FC2ブログ



スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

安全パトロールメール 

 元ネタを追記しようかと思ったが、明らかに自分で自分の足を引っ張る気がするので自重。




No.0020117
都道府県 ○○県
メルマガ名 ▲▲支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 16:32:34
タイトル 女子児童の不審行動

07月XX日16時20分頃、△△市□□区○○1丁目を巡回中の▲▲支所巡回員が、個人宅の玄関付近で不審な行動をしている女子児童を目撃した。
女子児童は個人宅の玄関前で、窓を覗く・鍵をいじるなどの不審な行動をしていたため、巡回員が声かけを行うと女子児童は『違います』『ここ、私の家です! 本当です!』『その……』『お手洗い……』などと応答した。
落ち着きなく足踏みをするなどの行動も見られたため、女子児童の保護を行おうと試みたが、児童がこれを拒絶したため、立ち去るように指導を行った。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9981
不審者を見かけたら、すぐに当該部局へ通報するか、最寄りの支所へ連絡して下さい。
発信:◆◆支所







No.0020123
都道府県 ○○県
メルマガ名 ◆◆支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 16:53:34
タイトル 市立公園での女子児童の目撃

07月XX日16時45分頃、△△市□□区●●を巡回中の◆◆支所巡回員が、市立公園内の公衆トイレ付近で下校途中と思われる女子児童を目撃した。
当該地区には不審者の目撃情報があるため、巡回員は女子児童に声かけを行い、安全のためただちに公園出口まで付き添ったのち、帰宅を促した。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9981
不審者を見かけたら、すぐに当該部局へ通報するか、最寄りの支所へ連絡して下さい。
発信:◆◆支所







No.0020131
都道府県 ○○県
メルマガ名 ■■支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:02:11
タイトル 女子児童の私有地立ち入り

07月XX日16時50分頃、△△市□□区●●3丁目付近の私有地で、女子児童が私有地への立ち入りが確認された。
女子児童は□□区△△市立▲▲▲学校に通う生徒と見られ、下校途中に指定の通学路を外れた私有地の草むらに侵入しようとしていたところを発見、巡回員が声をかけるとそのまま立ち去った。
付近に不審なものは見当たらなかった。
児童は通学鞄を背負った○年生前後。短いポニーテール姿、水色のブラウスにベージュ色のスカートを着用。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9999
不審者を見かけたら、すぐに当該部局へ通報するか、最寄りの支所へ連絡して下さい。
発信:■■支所







No.0020133
都道府県 ○○県
メルマガ名 ■■支所・安全パトロールメール・続報
受信日時 2010/07/XX 17:08:14
タイトル 女子児童の路上でのしゃがみ込み

07月XX日17時00分頃、△△市□□区●●2丁目付近の路上で、女子児童が不審な行為まっているのが確認された。
女子児童は□□区△△市立▲▲▲学校に通う○年生の生徒と見られ、下校途中の通学路のごみ集積場の陰で下着に手をかけ、しゃがみこもうとしているのを巡回員が発見。巡回員が声をかけるとそのまま立ち去った。
路上にはわずかに水滴の痕が確認された。
児童は通学鞄を背負い、短いポニーテール姿、水色のブラウスにベージュ色のスカートを着用。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9998
不審者を見かけたら、すぐに当該部局へ通報するか、最寄りの支所へ連絡して下さい。
発信:■■支所







No.0020134
都道府県 ○○県
メルマガ名 ■■支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:14:32
タイトル 女子児童の路上での不審行為(しゃがみ込み行為続報)

07月XX日17時05分頃、△△市□□区●●1丁目付近の国道×××号交差点で、女子児童がスカートの前を押さえ、しきりに腰をよじるなどの不審な行動を行っているのが確認された。
女子児童は前二報および◆◆支所別報(No.0020131)で確認された児童と同一と見られ、□□区△△市立▲▲▲学校に通う○年生の生徒であることが確認されている。(リンク先:別報問い合わせ1参照)
児童が目撃された交差点は指定の通学路とは異なる区域であり、デパートなどの繁華街からも近い場所である。安全防災上の観点から巡回員が声をかけ、通学路への誘導を行った。
女子児童は通学鞄を背負い、短いポニーテール姿、水色のブラウスにベージュ色のスカートを着用していた。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9997
不審者を見かけたら、すぐに当該部局へ通報するか、最寄りの支所へ連絡して下さい。
発信:■■支所







No.0020135
都道府県 ○○県
メルマガ名 ■■支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:16:49
タイトル 【緊急】不審行為を行っていた女子児童の保護要請

07月XX日17時10分頃、△△市□□区●●1丁目付近の国道×××号交差点で、指定の通学路を離れていた□□区▲▲学校○年●組の女子児童が巡回員に保護され、随伴されて通学路に戻る途中、巡回員の制止を振り切って逃走するという事案が発生。
女子児童は巡回員の質問にもあまり答えず、俯いて声を詰まらせ、スカートの上から股間を握りしめるなどの不審な行動を繰り返していた。
女子児童は支所の問い合わせにより△△市立▲▲▲学校○年●組の氏名:■■■■(出席番号10番、11月3日生まれ、満×歳、血液型O型)であることが確認されている。通学鞄を背負い、短いポニーテール姿、桜の髪留めと白のソックス、黒の革靴、水色のブラウスにベージュ色のスカートを着用していた。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9996
担当地域の巡回員は、ただちに当該女子児童の保護を優先してください。
発信:■■支所







No.0020136
都道府県 ○○県
メルマガ名 ▲▲支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:20:27
タイトル 【緊急】不審女子児童の目撃情報

07月XX日17時15分頃、△△市□□区◆◆2丁目付近を巡回中の▲▲支所巡回員が、ビルの解体工事現場の資材置き場付近で、保護要請のあった女子児童を目撃した。
女子児童は、建築資材置き場に無断で立ち入り、設置されていた仮設トイレ付近で『お願い』『トイレ貸してください』などと不審な要求を行っていたもの。現場の建設作業員に制止されていたものの、足を擦り合わせ、前かがみでスカートの前を握りしめるなどの不審な行動を行っていたのが確認された。
巡回員が到着するのと入れ違いに、女子児童はそのまま立ち去った。

※女子児童は△△市立▲▲▲学校○年●組の氏名:■■■■(出席番号10番、11月3日生まれ、満×歳、血液型O型)。通学鞄を背負い、短いポニーテール姿、桜の髪留めと白のソックス、黒の革靴、水色のブラウスにベージュ色のスカートを着用。
07月XX日17時05分頃、国道×××号交差点で、指定の通学路を離れているのを巡回員に保護され、随伴されて通学路に戻る途中、巡回員の制止を振り切って逃走したもの。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9995
発信:▲▲支所







No.0020137
都道府県 ○○県
メルマガ名 ◆◆支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:23:21
タイトル 【緊急】不審女子児童の情報・追加

現在、No.0020135にて保護要請の出ている女子児童について、△△市立▲▲▲学校より住所を確認。条例に基づいて各支所に送付を行うとともに、公開を行う。

・△△市立▲▲▲学校○年●組の氏名:■■■■(出席番号10番、11月3日生まれ、満×歳、血液型O型)。
・住所は△△市□□区○○1丁目×番◆号 ハイツ●●1階
・通学鞄を背負い、短いポニーテール姿、桜の髪留めと白のソックス、黒の革靴、水色のブラウスにベージュ色のスカートを着用。
・ポケットティッシュなどを所持。前屈みになりスカートの前を押さえる、不意に立ち止まる、小刻みに足踏みをするなどの不審な行動を繰り返している。

各支所の巡回員は、女子児童の保護を完了次第、速やかに連絡を行うこと。

発信:◆◆支所






No.0020139
都道府県 ○○県
メルマガ名 ◆◆支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:34:56
タイトル 【緊急】不審女子児童の確認

07月XX日17時30分頃、△△市□□区◆◆3丁目付近の路上で、巡回中の◆◆支所巡回員が、保護要請のあった女子児童
を目撃した。女子児童は、路上に駐車されていた乗用車の陰に入り込み、スカートをたくしあげしゃがみ込んでいたところを巡回員に気付いて逃走。
地面に痕跡はなかったものの、ポケットティッシュなどが残されていた。
現在、女子児童は◆◆4丁目へ向けて移動中。
各支所の巡回員は、直ちに現場へ急行されたし。

地図:http://XXX.XXXX/XX.XXXX9993
発信:◆◆支所







No.0020143
都道府県 ○○県
メルマガ名 ◆◆支所・安全パトロールメール
受信日時 2010/07/XX 17:58:19
タイトル 不審女子児童の保護

07月XX日17時50分頃、No.0020135にて保護要請のなされていた女子児童(△△市立▲▲▲学校○年●組の氏名:■■■■、出席番号10番、11月3日生まれ、満×歳、血液型O型)の保護を完了した。
女子児童は◆◆4丁目付近を移動していたところを各支所の巡回員によって保護され、現在は◆◆支所へと移送中。
服装には一部乱れがあり、スカートなどに不審な染みが確認された。
現在、女子児童は『トイレさせてください』『お願いします、トイレ』『もう我慢できない』などと混乱状態にあるため、巡回員2名が付き添っている。詳しくは支所へ移動後に事情を聴く予定。

発信:◆◆支所





 (初出:書き下ろし)

[ 2010/09/24 19:30 ] 小ネタ | トラックバック(-) | コメント(-)

特別編 『不思議の国のアリス』 

※我慢シーンのみ。注意。
 元ネタは山形浩生版(ttp://www.genpaku.org/alice01/alice01j.html)の翻訳。
 この調子で全編にわたりアリスがおしっこを我慢している展開を書いてはみたものの、途中でデータが破損してやる気をなくしたので、残っていた部分だけ。




