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河川敷の運動会・2 

(やっぱり、こっちの方にはないのかなぁ……)
 梅雨の合間に覗く青空の下。河川敷沿いの歩道の外れで、小上孝乃は途方に暮れていた。
 肩までの髪を短くまとめ、足元はソックスに履き慣れたスニーカー。袖には所属チームを示す水色のリボン。
 学校指定のスパッツに体操服という軽装も、ひと足早い初夏の日差しの下では軽く汗ばむほど。誰の視線もないのをいいことに、体操服の裾をつまんでぱたぱたと涼を取りながら、孝乃は河川敷沿いに広がる市営のグラウンドを振り返る。
 遠く響くのは、グラウンドを囲む観客たちの歓声と、実況のアナウンス。
 町内会対抗の運動会は、午後を過ぎていよいよ白熱しているようだった。
「ん……」
 いつのまにかかなりの距離を歩いてきてしまったことに気付いて、孝乃は足を止める。


『次の競技は二人三脚です。参加選手の方は、入場門の前に集合してください――』


 アナウンスに耳を澄ませば、プログラムはあと少しで孝乃の参加する障害物競走だ。準備も考えるとそろそろ戻らなければならない時間だった。
「……どうしよう……」
 後ろ髪を引かれる思いで、孝乃はぐるりとあたりを見回す。
 わずかな期待を込めてここまで歩いてきたものの、めぼしい場所は見つからない。河川敷はただ広大で、清掃用具などを片付ける小さな小屋の他には、数キロ先にある私鉄の鉄橋くらいしか目につく建造物はなかった。
 アスファルトで舗装された歩道の真ん中で、孝乃の足がとんとんとリズムを刻む。
 困惑と躊躇が彩る少女の表情は、なにかを堪えているように陰を帯びていた。
 わあっ、と遠くのグラウンドで歓声が上がる。どうやらリレーの最終走者がバトンを受け取ったらしい。実況が力強く、ゴール前のデッドヒートを応援する。
 知らず、孝乃の手はきゅうっ、と体操服の裾を握り締めていた。
「……やっぱり、戻らなきゃだめ……かな」
 気の進まない様子で、少女は来た道を戻り始める。しかし、その足取りは足枷でも嵌められたように重かった。
 ――誤解のないように補足しておくと、孝乃は別段、運動が苦手という訳ではなかった。
 均整のとれた手足や、良く使いこまれたスニーカーを見ても分かるように、むしろ身体を動かすのは得意だった。断じて、競技に出ることが億劫なわけではない。
 そもそもこの運動会自体が町内会の主催であり、学校行事のように参加が義務付けられている訳でもないのだ。
 それでもなお孝乃が躊躇っているのは、別の事情による。
「っ……」
 不意に孝乃は背中を丸め、きゅ、と息をのむように小さく口を噤む。のろのろとではあるが進んでいた足がピタリと止まり、スパッツの内腿が寄せられて、不自然なほどの内股になってゆく。
(…………トイレ……っ)
 女の子の秘密のダムにたっぷりと蓄えられ、下腹部を硬く張り詰めさせる恥ずかしい液体。それのもたらす尿意こそが、孝乃を切羽詰まらせている切実な事情だった。





 毎年恒例の町内会対抗の大運動会は、孝乃にとっても幼い頃からなじみのあるものである。市内の子供たちは小学校低学年くらいまでは慣例として参加することが多く、市内に住んでいるのならば一度は足を運んだことがあるという地域密着型のイベントだ。
 だが、今年は少々事情が違っていた。昨年まで使われていた市立の中学校のグラウンドが、改装工事によって使えなくなり、急遽開催場所が変更されることになったのだ。
 代替場所に選ばれたのは、市内の中心部からもやや離れた場所にある河川敷のグラウンドだった。
 当日は参加選手、その応援含めて千人単位での人出が見込まれるため、他に替えがなかったという事情もある。交通の便は臨時駐車場や送迎用のバスを用意することで何とか解決したものの、最寄りのコンビニまで歩いても15分もかかるという立地は、予想外の不便をいくつも引き起こしていた。
 その最たるものが、トイレである。
 もともと大人数が利用することが想定されていなかった河川敷のグラウンドでは、施設の端にある管理棟に小さな公衆トイレがひとつ設けられているのみだった。
 当然ながらそれだけで数千人規模のトイレを賄える訳もなく、開催者側も仮設トイレを用意するなどして対策をしていたのだが――その数が圧倒的に足りなかったのである。
 男性用のトイレは辛うじて混雑程度で済んでいたが、女性用のトイレは利用者に対する設備が足りず、順番待ちの大行列を作る結果となってしまったのである。
 以上のような経緯により、会場には多くの少女達がトイレの順番待ちに並び、その上更に多くの少女達が『順番待ち予備軍』として、もう少しトイレが空くまで密かに我慢し続けるという異常事態が発生しつつあった。競技に参加している選手も、外で応援している観客たちも、実にその6割近くが尿意を覚えていたのだから、どれほどの状況なのかは推して知るべしであろう。
 また、参加者の半数が若い女性――特に思春期の女生徒が多く、どうしても不衛生になる仮設トイレの利用を避けようとする心理が働いてしまったことも理由の一因といえた。

 ……かくして。
 河川敷のグラウンドには潜在的に、数百人に及ぶ体操服トイレ我慢少女を抱え、空いているトイレを求めて放浪する多くのトイレ難民少女が生まれていたのである。




