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小さな従姉妹との話。 

 うららかな秋の陽射しの中、群れ生えるススキが静かに穂を揺らす。
 川面の響かせる水音に街中の喧騒は押し流されて、高い青空はどこまでも晴れ渡っていた。

「たまには揃って買い物もいいなぁ」
「そうねえ。こうやって一緒にのんびり歩くなんて、子供の時以来じゃないかしら? そう言う意味じゃ、父さんに感謝かもね」
「……なあ、覚えてるか? 姉さん、昔兄貴と一緒にそこの川で泳ごうとして溺れかけて、大騒ぎになったよな?」
「ちょっと、嫌なこと思い出させないでってば」
「あー、あれは大変だったよなぁ」

 まだ残暑の残る9月の週末、真奈美は両親に連れられ、電車に乗って祖父の家までやってきていた。お彼岸を前に、親族揃ってのひと足早いお墓参りだ。
 午前中に用事を済ませ、レストランでのお昼を挟んでののんびりとしたお散歩。
 川縁の堤防の上続く砂利道は、ずっと昔、おじさんやおばさん達が子供だった頃、父親と一緒に遊び場にしていた場所らしい。
 遠く、高速道路の下をくぐって流れてゆく川を見ながら、皆がゆっくりとした足取りで思い出話に華を咲かせている。
 そんな中、真奈美だけは少し離れた道の先を、じれったそうに進んでいた。

「ねえ芳乃さん、いいこと教えてあげようか? その頃からこの子ったら臆病でね? 小学校で肝試ししようってことになってさ」
「ちょ、待て、姉貴、その話は――」

 真奈美は靴の先でがりがりと砂利を跳ねさせ、片方の手をぎゅっとスカートの上、内股になった脚の付け根に押し当てていた。突き出されたお尻が小さく震えると、靴のかかとが小刻みに地面に擦りつけられる。
 その表情は青く、血の気も引いて白い。小さく開かれた唇は、はあ、はあ、と荒い息を繰り返していた。
 しかし、童心に帰ってふざけ合う両親たちは、そんな真奈美の異様な様子に気付くこともない。

「――そうなんですか。大志さんにそんな頃がねぇ……」
「おいおい、昔の話だって。そんな事言ったら姉貴だってよ、運動会の時だかに体育倉庫に閉じ込められて――」
「あぁああっ!? いや、その話は駄目。やめて!?」
「あらあら……真奈美、そんなに先行かないの。迷子になるわよ」
「う、うん……」

 母親に呼び止められ、真奈美はじれったくその場に立ち止まる。
 ぎゅっと手を握って両親たちが追いつくのを待つが、いくら真奈美が心の中で早く、早くと念じても、お喋りに夢中な皆の歩みはあまりにも遅い。
 すぐにじっとしていることが出来なくなり、真奈美はその場で行進の練習のようにじたばたと足踏みを始めてしまった。

(っ……もぉっ、はやく、はやくしてよぉ……!!)

 気ばかりが急くが、そんなテレパシーはもちろん通じるはずもなかった。
 余裕なくぐりぐりと太腿が擦り合わされ、スカートを掴む指に力がこもる。

(おトイレ……っ!!)

 心の中の憤りを形にするように、ぎゅっと口をつぐむ。
 真奈美は、もうずっと前からオシッコを我慢していた。
 そもそも、お墓参りに行った時からトイレに行きたいなとは感じていたのだ。けれどお寺のトイレは薄暗くて、汚れていて、さらには蜘蛛の巣まで張っていたため、とても中に入る気にはなれなかった。
 だからとりあえず我慢することにしたのだが――まさか、バスに乗って移動した先のレストランでもトイレに行けないなんて思いもしなかった。レストランのある郊外の大型商業施設では屋外のイベントが開かれていて、婦人用トイレはまさに長蛇の列だったのだ。
 我慢できない小さな子たちは大人に連れられて男の人の方のトイレに入って行ったのだが、まさかとっくに幼稚園を卒業した真奈美がそれを真似するわけにもいかない。

(はやく帰ろうねっていったのに……っ!!)

