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お嬢様我慢の話 

 御令嬢我慢のバリエーション。




 街中を、曇り一つない黒い車体を輝かせ、高級そうな送迎車が行く。
 ほとんどエンジン音も響かせない車内の後部座席には、一人の少女の姿があった。
 冬の穏やかな日差しにも美しく輝く深い黒髪は、絹を紡いだように乱れなく、すべらかな肌は処女雪のように無垢で。触れただけで溶けてしまいそうに淡い桜色の唇は、我を忘れてそこに触れてしまいたくなるほど。
 少女はひとめ見ただけで忘れようのない美しさを備えていた。
 そしてその美しさは外見だけに及ばない。行儀よく並ぶ膝は、革張りのシートの上に慎ましやかに揃えられ、重ねた手のひらがその上に乗せられている。伸ばされた背筋もぴんと芯が通っているようにまっすぐで、わずかな気の緩みも見えない。
 真新しい制服は、この春から通うことになった進学校のもの。御仕着せの制服でさえ、少女が纏えば神々しく光に包まれているかのようだ。
 少女の名は橘霧香。政財界には名の知れた橘家のご令嬢であった。
 戦後の混乱期でその勢力を大きく弱めたものの、いまだに旧橘財閥の名は広く知られ、その影響力は計り知れない。そんな名家の一人娘である霧香が、都内有数の進学校とはいえ、私立の学校に通うことになったというのは、一部ではかなりの驚きをもって迎えられた。
 橘家のご令嬢ともなれば、進学先と言えどもそれ相応の品格を持つ学院であるというのが普通のことだからだ。場合によっては海外の学校への留学もありうる。
 だが、一般の学舎への進学は霧香の強い希望によるものだった。いまの時代、前時代的な橘家令嬢としての特別扱いを嫌うゆえの行動であり、その為に霧香の父はあちこちを奔走し、説得を試みたのだが――最終的には霧香の強情さに折れたという結果となる。
 最初、霧香は電車通学を希望していたのだが――それだけはやめてくれ、と父に懇願され、運転手による送迎ということになったのだった。
 狭い道をほとんど振動もなく進む送迎車の後部座席。シートベルトを着けた霧香の表情は、しかしどこか硬いものを含ませている。
 ハンドルを握る運転手は、わずかに視線をあげ、ミラー越しに霧香を見る。
「あと5分ほどで到着いたします」
「……そうですか」
 運転手の言葉にも、霧香はわずかに表情を強張らせ、小さく頷くのみだった。
 その表情が硬いことに気付きつつも、運転手はフロントガラスへと視線を戻し、黙って車を走らせる。
 年に不似合いな落ち着きを見せてはいても、まだあどけない少女なのである。慣れない体験に緊張しているのだろうと、そう考えたのだ。
 この時、この場に居合わせたのは彼だけで、最後に霧香と言葉を交わした使用人も彼であった。それゆえに、この時彼が気を利かせていれば、これから起こる悲劇も回避することは容易だったろう。
 だが、それを理由にこの初老の運転手を責めることはできまい。
 不意の事態にも対応できるよう、心を砕くことが一流の使用人の務めであるとはいえ、なにもかも予想して行動できる人間など居る筈もない。
 まして、彼にとってはあまりに予想外だった。
 まさかこの時。橘家のご令嬢が、既にもうどうしようもないくらいに猛烈に、トイレを催してしまっていたなどということは――




