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金髪少女と田舎のお話。 

 特区に投稿したもののマイナーチェンジ版。




 青い空の下に、どこまでもアスファルトの道が続いていた。
『んんっ……』
 太陽の光を浴びて揺れる、緑深い森の匂いを胸一杯に吸い込んで、エレナはぐうっと胸を反らし、細い腕を伸ばす。
 自転車に乗って走ってゆく少年たち――恐らく自分と同じくらいの年齢だろう――日焼けした肌に短く刈り込んだ坊主頭の彼等が、ちらちらと視線を送ってきている。農作業に出てゆくらしき老人や女性も、あぜ道を歩く異国の少女を、興味深げに眺めていた。
 エレナは少年たちへ顔を向け、小さくひらひらと手を振ってみた。
 白いシャツに黒の学生服、まるで示し合わせたかのような同じヘアスタイルの少年たちが、日焼けした顔を更に赤くして視線を反らした。
『ふふっ』
 まるで逃げるように走りだした少年たちの背中を見、口元には小さく笑みが浮かぶ。
 ともすれば不快にも感じかねない対応に、エレナはしかし気にすることはなかった。
 父に連れられて、知らない場所へ赴く事はいつものことだ。見知らぬ相手から注目を浴びたり、余所余所しい対応を取られる経験も一度や二度ではない。
 まして今回の旅の目的地は大きく海を隔てた異国なのだ。こんな異邦の地に自分のような年恰好の娘は目立つのだろう、と割り切ることにしていた。
『日本って、本当に面白いわ』
 くすくすと笑う口元から、小悪魔を思わせる八重歯がちらりとのぞく。額で切り揃えられた金髪と、かすかに残るそばかすも、少女のあどけない魅力をを引き立てていた。
 ノースリーブの白いワンピースから覗く白い肩はまぶしく、スカートの下から伸びたすらりとした足は、細くともしなやかな、乙女の魅力を備えていた。
 これだけの素養を備えながら、エレナは自分の整った顔立ちが思春期の少年たちを迷わせているのだとは思い至らない。
 父の仕事のためあちこちを転々としての暮らしが長く同年代の友人をあまり持たなかったせいか、あるいは早くに母を失くしたせいか。見目麗しい娘が、自覚なしに振舞う危なっかしい行いは、グレン教授をやきもきとさせるのに十分であった。
 そんな事はつゆ知らず、エレナは木陰のしたでううんっ、と大きく背を伸ばす。健康的に大きく開いたワンピースの胸元から、大胆に肌が覗いているのにもお構いなしだ。
『……でも、この暑さだけは何とかならないのかしらって思うわね』
 湿気の多いこの国の夏は、エレナにはなかなか馴染まないものだ。
 夏の陽射しを麦わら帽子の下から見上げ、駅の自動販売機で買った瓶詰めのジュースに口を付ける。まだ汗をかいているガラス瓶は、早々に空っぽになりかけていた。
 陽を浴びて焼けたアスファルトから立ち昇る陽炎にうんざりとしつつも、エレナはとうとう空になった瓶を片手にぶら下げながら、田畑の傍の農業道路を歩いていく。
 それでも、森に近い木陰や川沿いでは、時折涼やかな風が吹き、汗ばんだ背中を心地よく撫でてゆく。
 エレナが父の仕事で日本を訪れるのはこれで3回目だ。1回目は両親の新婚旅行で、エレナはまだ母のおなかの中にいた。その時の事はもちろん覚えていないが、2回目である8年前の記憶はおぼろげながら残っている。
 母はとてもこの国を気にいっていたという。それはエレナも同意見で、もし自分に子供ができた時も一度はこの国に連れてきたいと思う。
 もっとも自分が母と同じくらいの年になる頃には、世界は二十一世紀を迎えているはずで、この国もいつまでもこのままではないかもしれない。ノストラダムスの予言だって心配だ。
 しかし、それもまだまだずっと先の事。エレナは先日ジュニアスクールに上がったばかりである。
『本当にお父様ったら心配症なんだから。もう迷子になったりなんかしないわよ』
 来日4日目の朝、自信たっぷりに、一人で出かけたいと言い出した愛娘に、しかしグレン教授はなかなか首を縦に振らなかった。自分も大学までは同行するとはいえ、学会中は会場を離れるわけにはいかない。言葉の解らない異国で、愛娘を一人きりにしておくことに不安を覚えるのは当然と言えた。
 今回は研究室の予定も噛み合わなかったため同行者もおらず、エレナはすっかり退屈していた。学会の会場となる大学は昨日一昨日ですっかり探検しつくしてしまい、敷地の外に広がる日本の町を歩いてみたくてうずうずしていたのだ。
 最終的に、エレナの我がままを受け入れざるを得なかった教授だが、それでも愛娘にきちんと連絡を入れること、午後までには大学に戻る事を条件だと口を酸っぱくして言い聞かせた。その時の父のうろたえる姿を思い出してエレナは口元に笑みを浮かべる。
『あんなのじゃ、私が結婚するときはどんなに慌てるのか分かったものじゃないわ』
 先年、妻に先立たれて以来、グレン教授は以前にも増して娘を溺愛するようになっていた。難しい年頃であるゆえに、片親で色々と気負うところもあるのだろうが――いまだに子供扱いされてばかりのエレナには少し不満でもあった。
 駅前の繁華街を離れると、街並みは急にのどかなものになってゆく。日本を長らく活気づかせた高度経済成長も、この都心を離れた町までは十分な恩恵をもたらさなかったらしい。学問を志す環境としては素晴らしいものかもしれないが、学生たちにはさぞ刺激の足りない湿地だろう。
 エレナは素足に履いたサンダルを鳴らしながら、涼やかな水音を奏でる小さな河をぴょんと飛び越える。細い橋を渡れば、その先には民家もまばらな田園風景が広がっていた。遠く山の麓に広がる森の近くには、父に連れられて行った事のある博物館で見たような、草を編んで作った屋根の家がぽつりぽつりと並んでいた。
『……あんな屋根で、雨漏りしないのかしら?』
 木と紙でできた日本家屋は、エレナには写真で見る以上の近しさはない馴染みの薄いものではあったが――生まれてから父の影響で異国文化に触れる機会に恵まれていた彼女にとっては、むしろ興味の方が先に立つ。
 近くに行ってみてみようと、サンダルの脚をそちらに向ける。
 アスファルトの地面はやがて途切れ、途中から砂利道へと変わっていた。少し歩き辛くなった足元を楽しみながら、少女は美しい金髪を揺らして小さな鼻歌を口ずさみ始めた。
 右には私有地らしい山林、左には遠く海へと続く澄んだせせらぎ。遠くにセミの鳴き声を聞きながら、白い背中は川沿いの道を選んで進んでゆく。
(…………)
 川沿いを歩き始めてしばらく過ぎた頃だろうか、エレナの様子はわずかな変化を見せ始めていた。
 あるいはそれは、傍を流れる水のせせらぎを耳にしていたことが原因であったかも知れない。
 だがそれよりも明確な原因は、少女の手のひらの中にあった。
 サンダルの底が立てる音がやや激しくなり、のんびりと周囲を眺めていた視線が幾分、落ち着きを失くし始める。
 注意していなければまず見逃してしまうだろう些細な変化――けれどそれは着実に、少女の動作の中に不自然なものとして混じり始めていた。
(ん……)
 麦わら帽子の下で、エレナの表情にはわずかに硬いものが混じる。
 手のひらで暖まったガラスの瓶――特に捨てる事ができないまま、ずっと持ちっぱなしだったその重さが、少女の細い手のひらには少しずつ負担となっていた。
 陽に透けるようなワンピースのスカートの下で、細い腰がもどかしげに震える。
 サンダルの足元が大きく砂利の上を擦り、膝小僧がお互いを擦り合わせるようにこつこつとぶつかり合う。もともと華奢な体格の少女ではあったが、ダンスホールならばともかくもこんな屋外では、不自然なほどの内股だった。
 丸く大きな青い瞳の眦は、長い睫毛を伏し目がちに瞬きを繰り返し、忙しなくあたりを巡る。整った顔立ちは数度にわたって緊張に強張り、きつく閉じられた口元とは対照的に、少女の息は荒くなり始めていた。
 見えない何かに追いかけられるように、エレナの歩みは少しずつ速くなり始めてゆく。
『…………んぁ……ん』
 不意に。前触れもなくエレナは道の真ん中に立ち止まった。山裾の素晴らしい田園風景に目を奪われた――というわけではないのは、傍目にも明らかだった。
 眼が伏せられ、小さな顎が緊張に強張る。
 白い喉に、つうっと細い汗の雫が浮いていた。切りそろえられた前髪も、汗で湿って額に張り付く。
『ふ……ぁ…っ』
 細い手のひらが彷徨うようにワンピースのスカートの前を行き来し、太腿の前で何もない空間を握り締める。砂利道の中央に立ちつくした少女の足元は、小刻みにステップを刻み、陽に透けそうな白いスカートの裾から見えるふくらはぎはまるで寒さを訴えるかのように擦り合わされる。
 びく、と俯いたエレナの首筋が震えた。
 少女の細い指先が、たまらずにスカートの端をきゅっ……と掴む。
 川面は変わらず水面に白い飛沫を立て、夏の日差しの中に涼をもたらしている。少女の視線はその川沿いを巡り、数十メートル先の石造りの小さな橋をふらふらとさまよって、道の隣にある林の奥へと吸いこまれていった。
 舗装も不十分な砂利道の右手には、鬱蒼と茂る木々が並んでいた。特段、立ち入りを遮るような柵などは設けられておらず、あまり手入れの為されていないそこは、数歩踏み入れればすぐに姿も見えなくなってしまう程の背の高い藪に覆われ、奥の林へと道なき道が続いている。
 あどけない顔に困惑をありありと浮かべ、エレナはしばし、森の奥へと視線を巡らせるが――ほどなくして、少女は思い直したようにそこからの視線を切った。
 ぶるぶるとかぶりを振り、細い顎をきゅっと噛み締める。
『…………、ん……ぅ』
 しかし、少女の表情に浮かぶ困惑は消えることなく、むしろ追い詰められてしまったかのような焦躁感が色濃く増す。
 それを証明するかのように、あどけない桜色の唇が、小さく母国語で『どうしよう』とか細い呟きをこぼした。
 再び前を向き、歩き出したエレナの歩調は、さっきよりも幾分早足になっていた。同時に少女の視線はさらに落ち着きを失くし、大きな青い瞳は道の左右をきょろきょろと彷徨うばかり。
 少女の興味が遠く山の麓の茅葺き屋根を離れ、先刻までとは別のもの、違う場所を求めはじめていることは明白だった。
(……え、ええと……)
 手の中に残る、空のジュースの瓶を持て余すように、エレナはそれをぎゅっと握りしめる。
 故郷を遠く離れた異国の地、見知らぬ田舎道の中で。
 エレナは不意に訪れた下腹部の生理現象に、次第に焦りを覚え始めていた。