 レストランでもおしっこを済ませることができず、真奈美はもう今すぐにでも家に帰りたい気分だった。
 けれどその時は、それからバスに乗ってすぐに帰るのだと思っていたので、それまでの30分くらいなら我慢できるだろうと考えてしまったのだった。
 しかし、両親たちは折角だから歩いて帰ろうと言い出し、祖父の家までの道のりをのんびりと散歩することになってしまったのである。
 30分なんて時間はとっくに過ぎ、いまや真奈美の我慢は最高潮だった。
 一刻も早く祖父の家まで戻って、トイレに駆け込みたい一心なのに。

「そんなこと言うなら兄貴だって、先生に悪戯してばっかりだったじゃないか」
「ばか、そんなのは4年の時に卒業したぞ? それからは心を入れ替えてだな――」
「あら? 生徒会であんな悪ふざけしてて良く言うわねぇ」

 さっきから何度も、真奈美は両親の袖を引いて、トイレを訴えようとしていた。しかしお喋りに夢中な両親は、はいはいと生返事を返すばかりで、まるでとりあってくれない。母親の方は、歩き疲れた妹を抱えるので精いっぱいだ。
 だから、せめて早く――少しでも早く、祖父の家まで戻りたいのに。

(んんっ……はあっ……)

 いっそのこと、自分だけ先に帰ってしまおうかとも思った真奈美だが、しかし祖父の家に来るのがほとんど始めての真奈美には、このあたりの道は全く分からない。
 さっきから何度も走り出そうとして、けれど迷子になってしまうかもしれないという不安が、まるで見えない縄のように真奈美の身体を縛り付けていた。
 肝心の大人たちは思い出話に夢中で、じれったくなるくらいののろのろ歩きだ。しかも、交差点や川、駐車場やマンションになった元空地を見るたびに足を止めてはそう言えばこんなことがあった、あんなことがあった、と話を始めるので、まったく先に進まないのだ。

「……おトイレ……っ」

 あとどれくらい我慢すればいいんだろう。真奈美の胸をひり付くような不安がよぎる。
 いまだに見覚えのある祖父の家は見つからず、先の見えない道のりの中、終わりのない我慢を続けていられる自信は、徐々になくなりつつあった。

(はうぅ……っ)

 ぎゅっ、とスカートの上からあそこを押さえ、真奈美は小さな身体を懸命に震わせる。もうお姉さんなんだから、こんな恥ずかしい格好なんてしちゃいけないのに――そう思うも、もうそうやって押さえていないと、我慢が出来ないのだ。

「あっはっは。ダメだなあお前ら。恥かいてばっかりじゃないか」
「そりゃそうだけどよ、兄貴……」
「あら。そうでもないわよ? 大志は知らないかもしれないけど、兄さんだってね、卒業式の時に……」
「ん? おい待て恵、その話どこで――」
「幸恵さんに教えてもらったのよ。ねえ、芳乃さんも聞きたいでしょう?」
「ふふふ、聞いちゃってもいいの?」

 いくら焦っても、大人たちの脚が早まる様子はない。
 じわっと膨らむ尿意に悶えながら、真奈美はきつく口を引き結ぶ。

(あ……っ、だ、だめ……っ)

 ぞわあ、と下腹部にかかる水圧が増し、まるで締め上げられたように恥骨の上あたりが鈍く痛む。ぱんぱんに膨らんだ水風船が、身体の外側にせり出し始めているようだ。真奈美は懸命に脚を閉じ合わせ、それを押さえこもうとする。
 焦った真奈美は、とうとう意を決して母親のところまで駆け戻った。下腹部に余計な震動が響かないよう、慎重に脚を進めて――

