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買い物帰りの話。 

 
 賑やかな大通りから一本、道を入ると、たちまち喧騒は遠ざかってゆく。
 植え込みと赤レンガで舗装された歩道は途切れ、真新しいアスファルトが規則正しく碁盤目のように続く清潔な佇まいの一角は、まだ開発の続く新興の住宅地だ。
 昨今の不景気で開発が遅れ、まだ分譲の幟がそこここに見える区画には歯の欠けた櫛のように更地も目立ち、さほど人通りも多くない。
「んっ、しょ……っ」
 夏休みの午後とあって、車も滅多に通らない道の真ん中あたりを、危なげな足取りが進んでゆく。
 頭の後ろで左右に髪を括った年端もいかない少女は、身体の前に大きなレジ袋を両手で抱えていた。レジ袋のロゴは、ここから程近い量販店のもの。どうやら今日のお使いを済ませた帰りと見えた。
 ぎっしりと中身の詰まったレジ袋は少女にはやや大きく、両手で持ち上げていないと地面を擦ってしまいそうだった。荷物を抱えた不安定な足元は、頼りなくふらふらと左右に揺れている。
 だが、所在無げに周囲を見回し、落ち着きない足取りは、単に重い荷物を抱えているだけが理由ではなさそうだった。
 ふいに、少女の脚がぴたりと止まる。
「うぅ~~……ッ」
 道路の真ん中で立ち尽くし、小さく唸る少女の眉はハの字を形作り、困惑と戸惑いをはっきり知らせていた。
 は、は、と荒い呼吸が形の良い小鼻を膨らませ、唇は吐息と共に小さく噛み締められる。ほんのりと赤く染まった耳たぶは、俯き加減の少女の羞恥の度合いを知らせるよいバロメーターだ。
 少女は無理をして足を踏み出そうとし、そのままよたよたとバランスを崩した。レジ袋の重さに負けた小さな身体は、踏みとどまれぬままにふらふらっと道の片側に寄りかかってしまう。
「や……っ」
 わずかに声を上げ、小さな手のひらがレジ袋を抱えなおす。
 その時にさりげなく、少女は片方の手でスカートの前を押さえ、ぎゅう、と脚の付け根を圧迫した。
 こみ上げる衝動に耐えかねてのその動作は、しかしそれだけに留まらない。一瞬だけ応援に向ったはずの手のひらは、そのまま少女の下腹部をきつく押さえたまま、動かなくなってしまう。
「んんっ……」
 内股に寄せられた脚は小さく震え、つぶらな瞳はきつく閉じられ、小さなあごはちょんと突き出されて上を向く。それら全てが少女の限界が程近いことを示していた。 普通に歩くこともつらいほどに、少女はその身体の中に恥ずかしい液体を溜め込んでいるのだった。未発達な下腹部を膨らませる液体は、一歩ごとに危険水域を突破し激しく水面を波立たせている。
 しかも、重い荷物を抱えたままでは、両手がふさがってしまい思うように前押さえもできないのだ。大通りを抜けたところで人目が途切れ、緊張がわずかに緩んだことによってか、少女は往来で幼稚園児のような我慢の仕草を披露してしまっていた。
 道路の傍らの壁に背中を半分預けるような格好で、小さな脚がたん、たん、と交互に足踏みを繰り返す。同時に腰が左右に揺すられ、膝上のスカートもひらひらと揺れる。ぶれる身体と共に、ちゃぷちゃぷと揺れる水音が聞こえてくるかのようだ。
 だが、もともと住宅街であるこの近所に、少女が気軽に立ち寄れるようなトイレはない。見ず知らずの家でトイレを借りるなど、まだ幼い少女にはとても考えも付かないことだった。
 もうとっくに幼稚園なんか卒業して、ひとりでちゃんとお使いにもいける自分が、いまさらおしっこが漏れそうなんて理由で知らない人に迷惑をかけるわけにはいかない。幼いなりに、少女にも羞恥やプライドというものがあるのだ。
「ん……っ」
 下腹部がわずかに落ち着くのを見計らって、少女は再度、大きなレジ袋を持ち上げてはそろそろと進み始める。このまままっすぐ歩いて交差点を三つ、横断歩道を二つ越えれば、ゴールである少女の家まで辿り着ける。