 孝乃もまた、トイレを求め河川敷をあちこちを歩き回っている『おトイレ難民』の一人だった。9時半の開会式直後から感じていた尿意は、4時間を経てすでに下腹部に鈍い痛みを感じるほどに限界近くになりつつある。
「んっ……ぁ……」
 もはや尿意は耐えがたいもので、じっとしているだけで腰が揺れ出してしまうほどだった孝乃は。周囲に視線がないのをいいことに、スパッツの上から体操服の裾を足の間に挟み込むようにして、ぎゅっと股間を押さえ込むという大胆な格好まで始めてしまっている。
 それでもなお波のように押し寄せる尿意は、おさまることなくじわじわとその勢力を高めつつあった。
(オシッコ……!!)
 身体の奥から込み上げてくる欲求に、少女の身体はぶるると身悶えする。
 孝乃は最初、大混雑の仮設トイレと管理棟のトイレを避け、グラウンドを出て、近くのコンビニのトイレを借りに行くことを考えていた。同じことを考えていた優花と一緒に、しかしいそいそとコンビニへ向かう途中の道で、そちらから戻ってきた学校のクラスメイト達に、
『あっちもダメだよ。すっごい混んでて……私達も、おトイレてきなかったから……』
 と、衝撃の事実を告げられて、浅はかな思考を後悔することとなったのである。
 それでも念のためにと様子を見に行った優花と別れ、孝乃は仕方なしにグラウンドの周りを探すことにしたのだ。
 別になにか、具体的な解決策の心当たりがあったわけではない。
 だが管理棟と仮設トイレ、他に使えそうなトイレがない今、わずかでも残った希望に縋りたいというのは自然な心境だったと言えるだろう。普段は野球やサッカーのクラブが利用している場所だけに、誰か知らないような場所にトイレがあるのではないかと、そんなささやかな願いを込めてここまで歩いてきたのだ。
 しかしそんな探索行もただ貴重な時間を無駄にしただけに終わり、孝乃は再び大混雑のトイレしかないグラウンドに戻らねばならなかった。
(……ううぅ……どうしよう、やっぱり優花ちゃんと一緒にコンビニまで行けばよかったのかなあ……でも、それだと次の競技に間に合わなかったかもしれないし……)
 競技に参加する選手は、形だけとはいえ町内会の選抜として選ばれている以上、不参加となるのは避けたかった。孝乃の場合、参加枠に立候補しているだけの責任も感じているのだ。
 歩いてきた道を半分ほど戻ってきたあたりで、孝乃は丸まっていた背中を伸ばし、皺になっていた体操服を引っ張り直す。
 本音を言えばいまもぎゅっとあそこを押さえておきたいくらいだが、そろそろ恥ずかしい格好も出来なくなってきたのだ。じんじんと疼く下腹部は、膨らみ切った膀胱でまるで妊婦のようだ。なだらかに膨らんだおなかをそっと撫でながら、孝乃は気の進まない足をグランドの方へと向ける。
 こんな状況で競技に出場できるのだろうか。緊張にまた膀胱が疼き、尿意と共に不安が込み上げてくる。

