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我慢RPG没ネタ供養・2 

 ずっと以前にRPGツクールで作成しようとして頓挫した、「我慢系RPG」のイベント案を小説風にリメイクしたもの。
 一部つながりがあるもの以外、時系列などはバラバラで順不同。





■隣の家イベント
※隣の家の前でおばさんに話しかけると発生
※トイレ修理イベントに派生する

 家を閉め出された明日香が次に向かったのは、隣の家の玄関だった。
 隣家とはもう10年以上、家ぐるみでの近所づきあいがあり、登下校のときなどに挨拶をするような間柄である。困った時にお世話になることは、これまでも何度かあったことだ。
(……ちょっと恥ずかしいけど、知らない人に言う訳じゃないし……)
 わずかな躊躇いはあったものの、自分に言い聞かせるように頷いてインターホンを押すと、すぐに返事がありドアが開く。
「あら、明日香ちゃん? どうしたの?」
「こ、こんにちは……」
 顔をのぞかせた隣家のおばさんに、ぺこりと頭を下げる。
 明日香は出て来たのがご主人のおじさん――昨年定年を迎えたばかり――ではなかったことに少しだけ安堵して胸をなでおろす。余裕がないとはいえ、やはりこんなことは女の人でなければ話しにくいものだ。
 油断するともじついてしまいそうな脚をきゅっと寄せ合わせ、居住まいを正して、明日香は話を切り出した。
「その……ちょっとした行き違いで、家から閉め出されちゃって……お、お手洗い、借りても……いいですか……?」
 お手洗い、という単語を口に出した瞬間、わずかに足元がふらついてしまう。結果的にもじもじと腰を揺すり、我慢している様子を見せてしまって、明日香の頬は熱くなった。
 いい歳をしてはっきりと『トイレを我慢しています』と訴えるのには勇気がいる。まして、自分の家ではなく他の家のトイレを借りようというのだからなおさらだ。
(でも、このまま遠くまで行くのも……大変だし。ちょっとくらい甘えちゃってもいい……よね?)
 本当の本音は胸の内に隠して、明日香は軽く頬を赤くしながら、トイレを借りたい旨を訴えた。
 明日香の様子を見て状況を理解したのだろう。おばさんは、あらあら、と目を丸くしつつ、しかし頬に手を添えて困ったように眉を寄せる。
「……その、ごめんなさい? ちょっとねえ、朝から下水の調子が良くないのよ。……それで、さっき修理をお願いしたんだけど……」
(えっ!?)
 『いいわよ。どうぞ』そんな返事を期待していた明日香は、肩透かしを食らって目を丸くした。
 にわかに雲行きが怪しくなる。
「そのねぇ、工事の人がまだ来てくれないのよ。……午前中には間に合うって話だったんだけど……」
(ええっ!?)
 明日香の困惑は表情にも出ていたのだろう。おばさんは済まなそうに何度もうなずいて、御免なさいね、と決定的な一言を告げた。
「だから、今はうちのトイレも使えないのよねえ……」
(ええええーっ!?)
「御免なさいね。申し訳ないんだけど……」
 やんわりと、しかしはっきりした拒絶。
 故障中とはいえ、最悪使うことはできるんじゃないか――と、甘いことを考えていた明日香の期待は、完膚なきまでに打ち砕かれる。
「……そ、そんなぁ……」
 まさか断られるとは思っておらず、明日香はついに声を上げてしまう。
 またもトイレの直前で期待を裏切られたことに、明日香の排泄器官は抗議するようにきゅうっと収縮し、こぽりっと排泄欲求を湧きあがらせ。強まる尿意に乙女のダムの水面が波打つように揺れ、明日香は慌てて脚をぐっと交差させた。
 折角の解決策も全く役に立たず。明日香は回れ右を余儀なくされたのだった。





■ビルのトイレイベント
※大通りのビルのトイレ前で発生

『清掃中』

「うそっ……!!」
 明日香は呆然と、ビルのトイレの入り口で立ち尽くしていた。
 大きく遠回りをしてまでようやく辿り着いた婦人用トイレには、無情にもそんなプレートが設置されていたのだ。ご丁寧に、その横には『別のトイレをご利用ください』とまで注意書きが加えられている。
「………そんなぁ……」
 まっすぐデパートへ向かえばいいものを、わざわざ余計な苦労まで背負い込んでやってきただけに、失望感もひとしおだった。床に設置されたプレートの前で明日香はがっくりと肩を落としてしまう。
(ここまで我慢すれば大丈夫だと思ったのに……!!)
 明日香の身体はすっかりここでオシッコができるつもりで、準備を進めていたのだ。またも『お預け』を食らい、少女の下半身に、堪えていた分の尿意が一気に押し寄せてくる。下半身を飲み込みそうな強い波に、脚の付け根がじんっ、と痺れを走らせる。
 思わず明日香はスカートの裾を掴んでしまった。
 小さく足踏みをしながら、明日香はしばし、じっと入り口のプレートを睨みつけた。
(ううぅ……っ)
 清そのまましばらくトイレの前をうろうろと歩き、そっと、プレートの奥を覗き込む。
 トイレの中では、マスクに作業着姿のおばさん達が、何かの薬剤を撒いて床や壁の清掃を始めていた。ちょっと簡単な掃除、といった雰囲気ではなく、徹底的な洗浄・改修作業のようだった。
 ただの水洗いなら中に入ることは簡単なのだが、そんな様子でもないらしい。
「あのー……」
「はい?」
 それでも――一縷の望みにすがるように、きゅっ、と太腿を寄せ合いながら、明日香は掃除中のおばさんに声をかける。
「あ、あの、ここ……使えないんですか?」
「……使いたいの? うーん……ごめんなさいねぇ。いつもなら大丈夫なんだけど、今日はちょっと……無理かもねぇ」
 おばさんの説明によると、今日は半年に一度行われる本格的な清掃作業とのことで、いつもなら深夜におこわれるはずの作業が、テナントの事情で営業時間中にずれ込んでしまったらしい。
 先に婦人用のトイレ、そのあとに紳士用のトイレと、一日がかりの作業になるという説明を受けて、明日香は背筋を震わせてしまう。
「そ、その、あと……どれくらいかかりますか?」
「そうねえ、……まだ2時間くらいはかかっちゃうかしら」
「そんなにっ!?」
 たまらず声を上げてしまった明日香に、清掃のおばさんはすまなそうに眉を下げる。
「本当にごめんなさいねぇ。どうしても我慢できないなら、隣、使ってもらっちゃってもいいわよ。あっちはまだ作業してないから」
「隣? 隣って……」
「男子トイレよ」
 さらりと言われ、明日香はたちまち赤くなってしまった。……確かに、緊急避難としてはまあ、ありえない選択肢ではないが。
 ちらりと視線を向けた先、廊下の反対側にある青いマークの入り口に、タイミングを計ったように背広姿の男の人が入っていく。トイレの前で前かがみになっている自分を見られてしまった気がして、明日香は頬をますます赤くする。
「大丈夫よ、こっちが使えないんだから、説明すれば……。なんだったら……」
「あ、あはは、いいですいいです。すみません!! お仕事中に、お邪魔しましたーーっ!!」
 放っておくとおばさんが紳士用トイレまで案内付いてきそうな気配を感じ、明日香は慌てて踵を返していた。
 しばらく離れてから、ちらり、と背中越しに紳士用トイレのほうを眺め、明日香は苦笑した。
(いや……その、うん……確かにそうだけど、さあ……それはやっぱ、女の子として……どうかなぁ……)
 そんな事を考えている余裕が、まだあっただけ。この時の明日香はマシだったのだ。