(……お、お手洗い……どこかしら)
 隠しようもない尿意に整った顔立ちに不安を覗かせながら、エレナはきょろきょろとあたりを見回した。
 が――近くに、求めるものは見当たらない。
 それもそのはず、不慣れな異国の地、しかも街中を離れた郊外の田舎道だ。多くは水田や林であり、建物と言っても小さな小屋か、ぽつぽつと民家があるばかり。
 百貨店やホテル――とまではいかなくとも、なにか店舗でもあるのならそこでトイレを借りる事も出来るだろうが、生憎とそんなものもあたりには見当たらない。
『んんっ……』
 ない、と分かれば解るほど、下腹部の欲求はますます明瞭に、下品なものへと変わってゆく。思わずその場でくねくねと腰を揺すってしまい、エレナの頬がほんのりと紅くなる。近くに誰もいないとはいえ、淑女としてあるまじき行いだった。
 急な尿意の原因は、ついさっき空にしたばかりのジュース……だけではない。確かに少し汗ばむ気候の中、たっぷりと補給した水分は、当然ながら健康的な少女の新陳代謝によって全身を巡り、いまや少女の下腹部の一点に注ぎ込まれるばかりとなっていた。
 だが、ほんの数十分前に口にした水分がこんなにも短時間でトイレの欲求を訴える事は考えにくい。出掛ける前にはきちんとトイレは済ませてきたし、年齢の割に旅慣れたエレナは体調の不調とも無縁である。出掛ける際にはいつもトイレの事は頭の隅に入れていたし、いつもならまだまだ全然平気のはずだった。それなのに何故――少女の頭は予想外の事態に混乱する。
『やっぱり、このジュースがいけなかったのかしら……』
 空にしたジュースの瓶を恨めしげに見つめるエレナ。だが、エレナが気にすべきはむしろその前、朝食の時にお代わりしたコーヒーだった。父の真似をしての濃い目のドリップは、ミルクと砂糖をたっぷり入れたとしてもエレナには随分と背伸びをしたものだった。カフェインに耐性のない少女の身体は、てきめんにその利尿作用を露わにしていたのである。
 こぽりこぽりと脚の付け根に押し寄せる恥ずかしい衝動に、エレナはきつく唇をつぐみ、スカートの下で小さく太腿を擦り合わせてしまう。腰回りのくっきり出るワンピースのせいで、少女の足元がおぼつかない事は遠目にもはっきりと解るほどだ。
 エレナにとって不幸だったのは、コーヒーの効き目がちょうど、駅を離れて1時間近い距離を歩いた時にやってきた事だった。せめてもう少し早いか、遅いかであれば、ここまで困る事はなかったに違いない。
 だがここは、駅からも離れた田舎の一本道。近くにトイレなどありはしない。
『んぅ……っ』
 ほっそりとした下腹部が熱く恥ずかしい液体に満たされ、重く張りつめているのを感じ、エレナはそっと手のひらでそこを撫でさする。硬い手ごたえは、もうずいぶん前から乙女のダムが満水近くまで貯水量を増していた事を知らせていた。
(……ち、近くに、お手洗いって……ない、のかしら……)
 いくら歩いても一向に変わる様子のない砂利道に、エレナはようやくその事実を、疑問ではなく推測として思い浮かべる。
 少女は脚を止め、これまで歩いてきた道を振り返った。
 途中の寄り道はあったとはいえ、かれこれ1時間近くは歩いてきた。真っ直ぐ引き返したところで、駅までかなりの距離がある事は間違いない。父のいる大学はちょうどここから駅を挟んで反対側で、この際考えに入れることもできなかった。
 そして、ここまで来る間の道のりに、ほとんど店と呼べるような店もなかったのである。
 トイレに行きたいのに、近くにトイレがない。
 これまでに経験した事のない境遇に、エレナは戸惑いを隠せない。いくらエレナが旅に慣れているとは言っても、これまで父に連れられて訪れた場所はほとんどが大都市の圏内だった。そう言う意味で彼女は全くのお嬢様、箱入り娘だったわけであり、グレン教授の不安は全く正しかったのだ。
 エレナの知る限り、ここから一番近いトイレは駅の構内にあった公衆トイレだ。戻るなら今すぐに、急いで戻らなければならなかったし、その上で間に合うかどうかは――正直に言って少々、怪しい。
 カフェインの効果はいよいよ強まり、避ける事の出来ない生理現象が強烈な排泄欲求となって少女に牙を剥く。下腹部に押し寄せる熱い衝動の波に熱い吐息をこぼし、少女はどうすることもできないまま身悶えを繰り返す。
 このまま進むか、引き返すか。
 誇張ではなく、今この時その選択は、エレナにとって人生の岐路であった。
(……ど、どうしよう……っ)
 さりげなさを装ってもじもじとワンピースの下で太腿を擦り合わせ、エレナは困惑の中で、再度縋るように辺りに視線を巡らせる。だが、言葉も文化も違う遠い異邦の土地で、少女一人にできる事などたかが知れている。
 いくら海外に慣れていると言っても、それは空港のあるような都市圏での話だ。まだ自然の多く残る郊外の住宅地では、エレナの知っているような案内板も、チェーン店の建物も見当たらない。こんな郊外での状況の勝手は解らないも同然だった。
 もしエレナがもう少し歳を重ねているか、この国に馴染んでいれば、もっと単純に近くの民家でトイレを借りれば良い事に思い立ったかもしれない。だが、まだ幼い少女にとって、初めから多数が利用する事を前提にしていない個人の家のトイレは、最初から勘定に入っていなかったのだ。……そして、仮にそれを思いついたとしても、トイレのためだけに見ず知らずの他人の家を訪ねるというのは、多感な思春期の少女にとっては相当ハードルが高い事に違いはない。
 今のエレナは荒野に放り出されたのと同じだった。前に進む事も戻る事もできず、かといって切羽詰まった下腹部はその場に立ちつくす事も許してくれなかった。
 押しては返し、引いては戻す尿意は、まるで少女の下半身をなぶるように、一息に押し寄せてくる事はせず、間断的に波を付けながら、しかし確実にその勢いを増している。
 その辛さに耐えかね、エレナは足踏みだけでは足りなくなって、ぐるぐるとその場を歩き回り始めてしまう。そんな事をしている暇があるなら進むか戻るかすれば良いはずなのだが、カフェインがもたらす強烈な尿意は、少女から冷静な判断力も奪い始めていたのだ。
『ぁ……っ』
 危険水域を知らせる、恥骨上の乙女のダム。じわじわと脚の付け根に膨らみ始める放水の予兆に耐えかねて、エレナはとうとう、スカートの前を押さえてしまう。
 脚の前で握りしめられた白いワンピースは大きく皺がより、心持ち身体を前に倒し、お尻を後ろに突き出した格好と相まって、少女の肢体は服の上からでもはっきりと凹凸の少ない身体のラインを浮かび上がらせてしまう。
(だ、だめ……、お手洗い……っ)
 イケナイ水の誘惑に、エレナがきつく歯を噛み締めて、脚の付け根の排水孔にひときわ強く力を込めたていた時だ。
 不意に、先行く道の方が騒がしくなる。
 はっとエレナが視線を上げれば、そこには少年たちの一団がいた。
 年頃は、やはりエレナと同じくらいだろうか。滑稽なくらいに髪を短くして、白いシャツと黒いズボンのそろいの制服姿。大きなバッグを肩に下げたり、自転車のカゴに押し込んで歩く彼等は、恐らく学生なのだろうとエレナにも分かった。
 人目をはばからぬ我慢をしていた自分の姿に思い至り、エレナは慌てて姿勢を正す。スカートには深く皺が刻まれていたが、それには気付かないまま、素知らぬ顔で道の端へと歩み寄った。
 談笑していた少年達は道の向かいに居るエレナの姿に目を止め、思わず言葉を失ってしまう。この時代、この国を訪れる外国人は多くはなく、まして大学を除けばさしたる名物もないこんな辺鄙な土地では観光客も滅多に訪れない。
