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社会見学バスの話・05 クラス担任・清水蓉子 

 高速道路の渋滞に巻き込まれ、前にも後ろにも進む事の出来なくなった2号車の最前列の座席で、しきりに足をさすっている女性の姿がある。
(あーんっ、早くしてえ……)
 ストッキングの太腿を忙しなく擦り合わせ、子供のように落ちつきなく周りを見回しているのは、2年A組担任の清水蓉子だった。
 今年で教員生活3年目の、まだ新人といってもおかしくない若輩の彼女は、生徒達に混じっていてもあまり違和感のないあどけなさを残している。むろん、きちんと成人した社会人ゆえに子供のような振る舞いこそ慎んでいるものの、まだまだ学生気分が抜けきっていない側面がある。
 子供の心を忘れない大人として、生徒達にも親しまれているのは確かだが、教師として少々周囲への配慮に欠ける部分があるのは、彼女の指導に当たる学年主任の教諭の悩みでもあった。
(……ああ、もうっ、まだなの? 早くしてよぉ……!!)
 彼女は帰路のバスに乗り込む前からかなりの尿意を催していた。休憩時間が終わってもなかなか公園を出てこようとしない生徒達を呼び集め、バスに乗るのを確認するのに手間取り、とうとう出発までにトイレに行き損ねてしまったのだ。
 バスの出発前に2-Aの生徒達の動きが鈍かったのは、彼女達の多くが強い尿意を感じていながらも、記念公園の汚い汲み取り式トイレに入るのを躊躇っていたためなのだが――結局そのトイレを使いそびれた蓉子は、そんな事情を知る由もない。
 もともと教師というのはトイレに不自由することの多い職業である。
 まして今年度から担任を持つようになってから蓉子の忙しさはいや増し、オシッコ我慢は日常的なものになりつつあった。
 授業の途中に襲い来る排泄衝動を、教卓の裏でスカートを掴み、ストッキングに包まれた膝を擦り合わせて乗り切り、短い休憩時間に教員用トイレまで廊下を小走りに急ぐ。
 そんな時に限って、授業内容を質問する生徒や、会議の資料を頼んでくる先輩教諭に呼び止められるのだ。今すぐトイレへと駆け込みたいほどの尿意を覚えながら、泣く泣くトイレを後回しにして我慢を続け、そのまま次の授業になだれ込むようなことは日常茶飯事だった。
 それでも、ほぼまる1日、朝から一度もトイレに行かずに過ごすのは、蓉子にとっても教師生活3年目の今日が初めての経験だった。
(うぅ……オシッコ行きたいよう……)
 今年度から初めて受け持つクラスの、初の郊外授業と言うこともあり、蓉子も皆から頼れる『清水先生』として立派に担任を勤めるため、いささか気合いが空回りしていた感も否めない。
(ああん……やっぱり、出発前に素直にお手洗いのこと言うんだったわ……。でも、……あーんっ、こんな事になるなんて、意地悪すぎるわよぉ……!!)
 公園を出る時点で蓉子の尿意はかつてない領域に達していた。その原因は、やはり飲料工場で勧められた美容にも最適というショウガ紅茶だ。デトックスという言葉につられて、ついつい何杯もお代わりしてしまったのが本当に悔やまれてならない。
 日頃からトイレ我慢を繰り返し、相当に訓練されている蓉子の膀胱であっても、バスが学校まで戻る帰路の1時間、本当にオシッコを我慢できるかどうかは、かなり怪しいものだったのである。
 出発直前になって、不安の極致に達した蓉子が、いったいどれほど運転手に言ってバスを止めてもらおうかと深く葛藤したことか。
 しかし、2ーAの生徒達とは違って立派なオトナであり、担任の先生でもあるが蓉子が、出発準備を完全に終えたバスの中で、まさかいまさら『お手洗いに行きたいからちょっと待っててください』なんて言い出せる雰囲気ではなかったのだ。
 そもそも学年の集団行動の中、スケジュール管理をしなければならない立場のクラス担任の立場で、そんな個人的な理由でバスの出発を遅らせることができるはずもない。蓉子は後ろ髪を引かれる思いを振り切って、涙を飲んでバスに乗りこんだのだった。
 生徒達のトイレを心配しすぎた結果が、自分自身のピンチであるという皮肉。それは3時間という未曽有の長時間の我慢延長戦を強いられている中で、蓉子の気を逸らせるばかりだった。
(渋滞しないでってあんなにお祈りしたのに……あーんっ…)
 そんな願いもむなしく、バスは1時間も前から渋滞のただ中である。途中にサービスエリアでのトイレ休憩などは、どこにも想定されていない。
 スーツ姿の蓉子の、細めのスカートのおなかは、我慢し続けのオシッコでぷっくりと膨らんで、ベルトに浅く食い込みを作っている。
 運転席のすぐ隣の最前列の座席シートの上、蓉子の両手は既に大事な部分に添えられており、シートの上でははしたなくも腰が自然と左右に揺すられてしまう。いい歳をしてもじもじとオシッコ我慢のしぐさを堪え切れないことに、蓉子は落ち着かない気分でちらちらと運転席を窺う。
 幸いにして、運転手は蓉子のことを気にするでもなく、バスの運転に集中しているようだったが――
(早く…早くしてよお……渋滞なんかふっ飛ばしちゃって、邪魔な車なんか押しのけちゃえばいいのに……!! ああんっ、トイレ、オシッコ行きたい……!! ぃ、急がないと、急がないとぉ、……ぉ、おっ、おも、オモラシ、し、しちゃうのよぉお!! ……あぁあーんっ!!)
 とても生徒達には聞かせることのできない、剥き出しの『オンナ』の欲望を胸の中で叫び、蓉子はじりじりと焦る気持ちで、じっと運転席前方に続く渋滞の列を睨む。
 万が一にも、こんな有様の自分を、生徒達に気付かれる訳にはいかないのだ。先生としてクラス担任として決してあってはならない事態を前に、蓉子の焦燥はなお深まるばかりだった。
[ 2012/08/05 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)
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