■喫茶店&先輩コーヒーイベント
※アイテム:コーヒーの使用法について説明する
※強制尿意上昇イベント
※先輩はコーヒーを使用するまで解放してくれない

「あはは。そんなに汗かいちゃって。暑かったの? 遠慮しなくていいよぉ、明日香ちゃん」
「は、はい……」
 冷えたグラスは汗をかき、ストローが傾いてからんと小さく氷の音をたてる。秋とは言えまだまだ日差しは強く、外で運動すれば汗ばむくらいだ。考えてみればずっと歩き通しで、渇いた喉は確かに水分を欲している。
 けれど、目の前のアイスコーヒーには手をつけられないまま、明日香は曖昧に頷くばかりだった。
(……うぅ……っ)
 ウェイトレスの制服に身を包んだ先輩の“好意”の笑顔が、あまりにも心苦しい。
「どしたの? 飲まないの? 喉乾いてんじゃなかった?」
「そ、そうなんですけど……」
 後輩思いではあるが、良くも悪くも上下関係を強く重んじる先輩だ。あまり会いたくないタイプなのだが、まさかこんな場所でバイトをしてるなんて完全に予想外だった。
 困惑を隠しきれずに、明日香はじっと、コップになみなみと注がれたアイスコーヒーを見下ろした。
(こんなの飲んだら、もっと……トイレ、行きたくなっちゃう……!!)
 ただでさえ利尿効果の強いコーヒー、それがしっかりと冷えているのだ。恐らく、乾いた身体には効果覿面だろう。
 トイレを借りるために慣れない喫茶店に入ったところで、偶然部活の先輩に出くわしてしまったのは、不幸としか言いようがないことだった。決して嫌いな先輩ではないのだが、今日ばかりはそれが恨めしい。
 しかもこの喫茶店は集合店舗であるため店内にトイレはなく、いったん店を出てビルのトイレを使うことになっているのだという。それが最初からわかっていれば、明日香もわざわざ立ち寄ることもなかったはずだ。
 しかも具合の悪いことに、店内はがらがらで、カウンターの奥にいる店長はバイト中であるはずの先輩が明日香と話し込んでいるところを咎めようともしない。すぐ隣にじっと陣取られていては、席を立って『その前にトイレに』とも言い出しにくかった。
「……い、いただきます」 
 せっかくの好意を断ることもできず、誤魔化すこともできないまま、明日香は覚悟を決めてストローに口をつけた。喉が渇いていないと言えば嘘にはなる。我慢を続けているせいか口の中はカラカラで、舌がうまく動かないほどだ。
 吸い上げたアイスコーヒーは、きんと頭を冷やしながら喉を滑り、おなかの中へと流れ落ちてゆく。
「ん……っ」
 喉の奥へ流れ落ちてゆく冷たさは、おなかの奥まできんと響くようだった。同時に下腹部も敏感にそれを察知し、脚の付け根の痺れがじんと強さを増す。
 冷えた利尿作用の強いコーヒーは、まるで、そのまま膀胱の中へと注ぎ込まれていくようで、明日香は何度も座る位置をずさりながら、カウンターの下ではしたなく交差させた脚をしきりに組み換えてしまう。
(うぅ……タイミング、悪すぎだよ……)
 トイレを借りるつもりでやってきたのに、オシッコができないばかりかますますオシッコの素になるようなものを飲まされるなんてついていないにも程がある。
「どう? 結構いけてると思うんだけど、なんでかお客サン少ないんだよねー。場所も悪くないし、もっと流行ってもいいよねえ。明日香ちゃんもそう思わない?」
 がらがらの店内がよほど退屈だったのか、先輩はさっきから明日香の前を離れようとしない。
(と、とにかく、早く飲んで……外、出ようっ)
 緊張する喉を震わせ、再度ストローに口をつける明日香だが、きんきんに冷えたアイスコーヒーは、舌や喉を痺れさせるほどで、いくら飲んでも減る様子がない。
 時間をかければかけるほど氷が溶けて、飲む量も増えてしまうのだ。少しでもはやく飲み終えてしまいたい。そう思うのは当然の心理だった。
 目をつぶって、一息にストローを啜る。
(……っ)
 半分近く残っていたコーヒーが、一気に明日香のおなかの中へと消え、ストローがずずずっと音をたてた。おなかの奥が今飲んだ分だけ水位を増し、たぷんっと揺れるような錯覚を覚えながら、明日香は空になったグラスをテーブルに戻す。
「おー。いい飲みっぷり。さすがだねっ」
 嬉しそうな先輩はそう言うと、小さく拍手をして、
「おかわり、いる?」
 さらに嬉しそうにそんなことを言ってきた。





■茂みの奥で
※公園の少女イベントから派生
※河原に近づくと発生。
※以後、少女の居た位置は野ションスポットに変化する。

(あれ? あの子……)
 河沿いのサイクリングロードを急いでいた明日香が、落ち着かない足元を紛らわせようとふと視線をめぐらせた先に、見覚えのある色合いのリボンを見つける。
 河原に生えた茂みの中を、先ほど公園で見かけた女の子が小走りに走っていく。
「……さっきの子、だよね?」
 見間違いかとも思うが、公園で忙しそうにしていた少女に間違いない。
 どうしてこんな所という疑問を抱く明日香をよそに、少女は落ち付きなく周りを見回しながら、河原の隅、コンクリートでできた塀の方へと走り寄ってゆく。
 姿勢は背中を丸めて前かがみ。その左右の手のひらは、しっかりと重ねられ、デニムのスカートの上から脚の付け根に押し当てられていた。
(あ……!!)
 彼女が何をしようとしているのか、明日香はようやく理解する。
 公園のトイレは工事中だったのだ。立ち入ることができない以上、トイレを催したのなら、どこかほかの場所でオシッコを済ませなければいけなくなる。
 ぎゅうっと股間を握りしめた前押さえの恰好のまま、コンクリート塀の側に辿り着いた少女は、不安げに何度も周りを見回した。ちょうど明日香のいる位置はその真上であり、彼女もまさか、上から自分を見ている誰かがいるとは思っていないらしい。
 手のひらは脚の間に深くまで差し込まれ、ちょうど身体の前から股間部分を抱え込むようにそて前屈み。激しくバタバタと足踏みをしながら、ぎゅうぎゅうと腰をよじらせる。
 周囲に視線もないためか、少女の我慢の仕草はかなり大胆なものだった。それだけ尿意が切羽詰まっているのだろう。必死に我慢をしている姿につられて、明日香の下腹部もきゅんと切なく疼く。
 少女はもう一度回りを見回すと、デニムのスカートに手を突っ込んで勢いよく下着を下ろし、橋のたもとのコンクリートの壁に向かってしゃがみ込んだ。
「あっ……」
 小さな、鈴を鳴らすような可愛らしい声。同時に、少女の脚の付け根から凄まじい勢いで放たれた水流が、コンクリートの上を直撃した。
 サイクリングロードまで音が聞こえてきそうな、豪快なオシッコ。
 ずっと我慢していたのだろう。小さな身体とは不似合いなほどに勢いよく、まるでホースを使って水をまくような激しい水流が、コンクリートの地面に噴射されてゆく。
 噴き上がる水流はみるみる地面の色を変え、白い泡を立てながら傾いたコンクリートの上を滑り、河原の方へと流れてゆく。
「ふぁあああ……」
 放尿を続ける少女が、ゆっくりと安堵の溜息を吐いた。長い我慢から解放された少女の表情はふわふわに蕩け、目は潤み、唇はわずかに開いて甘い喘ぎをこぼす。
(い、いいな……あの子、……あんなに、気持ちよさそうに……)
 たまらず大きく揺れ動き、わたしも、わたしも、と。我慢の限界を訴える下半身。もちろん、あんなところでオシッコなんで、まだ小さな女の子だから許されることであって、明日香にはできるはずもないのだが――
(私も、はやくオシッコ……したいよぉ……っ)
 目の毒と分かっていながらも、明日香はしばし、その光景から目を離せずにいた。
 とてつもなく気持ちよさそうにおしっこをするその姿を見せつけられては、明日香の腰の揺れがおさまるわけもない。それどころか、今すぐあそこに駆け寄って、一緒にオシッコを済ませてしまいたいとまで考えてしまう。
(っ……ば、馬鹿!! 何考えてるのよわたしってば…っ)
 明日香は慌てて首を振る。あんな丸見えの場所でトイレなんて、あのくらい小さな子ならまだしも、明日香にできるはずがない。
 後ろ髪を引かれるのを無理やり振り切って、明日香は足早にサイクリングロードを走り去ってゆく。



 (初出:書き下ろし)

[ 2012/02/17 23:59 ] 永久我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

我慢RPG没ネタ供養・1 

 ずっと以前にRPGツクールで作成しようとして頓挫した、「我慢系RPG」のイベント案を小説風にリメイクしたもの。
 一部つながりがあるもの以外、時系列などはバラバラで順不同。




