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小公女サラ【メイド見習い編】 

 ある趣味@JBBSの往年の名スレよりネタを拝借。





「ほら、なにをぐずぐずしてるんだい!! 急ぎな!!」
「は、はいっ」
 イルマに急かされ、サラは継ぎ接ぎだらけの古びた使用人服に着替えさせられ、厨房へと連れてこられました。
 そう、今日からサラは使用人としてここで働かねばならないのです。
 厨房の流しには今朝、食堂で使われた食器が山のように積み上げられています。それを指差し、イルマは言いました。
「さあ、あんたはここの洗い物を全部片付けるんだよ。お昼までにすっかり綺麗にしておかないとならないんだからね!」
「こ、これを全部ですか……?」
「当たり前だよ! さあ、はやくとりかかるんだ。一枚でも割ったら承知しないよ! ほら、返事はどうしたんだい!」
「は、はい、すぐにやります」
「あたしはほかに用事があるからね。後で様子を見に来るから、サボるんじゃないよ!」
 慌てて姿勢を正して答えるサラに、ふんと鼻を鳴らしたイルマは、自分だけすたすたとどこかに行ってしまいました。アンのほかにもう一人、下働きのメイドが増えたのですから、忙しくなるなんてことはないはずなのですが。
(はあ……)
 見上げるようなお皿の山を前に途方に暮れてしまったサラでした。クレマス公爵家の令嬢として、どこに出しても恥ずかしくないお嬢様として礼儀を躾けられてきたサラですが、使用人の仕事なんてした事がありません。
 お掃除や洗濯も、メイド頭のエリザの働いているのを見てやり方こそ知ってはいましたが、こんなにもたくさんの量をいったいどうやって片付ければいいのでしょうか。
「……いいえサラ、しっかりなさい。こんなことで弱音を吐いていてどうするの!」
 そう、もうサラはプリンセスではないのです。学院で勉強するためには、使用人として暮らしていくしかないのでした。サラは心を奮い立たせて仕事にとりかかることにします。
 けれど。
「ひゃ!? つ、冷たいっ……」
 水を張った桶に指を付けた瞬間、その冷たさにサラは飛び上がってしまいそうになりました。まもなく冬がやってくる季節です。水道の水は恐ろしく冷たくて、まるで指先が切れてしまいそうでした。サラは引っ込めた手を抱え、はあ、と指先に息を吹きかけます。
 見上げるような数の食器、冷たい冷たい水。考えるだけでも嫌になってしまいそうです。
 でも、止めるわけにはいかないのでした。
「頑張るのよ、サラ」
 自分に言い聞かせるようにして、サラはぎゅっと口を閉じてお皿を洗い始めました。 
 山と積み上げられたお皿から一枚を取っては、スポンジを使ってごしごしとこびり付いた汚れを落としていきます。
「よいしょ、よいしょ……」
 一生懸命に力を入れるのですが、冷たい水だけでは石鹸の泡立ちも悪く、お皿の油汚れはなかなか綺麗になりません。なにしろ学院の寄宿舎にいる生徒たち全員ぶんの食器です。サラがいくら頑張ったところでそうそう終わるわけはありませんでした。
 やがて指先がかじかみ、痛みさえ覚えるようになってきます。
 白く冷たくなった指をぎゅっと握り締め、なんども息を吐きかけながら、サラは一生懸命お皿洗いを続けました。ぱしゃぱしゃと流れる水音が、冷たく冷え切った指先からじんじんと身体の芯まで響いてくるようです。
 どれくらい経ったでしょうか。洗っても洗っても減らないお皿の山の前で、やがてサラの様子が少しばかりおかしくなってきます。
「…………」
 そわそわと、どこか落ち着きなくサラの身体が揺れ、爪先が床を擦ります。
 なにか考え事をしているように洗い物の手も止まることが多くなり、そのたびにサラは小さく息を飲むのでした。
「はあっ……」
 溜め息のように熱い吐息を吐き出して、サラは古びたの使用人服の背中をよじらせます。
 何度も何度も洗って使い古されたごわごわしたスカートの下で、細い太腿がきゅっとすり合わされ、膝が落ち着きなくぶつかり合います。
 決して上等とは言えない下着を、きゅっと引っ張り上げて。サラは小さくこぼれそうになった声を、唇の奥に飲み込みました。
(や、やだ……)
 冬の寒さと、冷たい水に触れていたからでしょうか。
 サラの下腹部は、いつのまにか強くトイレを訴えていました。
(そういえば、朝からお手洗いにもいっていないわ……)
 まだ夜が明ける前からイルマに叩き起こされるなり、あれこれと雑用を押し付けられていたものですから、サラはすっかりそのことも忘れてしまっていました。
 昨日の夜からのぶんのおしっこが、おなかの奥に溜まったままになっているのです。むしろこれまで気にならなかったのがおかしいくらいでした。
「んっ……」
 いちど意識してしまうと、恥ずかしいところのむずむずはあっという間に強まり、サラは溜まらずスカートの上からおなかをさすってしまいます。
 ずっと我慢し続けたおしっこは、まるでおなかのなかでたぷんと音を立てて揺れていそうでした。