7. おかしなお茶会


 アリスがたどり着いた広場には一軒の赤い屋根のお家があり、その前の木の下では大きなテーブルを広げた奇妙な顔ぶれがお茶会を開いていました。
 ふんふんと鼻を鳴らし、血走った眼をあちこちに向けながら耳をぴこぴこと揺らしている三月ウサギが椅子に座り、その隣では、ティーカップを前に、たくさんの帽子をかぶっては脱ぎかぶっては脱ぎしている帽子屋さん。その二人の間にはくうくうと可愛らしいいびきをかきながら、ヤマネが眠っていました。
 三月ウサギと帽子屋はその眠りヤマネをまるでクッションのようにして、ひじを乗せておしゃべりをしているのです。
(かわいそう、ヤマネさん……痛くないのかな? でも、眠ってるから気にしないのかしら?)
 そんなことを思ったアリスでしたが、さっきから暗い森の中をあるきづめですっかり冷えてしまった身体がぶるりと震え、たまらずもじもじと腰を揺すってしまいます。
「あんっ……」
 アリスが小さく声を上げると、エプロンドレスのスカートがふわふわと揺れ、足元ではトイレを我慢する小さな足がもじもじとせっかちなダンスを踊っているのでした。
 アリスが声を上げたもので、テーブルにいた3人は揃って顔をあげ、口々に言います。
「なんだい、もうテーブルは満員だよ」
「……お呼びじゃないさ。ふわぁ……」
「うふふぅ、どこから来たんだい、お嬢ちゃん」
 テーブルはとっても大きくて、たくさんお茶の用意がしてあるのに、3人はその隅っこに固まって座っていました。その上で帽子屋たちがいきなり意地悪なことを言うものですから、アリスもむっとしてしまいます。
「どこが満員なのよ。いっぱい空いてるじゃない!!」
 お茶会だからお行儀よくしないといけない、ということは、アリスの頭の中からすっぽり抜け落ちてしまっていました。ずかずかとテーブルのそばに近寄ったアリスは、帽子屋たちの座る席の向かいにある、大きな肘掛け付きの椅子に腰かけます。
「……まったく、礼儀のなってないお嬢さんだ」
「お嬢さんじゃないわ。アリスっていうのよ。帽子屋さん」
「アリス、アリスねえ」
 帽子屋は何事か考えているように、つばのついた山高帽をくるくると回し始めます。
「そんなことより!」
 アリスはじれったくなって、もじもじとテーブルの下で膝を擦り合せながら、言いました。
「ねえ、あなたたちはずっとここにいるの? 尋ねたいがあるんだけど」
「うふふう。ねえ、ワインはいるかい?」
 いきなり三月ウサギに言葉を遮られて、アリスはさらにむっとしましたが――お茶会でどなり声をそう何度もあげるなんて、さすがに無作法なことです。じっと我慢してアリスはテーブルを見回しました。けれど、大きなテーブルの端から端までを確かめても、そこにはお茶しか載っていません。
「……ワインなんか、見当たりませんけど」
 お行儀よくしなければいけないというのを思い出して、できるだけ礼儀正しくアリスが答えると、三月ウサギはうふふぅ、といやらしく鼻を鳴らして目を細めます。
「だって、そんなの用意してないもん。うふっふぅ」
「だったら、ありもしないものを勧めるなんて失礼だ――失礼じゃありませんこと?」
「うふふう。勝手に来たのは君じゃないか。招待状もないくせに」
「そんなものが必要だってわかったらこなかったわ」
 アリスは早くも、このやり取りがいやになってしまいました。ぜんたい、この馬鹿げた国のどこにもかしこにも、まともに話のできる相手がいないのですから。特にこの三月ウサギは、いやらしい目でじろじろとアリスを品定めするように見てくるので、アリスはもじもじと椅子の上で体を揺すり動かすこともできません。
 エプロンドレスのスカートの下では、いまもアリスの女の子がせわしなくおトイレを訴えているというのに。
「それに、あなたたち3人よりずっと大勢の人のお茶が用意してあるじゃない!」
「うふふぅ。そんなに飲みたかったら飲めばいいじゃないか」
 三月ウサギがそういうと、テーブルの上のティーセットがひとりでに動いて、アリスの前のティーカップに熱い紅茶をなみなみと注いでいきます。
 実際のところ、アリスはもうここに来るまでにも何倍も水やお茶をおかわりしていて、すっかりおなかがたぽたぽになってしまっていたのですが――三月ウサギにこれ以上無礼なやつだと思われるほうがしゃくだったので、アリスはぐっと我慢してお茶を頂くことにします。
「……ふう……っ」
 大きなカップは普段、アリスが使っているものよりもふた回りも立派でした。こくりこくりと冷えた喉がお茶を飲み干すたび、アリスのおなかの中にはこぽこぽ、こぽこぽ、と我慢し続けているおしっこが音をたてているようです。ギュッと目を閉じて、最後の一滴までを飲み干して、アリスはぶるりと背中を震わせました。
(あんっ……はやく、お手洗いにいかなきゃ……)
「ねえ、それよりも教えて。ここに時計をもったウサギさんが来なかったかしら? あなたじゃなくて」
 アリスは三月ウサギのほうを指差して、言います。
「私、あのウサギさんを探しているのよ」
 ほんとうのところはごまかして、アリスはそう言いました。それにそれは、あながち嘘というわけでもありません。もじもじとバニースーツの脚の付け根を押さえながら、ぴょんぴょんと何度も跳ねておしっこを我慢していた白ウサギさん。彼女を追いかけていけば、きっとおトイレに辿りつけるはずなのです。
「アリスといったかね、君、もう少し落ち着いたらどうだい」
 急に、これまで黙っていた帽子屋が――ヤマネも同じように何も言いませんでしたが、こちらはまたくうくうと眠っていたので別問題です――ずっとめずらしそうにアリスを見ていた帽子屋がそう言ったので、アリスはびっくりしました。
 まさか、おトイレに行きたいのを我慢しているのに気付かれてしまったのかも、そう思って、アリスはぴんと背をのばします。でも、いくらそうしても、椅子の上では太腿がすりすりと擦りあわされてしまうのでした。ごまかしきれないと思ったアリスは、帽子屋が何かを言う前に、声を上げます。
「あなた、学校で習ったでしょ? そんな風に、レディのことをあれこれ言っちゃいけないのよ」
 厳しい先生が、お作法の時間のときに眉を吊り上げていった言葉を思い出しながら、アリスは続けます。
「そういうの、すっごくぶさほうなのよ」
 帽子屋は、これをきいて目だまをぎょろりとむきました。怒らせちゃったかも、とアリスは思いましたが、結局帽子屋はそれ以上何も言ってきませんでした。
 すると突然、三月ウサギが言います。
「うふふう。じゃあ問題。上はびちゃびちゃ、下もびちゃびちゃ。これなーんだ?」
 いつものアリスなら、なぞなぞが始まってとても嬉しいなと思ったことでしょう。これでやっとこのわけのわからないお茶会も楽しくなるに違いないのです。
 けれど、今のアリスはそれどころではありません。今さっき飲んだ紅茶がきいてきたのか、どんどんおしっこがしたくなってきてしまっていました。これまでももちろんおトイレには行きたかったのですが、今度のはじっとしているだけでは我慢できないくらいになってしまったのです。身体を左右に揺すり、ぎしぎしと椅子を軋ませながら、アリスはあたりを見回し始めます。
「うふふう。どうしたのアリス」
「え、ええ、なんでもないわ。……その、わかると思うわ」
「ボクのなぞなぞが? じゃあ答えてみてよ。うふふふぅ」
 三月ウサギは落ち着きなく腰を揺するアリスを見ながら、にやにやと、いやらしく目を細めます。
「ええと……」
 上がびちゃびちゃ。下もびちゃびちゃ。アリスは思わず、おトイレに間に合わなくて、足元に水たまりをつくって濡らしてしまい――大泣きしている女の子の姿を思い浮かべてしまいます。もちろん、それはアリス自身のことなんかではないはずだと――もう立派なレディであるアリスは、おトイレまでおしっこが我慢できないなんてことはないはずだと――考えましたが、そうしている間にもアリスの太腿はさらにきつく閉じ合わされ、前後にすりすりと擦り合わされるばかりです。
「うふふぅ。ほらあ、どうしたの? 答えてよ。それともわからないのかい、アリス?」
「その、わかるわ。わかるわよ。すくなくとも――すくなくとも、それが私のよく知ってるなぞなぞじゃないっていうのはわかるわ。ふつうは上は大火事、下は洪水、なんでしょう? っていうのよ」
 その答えはお風呂です。ですが、それを聞いて帽子屋が言いました。
「全然わかってないじゃないか。そりゃあ、『傘は傘でも雨の日に差す傘は?』ってのと、『雨は雨でも傘をさせない雨は?』ってのとが違う答えだって言ってるようなもんだ」
「そうそう」
 と、三月ウサギ。
「『お茶を飲むとのどが渇く』と『のどが渇いたからお茶を飲む』がおんなじことだって言ってるみたい」
「ふわぁ……『眠るときにおねしょをする』と『トイレをする時に眠ってる』が同じ……みたいな」
「お前さんの場合は同じだろうよ、ヤマネ」
 あくび交じりのヤマネにそういうと、帽子屋はまた黙ってしまいました。
 アリスはなにか面白いなぞなぞを思い出して、気分を紛らわせようとしたのですが、今日はどういう具合かまるっきりなにも思い出せません。
 それどころか少しでも気を抜くと、おしっこのほうが出ちゃいそうになるばかりで、きっとこれを我慢し続けてるから考えもどこかで詰まってしまってうまくいかないんだわ、とアリスは思います。
「ふぅっ……」
 考えながら、アリスはまた紅茶をティーカップに2杯も空にしてしまいました。空いたカップには、すかさず三月ウサギが新しい紅茶をついでくれるのです。