■OP/1 帰ってくる

 ――まさかこの歳になって『おうちまで我慢』する羽目なるなんて。

 木崎明日香は、焦りと共に帰途を急いでいた。
 固く張りつめた下腹部に急かされ、自然に早まってしまう歩みと共に、横断歩道を小走りに渡る。脚の付け根に膨らむ尿意はそろそろ無視できないものになっており、ふと気を抜くと、歩き方まで知らずに内股気味のおしとやかモードなってしまうほどだった。
(……もぉっ、これならさっきおトイレ行っておけばよかった……)
 トイレに行きそびれた時の定番の公開と共に、手のひらがそっとジーンズの上から下腹部を押さえる。
 少女の秘密のディーポットになみなみと注がれたホットレモンティが、スニーカーの靴底でも吸収しきれない振動に伴って、たぷっ、たぷんっ、と水面を揺らし続けていた。
 強弱を伴って寄せる尿意の波に、足の付け根がむず痒く痺れてゆく。しかし往来で前押さえなどできるはずもなく、明日香は小さく揺れ動く腰を隠すように、控えめな動作でそっとおなかを撫でるのが精いっぱいだ。
「……も、少し…っ」
 最後の横断歩道を渡る。家までは残すところ直線200m弱。わずかグラウンド一周の距離だ。
 ちょっと散歩のつもりで出かけた先、立ち寄った本屋で目にとめた小説をついつい立ち読みをしてしまい、気付けば1時間。
 店員さんの目が厳しくなっているのに気付いて、慌てて小説を手にレジに並んで会計を済ませようとしたところで、お財布を持っていないことに気付いたのが15分ほど前のことだ。
 その時、明日香は割と強めの尿意を――会計を済ませたらオシッコしていこう、と思うくらいには――感じていたのだが、流石にそのまま店員さんの視線を背中に浴びながら、小説をもとの売り場に戻してトイレを借りれるほど、明日香はずぶとい神経はしていない。
 赤くなった頬を擦りながら、気まずい雰囲気を誤魔化すようにして愛想笑いを浮かべ、明日香は一目散に書店を後にしていた。
 いまさらながらに自分のやらかしたドジを改めて思い返し、少女は背中の汗を感じ、軽く火照った気のする顔を小さく振る。
「ぅー……あれはたまたまで、別に買わないつもりだったわけじゃなくて、なんというか……運が悪かったというか……ああもう、あれじゃしばらくあの本屋さん行けないかな……」
 自分に言い訳しながらの呟きは、尿意を紛らわせるためのものでもあった。
 良く似た家の立ち並ぶ住宅地の中、ようやく我が家が見えてくる。明日香は残り50mの距離を、リレーの選手にでも選ばれそうなくらいの見事なスピードで走り抜け、玄関へと駆け寄った。
 ドアに手をかけると同時に声をあげ――
「ただいまー……って!?」
 重く、硬い手応えに思わずつんのめりそうになる。
「あ、あれ? 誰もいないの?」
 困惑と共に二度、三度。ドアノブを引いてみるものの、玄関は硬く施錠され、明日香の前に立ちはだかっていた。
 出かける時には母と妹が家にいたはずなのだ。数度インターホンを鳴らすも反応はなく、家が無人であることはますます疑いようがなくなってゆく。
「ママも京香も出掛けてるのかな……」
 この時間なら二人とも家にいるはずなのだが――そう思い、仕方なしにポケットを探り掛けて、明日香は気付く。
「あ……そうだ、鍵……」
 普段、明日香は家の鍵をお財布の中に入れている。その財布を、今日は持たないままに出かけてきてしまっていた。
 つまり。玄関を開けるための手段を、明日香は持っていない。
 それは取りも直さず、家のトイレに入れないことを意味していた。
「ぁ……ぅ……っ」
 『おうちまでの我慢』――そう思って帰ってきたのに、トイレに入れない。
 それを認識すると同時、ぞわぞわと下腹部で排泄欲求が活性化を始める。思わず小さく声を上げて身を揺すってしまい、明日香は小さく顔を赤くした。
「ね、ねえ、ホントに誰もいないの……?」
 ぽつりとつぶやき、二度、三度とインターホンを押し、ドアを強くノックする。
 しかし、やはり何も反応はない。誰かいるのならば物音くらいしていいはずなのだが、その気配すら感じられなかった。小刻みに玄関前で足を踏み鳴らし、明日香は戸惑うように視線をあたりに巡らせる。
 何度ポケットを探っても、鍵の入った財布は見つからない。締め出されてしまったことは明白だった。
「せっかく、戻ってきたのに――」
 少女の声に、わずかな焦りがにじむ。
 玄関を開け、靴を脱いだら真っ直ぐに飛び込む筈だった家のトイレ――オシッコのできる場所は、硬く施錠されたドアの向こうに隔離されてしまっていた。






■OP/2 開かない家の鍵
※玄関の鉢植えを調べるなどして発生。

「うー……参ったなあ……」
 脚の付け根の小さな出口を刺激するむず痒い尿意を覚えながら、明日香は玄関の前に立ち尽くす。
 まさかちょっと散歩するだけのつもりの外出で、締め出されるとは思っていなかったのだ。確かに、立ち読みでずいぶん時間を過ごしてしまったが……
 休日は大体、午前中に部活を終えた妹が部屋でごろごろしているか、昼のドラマかバラエティーを見ながら台所でお茶を飲んでいる母がいるかなので、すっかり鍵は空いているものだと思い込んでいたのだ。
 もっとも、いつまでに帰ると告げたわけでもなく、留守にしていたところで明日香がきちんと鍵を持って出ていれば済んだ話で、こればかりは二人を強く責めるわけにもいかないだろう。
 しかし、少女の下腹部の事情はそれを考慮してくれるはずもない。
「んっ……」
 こみ上げてくる尿意に脚を揃え、明日香は揃えた脚を擦り合わせるようにくねらせ、小さく息をこぼす。
 せっかくできる筈だったオシッコの、思いもよらぬ『おあずけ』に、明日香の排泄器官は強い不満を訴えていた。揺れる腰に合わせてたぷんっ、と音を立てる下腹部をかばうようにしながら、ひとまず強い尿意をやり過ごす。
「……えっと……確か、合鍵が……あった、よね……?」
 ずっと昔、母親から聞かされていたおぼろげな記憶を頼りに、明日香は玄関の脇へと回った。
 小さい頃――まだ、明日香や妹が家の鍵を持たせてもらえなかった頃に、もし家族が留守にしていても家に入れるようにと、合鍵が隠してあるのを教わった覚えがあったのだ。
 しかしなにしろ、聞いたのはまだ小学校に上がる前のことだ。遥か昔のあやふやな記憶は頼りなく、明日香は玄関のまわりを手当たりしだいに探しはじめる。
 植木鉢の下、玄関マットの裏、郵便受けの中と思いつくままに辺りを探し回り――しばし。
「ぅ……無い……?」
 覚え違いをしているのか、あるいは母親が置き場所を変えたのか。
 なんとなく、その後に別の場所を教えられたような覚えもあるのだが、どうせ普段はお財布持ってるし、どうでもいいや……とばかりにほとんど聞き流してしまったようで、記憶を探ろうにも曖昧極まりない。
「こっち……? でも、こんなとこにあるのかな……?」
 さらにその後、うろうろと玄関前を歩き回ってみたものの、求めるものは見つからず。
 結局10分ほどの時間を無駄にしただけで、捜索は徒労に終わった。
(……あ……やば……かなり、したくなってきちゃった……)
 時間の経過とともに、訴えを強める下腹部をそっと撫で、とんとんと庭の土の上にスニーカーの爪先を押し付けて、明日香は何度も周りを見回す。
 まだ肌寒い季節、日陰になっている庭を歩きまわって、身体はだいぶ冷えてしまっていた。
 ぶるる、と背筋を震わせ、同時に下腹部で波打つホットレモンティを、太腿の内側にきつく力をこめて押さえこみ、さらにその上から手のひらを押し当てる。
 通りからは見えない分、我慢の仕草も幾分大胆だ。
「やっぱ、ダメかな……」
 もぞもぞと呟きながら玄関に戻った明日香は、未練がましくもう一度だけ、植木鉢の下を覗く。
 そこで『さて、種も仕掛けもありません、ちちんぷいぷい……』と、さっきまで影も形も無かった鍵が現れる筈もなく、地面には相変わらず、ダンゴ虫が一匹這っているだけだった。
 まったくもって平和でのどかな日曜の午後。
 明日香は口の中に文句を飲み込みながら、ちらりと家を見上げるように視線をさまよわせる。
 固く閉ざされたドアは、無情にも少女の行く手を阻み続けていた。
(トイレ……)
 先程よりも幾分、切羽詰まった気配と共に。
 少女の切実な訴えは、声になることもなく、消えていった。






