一度溜息をついて、美智佳は口を尖らせ、腰掛けたスカートのおしりをもぞもぞと動かした。
 サンダルを引っ掛けていた爪先がぴんと伸びて、地面をつつく。
 いざ気が紛れないとなると、忘れていたいと思っていたその感覚が、じわじわと無視できないものになってゆくのだ。
「んっ……」
 美智佳は不意に立ち上がると、園芸倉庫の中を歩きだした。さして広くもないうえに荷物があって自由に歩けない狭い空間を、まるで何かに追い立てられるかのようにぐるぐると、小さな円を描いて歩き回る。
「っ、ふ……っ……ぁ……っ」
 ぴたりと立ち止まった美智佳の唇から、ぞわり、ぞわりと波打つように少女の吐息がこぼれる。小さな手はぎゅっと握り締められ、爪先が代わりばんこにぐりぐりと倉庫の床をねじる。
 剥き出しの素足がきゅうっと交差され、とうとう我慢できなくなった手のひらが、寄せ合わされた膝の上からぎゅうっと下腹部を押さえ込む。
(ま、またしたくなってきちゃった……っ)
「んぅっ……」
 目を閉じ、口を閉じてぎゅっと一文字に引き結ぶ。
 ぷるぷると震える腰がほんの少し後ろに突き出され、前傾姿勢になった身体を支えるように壁に手を突いて、美智佳はぎゅうぎゅうと股間を押さえ込む。
 まるで手のひらで自分の身体を持ち上げてようとしているような格好。
 ……もはや美智佳が何を我慢しているのかは、明白だ。
(トイレ……っ……)
 いつのまにか、身体の中でたぷたぷと揺れる黄色いオシッコを下腹部いっぱいに抱えながら。美智佳はひとり、じっと息を潜めていた。





 美智佳が尿意を覚えたのは、ちょうどプールから上がって更衣室で着替えていた時だ。
 市営のプールは実のところあまり綺麗ではなく、トイレもできれば使いたくない古びて汚れている場所だったので、よっぽどのことがない限り美智佳は使わないことにしていた。
 その時の感覚はまあ、ちょっとオシッコしたい、くらいの軽いもので、家に帰るまで十分間に合うだろうと思われたので、美智佳はそのままトイレには寄らず、我慢することにしたのだった。
 事実、帰っている途中はほとんどオシッコは気にならなかったし、アキたちのかくれんぼに付き合うことになった頃にはすっかり忘れていた。
 だが、一旦は引いていたオシッコの波は、かくれんぼの間一人でじっと物陰に隠れているうちに再び潮が満ちるように高まり、ついさっきからはこうやってぎゅっと前を押さえなければ我慢できないほどになりつつあった。
(……もぅ、どこ探してるのよっ、みんな……)
 じりじりと高まる尿意に急かされ、美智佳もいい加減、そろそろ切り上げて家に帰らねばならないと思い始めていた。
 困ったことにこの公園にトイレがないので、ちょっと休憩というついでにオシッコを済ませることはできないのだった。
 と言って、まさかここでオシッコをしてしまうわけにもいかない。美智佳は窓を見上げ、ちらちらと周囲を確認して思案する。
(どうしよう……かな)
 このまま黙って帰ってしまおうか。それとも隠れるのを止めてアキたちに見つけてもらうか。せっかく遊びに付き合ってあげている“お姉さん”としてはなんとなくそれを言い出せず、ずるずると今に至っている。
「…………」
 こうなるとはやく鬼が見つけてくれるのが一番なのだが、困ったことにその鬼がまるで役に立たないのだった。
「んっ……」
 また、オシッコの波の予兆を感じ取って、美智佳の脚がきゅうっと緊張する。今度はそう簡単には乗り越えられなそうな、大波の気配だった。
(……や、やっぱりもういいや、アキちゃんたちには悪いけど、か、帰ろうっ)
 そう決心した美智佳は、ともかく倉庫を出ようとドアに手をかける。