 と、その時だ。

 不意に目の前でがさりと茂みが揺れ、そこから一人の少女が顔を出した。
 孝乃と同年代と思われる、三つ編みの少女は、孝乃とは違うデザインの体操服を着、袖にピンクのリボンを付けていた。彼女とばっちり視線が合い、孝乃は軽い驚きに言葉を失う。
「っ……!?」
 その一方で、少女のほうは更に慌てている様子だった。まるで熊と出くわしたように目を見開いた少女は、孝乃と数秒見つめ合い、それからはっとしたように、自分が出てきた背後の茂みの方へと視線を向ける。
 直後、まるで湯気を噴いたように三つ編みの少女の顔が赤く染まる。
「え、っと……」
 孝乃が困惑のつぶやきを洩らした直後。少女は弾かれたように顔を伏せ、グラウンドの方へ一目散に走り出した。
 みるみるうちに小さくなる背中を、孝乃は呆然と見送るばかりだ。
「……?」
 訳が分からずしばし呆気にとられていた孝乃だが、不意にその答えを知ることになる。
 川沿いを緩やかに吹き抜ける風が、かすかな匂いを運んで来たのだ。
(…………!!)
 それは、あまりにも予想外のものだった。
 孝乃は思わず、三つ編みの少女が顔を出した茂みの方へと視線を向ける。ふらふらと引き寄せられるように数歩を歩み出し、茂みを踏み分けたその先にあるものを見て、声を上げそうになった。
 河原の隅、背の高い茂みの奥には、古びたコンクリートのたたきが設けられていた。
 その一角が、たった今水を撒いたかのように黒く湿り、濡れていたのだ。
 先程の匂いからも、それがただの水ではないことは容易に知れた。見ればすぐ近くにも丸めたティッシュが捨てられている。
「こ、これって……」
 もはや疑うべくもなかった。ここはついさっきまで、あの三つ編みの少女によって“おしっこの場所”にされていたのである。
(さっきの子……ここで、済ませてたんだ……)
 あの態度にもようやく得心がいって、孝乃の胸を罪悪感がよぎる。
 よほど切羽詰まっていたのだろう。女の子なら屋外の――こんな茂みでのオシッコなんて、本当の本当に限界でなければまず実行しない。もっと小さな子であればともかく、トイレ以外でのおしっこなんて、孝乃の年代の少女たちにとっては“禁じ手”である。確かにオモラシに比べればマシには違いないが、誰かに済ませた跡でも見られようものなら、自殺したくなるほどの羞恥に違いなかった。
 あの三つ編みの子も、誰にも見られないようにと必死に願いながら、不安に胸を高鳴らせての決意だっただろうに――ようやくオシッコを済ませたその直後に、孝乃と出くわしてしまったのである。しかも孝乃にそのことを気付かれてしまったのだ。その驚き、その羞恥はいったいどれほどのものだっただろうか。
(私と、同じくらいの子だったのに……そんなに我慢してたのかな……)
 胸の奥にちくりと痛みが走る。同時に、孝乃の手のひらは自然、足の付け根へと伸びていた。自分以外の子がここでオシッコをしていたという事実に、現在進行形で膀胱を張り詰めさせた少女の身体は敏感に反応してしまう。
 しかもさらにとんでもないことに、よく見ればコンクリートのあちこちには、同じように黒く湿った染みが見えた。ぱっと目に留まるだけでも4つ、中にはあきらかに泡立った水たまりとなっている場所まであった。
「うわ……っ」
 思わず声が出ていた。
 全く予想外の場所に、まったくの偶然で、孝乃は秘密の特設臨時緊急野外女子専用トイレを発見しまったのだ。
 いくつもの女の子たちの『オシッコの痕跡』を目の前に、孝乃は耳が熱くなるのを感じる。
 確かに、あのトイレの大行列は並んでいるのが苦痛になるほどの大混雑だ。どうしても間に合わない子がでてきてしまうのも頷ける。おそらくここは、そんな子達の最後の手段のスポットとなっているのだろう。
 恐らくは誰が申し合わせたわけでもない。最初に限界を迎え、恥を偲んでの“はじめてのお外でのオシッコ”の場所に、ここを選んでしまった子がいたというだけだ。その子だって別にここをみんなの秘密のおトイレにするつもりなどなかっただろう。
 しかし、最初の一歩さえあれば、あとは抵抗もずっと少なくなる。私のほかにも誰かがしてるんだし――という共同心理が羞恥心のブロックを和らげ、いつしかここをオシッコの場所にするという暗黙の了解をつくったのだ。
 ひょっとしたら、こんな場所が他にもあるのかもしれない。思わぬ場所に思わぬ形の『おトイレ』を見つけてしまい、孝乃は困惑してしまう。
(んっ……ぁ、あっ、だめ……、ま、また、したくなっちゃった……っ)
 こぽりと下腹部のティーポットに、尿意が沸き起こる。沸騰を続ける恥ずかしい液体がその勢いを増し、少女の下半身からわずかに残っていた余裕を奪い去ってゆく。
 不自然に伸びた背の高い茂み、整地された地面のコンクリート。確かにここなら周りの視線も遮れるし、出て行くところを見られなければ誰にも気付かれない。ある意味、この極限状態では絶好の用足しスポットとも言える。
 禁断の場所を前に、孝乃の下腹部は切羽詰まった現状に強い抗議を訴え、反応をはじめていた。思わず腰をゆすってしまい、孝乃はじいんと足の付け根の奥、恥骨から背骨へと響くむず痒い感覚に身をよじる。 これまで堪えていた我慢が、ぷっつりと途切れてしまったようだった。
「だ……だめ、だめだよ……っ」
 熱い視線が、コンクリートの一角を見据える。まるで恋する乙女のように、孝乃の視線はそこから離れなかった。
 もともと、いつ限界を迎えてもおかしくない状況だったのだ。一度きっかけを与えられてしまった少女の排泄器官は、歓喜を叫びながら“ここ”での解放を訴えかけてくる。

 ――どうせもどっても、おトイレ使えないんだよ?
 ――我慢したままで本当にちゃんと走れるの?
 ――終わってから、またずっと並ばなきゃダメなんだよ?

 三大欲求と並び示される排泄を訴える本能が、いくつもの誘惑となって孝乃を惑わせる。
「はぁっ………ぅ」
 ぐらりと揺れる心を抑え、孝乃はぎゅうっと交差させた脚に力を込め、きつく唇を噛んだ。




 ……どれくらい、そこでそうしていただろうか。
 忙しく茂みを掻き分ける足音に、孝乃ははっと我に返った。
 両手を足の付け根に重ね当て、もじもじと腰を揺する恥ずかしい格好のまま見上げた先、茂みの反対側から、小さな女の子が姿を見せていた。
 白のハーフパンツの股間部分を右手でぎゅっと引っ張り上げるようにして、激しく足踏みを繰り返す女の子は、孝乃よりもずっと年少だ。学校指定のものらしい体操服には、『前原(瞳)』という名札が縫い付けられていた。
「あ、、あっ、あ……」
 もはや我慢の限界というように、その場足踏みを繰り返す。女の子――恐らく瞳という名前――は困惑の極致にあった。切羽詰まって駆け込んできた先に、まさか孝乃がいるとは思っていなかったらしい。
 小さな手にポケットティッシュが握り締め、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら羞恥と混乱に表情を震わせる。
 まさに、『いまからここでオシッコします』と宣言しているようなものだった。
 とっさのことに、孝乃は呆然となっていた。まさかこんな短時間に2回も、ここで他の女の子と遭遇するとは思っていなかったのだ。
 順番で言うならば孝乃の方が先にここに居たことになる。つまり『ここ』を使う優先権は孝乃にあるのだ。その孝乃が何も言わずにいるものだから、やってきた少女もどうしていいのか分からない。
「あっ、あっ、ぁ……ッ」
 喉を引きつらせ、引き絞るような悲鳴をを上げる少女は、かわいそうになるくらいに腰を前後に激しく揺すり出してしまう。
 恐らく彼女も、孝乃と同じようにトイレ難民になり、形振り構わずにオシッコを済ませられる場所を探していたのだろう。あるいはその最中にクラスメイトにでも『ここ』の話を聞いてきたのかもしれない。
 そうしてやっとの思いで辿り着いたこの場所、特設臨時野外トイレが、『使用中』だったのである。その絶望感はいかほどのものだろうか。
「……ぃ、……ぁ……」
 くしゃり、と歪んだ少女の身体がピタリと静止する。小刻みに膝が震え、肩が強張り、両の手のひらが我を忘れたように強くハーフパンツの股間を握り包む。「あ、え、っと……」
 何か声をかけなければ――そう思う孝乃だが、とっさのことに思考が空回りし、言葉が喉に引っかかって、うまく出てこない。
「っ……」
 少女の下腹部で、じゅじゅうぅっ、とはっきり激しい水音が響いた。
 ひ、と小さく掠れたような吐息と共に、少女の肩がびくんと跳ね上がる。握り押さえたハーフパンツの指の間がみるみる色を変えてゆく。
 最後の最後で入った邪魔を、少女の身体は待ってくれなかった。
 酷使され続け、限界を迎えた少女の水門は、とうとう水圧に押し負けて、下着の中に激しく熱い奔流を吹き上げてしまったのだ。