 しばらくして、いちばん最初に沈黙を破ったのも帽子屋でした。
 ポケットから時計を取り出して、しかめっつらでそれを見ながら耳に当てたり、振ったりしてアリスに聞いてきます。
「ところで、今日は何日だかわかるかい、お嬢ちゃん?」
 アリスはすぐには答えられませんでした。わけの分からないことが立て続けですっかり参っていたのもありますが、ちょうどおしっこが出てしまいそうになっていた時で、それが話せるようになるまで我慢するのに精一杯だったからです。
「……んっ……四日だと、思うわ……」
「四日だって? なんてこった。二日も狂ってるじゃないか」
 もじもじと腰を動かしながら、アリスが片目を閉じてそう言うと、帽子屋は溜息のあと、怒ったように三月ウサギを睨みつけます。
「だからバターじゃ良くないって言っただろう」
「うふふぅ。そんなことないさ、最高のバターを使ったんだよ?」
「パン屑が一緒に入ったんだろうな」
 帽子屋から時計を受け取った三月ウサギは、それを自分のお茶に浸してみてから、また眺めました。けれどどうも具合は良くなっていないらしく、三月ウサギはもう一度つぶやくのです。
「バターは良かったんだけどねぇ。うふふぅ」
 アリスはそのとんちんかんなやり取りを見ていました。帽子屋の時計はへんてこで、時間を指す針の代わりに日にちを指す針しかついていないのです。
「ヘンな時計ね」
 あんまりおトイレのことばかり考えてちゃ良くないわと思い、アリスは続けます。
「今日が何日かはわかるのに、何時かが分からないなんて」
「そんな事が分かってどうなるんだい? ねえアリス。君の時計は、今が何年かわかるのかい?」
「そんなの、もちろんわからないわよ」
 一体、アリスがあの白ウサギを追いかけて、もう何時間経つのでしょう。あれからずっとアリスはおしっこを我慢し続けているのです。早くお家に帰るか、あるいはあの綺麗なお庭――変なキノコで大きくなったり小さくなったりした廊下のドアから見えたあのお庭の、お手洗いに行きたくて仕方がありません。
「でも、それは、年っていうのがなかなか変わらないからよ」
「……そうだ、まさにそれと同じことさ」
 アリスがぎゅっとエプロンドレスの布地をつかみながら言うと、帽子屋は当たり前のようにそう答えるのでした。アリスはだんだん頭がこんがらかってきました。
 帽子屋の言うことはちゃんと言葉になっているのに、まるで意味が分からないのです。これでは白ウサギの事を聞いてもちゃんと答えてくれるかどうかあやしいものでした。
「あのう……あなたのいってること、どうもよく分からないみたいなの」
 できるだけ丁寧にアリスがそう言うと、帽子屋はきゅうに隣を向いて、眠りこけているヤマネの鼻先に熱いお茶を垂らします。
「ほら、何を寝てるんだい、君は」
「ふわぁ……うん、そうだねぇ。ほんとほんと」
 ヤマネの適当なあいづちを聞き流して、帽子屋はまた別の帽子を取り出してかぶります。
「さて、お嬢さん。なぞなぞの答えはわかったのかね」
 さっきのクイズのことだと気付くのに、アリスには少し時間が必要でした。
「……ううん。ぜんぜん。ねえ、答えはなんなの?」
「私にもさっぱりわからない」
 アリスが三月ウサギのほうを見ると、三月ウサギはいやらしげに目を細めて言うのです。
「うふふ。ボクにだってわからないねぇ。うふふぅ」
 じろじろとアリスのほうを見ながら、三月ウサギは言います。
 ひょっとしたら、三月ウサギはもうアリスが落ち着かない様子を知っているのかもしれませんでした。アリスは思わず、いすの上に姿勢を正しました。なにしろずっとスカートを押さえながらおしっこを我慢していたので、いつの間にかテーブルの上に顔を載せるくらいに上半身が傾いていたのです。
「あなた、もう少しマシな時間の使いかたをしたほうがいいわ」
 急に恥ずかしくなって、アリスはそれをごまかすように怒ってみせます。でも、テーブルの下で足をもじもじとこすり合わせるのをやめていられたのはほんの少しの間だけでした。
「こたえのないなぞなぞなんて、つまらないじゃない!」
 すると横から帽子屋が口を挟んできます。
「そんなことはないさ。私くらいに時間と仲が良ければ、付き合い方を無駄にするなんてことはないものさ」
 アリスが何のことやらわからずにいると、帽子屋はさっきのバターまみれの時計を三月ウサギの手元から取り上げて、言います。
「君には分からないかもしれないね。おそらく、時間と口を利いたこともないんだろうから」
 その言い方が、ちょっと馬鹿にされたように聞こえたので、アリスは慎重に答えることにします。
「それは、ないかもしれないけど。……でも、音楽の時間にはこうやって時間を刻むわ」
「それが良くないのさ。いいかいお嬢さん、時間たちだって刻まれたくはないものさ。君は誰かに切り刻まれたいのかい?」
 もちろん痛いのは嫌ですから、アリスは首を横に振ります。
「彼らと上手くやっていくことさえできるなら、時計がらみのことは何だって、ほとんどが上手い具合に運ぶのさ。たとえば、朝の9時というのはちょうど授業が始まる時間だが――そこでちょいと時間にお願いをしてみればね、一瞬で針はぐるぐる巡る。そら、もう午後の一時半。晩御飯の時間だ――というような具合にね」
 時計の文字盤をぐるぐる指で回して、帽子屋はいいました。午後一時に晩御飯なんて変だとアリスは思いましたが、黙っていることにしました。なぜなら、本当にそうできたら、それは結構すごいことに思えたからです。
(それなら、午後一時半に晩御飯なんてささいなことだわ)
 ふと、アリスは先々週の木曜日に、算数の授業中におトイレにいきたくなってしまったのを思い出してしまいました。あの時も机の下で何度もひざを交差させながら、授業が早く終わらないかと、やけにのろのろとしか進まない時計の針にやきもきしてすごしたものでしたが――帽子屋のいうとおりなら、あっという間に授業を終わらせてしまうこともできるのです。
「うふふぅ、今がそうならいいのにねぇ」
 小声でつぶやいて、三月ウサギも鼻を鳴らします。またいやらしいウサギの視線に目が合ってしまって、アリスは小さく身震いしました。
「でも、そしたら――あたしはまだ、お腹が空いてないわけよね?」
「もちろん最初のうちはそうだろうね。しかし、いつでも好きなだけ一時半にしておくこともできる」
 時計の針を進めたり戻したりしながら、帽子屋は答えます。
 時間がいったり来たりしているのをみながら、アリスはそっと、スカートの上からぱんぱんに張り詰めたおなかを撫でます。
 そういえばこのお茶会に来てからもうずいぶん経つような気がしているのですが、いっこうにお手洗いの話は進んでいません。
「あなた、そんなことができるのね?」
 はやくこのお茶会を終わらせてしまえばいいと思って、アリスは帽子屋に尋ねます。しかし帽子屋は、悲しそうに頭を振るのでした。
「残念ながら、私は違うのだよ。私と時間は、こないだの三月に口論をしてしまってね。ちょうど……彼が狂ってしまうちょっと前だったのだがね」
 帽子屋は三月ウサギを茶さじの先で示して、続けました。
「――ハートの女王様が主催の大コンサートがあったのは知っているかね。私たちもそれに招待されて、歌を披露することになったのだが。
“きらきらコウモリ おそらで謀る!” ――君は知っているかい、この歌を?」
「どうかしら……そんなようなのは、聞いたことがあるかも」
 とアリス。帽子屋は小本と咳払いをしてつづけます。
「“世界の上を お盆を飛ぶよ、きらきら――”」
 ここで突然、眠っていたヤマネが身震いして、眠りながら歌いはじめました。
「ふわぁ……“きらきら、きらきら、きらきら――”」
 ところがヤマネは半分眠っているものですから、そこから先に進みません。ほうっておくといつまでも続けそうだったので、帽子屋と三月ウサギはヤマネのおしりをきゅっとつねってやめさせます。 
「まあ、それでこの歌をだ。私が一番も歌い終わらないうちに、女王様が飛び上がって言い出したのさ。『こやつめ、拍子の時間をバラバラに刻んでおるではないか! 首をちょん切るのじゃ!』――とね」
「ひどいわ、残酷よ!」
 それは本当にそう思ったので、アリスは叫びます。帽子屋はうつむいて、顔の前で手を組みます。
「そういう訳さ。それ以来ずっと、時間達はバラバラにされたことを根にもってしまってね。もう私の頼みなど聞いてくれないのだよ。それどころか普通に動くこともしなくなってね、だから今ではずっと6時のままというわけさ」
「じゃあそれで、お茶のお道具がこんなに出てるのね?」
 アリスが手を打って言います。そうさ、と帽子屋は力なくため息をつきます。
「そうだ。ずっと6時のままだからあと片付けの暇すらない。いつでもお茶の時間だからね」
「だから、こんなところにいるのね。ようやくわかったわ!」
 アリスはようやく、この広いテーブルいっぱいのティーセットと、その隅っこに座っていた奇妙な3人のなぞにたどり付けて、少し嬉しくなってしまいました。
「ご名答だ。使い終わるごとに隣の席へ。だんだんずれてゆくのさ」
「でも、最初のところにもどってきたらどうなるの?」
 アリスはふと疑問に思ったので、聞いてみることにします。しかしそれに三月ウサギが割り込んできました、。
「うふふぅ。もうこの話はここでおしまい。飽きちゃったし別の話にしよう。……ねえお嬢ちゃん。なにか面白いお話をしてよ。今したいこととかさぁ。うふふぅ」
 にんまりと口先をゆがめて、三月ウサギ。アリスはぞっとしながら、ぷいと顔を背けます。
「悪いんですけど、なにも知らないんですの!」
 やっぱり三月ウサギは、アリスがさっきからおトイレを我慢しているのを知っているのだとしか思えません。アリスはだんだん、三月ウサギのことが怖くなってきました。
「うふふぅ。じゃあ、ヤマネ、君がお話をしたらどうだい!」
 三月ウサギはひょいと手を伸ばして、眠っていたヤマネのおしりをつねり上げます。かなり痛そうに見えましたが、ヤマネは悲鳴を上げるでもなく、ゆっくり目を開けるだけでした。
「ふわぁ……ねてないよぉ……」
 くしくしと顔をこすりながら、ヤマネはしわがれた小さな声で言います。
「ぼく、今のお話、ぜんぶきいてたよぉ……」
「うふふぅ。別にいいさ。それよりもなにか、面白いお話をしてよ」
「ええ、お願い!」
 三月ウサギと話さなくていいのだと思えば、アリスもいっしょになってお話をせがみます。
 それを見て帽子屋も、また新しいハンチング帽を被りながらいいました。
「始めるのならあまりゆっくりとしないでくれ。お茶の時間はいくらでもあるが、あんまりのんびりしていると、君は眠ってしまうだろう?」
「ふわぁ……ええと……むかし、むかし……」
 そういわれて、ヤマネは話し始めました。
「……むかしむかし、三人の姉妹がいなかに住んでおりました。なまえは、上からエルシー、レイシー、ティリー。……そして、このいなか姉妹は、井戸のそこに、住んでいまして――」
 アリスからしてみればじれったいくらいに間をとったしゃべり方でしたが、これまでうつらうつらと眠ってばかりのヤマネにしてみれば、慌てているくらいなのでしょう。
「井戸の底がおうちなんて変よ。なにを食べてたの?」
 じれったくなって、ついアリスは聞いてしまいます。