■OP/3 繋がらない電話
※OP/2以後、アイテムの携帯電はを使うと発生。

「……もー、はやく出てよ……」
 液晶画面の端で、オレンジに点滅を繰り返すバッテリーにやきもきしながら、明日香は愚痴をこぼした。
 ポケットに携帯だけは入れておいたのはせめてもの幸運だったと言えるだろう。しかし、締め出されたことに文句を言おうと母親に電話をかけているのだが、接続が悪いのかなかなかうまくいかない。
 繰り返されるコールと、すぐ留守番電話サービスに繋がろうとする通話の仕様に苛々しているうち、バッテリーの目盛りはみるみる心許なくなってゆく。
「あんまり電池ないんだから……はやく……!」
 次第に強まる足踏みは、苛立ちだけが原因ではない。いまのところ玄関前でうろつく少女を不審に思う者はいないようだが、このままじっとここで待っているわけにもいかないのだ。
 10回近い留守番電話サービスとの戦いの末、ようやく向こうにのんびりとした母親の声が聞こえてくる。
『あら、どうしたの、明日香』
「繋がった!! もしもしお母さんっ? ねえ、今どこ?」
『え、どこってデパートよ。新倉の』
 息急いて尋ねた明日香に、母が告げたのは郊外の大きなショッピングモールの名前だった。都市計画の再開発で先ごろオープンしたばかりで、テナントには大型量販店も多く名を連ねている。
 お洒落なカフェやレストランも多く、明日香も何度か友人たちと出掛けたことがあった。
 だが。今はそんなことよりも重要なことがあった。ショッピングモールは川を隔てた隣の市にあり、電車でも一駅の距離なのである。
 近所に買い物に行っているとばかり思っていた明日香は、母が思いのほか遠い場所にいることに驚きを隠せない。
「新倉って……なんでそんなとこにいるの!?」
『ええ? しょうがないじゃないの。買い物よ』
 母にしてみれば少し脚を伸ばしたくらいのつもりなのだろう――車でも急いで20分という距離は、明日香の現況に照らし合わせてみればゆゆしき問題であった。
「玄関、鍵かかっちゃってるんだけどっ」
『ええ? ヘンね、京香に留守番頼んでたんだけど……やあねえ、どこか行っちゃったのかしら、あの子まで。……え? あらやだぁ、そんなんじゃないわ、娘よぉ』
 突然会話が遠くなる。明日香は焦って、受話器に呼びかけた。
「お母さん? ねえ、お母さんってばっ!!」
『ああ、はいはい……ごめんなさいねえ、ちょっと……それで、なにか用事?』
「なにかって……だから家の鍵!! 入れないんだってばっ!!」
『なあに、明日香、あなた鍵持ってなかったの?』
「出てく時にすぐ帰るっていったじゃないっ。お母さんも家にいるって言ってたし……!! 勝手にでかけちゃったのそっちなのに……合鍵とかどこかにないの!?」
『やあねぇ……そんなのもう置いてないわよ。無用心じゃない』
 切実な明日香の訴えは、しかしあっさりと切り捨てられる。
 要するに。今すぐに玄関が開け放たれることはない、というのが確定しただけだった。
 まったくこちらの窮状を察してくれない母親に、明日香はとうとう声を荒げてしまった。
「だからーっ、そんな悠長なことじゃなくてさぁ……どうすればいいの?」
『どうすればって、しょうがないわねぇ、ちょっと表で時間潰しててよ。お母さんもすぐには帰れないもの』
「え、やだやだ待って!? お母さんっ、ねえ、そんな……」
『あらやだごめんなさいねえ。……うん。……じゃあね、お母さん夕飯までには戻るから』
「ちょっ……」
 何か抗弁を挟むよりも早く、通話が切れる。
 明日香はしばし呆然としてしまった。
「な、なによそれーーっ!!」
 さしもの忍耐ももう限界だった。怒りとともに再ダイヤルを試みるが、今度は通話が通じない。録音音声の『おかけになった電話は……』のフレーズに、明日香はしばし憤って足を踏み鳴らしたのち、がっくりと肩を落とす。
「うぅー……なによぉ……勝手すぎない?」
 恨めしげに玄関を見上げる明日香。
 電話の向こうの様子では、母は友達か同窓生とでも一緒に遊んでいるようだった。ああなると本当に夕ご飯までに帰ってくるかどうかも怪しい。母親を呼び戻して玄関を開けてもらう、というのはそもそも不可能に思われた。
「京香は……」
 妹の携帯を呼んでみるものの、こちらは最初からまるで応答なし。
「なによ……二人して勝手なんだからっ」
 明日香は苛立ちのまま、かつん、と玄関の塀を軽く蹴った。その衝撃はおなかの中に響いて、恥ずかしい液体の溜まった場所を揺する。たぷん、と揺れる下腹部の恥ずかしい液体の感覚に、否が応でも尿意を自覚させられ、少女は眉を下げる。
 徐々に高まる欲求は、少女の内側で少しずつ、膨らんでゆく。






■OP/4 庭に侵入
※OP/2以後、玄関から中庭に入ると発生。

「こっちのカギは、開いてたりしない……かなぁ……」
 こんなことをしている暇があるなら、早く他のトイレを探せと、下腹部が明日香を急き立てる。頭の冷静な部分ではその方が賢明だと理解品がらも、明日香は未練がましくいまだに家の前を歩きまわっていた。
 しかし、手近なトイレと言っても近くにコンビニやデパートは少なく、そこまで歩いていくのは気が進まない。
 まして、このドア一枚隔てた奥にはちゃんとしたトイレがあるのだから、尿意が強ければかえって、無駄と分かってはいても後ろ髪を引かれてしまうのは仕方がないだろう。
 そう自分に言い訳し、わずかな期待を込めて、明日香は玄関から庭の方へと回ってみることにした。
 どうにも話を聞いている限り、最後に家を出たのは妹の京香らしい。となれば、もしかしたら鍵をかけ忘れているかもしれないという一縷の望みだったのだが――
「……あぅ……」
 キッチン横の勝手口は、やはり重い手ごたえを返してきた。これで、家に入る方法はほぼ断たれたといっていい。
 こういうときだけは期待を裏切らない妹に、心の中で文句を付け加える。
(なによ、いつもは適当なくせに……こんな時だけしっかりしちゃって……ああもうっ)
 さして期待をしていたつもりもなかったのだが、改めて家の中に入れないということがわかると、下腹部を占める液体の重さがずん、と一回り大きくなったようにも感じられた。そわそわと太腿を擦り合わせながら、ズボンのおしりの側をそっと押さえ、明日香は小さく身をよじる。
 ジーンズのデニム地の奥で、少女の恥ずかしい液体がたぷっ、と音を立てる。
 明日香はそのままゆっくりと庭に回り、芝生と花壇に面した縁側のガラス戸も順に調べてみるが、残念なことにこちらにもしっかりと鍵がかかっていた。
 雨戸こそ閉まってはいないものの、レースのカーテンがしっかりと引かれ、家の中の様子はほとんど窺うことができない。
「……ねえ、ほんとに誰かいないの……?」
 こつこつ、とガラス戸を叩き、カーテンの隙間を覗き込む明日香。
 今家の中にいるとしたらせいぜい、水槽の中を泳いでいる熱帯魚ぐらいのものだが――もちろん彼らが水を這い出してきて窓を開けてくれることがないのは、さすがに明日香も理解している。
 だが、返事がないとわかってはいても、何かにすがりたいような心細い気持が膨らんでゆく。
 その原因は、下腹部で次第に強まってゆく尿意のせいだった。
 本音を言えば、もう我慢したくない。まっすぐにトイレに駆け込んでオシッコを済ませてしまいたい。その程度には、明日香の尿意は切迫していたのだ。
 もし、妹か誰かが家の中に残っていて、鍵を開けてくれれば――いや、この窓を破る方法があれば、すぐにでもトイレに駆け込むことができるのに。
 窓のカーテンの向こう。リビングの先にある廊下の突き当たり。鍵をかけた清潔な小さな個室の中で、白いトイレにまたがり、脚の付け根から思い切りオシッコをほとばしらせている自分の姿を、明日香はつい思い描いてしまい、たまらず腰を左右にくねらせてしまう。
 いっそ本気で、窓を割ってしまおうか。
 そんな乱暴な発想が、ちらりとでも頭をよぎるほど、明日香は余裕をなくしていたのだ。
「んぅ……っ」
 しかし、そんなものは夢想にすぎない。
 このままここに居ても、おしっこを済ませることは不可能だ。それははっきりとわかっていた。何度確かめてもドアも窓も硬く閉ざされ、鍵は一つも開いていない。
 家の鍵はお財布に納めたまま2階の部屋の机の上。いまや完全な密室なのだ。
(トイレ……、オシッコ、行きたいよぉ……っ)
 カーテンを重ねるガラス戸を恨めしげに見上げて、このままじっと見つめてたら穴があいたり、通り抜けたりできないかなどと夢のようなことを想像して。
 明日香は、どうしても諦めきれないまま、なおもしばらくそこに立ち尽くしていた。



 (初出:書き下ろし)
[ 2012/02/17 23:58 ] 永久我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

河川敷の運動会・7 

 大混雑の仮設トイレは、男子トイレの一部を女子用に開放してもますます順番待ちの列を伸ばし、故障の続く個室は次々とタンクを一杯にして汚水を溢れさせて使用不能。せっかく並び続けた列から弾き出られた少女の中には、我慢に耐えかねてそのままその場でオモラシを始めてしまう者も少なくない。
 会場外最寄りのトイレまではどんなに急いでも15分。しかも尿意の大波を乗り越えるので精いっぱいの少女達の足取りは重く、とてもそんな距離を歩くこともできない。挙句、そのトイレすらも詰めかけた少女達で少なくない順番待ちの行列ができている。
 事務棟横のトイレすら、低学年の少女達を受け入れるのだけで処理能力の限界を越えつつあり、詰めかける順番待ちのせいで個室のドアは閉じられる余裕すらなく、少女達は個室のドアを開けたまま、丸見えの状態で洋式便器に腰かけて、オシッコを済ませると言う事態に陥っていた。
 朝から我慢を強いられた選手たちも次々と限界を迎え、トイレを求める少女達の数は増える一方だ。午前中に運よくトイレに入ることができた少女達も、時間の経過と共に再びその乙女のダムの貯水量は増してゆく。健康的な少女の循環器は、通常ならば3時間ほどの経過で、尿意を覚えるのに十分な量のオシッコを膀胱に注ぎ込み、一度はからっぽにした筈の乙女の水風船を、再び大きく膨らませてしまう。
 昼休憩のお弁当に合わせたお茶や、競技参加後に摂取したスポーツドリンクなどによって、その増加量はさらに増し、はやばやと激しく腰をモジ付かせてしまう者も出始めていた。
 一度は尿意から解放された彼女達までもが二回目の排泄を訴え、再びオシッコのできる場所を探してあちこちを彷徨う『おトイレ難民』の列に加わってゆく。
 もはや、河川敷のグラウンドを舞台とした町内会の運動会は、末期的な状況となりつつあることは明白だった。
 しかし、それに対する具体的、画期的な解決策は、ついぞ運営側から示されることはなく、事態は終局に向けてますます混迷を極め、渾沌と煮詰まってゆくことになる。




