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お嬢様ごっこ。 


 テーブルの上のペットボトルを取り、飲み口に直接口をつけてお茶を喉奥に流し込む。
「んく…んくっ、んくっ……」
 さかさまになったペットボトルの中で、ごぽっと泡立った水面が揺れる。
 これが初めてってわけでもないけど、なにしろ全部で2リットルもある。ジュースみたいに甘くもないし、炭酸がきいてるわけでもない、ただの苦いお茶だ。普段のボクなら、絶対に飲んだりしないと思う。
「んく…んく……っくん。ぷはっ」
 息継ぎをした瞬間、背中をぞわぞわぁっと小さな震えが這い上がってくる。
 思わず口元を離しそうになり、ボクは少しだけむせてしまった。けほけほと口を拭い、それでも頑張ってもう一度、ペットボトルに口を付けた。
「んっ……ぷは……」
 最後のひとくちを飲み下して、大きく深呼吸。残りの1リットルを、なんとかおなかの中に飲み込んだ。
「飲んじゃった……」
 制服のブラウスの下で、おなかがぱんぱんに張って苦しい。
 あらためて、空になったペットボトルを見下ろしてみれば、ちょっと信じられないくらいの量。その中身全部が、ボクのお腹の中に注ぎ込まれているのだ。少しくらい苦しくったって当然だろう。
 ……けれど、それもすぐに楽になることをボクは知っている。
 このお茶はある健康食品メーカーが売っている看板商品で、身体への水分吸収を助け、老廃物をそとに出す働きがあることで有名だった。美容のために最適と、ネットの掲示板などでもよく話題にされている。
 その効果は強力で、水を飲んだ時なんかとは段違いに速い。
 だから胃のなかをたぽたぽにしている水分はあっというまに吸収され――すぐに、ボクのおなかの、別の場所をたぽたぽにしてしまうのだ。
(ん……っ)
 ぶる、と腰が震える。
 お昼休みの前から、ボクはずっと、トイレを我慢している。6時間目の最後のほうは、我慢がかなりきつくなってきて、椅子の上でぎゅっとあそこを押さえてしまったくらいだ。 
 そのうえで、こんなお茶を2リットルも飲んでしまったのだから――もっともっと、オシッコがしたくなるのは間違いがない。
(はうっ……♪)
 そおっと触れてみたおなかは、もうはちきれそうにパンパンに張り詰めていて。同時に脚の付け根にもじぃんっとイケナイ感覚が電流のように走る。
「ん、んぁ…ぅ……っ」
 自分でも信じられないくらい、いやらしい、女の子みたいなえっちな声が出てしまう。
 ゆっくりと視線を隣に向ければ、ロッカー横の鏡に、見慣れた姿が映っていた。
 うなじで切り揃えたちょっと癖の強い髪、太めの眉。部活のせいで日焼けした肌。力を入れて睨めば、大抵の男子はビビッて逃げてしまう目つき。自分で言うのもなんだけど、胸もぺたんこで、腰回りだってすかすかだ。
 学校を上がって制服を着るようになって、ようやく男の子に間違われることは少なくなったけれど、いまでもジャージ姿なら男子トイレに入っても追い出されない自信がある。……全然いいことじゃないけれど。
 普段からオトコ女なんてからかわれているボク――工藤千尋が、ほんの少しだけ、“おんなのこ”になれる瞬間。
 それがこの、“お嬢様ごっこ”をしている時だ。
「……あやっ、もうこんな時間っ? 急がなきゃっ」
 ふと見れば、もう時計は4時を回っていた。急いで帰らないとすぐに真っ暗になってしまう。
 ボクは鞄を手に、部室の更衣室を後にした。廊下にはひんやりとししていて、ひと折り分短くしたスカートから染み込んできた寒さがきゅうんとおなかの中を刺激する。
 ボクは震えだしてしまいそうになる膝を抑えつけ、慎重に、きゅうっと閉じ合わせた。下腹部を圧迫するおしっこを意識しながら、歩幅も小さく、ゆっくりゆっくり、昇降口までを歩いてゆく。
 いつもは2段飛ばしで駆け降りている階段も、今は油断できない。爪先を意識しながらそろりそろりと脚を下ろすたび、じんっ、と身体の奥にイケナイ感覚が響いてくる。
「ん……ふ……」
 小さく息をこぼして、ぶるる、と身体を揺する。
 ぱんぱんに膨らんだおなかをそっと撫でるボクの頬は、かあっと熱くなっていた。