 じゅ、じゅうっ、じゅじゅじゅうぅぅうっ!!

 一度決壊を赦してしまった水門が、崩壊を食い止められるはずもない。ありったけの力を込めて締め付けていたはずの小さな孔がぷくりと膨らみ、体操服の中に耐えに耐え続けたオシッコを撒き散らしてゆく。
 じゅじゅっ、じゅうっ、じょぱっ、と断続的に途切れる水音が、彼女の最後の抵抗の証だった。
「っ…ぁ、…」
 少女は目に涙を浮かべ、くしゃっと顔をゆがませると、じわじわと薄黄色の部分を広げているハーフパンツを押さえたまま、きつく目をつぶって、コンクリートの一角へと走り込んだ。
 孝乃にお尻を向ける格好で、大胆に『がばっ』と下着とハーフパンツをまとめて足首までずりおろし、しゃがみ込む。
 途端、可愛らしい足首の間に凄まじい水音が跳ね上がった。

 じゅっ、じゅぱっ、ぶじゅじゅじゅううぅううーーーっ!!

 まるで風化したコンクリートの表面を削って穴をあけてしまいそうな、超高水圧のオシッコ。よっぽど我慢していたのを窺わせるかのように、色も濃く激しい水流が、コンクリートを穿ってじゅぶじゅぶと泡を立てる。
「っう、ぁ……、っ……っくうぅ……っ」
 肺の中の空気を絞り出すような、掠れた声。
 握り締めていた指の間から、くちゃくちゃゃのポケットティッシュが包みごと地面に落ち、そこにも少女自身が股間から迸らせるはしたない水流が直撃する。オシッコまみれになったティッシュは、猛烈な水圧によって水たまりの中央へと押し流されていく。
「は、ぁ……ぁ……っ」
 地獄から天国へ――耐え続けた苦痛からの解放に、思わずもれた熱い吐息が少女の唇を震わせる。
 ずぶ濡れの下着の股布やハーフパンツからもびちゃびちゃと飛び散る雫がコンクリートを派手に汚してゆく。まだ出始めたばかりのオシッコが撒き散らされた地面の水たまりは、すでにこれまでのどの『痕跡』よりも遥かに大規模なものになっていた。
「っ……ぁ……っ」
 ぶるる、とふるえた小さく白いお尻の下、途切れることのないオシッコは左右にくねり、前後に震えながらコンクリートのたたききを流れ出していた。
 うずくまる少女の俯いたうなじや耳の先までが真っ赤に染まり、なおも止まる様子のないオシッコは、コンクリートを叩き続ける。
(……すごい……)
 自分よりもずっと小さな子が、あまりにも大胆に繰り広げる、激しくも長いオシッコ姿。待望の排泄を目の当たりにして、孝乃の尿意もなお激しさを増す。
 コンクリートを色濃く染める、大きな水たまりの上に。
 やがて、もう一つの激しい水音が響き始めるのは時間の問題だった。




 (初出:書き下ろし)
[ 2011/06/22 23:08 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