「ええ!? それ本当なの?」
「初耳だぞ、兄貴~?」
「い、いやあ、だからな? その時はほかにどうしようもなくてだな……」

 話を弾ませている伯父さん達には気付かれないよう、そっと妹を抱いている母親の袖を引っ張った。小声でそっと、声をかける。

「ね、ねえ、お母さん……」
「へえ。そうなの? 見かけによらないのね……ん。どうしたの、真奈美」
「…………あの、あのね。……ぉ、おトイレ……」

 羞恥をこらえ、そっと小声で告げた尿意に、母親はしばしの間の後、眉をしかめた。

「……トイレ? 我慢できないの?」
「……う、うん……」
「どっち? 大きい方?」
「……、お、おしっこ……」

 身を屈めるようにした母親に、やや語気荒く問われ、真奈美はわずかにたじろぎながらも首を横に振って、答える。
 おしっこ、と聞いた母親は、いくらか安堵したようだった。
 しかし、話を弾ませている父親たちの方を見、小さくため息をつく。

「……そう。なら、おじいちゃんの家まで我慢できるわよね?」
「え……っっ」
「大丈夫でしょ? もうお姉さんなんだから。平気よね?」

 予想外のセリフに、真奈美は顔を曇らせる。
 我慢できないから訴えたのに、それでは意味がない。再度訴えようとした真奈美をぴしゃりと遮るように、母親は声を強める。

「お、お母さん……わたし、おしっこ……でちゃう……」
「真奈美。あなたもうお姉ちゃんでしょ? わがまま言わないの。近くにトイレもないし……」

 母の対応は、親戚の前で、娘がトイレを訴え――困らせることを危惧したものだった。きちんとトイレのしつけも出来ていない、と言われてしまえば、立場がない。そのための予防線だったのだ。
 近くに川の流れる田園の畔道には、公衆トイレどころか民家もまばらで、コンビニも見当たらない。母親の判断は間違っているわけではなかった。なおも食い下がろうとした真奈美に盛り上がる父親の様子を示し、母親は言い聞かせる。

「で、でも」
「ほら。お父さんたちもお話してるんだから。静かにしてなさい。……あはは。ごめんなさいお義姉さん。ちょっと聞き逃しちゃって……それでそれで?」

 それでおしまい、とばかりに。真奈美の訴えを取り下げて。
 母親たちは再度話しはじめてしまった。

(そんなぁ……っ)

 取り残されたように、真奈美の心にギュッと不安が押しよ押せる。ますます尿意が強くなり、よちよち歩きのようになりながら、真奈美は荒く息を繰り返す。

(ふーっ、ふぅーっ、ふうぅーーっ……)
(あ、あっあ、。っ……おしっこ、おしっこしたい……おしっこでちゃう……。おトイレ行きたいよぉ……)

 もはや真奈美には言いつけられたことに逆らうだけの余裕はない。
 恥を忍んで訴えたトイレの要望に対し、まさかの我慢を強いられながら。真奈美はふらふらと、砂利道を歩き続けるのだった。






 しばらく歩いた時だった。
 母からの理不尽極まりない要求に対しても抗うことなく、じっとおしっこ我慢を続けながら歩いていた真奈美の後ろで、いつの間にか遅れがちになっていた伯母が、まだ小さな従姉妹のそばに近づいてその顔を覗き込む。

「あら、どうしたの、裕菜」
「……っ……」

 まだ幼稚園にあがったばかりの従姉妹は、すっかり顔を赤くしていた。伯母の問いかけにも上手く答えられないのか、ぷるぷると首を振って、左右に括った髪の毛を振り、泣きそうになってくしゃりと表情を歪める。

「どうかしたのか?」
「……うん、ちょっと、裕菜がね」
「おう、……そうか」

 困ったわ、とでも言うように、伯母が眉を寄せる。
 大人たちは何かを察したのか、ああ仕方ないなあ、という表情を浮かべていたが、真奈美はそれどころではない。
 “おあずけ”されているトイレのためにも、大急ぎで、おじいちゃんの家まで帰らなければいけないのだ。焦れたようにその場に足踏みをして、クネクネと腰を揺する。

(も、もうっ、はやく、はやくしてよぉ……!! 漏れちゃう、漏れちゃうよぉ……!!)