「ふわあ……糖蜜だよ」
 しかし、ヤマネはそれにも一分かそこら、考えてこんでから答えました。ぜんぜん進まないお話に、アリスはまたもじもじと腰を動かしてしまいます。
「そんな生活、うまくいくはずないわ。だって病気になっちゃうもの!」
「まさにそのとおり」
 とヤマネは、あくまでマイペースです。
「とっても病気でした」
 アリスは、その姉妹たちのとんでもない生き方がいったいどんなものか、想像してみようとしました。でもあまりにもなぞが多すぎたので、ついにあきらめてもう一度質問します。
「ねえ、その子たち、なんだって井戸のそこになんかに住んでたの?」
「うふふぅ。ねえアリス。のどは渇かないかい? お茶、もっと飲むといいよ」
 突然三月ウサギが、熱心にアリスに勧めてきます。
 しかし、もうアリスは何倍もティーカップを空にしていて、おなかがたぽたぽになっていました。加えてずっとお茶会のテーブルから離れられないものですから、すっかりおトイレにいきたい気分が強くなっていたのです。
「いいえ、結構よ。もうたくさんいただきました! だからもっとなんて飲めないわ!」
「それは違うな。“もっと飲めない”じゃなくて“ちょこっとも飲めない”だろう? “ちょこっと”よりも“もっと”のほうが少ないなんてことはない」
 帽子屋がいきなりそんなことを言い出したので、アリスは慌てて叫びます。
「誰もあなたになんかきいてないわ!」
 このままだとまた紅茶を飲まされそうで、アリスも必死でした。しかし帽子屋は、不満そうにあごを撫でながらカウボーイハットをかぶります。
「ふむ。……人のことをあれこれと詮索するなと言ったのは君だったのではないかね?」
 そう言われて、アリスは何とか言い返そうとしましたが――なんと答えていいかわかりませんでした。だからしぶしぶ、お茶とバターパンをちょっとだけ口に運びます。
(んぅ……っ)
 これまでに飲んだお茶でもういっぱいのおなかに、さらに紅茶が注ぎ込まれて、アリスはぞわあっと足の付け根を振るわせる甘い痺れに声を上げてしまいそうになります。
 アリスは気づかれないようにぎゅっとスカートの付け根を握り締め、それからヤマネにむかって質問をくりかえしました。
「ね、ねえ。その子たち、なんで井戸のそこに住んでたの?」
 そうすると、ヤマネはまた押し黙ると、それについて考えてだしてしまうのでした。のろのろとしたやりとりに、アリスは気がまぎれるどころか、どんどん我慢が辛くなってしまい、とうとうもじもじと腰を揺すり、テーブルの下にぐりぐりと地面に靴の爪先を擦りつけ始めてしまいます。
 そうして、また何分もたってから、ヤマネが言いました。
「糖蜜の湧いてくる井戸だったのです」
「そんなのあるわけないじゃないっ!!」
 えんえん待たされてそんな風に続けられ、いらいらとしていたアリスはとうとう声を上げてしまいます。けれど帽子屋と三月ウサギは、さもアリスがマナー違反をしたのだというように、口の前に人差し指を立てて、しいーーっ!! と言ってくるのです。
 さらに、ヤマネまでむうっと頬を膨らませ、細く目を開けてアリスを睨みます。
「……ふわぁ……ねえ、礼儀正しくできないんなら、話の続きは君がしてくれよ。そんな格好で、みっともない」
 3人に見つめられ、アリスはぴたり、足踏みを止めて慌てて姿勢を正します。
「い、いえ!! ごめんなさい、お話を続けてください!!」
 懸命におしっこを我慢しているところを見られてしまって、アリスはすっかり気が動転していました。真っ赤になって、ヤマネに頭を下げます。
「もう邪魔しませんから、お願いします。……その、糖蜜の井戸も、探してみればひとつくらいあるかもしれないわ」
 アリスはできるだけつつましく言ったつもりでしたが、ヤマネはまだ面白くなさそうでした。
「ひとつくらい? ひとつくらいだって? ふわぁ……まったく……」
 けれど、ヤマネはどうにか、それ以上腹を立てるのはやめてくれたようでした。またたっぷりと間を取って、お話を続けます。
「そこで……この、いなか3姉妹は……お絵かきを習っていたのです」
「お絵かき? 何をかいたのかしら?」
 約束をしたばかりなのに、つい気になってアリスは聞いてしまいます。何かほかのことを考えていないと、頭の中がお手洗いに行きたいことでいっぱいになってしまいそうなのでした。
 ヤマネはまた、ふわあと大きなあくびをして、こんどは全然考え込まずに答えました。
「糖蜜だよ」
「あー、ところで諸君、そろそろ綺麗なティーカップが欲しくはないかい」
 アリスがまた、『そんなことないわ!!』と言いそうになったところで、先に帽子屋が割り込みました。
「一つずつ隣に席をずらそう。それ、ヤマネ、君もだ」
 言うなり帽子屋は勝手に席を立ち、隣にいたヤマネものろのろと続きます。
 三月ウサギがそれまでいたヤマネの席に動き、アリスはいやいやながら席を立ち――おしっこを我慢しながら立ち上がるのが大変だったからです――さっきまで三月ウサギが居た席に座りました。
 つまり、新しい席に座れて得をしたのは帽子屋だけだったのです。
 アリスはと言えばそれまでよりずっと悪い席でした。目の前にはなみなみと紅茶を注いがれたばかりのティーカップがあり、まわりはミルク浸しになっていました。
 ちょうど席を立つとき、三月ウサギが肘でミルク壺をひっくり返していったのです。こんなところには座っていたくもありませんでしたが、3人が何も言わないので、アリスは渋々、そっと椅子に浅く腰かけます。不安定な座り位置は、ますますアリスの我慢を辛くさせました。
 アリスはもう二度とヤマネの機嫌をそこねたくなかったので、とても用心してきりだしました。
「ええと、良くわからないんだけど、その“いなか”姉妹って、どこから糖蜜をかいたの?」
「それは決まっているだろう、自明だ。水の井戸から水を掻きだすのと同じことさ。……糖蜜の井戸だから、糖蜜を掻い出すことは簡単だ。この程度のことはわかっていただかないと困るね」
 馬鹿にするような口調に、アリスはむっとしながらもヤマネにたずねます。
「でも、そのいなか姉妹たちって、井戸の中にいたんでしょ?」
「そうそう。ふわぁ……だから井中(いなか)姉妹」
 その答えに、アリスはすっかり意味が分からなくなってしまいました。アリスが黙り込んでしまったのをみて、ヤマネはあくびをしながら、目を擦ってお話を続けようとします。
「この子たちはお絵かきを習っていて……いろんなものをかきました――“まみむめもで”はじまるものならなんでも――」
「あの、どうしてまみむめもなの?」
「ふわぁ……んぅ。いけないかい?」
「いけなくは、ないけど……」
 アリスはどんどんおトイレに行きたくなってしまい、考えているのがだんだん億劫になってしまっていました。椅子から半分、身体を乗り出すようにして、しきりに腰をよじり、お尻をもぞもぞと動かして、いっときもじっとしていられません。
 時折、ぎゅっとスカートの上から脚の間を押さえてしまい、ありすは小さくはぁ、はあ、と息を荒くします。
 けれど――ヤマネはと言えば、まるで今にも眠り込んでしまいそうに、両目を閉じてかくりかくりと舟をこぎ始めていました。帽子屋にお尻をつねられて一度は飛び起き、目を開けたヤマネですが、またすぐにうつらうつらと顔を揺らし始めます。
「――ふああぁ……“まみむめも”で始まるものならなんでも――。たとえば『まんじゅう』とか『みらい』とか。……『むずかし』とか『めんどう』とか。ふわぁ……『もう』とか――ほら、『もうたくさん』って言うよね」
 アリスのほうを見るように、顔を上げて。ヤマネが言います。
「ねえ君、『もう』の絵なんて見たことある?」
「ええっと……? その、そんなこと言われても……わたしだって、そんなこと……」
 アリスは、いつのまにかヤマネのお話を聞き漏らしていたのかと疑いましたが――じっさい、ヤマネのお話はあまりにもめちゃくちゃで、アリスはすっかり頭をこんがらかせてしまっていました。
「そんなの、いままで考えたこともないし――」
「ふむ、では黙っていることかね」
 と、帽子屋が偉そうに胸を張ります。
 この無礼さ加減には、さすがにもうアリスはがまんできませんでした。
「もう、いいわよっ!! お話もお茶会ももうたくさん!!」
 アリスは目の前のティーカップを掴むと、腹立ち紛れにぐいと飲み干し、空になったカップをがちゃんとテーブルに叩きつけます。一気に飲みすぎたものですからアリスはたまらずに顔をしかめ、けれどしっかりと、3人のほうを見て言います。
「道も教えてくれないで、わけのわからないことばっかり!! 付き合ってられないわ!!」
 そういいと、アリスはぷいと3人に背を向けて、大股で歩き出しました。
 3人は、最初ぽかんとアリスを見つめていたのですが、ヤマネはすぐに眠り始めてしまい、残る帽子屋も、三月ウサギもまるきりアリスのことは気にしないふうにお茶会を再開しようとします。
 アリスのほうは、こっそり後ろを振り向いて、誰かが戻ってこいと言わないかなと思っていたのでしたが――三月ウサギがいやらしそうにアリスのお尻を見ていたのに気づいて、アリスは慌ててその場を走り出します。
 さて、帽子屋はと言えば、さっきまでの態度もどこへやら、ヤマネをお茶のポットにおしこもうとするのに一生懸命でした。
「はあ……もう知らないわよ、二度とあんな所にはいかないわ!!」
 アリスは、森の中の道を進みながらひとりで言います。
 せっかく、道を教えてもらおうとおもって、せいいっぱい礼儀正しくしたのに、彼らときたらまるでアリスのことなんて気にしていないようでしたから。
「これまでの人生の中で、いちばんばかばかしいお茶会だったわ!」
 けれど。しばらく進むうち、憤慨していたのがだんだんおさまってくると、アリスは少しずつ姿勢を前屈みに、脚も内股に、ぎゅうっとスカートの前を押さえる恥ずかしい格好になってしまいます。
「……うぅ……もぉ、っ……?」
 そうです。そもそも、アリスは白ウサギの走って行ったほうを教えてもらおうとしたのも、おしっこに行きたいからなのです。それなのにまるで当てをなくしてしまい、アリスはいよいよ弱ってしまいます。
 けれどその時。アリスは森の木の中にひとつ、中に入れるような扉が付いているの気がつきました。
「ヘンなの……ううん、でも今日って、なにもかもヘンよね。だからこれもきっと、なんとかなるわ。入っちゃいましょう」
 アリスはそっとおなかを押さえながら、ドアを開けます。
 ふと目の前がくらりと揺れる気がして――気がつくと、アリスはまたもやあの長い白黒の廊下にいました。近くにはあの小さなガラスのテーブルもあります。
 どうやら、最初の場所に戻ってきたようでした。
「ほら見なさい。なんとかなるものよ。……じゃあ、こんどはもっとうまくやらなくちゃ!!」
 アリスはそうつぶやくと、まず小さな金色の鍵を手にとって、お庭につづくとびらの鍵をあけました。それからポケットに入れておいたキノコのかけらをちょっとずつかじり、身長が三〇センチくらいになるまで慎重に調整をしました。
 そうして、とうとうアリスは、あの金色のカギの扉の奥に見えた、あの噴水と花壇のあるお庭の、一番奥にあったおトイレの前にやってきたのでした――。