 しかし、スーパーを出た時は我慢できると思っていたはずの家までの道のりは、いまは果てしなく遠く思える。ましてこの大荷物を抱え、寄せ合わせた膝の上に満水のダムを抱えたおぼつかない足取りではなおさらだ。
 今からでもいいからもと来た道を戻ってスーパーに入り直し、トイレを借りたほうがいいのでは……そんな思いが少女の頭の端をかすめる。
「おしっこ……っ」
 無視しようにも、あまりに強烈な存在感を訴える尿意が、股間からぐうっとせり上がってくる。それに押し出されるように少女ははっきりと尿意を口にしてしまっていた。同時に、歩き出そうとした脚がまたぴたりと固まり、少女は道の真ん中で立ち止まってしまう。
「だめ……でちゃう……」
 一度そう意識してしまえば、辛うじて保たれていた均衡は脆くも破られ、後は際限なく片方へと傾き崩れ出すばかりだ。きゅうんっ、と切なく疼いた下腹部に、少女はぶるっと背中を震わせる。
 なんとか家まで持たせようという心が挫けてしまえば、身体のほうも同時に音を上げる。少女の水門はこれまでの絶対的な使命だった第一目的“家に到着するまで”を放棄し、“どこか、トイレのできる所”までという短く楽な目標に、我慢のモードを切り替えてしまう。
「ぁ、あ、っ」
 ソレは、排泄器官が放水の準備とカウントダウンを始めることに他ならない。たちまち押し寄せる膨大な尿意に支配され、少女は焦ったように脚を擦り合わせ、何かに縋るように周囲を見回す。
 が、そうなったからと言って周囲の状況が変わるわけでもなく、無論の事ながらそう都合よく少女の欲求をかなえる場所など、あるはずもない。
 とっくに確認していたはずのことに、改めて少女は落胆し、それに連動してますます下腹部がぴくんと反応し、限界を訴える。切羽詰った尿意に押し動かされるように、少女は“最後の手段”を選ぶことを余儀なくされた。
「っ……」
 それは、野ション――いわゆる野外排泄だった。
 我慢しきれないおしっこをするため、トイレではない場所へと向かう――そんな自分に激しい嫌悪を感じながらも、同時にオモラシの恐怖から逃れる一心で、少女はそれを選択していた。
 赤く染まった頬を隠すように俯き気味に、少女は歩く道路の反対側、更地のまま放置されて雑草が生えた区画に向って歩き出した。
 雨ざらしになったどこかの不動産会社の看板を乗り越えて、柵もない更地の茂みの中へ踏み入れた少女は、そこに抱えていたレジ袋を下ろす。そのまま、周囲を念入りに確認しながら雑草を掻き分け、さらにその奥へと進んでいった。
「んぅ……っ」
 がさがさと草を押し分けると小さな虫が飛び回り、否が応でも“お外でのおしっこ”を少女に自覚させる。何度も何度も周りを見回して、茂みの中心地へとたどり着く頃には、緊張と焦りでもはや我慢の限界はカウントダウンの秒読みを数えるまで近付いてきていた。もはや家まで我慢できないことは明白だ。
 しちゃいけないことだと頭では理解できていても、くつくつと煮えたぎる尿意には逆らえず、少女はなおも念入りに回りを確認し、人目がないことを確かめてから、スカートをたくし上げ、下着を膝まで下ろして茂みの中にしゃがみ込む。
 幸いにして生え揃っている雑草はかなり背が高く、少女の小柄な身体ならば背中を丸めて深く腰を下ろしていれば、よほど注意して眺めなければ見つからないだろう。
「…………」
 あらわになった白い下腹部の幼い秘部、まだ細いたて筋しかないそこが、小さく震え、我慢による汗でしっとりと湿っている。
(が、がまんできないんだもん、しかたないよね……)
 これからはじめるおしっこに、罪悪感とぬぐいきれない羞恥を、緊急避難として正当化し、早まる鼓動にぎゅっと口をつぐみながら、少女は最後の防波堤となっている緊張をゆっくりと抜いてゆく。
 閉ざされていた水門が緩やかに弛緩し、しゅぅ、と小さな水音を響かせ、熱い水流にぷくりと膨らみ――
 その時、
「……あっ!?」
(や、やだっ、袋、おきっぱなしだ……っ!!)