 本来、昼休憩をはさんで午後の山場となるはずだった障害物競走の決勝戦が、実質『オシッコ我慢競走』となってしまた事からもその一端がうかがえるだろう。
 競技は第1から第8までのレーンに、各グループに分かれた走者が並んで行われた。走者は第1からやはり第8までであり、参加者は合計64名となる。
 後に判明することとなり、事態に疎かった関係者を驚かせたのだが――この参加者64名のうち、競技以前に一度でもトイレを済ませてからスタートラインに立った少女はわずか2人だけだった。
 この2名すら、トイレに入ったのは朝の9時と10時半。競技の行われた午後2時40分と言う時間から見れば、二度目の尿意を催してもまったくおかしくない時間が経過している。
 競技の直前、選手たちから運営スタッフに対してトイレの訴えがあった事は、複数の証言で確認されているが、運営側はプログラムの遅れを理由にこれを拒否。かくして走者のほとんどが、ほぼ限界に近い状態の尿意を感じたまま競技に臨み、競技は開始された。
 プログラムは既にこの時点で1時間弱の遅れを見せており、運営としても無視できないものだったようだが――いかなる理由があったとしても、擁護は難しいだろう。後の反省会では『どうせ漏らしてしまうなら、この時点で延期していても一緒だ』という暴論極まりないコメントが苦し紛れの運営側から出され、物議をかもした。


 ――話を戻そう。
 ともかくも、少女達が耐え難い尿意に身をよじる中、競技は開始される。
 それでも始めのうち、混乱はあれども競技は進んでいった。第1、第2走者の中にはゴール直後、うずくまって脚の付け根を押さえ込んだり、座り込んだ踵を股間に押し付けてぐりぐりと身をよじり始めてしまう選手が出るほど。
 中にはスパッツを薄く黄色に染めてしまうほどの大胆な『おチビり』――もはやオモラシと呼んだ方が早いような粗相をしてしまう少女もいたが――それらの出来事は、その後に起きた衝撃的な光景から比べれば、まだまだ何も起きていないに等しい程度のものだ。
 しかし第3走者のグループでは早々と、コースの前半のネットくぐりの際に屈んだまま、オモラシを始めてしまう少女が出てしまった。
 ちょうど四つん這いになってネットを潜る姿勢は、我慢の限界状態においてはあまりにも『イケナイ』刺激を、少女の股間部分に与えたのだろう。
 ブルマを勢いよく突き抜けさせた水流がコースを直撃し、大きな水たまりを広げていく様は、少女の悲痛な叫びと共に、屈辱と絶望に彩られた瞬間となった。幸いにして、オモラシの瞬間そのもの当事者の少女と、すぐ隣を走っていた選手以外には気付かれなかったのだが――それが却ってあとの悲劇を生んでしまう。
 続く第4走者、第5走者にも、レース中にオモラシを始めてしまうものが出た。直接的な原因は競技のいくつかが下腹部に負担のかかる動作を強いるものだったことが挙げられるが、その多くが第3走者の少女のオモラシ現場のすぐ近くで頻発した事はただの偶然では片付けられない。
 特設グラウンドを大きく一周する、コースの中央にできた水たまり。
 それが何なのか、運営スタッフや観客たちのいる場所からでは分からずとも、選手として競技に参加し、近くを通ればその匂いや、泡立った水たまりの縁や、深くえぐられた地面の泥が、嫌でもその水たまりの『正体』を囁いてくる。
 はち切れんばかりの尿意を恥骨上のダムに抱え込み、体操服の下腹部をみっともなくせり出させて懸命に競技を続けようとする少女たちにとって、直径1m近い水たまりは、なにものにも勝る強大な『障害物』だったに違いないのだ。
 『そこ』で誰かがオシッコをした証拠は、限界ギリギリのところで耐え続けてきた少女達の我慢を容易く突き崩し、崩壊へと導いた。
 『他の子もしてるんだし、私もここで……』そんな些細な誘惑。普段の状況なら、考える事もなく思考の端をかすめるだけの想像も、膨大な『おトイレ難民』に溢れる河川敷のグラウンドにおいては、十分以上に、耐え難い誘惑となって少女達を襲ったのだ。
 こうまでも少女達の我慢の崩壊、オモラシが続いたのは、この障害物競走自体が予定よりも遥かに進行が遅れた事も原因の一端である。すでに限界寸前のオシッコ我慢の状態にある少女たちが、飛ぶようにコースを駆け抜け、素早く障害物をくぐり抜けてゴールできるはずもなく、レースごとのタイムは予定の3倍以上を要した。
 最下位の選手に至っては、わずか一周400mのグラウンドを走り切ることができずにリタイアした者や、ゴール手前で我慢できずコースを大きく外れて、記録所の機材の物陰で下着を下ろし、オシッコを始めようとする少女まで出る始末だったのである。
 そんな有様では、ただでさえ激しい我慢を続けている後ろの走者の選手たちが、ますます下腹部の切なる訴えに晒されるのは当然であり、彼女達を襲う凶暴な尿意は、もはや拷問と言っていいレベルにまで達していた。
 さらに走者があとに下ると、コースの途中で深く座り込んでしまい、みるみる大きな水たまりを広げたその中心で動けなくなる者、がくがくと腰を揺すり、内股になった脚をくねくねと擦り合わせながらも懸命に進もうとして、前屈みのまま剥き出しの脚に水流を溢れさせてしまう者。ゴールを見据えながらも前のめりに倒れ込んでしまい、足元に猛烈な勢いで羞恥の熱水を噴射させてしまう者。
 次々と繰り広げられる我慢と限界の綱引きの果ての、盛大なオシッコの排泄シーンは、まるでこの競技がもともとそういう類の、オシッコ我慢力を競うためのものだったのかと錯覚させるほどだった。
 第6走者グループでの、跳び箱上・着地直後での3連続連鎖オモラシ・スプラッシュ。
 第7走者グループでの、スタート地点での4人による同時限界オモラシ・“ジェットションベン”(命名:○○小学校△年×組男子生徒)でのスタートライン大洪水事故と、圧巻のシーンが続く中、何よりも衝撃的な展開となったのは最終、第8走者のグループだった。
 それまでの競技中の連続オモラシによって、少女達のオシッコによってびしょ濡れになったコースを前に、参加した選手8人は、明らかに『誘われて』おり、一目見て限界と分かるほどに激しく我慢をしているのが明白な状況だった。
 身体を折り曲げ、両手を揃えて股間に押し当てがっちりとブルマを掴み上げている者、まるで行進のように高く脚を上げてその場足踏みを繰り返す者、背中に回した手をぎゅっとお尻の方から脚の付け根に押し当て、爪先立ちで小刻みに震えている者、しゃがみ込んだ踵を股間に押し付け、ひっきりなしに身体を揺すっている者、レース前からその異常さは際立ち、レースに臨む全員が第7走者のように、スタートの号砲とともにその場にオシッコを出し始めてしまってもおかしくない状況に思われた。
 しかし、そんな周囲の予想を裏切って、第8走者の少女達は懸命に走った。もはや歩いているよりも遅いほどののろのろ歩きで、前屈みになった亀のような進みで、形振り構わず股間を握り締め、内股の脚を動かし、太腿を擦り合わせ、何度もしゃがみ込んでは腰をよじり、ぴょんぴょんっと飛び跳ね――全身を強張らせて硬直し、猛烈な尿意の波に耐えながら。
 それでも彼女達は、幾多の障害物を踏破し、進んだのだ。
 そのときの彼女達の胸中は窺うべくもない。乙女のプライド、繊細な羞恥心のなせる偉業。あるいは、せめて自分たちだけは我慢しようという、競技に惨敗して無残な姿を晒した同じ選手同士の連帯感のようなものか。
 たとえゴールしたその先に、トイレはなく。
 そこからさらに、延々と――長蛇の列に並ばなければならないのだと分かっていても。彼女達は視力を尽くして耐え、また走った。
 四つん這いになって進まねばならないネットくぐりも、着地の衝撃で膨らみ切った膀胱を激しく掻き回される跳び箱も、もろく引きつった排泄孔に猛烈な水圧を感じさせられたタイヤ運びも――恐らく最大の障害であった、コース中央にできたオモラシ水たまりの誘惑にも耐えきって。
 最後の競技者となった8人の走者は、ほとんど差もないまま、ほぼ同時にラストの難関である平均台へとさしかかる。
 そして、そこがこの競技のクライマックスとなった。
 まっすぐ立つ事も難しいほどの猛烈な尿意、手を離していては勝手に開き始めてしまいそうな、体操服の奥の排泄孔。そんな状況で、8人の選手たちはそれでも懸命に平均台を渡ろうと足を踏み出し――その中央で、一斉に限界を迎えたのだ。
 幅15センチの平均台の上では、倒れないように前屈みの姿勢を正し、脚を真っ直ぐに踏み出し、太腿を寄せ合ったり膝を擦り合わせたりすることは不可能だ。さらに、バランスをとるため左右の手を大きく広げなければならず、脚の付け根を押さえる事もできない。真っ直ぐ歩く事は難しく、視線も大きく前を見て。
 まるで、聖女が磔にされるかのごとく。
 手を大きく十字架のように広げ、ゴールを見据えて――
 それでも、そこに真の意味での救いがないことは、競技場の端まで伸び切った仮設トイレ順番待ちの大行列が、ちょうどゴールテープの向こうに見えていることで明らかだった。
 そんな、苦境に殉教するかのごとく。
 長い長い果てしない、平均台の道を進み続ける少女達の股間から、隠す事もできないほどの猛烈な水流が、四方に滝のように噴き出した。
 股間を握り押さえていればそこにぶつかって勢いを殺され、しゅうしゅうと脚を伝い落ちるだろう羞恥の噴出は、しかしなにも遮ることができない競技場のコースの上、競技に殉ずる乙女たちの下半身を凄まじい勢いで吹き上がり、一瞬で下半身をずぶ濡れにして、平均台の上にコースの上に迸った。
 もはやなすすべなく、羞恥と屈辱に顔をゆがませ、耳まで赤く染めて。それでも俯く事は許されず。
 競技の最中、何百という視線の晒し物にされたまま、羞恥のオモラシで下半身をびしょびしょにし、なおも激しくオシッコを迸らせ続ける8人の少女たちの姿は、観衆の中にも深く、深く刻み込まれていったのである。