 来賓室の調度は丁寧に整えられていて、霧香の目にも品良く映るものだった。
 学院に到着するなり大勢の教員に出迎えられて面食らったまま、まるで召使いにかしづかれる姫君のような対応で来賓室に通されてはや10分。
 すぐにやってくると言っていた理事長はいまだ、姿を見せなかった。
 テーブルの上には上等なティーセットで紅茶が湯気を立て、半分ほど中身の減ったティーカップが置かれている。
 今日は休日と言うこともあり、窓の外の校庭には人影もなく、野球のフェンスが風になびいているばかりだ。
「っ…………」
 辺りにも人気はなく、部屋唯一の出入り口である樫のドアは重く閉ざされたままである。来賓室の中に一人、じっとソファに腰を下ろし。
 霧香は、耐えがたいほどの尿意と戦っていた。
「……っ、は…ぁ……っ」
 あどけなさを残す整った顔立ちは困惑に歪み、荒い吐息が形の良い唇を震わせる。
 無駄な装飾もなく整えられた爪をもつ小さな手のひらは、紺の制服に包まれた細い腰の上、脚の付け根に近い下腹部にぴったりあてがわれていた。
 革靴のかかとを持ち上げ、爪先だけを揃えて絨毯の上に下ろし。浮かせ気味の腰を揺らしてはきしきしと椅子を軋ませて。
 はしたなくも片方の手を脚の付け根へと重ね、せわしなくそこをさする姿は、深窓のご令嬢がいままさに、恥ずかしい欲求に屈せんばかりの瀬戸際にあることを知らせていた。
「っ、ふぅ……、っ」
 ぴくん、と汗のうっすらと滲むうなじを震わせ、霧香はもう一方の指先を口元へ寄せた。
 こぼれそうになる喘ぎ声を堪えるため、曲げた小指にそっと歯を立てて、己のうちから湧き上がる衝動に必死に耐え続ける。
 きつく足の付け根と押し当てられる手が、プリーツのスカートを脚の間に巻き込むようにして皺を寄せているものだから、小刻みにせわしなく擦り合わされる太腿の動きまでもが手に取るように見て取れる。
「ん、ぁ……っ」
 プリーツスカートを握り締めた白い指先が小さく震え、はしたなくも脚を隠す布地を絞り上げるような皺をつくる。休むことなく擦り合わされる内腿は、上等なソファをなおギシギシと軋ませるほどだ。
 ひとけのない来賓室の中、深層のご令嬢の催した尿意はますます猛烈なものへと激しさを増ず。美しき少女は、必死に息を詰めながら、身体をよじって込み上げてくるはしたない衝動に抗い続けていた。
「あっ、あ……っ……ふぁ……ぁあっ」
 桜色の唇が小さく開閉し、甘く切ない吐息を繰り返す。
 ぎゅっ、ぎゅっ、と細い腕が撫でつける手のひらの下では、石のようにぱんぱんに張り詰めた下腹部が、硬く指先を押し返す。
 押さえこんだ足の付け根、一番脆い部分をびりびりとむず痒い痺れが刺激し、乙女の秘密の出口はわずかな油断を突いて大きく緩みそうになる。
(……だ、だめ……お、お手洗いぃ……っ)
 来訪途中の送迎車の中で、すでに限界に近かった尿意は、時間の経過とともに大きく膨らみ、いまやあどけないご令嬢の身体を余すところなく支配していた。
「んぅ、……くぅぅ……ぁっ……」
(だ、だめぇ……っ。あ、あっ、こんな……っ……お、お手洗い……お手洗い……っ!!)
 たとえ天上の美しさを備えた可憐な乙女であろうとも、一日に数度の“ご不浄”を済ませないわけにはいかない。身体の内側に膨らむ下品極まりない衝動に身をよじるように耐えながら、霧香は『おトイレ』を欲していた。
 どうして先に用を済ませなかったのかと問われれば、不運なめぐり合わせと、とてもそんな事を切り出せる雰囲気ではなかったからだとしか言いようがない。霧香とて年頃の少女であり、年上の男性に囲まれる中でお手洗いを申し出るのは口にし辛いことだった。
 様々な偶然の積み重なりで、なんと霧香は今朝から一度もお手洗いに行っていない。昨夜から済ませることができていない排泄欲求が、もはや限界だと下腹部で激しく暴れ回る。
 もはや猶予は残されておらず、一刻も早く、排泄を許された場所へと駆け込まねばならない状況なのだが――
(あ、あっ……だめえ……っ!!)
 仮に部屋を抜け出してお手洗いに立ったとして、その間に理事長がやって来てしまったらどうするのか。
 進学を決めるにあたって、父がこの学院にあれこれと無理を言ったことは、霧香にも理解できていた。そんな霧香を快く迎え入れてくれた、言わば恩人でもある学院の理事長を放り出して、先にお手洗いを優先させる訳にはいかないのである。まかり間違えば、学院を出かけ先のお手洗いにしたとも取られかねないのだ。
 霧香の常識に照らし合わせてみれば、お手洗いを借りることが許されるのは精々が来訪の予定がすべて終了した帰り際である。訪ねて行った早々にトイレに駆け込むなど、はしたないを通り越して言語道断だ。滞在が長時間にわたる場合であれば、一段落したところで申し出ることも不可能ではないかもしれないが――それにしても失礼にあたることに変わりはない。
 一般大衆とは少々かけ離れた社会通念に、幼い頃から触れて育ってきた名家の令嬢にしてみれば、そんな己の育ちへの矜持もあったのかもしれない。
 かち、かち、と柱時計が振り子を刻む中、霧香は半分意地にになって我慢を続けているのだった。
 だが、遅い。
 霧香の来訪を歓迎していたはずの理事長が来賓室を訪れる気配はいまだない。
 誰も居ないのをいいことに、そわそわと落ち着きない様子を隠すこともせずに、霧香は何度もドアの方を伺う。これだけでも十分なマナー違反だが、幼い頃から繰り返し躾けられた礼儀作法を忘れてしまうほどに、霧香の我慢は切羽詰まっているのだった。
 さほど広くはない来賓室はしかし、作りつけの窓に重い樫のドアと、柔らかなソファに壁紙に至るまで調度を統一し、美しい調和を保っている。床に敷かれた絨毯は、霧香も知らない見事な飾り織りで、部屋の彩りを増していた。
 しかし、退屈な時間をくつろいで過ごすための工夫が随所になされた一室は、いまや霧香とって牢獄に等しい空間である。
「あっ……ああっ……」
 身体の内側で渦を巻き荒れ狂う恥ずかしい熱湯は、制服の下腹部をパンパンに張りつめさせ、ぐらぐらと下品な欲求を湧きたたせる。
 堪えようとしてもどうしても抑えきれず、小刻みに揺れ動く腰の上、石のように硬く張り詰めた下腹部には、少女の身体が長時間かけて作り出した恥ずかしい水が、今にも溢れんばかりになみなみと湛えられていた。
(お、お手洗い……っ)
 今すぐにでも、トイレに駆け込んで熱い本流を思い切り身体の外へとほとばしらせてしまいたい。慎み深い令嬢にあるまじき想像が、霧香の脳裏をかすめる。