 そわそわと腰を揺すりながら、サラは厨房の中を見回します。
(どうしよう……)
 流しにはまだまだたくさんのお皿が残されています。急いで片付けなければ、お昼になっても終わりそうにありません。
 けれど。
 サラの手のひらが、ぎゅっと使用人服のエプロンを握り締めます。
 じんじんと響く尿意は、いつしか耐え難いものになっていました。
(……お手洗いくらい、行ったっていいはずよね……)
 確かにイルマからはここを離れないように言いつけられていましたが、まさかトイレにまで行っていけないということはないはずです。
 別にいけないことをしているわけではないはずなのですが、イルマに見つかったらまたうるさく怒鳴られるかもしれない、と思うとサラの足はなんとなくすくんでしまいます。
 けれど、朝からの水仕事で冷えてしまった身体は、廊下を歩いている間にもどんどん強く尿意を訴えてきます。
「ふぁ……っ」
 きゅうんっ、と下腹部で切なく疼く尿意に、思わずはしたない声を上げてしまい、サラは顔を赤くしました。やはり、このまま我慢しているのは難しそうです。
 自分の仕事を途中で放り出してしまうことに罪悪感はありましたが、サラはまず先にトイレに行くことにしました。
 けれど、そうしてサラが厨房の出口に向かったところで、なんとも間の悪い事に、イルマが戻ってきてしまったのです。
「なんだいサラ!! なにをしてるんだい!!」
 大きく腕組みをして、イルマはじろりとサラを睨みます。
「仕事をほっぽりだしてどこに行こうって言うんだい? まさか、さっそくサボろうっていうんじゃないだろうね」
「あっ、あの、違うわ、イルマ!!」
 慌てて弁解をしようとするサラですが、イルマはまるで聞く耳を持ちません。
「イルマじゃない、さんをつけな。……なんだい、全然終わってないじゃないか!! 本当にどうしようもない子だね、これっくらいも出来ないのかい!!」
「違うわ! そんなことないの、わたし……お手洗いに行きたくて……」
 もじもじと揺すってしまう腰を押さえ込めずに、サラの頬がかあッと熱くなります。こんな風に、おトイレのことを誰かに説明するなんて、いったいいつ以来のことでしょう。お屋敷では立派な淑女としての教育をされていたサラですから、人前で『お手洗いに』なんてことは滅多に口にしたことはありませんでした。
「ああん? 何言ってるんだい、よくそんな事が言えるね!! あんたはもう公女様じゃないんだよ!! 生意気な事をいうのはきちんと仕事終わらせてからにしな!!」
「そんな!? だ、だって……」
 まったく聞く耳を持たないイルマに、サラは耳を疑ってしまいます。
「口答えするんじゃないよ!! おおかた水仕事が嫌になって音をあげそうになったんだろう!? まったく、これだからお嬢様はだらしないね!! これっくらいのことで投げ出しちまうなんてさ!! あたしらはこれを毎日やってるんだよ!!」
 ふんぞり返って言うイルマですが、実際のところは、皿洗いも洗濯も、ほとんどは使用人見習いのアンの仕事です。イルマはアンに大変な仕事を押し付けて、自分はもっと楽で目立つ仕事ばかりをしているのですが――そんなことは勿論サラは知りません。
「ほら、ぐずぐずしてるんじゃない!! まだ仕事はたんまりあるんだよ!!」
「違うわ!! 私、そんなことしません!! 本当に、お手洗いに――」
「ああもう、うるっさいね!! 生意気言うんじゃないよ!!」
 言いかけたサラを遮って、イルマは大きな怒鳴り声を上げました。あまりの剣幕にサラは思わず目を閉じ、身体を竦ませてしまいます。
「ああそうかい、よっくわかったよサラ。あんたがどうしようもない嘘つきだってことがね!! 正直に認めれば許してやるつもりだったけど、あんたみたいな嘘つきにはそんな温情はつけあがらせるだけだね!! ああ、なんて浅ましい娘だろう。のろまで愚図な上にズルばかり考えてる嘘つきだなんてね!! ぞっとするよ!!」
「そんな、酷いわ……わたし、そんな嘘なんかつかないわ!!」
 嘘つき呼ばわりされたことが悲しくて、サラは必死になってイルマに訴えます。けれど頑固で疑り深いイルマは、そんなものに耳を貸すわけもありませんでした。
「まだ言うのかいこの嘘つき娘め!! さあ、はやく皿洗いを終わらせな!! 他にも山ほど仕事はあるんだよ!! 今日は罰として夕飯抜きだ!!」
「そ、そんな……」
 あまりにもひどい仕打ちに、とうとうサラも言葉を失ってしまいます。
 けれど、我に帰ったサラが何を言ってもイルマは聞こうとはしませんでした。サラは仕方なく、流しに戻って皿洗いを再開します。
 けれど、トイレに行きたいのを我慢しながらでは思うようにはかどるはずもありません。
 そんなサラの後ろに陣取って、イルマは次々に怒鳴り声をぶつけてきます。いえ、それどころかますますサラのことを嘘つき呼ばわりして、罰だと言っては自分の分の仕事までを押し付けるのでした。