 (初出:書き下ろし)
[ 2012/02/17 23:48 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

河川敷の運動会・6 


「うわ……混んでる……」
 仮設トイレ前の混雑を目にし、真紀は思わず声を上げてしまった。
 真紀は選手としてではなく、放送委員として大会の運営に関わっていた。運動会ということで体操服にこそ着替えているが、その実質は肩に羽織ったジャージの腕章が示す通り、裏方である。
 市内の町内会が対抗する大会だけにその規模は大きく、下っ端の真紀も朝からあれこれと走りまわっていた。開始から3時間、ようやく時間を作ってやってきたというのに――トイレはとてもではないが並んでいられそうもないほどの大行列だったのである。
 それは、単純な尿意だけの問題ではない。確かに朝から一度もトイレには行けていないが、流石にそれくらいで漏れそうになってしまうほど、真紀も我慢ができないわけでない。
「どうしよう……10分で戻らなきゃいけないのに」
 問題は、大会役員としての時間の制約だった。放送委員の真紀は、大会の実況を担当していた。その出番がすぐ目前に迫っているのだ。
「……無理……だよね……」
 確認するように視線を巡らせる真紀の運動靴の爪先が、グラウンドの地面を擦る。
 ずらりと並んだ列は、どう控えめに見ても一番後ろに並んだ自分の番が回ってくるまで30分近くが必要となりそうだった。忙しい中、無理を言って抜け出してきた身としては許容できない時間である。
 困惑している真紀を余所に、トイレの行列には次々と選手や観客たちが並んでゆく。みるみるうちに伸びてゆくトイレまでの距離を目の当たりに、真紀は思わず足踏みを強くしてしまう。
 それは、真紀の思い込みというわけではないようで、
「……ねえ、こんなの待ってられないよ……。あっち行ってようか?」
「うん……でも、あんまり離れすぎちゃうと戻って来れないかもしれないし」
 真紀たちのほかにも、この光景に戸惑う少女たちの姿はちらほらと見受けられた。
 不安げな顔でやってきた少女たちが、仮設トイレ前の行列を見て落胆した表情を見せ、なにかを囁き交わしながら来た道を戻ってゆく。
 彼女たちの目的が真紀同じだとするなら、この近くにトイレがないことは明白であった。
(……並ぶなら早くしなきゃ……でも……)
 制服のスカートを押さえ、真紀は躊躇う。
 プログラムの進みが思ったよりも遅れていて、リレーの予選が11時を超えてしまいそうなのだ。勢い進行には『巻き』が入り、運営側の負担は一層重いものとなっていた。プログラムの遅れを取り戻すため、予定の変更や案内などが多く指示されている。それを誤りなく連絡するのも、真紀の仕事だった。
 他の委員の子たちに迷惑はかけられない。そう分かっていても、諦めて戻る気にもなれないという二律背反。困惑が巻きの足をその場に縫い止めていた。
「どうしよう……」
 トイレに行けない。その事実がはっきり目の前に突きつけられることで、かえって尿意は強く感じられる気までしてくる。さっきまでそんなに辛くはなかったはずの尿意は、一気に強さを増し、真紀はそわそわと落ち着きのなくなった爪先をぐりぐりと芝生に押し付ける。
 じっとしていても辛いだけだった。
「……並ぶだけでも、しておこうかな……。ひょとしたら、すぐ順番、回ってくるかもしれないし……」
 自分で口にして、空々しい希望だと言うのはわかっていた。しかし敢えて無駄な事をしているという事実から目をそらし、真紀は小走りに、行列の後ろへと走り寄る。
 もしかしたら、トイレができるかもしれない――。そのわずかな希望に縋って。
 わずか10分足らずの間に目の前数十メートルにわたる大混雑が解消する可能性は限りなく0に近かったが、並ばなければ確実な0だ。
 限りなく結末の見えた時間であるとしても、たとえかりそめであろうとも、恐らく午前中最後となるだろうこの休憩時間を『ひょっとしたら、オシッコが間に合うかもしれない』という期待で心を慰めることができるだけ、マシに思えたのだ。
「……ん……っ」
 他のトイレを探そうにも、10分で見つかるかどうかは分からない。かりに見つけたとして、そこもここと同じように大行列になっている可能性が高かった。……いや、ほぼ確実といっていいだろう。大会委員でもある真紀は、この河川敷のグラウンドにトイレが乏しいことを、他の参加者たちよりも遥かに詳しく知っていた。
 だから、真紀はこの列に並ぶ。恐らく10分後、辛い尿意をこらえ、後ろ髪を引かれる思いでほんのいくらか前に進んだ順番待ちの列を離れ、大会本部の放送席に戻らなければならないことを予測しながら。
 離脱前提、トイレに入って用足しする事は不可能な、トイレの順番待ち――あまりにも空しい我慢の時間が、始まった。




 瞬く間に10分が過ぎた。
 嘘のように列がはけ、まるでモーゼの十戒のように人混みが割れて、奇跡的に真紀の前にトイレへの道ができる――なんて事はもちろん起きる筈もなく。
 真紀はますます重苦しく張りつめた下腹部を抱えたまま、大会運営のテントへと戻っていた。
(……んっ……やっぱり、けっこう、したいかも……っ)
 もぞもぞと動き出してしまう太腿をぎゅっと寄せ合わせ、次のプログラムの放送内容を確認する。運営のテントには忙しなくスタッフが詰めかけて、次から次へと発生するトラブルへの対応に追われていた。
 例年恒例の運動会とはいえ、やはり急遽場所を変更しての開催にはいろいろと見えない無理が生じていたようで、大会会場の各地では大小様々な問題が起きていた。目下真紀が一番の懸案としているトイレのほかにも、入場退場に使う待合広場が狭く、プログラムの進行が遅れ始めていること、放送機材の一部がうまく機能しておらず、アナウンスが会場全体に届かないこと、連絡に使うレシーバーの周波域の問題で通信もうまくいかず、スタッフ間の連絡がもっぱら直接の伝言ゲームになってしまっていること、etc。
「……大変そうだね」
「うん」
 テントで声を荒げている大人たちを見やり、真紀は近くの放送委員の子たちと囁き交わす。
 真紀は学校の放送委員として、学外活動の一環で参加しているが、その立場はあくまで協力者、悪く言えば『お客さん』的な扱いであり、本格的な運営はあくまで町内会の大人たちによるものだ。
 そのため、様々な問題については蚊帳の外であり、他の参加者と同じように適当に文句も言える、ある意味で気楽な立場だとも言えた。
 しかし――
(トイレだけは、別だよっ……)
 真紀も、他の少女たちにとってもそれは何よりも重大な関心事であり、他の事を後回しにしても早急に解決しなければならない問題の筈だった。
 結局、真紀は時間ぎりぎりまで並ぶのを諦め、順番待ちの列が数人進んだところでトイレを後にしたのである。
 およそ5分の順番待ちで前に進んだのはわずか3人分。列には既にどう少なく見積もっても20人以上が並んでおり、単純計算でも30分近くかかることが予想できた。
「……大丈夫かな……」
 じん、と腰に響くむず痒さを紛らわすように脚の付け根に力を込め、真紀は小さく吐息する。深呼吸と共に下腹奥に詰まった恥ずかしい熱水の存在感ははっきりと感じられ、時間と共に高まる水圧が乙女の水風船を大きく膨らませ続けているのが、手のひら越しにもはっきりとわかる。
「ほら、そこの二人!! お喋りはやめて放送の準備して!!」
「あ、はいっ」
 他の放送委員にせかせれ、真紀は慌てて作業に戻る。
 そんな真紀の『大丈夫』には二つの意味があった。
 ひとつは、あのトイレの大行列は、そのうちなんとか解決するのだろうかという不安。
 もうひとつは、自分自身の我慢の問題だ。
 気楽な立場の外部協力者とは言え、建前上は真紀も運営のスタッフである。選手や応援として参加している少女達に比べれば、さまざまな雑務で大会本部周辺に拘束される時間はずっと長い。
 観客であれば言うに及ばず、たとえ選手であったとしても、よほど多くの競技に片っぱしからエントリーしているのでもなければ、気の向いた時にトイレに向かうことができるはずだった。
 しかし、真紀はそうはいかない。大会の時間の大半は運営のテントに詰めていなければならず、抜け出す事は難しい。先刻の10分休憩すら、他の委員の子に無理を言って作ってもらった貴重な自由時間なのだ。
 次にトイレに行けるのは、最短でも2時間後。昼の休憩になるだろう。
 その時まで我慢できるだろうか――時間の経過と共にますます強まる下腹部の切実な訴えに、真紀は不安と共に下腹をさすりながら、アナウンスを始めるのだった。