 まして、普段はほとんど生活道路くらいにしか使われないこの道に、突然青い目に金の髪をしたとびきりの美少女が現れたのだ。少年達の驚愕には十分だっただろう。
 さっきまでの元気の良さはどこへやら、急に黙りこくって、そそくさと道の端に寄り、その場をやり過ごそうとする少年達。学校で英語は習っているものの、『これは鉛筆です』と『ぼくの名前はトムです』も怪しい程度で会話が成り立つと思う者は、彼等の中にもいなかったのだ。
 が、エレナにしてみれば黙って見過ごすことは許されない。
 しばらく人通りのなかった道行に現れた相手なのである。追い詰められた少女にとって、千載一遇の機会といっても良かった。
『……ね、ねえ!』
 言葉に一瞬の躊躇はあったものの、エレナはそれを振り払って、道の端に小さくなっている彼等に向かって声を掛ける。
 同年代の少年に、トイレの場所を訊ねるというのは、少女の中で文庫一冊に及ぶほどの長い長い葛藤を経ての少なからぬ覚悟が必要な行為だったが――もはや背に腹は代えられないほど、エレナの我慢は切羽詰まり始めていたのだった。
『あ、あのう、スミマセン、ちょっといいデスか?』
 声をかけられた少年たちは、気の毒になるくらい動揺していた。ついさっきまでの楽しげな雰囲気は微塵も残らず、一斉に表情を強張らせ、お互いに顔を見合わせる。よくよく注意していればエレナの言葉が日本語であることは――発音もイントネーションも、かなり怪しいものではあったが――分かったかもしれないが、金髪に青い眼の美少女というその外見だけで、彼らは一様にその言葉を英語だと思い込んでしまっていた。
 しかも、その相手はこんな田舎では滅多に見ない外国人の、とびきりの美少女なのである。同じ学校の女生徒の手も握った事のないような少年たちにとってはあまりにも未知の相手だ。これで緊張するなという方が無茶なのだが、当のエレナにはその自覚がない。
 思っていた以上の警戒を取られ、エレナは内心たいじろいだものの――できるだけの笑顔を作って、少年たちに声を掛ける。
『……ええと、わたし、エレナって言いマス。あなたたち、この近くの学校の、生徒デスよね? その、ちょっと聞きたいんデスけど、この近くに――』
 “その単語”を口にしようとして、エレナは思わず口ごもった。
 言葉は通じているはずだが、それはつまり彼等に、自分がトイレに行きたいと知られてしまう事を意味している。いい歳をしてトイレも我慢できない恥ずかしさに顔が熱くなり、同時に敏感に反応してしまった下半身が小さく震える。
 だが、そんなためらいを吹き飛ばすかのように、下腹部にはカフェインの魔力によって刻一刻と、音を立てんばかりに恥ずかしい黄色い熱湯が注ぎ込まれてゆく。ふぁ、と小さく声を上げてしまい、エレナはたまらずに足元を踏みならす。
『こ、この近くに、……ぉ、おトイレ――ありマセンか?』
 なんとか、記憶の中にある単語を繋いで、エレナは声を絞りだした。トイレ、という単語に不必要なまでに羞恥心を覚え、顔が一気に熱くなるのが分かる。
 だが聞くは一時の恥、聞かぬは一時の恥だ。たとえここで恥ずかしくとも、躊躇ってしまえばもっとあとで困る事になるはずなのだ。
 が、エレナが勇気を振り絞って口にした質問にも関わらず、少年たちは心持ち距離を取りながら、困ったように顔を見合せ、小さく何事かを言い合いはじめる。
 予想外の反応に、エレナは困惑した。
(つ、通じてないのかしら……? 日本語、これで合ってるはずだけど……)
 拙いながらも、駅やホテル、父の学会などでは意志疎通ができていたはずなのに。思いもよらない事態にエレナは驚愕を隠せない。
 これまでの会話の経験は、いずれもそれなりに海外からの相手に慣れていた場所によるものだったということは、もちろん少女の頭にはない。
 それなりに自分の日本語には自信のあったエレナだけに、少年たちの反応はまったく想定外だった。
『ええと……わかりマセンか? “トイレ”。“トイレ”、どこにありマスか? ……“トイレ”! “おトイレ”、“お・ト・イ・レ”!』
 ゆっくり、発音を思い出しながらエレナは“その場所”の名前を繰り返す。
 しかし、エレナが一生懸命になって訴えれば訴えるだけ、少年たちは曖昧な笑顔の下に感情を押し込め、何事かを囁き合いながら互いを前に押し合うようにして、隣の少年の脇腹をつつくばかりだった。
(ちょ、ちょっと……!)
 じりじりと後ずさろうとしている彼等に、まさかこのまま逃げられてしまうのではと感じたエレナは、慌てて前に踏み出した。
『あ、あの!! だから、……“トイレ”! “バスルーム”? えっと、……そうだ、“お便所”……!! “ご不浄”! ……ねえ、わからないの? ねえってば!!』
 エレナの会話はいつしか、母国語へと戻っていた。
 大きな身振りを交えながら、エレナは少ない語彙で思いつく限りの『オシッコをする場所』に相当する単語を並べてゆく。切羽詰まった下腹部に急かされて、ついつい声も大きくなる。
 しかし、エレナが熱を込めて訴えれば訴えるほど、それに反比例するかのように、少年たちはまるで叱られているかのように視線を下に向け、居心地悪そうに距離を取ろうとする。中には露骨に顔をそむけている者までいた。
 せめて、言葉が分からないならせめてそれだけでも伝えてくれればいいのに、それすら反応がないことに、エレナは苛立ちを覚える。
(な、なんなのよぅ……っ!!)
 あまりにも不可解な彼等の対応にエレナは焦りを強めてゆく。
 その一方で、下腹部の欲求は一気に強まり出していた。空にしたガラス瓶の中身、炭酸のジュースまでもが、エレナの体内を循環し、不要な成分を抽出して身体の一か所に集まってゆく。
 カフェインの利尿作用によって活性化した排泄器官は、健康な少女の新陳代謝がもたらす当然の帰結として、下腹部にある乙女のダムへと恥ずかしい液体を注ぎ込んでゆく。脚の付け根の恥ずかしい場所のすぐ奥、女の子の水風船はいまやはち切れんばかりに大きく膨らんでいるのだ。
『んぅっ…』
 身体をよじり、声を上げて。少年達の前だと言うのにも関わらず、左右の手がワンピースのスカートをぎゅっと押さえ込んでしまう。どんどんと高まる排泄欲求に耐えかねて、エレナはとうとうその場でくねくねと腰を揺すり始めてしまった。
『あ、あの!! “トイレ”…“トイレ”、ねえ、“トイレ”どこにあるの? ねえ、分からないの!? っ、あのね、“オシッコ”!! 私、“オシッコ”! “おしっこ”したいの!!』
 たんっ、たたっ、たたんっ。
 サンダルのかかとが、砂利道を跳ねるように鋭いリズムを刻む。繰り返される足踏み、膝を交差させての片足立ちとともに、重心がぶれ、腰がくねくねと揺れる。ぎゅっとスカートに皺が寄るほどにきつく脚の前を押さえ込み、握り締め、世界共通言語の『おんなのこのオシッコ我慢』のポーズで、エレナは少年たちに訴えつづけた。
『お、“オシッコ”、“オシッコ”したいの!! ガマン、できないの…!! お願い、意地悪しないで教えてよ!! “トイレ”!! “トイレ”行きたいの!! っ……お、“オシッコ”、出ちゃう!! ねえ、分かんないの!? わたし、“おしっこ”漏れちゃうの! 漏れちゃうのぉっ!!』
 母国語混じりの激しい訴え。
 いや、たとえ言葉が分からなくとも、一目見ただけで思わず眉を潜めかねない、小さな子が叫んでいるのと変わらない、トイレの要求だった。もうオシッコが我慢できなくて、トイレのできる場所を探しているのだと、エレナは叫ぶ。
 そしてそれは、少年達にはこう聞こえていた。