「いいかい、それが終わったら部屋全部のシーツを取り換えて洗うんだよ。破いたりしたら承知しないからね!! それから水くみ、廊下の掃除、それが終わったら教室を片づけるんだ!! ほら、何をもたもたしてるんだいサラ!! 急がないと昼飯も抜きだよ!!」
「は、はいっ……」
 もはや何を言ってもイルマが聞く耳を持たない事を悟り、サラは少しでも早く仕事を終わらせることを考えるしかありませんでした。
(ぅう……お、お手洗いに……っ)
 サラは必死にトイレを我慢し続けていました。ぱんぱんに張り詰めた下腹部はずっしりと重く、下着の奥ではおしっこが今にも噴き出してしまいそうです。
 流しの前で落ち着きなく腰を揺らし、何度も足を組み替えて、粗末な靴の爪先を擦りつけます。そんな不安定な姿勢で洗い物がはかどるはずもなく、サラは手にしていたお皿を滑らせ、床に落としてしまいました。
 がちゃんと白いお皿が割れ、イルマはそれを見てますます眉を吊り上げます。
「サラ!! なにをやってんだい!! 本当にしょうがないねえこの娘は!!」
「す、すみませんっ……」
 イルマに怒鳴られ、サラの心は惨めな気持ちでいっぱいでした。
 ほんの数日前まで、公女として寄宿舎の一番立派な部屋で、何不自由なく過ごしていた女の子が、いまや使用人見習いとして下働きの毎日です。しかも、きちんと仕事をすることもできず、お手洗いにも行かせてもらえません。
「んぁ……っ」
 床に落ちたお皿の破片を拾い上げようと、しゃがみ込んだサラの脚の付け根で、じんじんと激しい尿意が湧き起こります。
 それもそのはず、さっきからトイレに行きそびれているのですから、サラのおなかには朝からずっと我慢し続けているおしっこが並々と注がれ、溢れそうになっているのです。もうじっとしているのも辛いほどで、ボロボロの使用人服のスカートの下では細い脚がくねらせ、すり合わさせて、一時も静かにしていることはありませんでした。
 こんな状況では、とてもではありませんがてきぱきと仕事を片づけるなんてことは無理でしょう。
 洗い物の水は冷たく、手を触れただけで背中がすくみ上がってしまいそうです。そのたびにびくん、びくんと強烈な尿意の波が押し寄せてきて、そのたびに手を止め、身体を固くして込み上げてくる衝動に耐えます。
(ぁああっ……だめぇ……)
 ぞわあ、と足の付け根に押し寄せるおしっこの波を、前かがみになって堪えるサラ。それを見るや否や、すかさずイルマの叱責が飛びます。この意地悪な寮母は、サラに自分の仕事を残らず押し付けた上で、サラがなにか大きな失敗をやらかさないかと、傍でじっと見張っているのでした。
 それは決してやさしさからなどではなく、サラをいじめるもっといい口実を探してのことでした。
「ぁあっ……」
 そうしているうちにも、サラはとうとう我慢しきれなくなって、ぎゅっとエプロンドレスの上から脚の付け根を押さえ込んでしまいます。
 女の子としては決してしてはいけない、はしたない姿。けれどもうそうやってでもいなければ、サラはおしっこが我慢できませんでした。
「あ、あの、……お願い、イルマさんっ……わたし…、も、もう……お手洗いにっ……」
 もはや我慢の限界です。いまにもぱちんと弾けてしまいそうに、ぱんぱんに膨らんだおなかを抱え、サラは泣きそうになりながらイルマに訴えます。
 けれど、イルマは頑として首を縦に振りはしませんでした。それどころか、ますます声を荒げてサラを怒鳴りつけるのです。
「甘えたことを言うんじゃないよサラ!! 一人前に仕事もできないくせに、サボることばっかり覚えちまって!! いいかい、全部仕事を終わらせるまで、そんなことはしてる暇なんかないんだよ!!」
 そう。いまや使用人に落ちぶれた、公女様をいじめるのが、この捻くれて意地悪なイルマの何よりの楽しみなのでした。
 サラが惨めに苦しんでいるのを見て、イルマは内心にやにやと笑っているのです。
「サラ。お前がぐずぐずしてるから、どんどん用事が溜まってるんだよっ。それなのにその程度の仕事にいつまでかかってるんだい!! いいかい、全部終わらせるまでトイレにゃ行かせないからね!!」
「そ、そんなっ……」
 とうとう、イルマにトイレ禁止をいいつかってしまい、サラは悲痛な悲鳴を上げてしまいます。腰の揺すり方はますます大きくなり、もじもじとその場で足踏みすら始まってしまいました。
 けれど、哀れな顔をして俯くサラは、のろのろと洗いかけのお皿を拾い上げ、洗い物を再開します。
「それが終わったら教室の掃除だよ!! サボるんじゃないよ!!」
 その足元には、いつしかじわじわと漏れ出した熱い雫が、何本も伝い落ちているのでした。
「っ……」
 サラが涙をこらえるたび、まるでその代わりというように、じゅじゅっ、じゅぅう、とスカートの奥ではしたない音が響き、下着を大きな染みが広がっていきます。
 いつ終わるとも思えない、食器の片付けを続けながら、サラの足元には、いつしかぱしゃぱしゃと、みっともない音を響かせるオシッコが大きな水溜りを作り、寒い厨房にほかほかと湯気を立ち上らせているのでした。




