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dans la prairie 05 


 家から交差点の横断歩道をみっつと、歩道橋をひとつ。
 背の高い塀とそこから伸びた高い木の梢に囲まれたT字路は、見通しが悪い割にカーブミラーもなく、向こうから誰かがやってきてもすぐには気付けない。交通量があまりないことから放置されているが、色褪せた飛び出し注意の看板もここが危険な場所であることを訴えていた。
 このT字路に立つ電柱の根元が、志穂の散歩コース最初の『お花畑』であった。
 普段から友達にも犬みたいだと呼ばれる志穂だが、志穂はときどき、こうやって本当に自分の決めたお散歩コースを歩く、遊びをしている。耳の付いたフード付きのパーカーを羽織り、お小遣いで買ったチョーカーが首輪の代わりだ。
 ご主人様は居ないけれど、志穂はお利口なお犬さんなので、ちゃんと一人で『お散歩』ができる。目印になるのは人通りの少ない場所にある4か所の電柱。志穂が胸を高鳴らせながら、自分の『縄張り』を主張する場所である。
 そう。誰も居ない隙を見計らって、この4か所の『お花畑』である電柱の根元にたっぷりと我慢したオシッコを噴き付けてゆくのが、志穂のイケナイお犬さんごっこである。

 この遊びを思い付いた時、志穂の胸はそれを想像するだけでドキドキして、顔が真っ赤になってしまうくらいだった。過去に何度か我慢できなくて、道端でオシッコをしたことはあったけれど――自分でそれをしようと考えた時、志穂はまるで頭が沸騰してしまいそうに興奮する自分に気付いていた。
 最初の頃は、我慢したオシッコを途中で止めて次の縄張りである電柱――『お花畑』へ移動するのが大変で、途中の横断歩道の信号待ちなんかの間に思わずチビってしまったりしたものだが、今では一か所目の電柱ですっきりしてしまっても、次の電柱に来る事には自然に、おなかの奥からこぽこぽと尿意が湧き上がってくるほどだ。
 それどころか、志穂は学校でトイレに行きたいのをわざと我慢して、一度家まで帰って来てから着替えて、こうして『お散歩』に出ていくことすらあった。
 いつしか道ばたの電柱を、本当におトイレ代わりにしてしまっているという、とても恥ずかしい身体になってしまったことを実感し、志穂は顔を赤くする。
 けれど、イケナイことだと分かっていても、志穂はこのお犬さん遊びをなかなか止められずにいた。しゃがもうとしたところで見つかりそうになって慌てて逃げ出したり、パンツをおろしているところで友達に偶然会って不審がられたり、何度も危ないところを間一髪で助かって来たのだ。
 もっとも、冬になって雪が降ってからはすっかり余裕がなくなって――寒いのが苦手な志穂はお散歩を止めてしまっていたのだが――