『トイレ! センメンジョ! おベンジョ……!! ゴフジョ! トイレトイレトイレ!! オシッコ!! オシッコ、オシッコ、…ションベン!! オシッコオシッコ、チビル、モレル!! トイレ、トイレ!! オシッコ、ションベン、デル!!』


 映画の中にしかいないような、ブロンドの美少女が、懸命に足をふみならし、腰を後ろに突き出して身体をよじり、その可憐な唇からはとても不似合いな、はしたなくもあまりにも下品な言葉使いで、尿意を連呼し、訴えているのである。
 中途半端な日本語の理解と、語彙の変化。まさか自分の覚えている日本語がこんなにも歪なものであるとは、エレナは無論思いもよらない。
 少年達にはあまりにも刺激の強すぎる光景だった。その鬼気迫る訴えに、思わず口籠ってしまうのも、距離を取ってしまう事もせめられないだろう。
 そんな事はつゆ知らず、エレナはますます熱心に“トイレ”“オシッコ”を訴える。
 彼女とて必死なのだ。レディとしてあるまじき、はしたなくもみっともない結果になるかどうかの瀬戸際なのだから。
 いよいよ激しくなるエレナの訴えを見かねたか、少年の一人が顔を真っ赤にしながら、ようやく口をひらいた。無論英語ではなく日本語だが、大きな身振りを交えて、道路の先を指さす。
「あ、あのな、あっちの方にグラウンドがあるから、そこの――」
「――あ、おい、馬鹿っ」
『そ、そこでオシッコできるの!? ありがとうっ!!』
 少年の言葉を最後まで聞かずに、エレナは大きく声を上げた。チャームポイントの八重歯とともにぱあっと顔を輝かせ、少年の手を握り締める。彼はまるで茹で蛸のように、可哀想になるくらい顔に血を昇らせた。
『ほ、本当にありがとうっ』
 待望のトイレの場所を突き止めたことで、生まれた一縷の望みと共に、きゅうんんっ、と下腹部にも限界を訴え膨らむ尿意が暴れ出す。
 エレナは『んぁあぅっ』と小さな悲鳴を上げ、ガラスの瓶も放り捨て、両手で脚の付け根を握り締めたまま走りだしていた。