 更地の入り口に放り出したレジ袋に思い当たり、少女は背筋を震わせた。買ったばかりの物が沢山詰まっているそれは、どう見ても道路から丸見えで、通りがかった人の注視を引いてしまうように思えた。
 大事なお使いの買い物を、おしっこをするところのすぐ近くまで持っていけないという少女の心理が、かえって悪く働いた結果だった。
 思わず腰を浮かしかけるが、ソレよりも早く、少女の股間からは塞き止め切れないおしっこがぶじゅうぅ、と噴出してしまっていた。緊張と焦りでヘンな具合に下腹部に力が入り、半分閉じ欠けた排出口は妙な具合によじれ、おしっこはまっすぐ飛ぶことなく脚の内側に激しくびちゃびちゃと飛び散った。
 まるで、ホースの先に手を押し当てているかのように、曲がりくねって入り組んだ出口に篭った水流はスプリンクラーのように、少女の内腿に所構わず水流をほとばしらせる。
「あ、あぁ、っ」
 放出の解放感が、足元をふらつかせる。我慢に我慢を重ねていたものが一気に吹き出す感覚は、ぞくぞくと少女の恥骨から腰骨を伝い、背中を震わせてしまう。
 中途半端に中腰になりかけたせいでバランスを崩し、おまけに膝には脱ぎ掛けの下着が絡み、おぼつかない脚はふらついた身体をとどめきれない。ましてこれまでも、溢れそうになるおしっこをずっと塞き止め続け、少女の下半身はすっかり疲労していた。
 がくり、と、倒れこむ身体はがさぁっと大きく茂みを掻き分け、少女は反射的に地面に手を付いた。
 その瞬間。
 ずるうぅ、と、地面にあるはずの手のひらに、異様な感触を覚え、少女は戦慄する。少女が身体を支えようと手を付いた茂みの下には、1mはあろうかという大きな蛇が、ぐねぐねと身をのたうたせていたのだった。
「っ――――ッッ!?」
 声にならない叫びと共に、少女は飛び上がった。そのまま全速力で跳ね起き、まっすぐに茂みを飛び出そうとする。
 が、足に絡む下着はそれを遮り、急激な緊張に収縮した下腹部はそのままおしっこを継続してしまう。
 恐慌に陥った少女が、這いずるようにしてどうにか更地から道路に転がり出たときには、とっくに本格的に少女のオシッコが始まっていた。
「あ、ぁ、あっ、あっ、や、あぁ」

 じゅじゅっ、じょぅぅ、ばちゃ、ばちゃばちゃびちゃ……じょぼぼぼぼぉぉ……

 腰を抜かし、力の抜けた下半身では、いっさいのストッパーを失って、本当の勢いでオシッコが溢れ落ちて行く。
 レジ袋のすぐ側に膝を付いて倒れこんだ少女の足元から、薄黄色い水流がほとばしる。内腿を滝のように伝い、波打って暴れるオシッコは、スカートと下着を完全に水没させ、むき出しの地面を色濃く変えながら、アスファルトの地面のほうにまで流れてゆくのだった。
 ぱしゃぱしゃと足元を濡らしながら、呆然となる少女を、まるで出迎えるように。
 すぐ近くから、賑やかな話し声が聞えてきた……。



 (初出:書き下ろし)
[ 2009/07/27 20:41 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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