 (初出:書き下ろし)
 
[ 2011/09/23 00:30 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

仙人見習いのお話。 

 穏やかに陽気の満ちる、深い深い山の奥。どうどうと流れ落ちる滝の傍、見上げるほどの岩の上に、その娘は腰を下ろしておりました。
 短く肩上で揃えた髪には、緑蔦を編み、貝殻を削った止め具を挟んで飾り、纏う服は仕上げも見事に鮮やかな紅の飾り絹糸で綴られ、袖には銅の古銭が縫い止められています。
 工夫を凝らした細工の数々は、大邑の御令嬢でも、まず揃える事の出来ぬ細工でありましょう。それもそのはず、娘が身に纏うのは人界のものではありません。この広き心華大陸の山深く、神秘と不思議に溢れた、仙界の道服なのでございました。
 娘の名は燐玉(りんぎょく)。
 不老不死を極め世のことわり――大道を悟らんとするため、この洞府にて修行を積んでいるのです。。
 しかし、立派な道服とは正反対に、燐玉のその様子と言ったら落ち着きなく、もじもじ、くねくねと脚を擦り合わせ腰を揺するばかり。瞑想のため閉じられた目は震え、眉はよじられ、その表情は一時も定まらず、くるくると変わってゆくのです。
 流れ落ちる滝のしぶきが、ぱしゃぱしゃと音を響かせる音に耐えかねたかのように、燐玉はついに眼を開き、唇を震わせて泣き声を上げます。
「お、お師匠様ぁ……っ」
「なんじゃ、情けない声を出しおって」
 燐玉の見上げた宙空、ふよふよと漂う長椅子の上で、大きく溜息をついてみせるのは璃覚公主(りかくこうしゅ)。ここ、大慧山酒蓮洞(だいけいざんしゅれんどう)の主にして、燐玉のお師匠様にございます。
 とは言っても、公主のお姿は燐玉のそれよりもお若いご様子。燐玉のものよりも立派な道服や、手にした煙管などを除けば、鬼ごっこや隠れんぼをして遊んでいるのが似合いそうな、幼いお姿でございます。しかしながら、大慧山酒蓮洞の冥璃覚さまと言えば、仙界にこの人ありと謡われた五行の名手でございました。
 呆れ顔のお師匠様に、燐玉は肩を震わせ、唇を青くして再度訴えます。
「お師匠様…、も、もう、無理です……っ」
 その身はぶるぶると震え、両の手は辛そうに、道服の上から脚の付け根へとあてがわれていました。
 泣き言を言い出す弟子の姿に、公主さまは煙管に火を灯し、再度大きく肩を落とされます。
「ええい、情けない声を出すでない! まだ一刻も過ぎておらぬではないか」
「で、でも……っ、も、もう、本当にっ……!!」
 叱責を受けたところで、もはや燐玉にはどうすることもできません。ぷるぷると眉をよじり、小さな手を揉み合わせるように握り締めては、歯を食いしばって小刻みに震えるばかり。それどころかはしたなくも、坐した岩の上で、くねくねと艶めかしく腰をくねらせ始めてしまいます。
 もう辛抱溜まらないと目に涙をため、燐玉はお師匠様に視線で訴えかけるのです。これを見て公主、いよいよ困ったと首を振り、煙管を咥えて白い煙を吐き出します。
「まったく……燐玉よ、もう何度も教えたであろう? そのような瑣末な事で己を乱してどうするのじゃ」
「さ、さまつじゃありませんっ……だって、もう、ずっと、朝からっ……がまん、して…っ」
「ああもう、そのように無駄に力むからいかんのじゃ。ほれ、息を整えて姿勢を正せ! 一巡(9日)はもたぬだろうと思っておったが、まさか半日で根を上げるとはの……情けない」
 不出来な弟子に噛んで含めるように、璃覚公主は仰います。
 さて、百年千年を生きる仙人ともあろうものが、わずか一巡ほどの行をこなせぬ道理がありましょうか。璃覚公主の嘆きももっともでありますが――それも仕方のない事でございましょう。なにしろこの燐玉、まだ仙人とは名ばかりの見習い道士なのであります。
 世に名だたる崑崙山、蓬莱島といった大仙郷には、多くの洞府を束ねながらも若々しいお姿をされた大仙の方々もいらっしゃいますが、燐玉に限って言うのならば、見た目通りまだ十五にもならぬ、幼い娘なのです。公主にその素質を見出されて仙界へと招かれてまだ半年、学ぶべきことは多く、その道は遥かに遠く――まだまだ村娘気分の抜けぬ時期でありました。
 だからこそ、公主はあえて厳しく、燐玉を窘められます。
「良いか燐玉。よく聞くのじゃ。何度か教えたと思うが、仙人にとってもっとも必要なことは、陰陽の気を絶え間なく巡らせ、己のうちにとどめることじゃ。……まったく嘆かわしいことじゃが、大道の乱れは年を経ることに険しくなるばかり。妖怪や災害によって天地の気はたやすく乱れる。だからこそ、仙人というものは決して揺らがぬ己を保たねばならぬ」
 仙人を志す者がまずはじめに覚えることは、己の呼吸を乱さぬようにすることでございます。
 この呼吸というのは、ただの息の吸い吐きではありません。あらゆる物事の間、具合を計る基礎の基礎であります。これによって仙人は体内の気を巡らせ、調和とともに保つのございます。
 いかなる時もそれを乱さぬこと。仙道の初歩にしてもっとも大切な教えでありました。
 ……さて、この陰陽の気と申しますのが、この心華における気とは、陰陽より出で、互いに混じり合い産まれ合い、木火土金水の五行となって広がります。五つの行は互いに克し互いを生み出す相関関係を持ち、仙人のなかでも五行を扱うものは、まずこの五行の相生と相克をを扱えるようにならねばなりません。
 しかし燐玉、生まれの性質ゆえか、木行、火行の扱いは人並み以上であるのですが、それ以外はとんと苦手。それはならぬと公主、燐玉にもっとも苦手な水気の扱いのための修行をお命じになったのです。
 かくして燐玉は、洞で一番水気の満ちているこの滝のそばで、水気を己のうちにとどめる行を行っているのですが――
「ほれ、もっと胎に力を入れんか」
「ひゃあああ!?」