 少年の示した交差点を右に曲がり、先へ進む事およそ5分。
 カウントダウンを刻み始めた排泄欲求をなだめながら、必死に急ぐエレナの視界の先で、林が大きく開ける。
『あ、あった! ここね……!』
 彼等の言葉通り、山間には整地された小さなグラウンドがあった。入り口の門扉にはここが近くの市立中学校の第二グラウンドであることが記されていたが、エレナにはもうそんなものは目に入らない。余計な事を頭に入れている余裕などなかったのだ。もっとも、仮に余裕があったとしても、エレナにそれが読めるかは微妙なところだろう。
『うぅ……も、もう少しよっ……』
 自分を励ましながら、エレナはもはや一刻の猶予もなくなった下半身を包み込むように両手で揉みほぐした。ぶるぶると背中が震え、おなかの一番底のもろい孔の部分にじんっと熱く鈍い痺れのようなものが走る。
 乙女の秘密のダムの放水孔は、一番重力のかかる、少女の脚の付け根、下腹部の最も底の部分に空いている。つまりはオシッコを我慢すると言う行為は、孔の空いた入れ物に、どんどん水を注ぎ込んでいるようなもので、押さえておくのに限界があるのは当然なのだ。
 太腿の隙間で、かつてない乙女の危機を助けるために両手も全力で援軍に向かっている。前屈みになって両手を股間に差し入れ、あまりにもみっともない体勢。
 無理な体勢で急いだこともあり、自然と息が荒くなっていた。背中は嫌な汗をかき、じっとりとワンピースを肌に張り付かせている。、
 限界までのカウントダウンの数字を減らし続ける我慢のロスタイムの中、エレナは既に人目をはばからずに、激しく腰を前後に動かし続けていた。そうすることで渦巻き暴れまわる恥水を、なんとかおなかの中に押しとどめているかのよう。
 スカートの前をきつく押さえ、エレナは震えるサンダルの爪先の慎重な足取りで、グラウンドの周囲に張り巡らされたネットを潜りぬける。
 この奥に、待ち望んだトイレがあるはずだった。
 ――だが。
『あ、あれ……?』
 あるはず、だった。
 恥ずかしい思いをしてまで聞いたトイレが、ここに、あるはずだった。
 だが、無い。無い。どこにもない。
 どれだけ目を凝らして見ても、エレナはグラウンドの中に、目指すトイレを見つける事ができなかった。あるものと言えば精々が、野球に使うのであろうスコアボード、古びた木製のベンチ、整地に使う用具とゴミををまとめておく資材置き場。その程度だ。それ以外には小屋すら――屋根すら見当たらない。
 まさかそんな事はないだろう、見落としているだけだとと自分に言い聞かせ、少女は縋るような気持ちで二度、三度、目を瞬かせ、グラウンドに視線を巡らせる。
 それでも。何度見回しても、小さなグラウンドにそれらしき建物は見つからない。
(ど、どういうこと……?)
 ここにきての最大の問題が、エレナの眼前に立ちはだかる。
 まさか、あの少年たちが嘘を言ったのだろうか? ふとそんな疑念が胸をかすめる。だが、そんな事をして一体何の意味があるというのか。意味が分からずエレナは首を振った。
 しかし、それならどうして? 現実として、ここにトイレはない。
 でも、でも、どうして? なんで?
 疑念は際限なく膨らむが、それ以上に我慢の余裕はなくなっていた。我慢し続けた尿意によって、少女の下腹部はそれ以上にパンパンに膨らんでいる。
 ここまで来ればトイレができる――そう思い込んでいただけに、予定外の“おあずけ”は、少女の体に強い負担を掛けた。乙女のダムの細い出口が、エレナの意志を無視して緩みそうになる。
『んぁ……ぅ!!』
 思わず下着の中に激しい水音を響かせそうになったダムの放水孔を、エレナは両手を使って押さえ込んだ。スカートの上から、まるで栓をするように、両手が重なって脚の付け根を押さえ込み、オシッコの出口をきつく覆い、握り締める。
 もう少しで打ち破れるはずだった出口を塞がれて、猛烈な尿意が暴れまわる。恥ずかしい熱湯は一気に噴きこぼれんばかりの勢いで出口に殺到し、エレナは激しく脚を擦り合わせ、足踏みをしながら、ふらふらとグラウンドを彷徨い始めてしまう。
『あ、あっあ、っ……と、トイレ……トイレ、どこなの……っ?』
 ここにトイレがあるはずなのだ。
 少年達の言葉を、今更疑うことはできなかった。否。もはやそう思わなければ、心が折れてしまいそうだった。エレナはここで、ここに、オシッコをしに来たのだ。
 今更、来た道を引き返しても、間に合うわけがなかった。駅前どころか、さっき、少年達と話をした場所ですら戻れそうにない。その途中で、盛大にワンピースを濡らし噴き出したおしっこが、足元に恥ずかしい水たまりを広げてしまうだろう。
『と、トイレ……だめ、オシッコ……オシッコでちゃう……っ』
 ぢくっ、と排泄孔の近くに鈍い痛みが走る。我慢のし続けで酷使された括約筋が限界を訴えていた。全身全霊できつく締めあげているはずのオシッコの出口が、エレナの意志に反して緩み、しゅるしゅると音を立てそうに膨らむ。
 股間を握り締めた手のひらは、まるで乙女の放水を受け止める入れ物のようにさえ思えてしまう。
 もう、エレナは我慢の限界だった。
 途方もなく膨らむ尿意に耐えかねて、哀れな少女はとうとう、形振り構わずにグラウンドの隅へと走りだした。
(も、もう駄目……!!)
 エレナが駆け込んだのは、グラウンドの隅に残された未整備の草地だった。茂みの中に身をかがめ、スカートの下に手を突っ込んで、縞模様の下着を一気に足元まで引き下ろす。
 高まり続ける尿意に、少女の矜持が屈する。
 ……一度は否定し、それだけは絶対ないと決めた、木々の間、茂みの中。排泄のための設備など何一つ整っていない、視界を塞ぐのも不十分な、草むら。トイレでもなんでもない、屋外、露天の片隅。
 エレナはそこで、はしたなくも我慢し続けたオシッコを済ませてしまうことを、許容せざるを得なかった。
 大胆にスカートを抱え、その端を口に。これまで続けられていた拘束から、一転、解放へ。
 無防備にも下半身を露出させて、エレナはそのまま地面にしゃがみ込んだ。
『ごめんなさいっ……!』
 口早に放たれる謝罪は、勝手に敷地の隅を――恐らくは、先程の少年達が使っているだろうグラウンドの隅を無断で借りて、あろうことかオシッコをしてしまうことへの罪悪感から。
 草むらの中に深く腰を下ろし、広げた膝の奥、きつく押さえこまれて酷使され、すっかり赤くなってしまった脚の付け根の奥。誰にも見せた事のない乙女の秘密の放水口から、ついに勢いよく黄色い水流が放たれんとした――その時。
 エレナは視界の端に、小さな建物を見つけていた。
『……!! あ、あれかしら!?』
 ほんの、少し、前。
 ついさっきまでは木の陰になって見えなかった区画に、小さな――直方体の建物があるのを、エレナの青い目が捕える。
 建物というよりは、まるでロッカーのような、人一人入れるのが精いっぱいの大きさに見えた。まるでエレベーターの箱だけがぽつんと置かれているような印象を抱かせる。
 それがいわゆる、上水・下水設備が不十分な地域に設置される仮設トイレだと言う事を、エレナがはっきりと知っていたわけでない。だが、エレナはそれを間違いなくトイレだと断じていた。
 いや、間違いなく、トイレでなければならなかった。
 エレナはその為に、ここに最後の望みを託してきたのだから。
『と……トイレ、できるのね!!』
 はしたなくも声を上げ、エレナは跳ね起きるように立ち上がっていた。下着を再び引っ張り上げるのもそこそこに茂みの中を飛び出して、グラウンドの反対側へと走りだす。
 ……ちゃんとした場所でトイレができる。
 そうとわかれば、こんな誰に見られるかもわからない茂みに用などなかった。十分に引っ張りあげられていない下着が、ワンピースのスカートの裾を巻き込んで、背中側がそうとう恥ずかしい事になっているのにも気付かない。エレナは脇目もふらずに、トイレまでのおよそ100mを疾走する。
 オシッコを我慢しながらの状態では、おそらく生涯最高となるタイムで、少女は金髪を振り乱し、グラウンドをひた走った。
 くねくねと揺れる腰、一歩ごとにダムを揺さぶる衝撃。
 もはや我慢のカウントダウンは延長戦をも過ぎ去り、ロスタイムに突入中だ。エレナは既に股間の先端からじゅっ、じゅじゅぅう、と熱い雫を断続的にほとばしらせていた。下着の股布に滲み、布地を濡らして下腹部にじわあっと広がる熱い感触が、刻一刻と強くなってゆく。
『オシッコ…オシッコ……!!』
 少女の素足を伝う水流はひとすじ、ふたすじと増え、サンダルから乾いたグラウンドに転々と黒い染みが散らばってゆく。ふくらはぎまで伝い落ちる水滴をあえて無視しながら、エレナは内股のまま走る。
『あ、あぁ、ぁっあ、っ……』
 じゅわじゅわと響く水音と共に、脚の付け根から漏れ出す途方もない解放感。腰骨をじいんと響かせる尿意からの解放に、必死になって抗いって。
 エレナは股間を押さえたままの覚束ない足取りで、どうにか小屋へとたどり着いた。
『ま、間に合っ……』
 既に下着はびしょ濡れ、太腿の内側も大洪水。間に合った、と主張するには大分無茶があったが、ともかく本格的な放水だけはなんとか押しとどめて、エレナは小屋のドアに縋りついた。
 幸いにもドアに鍵は掛かっていなかった。錆びたノブを掴み、思い切りドアを引き開けてその奥へと飛び込む。
 同時にスカートの中へと手を差しこみ、下着のゴムに手を掛けて。
 エレナはそこで、言葉を失っていた。