 あまりにも恥ずかしく、はしたない想像に、少女の白い頬がすうと赤くなってゆく。
 しかし、幼い頃から厳格な躾を受けて育った深窓の令嬢をして、いよいよ高まる尿意はなお耐えがたく、紺の制服に包まれた細い肢体にはさらに強く、激しく、身体の内側で膨らみ続ける圧力が圧し掛かる。
(ま、まだなのかしら……)
 本来、迎えてくれる側の理事長を急かすようなまねはしてはならない。無論相手側の不作法もないわけではないが、それを表だって責めるようなことは、自信の品格にも関わることだ。
 こうして尿意に苦しめられているのは、あくまで霧香の都合であり、どんな理由があれど訪問前にお手洗いを済ませていなかった霧香の自業自得なのである。
 しかし、耐えがたいほどの尿意に晒され続け、霧香は、いまだ訪れる気配すらない理事長に対し、自分の立場も忘れて苛立ちを覚え始めていた。
(だ、だめ……こ、このままじゃ、本当に……)
 後に続く言葉を飲み込んで、切羽詰まった表情をみせ、霧香は何度も室内を見回す。なんでもいいから、何か頼れるものが欲しかった。
 最初この部屋に案内された時、霧香は名家のご令嬢らしい思い込みで、来賓室というくらいだからご不浄が備え付けられているのではないかと期待していたのだが――勿論、市井の学校にそんな特例があるはずもない。
 それどころか来賓室の中には余計な装飾はほとんどなく、精々がテーブルの上のティーセット程度だ。
 少し冷めた紅茶が視界に入ってしまい、霧香は慌てて視線をそらした。
 手をつけないのも不作法にあたる。無理をして半分口をつけはしたが、もう一滴も水分は身体の中に入れたくはなかったのだ。
(は、はやく……ココ、空っぽにしたいのに……っ)
 きゅうっ、と下腹部をさする手のひらに力がこもる。
 本当は思い切り脚の付け根を握り締めてしまいたいのを堪え、何度もうねる尿意の波を、意志の力と、乙女の秘密の場所、水門の力で懸命に押さえこむ。
 だが、少女の事情なとお構いなしに、水の誘惑はますます激しさを増すばかりだ。
 下半身は切に排泄を訴え続け、わずかに口にした紅茶すらも、早々と恥ずかしい熱水へと変わり、乙女の下腹部へと集まって行くようにすら思えてならない。
(お手洗い……はやく……、はやく……っ)
 冷静に考えれば、果たしてこのまま最後まで我慢が続けられるかは怪しいものだ。橘家の令嬢の直接の来訪なのだから、まさか『これからよろしく』の一言で話が済むはずもない。理事長との面談の後には学内の見学や教師の紹介などもあるはずだった。
 その途中で、訳を説明してお手洗いを借りるべきか? 霧香の心が揺れる。しかしこちらから訪ねていった学院での歓待の最中、さして時間も経っていないうちにお手洗いを要求するのは、やはり礼儀に反する行いだ。
 たとえば。そう、仮に。
 ありえない仮定としても、霧香は想像を巡らせてしまう。2時間や3時間、学院に居たというなら、常識的に考えて女の子がお手洗いに立ってもおかしくはないだろう。では一体、どれくらい待てばお手洗いの場所を訪ねても良いものだろうか? 1時間? 30分? 10分などというのは論外だろうか? しかしうまく理事長が話を切り上げてくれれば、そのタイミングを見計らって――
 はしたないにも程がある想像を繰り返してしまうのは、それほど霧香が追い詰められていることの証だ。
 もっとも、たとえ3時間だろうが5時間だろうが、本来は出先でお手洗いを汚すなんてこと自体が霧香の礼儀の基準からすれば、できる限る慎むべきことで、余程切羽詰まったことがなければ避けるべきだと言っている。
 だが。いまの霧香はそんな選り好みを出来る状態にはない。家に戻るまでどころか、今すぐ理事長がやって来て、面会の最初のあいさつが終わるまでの10分の我慢すらできないかもしれないほどに追い込まれているのだ。
(そ、そうよ……こ、こんなところで、お粗相してしまったらっ…………)
 不意に、霧香の心の中で恐怖が膨らむ。
 確かに礼儀作法も大事だろう。でも、まさか。もしも、万一。
 無理に意地を張って、我慢しきれなかったら――そんな最悪の事態の想像が頭をよぎったのだ。具体的な『お粗相』という言葉に、これまでにも何度か浮かしかけた腰が、躊躇と困惑の袋小路の中で、再びソファから持ちあがろうとする。
(やっぱり、先にお手洗いに――あ、後で、お詫びすれば……っ)
 差し迫った下腹部の事情に衝き動かされ、霧香はかたく張りつめた下腹部を庇うように、腰を浮かせる。
 その体制で、霧香はしばし静止してしまった。じっとしているでもない、行動に移るでもない、実にぐずぐずとしてみっともない姿。しかし霧香はなお迷ってしまう。
(…………っ)
 あと少し、あと少しだけ待てば。ちゃんと我慢して、失礼のないように――家に戻るまでは無理だとしても、せめて不自然でないくらいまできちんとして、それからお手洗いを借りれば。乙女の、令嬢の羞恥心が必死に自制を叫ぶ。乗り切ってしまえば、一切の恥をかかずに済むかも知れないのだ。
 こんなに迷っている暇があったら、もっと早く、こっそりとお手洗いに行っておくべきだった――そんな後悔も一緒に頭をよぎる。そもそもこんなに我慢を続けてしまうこと自体、令嬢としてどころか、一人の乙女としてあってはならない話なのだ。
 躊躇と逡巡、諦観と決断。いくつもの選択肢が、令嬢の中でせめぎ合う。
 それでもなお、刻々と高まり続ける尿意は決して和らぐことはないのだ。
(や、やっぱり……も、もう駄目……!! が、我慢できないわ……!!)
 おそらく1分以上もそうしていただろうか。
 とうとう、霧香は恥ずかしい尿意に屈したことを自ら認め、席を立ってしまう。
 理事長に挨拶もなく、勝手に外のお手洗いを使ってしまう――それだけ自分が切羽詰まっており、もうどうしようもないくらいおしっこを我慢していたと宣言しているのに等しい行為だった。
 後ろ髪を引かれる中、霧香はゆっくりとソファから身を起こす。
 身体を曲げた瞬間、じんっと膨らむ尿意に思わず声をあげそうになる。敏感になった下腹部の重みをずしりと感じながら、本当は忙しなく擦り合わせたい脚を、驚異的なまでの自制心で押しとどめ、焦る気持ちを押し殺しながら、そろりそろりと脚を進めてゆく。
 霧香は重い樫のドアにそっと手をかけ、ドアの向こうの気配を伺い、誰も居ない事を確認する。
(…………し、仕方ないのよ……も、も、本当に……)
 最後の躊躇を振り切って、霧香はドアをそっと、静かに押し開けた。