河川敷の運動会・1 


「いけー!! 負けるなーっ!!」
「頑張れ、真琴ーーーっ!!」
 河川敷の市営グラウンドが、応援と歓声に沸く。
 心配されていた雨も前日午後には止み、梅雨の貴重な晴間となった6月第二週の日曜日。毎年恒例の町内会対抗運動会は、直前の会場変更をものともせずに、今年も盛大に開催されていた。
 各町内会の所属チームを示す色とりどりのリボンを身につけ、選ばれた選手たちが白熱の競技に火花を散らす。
 開会宣言&ラジオ体操からいきなりの200m走、そして綱引きによる勝ち抜きトーナメント。河川敷のグラウンドが熱気に包まれている。
「ふー……疲れたー。喉カラカラだよー」
「おつかれさま。はい、これお茶」
 美優からよく冷えた麦茶を受け取った瑞香は、たちまちのうちに紙コップを空にしてお代わりを催促する。瑞香も笑顔でそれに応じた。
 3杯めの麦茶を飲みほしたところで、瑞香はようやく一息ついたというように大きく伸びをした。
「うへー……お腹がちゃぽちゃぽ言ってるや」
「瑞香ちゃん、そんなに飲むと苦しくなるよ?」
「へいきへいき。飲まなきゃぶっ倒れちゃうって」
 6月には珍しい晴天の中、気温は30度を超えると予想されていた。応援の熱気の中ではじっとしているだけでも汗が出てくるほどだ。熱中症にならないためにも自衛は必要だった。
「次は……10時半からだっけ。少し休憩かなあ」
 プログラムを確認しながら、瑞香はぱたぱたと体操服の胸元を広げる。男子もたくさんいる会場で、物おじせず大胆な友人の仕草に少し顔を赤らめた美優は、さりげなく周りを確認てしまう。
「すっごい人だねー」
「うん。いつもより混んでるかも。宣伝のポスターとかも沢山あったからなあ」
 今年の運動会は、いつも利用している会場が諸事情で使えなくなり、急遽河川敷のグラウンドに変更となっていた。交通の便が良くない場所であるため、参加者が減ってしまわないよう、各町内会は普段よりも積極的に参加を呼び掛ける声を上げ、商品などにも力を入れたのだが――その甲斐あって例年以上の盛況となっているようだった。
 家族連れ、友達グループ、部活の仲間。選手も応援の観客も、皆一様に楽しげだ。
 心地よい喧噪の中、瑞香は遠く、グラウンドで繰り広げられている熱戦を眺めていた。
 ――と、
「……ミユ?」
「え、……あ、な、なに?」
 もぞもぞと不審な動きをしていた美優は、名前を呼ばれて慌てて表情を取り繕う。が、長年の付き合いで彼女が何かを隠しているな、というのはすぐに瑞香には分かってしまうのだった。
「なにじゃなくて、どうかしたの?」
「え……あ、うん。……その、ちょっと……」
 よく見れば、ジャージが脚の付け根に強く食い込み、お行儀よく正座した膝もぴったりとくっついたまま。言葉を濁して取り繕うように笑う美優に、瑞香はようやく思い至る。
「ああ、ひょっとしてお手洗い?」
「……う、うん」
 はっきり言われて恥ずかしくなったのか、こくん、と小さく頷く美優。
(……こりゃ、結構我慢してるっぽいなー、ミユ)
 恥ずかしがり屋の彼女が、もじもじと我慢して居るそぶりを見せるなんて滅多にないことだ。
 そっか、と一つ小さくうなずいて、レジャーシートから立ち上がる。
「じゃあ、折角だからあたしも一緒に行っておこうかな」
「え……で、でも、荷物とかあるし……」
「すぐ戻ってくれば大丈夫だってば。……すみません、ちょっと荷物見ててくれますかー?」
 隣の家族連れに了承を取ると、瑞香は美優の手を引っぱって立たせる。
 まだ困惑している様子の彼女を引き連れ、瑞香は観客席を後にした。





 二人が向かったのは、グラウンドの南側、大会の運営本部隣の仮設トイレだった。
 グラウンドの管理事務所にはちいさな公衆トイレがあるが、個室が3つしかないような小さなトイレで今日の人手ではとてもさばききれるワケがない。応援合戦の曲を練習をするブラスバンドの脇を通り抜け、雑踏の中を進む。
「……え? ひょっとして、朝からずっと?」
「う…うん。その、お弁当の準備とかしてたし」
 聞けば、美優はなんと朝から一度もトイレに行っていないのだという。それでまだ我慢するつもりだったらしいことに半分呆れて、瑞香は溜息をつく。
「そんなこと言ってないでさ、あたしのことなんか気にしなくていいから――」
 そんな風に言いながら訪れた仮設トイレの前で、しかし美優は急に声をあげて立ち止まってしまった。
「え……」
 不自然なほどに、声のトーンを落とした美優が、きゅうっと体操服の前を握り締める。
 グラウンドの南には、ちょうど東西に分けて男性用と女性用の仮設トイレが設けられていた。
 さして混雑してない東側の男子トイレに対して、西側の女子トイレの前には、既に順番待ちの列が出来上がっていたのだ。
 8個ある個室に対して、30人あまり。大半がスポーツウェアなところを見ると、選手が競技の前に用を済ませに来ているのだろうと分かる。ざっと計算しても10分以上の待ち時間が必要に思えた。
 瑞香と美優はどちらからともなく視線を交わす。
「……結構、混んでるね」
「う、うん……。待たされそう、だね」
「並ぶ?」
「………う、うん……」
 形だけ、頷きはしたものの。
 はっきりと、美優が不快感を顔ににじませるのを、瑞香は気付いていた。
(……あちゃー……そっか……)
 学校でも、朝礼の後などにこれくらいの人数、トイレが混雑することはたまにある。ここが学校と同じような、洗面台を兼ねたトイレであるならば美優も大して気にせずに後ろに並ぶだろう。
 お手洗い、洗面所。直接的には多くトイレのことを示す単語だが、それはつまり、手を洗ったり髪を整えたりして、身だしなみを正す場所、という意味も同時に含んでいる。特に女子にとって『お手洗い』に入るというのは、必ずしもオシッコを済ませるためではない。
 だが、個室が屋外にずらりと並んでいるのとほぼ同義の、仮設トイレには当然、洗面台などは付いていない。この列に並ぶということは、そのまま『今からここでオシッコします』と宣言しているのと同じことなのだ。
 まして周囲には、さして近くにいるわけでもないがちらほらと異性の姿も見える。瑞香たちは他校の男子生徒や父兄も見ている中で、トイレに並ばなければならなかった。
 たとえ視線は遮られるとは言え、彼らの視線を背中に受けながら一メートル四方もあるかないかの個室の中へと入り、スパッツと下着をまとめて下ろし、深くしゃがみ込んで汚れた便器の中に、放水音も高らかに激しく熱水を迸らせる――それは思春期を迎えたばかりの少女たちにとってなかなか許容できるものではない。
 まして、人一倍恥ずかしがりやな美優には尚更だろう。念のため、さりげなさを装って瑞香は美優に聞いてみることにする。
「ミユ、どうする?」
「う……ん。」
 じっと、仮設トイレの順番待ち行列を睨み、美優はかすかに、腰を揺すったようなしぐさを見せた。
 が、すぐにいつもの笑顔を覗かせ、
「……後にするよ。まだ大丈夫だから」
「そう?」
「うん、それより瑞香ちゃんは? 次のプログラムの前に戻らなきゃだから、すぐ並ばないと―――」
「あたしも平気。ちゃんと出掛ける前に済ませてきたし」
 予想通りの答えが返ってきたことに不安を覚えつつも、瑞香も内心不承不承ながら笑顔を返す。
(あんまり、大丈夫そうに見えないけど……)
 どう見てもゆらゆらと左右に揺れている美優の足元を見、瑞香は不安が募っていくのを感じていた。しかし、美優本人が大丈夫だと言っているのに、それ以上食い下がるわけにもいかない。まさかここで無理矢理その腕を掴んで並ばせるわけにもいかない。
「そうだね……また、空いてるときにしよ」
 遠目に見える同年代の男子生徒たちの視線を感じながら、二人はそのまま、別にたまたま通りがかっただけ、はじめから用事などなかったんですよ、というような顔をして回れ右、順番待ちの列を後にする。
 瑞香はまださして強い尿意を覚えていたわけでもないので、この判断は決して間違っているとは言えなかった。……あくまで、この時の瑞香が下すには、という条件付ではあるが。
 美優はすぐに。
 そしてまた、瑞香も後になって、このことを深く悔いることになるのである。