 (初出:書き下ろし)
[ 2010/09/23 18:43 ] WetMarchen | トラックバック(-) | コメント(-)

ある趣味式ウミガメのスープ 



 ある趣味@JBBS 「4twt45ujrt」スレ>>237より。
 途中まで書いてから永久我慢モノになってることに気付いて、どちらのスレにも投下できなくなったネタの供養。






 MEMO

 尿意に苦しむ3人の女性と
 尿意と無縁な1人の女性

 なぜか3人は自分たちがトイレに行くより
 もう1人がトイレに行くことを優先する

 尿意とは無縁、トイレにも人一倍行けるチャンスの多い1人は
 それなのに時々おもらしをする

 さあ何故でしょう







 殺風景な部屋の中だった。
 壁も床も一面の白で統一され、目につく調度品と言えば精々テーブルと椅子くらい。それらもまた、同じ汚れ一つない白で彩られている。入口はと言えば壁の一方に硬く施錠されたドアがひとつ。どこか病室、あるいは実験室のようにも見える。
 部屋の中には4人の少女の姿もあった。背格好も服装も、年齢もバラバラである彼女達は、しかしひとつだけ、共通点を持っていた。
 部屋の中の彼女達は、全員共に、今まさに激しい尿意の最中にあったのである。

 椅子の上に浅く腰かけ、足をしきりに組み直し。
 落ち着かない様子で、ぐるぐると部屋の中を歩き続け。
 机に寄りかかるようにして、ぎゅっと脚の付け根を押さえ。
 立ち尽くし、すりすりと太腿を擦り合わせ。

 四者四様の思い思いの仕草で、彼女達は高まり続ける尿意に抗していた。
「………っ」
「はぁ……ぅ」
「くぅん……」
「ふぁ、ぁんっ……」
 必死に息を詰めて押し寄せる衝動を堪える中、飲み込み切れずにこぼれた荒い息が、悩ましげな喘ぎ声、熱い吐息となって部屋の中に響く。
 誰かがひときわ大きな波を堪えんとぎゅっと目を閉じ、股間を握り締めて腰を揺すれば、それが“呼び水”となって他の3人もすぐに小さな呻きをあげる。それがまた新たな尿意を呼び――という悪循環だ。
 当然ながら、部屋の中には身を隠す場所も、気付かれずにトイレを済ませられるような物陰もない。椅子やテーブルも機能性を追求したシンプルなデザインで統一されており、とても視線を遮るような作りではなかった。床も天井も壁も、部屋の中は磨き抜かれたように真っ白で、たとえわずかでも汚れが付けば、ひとめで目につくような状況なのだ。
 誰かが尿意に耐えきれないまま、部屋の隅でこっそり用を済ませようとしたとしても、他の3人の視界から逃れることは叶わなかった。壁に向かってお尻を丸出しにして腰を落とし、顔をあからめ羞恥に唇を噛んで、飛沫を散らし盛大に音を立て、股間から勢いよく噴水をほとばしらせる羞恥の一部始終を、他の少女達に見られてしまうことになる。
 さらにその恥辱はその行為中にすらとどまらない。
 部屋の床に傾斜などなく、排水溝のようなものも見当たらない。つまり、一度でもそんな行為に及んでしまえば、排泄の痕跡は真っ白な部屋の中に大きく広がる水たまりとなって、いつまでもそこに残り続けるのだ。
 白い部屋を彩る、におい立つ薄黄色の水面は、はしたなくも生理現象に屈した乙女失格の証拠として、少女のプライドを引き裂き続けるにに違いなかった。

「……ね、ねえ、こうしててもしょうがないよ。やっぱり……」

 沈黙に耐え切れなくなったひとりがそう言いだしたのに促され、俯いて背中を丸めていた他の少女達も、ゆっくりと顔を上げた。
 彼女達はきつく脚を組み替え、腰を小刻みに震わせながら、この部屋唯一のドアの方へと視線を向ける。
 ――正確には、そのドアの横に取り付けられたプレートへ。
 そこには、このように記されていた。




 MEMO

 尿意に苦しむ3人の女性と
 尿意と無縁な1人の女性

 なぜか3人は自分たちがトイレに行くより
 もう1人がトイレに行くことを優先する

 尿意とは無縁、トイレにも人一倍行けるチャンスの多い1人は
 それなのに時々おもらしをする

 さあ何故でしょう





 出口の閉ざされた部屋、高まり続ける尿意、そして、鍵のかかったドアのとなりに掲げられたこの不自然な文章。この三つから、この問いかけの答えが、事態打開のための何かしらのヒントになるのではないいかということは、少女達も想像しなかったわけではない。
 無論それが、即、この部屋からの脱出につながるものとは限らない。
 しかし、ただ俯いてじっと我慢を続けるだけでは、わずかに残された時間をいたずらに浪費するだけであろうことに、少女達はようやく気付き始めていたのだ。
 何もない部屋に閉じ込められ、脱出路もない。何ものかの意図を感じずにはいられないいシチュエーションだったが、その裏側をを類推するだけの材料はなにもなかったのだ。ゆえに、彼女達は最低限の自己紹介や状況の確認を済ませただけで、あとは何がしかの変化が起こるのを待つ、という消極的な選択肢を選んだのだった。
 事態の打開の方策を練ることを放棄したその判断は、しかし部屋の中に閉じ込められた状況では全くの悪手とは言いきれない。時間がたてば何か変化が――状況を説明するなにかや、誰かが現れるかもしれない。そんな淡い期待を抱いたこと自体は、けっして間違いではないだろう。
 だが、そうして無為に時間を過ごすことはただ、全員から思考の余裕を奪い、より切羽詰まった事態を呼び寄せる結果しかもたらさなかったのである。
 こと、ここに到り。少女達はいよいよ余裕のなくなった身体で、放置していたプレートの内容についても考え直す必要に迫られていたのである。

「でも、そんなの解いて、どうにかなるの……?」
「わかんないけど、こうしてても……んっ……しょうが、ないじゃないっ」

 別の少女――便宜上、先に声を発した少女をA、それに異を唱えた少女をBとする――Bの疑問に対し、Aは言葉の途中で辛くなったか、小さく唇を噛み、息をのんだ。

「も、もう……そんなに、我慢、もたなそうだもん……」

 Aの言葉は、少女たち全員の状況を代弁していた。口には出さなくても、少女達はすでに我慢の限界に近付いている。部屋の中に異性の眼は無いとはいえ、もはや外面を取り繕っている余裕がないほどにはっきりと“我慢”の仕草を隠せずにいるほどなのだ。
 このままただ時を過ごしているうちに、いつかは限界を迎えてしまう。その事実からはいくら目を反らそうとしても、逃げられないことを、少女達は自覚していたのだった。

「ね? その、気分も、まぎれるかもしれないし……」
「そ、そうですね……」

 Aの主張に、Cも賛同する。Bももう異論は口にせず、最後に残ったDも小さくうなずいて同意を示した。
 だからと言ってこの問題を解いたからここから出られるという保証もまた無いのだが――もうそんな繰り言を蒸し返す余裕は、少女達には残されていないのだ。
 最初に言葉を交わして以来、ほとんど無言のままだった少女達は、ようやくそろってプレートの文章を見直す。

「……でも、これ、どういう意味なんでしょう……」

 プレートの一文を指差して、Cが言う。

「……えっと、その、……この『1人の女性』さん、お手洗いに行かなくてもいいのに、お手洗いに行って……それなのに……ぉ…………オモラシ、しちゃうって……良く分からないですね……?」

 その言葉はあまりにももっともだ。尿意に無縁であるならば、トイレに行く必要もないし、ましてオモラシするわけもない。Bもそれに応じるように、別の一文を指差す。

「そんなこと言ったら、こっちの……、『3人の女性』だって、なんで我慢してるのか分からないじゃない。わざわざトイレに行きたくない人に、順番譲ってるんでしょ……?」
「……たぶん、そこを上手く説明するのが問題の要」

 ふいに、これまで黙っていたDが、口を開いた。
 落ち着いた雰囲気の彼女の台詞は、さして声量も大きなものではなかったが、残る3人の注目を集めるには十分だった。

「一応、さっきから考えてはいた。これに良く似た遊びがある。ウミガメのスープ……と言うけど、聞いたことは?」
「ウミガメ……?」
「あ、私知ってるかも。一見意味が分からない問題文を出して、答えるほうが相手に質問して、相手が答えて……ってやつでしょ? そういうのを繰り返して、正解を探すっていう」
「そう。ただ今回は、質問者がいないから、定番通りにはいかないけど」