 廊下はひんやりとした空気に満ちていた。
 勝手の分からない校舎ではあったが、あまりゆっくりしていて誰かに見咎められる訳にもいかない。出来れば誰にも知られないままお手洗いを済ませ、手早く戻り――可能なら気付かれないように振舞う。それがベストな選択だ。
(……本当なら、お手洗いを借りたこと、言わなければいけないけれど……)
 礼儀に反していると頭は理解していても、もし誰もに気付かれないまま、きちんとお手洗いを済ませられたなら。一人の少女として、わざわざそれを口にすることには強い抵抗があった。
 そんな事を考えていた霧香の背中に、ぶるりと震えが走る。
 悠長なことをしている余裕はないのだ。後のことは後で考えるとして、いまはこの差し迫った事態を解決することが最優先である。霧香は廊下の左右に視線を巡らせる。
 来賓室から出た廊下のすぐ近くには、職員用と兼用の来賓向けのお手洗いがあったが、霧香はそこに入るべきか、しばし足を止めてしまう。
 確かに今日、霧香は来賓者として迎えられてはいるが、春からは生徒としてこの学院に通うのである。そんな立場で、図々しくもこのお手洗いを使っていいものだろうか。
(……そうよね)
 理事長を待っている間に、勝手にお手洗いに立ってしまうのだ。せめて最低限の礼儀は守るべきだろう。使うなら生徒用の方であるべきだ。
 そんな思いと共に、霧香は廊下の反対側、渡り廊下を通って教室の並ぶ校舎のある方へと歩き出す。
 折角目の前にあるお手洗いから遠ざかることに、少女の下半身ははしたなくも強く抗議をしたが、霧香はそっと下腹部を撫で、それを押さえこむ。
 まさか堂々と脚の付け根を押さえるようなものではない。ごく自然に、女の子として大事な下腹部を庇うような慎ましやかな動作だったが、見る者が見ればはっきりと、尿意を堪えていると明白な体制。人目がないとはいえ、橘家の令嬢にあるまじき行いであった。
(は、はやくしないと……)
 いよいよ限界が近い。羞恥に頬を染めながら、霧香はわずかに震える脚を速める。
 市井の進学校の構内は、霧香の知っているものとは大きく異なっていたが、同じように大勢の生徒が通う学舎であることに違いはない。まさかお手洗いが存在していないなんてことはないはずだった。
(こっち……で、いいのよね?)
 歴史ある進学校という名の通り、修繕はされていでも深い年月の重みを感じさせる校舎の中を、わずかに逡巡しながらも進んでゆく。
 寒風の吹き抜ける渡り廊下を通り抜けて、霧香は教室棟へと辿り着いた。
 幾分、暖かな気配のある廊下はやはり無人で、物音一つない。まっすぐな廊下にはずらりと並んだ教室と、黒地の板に白ペンキで書かれたと乏しき達筆な漢数字表記の組番号の案内が続いている。
 その間に、同じ案内板に記された『女子便所』の文字を見つけ、霧香は僅かに安堵した。
 霧香の感覚からすると、少々直接的な物言いすぎるが、これも仕方のないことだろう。この学院が古くからの伝統を持ち、築百年を超える校舎をなお使っていることは有名でもある。黒地の板に白ペンキの達筆な『女子便所』の文字も、恐らくは年季の入ったものなのだろう。
 少なくとも分かり辛いよりはよほどいいはずだ。
 ――しかし“お手洗い”の本当の目的を全く隠すこともなく堂々と晒している『女子便所』の文字に、自分がこれから何をしようとしているのかを否が応でも思い知らされ、見せつけられている気分ではあった。
 頬がわずかに赤くなるのを感じつつも、それもいったん脇にどけておくつもりで、霧香は廊下を、小走りにならない程度に急ぐ。
(間に合った……)
 緊急警報を発令しつつある下腹部をかばい、スカートの裾を乱さぬように辿り着いたお手洗いの前、霧香はそっと胸元を押さえ、丁寧に何度もペンキの塗り重ねられた薄桃色のドアを、そっと押しあける。