 水気と言いいますれば、つまり人間の身体を巡る水でありまして、要するに燐玉、ひたすらにお小水を我慢させられているのでありました。
 一人前の仙人ともなれば、体内の気、五行を己の中のみで循環させ、飲み食いなどせずとも生きてゆくことができます。俗に霞を食う、ともされますが――すなわち己の身体をひとつの世界とし、不要なものを口にすることなく、また余分なものを体外に排出することなく、身体の中を巡らせ続けることができるのです。
 そのためには木火土金水、五行のつり合いが大事なのですが――その扱いには不慣れな燐玉、どうしても不足しがちな水気を補うため、清浄なる水気に満ちた滝の傍で、その水気を無理矢理取り込まされ――いえ、公主の厳しい指導のもと、修行に励んでいるのでありました。
「ふぁあ……んぅっ……ぁ、あ、だめぇ……っ、も、漏れちゃ、ぅ……っ」
 しかし燐玉、確かに璃覚公主にその仙骨を見出されて、晴れて酒蓮洞の弟子となりはしましたが、ほんの半年も前まではただの村娘だったわけでして、仙道の暮らしなど分からないことだらけ。いくら言われても、その教えはまったくちんぷんかんぷんなのでございました。そも、普通の娘に、丸一日もお小水が我慢出来ようはずもありません。
 我慢出来ぬものを出来るようにせよ、とはまったく酷なことでございました。
「お、師匠様、い、いじわる、しないでくださいっ……」
「……たわけ!! なにが意地悪か、修行じゃ、修行!!」
 璃覚公主、不出来な弟子の有様に、すっかりご機嫌斜めのご様子。
 けれども、いかな優れた仙骨を持つ者が、戒律に従い肉魚を断って精進の日々を過ごそうとも、そも、人間とは陰陽清濁を共に備えてこの世に産まれ落ちた身、半年やそこいらで俗界の習慣や輪廻の中で染み付いた陰業が抜け落ちることもまたないのであります。
 たとえ燐玉が心曇りのない清らかなる乙女とて、その身に満ちた水気は体内を巡るうちやがて澱み、汚れてゆくのです。そうして汚れた水気はまた、不要なモノとして身体の外へと排出せねばなりません。
 そして今もなお、満ち満ちた水気は身体の中にとどめておくどころか、娘の下腹の恥ずかしい部分へと集まり、出口を目指してぱんぱんに張りつめていくばかりなのでした。いくらお師匠様のいうことでも、姿勢を正そうと呼吸を整えようと、その勢いは強まるばかり。
 けなげにも言われたことを実行しようとしても、なお刻一刻と下腹部に膨れ上がる濁った水気に、燐玉はどうすることもできずにいるのでした。見事に縫いとられた太極図の道服の前をぎゅうぎゅうと引き絞り、はしたなくも左右の手を足の付け根に押し込んで、みっともなく腰を左右に振るばかりでございます。
「や、やっぱりだ、だめ……!! で、出ちゃいますっ……」
 まだまだ見習い気分の抜けない、年頃の娘。燐玉はこみ上げる尿意に身悶えしながら、顔を赤くしてうつむくばかりでありました。いくら言っても聞く様子のない弟子の姿に、璃覚公主もすっかり呆れ顔となるばかり。
「まったく……いつになったらお主のお漏らし癖は治るのかの。いい加減にしゃっきりと辛抱せい」
「そ、そんな……っ、む、無理なものは、無理ですよぅ……も、もうこれ以上、我慢、なんてっ、」
 そんな公主の厳しい叱責にも、燐玉は落ち着きなく首を振り、ぎゅぎゅっとはしたなくも脚の間に手を突っ込んで、思い切り道服を引っ張るように押さえこみます。
 不機嫌な時の璃覚師匠に口答えをするなど、あとで恐ろしいお仕置きが待っているのに違いないのですが――どうも燐玉、余程切羽詰まっているのか、そんな事を気にしている余裕もない様子でありました。
「ああもう!! 耐えろと言っておるのではない!! 気の巡りを捕え、循環を絶やすな。そのようにはしたなく身をよじることが未熟な証と言っておるのじゃ!!」
 きつい口調でそう言うと、璃覚公主はぺしんと燐玉の腰を叩いて見せます。
 しかし、いままさに、羞恥と我慢の綱引きの真っ最中で叩かれた燐玉はたまりません。その弾みでじゅじゅじゅっ、と脚の付け根にはしたない飛沫を滲ませてしまうのでした。
「ふぁあああ!? や、、だめ、お師匠様、っ、さわら、なぃでっ……!! でっ、出ちゃうっぅうっ……!!」
「はあ……まったく、情けない。そもそも、水気をそんなところに溜め込んでどうする。水は流れ巡るものじゃ。一所に溜まらせておれば、それだけ澱み、穢れてしまうのだぞ!!」
 さて、璃覚公主のお説教が始まりましたが、顔を真っ赤にして唇を噛み、身体を硬く強張らせて震えている燐玉に、そのお小言が届いていますのかどうか。まさに今、燐玉の乙女はその澱んだ水気をたっぷりと蓄え、懸命の我慢も空しくいまにも弾けんばかりに膨らんでいるのです。
「あっあ、あっ……」
 燐玉が高く声を跳ねさせると、とたんにはしたなく漏れだした濁水が、ぶじゅぶじゅうじゅううぅ!!と激しくはしたない音を響かせては、道服の色を見る間に変えてゆきます。それでも燐玉がそこに溜めこんだ澱み濁った水気の量に比べれば、ほんのわずか、数滴がこぼれた程度に過ぎません。
 ほかほかと湯気を立てる燐玉の粗相を見下ろし、璃覚公主ははあ、と大げさに溜息をついてみせました。
「まったく…進歩のないやつじゃの。お主のように見込みのない弟子は初めてじゃ。……もう良い、罰としてもう半日ばかりそうしておれ」
「そ、そんなっ、お師匠様っ……!!」
 涙声で追いすがる燐玉ですが、師匠の命令には逆らえるはずもありません。
「や、やだ……だめ、ま、また漏れちゃいますっ……!!」
 なおも激しく出口を求め暴れる、体内の濁水気を持て余しては、燐玉はただただ、濡れてちゃべちゃと汚れたままの道服を涙を浮かべながら絞り、途方にくれるばかりなのでした。
 燐玉が仙人としてこの心華にその歩みを刻むには、まだまだ長い時間が必要となりそうです。