 しかし、その場に足を止めてしまった大人たちを置いていく訳にもいかず、真奈美は交互にスカートの前を引っ張って、じたばたと砂利道の上を歩きまわるしかなかった。

(ふーっ、ふうぅーっ、ふうーっ……)

 荒い息を繰り返しながら、小さなおなかを膨らませている苦しみの元を、ぎゅうぎゅうと握り締めるようにさする。トイレ、早くトイレ、と何度も訴える下腹部は、もういまにもはち切れてしまいそうにパンパンだ。
 そんな時。

「おしっこぉ……!」
(えっ……!?)

 切なる訴えが、真奈美をはっとさせる。
 叫んだのはもちろん、真奈美ではない。お姉さんの真奈美がそんな事を人前で叫んだりするわけがない。声の主は、顔を赤くして、丸い目に涙をにじませた裕菜のほうだった。
 どうやら、裕菜も真奈美と同じように、ずっとおしっこを我慢していたらしい。
 それはそうだ。裕菜と同じようにレストランでご飯を食べて、それから延々、大人たちと一緒に河原を散歩しているのだから。真奈美が我慢できなくなるくらいだから、裕菜だってもちろんもうトイレの限界だろう。
 たしか、裕菜もレストランを出かける前にトイレに入ろうとしなかったことも思い出し、裕菜はふと気付く。

(そ、そうだ、チャンスかも!!)

 本音を言えば、本当に祖父の家まで我慢できるかどうか怪しいものだった。周りの景色はさっきとほとんど変わらず、いったい後どれだけ歩けば帰れるのかよくわからない。
 けれど、小さい裕菜までトイレに行きたいと言い出せば、流石に大人たちだって無視はしていられないだろう。
 これでトイレに行けるかもしれない。真奈美の心は浮足立った。

「あらあら……困ったわねぇ」
「便所なあ。この辺あったか?」
「兄貴の方が詳しいだろ」

 しかし、大人たちも近くのトイレの心当たりはないらしい。
 そして会話の流れからして、やはり祖父の家まではまだかなり時間がかかるようだった。そのことは真奈美を大きく落胆させた。

(そんな……で、でも…っ)

 ちらりと、真奈美は立ちつくしてしまっている裕菜の方を見る。年下の従姉妹は小さな膝をぷるぷると震わせて、懸命に口を横に結んで、精一杯耐えているようだった。きっとずっと一人で我慢していたのだろう。仲間がいたことに、少しだけ真奈美はほっとする。
 けれど、どう見ても、裕菜にはもう余裕はなく、祖父の家までガマンできそうには見えなかった。一縷の期待と共に、真奈美は息をのんで大人たちの会話の行方を見守る。

「しょうがないわ……ちょっとその辺でさせてきちゃうわね」
「ああ、わかった」
「ねえ、おかぁさんっ……」
「はいはい。……裕菜、もう少し我慢してね」

 伯母さんが、済まなそうに頭を下げ、裕菜の手を引いて川岸の茂みへと歩きだしてゆく。するとそれを真奈美の母が追い掛けようとた。

「お手伝い、いる?」
「そうね、でも大丈夫よ。すぐ済ませるから」
「そう? ふふ。でもしょうがないわよね、まだ裕菜ちゃんも小さいんですもの」
「あら。でもそうねえ。真奈美ちゃんはいいわよねえ。手が掛からなくて」

 もう限界だった。伯母さんの向かう茂みに、真奈美の視線はがっちりと固定されてしまう。あそこだ。あの、少し背の高い茂みの陰で、裕菜はおしっこをするのだ。

(じゃ、じゃあ……わたしもっ)

 もはや我慢は限界に近い。まして、裕菜の我慢を目の前で魅せられ、さらにはその裕菜があそこでおしっこをしようとしているのだ。その上で真奈美だけが我慢をしようなんて、あり得ない。
 もじもじと擦り合わされる脚は一時もおさまらず、おなかの中のむずむずは、出口のすぐそこまで降りてきている。おしっこは何もしなくて勝手に出口を押し開け出てきてしまいそうなくらいだった。
 真奈美はいてもたってもいられずに、裕菜と伯母さんのあとを追おうとした。