 お母さんのお手伝いで、買い物がえりの途中。牛乳パックが2本入った重いスーパーの袋を抱えた志穂は、たまたまお散歩コースの途中にある電柱のひとつを通りがかったのだ。
「…………」
 志穂の『お花畑』――電柱の根元には、おそらく誰かが作ったのであろう可愛らしい雪ウサギがちょこんと二匹、並んでいた。誰かがこの雪を勿体なく思って、作ったのだろう。並ぶ雪ウサギはまるで兄弟みたいに身を寄り添わせている。
 心が温まるような微笑ましい光景――けれど。志穂には違っていた。
「…………………」
 じっと、電柱の足元の雪ウサギを見降ろし、志穂は頬を膨らませる。
 ここは志穂の場所だ。志穂の『お花畑』なのだ。いつも志穂がお散歩の旅に縄張りを主張しているはずのそこが、まるで誰かに奪われてしまったみたいだった。
 これを作った誰かは、間違いなくここが志穂の『お花畑』であることを知らないはずだった。もちろん知られちゃったりしても困るのだが……けど、けれど、それでも。
 志穂だけの秘密の場所が、誰かに占領されてしまったみたいで、なんだかすごく――イライラした。
(私がいけないんだ)
 寒いからって、お散歩を止めてしまっていたから。ちゃんと、ここが自分の場所であると、志穂の『縄張り』だと宣言するのをサボっていたから。誰かに、ここが勝手に使われてしまったのだ。
 ――そんな身勝手は、許されない。
 志穂の胸の中に、強くイジワルな感情が込み上げてきた。ここは自分の場所だ。志穂だけの場所だ。恐らく、志穂よりも小さな子が、寒い中小さな手を赤くして、一生懸命頑張って作ったのだろう雪ウサギ。
 それを、思い切り――滅茶苦茶にしてしまいたいという、嗜虐的な誘惑。
 一度思いついた想像は、どんどんと膨らんで志穂自身にも押さえきれなくなってしまっていた。
 或いは。
 昨日、クラスの女子達と頑張って作り上げたかまくらを、笑いながら踏み潰していった男子達の横暴が、志穂の胸に暗い影を落としているのは間違いない。
 これ以上、自分の場所を奪われるなんて、ごめんだった。
(…………)
 こくり、と硬い唾を飲み込んで、志穂は慎重に周囲を窺う。積もった雪の中、普段は頻繁に走りぬけてゆく車の影もなく、遠くを歩く人たちも雪の中で傘を深く傾け、周りを気にしている様子はない。
 志穂は少し離れた場所に買い物袋を放り投げ、ひんやりと足に触れる冷たさの中、志穂は防寒のタイツを膝まで引き下ろしてしゃがみ込んだ。高鳴る胸と共に、寒さでつんと高まった下腹部の衝動を、解き放つ。
 電柱の前ですっかり準備が出来ていたみたいに、志穂のオシッコは脱ぐと同時に脚の付け根から強く迸った。寒い中でじっと我慢していた水流は色も匂いも濃く、勢いよく迸り、雪ウサギを直撃する。黄色い水流がみるみる雪うさぎを直撃し、もうもうと湯気を立ち上らせながらその身体を溶かしてゆく。
 まるでレーザービームのように、志穂は隣のウサギにも照準を定め、オシッコを噴射した。二匹目のウサギも志穂のオシッコによって融け、じゃばじゃばと降り注ぐ黄色い海の中に沈んでゆく。
(あは……っ)
 無邪気な残酷さを見せる、志穂の表情に笑顔がのぞく。
 ぞくぞくと身体の奥に熱い衝動が高まってくる。いつものお散歩コースのように、身体の次の『お花畑』を求めて動き出していた。
 志穂はゆっくりと腰を振って雫を斬ると立ち上がり、買い物の途中なのも忘れて、次の『縄張り』へと向かって走り出した。




 (初出:書き下ろし)

 
[ 2013/04/19 21:23 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

dans la prairie 04 

 さっそく主題を取り違えてる気がしないではない。




「あった……!」
 広い公園の片隅に目的の建物を見つけ、観冬はぱあっと顔をほころばせる。スキップ混じりの小走りで向かう『そこ』は、素っ気ない灰色のコンクリート剥き出しで、面白い事など何もないですよと言わんばかりの飾り気のない外観をしていた。
 市民公園の片隅に、うち捨てられたようにぽつんと建つ公衆トイレ――それが、観冬の『お花畑』である。
 近々リニューアルを控えている予定の市民公園は、一般の公園にはちょっと見当たらない遊具やアスレチックが設けられており、クラスメイト達たちは皆そっちに夢中になっている。けれど観冬が今日の遠足で一番楽しみにしていたのは、間違いなくこのトイレにやってくることだったのだ。
 足音を潜め、入り口からそっと中の様子を窺う。
 公園の喧騒を余所に、公衆トイレの中は静寂に満ちていた。
 がらんとした室内に人の姿はなく、個室は景気良くドアを開け放ち、和式と洋式の便器までもが丸見えだ。
(…………)
 期待に膨らむ胸が高鳴る鼓動を刻む。バスに乗っている間からずっと待ちわびていたのだ。きゅんきゅんと下腹で疼く欲求はもう待ち切れないと限界を訴えていた。念入りに何度も周りを見回し、あたりに人の気配がないことを確認してから、観冬は慎重に観冬は慎重に、青いタイル張りの床へと足を踏み入れた。
「ん……」
 ぞわりと腰裏から背筋を撫でる尿意に、脚がすくむ。靴底が小さく砂を踏む音を立て、観冬は背筋を竦ませた。
 家を出る前からずっと我慢を続けていたせいでパンパンに張り詰め、硬く膨らんだ下腹部をさすりながら、緊張に強張る喉に、こくりっ、と唾を飲み込んだ。
「……オシッコ…っ…」
 ようやくトイレに入ることができたためか、じんじんと脚の付け根に疼く尿意が、いっそう膨らむのを感じる。最後の最後まで気を抜かないように、観冬はスカートの裾を押さえながらそろそろと脚を進めてゆく。
 そうして観冬が向かったのは、個室ではなく――
 その向かいの壁に据え付けられた、小用便器だった。