 ――さて。燐玉を庇うわけではありませんが、ひとつ種明かしをいたしますと、そもそも、気の巡りというものをうまく感じ取れない見習いの時分には、己のうちに気を留めておくということは至難の技でして、誰もが苦労して通る道なのでございます。
 しかしそこは偏屈かつ意地悪で名を馳せた璃覚公主、さも出来の悪いのは燐玉だけだというような口ぶりをなさるのでした。
「やれやれ……困ったものじゃな」
 そう仰る公主のお顔は、自然と意地悪な笑みを浮かべていました。

 いかな大仙であろうとも、なかなかに捨て去ることは出来ぬ二つの業というものがございます。
 ひとつは殺業――己の力を極め、他者と争い競いたいという心。
 そしてもう一つは愛業――己の弟子を、愛しいと思う心であります。
 これは仙人にとって捨て去ることがとても難しいものであると同時に、この二つを失ってしまえば、それはもはや意志を持ち人の形をとることの意味すら失うものでもあるのです。璃覚公主のそれを愛業と呼ぶのがふさわしいかどうかは、少々議論の余地があるようにも思えますが――野暮なことは言わずにおくといたしましょう。




 (初出:書き下ろし)
 
[ 2011/09/23 00:26 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

両手に大荷物の話。 

 雨上がりの繁華街は、週末ということもあって人通りで混み合っていた。晩夏の空は相変わらず分厚い雲に覆われており、気温と共に湿度も上昇の一途を辿るばかり。
 またいつ崩れ出すとも分からない天候を気にして、道行く人々の足取りも忙しない。
「んっ、……ふぅ……っ」
 額にうっすらと汗をかき、志穂は小さく声を漏らす。サマーベストに白のブラウス、薄い緑のスカート。胸元のリボンと校章は、近所でも有名な某私立校の制服のものだ。
 息も荒く、雨に濡れた駅前を歩く少女の両手には、はち切れんばかりに中身を詰め込んだ紙袋が提げられていた。
(ぅ、……急がなきゃ……っ)
 近づいた文化祭のため、志穂のクラスでは休日返上で準備が進められている。志穂はそのため近くの駅まで買い出しにやってきたのだが、量販店に辿り着いたところで急な雨に降られ、荷物を抱えて戻る事も出来なくなっていたのである。
 都合の悪い事に携帯まで忘れ、学校や友人とも連絡が取れなくなっていた。雨がおさまるまで1時間以上も量販店に立ち往生する羽目になってしまった。
 はやる心を押さえ、今か今かと雨が止むのを待ち、なんとか量販店を飛び出したのはいいものの――両手の荷物は少女一人の手に余る重さで、抱えたままでは真っ直ぐ歩くのもやっとという状況だった。
(や、やっぱり、買い過ぎたかもっ……)
 革靴の底は濡れたアスファルトの上を不安定に滑り、ずしりと膨らんだ紙袋の重さに、肩が根元から抜けそうになる。持ち手は指に硬く食い込み、手のひらにも痛みと痺れが走る。
 荷物には装飾用の布地や画用紙、料理のレシピ本なども含まれ、万が一にも濡らしてしまう訳にはいかないものばかりだ。休憩をしようにも大雨に振られた地面は一面が水浸しで、どこにも荷物を下ろす場所がなかった。
「っ……ふ、ぁ、……んぅっ……」
 土砂降りに濡れたアスファルト、人混みの混雑、蒸し暑い気候、汗で不快に湿る背中、曇る眼鏡。悪条件がいくつも重なり、駅までの数百メートルの距離が、あまりにも遠く感じられる。抱えきれないほどの大荷物がさらにそれに拍車を掛けた。
 そして――
「んぁ……っ」
 ただでさえおぼつかない志穂の足取りをますます鈍らせるもの、それは――
(……だ、だめ、お……おしっこ、でちゃうっ……!!)
 下腹部を硬く張りつめさせるほどに、切羽詰まった尿意だった。