 Aに頷いて、Dは椅子からゆっくり腰を浮かせると、そっとプレートに近付いていく。
 一見、表情もあまり変わらず、落ち着いて見えるDだったが、立ち上がるのにも十分すぎるほどに慎重に時間をかけている様子から、彼女も他の3人と同じように我慢の最中にあることは明らかだった。

「一読しただけでも、この問題文には矛盾があることは明らか。でも、最後に『なぜ』を問う言葉があるからには、この矛盾を満たすような状況が、解答とされているはず」
「そうね、それを見つければ……んっ……いい、のよね?」
「……意地悪な、問題文だけどね……」

 吐息と共にAがそう言うと、B、C、Dも思わず曖昧に視線を反らす。Aがそっとさすった下腹部は、石のように固く張り詰め、重く恥骨の上に圧し掛かってくる。
 少女たちは皆、刻一刻と高まり続ける排泄欲求を、時限爆弾のように下腹部に抱えているのだ。この状況では、できることならトイレにまつわるような会話は避けておきたいというのが普通だった。いつ終わるともしれない苦痛の中で、気をまぎらわすにはあまりにも向いていない。
 そんな少女達の心理を見透かすように設定されたとしか思えない、プレートの問題文。尿意に苦しむ女性達を題材にしたその問いかけは、少女達にはあまりにも悪趣味なものとしか思えなかった。

「状況を、整理……してみる。文章は3つの段落からできていて、それぞれ1段落目は尿意について、2段落目はトイレに行けるかどうか、最後は……間に合わないかどうかについて書いてある。
登場人物も2種類に分けられる。『3人の女性』と、『1人の女性』……」
「3人いるのに、2種類……なんですか?」
「3人は一セットっぽいから、それでいいんじゃないかな……状況も同じだし」

 Aが補足すると、Dはわずかに息を飲み、ぶるる、と腰を揺すってからプレートの文章を指差した。

「このうち『3人の女性』については、状況は分からなくもないと思う。尿意に苦しんでいるけど、トイレに行くのは後回し。『3人の女性』が……オモラシをしたかどうかは記述がない。……であれば、何か理由があって『3人の女性』が『1人の女性』を優先するのなら、そんなにおかしくはない。けれど」
「要するに、問題なのは、『1人』のほうなのね。……と、トイレに行かなくてもいいのに、『3人』に順番を譲られる……?」
「……辛いのは分かるけど、言葉を言いかえると意味が変わるかも」
「わ、わかってるわよ……っ」

 Bが顔を赤くする。彼女はまさに今、我慢の絶頂にあるようで、ぎゅうぎゅうと股間を押さえこんでしまっていた。喋る余裕があるというよりは、少しでも気分をまぎらわせたい一心なのだろう。その状況で『オモラシ』なんて単語が禁忌中の禁忌であることは皆も理解していた。限界近い我慢の極限状況では、言葉すらも容易に崩壊の呼び水になり兼ねない。
 押し寄せる尿意の波に耐えかね、Bが無意識のうちに他の言葉を選んでしまっているのは間違いなく。その気持ちは、他の3人にも十分すぎるくらいに共感できた。
 だが、Dの言うことにも一理ある。Aはそう思い、言い直す。

「ええと、『1人の女性』は、にょ…尿意と無縁なのに、『3人』より優先してトイレに行けて、……それなのに、お、……オモラシする?」
「……これ、『1人の女性』さん、お手洗いに入れてるかどうか、わからなくないですか? 行くチャンスが多いっていう、だけで……その、私たちみたいな状況なら……」
「どういうこと?」

 Dの問いかけに、Cはかあっと顔を真っ赤にして俯いた、足元を見つめるように視線を落とし、その場でもじもじと手を握り締め、足を擦り合わせる。
 言いにくそうに――しかしもはや躊躇している場合ではないと、彼女も悟ってはいるのだろう。3人の視線に晒されながら、Cは少しずつ話し始める。

「あ……あの、ですね? その、は、恥ずかしい話、なんですけどっ……わ、わたし、……その、……わ、和式の……お手洗い、使えないんです……。あの、小さい頃、両親の仕事の都合で、外国に居て……」
「…………」
「そ、それで思ったんですけど、……この『1人の女性』さん、お手洗いに行くチャンスはあっても……そのお手洗いが使えなくて、……ええと……お、オシッコは、我慢したままなんじゃないかな……って。それなら、オモラシしちゃっても……」
「でも待ってよ、じゃあ……この、尿意と無縁ってのはどうなるの?」
「あ、……そ、そうですね」
「尿意と無縁ってことは、……ぉ、オシッコ、したくないってことでしょ? なのに……なんで、オモラシ……なんか、しちゃうわけ?」

 Bに指摘を受け、尻すぼみになりかけたCだったが、Aが代わりにその先を続ける。

「自己申告、とかかな…? ほら、恥ずかしくて、トイレって言えない時ってない? 今はさ、もうどうしようもないから、私もぶっちゃけちゃってるけど……あんまり大っぴらに言うことじゃないし」
「でも、この問題だと、女の子どうしで……ですよ? そんなに遠慮なんかしなくても……」
「せ、先輩とか、先生とか、みっともないとこ見せたくない相手って、……女の子相手でもいると思うんだけど…どうかな? ほ、ほら! それに、他に男の人が、いるのかもしれないし!! ねっ!?」

 ――あたし、トイレなんか行かないもん。
 具体的に口にしてみれば、まるで漫画の中のようなセリフだ。そんなことを公言するのは――少なくとも、幼稚園くらいのころまでじゃないだろうか、とAも思ってはいた。
 それでも。憧れの相手が目の前に居たのなら。自分はそうしてしまうかもしれない。そのAの告白は、実際にそうした相手がいることを宣伝しているのに等しいものだったが――敢えてその事は、誰も指摘せずにいた。

「――興味深い意見だけれど、もし、羞恥を理由にそう言っていても、『3人の女性』にトイレを譲られていたら、成り立たないと思う」
「そ、そっか……そうだね……」
「それに、一応は客観的に書かれている文章だし、疑うのはもう少し他の可能性を考えた後でもいいかも。問題文に規定のない内容は、あるとも言えるし、無いとも言える。書いてないから何でもありだ、と考えていると……かえって思考がまとまらない
「ほ、他の可能性って……?」
「例えば、この――『トイレ』が『お手洗い』や『お花摘み』のような、隠語の意味を含んでいる単語だったなら、今の推論は矛盾を満たして成り立つかもしれない。
 『1人の女性』が本当に尿意とは無縁であったとしても、『お手洗い』や『お花摘み』が文字通り“手を洗う場所”だったり、野原で“花を摘むこと”だったりすれば、いまの解答でも文脈的にも違和感はないと思う。でも――普通、トイレと言えば―――排泄、以外の用途ではあまり使われない。一応、着替えや化粧直しのためと取れなくはないけれど……それで通すには、少し苦しい」
「そ、そうだ、けど……」

 Dの論調は、全員に賛同を持って受け入れられたわけではなかった。
 しかし、実際に今のCとAの回答でも、特に部屋の中に変化は見られなかった。回答の方法すら定かではないが、正解が他にあるのなら、考えを休めるのは得策ではない。
 だが、他の答えを導き出すのはそう簡単なことではなかった。
 ふと生まれた会話の空隙に、相談はぷっつりと途切れたまま――4人は問題文を前に、再び沈黙を始めてしまった。

「んあっ……」
「はぁ……はぁ……っ」

 考えをまとめ問題に集中しようとする傍から、くつくつと下腹で煮詰まる尿意は激しさを増し、少女達の思考力を外へと追いやってゆく。
 いったん言葉が途切れると、その隙を見計らったかのように、尿意がいやらしく津波のように割り込んでくるのだ。溜まらず腰を揺らし、身をよじり、少女達の身じろぎの音だけが、部屋の中に響く。

「ぅ……く……っ」
「……ふ……」

 Cなどは我慢しきれないのか、机の角に股間を押し当て、ぐりぐりと体重をかけてねじり出す始末だった。Aも両手を脚の付け根に押し込み、Bはその場で行進の練習でもしているように足踏みを繰り返す。
 一番落ち着いていたように見えるDですら、その場にしゃがみ込み、かかとを脚の付け根に押し当てるようにして、開きそうになる恥ずかしい液体の出口を押さえこんでいた。

「……あ、あのさ……思ったん、だけどっ」

 沈黙に耐えられなくなったか、閉じ合わせた太腿の奥、ちょうど恥骨のあたりを、身体の前と後ろから押さえながら、Aが息を荒げて言う。

「と、トイレって、ほかに使わないかな……? き、気分悪くて吐いちゃう時、とか……。ほ、ほら、そうすれば、尿意と無縁でも、『3人の女性』より、優先されるかも……」
「……それだと、……ぉ…『オモラシ』……の、ほうに、無理がでちゃいませんか……? これも、あんまり……その、おトイレする時以外には、使わない言葉だと思います……」
「あ……あぁ~……そ、そっか。そうだね……」

 Aは誤魔化すように舌を出して見せた。
 普段ならば些細なしぐさだが、それくらいのことでもAは顔をしかめ、きつく身をよじる。
 その切羽詰った姿に、もう、Aには余裕がほどんどないことをありありと伺わせていた。そしてそれは、他の3人も全く同じことだ。

「でも、そうすると……えっと……うーん、と……っ、んぁ……うぅ……だめだ、うまく考えらんない……っ」
「っ……はあ、っ、も、もう、何なのよ……これ……。こんなのに、答えなんかあるわけ……?」