 ――だが。

「え……、なにこれ……ちょ、ちょっと……っ!?」
 ドアノブには何の手ごたえもなく、くるくると回るばかり。いくら力を込めてもがちゃがちゃと音を鳴らすだけで、まったく開く様子がない。
「う、ウソでしょっ!?」
 困惑から焦燥へ。美智佳は声を上げ、ドアノブを掴んでドアを揺さぶる。だが、押しても引いても叩いても、一体何をどうした具合か、園芸倉庫のドアは硬く閉ざされたまままったく開こうとしなかった。
 がんがんとドアを叩き、美智佳は乱暴にドアをゆする。
 わずかにがたがたと扉は揺れるが、所詮少女一人の力でこじ開けられるわけもない。動かなくなったドアは、まるで壁と同じように、狭い園芸倉庫を密室に変えてしまう。
「あ、開けてよっ……だ、誰かイタズラしてるの!? ねえっ!?」
 荒げた声に答えるものはいない。窓の外からは、かわりにじわじわと鳴く蝉の声だけが響いている。
「ウソ……本当に開かない……の…?」
 美智佳が閉じ込められたことを理解したとき、それを見計らったかのように高まり出していた尿意が一気に攻勢をかけてくる。
「ふぁうっ……っ!?」
 ドアをノックしていた美智佳の両手が、ばっと股間に集まる。手のひらがあそこに重ね当てられて、十本の指がワンピースのスカート生地の上から脚の付け根を握り締めた。
「や、やだっ……あ、あっ、あっ」
 きつく噛み締めた奥歯が美智佳の表情を強張らせ、クロスされた脚がくねくねと擦り合わされる。下着にあふれそうになる熱い雫が、ぷくりとオシッコの出口を膨らませては、収縮する括約筋に押し戻されてゆく。
「ぁ、あっ、あっ、あーっ……」
 尿意を堪える声が高くなり、美智佳の手足は一層緊張に強張った。
(いやぁ……だめ、と、トイレぇっ……)
 助けを求めて、スカートから離れて握り締められた手が、閉ざされたドアを力なく叩く。もう一方の手はぴったりとスカートの前に張り付いて大胆に股間を握り締め、美智香は今にも崩れ落ちてしまいそうな身体を必死に支えた。
 ぐぃっ、と引き絞られたワンピースのスカートの中、少女の股間を覆う下着の奥で、イケナイ感覚が溢れようとしている。
「ぁ、ぁ……ぁ、~~…っ……!!」
 か細い悲鳴を上げながら、美智香は懸命に緩みそうになる下腹部の水門を締め付ける。身じろぎと共に腰が左右にくねり、健康的に日焼けした膝ががくがくと震えた。
(ダメ、だめだめっ、オモラシなんか絶対ダメなのっ……!! ちゃ、ちゃんとガマンできる、できるんだから……っ)
 膀胱の貯水量の限界に迫りつつあるオシッコを押さえ込み、美智香は自分を叱咤する。もうおねえさんの自分がこんなところでのオモラシなんて、決してあってはならないことだった。
 ふ、ふ、と唇を噛んで声を飲み込み、息を詰めて、美智香は執拗な『オモラシ』の誘惑に抵抗し続ける。これはもはや少女のプライドをかけた、オシッコとの戦いだった。
「ねえ、だれかいるの?」
 不意に声がかかったのはその時だ。
 窓の向こうから、アキの声が聞こえた。
「っ、あ、アキちゃんっ」
 美智佳が助けを求めようと声を上げた瞬間だった。
 じわぁ、と下腹部に熱い衝撃が走る。油断した瞬間を狙い済ましたかのように、不意打ちで込み上げてきたオシッコの波が、とうとう美智佳の防波堤を乗り越えたのだ。
「ぁ、あっ、あっ……!?」
(だ、だめ、ダメぇっ!!)
 きつく押さえ込まれたワンピースの下、白い下着に包まれた美智佳の脚の付け根の奥でで、ぷしゅっ、じゅっ、じゅうううっ、と禁断の水音が響く。
 排泄孔からぷしゅうと吹き出した水流は、股布にぶつかって白い布地をあっという間に侵食してしまう。ワンピース越しにじわっと手のひらを汚すおチビリの感触に、美智佳は背筋を震わせた。
「いや、いやぁあっ」
 くねくねと腰を揺すって漏れ出すオシッコをせきとめようとする美智佳だが、努力の甲斐もなくあふれ出したオシッコは下着の保水力を突破し、寄せ合わされた内腿にこぼれ出した。日焼けした膝をつうっ、ちょろろっ、と水流が伝い、健康的に日焼けした脚を汚してゆく。
「あー、美智佳おねえちゃん? ここに隠れてたんだぁ。美智佳おねえちゃんみーぃつけたーっ!!」
「っ……」
 暢気に鬼の役目を果たすアキ。しかし美智佳はそれどころではない。
(だめ、お、オモラシなんかっ……絶対ダメぇっ……)