 多くの客が雨宿りに駆け込んできた量販店でのフロアで、志穂はやきもきしながら窓の外とにらめっこを続けていた。何度もフロアの時計を見上げ、一向に弱まる様子のない雨足を見上げては焦りをにじませ、溜息を繰り返す。
(もうこんな時間……どうしようっ……)
 量販店に足止めを食らってから早1時間が過ぎ、志穂は焦りと共にフロアの端を行き来する。足元には大きな紙袋が二つ、中身をぎっしりと詰め込んで鎮座している。
 本来なら1時間も前に学校に届けていなければならない大事な資材ばかりだ。遅れる事の連絡も出来ず、クラスは今頃志穂の帰りを今か今かと待ちわびているに違いなかった。
 何度後悔しても、忘れてきた携帯がどこから現われてくれるというような奇跡は起きなかった。ご多分に漏れず、連絡先のほとんどは携帯のアドレス帳の中で、志穂の頭の中には残っていない。焦る一方で連絡手段はなく、時間だけが刻々と過ぎてゆく。
 バスで駅まで行く事も考えはしたが、近くのバス停は屋根のない吹き晒しだった。たとえ傘を差していてもバスが来るまでに荷物がどうなるかは火を見るよりも明らかである。まして駅まで歩いていくなんて、まず考えられない。
「うぅ……」
 落ち着かない足元が、じっとしていられずに小刻みにステップを刻む。
 ――実のところ、この時から志穂の身体は少なからぬ尿意を覚えていた。志穂が落ち着かない理由のいくらかは下半身を間断なく襲うさざ波にあり、苛立ちの理由の何割かは、恥骨上のダムをちくちくと刺激するむず痒い感覚だったのだが――早く帰らなきゃと焦るあまり、志穂の頭の中からトイレに行くという考えはすっぽり抜け落ちていた。
(まだ止まないの……? やっぱり、無理にでも傘とか買って行った方がいいのかな……。でも、荷物濡れちゃうし……もうお金もそんなにないし……ああもう、いつまで降ってるのよぉっ!!)
 弱まる様子のない雨足を見上げながら、志穂はフロアの一角でじりじりと苛立ちを滲ませる。
 そうしている間にも、混雑の中で蒸し暑さを防ぐために強められた冷房の風は少女の身体を冷やしていった。冷風の直撃にぶるる、と背中を震わせ、生乾きの制服が気持ち悪く背中に張り付く。眉を寄せながら空を見上げる志穂が、暑さに耐えかねてついがぶ飲みしたペットボトルのお茶は、下腹部の一か所へと集まり続けていた。



 まんじりともせずに曇天の空を見上げ、なおも収まらない雨足に焦らされ続け、さらに30分余り。結局それから一度もトイレに行く事もなく、フロアをうろついていた志穂は、不意に途切れた雨の音に、弾かれたかのように量販店を飛び出していた。
 折しも志穂と同じように、急な土砂降りに閉じ込められていた客たちが一斉に帰途へと付き、繁華街は時ならぬ混雑を見せていたのである。
 そんな中、抱えているのがやっとという程の大荷物を手に、駆け出した志穂はすぐに後悔することになる。
(と、トイレ……行っておけばよかった……っ!!)
 逼迫した生理現象は、量販店を出た時既に急がなきゃ、という焦りを上回りつつあった。一つ目の横断歩道まで歩いた時点で込み上げる尿意は猛烈なものとなり、思わず摺り足の内股になってしまうほどだったのだから、信号が変わるまでの待ち時間の間、下腹部に押し寄せる尿意の波を堪えるのだけで精一杯だったのも仕方のない事だ。
 志穂は濡れたアスファルトの上、歩道をごった返す人混みの中で両手に荷物を抱え、途方にくれることになる。
 今からでもトイレに寄っていくべきだ、という選択肢は当然のように頭をかすめたが、量販店に戻るには再び横断歩道で信号待ちをしなければならなかった。同時に、既に1時間半以上も予定を遅れているという事実が、志穂の決断を鈍らせる。
 逡巡はさらなる迷いと焦りを生み、不用意な緊張がますます尿意を募らせるという悪循環。志穂の排泄欲求は坂を転げ落ちる雪玉のように膨れ上がってゆく。
 両手の荷物が、万が一にも汚すわけにもいかない大事なものであるという事が、志穂に無意識のうちにトイレから足を遠ざけさせていたのも事実である。
 腕をまっすぐ伸ばせば地面を引きずってしまいかねない大きな紙袋は、トイレの個室に持ち込むにはかさ張り、個室の床におく訳にもいかない。さりとて、用を足している間フロアのどこかにおきっぱなしにしておくなんて、以ての外であった。
 ――なんのことはない。志穂が尿意を自覚した時から、既に多くの逃げ道は塞がれていたのである。
「はんっ……ぁ……んっ、……ぅ」
 息も荒く、肩を上下させ、気持ちの悪い汗を首筋に感じながらも、志穂は人混みの中を懸命に歩く。繁華街の雑踏の隙間を、大きな荷物を抱えて通り抜けるのはそれだけで十分な重労働だが、今はそれに雨上がりという立地と、切羽詰まった尿意という条件が加わっている。
 排泄を求める下腹部は切実に限界を訴え、スカートの下で硬く張りつめた乙女のダムと、その秘められた水門を閉ざし続ける括約筋はもはや余力がない事を叫び続ける。
「っ、はぁぅ……っ…!?」
 繊細な乙女のティーポットに、新しい羞恥の熱水がこぽこぽと音を立て湧き起こり、オシッコの出口が高まる水圧にぷくりと膨らむ。
 恥骨からじいんと響くように伝わる尿意に、ぞくぞくと背中を震わせて、志穂はその場に立ちつくしてしまった。
 両手はずしりと重い紙袋に塞がれ、スカートの前を押さえるどころか、さりげなく下腹部を撫でさする事すらかなわなかった。押し寄せる怒涛の尿意を押さえ込むため、志穂ははあはあと息を荒げ、膝をきつく寄せ合わせ、内腿をすり合わせる。
 それでもぱんぱんに膨らんだ下腹部の欲求を和らげようと、腰はくねくねと左右に揺すられ、後ろに突き出された小ぶりのお尻がもじもじと震える。
(んぁ、っ、…で、ちゃうぅ……!!)
 脚の付け根、汗ばんだ下着の股布を恥ずかしい所に食い込ませながら、志穂は懸命に脚をくねらせた。酷使された括約筋はいまにも擦り切れんばかりに疲弊し、水門を内側から引っかく尿意の刺激に屈しそうになる。
 放水を塞ぐには頼りないおんなのこの水門は、支えるものがなければいつ崩壊してもおかしくなかった。今すぐ、両手で思い切り股間を握り締めてしまいたい。そんなはしたない欲求を覚えながら、志穂は口の中に浮かぶ唾を飲み込み、駅までの道を必死に急ぐ。