 校門を抜けて表通りへと出ると、いよいよ本番。いつもは背中に背負う鞄を、おしとやかに両手で持ち、身体の前を隠すようにして――ボクの“お嬢様ごっこ”が始まる。

『……あ、あっ……っ、ど、どうしましょうっ……ほ、本当に間に合わなくなりそう……っ』

 いつも通りの通学路のなか、ボクは頭の中で『下校途中、お手洗いに行きたくなってしまったお嬢様』になりきるのだ。
 とたんに周囲には雑踏が満ち、行き交う人々の視線が突き刺さる。殺風景な通学路には、大勢の通りすがりの人達が、じっとボクを見つめている。
 今のボクは、歩いているだけでまわりの人たちの目を引くような、そんな素敵で可憐なお嬢様なのだ。
 だから万が一にでも、ボクがオシッコを我慢していることに気付かれたりなんかしちゃいけない。

『……だ、だめ……っ。きちんとしなくちゃ……お、お手洗いにいきたいなんて気付かれたら、わたくし……もう、恥ずかしくて表を歩けませんわ……』

 頭の中の想像上のボクは、すっかり深窓のお嬢様になり切っている。どうしようもなく恥かしがり屋で、男の子の手を握るどころか話したことすらないような筋金入りの箱入りのお嬢様。
 今日は送り迎えの車がちょうど故障していて、どうしても歩いて帰らなくてはいけなくなった。――そんな設定。
 人前でトイレに行くどころか身じろぎするのも躊躇うようなお嬢様のボクは、学校でもほとんどお手洗いに立つことはない。たとえどうしても我慢できなくなっても、気づかれないようにこっそりと、慎み深く席を立つようにする。
 それでもいつもは取り乱したりしないんだけど、今日は特別な理由で――(細かいことは決めていないけど、とにかくタイミングが合わなくて)――お手洗いを済ますことができなかったのだ。

『だ、だめよ、ちゃんと、我慢しなければ……っ』

 当たり前だけれど、通学路の途中にはいくつも商店街があって沢山、たくさんのお店が並んでいる。コンビニだって2つあって、その気になれば簡単にトイレが借りられる。でも、世間知らずのお嬢様なボクは、そんなところにおトイレがあるなんて思いやしない。
 ううん――もし知っていたとしても、そんなところのおトイレを借りるような、みっともなくてはしたない真似は、“お嬢様”のほうのボクには絶対にできないのだ。

『そんなこと、……できるわけありませんわ……いい歳して、お、お手洗いのしつけも出来ていないって、思われてしまいますものっ……』

 “おトイレのしつけ”。ふと浮かんだこのフレーズが気に入って、ボクは想像を膨らませる。
 お嬢様のおトイレのしつけは、とても厳しくて、人前でトイレに行きたいそぶりを見せることすら許されないのだ。たとえどんなに切羽詰まっていても、おなかがおしっこでぱんぱんに膨らんでいても、優雅に、微笑みながら『少し、失礼いたしますわ』そう言って、ゆっくりと席を立つ。
 いや――違う。本当のお嬢様は、そもそも人前で勝手に席を立つような無礼なことはしない。トイレは自分ひとりのときだけにしっかりと済ませておくもので、誰かと話していたり、用事があるときには後回しにすべきことなのだ。だからこんなに我慢してしまう前に、きちんとトイレに行っておくことこそが当たり前。それができないのは、お嬢様失格の、とても恥ずかしいことなのだ。

『ふあぁ……んっ……』

 小さな頃からそうやって躾けられてきたはずのお嬢様のボクは、けれど今、限界寸前までトイレを我慢してしまっている。人前で気付かれてしまいかねないこの状況こそ、もうとっても恥ずかしい事態なのだ。
 膨らむ想像とともに胸がどきどきと高鳴る。もう一人のボクの状況に、自然と頭に熱が籠る。
 それは同時に、お嬢様のボクが感じている、恥ずかしい気持ちなのだ。
 交差点の横断歩道に差し掛かって、赤信号に従いボクは足を止めた。