 年季を感じさせる漆喰塗の壁を、天井付近に小さな窓からの明かりがぼんやりと照らしている。
 右手前には、清潔ではあるが長年使いこまれたと思しきホーローの流し台と鏡が並び、その反対側の壁に4つ、茶色のペンキを塗られた板張りの壁に仕切られた個室が仲良く身を寄せ合うように並んでいる。
 何度も漂白されたであろうタイルの目地を踏まないようにして、霧香はお手洗いの奥に並ぶ4つの扉のうち、一番右端へと向かってゆく。
 かつ、かつ、と響く固い音は、否が応でも霧香に緊張を強いていた。ここは霧香にとって未知の領域、異邦の空間なのだ。
 個室を仕切る壁は、管理のため上下に大きく隙間を空けており、覗き込もうと顔を床に押し付ければ、中の様子が見えてしまいそうだった。
 分けてもわずかな衝立だけが視線を隠しているだけの、個室同士が隣り合った構造のトイレである。衝立も上からのぞきこめるような高さではないが、天井までつながっているわけではなく、個室は真上が完全に解放状態である。
 さらに個室のドアも、足元には5センチばかりの隙間があき、その気になれば身を伏せて顔を近づければ中を窺うことも可能だった。
 霧香は思わず身を硬くしていた。
(…………、)
 橘家ご令嬢という立場もあり、霧香にはごく普通の『公衆トイレ』などに足を踏み入れた経験などほぼ皆無である。これまでに通っていた学校や施設のお手洗いは、ここまであけすけに無防備なものではなかった。
 かつり、と靴底がタイルを叩く。
(……あ……)
 静けさの中で、冷たい壁は足音すら大きく反響させる。
 もし他に誰かがいれば、お手洗いの最中に立てた物音は隣の個室はおろか、あたりにまで丸聞こえになってしまうだろうことが一目で見て取れた。
 そのことに気づいて霧香は顔を赤くしてしまう。
 本来、誰にも気付かれてはならないはずの、“お手洗い”という秘密の行為。下腹部の恥ずかしい部分に溜まった、薄い琥珀色の液体を、女の子の一番大切な部分から迸らせる排泄という行ないは、誰かに“そう”と悟られるというだけでも恥ずかしい行いである。また、それゆえに決してそうと気づかれぬように振る舞うこともまた、乙女としての嗜みであった。
 だが。この学院のトイレは、霧香の想像していた『お手洗い』とは大きく基準を異にしていたのだ。
(…………郷に入っては、郷に従え、ということよね……)
 自分にそう言い聞かせはしても、すぐ隣に自分の用足しの音をそのまま聞かれてしまうような構造のお手洗いで安心できようはずもない。
 建物に文句を言っても仕方ないとはしても、プライバシーへの配慮が大きく欠けた前時代的な『女子便所』の構造は、あまりにも慎みに欠けているように、霧香には思えてならなかった。
 これ以上ここにとどまることにすら多少なりとも抵抗を覚えながら、霧香は個室のドアに手をかけた。
 すっかり色の落ちた金属製のノブを握る。

 ぎぃ……。

 かすかに軋むドアの奥にある光景を見て、霧香は絶句した。
(え……!? な、なに、これ……っ!?)
 信じられないという思いで、霧香は瞬きを繰り返す。
 しかし、目の前の光景は消えてはくれず、幻や夢ではない現実であることを告げている。
(そ、そんな……っ……)
 思わず揺れ動きを激しくしようとする腰を、ぐっと脚の内腿に力を込めて自制する。
 個室に鎮座していたのは、霧香の予想していたのとはまるで違うモノ。前後左右を仕切る衝立の中、四角いスペースの床に沿うように設えられていたのは、大きく天井に向けて口の開いた白い陶器。先端でゆっくりと反り返り、跳ね返りを受け止めるようなカタチになっている緩やかな曲線――
 『女子便所』に相応しい古式ゆかしき和式便器が、その役目を全うせんと控えていたのだ。
(あぁ……う、嘘……)
 そう。何を躊躇うことがあろうか、あとはそのまま踏み入れて、スカートをたくしあげ下着をおろしてしゃがみ込み、存分にお手洗いを済ませればいい。
 しかし、待望の『オシッコのできる場所』を目の前にしながら、霧香は困惑を深めてゆくばかりだった。
 ふらふらと後ずさった霧香は、儚い願いを込めて隣の個室を覗く。さらにそのまま隣、また隣と順に個室を確認してゆき……最後の個室の前で、顔を覆ってがくりと窓枠にもたれかかった。
(そんな……ぁ……)
 空席ばかりの4つの個室。
 そのどれを選んでも、限界寸前の尿意を解放するには十分すぎる場所だというのに。霧香にとってはそのどれもが、まるで意味のないものばかりだったのだ。
(せ、折角の、お手洗いなのに……っ。……ど、どうして、こんな……っ)
 そう。
 海外留学の経験もある霧香にとって、お手洗いというものは生まれてこの方“洋式”でしかない。
 霧香は今まで一度も、洋式以外のお手洗いを使った経験がないのだ。無論、知識としてそのようなモノがある事は知っていたし、その使い方もおぼろげながら理解はしている。
 しかし、彼女の生活範囲にそうした場所は一つたりとて存在せず、目にする機会すらなかったのである。
「あ……っ」
 慎みのかけらもなく下品に床に据え付けられたカタチの和式便器は、そこに大きくスカートをたくし上げ脚を開いてしゃがみ込むはしたない姿を強制するものだ。
 当然ながら音消しのための設備もなく、大切な場所から勢いよく噴き出した水流は、高い位置から便器の中に直撃して、大きな音を響かせることは間違いないのである。
 しゃがんで、おしっこ。
 この学院の生徒――否、普通の女の子ならば当たり前のようにできるその行為が、霧香にはできないのだ。
 しかし、曲がりなりにもお手洗いをを目の前にして、令嬢の下腹部でははしたない衝動がはげしく込み上げてくる。繊細な秘密の入れ物の中では恥ずかしい熱湯がぐらぐらと沸騰し、いまにも吹き零れてしまいそうに悲鳴を上げている。
「ぁあぅ…っ」
 か細い悲鳴を押し殺し、霧香はふらりとトイレの壁に寄りかかった。
 ぞくぞくと背中を這い登るイケナイ感覚が、限界が近いことを知らせている。
(ど、どうしよう……っ……で、でも、こんなお手洗いなんかじゃ、とても……)
 震え出しそうになる膝をぐっと押さえつけ、霧香は余裕の失われつつある頭で思案を巡らせる。
 恐らくは、霧香以外の少女達は普通にしていることだ。この学院のお手洗いが“こう”だというのだから、霧香以外の生徒全員が、問題なくこのお手洗いを使えているのに違いない。
 だが――霧香は、それが出来ない。
(い、いや……わ、私、ち、違うの、っ、お、お手洗いのしつけも、できていないなんて……っ)
 突き付けられた現実の前に、令嬢の困惑は、ますます深まるばかりだった。



 (初出:書き下ろし)
[ 2012/07/14 13:03 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)