 『もしも』を論じるのならば。
 たとえ、『お客さん』の立場であったとしても――真紀はこの時、仮設女子トイレの混雑について、運営の大人たちに強く訴えるべきだった。思春期の少女達にとってトイレの話題は人前では避けるべき恥ずかしいものであるとしても、この時点で、運営スタッフの中で女子トイレの大行列を把握していたのは、真紀を含む放送委員の少女達数名だけだったのだ。
 少女達に比べてずっと我慢も強く、いざという時の思い切りや対応力のある大人たちにとっては、多少トイレが混雑したくらいのことは、他に山積する問題に比べれば些細なものにしかすぎず、ほとんどトラブルとしては認識されていなかった。
 運営に当たるスタッフの主メンバーが、壮年から年配の男性がほとんどだった事も災いした。人前で口にしにくいトイレの問題を、年上の、あまり面識もない男性に対して言い出すことへの心理的なハードルは相当なものだ。
 それでも、勇気を出した少女がいなかったわけではない。
 真紀のほかにも、女子トイレの混雑を問題視した少女はおり(その理由は特に、彼女が真紀よりも数段、我慢が切羽詰まっていたからでもあるが)、彼女が口籠りながらも恥ずかしさを堪えて懸命に訴えたトイレの大混雑について、彼等はほとんどそのことを聞き流し、『そんなことあと、あと!!』とばかりに、目の前のトラブル、主に通信関連の機材を整えるのに執心するばかりだった。
 違う反応をした男性スタッフもいるにはいたが、彼等も特段の対応をしたわけではなく、実質的に、少女達の貴重な問題報告と切なる訴えは握りつぶされたに等しい。

Q:女子トイレがすごく混んでるんですけど……
A:我慢しなさい!!

 トラブル対応としては、あまりにも理不尽、お粗末なものであろう。
 これらの対応は後に、会場と参加選手・観客に対する圧倒的な女子トイレの不足として、少女達になによりも切迫した危機をもたらす原因となった。
 前代未聞の結果となった大会終了後の反省会――糾弾会とも言うべき場で、運営スタッフはこの不手際について終始、苦しい説明を強いられることになる。
 繰り返しになるが、真紀はこの時、何としても自分の境遇と、女子トイレの混雑解消を強く、運営スタッフに訴えるべきだったのだ。
 会場で『おトイレ難民』となった多くの少女達を救うためだけではなく、なによりも、真紀自身に、この後に訪れてしまう最悪の悲劇を回避するためにも。
(大丈夫、だよね……)
 しかし。この時点で真紀がそんなことを予見できる筈もない。胸中に不安を漠然と思い描きながらも、羞恥のためにはっきりと口にすることはできず、『きっとなんとかしてくれるよね』と大人のスタッフ達を信じて、次の休憩までの時間をじっと辛抱するしかないのだった。




「っ、つ、つっ、つぎ、の、走者は、っ、第一グループが、っ、あ、赤いは、ゼッケン、のっ。ふぁぁあっ……○○学園、2年、のっ、……んぁあっ……さ、沢村、い、一香さんっ、で、でっ、……ぅ……」
 途切れ途切れの放送が、グラウンドに響く。
 放送機材の不調ではない。むしろそれらのトラブルは、午前中に町内会の大人たちが運営スタッフが解決に尽力したため、ほぼ完全に解決していた。
「っ、は、っ、はあ、はあっ、…っくぅ……だ、第三……じゃなかったっ、だ、第二、グループが……んぁああっ、ダメ、だめえぇ……っ」
 にもかかわらず、グラウンドの各所に配置されたスピーカーからは、しきりに何かを擦り、軋ませるようなノイズの混じったアナウンスが続いていた。
 放送を続ける運営のテントに、遠くから観客たちの不審な視線が集まる。
「ッ、し、しつれい、しましたっ。だ、第二、グループ、お、おしが、おしがま、……ち、違うッ、おしがみ、忍上さんっ……!!」
 躊躇いや戸惑い、読み間違え、名前の呼び違え、走者順のチェックミス。ケアレスミスと思しき間違いが続出し、声量も蚊の鳴くような小さな声や、やけくそになったのかと思うほどに乱暴に貼り上げた怒鳴り声に近いものと、まったく安定しない。
 さらにはまるでたったいまどこかを全力疾走してきたのではないかと思わせるほどの息切れと荒い吐息が混じり、時折息を止めるように硬い唾を飲み込む仕草や、椅子を軋ませるほどに激しく身をよじる動作までも聞こえる。
 皮肉なことに、放送機材がトラブルを乗り越えたことで、それらの以上はむしろ必要以上にクリアに、グラウンド全体に届いていた。
「んぁ……ぅ、あっ……は、っ、ふ……い、以上、第三、走者、ですっ……は、はやくっ……はやくしてっ……、もう限界ぃっ……!!」
 原稿の読み上げから、放送が切り替わる直前には、そんな切羽詰まった小さな悲鳴も混じって聞こえる。
 この時点で、よほど鈍い者や、自分の事で精一杯で、回りの事を気にしている余裕などまったくなかった一部の選手や観客たち覗けば、運営スタッフのうち有志による放送委員が何らかのトラブルを抱えているのは明白だった。
「っ、あ……く……」
 放送機材を乗せた机の上、真紀は震える指でレース中の音楽を流すボタンを押し込み、ダイヤルを調節する。手が滑っていきなり大ボリュームになった音量を慌てて戻し、切り忘れていたマイクが『だめ、だめ、もう我慢できないっ』と音声を拾ってしまったのに蒼白になって気付く。 
(や、いやぁあ……っ)
 即座にスイッチを切るものの、今の一言がアナウンスになってグラウンド中に流れてしまったのは間違いなかった。
 パイプ椅子の上、ジャージの股間をきつく抑え込んだ右の手のひらは、すでに20分近くそこから離れていない。伸縮性に富んだ布地は少女が握り締めた股間にぴったりと沿うように引き伸ばされ、真紀の硬く張りつめた下腹部を殊更に強調しているようだった。
「んっ、ふ……くぅ、あっ……んぁあっ……」
 はあはあと肩を上下させ、脚の付け根をしきりに、押し揉み、こねるように指が蠢く。いよいよ天井知らずに高まる尿意が、乙女の水門のすぐ内側を引っ掻いて、一刻も早い解放をと迫っていた。
(で、っ、出る、っ、オシッコでるうぅ、出ちゃう、出ちゃううぅッ……!!)
 暴虐なまでの尿意は、放送席に着いた真紀を執拗に責め苛んでいた。お昼ごろまでは波のように強弱を伴って寄せては返すように押し寄せていた排泄欲求は、もはや電波のような休む事ない連続性を持った衝撃になって、真紀の脚の付け根のダム放水孔へと叩きつけられる。
 必死に股間を握り締め擦る手のひらは、さいごの防波堤だ。
 きつく閉じ合わせて手のひらを挟み込むジャージの、椅子に接触する部分には、すでにはっきりと色を濃く変えている部分もあった。じわ、じわ、と脚の付け根奥でも熱い雫が噴き上がる感覚がはっきりと分かる。
 それでもなお、
(ち、違うの、これは汗っ、暑くて、汗、かいてるだけ……っ)
 必死にそう繰り返し、真紀は『おチビり』の事実を認めようとしなかった。
 強がりや言い訳ではない。認めてしまえばその瞬間に、ダムの崩壊が始まってしまうとわかっていたからだ。他の放送委員の少女達も、机や機材にもたれかかるように手をついて、前かがみになっては脚の付け根をきつく押し揉んでいる子ばかり。みな我慢の限界にさしかかっており、ひとりでちゃんと立てている子は誰もいない。
「ぅ……、くぅ……んあぁあ……っ」
 椅子の上に腰を押しつけ、脚をくねらせ。膨らみ続ける尿意に抵抗するため引き寄せた膝を持ち上げるようにすると、爪先が地面をひっかく。ひとしきり足踏みをしては、えいと掛け声をかけて荷物を持ち上げては、その衝撃でびくぅと背中を反らし、ぐいぐいと脚を交差させて尿意の大波をやりすごしてから歩き出す。
 運営委員からの忙しない指示が飛ぶ中、放送委員の少女達はテントに釘づけにされ、自由に歩き回る事すらできないのだ。