 観冬が入っているのは薄いピンク色のタイルが彩る婦人用のトイレではない。
 そのすぐ隣、水色のタイルが敷き詰められた、紳士用のトイレだった。

(わ、わたし、男の人の方のおトイレ、入っちゃった……)
 女の子の自分が入ってはいけない場所。その事実をはっきりと自覚しながら、観冬は火照った頬をごしごしと擦り、緊張に溜まった口の中の唾をもう一度飲み込んで、一歩を踏み出す。
 こくりと動く喉と共に、水分を感知したおなかが連動して、足の付け根のダムが水面を揺らす。たぷんと音を立てる乙女の貯水池は、危険水位を越えるぎりぎりのラインだ。少しでも波立てばそのまま溢れだしてしまいそうだった。
(あっ………)
 壁にある白い陶製の器具を前に、ぶる、と背中が震えた。突き出し気味に前屈みになった腰がくねくねと揺すられる。男性用の小便器――普通の女の子であれば一生縁の無いはずの器具に、観冬は魅入られたように吸い寄せられてゆく。
 男性用小便器。『オシッコをしてはいけない場所』という意味では、少女にとってこれ以上禁忌となる場所は無いだろう。まさにその禁忌の場所で、オシッコをするという行為は、どうしようもないほどに観冬の心を昂ぶらせるのだ。
 俯いた顔を真っ赤にしながら、観冬はそっとスカートの中に手を差し入れ、下着を下ろしてゆく。子供っぽい綿の下着から片足が抜かれ、足首にくるんと絡められた。
(…………っ)
 恥骨のあたりを刺激する尿意に身をよじりながら、観冬は大きくスカートの前を持ち上げた。腰上どころかおへそが見えてしまいそうなほどに捲りあげられたスカートの裾の下から、無防備な『おんなのこ』がのぞく。
 およそ、トイレの個室の中でも見せないような――無防備な姿。下半身をほとんど丸出しに、我慢したオシッコでぽこりと膨らんだおなかも覗かせて、観冬はほとんどトイレの中で裸になっているのに近い状態だ。
 ひやりとお尻を、ふくらはぎを撫でる冷たい風に、観冬はますます熱い刺激を足の付け根に感じ、もじもじと腰を揺すってしまう。
 熱の出たようにぼーっと霞む思考はなおぐつぐつと煮立ち、イケナイことへの期待に震える。。覚束ない足取りのまま、観冬は前に出た。足を肩幅よりも大きめに開き、背中を反らせ、前に突き出した腰を小用便器の中に押し込むように押し出す。
 慎ましやかに隠されていた『おんなのこ』が無防備に小さな蕾をほころばせる。
 男性用の小用便器――古めかしい呼び名で『朝顔』などと呼ばれるそれが、観冬にとってのオシッコの場所、『お花畑』である。
 慣れた様子で立ったままのオシッコの準備を整えると、観冬はそっと脚の付け根の力を抜いた。
「あ……っ」
 しゅっ、と、狭い出口を擦る水流の音が聞こえた思うと、勢いよく噴射されたおしっこが、便器の中を力強く叩く。少女の脚の付け根から噴き出す水流は、じゅじゅじゅぅうとはしたない音をトイレの中に響かせた。
「……ぁ……はぁあ……っ」
 ずっと我慢を重ねていた状況からの解放感が、とろけるような心地よさとなって観冬を迎える。激しい水流が白い陶器の中に思い切り跳ね、じょばじょばと大胆な音を響かせる。およそオシッコの勢いと噴射力で比べれば、女の子のオシッコは男の子のものよりもはるかに強力で、猛烈なのだ。
(お、男の子の、トイレなのに……わたし……ぉ、オシッコ……しちゃってるよぉ……っ!! ……こんなところで、た、立ったまま……っ、オシッコ……っ)
 ここは公園の公衆トイレだ。誰が来るかもわからない上に、それはクラスメイトの男子や、先生かもしれない。しかも観冬の服の胸元には、しっかりと学校名とクラス、名前を記した名札がある。。誰かに見咎められたら、まず言い訳はきかないだろう。
 そんなあり得ない背徳の状況に、観冬の胸はますます高ぶってしまう。それは同時に、少女の排泄をさらに大胆に、激しいものへと変えていく。
(すごい……いっぱい、出る……っ)
 張り詰めていた下腹部がみるみる萎み、噴き出す水流の勢いはいよいよ最高潮に達していた。股間の先端で飛沫を跳ねさせ、飛び散る水流は陶器の中を直撃し、じゅごおおと音を響かせ、白い泡を立てる。跳び切らないオシッコの雫は太腿を伝い、おしりへと伝いぽたぽたと水滴を散らす。
 あり得ない場所でのオシッコ――『お花畑』での少女の心を揺らす倒錯した歓びは、まだ幼い少女の性感を強く昂ぶらせてゆく。尿意からの解放と共に、背中を続々と突き上げる甘い疼き。まだ恋を知らない少女にとって、男子用トイレでのオシッコこそが、異性との心の繋がりを得られる場所である。
 刺激の強過ぎる快感は、心をとらえて離さない強い誘惑を伴うものだった。