四月を迎えたある日の話 

 4月に更新するつもりだった話。来年まで待つのもどうかと思うので。




 春。
 つい先日までは寒々しく枝ばかりだった表通りの桜並木も、今は美しく咲き誇り、舞い散る薄紅の花片の下、糊の効いた真新しい制服に身を包んだ生徒達は連れ立って駅へと歩いて行く。
 ちらほらと振り積む花片の中では、新学期を迎えた彼女たちの歩みも自然と緩み、朗らかな笑い声は訪れた新しい出会いの季節を彩るかのよう。穏やかな陽射しのなかでも、まだブロック塀の下隅を吹き抜ける風は幾分冷たく、ほんのわずか、まだそこには冬のカケラが残っているようにも思える。
 そんな季節の巡りを感じさせる風情を感じる暇もなく、私は一人、だだっぴろい自宅にて週の真ん中にとる羽目になった代休を持て余していた。
 前年度から続いていた休日出勤がようやく一段落となったことでようやく暇はできたものの、平日にどこかに出かける気力も残っておらず、だらだらと朝寝をして、1時間ほど前にようやく起き出して遅い朝食を取ったばかりだ。
 まもなく正午に差しかかろうかという時計の針を見上げ、手持ち無沙汰に、興味もないワイドショーのチャンネルを回していた時のことだった。
 不意に、来客を告げるインターホンが響く。
 普段は仕事で家を空けているはずの今日、賓客の予定などあるはずもない。訪問販売か宗教の勧誘かなにかかと、やや興を削がれた気分で立ち上がる。退屈がまぎれるのは結構な事だが、出来れば建設的なことであって欲しいものだった。
 姿身を確認して、ひとまず人前に出るにはそれほど問題のない格好であることを確かめ、玄関へと向かう。
 サンダルに足をつっかけて、一応警戒をしながらどこの誰だろうとドアミラーを覗くと、
「……………っ」
 そこにあったのは私の従前の予想を完璧に裏切る、真新しい紺色の制服に袖を通した、小さな少女の姿だった。
 どこか不安げに視線をさまよわせ、落ち着きなく身体を動かしながら。長めの袖からちょこんと伸びた指をインターホンに押し当てた姿勢のまま、頬を緊張に引きつらせ、切羽詰った表情で、少女はドア向こうに立っている。
 肩上で綺麗に切り揃えられた髪は、最近は珍しい深い黒。ドア向こうの少女は最近の少女達が当然のようにしている大人びた装飾品や化粧気などとは一線を隠した、おとなしめの容貌でありながら、十分に魅力的な顔立ちをしていた。
 無論、私にはまるで見覚えがない。
 いや、思わず見蕩れてしまうほどに保護欲をかき立てるその姿は、親戚にでもいれば自慢して回りたくなるくらいには魅力的であったが、残念ながら、その少女は私の面識のない相手であることは間違いなかった。
 糊の効いた真新しい紺色の制服と、胸元には白の一本線の緑のタイ。鞄も靴も汚れひとつなく、今日下ろしたばかりの新品であることが手に取るように分かる。
 襟元に、礼儀に煩い事で有名な近所にある進学校の校章のピンバッジを揺らし、まだサイズの合っていない靴のかかとを浮かせるように背伸びして、少女は再度、インターホンに指を伸ばす。
 チャイムが間の抜けた呼び出し音を響かせる中、少女は小さく『ぁ』の形に口を開き、鞄を握る手をそのままスカートの前に押し付けた。
 思わず、私は息を飲む。
 まさか、ドアミラーのすぐ奥で私がそれを見ているとは思っていないらしい。少女は耐えかねたように、身をよじり、気ぜわしく足を動かし始めていた。
 浮かんだかかとが交互に上下し、革靴が小刻みなステップを刻む。それに合わせて膝下のソックスに包まれたふくらはぎが内股に寄せられ、上半身は前に、腰は背後へと突き出される。
 誰がどう見ても明白な、トイレを我慢している仕草。
 大胆な我慢の様子は、いまにも清楚な少女が人前でするにはどうにも憚られるものであった。彼女もまさか私に見せつけるつもりはないのだろうが、目の前の特等席で披露されるその官能的な仕草に、私は目を離せなくなってしまっていた。
 我が家の玄関は、面した道路からも少し奥まった場所にある。ちょうど道行く人々の視線からも遮られ、公道の喧騒も遠い。そんな具合だからこそ、彼女もつい気が緩んでしまったのだろう。
 ドアミラー越しに覗く私の前で、少女はしきりにスカートの前を握りしめ、もじもじと腰を揺すり続ける。
「っ、……ふっ……ぁ、」
 くねくねと腰をよじり、必死に息を殺しながら、少女は鞄を持った手でスカートの前をきつく握り締める。その仕草にも恥じらいを覗かせ、顔を赤くするその様はなんとも美しく、艶めかしい。しばし私は身じろぎも忘れて、ドア前で繰り広げられる少女の我慢ダンスに見入っていた。
「…………」
 そうこうしているうち、応答のないことに焦れたのか、少女は再び困惑の視線を持ち上げ、三度インターホンに指を伸ばす。電子の呼び出し音が鳴り響くのに合わせ、少女はそのまま小さく拳を作り、とんとんとドアをノックし始めた。
「あ、あの、っ」
 少女の我慢はどうも限界に近いようだった。身悶えし、足を細かく踏み鳴らしながら掠れた声を飲み込む少女の表情には、余裕がほとんど残されていない。
「す、すみません、ど、どなたか、い、いらっしゃませんかっ」
 発生もおぼつかないか、緊張のせいか。呼びかける声も噛んでいる。確かに面識のない少女ではあったが、そのただならぬ様子は無視を決め込むには憚られるものだった。
 しばしの逡巡を挟み、私はとりあえず話だけでも聞こうと鍵に手をかけた。
 がちゃん、と閉じていたロックを上げると、ドアミラーの向こうで少女がびく! と身体を竦ませた。彼女にしてみれば不意打ちでいきなり鍵が空いたようなものだろう。少々意地悪な体面になってしまったことを心の中で詫びつつ、ドアを押し開ける。
 チェーン越しに見下ろす少女の姿は、ドアミラー越しに受けた印象よりもよほど幼く見えた。この紺色の制服を着ているということは近くの学校の生徒なのだろうが、袖から指先だけが覗くほどに大きな制服に着られてしまっているのが、余計に少女のあどけなを強調しているようだった。
 真新しい服に着られているぎこちなさも相まって、新入生なのだとしたら、つい最近まで下の学校に通っていたのだろうか。
「ぁ……あのっ」
 腰を大きく後ろに引いた、滑稽なほどの前傾姿勢。もう彼女はその体勢を崩すことも難しいのだろう。まるで羞恥にそのまま泣き出してしまうのではないかと思えるほどに、鼻先を赤く紅潮させて、少女はおずおずと切り出してきた。
 少女はそれでも精一杯、揺れ動く下半身を押さえ込もうと努力しているようだったが、寄せ合わされた脚は、ひとときも治まる様子がない。すでに余裕の微塵もない必死の形相で、ぎゅうっと脚の付け根に手を当てている。
「す、すみません、突然……、えっと、そのっ」
 忙しなく脚を交差させ、膝を重ね合わせての要求は、もう何を求めているのか言葉にせずとも明白すぎるくらいに明白だった。鞄の下、何も持っていないもう片方の手のひらは、遠慮なくスカートの前を掴み、ぎゅうっと下腹部を圧迫している。
「と……、ぉ、お手洗い、か、貸してクダサイ……っ」
 ともすれば聞き逃してしまいそうになるほどの、小さな声。
 最初のつっかかりは、『トイレ』という単語を口に仕掛け、慌てて言いなおしたのだろう。人前で排泄行為を口にすることを避けたい年頃ならではの、繊細な羞恥心の表れか、あるいは躾の良さを感じさせる態度だ。
「すみまセン、っ、い、いきなり、こんなお願いっ……で、でも、っ」
 言葉を切るように、ぷるぷると小さな身体が震える。
「ご、ごめんなサイっ、も、もう、その……が、がまん、できないんデス……っ」
 顔を真っ赤にしつつも、少女ははっきりと尿意の限界であることを口にした。
 少女がその張りつめた気を解くのに、私のラフな外見もいくらか良い方向に作用していたらしい。仮に私が異性であったり、普段の仕事着のような格好をしていたら、彼女は委縮してしまってとても、この『お願い』を口にすることはできなかっただろうから。
「お、お願い、しマス……っ」
 上目遣いで懇願する少女のまなじりは不意安定に揺れ、今にも泣き出してしまいそうな有様だ。まだ年端もいかない少女とは言え、見知らぬ相手を気安く家に上げてよいものか――私はしばし躊躇する。
 時間にしてほんの数秒といったところだろうが、彼女にとっては永遠にも長く、まるで審判を下される直前のようにすら感じられたことだろう。
「っ…………」
 少女の表情が不安と緊張に揺れる。身をかがめ、耐え難い尿意にじっとしている事もできず、掠れた語尾や背中を丸めたままの姿勢からも、彼女の我慢がもはや限界であることはありありと窺い知れる。
 わざわざ、面識のない他人の家でトイレを借りようとしていることからもそれは明らかだ。その事実が、彼女にはここのほかにもう縋る場所などないのだと――つまり、もう他のトイレを探している余裕など微塵も残されていないのだと、暗に語っていた。
 おそらく、様々な事情で用を足すことができず、トイレに入りそびれ、延々と我慢を強いられて――ついにどうにもならなくなって、他に縋る場所もなく駆け込むように私の家を訪ねて来たのだろう。
 そんな少女を無碍にする理由はない。そこまで考え、私は彼女にトイレの許可を与えることにする。
 それを聞いて彼女はぱぁっと顔を輝かせ、大きく頭を下げた。
「ぁ、ありがとうございマスっ……」
 心からの感謝、地獄で仏に会ったかのような喜びよう。やはり本当に切羽詰っていたのだろう。彼女くらいの年頃の少女なら、人一倍羞恥心も強いものだ。まったく知らない相手の家にトイレの使用許可を申し出るなど、よほどの事がない限りできないはずだった。