「うわ……さっきより混んでる……」
 時刻は過ぎて10時半。瑞香が次のプログラムに向かったのを見届けて、美優はとうとう席を離れて再びトイレへとやって来ていた。30分も待ったのだ、いくらなんでももうトイレも空いているのだろうと思い込んでいた美優だが、目の前の惨状に思わず叫んでしまっていた。
 行列に並ぶ人数は50人近くに増えていた。どうやら、同じ学校らしい揃いのジャージを着た高校生たちが、揃ってトイレにやってきたらしい。
 列の大半は同年代らしき少女達で占められていて、お喋りに興じる彼女たちの後ろに、所在なげに小学校低学年と思しき子がぽつんと並んでいる。
 そのブルマ姿の小学生はかなり余裕がなさそうで、人目を憚らず片手でぎゅっと、体操服の上から脚の間を押さえている。
「……ぁ」
 辛そうな少女の我慢が伝染し、余裕のない下腹部を震わせる美優は小さく身震いをした。
(……ど、どうしよう……っ)
 ちらりと視線を反らした先には、相変わらずガラガラの男子側のトイレがある。遠く、雑踏の中の男子達の視線が、無遠慮にこちらを見ているような気分が振り払えなかった。
 その視線には幾分、男子たちを羨むような気配も込められていた。そもそも一回の使用にかかる時間が大きく異なるだけでも、女子トイレは行列ができやすい。まして使い慣れない仮設トイレではなおさらだろう。
 実は、大会運営側でも河川敷のグラウンドにトイレが不足するであろうことは事前にも指摘されており、そのために仮設トイレの増設、さらに当日の混雑状況を考慮し、急遽、男性用の仮設トイレの一部を女性用に振り替える対策がとられていた。
 しかしそれでもなお追いつかず、時間と共に行列は伸びる一方となっていたのである。
 また、開催日当日には晴天となることが見込まれたため、熱射病を警戒して、水分補給のためには無料でスポーツドリンクやお茶などが大量に用意された。だがその結果、利尿作用や給水に優れた水分補給は、それだけ多く代謝を高め、より強く排泄を促してしまったのである。
 むろん、そんな事情を美優が知るはずもない。
(……んぅっ……)
 体操服の上から腿のあたりをきつく押さえ、その場で交互に左右の脚に体重を乗せ、身体を左右に揺する。
 朝6時に起きてのお弁当作り、タオルに日焼け対策と、準備に追われてトイレに行くのをつい忘れたまま、会場行きの送迎バスに乗ってしまったのが朝8時。瑞香と合流してからもなんとなく言いだしそびれたまま開会式を迎え、美優の貯水池は既に許容量を超えつつある。
 そう、『朝から一度も』とは、『朝にトイレに行ってから一度も』の意味ではなく、『昨日の夜から一度も』の意味なのだ。
 昨夜から我慢を続けたオシッコは、既に美優に耐え難いほどの尿意をもたらしていた。
(こ、これ以上待っても、空いたりしない……よね、きっと……)
 淡い期待。けれどそれがむなしい希望であろうことは、美優にも理解できた。これからお昼を迎え、この仮設トイレがますます人でごった返す事は想像に難くない。
 だとすれば、早く並ぶか遅く並ぶかの違いしかないのだ。
(……も、もう、我慢できないよ……)
 そして、美優にはもうこれ以上、トイレに行くのを遅らせる余裕はなかった。
 恥ずかしさを堪え、美優は順番待ちの後ろへと並ぶ。尿意を押さえるための前かがみ、膝を擦り合わせる格好は、順番待ちの列の中でも異彩を放っていた。
「っ……」
 強い尿意を耐えながらの長蛇の列は、もどかしいほどに遅く、じれったいものだった。
 はやく、はやく。急かす言葉は声にならず、そわそわと落ち着きのない下半身がひっきりなしに擦り合わされる。揃えたかかとを交互に持ち上げ、小刻みにリズムを刻みながらの我慢ダンス。時折隣を通りがかる男子生徒や男性職員の視線が、繊細な少女の羞恥心を傷つける。