 (初出:書き下ろし)
[ 2013/04/19 21:04 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

dans la prairie 03 

 雨の続く6月。今日もまた昨日と同じような雨が続き、代わり映えのないネズミ色の空がビルの谷間を覆う。
 織江は傘の柄を握る手に力を込めながら、雨の通学路を早足で歩いていた。
 靴底が水たまりを跳ね散らかし、防水の十分ではない足元にはいくつも飛沫が跳ねる。靴下まで染み込んだ雨の冷たさは、不快感を通り越して脚を重くさせていた。
 けれど、織江は歩みを緩めない。
「…………、っ」
 ぎゅ、ときつく力を込めた手のひらが、少女の切羽詰まった事情を訴えている。

 ――おトイレに、行きたい。

 確かに6時間目の授業中から、確かに軽い尿意を覚えていたのは間違いないが――ほんの数十分でここまで余裕がなくなるなんて、まったく予想していなかったことだった。家までは間に合うだろうと見切りをつけて昇降口を出てほんの10分で、織江は自分の軽率な判断を激しく後悔することになる。
 梅雨の寒気が買えたばかりの夏服のスカートを通り抜け、足元を冷やす。まるで湧き上がるように下腹部を満たしてゆく恥ずかしい液体。一旦意識した尿意は瞬く間に織江の水風船をぱんぱんになるまで膨らませてしまった。
 通学路は片道30分。まだ半分も来ていない。カバンと傘で両手が塞がって、織江はスカートの上から前押さえをすることもできなかった。もどかしく制服の上から脚の付け根に押し当てられた鞄の角が、下腹部の緊張をなお高めてゆく。

 ――家まで、間に合うだろうか?

