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社会見学バスの話・33 長谷川陽菜 

「ううっ、ぐすっ……っく……ふえ……っ」
 バスに戻った陽菜は泣きじゃくっていた。
 後から後から溢れる涙を、両手でぬぐう。さっきまで脚の付け根を押さえ込んでいた両手は、おしっこでびちゃびちゃに汚れたまま、袖にまで黄色い染みが広がっている。
 白いふくらはぎには、まだ脱ぎかけたままの白い下着が、びちゃびちゃになって絡み付き、スカートは重く水を吸って腿にへばりつく。太腿からひざの裏を掛けてはまだ細い水流がちょろちょろとこぼれ、すっかり水を吸ってがぼがぼの革靴にぽたぽたと雫を垂ら続けていた。灰色から紺へ色を変え、たっぷりとオシッコを吸ったスカートの裾から落ちる恥ずかしい水滴はバスの床に点々と続き、つうっと通路の真ん中へ流れてゆく。
 陽菜は、バスを降りた9人の少女達の中で唯一、外でのオシッコを終えていた。
 ただし――きちんとした形ではなく、完全なるオモラシという結果で。バスが動いた瞬間に気付けなかった陽菜は、他の少女たちよりもオシッコの出口を押さえ込む野が遅れてしまったのだ。
 時間にして数秒――陽菜が気付いた時にはもう遅かった。開きかけた排泄孔は長時間の我慢でひりひりと疼き、むず痒く震え、耐えかねるようにぽかりと丸い口を開けて本当の勢いのオシッコを迸らせてしまった。
 オシッコ我慢中の女の子は、我慢の限界で一旦トイレを見てしまったら、もう辛抱きかない生き物なのだ。オシッコの『出始め』で緊急放水停止命令を発して排泄を止めようとした他の少女――佳奈や、頼子達とは対照的に、陽菜の身体はもう『オシッコを出せ』以外の命令を聞いてはくれなかった。
 蛇口を全開にしたような猛烈な水流が、しゃがみ込んで突き出したお尻の側へ思い切り噴射され、アスファルトを直撃するのを、もう陽菜は自分でも止められなかった。解放されたオシッコの出口は途方もない解放感に震え、ぶるると収縮する脚の付け根から絞り出される熱水が地面を跳ねるのに、歓声すら上げたくなるほどの悦びを覚える。
 焼けた鉄を水に漬けた時のような音を響かせて、おなかの一番底に空いた穴から、ずっと自分を苦しめ続けていた恥ずかしいお湯が噴き出すのを、どこか他人事のように感じてしまっていた。
 そして、気付いた時にはもう遅い。
 隣に居た頼子も、向こうの佳奈も、葵も、呆気にとられたように陽菜の大胆な野外オシッコを、羨ましそうに見つめていた。
 その視線に気付いた陽菜の背中を、冷たいものが走る。
 次の瞬間には、喉が千切れんばかりに悲鳴を上げていた。動転した身体が足を滑らせて倒れ込み、四つん這いになってお尻を高く持ち上げてしまう。いよいよ噴き出すオシッコは勢いを増し、陽菜のおなかの下へ激しく噴き出して地面を洗い流す。押さえる手が無くなって垂れさがったスカートを直撃し、飛び散る飛沫は、地面に倒れ込んだ上着まで容赦なく汚した。
「っ……ひぐっ……うぇ……っ」
 トイレの躾のできていないような、小さな子だって、ここまで全身をオシッコでずぶ濡れにすることなんてないはずだった。
 地面へと放出されるはずだったオシッコは陽菜自身の制服を直撃し、普通にオモラシをしたよりも大規模な被害をもたらしている。
 一歩ごとにじゅじゅっ、とオシッコを染み出させる服では椅子に腰を下ろすこともできない。陽菜は立ち尽くしたままバスの背もたれに寄りかかり、涙をこぼす。
 しかし、そんな彼女を、あろうことかいくつもの視線が非難がましげに睨みつけている。
 陽菜の受けた恥辱を考えれば同情こそすれ、羨望や失望などあり得ないはずである。しかしその視線が含む成分は、はっきりとした憎しみすらはらんでいる。
 そう、いまなお猛烈な尿意をその小さな下腹部に抱え込んだ少女達からすれば、陽菜は一人、抜け駆けのように、バスの陰でオシッコを終えた少女なのである。その結果が見るも無残なオモラシだったとしても、28人のクラスメイトの中で、いち早く尿意に膨らむ膀胱かを空っぽにし、ぱんぱんのおなかからオシッコを絞り出した少女でもあるのだ。
 今なお耐え難い苦悶に身をよじる少女達は、先にオシッコを済ませた陽菜を羨み、蔑み、さらに目に触れるだけでさらなる尿意の元となるその姿を厭うようにして、扱ってしまうのだった。
 一人だけ先に『オシッコをしたくせに』、泣いている陽菜を鬱陶しいと、あるいは邪魔だと思う感情は、ひりつくほどの排泄欲求に耐えしのぶ少女達にとっては、ごく自然なものであった。
 “早くわたしもオシッコをしたい!”という羨望。
 同時に、“あんなみじめな格好になりたくない”という差別。
 陽菜を見て必死に自分を奮い立たせ、あるいは邪険に視線から外し、クラスメイト達はまるで居ないもののように扱っていた。
 良くも悪くも、この扱いは陽菜にとっては新たな苦悶の種でしかなく――バスの中に生れた人間関係はますます渾沌と、複雑になってゆくばかりであった。

[ 2013/07/21 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)
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