『あ、あっ……い、急いでいますのにっ……』

 焦る気持ちを表現するように、ボクはそおっと腰をくねらせる。硬く張りつめたおなかに、脚の付け根にじいんんっ、と甘い痺れが走り、思わず息がこぼれる。
 もちろん、たったそれだけの動きで誰かが見ているわけもない。
 横断歩道には二人くらいしか人がいないし、周りの人はじっと信号を待っているだけだ。
 でも、想像の中では違う。びくびくと、尿意に負けて腰を揺すってしまったお嬢様のボクは、そこで恥ずかしい声を上げてしまうのだ。それを見て、何人も何人もの人が、怪訝そうな顔をして、お嬢様のボクを見る。

『いやぁ、み、見ないでぇ……っ』

 じろじろと無遠慮に見つめられて、顔から火を吹きそうになって、お嬢様のボクは俯く。
 横断歩道の前で足踏みを始めてしまい、信号待ちの人たち全員に、オシッコに行きたいんだと気付かれてしまった。そのことにお嬢様のボクは、死にそうなくらいに恥かしさを覚えている。

『ち、違いますっ……お、お手洗いなんかじゃ……っないんです……あ、だめ、え…っ』

 気分を盛り上げるように、小刻みに爪先を動かしてみる。
 じんっ、じいんっ、と響くおしっこの波が、ボクのおなかの中に溜まった液体をたぷんたぷんと揺らす。
「ん……っ」
 思わず、小さく溜息が出た。スパッツを内側から押し上げるように、おなかが外にせり出し始めている。あんなに飲んだ健康茶が、はやくもその効果を発揮し出しているみたいだった。
 信号が変わり、横断歩道で待っていた人たちが次々に歩き出す。
 けれどボクは、そのままそこで、誰かを待つふりをして立ち続けた。

『あ、あっ、だめ、え……おさまってぇ……っ』

 ボクの想像の中でお嬢様のボクはいま、猛烈な尿意の波に抗って、一歩も歩けないような状態なのだ。たまらずその場にしゃがみ込んでしまいそうになるのを、懸命にこらえ続けている。
 足を擦り合わせて、腰をくねらせて、通りすがりの人からじろじろと見られながら。けれどもうすっかり余裕をなくしてしまって、鞄の下でギュッとスカートを掴んでしまう。
 現実のボクも、そっとおなかをさする。まるでタイヤみたいに硬い感触に触れると、きゅうんっと足の付け根に甘い痺れが走る。ぞわぞわ押し寄せてくる波に、思わず何度も、いやらしい声を漏らしてしまう。

『そ、そんな……だ、だめぇ……っ』

 ちか、ちかと点滅する青信号。
 お嬢様のボクは、ついに横断歩道を渡り損ねてしまったのだ。
(そうだ……っ♪)
 そしてボクはふと思い付き、想像の中で、この赤信号は突然、一度切り替わると10分は変わらないということにしてみた。すっかり我慢の限界の状況で、10分なんて待っていられるわけがない。ここをまっすぐ帰るのが家への――“お屋敷”への近道なのだが、お嬢様のボクはそこをもう通れなくなってしまったのだ。
 もちろん実際の交差点はたったの2車線。ほとんど車通りもなくて、思い切って信号無視をしてしまえば5秒で渡ってしまえる。でも、お嬢様のボクにそんな事は出来るワケがない。

『うそ……そんなの意地悪よ……っ』

 理不尽な事態にも、しかしお嬢様はくじけない。
 後ろ髪をひかれる思いで、横断歩道を渡るのをあきらめ、別の回り道を探すのだ。





(えっと……)
 おなかにじんじんと響く尿意を感じながら、ボクは次の舞台を探す。……と言っても、だいたい候補は決まっていた。横断歩道から歩道沿いを歩いて、途中でわざとふらふらと脇道を曲がってみたりしながら、ボクは近くの公園にだとりつく。
 広い割にジャングルジムと砂場くらいしか遊具も無くて、人気のないこの公園は、ほとんどの人が素通りしてゆく。