 その問いかけに、当たり前だと答えることすら怪しかった。毎日続く雨に濡れた道路は普段よりも体力を奪い、歩くのにも余計な時間を要する。歩道のタイルは泥をかぶり、靴底が滑って歩くのも慎重にならねばならない。
 ふとした油断ですら、恥骨の奥にじんと甘い痺れを走らせる。もじもじと膝を擦り合わせていなければ、いつ足元に雨水以外の雫を迸らせてしまうかもわからなかった。

 ――だめ……オシッコ、ガマンできない……。

 身体が我慢の限界を訴え、早急にオシッコ済ますための場所へ向かうよう要求するのは当然のことだった。けれど、近くにトイレなどは見当たらない。通い慣れたはずの通学路に、織江の求める場所は見つからないのだ。毎日行き来する学校への道は住宅街を通り抜けるルートで、近くには大きな公園も、コンビニや店舗もほとんどない。今からそちらに向かうには大きく回り道をする必要があった。

 ――おトイレ、はやく……!

 織江の求める『オシッコの場所』が周囲のどこにも存在しないと言う訳ではない。むしろ住宅街という立地には、住人の数と同じだけのトイレがあるといっても過言ではなかった。
 だが、それらを使うには、織江自身が見ず知らずの近くの家を訪問して、住人に直接、どうしてもオシッコが我慢できないこと、だからトイレを使わせて欲しいことを申し出るしかなかった。それは、年頃の少女にはあまりにもハードルの高い行いだ。
 無数のトイレに囲まれながら、織江の入ることのできるトイレはどこにもなかったのだ。
 ……そんな最中。
 織江がふと眼をとめたのは、路肩に停車した一台の乗用車だった。
 標識のない場所を選んで停めてあるらしい車内には人影もなく、ブロック塀の傍で雨に冷たく濡れながら、まるで何年も昔からそこにあるかのように風景の一部に溶け込んでいる。
 なぜその時、織江が『そこ』を選んだのかは、織江自身にもよく分からない。ただの偶然、理由などなかったか。あるいは魔が差したというべきなのか。
 後になってみればもっと他にもふさわしい場所があったようにも思えるし、そもそも本当に家まで間に合わなかったのだろうか。いずれにせよ、それらの言葉は過去を振り返るもので、今となっては意味のないものでもある。
 そもそも、『そこ』で『そんなこと』をしようなんて、その瞬間まで織江には考えてもみないことだったのだ。

 ――ここで、おしっこ……しちゃおう……

 この時。まるで天啓でも舞いおりたかの如く。下腹部に迫りくる排泄欲求に従うまま、織江は、そこを人生初の『お花畑』にすることを選んでいた。
 今日のような雨の日の午後ともなるとたまに走りゆく乗用車かスクーターがせいぜいで、ひとけもまばらだ。
 織江は早足で車の裏に回ると、傘を首と肩にはさんで、その陰に隠れるように背中をかがめる。
 雨の中の気配を慎重にうかがって、誰もいないことを3回確認すると、ポケットからハンカチを出して折りたたんだまま端を口にくわえた。そのままスカートの中に両手を差し入れ、素早く下着を膝まで引き下ろす。
 スカートの中に吹き込んでくる雨に濡れた外気に、きゅん、と織江の『女の子』が震える。スカートの布地に隠れて大事なところは見えないはずだが、これから織江がしようとしていることはそれよりも恥ずかしいことかもしれない。
 緊張に詰まる息を、鼻から吐き落して、織江は車の陰に身をかがめてゆく。完全に腰をおろしてしまうと足元が濡れるので、中腰としゃがみ込むのの間くらいの中途半端な態勢。一度も野外でのトイレ――『お花摘み』の経験のない織江には、正しい屋外でのオシッコの方法など分からなかったのだ。
 けれどそんなもの勉強している暇もないし、家まではどうやったって間に合わない。かと言って、織江が使えるトイレはどこにもないのだ。お漏らしをせずに済ますには、ほかに選択肢はなかった。

 ――でちゃう……っ!