 Bのセリフは、その場全員の気持ちを代弁していた。
 本当にこんなことをしていていいのか――根本的な疑問が少女たちを疑心暗鬼の渦へと追い込んでゆく。こんなわけのわからない問題に、馬鹿正直に答えている暇があるなら、もっと他に、現実的に尿意を解消する手段や、脱出の方法を探すべきではないのか?
 そうして部屋の中の雰囲気は、またも振り出しに戻ってしまう。さっきよりも余裕をなくし、さらに険悪な雰囲気のまま。
 不可解な設問と不可解な状況、そして迫りくる限界がまともに考える余裕を奪い去ってゆく。
 身悶えしながら少女たちは、まるで図ったように同時に――けれどそうと意図はせぬままに、部屋の中を見回して、どうにか用を済ませる方法がないかを確認した。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 しかし――視線を遮るものなどなにもなく、ただただ継ぎ目なく広がる、汚れ一つない白い部屋のなかで、いったいどうやって、こっそりとオシッコを済ませることができるというのだろうか?
 下腹部を締め上げるほどにきつく服が食い込み、かたく強張った下半身はぱんぱんに膨らんでいる。
 少女達は皆、いちど自分が壁や部屋の隅に向かってしゃがみ込んだが最後、床一面を余すところなく覆い尽くさんばかりにあきれるほどたっぷりと、大量に、オシッコを出してしまうことを理解せざるを得なかった。
 考えてみれば、この部屋自体が、あえて排泄の痕跡を決して隠滅できないような構造になっているのかもしれない。
 それは、今の状態を作り出した誰かの意図を想像すれば、決して的外れには思えなかった。

「で、でも……やっぱり、こんなところでなんて……っ」

 悲痛な声を絞り出し、Cが叫ぶ。
 室内にいるのは全員ともが年頃の少女だ。排泄や性に関することには人一倍過敏になる年代であり、たとえ同性にだってトイレに行くのは見られたくはない。まして、他の視線や物音を遮ることすらできないこの密室で、他の3人の前でオシッコをするなんて――
 検討するまでもなく、許容はできない。

「ぁ……ぁ、あっ」

 不意に、Aが唇を震わせて、小さく囁く。
 ぱくぱくと口を押し開き、切羽詰って絞り出されるかすれた声は、しかし狭い密室の中にははっきりと響いた。

「ダメ、……っ、も、もう、ガマン……できない、かもっ……」
「ちょ、ちょっと!! やめてよね!? じょ、冗談じゃないんだからっ」
「で、でも……っ」

 くねくねと身をよじるAに、Bが声を上げる。こんなところでオシッコなんて――という非難をぶつけられてなお、Aはもはや耐え切れないという姿勢を隠そうとはしなかった。
 ちらちらと、部屋の隅とB、C、Dの3人とを、眉尻を下げた視線で交互に窺う。

「やめてってば……!! ホントにっ」
「だ、だって……」

 Aの様子はもはや限界をはっきりと示しており、両手を身体の前後から閉じ合わせた膝の奥に突っ込んで、ぎゅうぎゅうとスカートを引き絞っている。いよいよ乙女のプライドが、迫りくる崩壊の危機に屈し始めているのは明らかだった。
 そんなAを、Bは激しく非難する。

「やめてよ!! そんな、小さな子じゃないんだからっ」

 単純な嫌悪感だけではない。Bも、同じように尿意の最高潮を迎えているのは変わらないのだ。沈黙を貫くCも、同じようにうらみがましい視線をAに向けている。
 一人だけ先にそこからの解放されようとしているAへの嫉妬と、そんな事をされたら自分ももう我慢していられなくなる――という心理だった。 Aが我慢に我慢を重ねたオシッコを済ませる決断をし、その光景を目の当たりに(たとえ直接は目にしなくとも、音やにおいや、地面に撒き散らされた水溜りを見れば)、これ以上を我慢をつづける気力を失い、同じように部屋の隅で済ませてしまおうという誘惑に打ち勝てる自信がないのだった。
 その気持ちはAも理解している。けれど、大自然の誘惑の前に、もはやこれまですがり続けてきた乙女のプライドすらも限界だった。
 だが――

「ひとつ……」

 その、Cの叫びを引き金に、Dが何かに気づいたように表情を変える。

「ん…っ、……ひとつ、思いついた……」

 3人が慌ててDのほうを振り向く。気づけば、Dも恥も外聞もなく、その場に足踏みを繰り返していた。身体をメトロノームのようにリズムよく大きく左右に揺すり、なお口調だけは冷静に、静かに吐息を飲み込んで、Dは続ける。

「子供……そう、この設問はただ、女性としか言っていない。つまり――単にこれを、成熟した女性として考えるのではなく、男女の区別をする性別を表わしたものだとすれば、その年齢は問うていない」
「……どういうこと、ですか……?」

 Cは、壁に手をついて前屈みのまま、Dを促す。
 出口のない部屋の中、迷宮のように正解のみつからない問題。思考と現実、二重の密室の中で、わずかな開放でもいいから、事態の打開を皆が望んでいたのだ。
 猛烈な尿意を抱え込みながら、いまにも出口をこじ開けそうな乙女の羞恥の噴水をなお堪え続けるには、それしかなかった。

「つまり、この『一人の女性』が幼児、あるいは生後間もない年齢であると仮定する。そうすれば……」
「そ、そっか! 小さな子がトイレに行きたがってるなら、他の人はトイレに並んでても、順番、譲ってくれるってこと!?」
「……そう。その過程なら、……オモラシをしてしまうことも説明、できなくはない。……低年齢であるなら、尿意を我慢する能力も未発達だから」

 見え始めた光明の中、少女達の顔に解決の糸口を掴んだことへの安堵が覗く。
 しかし、そんな中、Bはまだ異論を挟む。

「ちょっとまって、じゃあ、この――尿意と無縁ってのはどうなのよ? 小さい子だって、トイレに行きたいんだから、無縁ってのはおかしくない?」
「……あ、赤ちゃんならどうですか? ……オムツ、当ててるくらいの、生まれたばかりの子なら……その、ガマンっていうほど、しっかり我慢できてないっていう風には、言えませんか?」
「そこは、正直、微妙でも、あるけど……」

 Dもその部分だけは自信がないようだった。珍しく困惑を見せながらも、持論を曲げようとしない彼女も、もはや限界が近いのだ。これからまた、一から思考を積み上げるような回り道は、許容できないに違いなかった。
 切羽詰った尿意はいよいよ激しさを増し、刻一刻と残り少ない余裕を削り取ってゆく。タイムリミットは目前に迫り、他の思考を今からまとめる余力は、もはや少女たちの誰にも残されていなかった。

「…………」
「…………っ」

 息を詰めながら、少女達はじっと、この設問を設けた主に対して、必死に考えだした回答をぶつけるしかなかった。
 じっと、ただじっと――4人の出した答えが、正解であることを信じて。
 その正解が、この停滞した状況の澱みを打ち破り、皆を解放へと導いてくれることを信じて。
 じっと、4人はドアを睨みつけた――



 (初出:書き下ろし)

 
[ 2010/09/10 23:19 ] 小ネタ | トラックバック(-) | コメント(-)

夏休みの当番のお話。 



「はー……あついなぁ……」
 焼けたアスファルトの上には、ミンミンゼミが大合唱。向こうの交差点を通り抜けてゆく車や、コンビニの看板までゆらゆら揺れている。
 麦藁帽子をかぶり、Tシャツと短めのスパッツ。夏休みに入って2週間ですっかり日焼けした肌は、なおも続く高い日差しに、そろそろ休憩をお願いしてもいい気分になっていた。
 夏休みになるまでは毎日通っていた学校への道のりも、なんだかやけに新鮮に感じた。
「うー……」
 サンダルなんか履いてこなければよかったと、御園仁奈は少し後悔する。
 横断歩道を渡り、坂を上ると――仁奈の通う学校が見えてきた。
 校門の通用口は、やけどしそうに熱くなっていた。シャツの裾を使い、ノブを掴んで中に入る。
「あ、先生!」
「おぉ御園。今日は当番か?」
「うんっ」
 部活の先生に会って、仁奈は小さくお辞儀をした。
「そうか。……そう言えば昨日は沢村だったな」
「本当、毎日交代で大変だよ……一人じゃ間に合わないしさー」
「ぼやくなぼやくな。大事なことだぞ?」
 ぽんぽんと頭を撫でられ、仁奈は少しくすぐったくなって身体を揺らす。
「……しかし、昨日は沢村一人だけだったような気がするが……」
「そうなの? ……ひょっとして理沙ちゃんたち、サボったのかな?」
 そう言えば3,4日前に会った時に、どこかに朝早くから出かけるようなことを言っていたなあと、仁奈は眉を寄せる。……となると、昨日の当番は芙美だけだったということになる。おとなしめのクラスメイトである沢村芙美は、よく皆に面倒なことを押し付けられていることがあった。
 なんとなく気持ちの悪い感じがして、口をへの字にしていた仁奈だが、ふいにぶるっと身体を揺すり、我に返った。
「……あ……えっと、先生、あたしもいそがなきゃ。みんな待ってると思うし」
「おう、そうか」
 鷹揚に手を上げる先生に答えて、仁奈は校舎を回り、校庭のはずれへと急いだ。
(いそげ、いそげ……)
 もう時間があまりない。といって、全力で走るわけにもいかず、仁奈は小走りで、慎重に目的地を目指す。自然、足が内股になってしまうせいで途中何度か、つまずきかけながら、仁奈はどうにか花壇までたどり着いた。
 校庭の奥まった場所にある花壇には、背の高いヒマワリがたくさん咲いている。仁奈たちのクラスが春に植えたものだった。夏休み中はこの“お世話当番”が、クラスの中で順番に決まっているのだが――
「あれー……?」
 仁奈は眉をしかめて周りを見回す。一緒の当番のはずの子たちの姿が見当たらない。花壇の周りをぐるりと回ってみても、どうやらここにやってきているのは仁奈だけらしかった。時間としてはやや遅刻気味で、てっきり仁奈は自分が一番最後だと思っていたのだが……
「おーいっ。誰もいないのー?」
 声にもこたえるものはない。
 どうもこのヒマワリのお世話は、まじめにやっている生徒は、かなり少ないのかもしれなかった。
「んっ……」
 ヒマワリを植えた花壇は広く、全部の世話をするのは一人ではとても大変だ。だから“お世話当番”は5人一組で、仁奈だけではとても手が足りないのだが―――
(うぅっ、も、もう我慢できないや……)
 片目をつぶって、仁奈は唇をかむ。“当番”のために昨夜から準備して、ここまでもどうにか我慢してきたが、もうそれも限界だった。
 仁奈は花壇の上にあがると、さっと周りを見まわして、誰の視線もないことを確かめる。
 スパッツを足元に下ろし、ヒマワリの根元にしゃがみ込む。それと同時、仁奈の足元に勢いよく水流がほとばしった。