 感謝と謝罪を口にしながら、少女は、前傾姿勢のまま玄関に踏み入れる。ローファーのかかとを突っかからせながら、後ろ向きになって靴を脱ごうとし――
「ぁ、あっ、ま、待って、ダメっ……!!」
 小さく声を上げながら、びくりと硬直した。
 大きく開いた口から可愛い八重歯を覗かせて、視線を宙空に据えたまま、少女の両手はぎゅうっとスカートの上に押し当てられる。
 ソックスに包まれた脚がその場で激しくよじりあわされ、こちらに突き出された小さなお尻が左右に揺れる。
「ぁ、あっ、あっ」
 喘ぎにも似た甘い声。
 床を擦る靴音と、掠れて響く少女の吐息が、玄関に広がる。
 トイレの使用許可を得たことで、少女の身体のほうが先走ってしまったのだ。脚の上にあるダムの中、危険水域を遥かに超えて注ぎ込まれた乙女の恥水が、今にも堰をあふれ出しそうにヒビを広げている。
 がくがくと膝が揺れ、少女はそのままぺたん、と玄関のうえに尻餅をついてしまった。
「あッ……!!」
 一際音程の高い、かすれた声が上がる。
 咄嗟に動いた少女の手は、スカートの上から股間を床上に押し付けた。プリーツの裾から覗く太腿がぎゅっと寄せ合わされ、少女は玄関マットの上に小さなおしりをねじつけるようにして身を揺すり始めてしまう。
 幼さを残した表情が緊張に強張り、噛み締められた奥歯が小さく震える。
 まさに今、少女のダムは崩壊の危機に直面していた。思春期の少女がなりふり構わず脚の付け根を押さえ込むという光景を目の当たりにして、私は驚きと同時に、強い感動すら覚えていた。
 押し寄せる未曽有の危機にも決して諦めず、なおも耐え続けようとする健気な少女の気高さに、心打たれていたのである。
「は……っく……ぅ…っ」
 上半身がやや前傾になり、スカートを押さえる手に力が篭もる。真新しい制服に大きく皺が寄せられる。
 革靴の爪先が玄関の石畳を擦り、紺色の布地に包まれた腰は玄関マットの上で前後に揺すられ続ける。押し寄せる尿意の大波をなんとかやり過ごそうと、必死に我慢を続ける少女の戦いは、なお数十秒にわたって続く。
 きつく閉じられた目と共に鞄が床に落ち、スカートの裾が次第にめくれてゆくのにも気付かず、小さな手指は必死になって脚の付け根をさすり続けていた。
「っは、あっ……」
 やがて、どうにか危機を乗り切ったのか、少女は大きく息をついてわずかに身体の緊張を緩めた。乙女のダムがいまだ危機的状況にあり、予断を許さない中での小康状態ではあるようだが、ひとまず決壊の危険は遠のいたらしい。
 息を整えようと小さな唇がわずかな深呼吸を繰り返し、少女はようやく、自分が繰り広げていた恥態に気付いたようだった。
「あ……っ!」
 みるみるうちに、その顔が朱に染まる。
 見ず知らずの他人の家の、それも玄関で、はしたなくも股間を握り締めてトイレを我慢していた自分――しかも、ついさっきトイレを借りる許可を得たその直後に、である。
 我慢の限界である事をおのずから叫んでしまっているのに等しい行為だった。
 少女は大きくめくれていたスカートの裾を引き下ろし、ただちに鞄を拾い上げて靴を脱ぎにかかる。
「ごっ、ごめんなさいっ!! す、すぐに済ませマスからっ」
 しかし、羞恥と動揺の中では慣れない革靴を脱ぐにも思うように手足が動かないようだった。もどかしいばかりの手つきで紐をほどき、交互に足を動かす間にも何度も身体を竦ませる。ひっきりになしにぶり返す尿意の波が彼女を絶え間なく苦しめているのは明白だった。
 しかし、いくらなんでも酷過ぎる。これほどになるとは、いったいどれくらい我慢を続けているのだろう。今朝から――あるいは昨夜から? 可憐な少女の身体を占領する下品な恥水の量、温度、色合いに思いを馳せ、私はいつしか高鳴る胸を押さえられなかった。
 真新しいスカートの奥、ちらりと覗いた白くかわいらしい下着に包まれた柔らかな下腹部は、いまや石のように硬く張り詰め、乙女の水風船に溜まりに溜まった熱い奔流を溢れさせようとしているのだ。
 そんな危機的状況で、身動ぎしている少女の無防備な姿勢を、意地悪な尿意が見逃すはずもない。
 片方の靴を脱ぎ終えたところで、また少女の身体が硬直する。
「ふあぁっ」
 今度ははっきりと小さな悲鳴を上げ、少女は歯を食いしばった。
 靴紐を掴んでいた右手の代わりに、自由にな左手だけが、脚の付け根、大切なトコロをぎゅっと直接、押さえつける。
 スカートを細い太腿の間に挟み込み、華奢な少女の肢体、その身体の線が制服の上にまではっきりと露わになる。きつく股間に押し当てられた手のひらの上、引っ張られて身体に密着したスカート越しに、少女の我慢の証である乙女の水風船の膨らみ――ぷっくりとせり出すように、緩やかに弧を描く可愛らしい下腹部の様子が見て取れた。
「あ、あっあっ、っ!!」
 ほっそりとした肢体をも恥ずかしく歪ませるほどの、意地悪な乙女の恥水――なみなみと蓄えられた羞恥の現前は、先程よりもさらに切羽詰った、熱い呻き声と共にたぷん、たぷんと左右に揺れ動く。
 半脱ぎの靴を爪先に引っ掛けたまま、擦り合わされる脹脛が何度も緊張し、ぷるぷると震えていた。
「あぁ……っ」
 絞り出すようなかすかな悲鳴をあげ、少女は俯いた頬を震わせた。
 ぶるるっ……、ひときわ強い震えと共に、少女の細い腰がかくかくと前後に揺すられる。きつく前を押さえ込む手のひらに、身体の方からも脚の付け根を擦り付けるような、淫靡な動作だった。
 同時に、少女の白い肌が首筋までうす赤く染まってゆく。
「ぃや……だめぇ……っ」
 大きく首を振りながら、少女は熱に浮かされたうわごとのようにだめ、だめと拒絶の言葉をくりかえした。
 かすかに、鼻をかすめる少女特有の甘い香り。少女は太腿をなんどもすりすりと擦り合せて、『そこ』を持ち上げるような動作を繰り返す。
 少女の内腿を伝い、わずかにこぼれた水滴がぽた、ぽたっと玄関のタイルに散った。
「いや、ぁ……っ!!!」
 間違いない。少女は、とうとう我慢の限界を超えて、乙女の恥水を蓄えたダムの水門を緩ませ、下着に熱い雫をしゅるしゅると染み出させてしまったのだ。
 直接、その放水の瞬間を目にすることこそできなかったが、その様子はありありと想像できた。
 ま白い下着にじわぁと広がる羞恥の染みを想像し、私はなお高鳴る胸を鼓動が、少女に聞こえているのではないかと不安さえ抱く。美しく幼い少女――まさに思春期のただなかにある、今日制服に袖を通したばかりの最も可憐で繊細な年代の少女が、まさに目の前で繰り広げる『おもらし』の衝撃。これからの人生でもう一度巡り合えることなどまずないであろう幸運だった。
「ぁっ、あ……す、すみ、ま、っせんっ……」
 それでも、彼女は懸命に残る力を振り絞り、白い喉から言葉を絞り出した。
 足元に滲みだす羞恥の雫に屈し、その場に膝を折ってしゃがみ込みんでしまい――玄関を恥ずかしい噴水の迸りで濡らすようなことはせずに、ぶるぶると震える太腿をきつく閉じ合わせながら、ダムの崩壊を押しとどめる。
 その白い下着に、湿って暖かな薄黄色い染みを広げながらも、少女はなお諦めていなかったのだ。
 私が再度、トイレの場所を告げると、少女は俯いたまま、小さく首を縦に振った。
 うなじからのぞく耳はその先端までが朱に染まっている。晴れの門出の日に下着を濡らしてしまった『失敗』と、これから見ず知らずの家になりふり構わずにあがりこんでトイレを済ませることの恥ずかしさ――もはや少女の思考は恥辱で沸騰しているに違いなかった。
 どうにか玄関に靴を脱ぎ終えた少女は、そこでなお育ちの良さを知らせるかのように、苦労してその場に腰をかがめ、脱ぎ散らかした靴を揃えようとする。
 いまなお下着を濡らし続けているこの状態、一刻も早くトイレに駆け込んでしまいたいだろう。そんな余計な事をしている余裕などは露ほどもないだろうに、少女はこの上眉をしかめ、唇をかみしめて『ぁんっ……』と悩ましげな喘ぎを呑みこみながら、下腹部を庇うようにして革靴に手を伸ばした。
 が――私に背中を向けたことで、少女は無防備にも自分の『失敗』の証を晒してしまう結果となった。
 ぱんぱんに膨らんだ下腹部になるたけ刺激を与えないようにしているためか、少女の膝はほとんど曲がらず、前靴をしているような姿勢になる。
 無論、それは仕方のないことだ。いまにもはち切れそうな水風船を抱えたまま、しゃがんだりすればそれこそ、すぐさま乙女のダムの水門は水圧に負けて、すさまじい勢いの放水を始めてしまいかねない。少女としても妥協できるぎりぎりのところだったのだろうが、そんな姿勢で身をかがめるものだから、スカートの裾が大きく動き、膝裏が覗くほどにまでせり上がってしまう。
 すると、少女の内腿に、幾筋か伝い落ちる水滴の跡がはっきり見て取れた。
 少女の失敗の決定的な証拠、まさに『おもらし』の証を目の当たりにして、私の鼓動はさらに高鳴る。
 だが――自分がそんな姿をさらしているとはまだ気付いていないのだろう。はあはあと小さな唇を喘がせて、少女は苦労して再度向き直り、顔を真っ赤にしたまま大きくぺこりと頭を下げた。
「す、スミマせんっ……お、お手洗い、お借りしマス……っ」
 ああ、今――少女の足元を、濡れた染みを広げるスカートを指摘してやればどうなるだろう。どう控えめに評しても、少女の我慢は限界ぎりぎりの綱引きの只中だ。羞恥に少女のプライド、渾身の我慢、ありったけを載せてようやくつり合う天秤の反対側には、もはや耐えがたいほどの尿意がなお膨らみ続けているのだ。
 それを詳らかに言葉にして、抗う細い手を押さえつけ、あの無垢な耳元で囁いてやりたい。そんな衝動が強く、わたしの胸を打つ。
 嗜虐心と庇護欲がせめぎ合い、ついに私の口を突いて出たのは、