 織江はスカートの裾をつかみ、おしりのほうにも飛沫が回り込まないように注意しながら、徐々に腰を落としてゆく。
 地面は雨に濡れ、傘の端からこぼれる雫がいくつも波紋を描いている。流れる水の中に紛れて、織江のおしっこの痕跡はすぐに見えなくなってしまうだろう。
 高鳴る胸を抑え、荒くなる息をつめて、視線は自然、足元へと向かう。織江がいよいよ震える脚の付け根に『放水』の許可を出そうとしたその時。
 雨音の中に混じる物音が、はっきりと聞こえた。
 はっと顔を上げた織江の、霞む視界の向こうに、ぼんやりと浮かび上がるオレンジのランプ。こちらに向かってくる乗用車の存在をすぐに理解し、織江はあわてて下着を引っ張り上げた。
 せっかく開きかけた水門を再度閉じるのは、並大抵のことではなかった。ギュッと目を閉じ、言葉も発せず、織江はその場に立ち尽くす。腰が震え、脚の付け根をこすり合わせるように、左右の足が交互にもう一方の足をこする。
 路肩に停めてある車を迂回するように、乗用車が走り去ってゆく中。
 織江は、じっとその場に立ち尽くしていた。


 ようやく戻ってきた静寂の中、いまさらのように鼓動が激しくなってくる。耳元で聞こえるくらいに高鳴る動悸は、安堵とともに恐怖にも似た感覚を織江にもたらしていた。
 再度、誰もいなくなった通りだが、織江はもう、その場にしゃがみ込もうとすることはできなかった。
 車の影、織江がきつく握り締めた傘の下。雨音よりも強く激しい雫が少女の革靴とソックスに振り注ぐ。ふくらはぎを膝の裏を伝い溢れる水流は滝のように、少女のスカートの奥、ぴたりと寄せ合わせた腿の隙間から噴き落ちていた。
 無理に引き上げたせいでぐっと脚の付け根に食い込む下着に、お茶をこぼしたような熱い湿り気が拡がってゆく。しっかりと傘に守られていた制服のスカートに、水たまりに思い切り飛び込んだみたいな大きな染みが広がり、みるみる織江の下半身を包み込んでゆく。
「………っ」
 こぼれそうになる叫びを噛み殺す、織江の荒い息づかいが傘の下に響く。
 雨音は強く、けれど織江の足元にばちゃばちゃと溢れる雫の音はなお激しい。黄色い滝は足元の水たまりに融けるように広がり、降り続く雨と混じりながら緩やかにアスファルトの上を流れてゆく。

 ――あ……ぁ……。

 ぎゅっと押さえた脚の奥から、底の抜けた樽みたいに、中身がこぼれおちてゆく。満水のダムは見る見る水位を下げ、そのそう快感に頭がすうっと軽くなる。
 ぱくぱくと口を静かに開閉させながら、織江は呆然とその場に立ち尽くしていた。
 ……そのまま、5分も過ぎただろうか。
 織江の下腹部にずっしりとのしかかっていた重みは嘘のように消え、ちくちくと脚の付け根を苦しめていた重苦しい尿意はどこにもない。
 雨はなお続き、びちゃびちゃに濡れたスカートが脚に絡み付く。徐々に冷えはじめた下半身が、失われる熱を求めるようにぶるりと震えた。
 びしょびしょの制服、濡れぼそった下着、たっぷりと水分を含み、がぼがぼと音を立てる革靴。
 まぎれもない、『オモラシ』の証拠。

 ――やっちゃった……。

 織江の『お花摘み』はあえなく大失敗に終わってしまったのだ。それどころか、きちんと『お花畑』まで我慢することもできなかった。
 唇をきつく噛んだ織江の手から、傘が落ちる。
 まだ織江のオシッコの混じる水たまりに落ちたお気に入りの傘を振り返る事もせず、少女は早足で、その場を駆け出してゆく。
 なお振り注ぐ雨が、その身から恥辱の全てを洗い流してくれることを願いながら。




 (初出:書き下ろし)
[ 2013/04/19 21:03 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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