 じゅぅっ……

 しかし、そうして無理をすればするだけ、緊張に強張った下腹部からは熱い雫が漏れ出していた。太腿の付け根の隙間、たっぷりと水を吸った下着に、また新しく滲みだした熱い雫が、腿の内側を濡らし、つうっと脚を伝う。
 膝裏にまで滑り落ちる羞恥の雫の感覚に、志穂はがくがくと膝を震わせながら片方の足にもう一方の脚を擦りつけた。
(だ、だめっ、だめえ……っ)
 ただでさえ不安定な足元が、おぼつかない足取りのままふらふらと左右に揺れる。満足に我慢する事も出来ないまま、志穂は忙しなく爪先を踏みならし、膝を重ね、深く脚を交差させ、混雑する歩道の真ん中で、くねくねと羞恥のダンスを始めてしまう。
「んぁ……っ!!」
 ぶるぶると緊張し、硬く張りつめた少女の内腿に、再びじゅぅっと熱い雫が噴き上がった。

 しゅるるるっ、じゅぅう……

 今度は一瞬では終わらずに、水音は間断的に続き、くぐもった音を響かせる。同時に志穂の脚をいく筋もの水流が一気に伝い始めた。
「ふぁぁ……、っ、だ、だめ……っ」
 しかし、限界を迎えた乙女の秘所に、ただちに救援に向かわねばならないはずの左右の手は、重い荷物を支えるので精いっぱい。大事な大事な荷物を放り投げるわけにもいかず、深く引けた腰を小刻みに跳ねさせ、志穂は顔を赤くしながら、歩道の中央に立ち止まってしまう。
 もじもじと腰をよじり、繰り返させる足踏みに、濡れた道路の水たまりがぱちゃぱちゃと飛沫を跳ねさせた。

 そして――

 両手が自由にならないまま、硬直してしまった志穂の下腹部を、今日最大の尿意の波が襲う。
「ぁ、あ、ぁ、いや、ぁ……っ」
 志穂の喉が掠れた悲鳴を絞りだすのと、制服のスカートの奥で、じゅじゅじゅううぅっ!! と凄まじい水音が響いたのはほとんど同時だった。
 心持ち、引けていた腰のスカートの中央、志穂の脚の付け根の部分が、まるで水でも浴びせかけられたかのように一気に色を変えてゆく。
 薄い緑のスカートを色濃く染めるのは、少女の股間から噴き上がった羞恥の水流だった。
 猛烈な勢いで噴き出した羞恥の熱水が、下着を突き抜け一気に内側からスカートを直撃したのだ。楕円形に広がった染みは、そのままじゅうっと溢れんばかりの水気を滴らせ、足元へ向かってさらに広がり落ちる。
「ぁ……や、だめ、だめ、ぇ、だめぇえええ……っ」
 言う事を聞かずにオシッコを噴き上げてしまう下半身。困惑しながらも放水を堪えようと腰をくねらせる志穂だが、その動きは噴き出すオシッコを堰き止めるどころか、噴き上がる水流を強く刺激し、さらに激しくさせるばかりだった。
 羞恥と焦りに収縮する下腹部奥の水風船から、猛烈な勢いで絞り出された薄黄色の濁流は、清楚な少女のスカートを内側から濡らし、色濃く染めながらさらに激しい勢いで足元に噴きこぼれてゆく。
 そんな自分の姿を、志穂は荷物を抱えたまま、隠す事すらできずにいた。
「あ、ぁああ…っ、だめ、止まって、止まってぇ……!!」
 オシッコを押さえ込もうと、前屈みになって激しく身をよじる志穂。しかし一旦出口を破られた排水がそれで止まるはずもなかった。緩んだ水門からは耐えに耐え続けた熱水が激しく噴き上がり、下着を水浸しにしてなお弱まることなく噴き出し続ける。
 ようやく異常に気付いた周囲の雑踏が、志穂を取り巻くように距離を取り、人だかりを作ってゆく。大ぜいの輪の中に残され、志穂はもはや逃げる事も許されない。
 オシッコは下着の股布からおしりの方にも回り、こちらもスカートを色濃く染めてゆく。たっぷりとオシッコを吸って薄い布地はすっかり志穂の下半身に張り付いて、濡れ透けたその奥に艶めかしい少女の脚を浮かび上がらせていた。
 ばちゃばちゃと、スカートの内側に薄黄色い雫が噴き落ち、アスファルトの上に真新しい水たまりを広げてゆく。
 止まらない放水はなおも続いた。ずぶ濡れになってほとんど乾いた部分のなくなったスカートを、さらにたっぷりと濡らし、志穂の下半身はびしょ濡れの制服がずっしりと絡みつく。身体の奥から熱が抜け、じんじんと恥骨から背骨にかけてを途方もない解放感が伝わってゆく。
「ぁ……ぁ……」
 どさ、どしゃ。
 力の抜けた左右の手から、ずっと握り締めていた紙袋が地面に落ち、志穂自身が撒き散らしたオシッコの水たまりの中へと沈んでゆく。
 ゆっくりと空の雲が垂れこめ、ぽつりぽつり雨雫が降り始める中。
 志穂の足元にはなお、恥ずかしい水流が溢れ落ちる音が、ばちゃばちゃと響き続けていた。



 (初出:書き下ろし)
 
[ 2011/09/22 23:41 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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