「大丈夫?」

 の一言だった。
 心から少女の身を案じる、親身な言葉――まあ、言葉の上辺、形だけをなぞればそう取れないこともないかもしれない。だがその意図は、当の少女にもはっきりと伝わるほどに明らかだった。どう見ても大丈夫ではない彼女に、敢えてそう訊ねる意図は、一つしかない。

 ――『オシッコ、そんなに我慢してるの?』

 ありありと羞恥をえぐる一言だ。
「っ…………」
 目に見えるほど激しく少女は動揺し、その場に硬直してしまった。顔をさらに俯かせ、赤くさせる。漫画であればぼんと頭から蒸気でも噴き上げていることだろう。きつく唇を噛み締め、小さく呻きを漏らし、内腿をぷるぷると震わせながら、ほんの少し、小さく、俯いたままの頭を上下させた。
 ついに。私は少女自身にそのことを、はっきりと言葉にして認めさせたのだ。
 その事実に、溢れる感動を噛み締めていると――再び信じられないタイミングで、少女がまた、激しく腰を揺すり始めた。尿意を認めたことで、さらに限界が近づいたらしい。もう隠す余裕もないのか、スカートの上から手のひらを挟みこむように股間を握り締め、あ、あ、と可憐な声をこぼす。
 少女はそうして恥も外聞もかなぐり捨て、襲い来る怒涛の尿意を少しでも和らげようとしている。
 私にトイレを借りる許可を取り付け、目的地まではほんの数メートル。
 もはや彼女を妨げるものなど何一つないというのに。彼女はいま、まさにこの場で、なおそれで激しく恥ずかしいほどの身悶えを繰り返さなければ耐えきれないほどの、猛烈な尿意を催しているのだ。
「ご、ごめんなさいっ!!」
 少女は私を押しのけるように前にふらふらと進むと、そのまま突きあたりの壁に手を突き、自身を苦しみから解放するためのドアへと、ゆっくりと進み始める。
 少女は身体を半分前に倒したお辞儀のような姿勢で、おしりを不格好に後ろに突き出した、まるでアヒルのような姿のよちよち歩き。既にソックスの半分近くが色を変え、不完全な少女の、湿った足跡が廊下に続いて行く。
「あ、あっあ、だめ、だめっ、……!!」
 しかし。わずか数十センチも進まぬうちに、切羽詰まって叫ぶ少女の声が廊下に響いた。
 びく、と大きく身体を硬直させ、蒼白になって、真新しいスカートの前を思い切り握りしめる。今日初めて身につけたのであろう制服は、すでに見るも無惨なばかりに皺くちゃだった。
「んぁあ……っ」
 顔を赤くしながら、左右の手で身体を前後から挟みこむようにして、はしたない場所を押さえ込む少女。
 そうしてまた、なんとか尿意の波を押さえ込もうと――或いは、乗り越えようとしたのだろう。しかし、限界を迎えている排泄衝動を押さえ込むのに、そうそういつまでも同じ手段が使える訳がない。
「っ、ぅ、あ、っ」
 爪先立ちになって、砕けそうになる腰を無理やり持ち上げ、ぐいいっ、と、スカートごとはしたなく掴んだ下着の股布を上に向けて引っ張り上げる。
 それでも前に進もうとしてた少女の足は、完全にその場に止まってしまった。
 湧き上がる尿意が内側から少女の身体を支配し、圧倒してしまったのだ。脚は歩くための機能を失い、ぎゅうっと閉じあわされてダムの決壊を押しとどめるためのものに。手は支えになる機能を失い、水門がこじ開けられないよう介添えするためのものに。
 さらにそれだけでは耐えきれないのか、少女はなんと小刻みに腰を上下させ始める。
 かくかくと腰を振る姿は、まるで盛りのついた犬のよう。清楚な外見にはあまりにもふさわしくない、羞恥極まる、下品なまでもの我慢の仕草――それは、少女の尿意がそれだけ切羽詰まった、途方もないものであることを知らせていた。
「は、っ、んぅ、あ、く、ぅうっ……」
 ギュッと目をつぶり、歯を食いしばって。
 だらしなくぷくりぷくりと膨らみそうになる、恥ずかしい乙女の水門を懸命に握りつぶす。
 だが、そうしている間にも紺色の制服、真新しいスカートの奥ではじゅ、じゅうと禁忌の水音が響き、少女の内腿にはつう、と水流がこぼれる。
 トイレまでの距離はあと4mと少し。
 既に少女の排泄は始まっていた。
「ぁ、あっ、あ!! だめ、だめぇえ!!」
 だらしなく緩み始めた乙女の水門が恥ずかしい音を響かせる。切なげな声を絞り出し、少女はついにその場にしゃがみ込んでしまった。もはや手の押さえ込みだけでは足りないと見えて、少女は立てたソックスのかかとに股間部分をぐりぐりとこすり付け、身体を揺する。
 スカートを挟みこむようにしてぐっぐっと体重をかけて股間をかかとに押し当て、少女はなんども首を振りながら、荒れ狂う尿意に必死に耐えようとする。不安定な股間を押し付けることで、荒れ狂う尿意をやり過ごそうとする最終手段。だが、地面にしゃがみ込んでのその体勢は、もっとも無防備に、排泄孔を地面に向けて晒すことにもなる。トイレ以外でするにはあまりにも無謀な姿だ。
「っ、あ……!!」
 少女の顔がみるみる羞恥に染まってゆく。立てたソックスのかかとの上に、こすりつけられる少女の股間――その紺色のスカートに、じわりじわりと染みが広がったのだ。トイレを目前にして、少女はまたも大きなおチビリを披露してしまったのである。
 はしたなく擦りつけられる足の付け根から、しゅるしゅると響く水音はもうはっきりと私の耳にも聞こえるほどで、たちまち少女のスカートは色濃く大きな染みを広げてゆく。
 ついに制服にまでオモラシの証を広げてしまい、さらにそれを見ていた私と視線が合ったことで、少女はとうとうパニックに陥った。
「っあ、あっあ、ち、ちが、違いマス、違うん、デス、これ、ぁっあ、ああっ」
 無理に立ち上がろうとして、持ち上げかけた腰から、じゅじゅぅっと熱い水流が噴きつけられる激しい音が響く。動転した彼女は、足をもつれさせ――そのまま大きく前方に倒れこんでしまった。
「んひゃぁッ!?」
 倒れこむように床に手をついた少女の濡れたソックスは床を滑り、足は左右に大きく割り開かれる。強く前に引っ張られていたスカートは、前傾姿勢を伴って腰上までめくれ上がった。
 うつ伏せになって腰を高く上げたような、恥ずかしい格好。曲がった膝の上、太腿の隙間に覗く下着の股布部分は、はっきりと恥ずかしい薄黄色に染まっていた
 転倒の衝撃に、一瞬、びくりと少女の身体が震える。
 同時、暴れ回る体内の尿意に振り回されるように、少女の下腹部が左右にくねった。
「う、うぁ、ぁっ」
 崩壊は一瞬にして始まった。
 恥ずかしいオモラシでたっぷりと水分を吸い、身体にぴったりと張り付くように足の付け根を覆う下着の、ちょうど股間の先端の部位。何度もきつく引っ張り上げられ、乙女の恥ずかしい孔にきゅっと食い込んで、細いたてすじの形や、羞恥の雫をにじませるはしたない水門の形すらを浮かび上がらせたその部位が、ぷくりと膨らむ。
 内側からの放水の圧力で、股布が盛り上がり、そこから激しい勢いの水流が床上に向けて迸った。
「いやぁあああ……ッッ!?」
 拒絶とも、悲鳴ともつかぬ少女の悲鳴。
 下着がみるみる色を濃く染め、その領域が膨らんでゆく。
 腰を小刻みに上下させ、懸命に閉じ込めようとするのをあざ笑うかのように、少女の下着を通り抜け、羞恥の噴水は激しく床へと叩きつけられてゆく。
「……ぁ、あぁ、ああっ……ッ」
 喉を震わせて、少女は身体の前から回した手で下着ごと股間を握りしめようとするが――少女の小さな手のひらに収まりきることなく、噴きだすオシッコが手のひらにぶつかり、激しく飛び散った。ぱくぱくと唇を開閉させ、小刻みに震える下半身から、なおも激しく噴水は続く。
 足元には見る間に、少女自身が作ってしまった黄色い水たまりが出来上がり、湯気を立てんばかりにして水面を揺らし、それが噴き出す羞恥の迸りを受けとめて、じゅじゅじゅと恥ずかしい音を響かせる。
 どれほどの間我慢を強いられていたのだろう。本当ならあと数メートル先のドアの奥、他者の視線を遮りひとりきりになれるトイレの個室の中で、きちんと正しい場所に排泄されるはずだったオシッコが、私の家の廊下に叩きつけられてゆく。
「はぁ、ぁ、あぅ……ぁ……ッ」
 下着に覆われていて直接は見えないと言っても、噴き出す恥水の水圧でわずかに膨らむ股布越しのオモラシは、はしたなくも黄色い濁流を噴き出させるいやらしい排水孔の存在をむしろ強調しているかのようだった。
 腿から膝裏にかけてを伝うように、大量の薄い黄色の熱水が噴き出し、廊下には見る間に大きな水たまりが広がってゆく中、少女は健気にもなお放水を堰き止めんとしていた。
 しかし本当の勢いで解放されてしまった乙女のダムを、いまさら塞ぐことなどできようはずもない。水門を閉ざそうと下腹部を震わせる少女だが、噴き出す水流は強弱を変え、断続的にぱしゃぱしゃと噴き出して水たまりを叩くばかり。
「ぁ……ぁ……いや、ぁ……っ」
 トイレを目の前にしての、オモラシ。折角ここまで我慢し、必死に羞恥を堪えて見ず知らずの他人の家のトイレを借りた、その矢先。苦痛から解放してくれる楽園のドアを目の前にして、ついに少女は尿意に屈してしまったのだ。
 はたしてどれほどの羞恥と屈辱であっただろう。
 見知らぬ家のトイレを借りるためにあがりこんで――あろうことかその家の廊下をオモラシで汚してしまう。たとえようもないほどの恥辱が少女を襲い、そして責め苛んでいた。
「ふぁ……っ」
 ぶるる、と小さく腰を震わせ、股布の合わせ目からまた、ぷしゅるると細い水流を迸らせた。
 下腹部に残っていたおしっこを噴出させ、床上に散らす少女は、足の付け根から迸らせる恥ずかしい熱水で、下半身をずぶ濡れにして――びしゃびしゃに濡らしたスカートを腰に張り付かせ、なおも足元に大きな水たまりを広げてゆく。
 排泄の解放感にぼんやりと視線を緩ませ、小さな唇を浅く開いて、荒い息を繰り返す――
 無防備で背徳感溢れる少女の姿に、私は目を反らすことなく、じっとその挙動の全てを目に焼き付けていた。



 (初出:書き下ろし)
[ 2012/07/14 12:56 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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