 ぶしゅっ、しゅうぅうーーーーーっ、
 じゅごぉーーーーー……

「はぁあ……」
 起きてからずっと我慢していたおしっこが、勢いよく花壇の土をえぐる。
 たっぷりのオシッコは乾いた地面を潤し、それを吸い上げたヒマワリはぐんぐんと元気を取り戻してゆく。
「…………」
 しばし、我慢からの解放感に恍惚となっていた仁奈だが、
「ああっ!!」
 ようやく我に返って、足元を見る。慌てて足の付け根に力を込めるが、じょぉおぉ、と激しく噴き出すおしっこは、しかしうまく塞き止められない。
「……や、やば……とまんない……っ」
 仁奈の内腿がぷるぷると震える。
 無理やり立ち上がろうとした仁奈の足の付け根から、ぶしゅうっと勢いよくおしっこが噴き出して、スパッツに少しかかってしまった。咄嗟に伸ばした手のひらにも、熱い水流がぶつかる。
「っ、あっ……」
 ずるずると中腰のまま、すこしでも移動しようと試みるが、そんなものでは焼け石に水だった。昨日の夜に飲んだジュースに、寝る前に飲んだ麦茶。あと少しでオネショしかねないところまでギリギリに我慢して、朝早くから飛び起き、朝ごはんの後もトイレに入らないで一生懸命我慢してきたのだ。小さなおなかに溜まりに溜まったおしっこの量も並みはずれていて、一度出口を破った水圧はちょっとやそっとでは押しとどめられない。
「ふぁ、あっ……うぅーーっ……」

 じゅじゅっ、じゅぶぶぶっっ……じょぼぼぼぼっぼ……

 結局、仁奈はほとんど、おしっこを始めた場所から動けないうちに、溜まっていた水分のほとんどを絞り出してしまった。
「……あー…。…やっちゃった……」
 花壇の1区画だけをびしょぬれにして終わったおしっこに、思わずぼやく仁奈。
 クラスの皆で植えたヒマワリは、女の子のおしっこで育つという特別な品種だった。だからヒマワリの“お世話当番”である生徒は、責任を持って当番の日に、花壇に水やりを――新鮮なおしっこをたっぷり撒いておく必要があるのだ。
 きちんと花壇全体に、水をあげなければいけないのに――仁奈はオシッコができる気持ちよさに我を忘れてしまったのだ。これでは理沙たちのことをあんまり悪く言えない。少なくともちゃんとお世話当番をしたとは言えないだろう。
「ぅー……」
 仁奈がおしっこポーズのまま落ち込んでいた、その時だ。
「……御園さん?」
「あれ、芙美ちゃん?」
 白いワンピースの芙美が、驚いたように仁奈のほうを見て立っていた。
「……御園さん、今日、お世話当番だったっけ?」
「あ、……えっと……? 今日、何日?」
「4日だけど……」
 難しい顔をしてから、仁奈はあ、と口を開けた。
「……あたし、当番明日だ……」
 がっくり肩を落とす仁奈。せっかく学校まで来たのに、この有様なのだ。もぞもぞと居心地悪く後始末をしながらスパッツをはいて、仁奈は立ちあがった。
「そっか、やっぱり……私、きょう当番表見て来たから……」
「でも芙美ちゃんは? 今日、当番じゃないでしょ?」
「うん。……でも、昨日も他に誰もいなかったし……ひょっとしたら、って思って。……誰もいなかったら、お世話する人いなくなっちゃうし」
「じゃあ、自分で来たの?」
「うん……」
 気恥ずかしそうに俯いて、芙美は軽く腰を揺する。
 と、言うことは。芙美も今、我慢しているのだ。
「あ、ごめん……邪魔しちゃって」
「いいよ。……ありがとう、仁奈ちゃん」
 小さくはにかんで、芙美はヒマワリのそばに歩み寄った。
 けれど、すぐにはおしっこを始めずに、もぞもぞとスカートの裾をいじる。
「?」
「あの、……仁奈ちゃん、見てるの?」
「え? あ、ああ。ごめんっ」
 仁奈は、自分がじっと見ていたせいで、芙美が恥ずかしがっているのだということに気付いて、慌てて顔を反らした。いくら女の子どうしても、おしっこをしているところをじろじろ見るのは失礼だ。
「でも、二人じゃ全部は無理だと思うし……あとでまた来なきゃだめかな……」
 さんさんと輝く太陽を見上げ、頭を書いてぼやく仁奈。今日のお天気では、少しくらいの湿り気じゃあっという間に乾いてしまうだろう。また学校まで往復しなければならないのかと、溜息をつく。
「……うん。でも、だいじょうぶだよ」
「え? でも」
 疑問と共に、仁奈は芙美の方を振り向いていた。芙美は仁奈に背中を向けて、花壇の前に立っている。
 確かに仁奈もたっぷりおしっこを出したが、それにしたって花壇の一区画を湿らせた程度だ。もともと4,5人でようやく終わるくらいのお世話が、いくら頑張っても二人で間に合うはずもない。
「……私も、ちゃんといっぱい、我慢してきたし……今日は仁奈ちゃんもいるから」
 しかし芙美はそう言うと、ハンカチを口にくわえ、するりとスカートの中に手を差し入れた。白いぱんつをくるるんと脱ぐと、片方の足にくるんっと丸めてひっかける。
 その準備の仕草が、すごく『おんなのこ』っぽくて、つい仁奈はそれを見つめてしまう。
 そして――芙美がスカートをたくしあげながら、腰をおろすと――

 ぶじゅっ、じゃばばばばばっ、じゅごぉぉおおおおおおおおおおおーーーーーっ!!!

 まるで、ホースを使っているみたいなすごい音。
「……ふ、芙美ちゃん!?」
 おとなしい外見とは全く結びつかない、猛烈なオシッコだった。
 これに比べたら、さっきの仁奈のオシッコなんかただの水滴みたいだ。みるみるうちに花壇が潤い、土が色を変えてゆく。
「んっ……」
 芙美がぎゅっと身体をよじると、ものすごい勢いのオシッコはピタッと止まった。そのまま芙美はハンカチをくわえたまま、花壇の別の場所に移動する。まさか、と仁奈が思っているうちに、芙美はまたそこに腰を下ろし――

 じゃばばばばばっ、じゅごぉぉおおおおおおおおおおおーーーーーっ!!!

 さっきからそのまま続いているみたいなすごい音が、また始まる。
(あんなに、いっぱい……!?)
 目を丸くしている仁奈をよそに、芙美は腰の位置を上手く調整してまたたっぷりと花壇におしっこを撒いてゆく。カラカラの地面が潤うにつれて、しょぼくれて俯いていたヒマワリたちも元気を取り戻し、黄色い花を大きく広げはじめた。
「ね、ねえっ、芙美ちゃんっ」
「?」
 また立ち上がり、腰を振ってしたたる雫を切っていた芙美は、仁奈の呼びかけに少し顔を赤くして振り向く。
「えっと……もしかして、昨日も、ひとりでやってたの?」
「うん……みんな、こなかったから……」
 答えながら、そのまま横歩きで花壇の別の場所に移動してゆく芙美。今度の場所はちょうどフェンス際で、しゃがみ込む場所がないところだった。
 仁奈がどうなるんだろうとわくわくしながら見つめていると、芙美はスカートを軽く持ち上げ、慣れた様子で立ったまま、花壇に向かう。
「……仁奈ちゃん……あの、見てるの?」
「うんっ」
 仁奈が勢いよく首を振ると、芙美は小さく俯いて『恥ずかしいよぉ』と呟いた。けれど、おしっこを途中で止めているのは大変なのか、それ以上言ってくることはなく、三度おしっこを再開する。

 ぶしゃぁあーーーーーーーーーーっっ!!! じゃばばばばばばばばばばばっ!!

 その勢いは弱まるどころか、ますます強くなっているようだった。もう3回目のはずなのに、まるでたったいままで我慢してましたっ、と言わんばかりに盛大に噴き出すおしっこは、太陽の光にきらきらと虹を描いて花壇を潤してゆく。大人しい外見にはまったく似合わない、芙美の威勢の良いおしっこに、仁奈はすっかり度肝を抜かれてしまった。
「すっっっごおーーーいっ!!」
「べ、別にすごくないよぅ……」
「すごいよ!! だって……」
 本来、当番である5人が協力してやるはずのひまわりのお世話を、芙美はなんとひとりでやってしまったのだ。そう背の高さもかわらないのに、いったい芙美の体のどこにあんなにたくさん、オシッコが入っていたのだろう。他の“当番”の子たちがサボり、これから何度も家からここまでおしっこをしに往復をしなければいけないのかと思っていたところを、芙美が全部一人でやってしまったのである。
 だというのに、
「昨日も……先週も、そうだったもん……」
 まるで当たり前のように、芙美は言うのだ。どちらかと言えばおとなしめのクラスメイトが、たったひとりで一生懸命みんなの分まで世話をしていたということに、仁奈は少なからず驚いていた。
 花壇をみるみるうちに潤しながら、芙美は5回に分けて、たっぷりとオシッコを出した。
 ヒマワリの根元はすっかり黒々とした瑞々しさを取り戻し、夏の日差しに負けかけて少ししおれていたヒマワリたちは、元気よく花を空に向ける。
「ふう……」
 ちょろろろろ……。最後の水滴をゆっくりと終えて、芙美は大きく息をついた。
 ティッシュを取り出してあそこを拭き、足首に絡めていたパンツをはいて立ち上がる。
「お疲れさまーっ」
「う、うん……」
 まだ少し気恥ずかしいのか、出迎える仁奈にも、芙美の笑顔は少しぎこちない。
 けれど、仁奈はすっかり芙美のおしっこに興味シンシンだった。尊敬と興奮の入り混じった視線で、きらきらと熱っぽく芙美を見つめる。
「ねえねえっ、芙美ちゃんっ。あのさ!!」
 いったいどうすればあんなに我慢できるのか。いつから我慢しているのか。あんな風に『おんなのこ』っぽく可愛いおしっこのしかたってどうすればいいのか。次々と質問をぶつけられ、芙美は困惑しながらも――まっすぐな仁奈の好意を無碍にもできないまま、ひとつずつそれに答えてゆくのだった。
 暑い夏は、いよいよ本番を迎えようとしていた。



 (初出:書き下ろし)

[ 2010/09/10 23:12 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。