 テントの下は、ちょっとした我慢少女たちの品評会と化していた。
「でちゃう……で、ちゃうよ……っ」
 真紀達が渇望するのは、はるかグラウンドの対角線上。1時間待ちでも順番の回ってこない長蛇の列が待ち受けている、さながら地獄と化した仮設トイレである。
 ――そんな絶望的な状況のトイレに向かうことすら、彼女たちには許されないのだった。
「……んぁ……っ、っは、はぁっ、ぁ……ふっ、ふーっ、ッ、と、トイレ……トイレぇ……っ!! でちゃう……オシッコ……オシッコっ……」
 放送委員を務めるだけあって、クラスメイト達に比べれば言葉遣いには自信のある真紀だが、下腹部を圧迫する猛烈な水圧と、今にも音を上げそうになる乙女の水門が訴える猛烈な排泄欲求に支配され、普段の見る影もない。
 トイレ、おしっこ、でちゃう。少女のあどけない唇から、そんなはしたない言葉を押し出させるばかりだった。
 椅子の上に腰を押し付け、ぎゅうっと手のひらを脚の間に挟み込み。熱を持った股間部分を、体操服の上から何度も擦る。
「ぅぁあぅ……っ、でる、でるぅ……漏れちゃううぅ……っ」
 はしたない呟きを繰り返しながら、少しでも気分を紛らわせようと、グラウンドで続く競技を眺めていた真紀は――ふと、すぐ隣で誰かが大声を上げているのにようやく気付いた。

「美坂さんっ、マイク!! マイク入ってるっ!!」

 同じ放送委員の少女が、必死の形相で叫んでいた。
 極限状況の中で、真紀には周囲の喧騒すら聞こえていなかったのだ。
 懸命に訴える彼女の姿も、我慢に擦り切れた思考では、何のことかわからず、ぼんやりと彼女の指さす先を見て――真紀はようやく理解する。
(あ、れ?)
 ついさっき、切ったはずのマイクのスイッチが、ONになっていた。
 おそらく、次の放送のタイミングを見越して誰かが気を利かせてくれたのだろう。もう動けない真紀へのささやかな配慮だったのかもしれない。
 だが――そのマイクが、真紀の我慢の一部始終を、余すところなく拾い上げていたのである。
 真紀は、自分の恥ずかしい『おトイレ我慢』を、会場すべてに向けて臨場感たっぷりに生中継してしまっていたのだ。
「………………………ぇ」
 あまりの衝撃に、真紀の思考はいったん、考えることを放棄した。
 だが事実は刻薄で、残酷だった。
 ONになりっぱなしの放送によって、すでに異状はグラウンド全体に知れ渡っていたのである。いつのまにか運営のテントの周辺には人だかりができ始めていた。
 放送機材の前で、脚を寄せ量の手のひらを挟み込んで太腿をすりすりと擦り合わせ、必死に腰をゆすっている少女の姿は、無数の視線の中に晒しものとなっていたのである。
「…………ひ、ぁ……ッ!!??」
 思春期の少女にとって、たとえ誰か、親友や姉妹といったごくごく親しい相手にだって、オシッコを我慢しているのを知られるのは恥ずかしいことなのに。
 真紀は、グラウンドにいるほぼ全ての人々に、同時にそれを知られてしまったのである。
 終わりの見えないトイレ我慢のさなか、辛い中で思わずこぼれた『オシッコ出るぅっ』『我慢できないかも』『トイレ、トイレ』というつぶやきや、吐息、身をよじり椅子をきしませる身悶えまで、高性能のマイクは真紀の我慢の一部始終を完璧に拾い上げ、ノイズをカットして臨場感あふれる生中継を、5分近くにわたって流し続けていた。
 事情を知らない人々からすれば、真紀は自ら生放送で『オシッコしたい!! トイレ我慢できない!!』と叫び訴えていたに等しいのだ。これで、観衆の興味をひかない方がおかしい。真紀の様子を案じるものから、単なる野次馬、異変に気付いた同級生。少女たちに邪な感情を抱く不埒な男たちまで。
 もはや逃げ場なく取り囲まれた運営のテントの中で、真紀に逃げ場ななかった。
「ぁ。っ、あ。ぁ、………ッ」
 ぷるるるっ、と、可愛らしい――けれど、危険水域を遙かに上回る貯水量に達していた乙女のダムを突き崩すには、十分すぎるほどの振動。羞恥のダムの底にある水門へ、ありったけの水圧が押しかかる。
 底が抜けてしまったかのように、真紀の放水孔はぽかりと口を開けてしまった。

 ぶじゅっ、じゅじゅじゅぅうっ、ぶじゅじゅうぅうッ!!
 びちゃばちゃじゅじゅっじゅごぉおおおおおおおーーッッ!!

 見えない場所からペットボトルの中身を浴びせかけられているかのようだった。色、量、匂いともに桁外れの放水は、今日一日懸命に真紀が耐えてきた我慢の証。競技に参加こそしていなかったが、この河川敷のグラウンドにおいて『オシッコ我慢』部門での真紀の我慢は、十分にメダルを狙える位置にあった。
 噴き上がるオシッコは、下着と体操服、ジャージの布地をあっさりと通り抜け、太腿に挟まれた手のひらにぶつかり、たちまちのうちに、少女の下半身がずぶ濡れの水浸しにしてゆく。
 椅子のきしみや衣擦れの音すら余すところなく拾う高感度マイクが、それを黙って見ているはずがない。
「いやっ、いやぁあ、いやぁあああ!! やめてっ、やめてぇえ!!」
 真紀がオシッコをこらえて漏らす恥ずかしい呻きも、解放感とともに唇を震わせる熱っぽいあえぎ声も、ジャージを湿らせ寄せ合わせた太腿と下腹部のくぼみにみるみる溢れ出してゆくオシッコの放出音も、委細漏らさずに拾い上げ、そのまま完全生中継でグラウンド中に響き渡ってしまったのである。
 それと同時に、運営のテントにいた放送委員の少女たちも、真紀につられて『催して』しまい、次々にうずくまって脚元に激しく水流をほとばしらせてゆく。
 日差しだけを遮るタイプのテントだ。周囲360度を人垣に囲まれている状況で、視線から逃れる死角などない。恥ずかしいオモラシの瞬間を見られまいと誰かに背中を向ければその分、反対側の観客に、きつく抑え込んだ手指の間から、恥ずかしいおしっこをほとばしらせ、股間を激しく濡らす瞬間を見せつけるようになってしまう。
 運営のテントは時ならぬ放送委員たちの臨時トイレ――否、オモラシ場所となり。
 雑踏は更に混乱を増してゆく。




 そして同時に、この影響はテント内だけにとどまらない。グラウンドの各所でも限界を迎え、『おんなのこ』から恥ずかしい熱水のほとばしりを噴き出させる少女たちが続出していた。
 彼女たちもまた、『おトイレ難民』であり、長い長い限界我慢の中で酷使され、いまにも緩みそうな括約筋を必死に締め付けて我慢している状態だった。
 ほとんど気力だけで耐えているような有様で、真紀のオモラシを生中継で聞かされてしまったのだ。
 たとえ音だけとはいえ、下着の奥に叩きつけられ、地面に飛び散り響き渡るオシッコの噴出音。それがリアルタイム、ダイレクトに少女たちの下腹部を、股間を、排泄孔へと伝わってしまったのである。
 今なお続く臨場感たっぷりのオモラシ放送の生中継に呼応するように、グラウンドのそこここにしゃがみ込んだ少女たちも、体操服の股間を激しい水流でびしょ濡れにし、足もとにばちゃばちゃと雫を滴らせる。
 真紀のオモラシ生中継は、そのままグラウンド各地の少女たちへと波及して、連鎖的にオモラシを引き起こし――もはや末期的となっていた河川敷のグラウンド一帯に、最後の崩壊の引き金を引いたのである。



 (初出:書き下ろし)
[ 2012/02/17 23:46 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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