(さっき、ちゃんと並んでおけば良かった……っ)
 長い列が徐々に進み、15分あまりが経過した。列はまだ長く、前に10人以上の姿が見える。
 瑞香とやって来た時に見栄を張らず並んでいれば、もうとっくに用を済ませていられたはずなのに――激しい後悔が美優を襲うが、もはやどうしようもない。
 人目のある屋外の行列の中、懸命に我慢を続けていた美優だが、いよいよ取り繕うのも厳しい状況になりつつある。
 仮設トイレを前に順番待ちをしているだけで、急かされるように尿意が高まるのだ。
 おしっこをするために並んでいるのだ、という事実は、もうすぐやってくる自分の番を心待ちにしていることを美優に否が応でも自覚させた。
 一つ前の順番の子が空いたトイレに入り、もうひとつ列が前に進む。美優の番まではあと13人。その次の順番で、美優はようやく朝から並んでいたトイレに入ることが許されることになる。
 薄い壁の仮設トイレの個室からは、かなりの距離を隔ててもごそごそと身づくろいの音、流れる水の音、トイレットペーパーを採る音まではっきりと聞えてきて、年頃の少女達の羞恥心を強く刺激してしまう。
(もうすぐ、もうすぐ、おしっこできる……)
 すでに美優は、頭の中で下着を下ろししゃがみ込む、おしっこの準備をイメージし始めていた。あとほんの10分も我慢を続ければ、自分の番なのだ。待ち焦がれる恋のような視線を、清潔とは言い難い仮設トイレのドアに向け、もじもじと脚を寄せ合わせる。
 あと少し、あと少し。
 必死にそれだけを考え、途中何度も脚の付け根を握り締め押さえこんでしまったりもしながら、美優は懸命に順番を待ち続けた。
 そして――
 ついに。すぐ前に一人を残し、美優は行列のほぼ戦闘にやってきていた。
「んっ……ぅ、はぁ……っ」
 ぐりぐりと身体をねじるようにして、何度も何度も足を交差し、はあはあと息を荒げる。
 声をかけるのも躊躇われるようなその姿に、周りの少女達もわずかに距離をとる。
(あとちょっと……もうすぐ、ほんのちょっとだけ……っ)
 ぎゅっと目をつぶり、今にも口を開いてしまいそうなおしっこの出口をありったけの力で締め付ける。行き場を失くした尿意が下腹部で暴れ回り、膀胱を無理矢理引き延ばすように鈍い痛みをもたらした。ぱんぱんに張り詰めた下腹部を両手でさすりながら、美優はがくがくと腰を揺する。
 ついに最後のドアが開いた。
(やった……!!)
 思わず歓声をあげかけてしまう。
 実に25分にも渡る長時間の我慢の末、美優はやっと『次はトイレに入れる』権利、トイレ順番待ち行列の最優先権第一番――列の先頭を勝ち取ったのだ。
 どこでも良い。8つある個室のどれかが空けば、今すぐにおしっこができる。
(トイレ、トイレっ、次、……おしっこできる、おしっこする、トイレで、おしっこっ……!!)
 トイレ、オシッコ、思春期の少女にはあまりにも似つかわしくない、羞恥溢れるその二単語で美優の頭の中は埋め尽くされていた。
 並ぶ仮設トイレの右端、ドアが開いて中の子が顔を覗かせた瞬間、美優は鳴り響くファンファーレの幻聴を耳にした。
 飛びつくように右端の個室へと駆け寄った美優を見、出てきた少女は表情を強張らせる。
「あ、あの……」
「ごめんなさい、も、もう我慢できないのっ!!」
 オシッコが我慢できない――躊躇うのを忘れてしまう程、美優は切羽詰まっていたのだ。
「あ、あのっ、待って……っ!!」
 まるでゆだったように耳まで真っ赤になって、俯きながらもごもごとつぶやく子を押しのけるように、美優は半ば力づくで、払いのけるように少女を追い出して個室の中へと飛び込んでしまう。
 後ろ手に鍵をかけながら、スパッツに指をかける。
 その時、美優は思いもよらないものを目にした。
「な、なにこれっ……!?」
 呻くような悲鳴が、知らず飛び出していた。
 トイレの中は、凄まじい惨状となっていた。いかにも仮設といった体の個室は、ドアのすぐ前に和式の便器を構え、一段段差を昇ってそこで便器をまたいでしゃがみ込む構造となっている。
 その個室内すべてが、あり得ないほどに汚れていたのだ。
 和式便器は泡立ち濁った水が縁まで溢れ、ごぼごぼと不快な音を立てて中身を逆流させていた。汚水は便器の中に留まらず、耐え難いほどの汚臭を放って、床上全体を汚している。さらには汚物入れから溢れた様々なものが床の4分の1を占め、何なのか想像もしたくない臭いを放っていた。
 挙句ロールホルダのトイレットペーパーも尽き、予備は床の上で水浸し。
 とてもではないが、使えるような状況ではなかった。
「っ……」
 込み上げる不快感に、美優は思わずあとじさる。どんと背中がドアにぶつかった。
 同時――
(んん、っぁああああ……っっ)
 じわあ、と脚の付け根に熱い衝撃。やっと辿り着いたはずのトイレで、美優の身体は勝手に排泄の準備を終え、おしっこを絞りだそうとしていた。膀胱が収縮をはじめ、足の付け根の奥にあるおしっこの出口が、勝手にしゅるしゅると水音を響かせる。
 ジンジンと痺れる小さな穴の感覚はもはや無く、じゅじゅぅ、ぶじゅっ、とたっぷり水を含んだ布地が脚の付け根にへばりつく感覚が美優を戦慄させた。
「や、だ、め、で、でちゃ、だ……っ」
 必死になって両手で股間を押さえこむ美優。しかしふらつく足が定まることはなく、少女の身体は大きく傾いた。
 反射的に伸ばした手が水洗レバーを掴む。とたん、世にも不気味な音を響かせて便器が逆流を始めた。声にならない悲鳴を上げ、美優は鍵の掛かっていないドアから外へと転げ出してしまう。
 それを見て、個室が空いたと勘違いした列の先頭の少女が走り寄ってきた。彼女もまたドアの中を覗き、その惨状に思い斬り顔をしかめる。ごぼごぼと汚水を塞き止めた便器が、仮設トイレの個室の中から汚辱を外へと溢れさせてゆく。
 美優の喉が、ひ、と小さな掠れた音を立てる。
「ち、ちがいます……、ちがうんですっ……!!」
 おもわず、美優は叫んでいた。
「私じゃないですっ!! わ、私が入ったとき、もうこんなになってて――だ、だから、私がやったんじゃ…っど、どうしても、水、流れなくてっ……」
 たった今まで、個室の中に中に居た少女は、睨まれる視線から目を伏せるように言い訳を始めた。だが、列の後ろに居た少女達が、この個室の中の事情など知るはずもない。勢い、疑いの視線は個室から飛び出してきた美優に集まってゆく。
 美優に責任はない。もともと、仮設トイレは通常のトイレに比べれば脆いものなのだ。早朝から利用者は詰めかけ、女子トイレが混雑をはじめてからすでに4時間が経過している。
 限界を超えて酷使された仮設トイレの中に、利用者のマナー問題や配管を詰まらせるなどのトラブルも発生するのは必然だったのである。
(あ、あっ、あ……)
 壊れたトイレを遠巻きにして、列に動揺が広がってゆく。
「え、え、……なに、壊れちゃったの?」
「そんなっ、せっかく並んでるのに……!!」
「ちょ、ちょっとお、困るわよそんなのっ、つ、つぎ、私の番だったのにっ!!」
 順番待ちの行列は、さらに幾分長くなったようにも見えた。8つある仮設トイレのうち、ひとつが使用不能になれば、それだけ順番が回ってくるのも遅くなってしまう。耐え難い尿意を堪えて列に並ぶ少女達の中には、美優に敵意にも近い視線を向ける者までいた。
 がくがくと腰を震わせ、美優はその場を動けなくなってしまう。
 だが。皮肉にも、それからはじまった事態は美優が身を持って、この仮設トイレを故障させた犯人ではないことを証明することとなった。
 すでにオモラシをはじめていた美優の下半身が、引きつるように限界を迎える。じゅわ、じゅわと漏れ出した熱い雫は、ソックスまでをびっしょりと濡らしていった。
「あ、あっあ……だめ……っ」
 緊張が途切れ、崩れ落ちるように落ちた腰から、滝のように水流があふれ出す。