「あら、真奈美。どうしたの?」
「わ、わたしも……トイレ……」

 もう限界だと訴える真奈美に、しかし母親は再度表情を険しくする。

「もう、みっともないわね……そんなことしなくても我慢できるでしょ?」
「え……っ」

 走り出そうとした手をぐっと掴まれ、真奈美はたまらず『あぁっ』と声を上げる。
 なんでそんなに意地悪な事を言うのだろう。母親の態度が理解できず、真奈美は困惑の中、ぎゅっとスカートの前を掴んでしまう。

「なんてとこ触ってるのよ、恥ずかしいわね……、ほら、よしなさい」
「や、やぁ……っ」

 押さえていないとおしっこが出てしまいそうなのに。たまらずクネクネと腰を揺する真奈美に、母親は眉を吊り上げる。

「さっきは我慢できるっていったじゃないの……」
「そんなの言ってないよぉ……」

 いつもは優しい母親が、なぜかとてつもなく意地悪だった。まだ幼い真奈美には、父とその兄弟たちの些細な確執や、お互いに張り合っている見栄のことなど知る由もない。
 裕菜よりも年上の真奈美が、同じようにおしっこの限界であることや、きちんと躾のできているはずの我が子がこんなところでお手洗いを済ませてしまおうなんてしていることが、我慢ならないのだということも、理解できようはずもない。
 困惑のなか、真奈美は必死に尿意を訴える。

「そ、それに、ユウちゃんだって、おしっこしてるのに……」
「真奈美。あなたいくつになったの? 女の子なんだから、こんなところでお手洗いなんかダメじゃない。ほら、ちゃんと立って、我慢なさい」
「お、おかあさんっ……」

 声を上げた真奈美に気付いて、父と伯父さんが揃って顔を向けてくる。

「ん? どうかしたのか?」
「いいえ。何でもないわ」

 真奈美の口を塞ぐようにして、母親はそう答えた。

(そ、そんなの、そんなのって、ないよぉ……で、でちゃうのに、もうガマンできないのにっ……ちゃ、ちゃんと、おトイレって、行ったのに……っ)

 真奈美の脳裏を、いつだったかの思い出がよぎる。
 勇気を出して手を挙げたのに、意地悪な先生のせいで、授業中のあいだトイレに行かせてもらえず、とうとうクラスのみんなの前でオモラシしてしまった友達のことだ。
 その惨めな姿に自分が重なって見え、真奈美はじわ、と目元に浮かぶ涙をこらえる。
 すると。茂みの向こうから伯母さんに手を引かれ、すっかりさわやかな様子の裕菜がやってくる。

「あら、ユウちゃんもう終わったの?」
「ええ。……この子ったらすっごく我慢してたみたいで……池みたいになっちゃったわ」
(やだ、やめてよぉ、……我慢してるのに……)

 現在進行形で、トイレの限界である真奈美にはあまりにも刺激の強いお話だった。耳を塞いでしまいたいほどだが、片方の手が母と繋がれているため、それもできない。

「困るわよねぇ、お手洗いのしつけも」
「そんなことないわよ、お義姉さん。ユウちゃんくらいならしょうがないじゃない。失敗しないんだから」
「うふふ。そうねえ。はやく真奈美ちゃんくらいになってくれれば手もかからなくていいんだけど」

 そう言って、ちらりと向けられる伯母さんの意味深な視線にも、もちろん真奈美は気付かない。仮に理解できたとしても、いまの真奈美には漏れてしまいそうなおしっこのことで精一杯だ。
 真奈美は恥をしのんで、母親の手を引いた。
 泣きそうになりながら、ここでおしっこしちゃいたいと訴える。

「お母さん…っ」
「ほら、行くわよ。……早く帰れるように行ってあげるから、ちゃんと我慢してね? わかった?」

 しかし帰ってきたのは無常なる言葉。
 そうして真奈美は、引きずられるようにしてあとどれくらいあるのかすら定かではない、祖父の家までの長い道のりを歩かされるのだった。



 (初出:書き下ろし)
[ 2011/01/08 19:38 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)
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