『な、なに、これっ……』
 そこにあるのは、エレナの予想していたものと、まったく違う光景だった。
 床の上にあるはずの便器――父に連れられてアジアの国々を巡った経験もあるため、エレナは日本のトイレが多く“和式”であることは理解していた。あまり利用したくない程度の忌避感こそあるが、使うこと自体に問題はない。恐らくここもそんなトイレなのだろうと、あらかじめ予防線のように最悪の想定をしていたのだが――個室の中にあったのは、そんなものですらなかったのだ。
 便器があったのは個室の床ではなく、壁。
 幅50センチ、高さ80センチほど。楕円形を半分に曲げたような流線形の、薄汚れた白い用器。それがこちらに向けて無防備に口を開けている。
 用器の中央には小さな穴が開き、上には配管が取り付けられ、その上に小さなボタンがあった。そこを押すことで使用後に水を流すのだろうが、どうも壊れているようで、便器は汚れをこびりつかせ、はっきりと分かるほどの悪臭を放っている。
 確かに、トイレ。オシッコをするための設備に違いはない。
 だがそれは女の子がオシッコをするためには、使うことのできない、男性専用のトイレ。まごう事なき『男性用小便器』。いわゆる『朝顔』。
 それが、この仮設トイレの中にある全てだったのだ。
『う、嘘……っ』
 ひく、とエレナの白い喉が息を詰まらせる。
(そんな、こ、ここ…違うの……これじゃ。私っ……わたし、っ)
 エレナも、流石に“これ”が男性用のトイレだと言う事は知識として知っていた。
 だが、求めていたものとのあまりの落差に、目の前の光景を、脳が現象として理解することができない。
 だってここには、トイレがあるはずなのだ。ちゃんと勇気を出して聞いて教えてもらったのに。もう漏れそうなのを、野ションするのも我慢して、ようやくやってきたのに。
 女の子の自分が、我慢に我慢を続けてきたオシッコをするための設備が。それなのに――、これは、一体。
『ふぁ……っ!?』
 この期に及んでなお排泄を許されない下半身が、抗議のように激しくおののいた。じゅじゅじゅうぅ、と猛烈な勢いの『先走り』が、少女の股間を激しく濡らす。よじり合わせた脚の間に、ぱちゃぱちゃと飛沫が迸る。少女の下腹部ではもはや“おチビり”のレベルですら済まされない、れっきとした“オモラシ”が始まっていた。
『うぅ、嘘、嘘よね、なにこれ、こんな……んぁっ!?』
 押さえ込んだ下腹部が、びくびくとのたうち激しく緊張する。我慢の限界を知らせる最終警告――オシッコの限界を迎えた排泄器官が、大きく収縮する予兆となる、強い下半身の反応が、少女をさらに追い詰める。
『んっ、あ、っ……はぁはぁ…っ、…だ、だめ、っ、ガマンっ……ここ、違うのっ、こ、こんなんじゃ、オシッコ、おトイレ、で、できないんだ、からぁっ……』
 少年達がやけに言葉を濁していたのは、つまりこういう理由だったのだ。
 市立中学の第二グラウンド――卒業生の一人が好意で貸し出してくれている土地に、十分な設備がないのは以前からの事だが、それでも練習場所を求める運動部の活動で使われる事は多かった。しかし長時間の練習では大はともかく、どうしても小の問題は付いて回る。
 林の中で垂れ流しという事態にも問題があるとされ、この仮設トイレが設けられたのが5年ほど前の事だ。
 そんな経緯など、エレナが知ろう筈もない。
『で、でちゃう……だめ、おしっこ、おしっこしたい、オシッコ出ちゃうっ!!』
 懸命に排泄孔を引き絞ろうとするが、もはやオシッコの出口はエレナのコントロールを離れつつあった。じんと疼く甘い痺れ、おチビりの解放感が、脚の付け根を包み、まるでお風呂で熱い湯船に浸かったかのような心地よさを、オシッコの孔周辺へとひろげてゆく。
 目の前にあるものが、男子専用のおトイレなのだという事。オシッコをしていい場所だと言うのに、女の子に自分には使えないのだということ。
 突き付けられた無慈悲な解答に、エレナの目の前には、性別の差という絶望が迫るばかりだった。限界水量を超えた乙女のダムの水面が激しく揺らめき、きゅううっ、と下腹部の奥で膀胱が決定的な大収縮の気配を覗かせる。
 これ以上水門を閉ざしている事は出来ないと、排泄器官が最終警告を発令している。既に溢れだした熱い雫が、再びトイレの床をぱちゃぱちゃと叩き始める。
 場所も状況も無視して、少女の身体は勝手にオシッコの予備動作に入ろうとしていた。鈍い痛みと圧迫感、猛烈な羞恥、そして解放感。混沌と入り混じった感情がエレナの思考能力を奪う。
『っ…………!!!』
 じわりと目に涙すら浮かべて、エレナはとんでもない行動に出た。
 トイレを飛び出し、地面に向けてしゃがみ込んだ――のではない。その逆だ。
 エレナは下着を無理やりに引っ張り下ろしながら、大きくスカートをまくりあげて、目の前にある小便器の出っ張り部分を跨ぐように股間をぐいと前に突き出したのだ。
 追い詰められたエレナは、思いあまるあまりに少女のプライドも羞恥もかなぐり捨て、この男子用小便器を使って、立ったままオシッコをすることにしたのだった。
 当然ドアも開け放ったまま、お尻も丸見えである。
 それでも、このままここでオモラシをするよりは良かった。壁に作られ、ロクに掃除もされていない薄汚れた男子用小便器へ、可憐な金髪少女がオシッコを噴き出させる――その為に、エレナは形振り構っていなかいった。
 女の子として、あってはならない行動だった。およそ、普段のエレナなら絶対に取らない――思いつきすらしないだろう。だが、カフェインによる猛烈な利尿作用によって絞り出され、乙女のダムをたぷたぷと揺らす大量の乙女の恥水、たっぷりと喉をうるおしてしまったジュース、何度も排泄を中断され、焦らされてしまった排泄器官。そしてなによりも、ここが懸命に我慢を重ねて、辿り着いたトイレ――『正しくオシッコをする場所である』という事実が、少女をこの場に縛り付けていたのだ。
 冷静な判断すらできないまま、エレナは本来その為に作られていない、男子用小便器を跨ぐ。当然ながら、少女の排泄に使う事は想定されていない『それ』を、エレナが使用する事は、不自然極まりない行為だ。女の子のオシッコは真っ直ぐ前に飛ぶようにはできていない。エレナの放水孔は脚の付け根に下向きについており、そこから噴出するオシッコを便器の中に収めるには、脚を大きくがに股にして、まるで腰を壁にくっつけるように突き出さなければならない。
 女の子として不自然極まりない、はしたなくもみっともないオシッコの準備。あまりの惨めさに、エレナの瞳にはじわりと熱い涙が浮かぶ。
『だ、だめ、まだっ……こ、こぼれちゃうっ!!』