 くじけそうになる心を叱咤し、緩みそうになる水門を手のひらの力を使って押さえ込む。しかし、下腹部の奥で収縮を繰り返す膀胱は美智香の意思に反してオシッコを搾り出そうと、じゅう、しゅるしゅるるっ、と断続的に熱い雫を滴らせる。このままでは、おチビりを通り越してオモラシに到達するのも時間の問題だ。
「~~……っ!!」
「おねえちゃん? ねえ、おねえちゃん見つかったんだよ? こんど鬼だからね? ねー、美智佳おねえちゃんー? どうかしたの?」
「っ、あ、アキ、ちゃんっ」
 限界ぎりぎりのところで踏みとどまり、あそこを押さえながら声を振り絞る美智佳。けれど、声を出そうととするとオシッコまで一緒にじゅわあと吹き出してしまい、思うように言葉が続かない。
 だが今は、アキに頼るしかこの密室を抜け出す方法はないのだ。
「アキちゃん、あの、こ、ここ、開かなくなっちゃったのっ、ね、ねえお願い、開けてぇっ!!」
「えぇーっ!? ほんとう!?」
「み、みぎのほうに、ドア、あるからっ」
「うんっ、わかったっ」
 ぱたぱたと足音が響き、アキが倉庫のドアに向かう。
「……あれ?」
「そ、そっちじゃなくて、反対のほうよっ」
「えーと、えっと、おちゃわん持つほうが右手で……」
 あまりにも頼りないドア向こうの救出部隊。美智佳はくじけそうになる心を必死に励まして、オシッコ我慢の姿勢を続ける。懸命の努力でなんとかおチビリは止まっていたが、またいつ再開してもおかしくない状態だった。
(あとちょっと、ちょっとだけ我慢すれば出られるのっ!! も、もうすぐ、ほんのすこしだけ待てば出られるからっ、だから、オモラシなんかダメっ、ぜったいだめっ……!!!)
 両手の指でぐいぐいと濡れた下着を握り締め、ばたばたと足をその場で踏み鳴らし、美智佳はドアの向こう側のか細い希望に心を繋ぐ。
 だが。
 がちゃがちゃ、と倉庫のドアノブをいじったアキは、あっさりと告げた。
「んーっ、んーんっ。……ねえおねえちゃん、これ開かないよぉ?」
「え……そ、そんな、ウソでしょ!?」
「うそじゃないもん。ぜんぜん開かないよっ」
 疑われて気分を害したか、ちょっと怒った声のアキ。
 それはいまや死刑宣告に等しい言葉だった。目の前が真っ暗になるのを感じながら、美智佳は背筋に冷たいものを覚える。
「そ、そんな……ぁ」
「これじゃあ、おねえちゃん見つけたーってできないね。どうしよう?」
 この期におよんで悠長なアキの声。美智佳はおもわず叫んでいた。
「そ、それじゃ困るんだってばっ!! は、早く開けてっ……」
「だからぁ、開かないの。おねえちゃん、ちゃんとアキのおはなし聞いてなかったの?」
(そ、そんなことじゃなくてっ……!!)
 かくれんぼなどと言う瑣末な問題ではなく、いま美智佳が直面しているのはもっともっと、逼迫して差し迫った超緊急事態なのだ。暢気なアキにとうとう我慢できず、美智香の苛立ちは形になり、オシッコに濡れた手で、ばんっ、と壁を叩いた。
「アキちゃん、だ、誰でもいいから、おとなのひと呼んで来てよっ」
「えー?」
「いいから早くっ!! も、もう我慢できないのっ!! お願い!!」
 もはや我も忘れて、美智佳は叫んでいた。まったく話の分かっていないらしいアキに“お願い”するのははなはだ不本意で、不安なことこの上ないが、さりとてこのままでは埒があかない。
「早く、ねえ、早くしてお願いだからっ!! あ、あのね、アキちゃん。その……おねえちゃん、ぉ、おトイレ……がまんしてるの!! だからお願い、アキちゃんっ、早くして……!!」
「ええー? そうなの? おしっこ? おねえちゃんおしっこしたいの?」
「……っ、そ、そうなの、だからお願い……っ、アキちゃん、はやく…」
 アキのような小さな子にとはいえ、……いや、むしろ小さな子相手だからこそ、耐え切れない尿意を伝えるのはあまりに屈辱的だった。しかし、背に腹は変えられない。そうでもしなければ、この逼迫した事態をアキに伝えられるとは思えなかった。
「んー、わかったー」
 本当の本当に分かってるんだろうか。思わずそう聞き返したくなる。
 けれど、アキの足音はそのまますぐに小さくなっていった。遠ざかる小さな望みに、切なく高まる下腹部の危機をゆだね、美智佳はじっと待つしかなかった。



 (初出:書き下ろし)
 
[ 2009/03/25 21:10 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。