『はぁはぁ……っ、あ、あともう少しよ……!!』

 公園の入り口でそっと腰を揺すり、ボクは“お嬢様”の演技を再開した。
 目指す場所は公園の端っこにある公衆トイレだ。わざと公園の入り口も遠い場所を選び、意図してゆっくりと、そこまでの道のりを歩いてゆく。お嬢様のボクは足元がもうふらふらで、急ぐこともできないということにして。
 ちょうど周りの視線も無いので、ボクはわざともじもじと脚を擦り合わせ、スパッツの上からそっとおなかを撫ででみる。じぃんっ、とおなかの底に走る甘い痺れに、思わずふうっと息がこぼれた。

『お、おトイレ……おトイレ、早く…っも、もう、お手洗いなら、どこでも……いいからぁ…っ』

 お嬢様のボクは渡れない横断歩道を諦めて、なんとかオシッコを我慢しながらここまでやってきた。本当なら、箱入り娘のお嬢様であるボクがこんな、誰が使ったかも分からないようなトイレを使うのは絶対に避けたいことなのだ。
 そもそも人前でトイレに駆け込むなんてはしたないことなのだけど、けれど今はそんな建前も忘れてしまうくらい、お嬢様のボクは我慢の限界なのだ。

『あ、あとちょっと、あそこまで……あそこまで我慢すれば、……っ』

 行く先に見える公衆トイレに向かいながら、何度も周りを見回してみる。
 もちろん誰も居ないんだけど、そこにはオシッコを我慢していてはしたない格好をしているお嬢様のボクに、興味しんしんな人たちがいる、ということにする。

『ああっ……駄目、駄目……みないで、見ないでくださいっ……』

 顔を赤くしながら、お嬢様のボクは何度も立ち止まり、しゃがみ込みそうになってしまうのをこらえて、それでもなんとか公衆トイレまで到達する。
 おぼつかない足取りで、婦人用トイレの入り口をくぐり――そのまままっすぐ個室へと向かう。

『ま、間に合った……っ!!』

 けれど。
 開いた個室の鍵を見て、お嬢さまのボクは、絶望するのだ。

『そ、そんなぁ……っ』

 普通に空いていたトイレの中の個室を『故障中』ということにする。
 もちろん他にも個室はあるけど、そっちも壊れているか、存在しないことにした。
 つまり、お嬢様のボクはここではオシッコができないのだ。
「んんっ……」
 実際に、ここまで来てやめようとすると、かなり強い尿意がやってきた。現実のボクもつい催してしまい、スパッツの上から手を挟みこむように、あそこを押さえこんでしまう。
 すると、想像の中でお嬢様のボクは、ドレスのスカートをはしたないぐらいにぎゅううううっ、と絞り上げていることになってしまう。
 真っ白でさらさらの、綺麗なドレスを――無残なくらいぐちゃぐちゃに握り締めて、ぶるぶると腰を震わせる、お嬢様なボク。
「ぁ、あぁ、あっ……だめえ、でちゃう……っ」
 想像の中のお嬢様になりきって、ボクも悲鳴を上げてみる。
 ぞわあっと背中を走り抜ける尿意の波が、じんじんと腰を熱くした。

『そんな……嘘よぉ……っ』

 ふと思いついて、想像の中で、ボクは個室のドアに張られた『故障中』の文字の下に、さらに意地悪な事を付け足してみることにした。

 ――『お急ぎの方は、紳士用のトイレをご利用ください』。

『そ、そんなの、できるわけないじゃない……っ!!』

 まあ、普段のボクなら、――オモラシしちゃうくらい切羽詰まればえいっと入ってしまうだろうけど。男の子と手を握ったこともない――いやまあ、現実のボクだってそんな経験ほとんどないけど――お嬢様のボクには、そんな選択肢はあるワケない。絶対にあり得ない決断だ。
 実はここの公衆トイレには紳士用と婦人用のふたつのトイレの間に、もうひとつ。車椅子用のトイレもあったりするんだけど、そこも想像の中で存在していないことにした。

『だ、だめよ……我慢しなくちゃ……』

 もう、限界も限界、いつ漏らしてしまっても分からないくらいの状況で、がくがくと腰を震わせながらも――なんとか、必死に波を乗り越えて。お嬢様のボクは、我慢を持ち直し、次のトイレまで向かう決心をする。
 そう。まだまだ、こんなものじゃ終わらない。
 ボクが本当に限界になるまで――お嬢様のボクの、永久我慢は続くのだ。



 (書き下ろし)

 
[ 2011/02/12 21:35 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)
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