 ぷじゅっ、じゅじゅぅ……

 解放を待ちきれないオシッコが、体制の整わなないエレナの股間から噴き上がりぴゅうっと鋭い水流を飛ばす。水門は勝手に緩み、押し寄せる尿意に強引にこじ開けられてゆく。
 つうんと脚の付け根に響く鈍い痛みに、エレナは慌てて腰をひときわ大きく、前へと突きだそうとする。
 それがいけなかった。
 エレナの下着は、ちょうど膝の上、太腿の下に引っかかっているような状態にあった。限界寸前の状況で足を上げている暇などなく、下着はちょうど半脱ぎの状態で、揃えた脚の半ばほどまでしか下がっていなかったのだ。
 清潔を保ち、外部の危険性から少女の秘所を守る縞模様の布地は、当然ながら耐久性にも優れている。その上たっぷりとエレナ自身のオシッコを吸って濡れ、収縮した布地は、まるで少女の脚を縛りあげるかのように、自由な行動を阻害してしまう。
 縞模様の下着は膝の上に絡みつき、少女の脚を拘束していた。事実上、ほとんど太腿を縛られたような状態に等しい。
 エレナはその体勢で無理に前に出ようとしたのだ。当然、大きくバランスが崩れ、少女の身体は前につんのめってしまう。
『きゃ……ぁああああっっ!?』
 足元がサンダルという、不安定な事も災いした。何度も我慢を繰り返し、しゃがみ込んで、走りまわり、立て続けの緊張で両足が疲労していた事も一因だった。便器に顔から突っ込みそうになったエレナは、反射的に後ろにのけぞり――そのまま仮設トイレから転げ出るように、後ろ向きに倒れ込んでしまう。
 仮設トイレの床、段差の上からの落下は、強い衝撃を伴って響いた。
 ちょうど、尻餅をつくような体勢で、エレナは背中に向けて仮設トイレを転げ落ちた。どしん、と少なからぬ衝撃が、背骨を貫く。
 とっさに手が出る事はなく、手首を捻るような事はなかったが――ワンピースのスカートは大きく腰上にまくれ上がり、少女の下腹部は白日のもとに露わになる。
 かぶっていた麦わら帽子も弾みで脱げ、傍の地面にぱさりと落下する。
 転倒の衝撃が腰骨に伝わり、エレナの細い腰を貫いたと同時、大きく膝を広げて座り込んだのと同じ状態の脚の間から、しゅうぅうっと太腿に勢いよく擦れるような音が響く。
『んぅぁ……っ!?』
 放水孔の内側粘膜を擦る敏感な刺激に、エレナは思わず声を上げていた。
 パンパンに膨らんでいた乙女の水風船が大きく振り回され、一番脆い所へと水圧を叩き付けたのだ。じんっ、と股間の先端から下腹部に刺激が響き、下着が覆う事も、手が押さえこむ事もなくなった股間の奥、脚の付け根からしゅるるるるぅ、と熱い水流がほとばしる。
 そして、膝の上、太腿の間に絡まった下着の股布部分めがけ、黄色い奔流が、まるで射的のように直撃した。

 ぶじゅじゅじゅじゅじゅうじゅうううううぅっっ!!