 ぶじゅっ、じゅじゅっ、じゅぅううぅう! 
 じゅじょじょじょじょぉおおおおおお……!!

 遠く離れた順番待ちの列の最後尾にまで、はっきりと届くほどの轟音。スパッツと下着の布地にぶつかり、なお突き抜ける水流の勢いは途方もない。じゅぶぶ、とぐぐもった水音は、水道ににハンカチを被せて思い斬り蛇口を捻った時のようだ。
 まるで滝のように、色の濃いおしっこが美優の脚の付け根から噴き上がる。順番待ちの少女達はどよめきとともに距離をとる中で、美優は盛大なオモラシをはじめてしまった。
「い、いやぁああ……っ」

 じゅごっ、じゅごごごごごぉっ、じゅごおーーーーっ!!

 押さえた手のひらにぶつかる水流は、とても女の子の排泄音とは思えないものだった。今日の競技におしっこ勢い測定の種目があれば、間違いなく1位を取れるだろう。
「ち、ちがうの、違うんです……っ、こ、こんなの、こんなの、ぜんぶ、違うんです……っ、わ、私、ちゃんと、ちゃんと、トイレまで、が、がまんっ、したのにっ……したのにぃっ……!!」
 泣きじゃくりながらも、少女が股間を押さえた手のひらの上に吹き付けられた奔流は、呆れるほどの勢いで仮設トイレ前に大きな水溜りを作り上げてゆく。順番待ちに並んでいる少女達のなかには、このオモラシに誘われ、たっぷりとおチビリをして下着に大きな染みを作ってしまうものも少なくなかった。
 仮設トイレの目前で、体操服をびしょ濡れにしておしっこを続ける少女――美優へ向けて、幾つもの奇異の視線が集まってゆく。なかにはあからさまな欲望をぎらつかせる視線もあった。
 美優のおしっこはそんな中、実に2分近くにも渡って続いたのである。




 (初出:書き下ろし)
 
[ 2011/06/22 23:05 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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