 つんと広がる、女の子特有の匂い。転倒の衝撃が、固く閉ざされていた水門をこじ開け、下腹部を大きく圧迫して、膀胱がありったけの勢いで収縮してゆく。我慢に我慢を重ねた尿意はいまや遮るものなく、本当の勢いで噴き出す。
 もし、下着が水流を遮っていなければ、その勢いはそのまま大きく弧を描いて、数メートル先の地面にまでじゅごおおぉぉっと迸っていたかもしれない。
 縞模様の下着をあっという間に湿らせ、少女の脚の奥から噴出する薄黄色の水流は、エレナ自身も信じられないほどの凄まじい勢いで絞り出されてゆく。その放水の凄まじさは、線の細い華奢なエレナの姿からはとても想像のつかないものだった。
 ここまでの我慢を可能にした強靭な括約筋のためか、あるいは少女の髪と眼を彩る海外の血筋のためか。日本の少女には決してできないと感じさせる、豪快極まりない放水。ホースの先端を潰したかのような水圧で、少女のオシッコはさらに勢いを増す。
『ぁ、あっ、ダメえ!!』
 八重歯を覗かせ、エレナは咄嗟に脚の付け根を押さえ込もうとする。
 だが、いくら手のひらで押さえても、放水の勢いは留まる事を知らなかった。その水圧は薄いティッシュくらいなら引き裂いてしまいかねない圧力で、少女の手のひらを痛いほどに直撃する。噴き上がる水流は蛇のようにのたうち、縞模様の下着にぶつかって、突き破らんばかりの勢いで激しく飛沫を撒き散らす。
 それはまるで、少女の股間に、噴水ができ上がってしまったかのよう。
 本当なら、目の前の男子用小便器の中へ猛然と叩き付けられるはずだった乙女の大量放水は、トイレのすぐ前の地面を標的に、角度を90度回転させて行われる。
 エレナは懸命に身体をよじって、オシッコを堰き止めようとした。角度を変えた放水は下着にぶつかる事は無くなったものの、勢いをとどめる事を知らないまま、猛烈に地面へとぶつかる。整地され、運動部の部員達が踏み固めたグラウンドの地面が、少女が股間から噴き出させる水流に、あっという間に深々とえぐられてゆく。
 熱く噴き出した羞恥の水流は、懸命に脚の付け根を握り締める少女の細い指の間から四方に吹き出し、下着の股間とおしりを濡らしながら、勢いよく仮設トイレの個室の床を、ドアを、目の前の地面を、お尻の下を直撃する。

 ぶじゅっ、じゅじゅじゅじゅじゅぅうううっ!!
 じゅじゅじゅっ、じゃごぉごおぉ……!!

 少女の脚元の水たまりはたちまちの内に大きくなり、1mは離れていた麦わら帽子すらその中に飲み込んでしまう。泡立ち濁った泥は大きく跳ねてワンピースや少女の太腿やお尻、ふくらはぎまでもが見るも無残に汚されてゆく。
『んぁ、ぁ、だめぇええ……っ!! 、と、トイレ、トイレで、するのぉっ……!!』
 エレナは両手で無茶苦茶に脚の付け根に指を喰い込ませ、言う事を聞かない足を半ば無理やりに引っ張って立ちあがった。
 しかし、下腹部に無理な圧迫をしてしまったせいか、それはなお一層激しく、少女の股間から恥水を迸らせる結果になる。エレナの股間が噴射――文字通り“噴射”させた大量の新鮮なオシッコが、少女の手のひらから溢れ、脚に張り付いたワンピースへ、太腿へ、膝へ、ふくらはぎへと叩きつけられた。

 ぶじゅじゅぅぅぅぅううっ、じゅじゅじゅぅぅぅう……!!!
 ばちゃばちゃばちゃばちゃ……

 エレナの懸命の努力は、しかし『尻餅をついたままのオモラシ』から、『立ったままのオモラシ』へ移行した程度の事でしかなかった。
 大量のオシッコが激しく噴き上がり、ワンピースの布地を直撃する。汚れて黒茶に染まっていた布地から、あっという間に泥が洗い落とされてゆく。
 ふくらはぎや太腿、サンダルも同様だった。高水圧のオシッコがもたらす羞恥のクリーニングによって白いワンピースはたちまち黄色に染まり、さらには泥の汚れに薄茶色を重ねてゆく。
 エレナの膝上に引っかかった縞模様の下着は、風にはためく旗のように、噴き出す羞恥の熱水を浴びてばたばたと揺れ、オシッコを撒き散らす。
『ぁ、いや……いやぁあ……~~っ、、!! ぁ、はぁあ……ぅ……っ』
 がくがくと震える膝が、びしょ濡れになった腰が、排泄の解放感にうちふるえる。白い喉を反らし、青い瞳から光すらも失って、ぱくぱくと喘ぎ、酸素を求める少女の唇は半開きとなり、その奥に八重歯をのぞかせて蕩けているかのようだった。
 きつく押さえ込まれた手の間から噴き出す支流は、ワンピースをずぶ濡れにしたまま泥に濁った水たまりにさらに深く地面をえぐり、大きく飛び散った水流は、仮設トイレの床すらも一面びしょ濡れにしてゆく。
 いったん溢れだしたものを止める事はもう出来なかった。こじ開けられた乙女のダムの放水孔から、溜まりに溜まった水圧のまま、ありったけの尿意が噴出する。
 懇願のように。喉の奥から悲鳴を絞りだす絞り出されるエレナの足元で。
 迸る羞恥の放水は、いつまでも果てることがないかのように、勢いを弱めない。
「…………、……」
「……!?」
 忘我の縁で、エレナは遠く、グラウンドの向こうから駆け寄ってくる人影を捕える。興奮した様子の少年達――エレナの様子が気になって引き返したのかもしれない――を遠目に見ながら、エレナはその場にくずおれてしまう。
 濡れぼそって肌に張り付き、肌を濡れ透けさせるワンピースの奥。脚の付け根の合わせ目から、少女の排泄はなおも延々と続くのだった。



 (初出:書き下ろし)
 
◆原案

> ところで
> 金髪前髪パッツンの娘が父親の仕事の関係かなんか(この辺は適当でいい)で日本に来て、
> 街を散歩してたらもよおして、「トイレどこですか」って訊こうにもどう訊いたらいいかわからなくて、
> 野ションしようとして人の居なさそうな場所を探して、公園のちょっと植木のある所まで行って、
> スカート下ろした辺りで公園のトイレを発見して、慌ててスカートを戻そうとするんだけど
> あまりの尿意から慌てすぎて転んで、そこで盛大におもらしする
> っていう電波を受信したんだが

[ 2011/10/22 21:34 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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