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『おねえちゃん、おしっこしたいの…!』 


 ゆっくりと、進んでは止まるバスの中。遠足で元気いっぱい遊び疲れた『晴空の会』の皆を乗せて走る車内のそこここから、可愛らしい寝息が聞こえる。
 インターチェンジの前、慢性的な渋滞にせき止められた高速道路、のろのろと動く車の列に挟まれた高速バス、その午後の気怠い雰囲気の中で。
「あ、あのね……あの、お、おねえ、ちゃん、ね? ……、その、っ、……」
 言葉に詰まり、ぱくぱくとくちびるを開閉させる星佳を、不思議そうに見上げて首を傾げる沙希。
 あどけない瞳に見つめられるなか、耳の先まで真っ赤になった星佳の唇が、小さく「お」の形をつくる。擦れた声、荒い吐息。
(い……言わなきゃ……っ。ちゃんと言わなきゃ……。も、もう、だめ、無理よ……っ!!)
 震える指先を握りしめて、星佳はくじけそうになる勇気を振り絞る。いくら恥ずかしくても、もうこれ以上、黙っているわけにはいかなかった。
「その、おねえちゃん、……ぉ……ぉ、……お、っ……、ぉしっ、……こ…! っっ、……ぉ、しっこ……、おしっこが、したいの……っ!!」
 沙希の耳元に顔を近づけ、「お」から始まる恥ずかしい四文字言葉の欲求を、星佳は何度も何度もつっかえながら、口にした。
 ○学生にもなって、こんな恥ずかしいことを――しかも、自分が『おねえちゃん』として引率すべき子供たちに、打ち明けなければならないなんて。星佳の整った顔は、みるも顕わに羞恥に染まってゆく。
「ええええー!? おねえちゃん!?」
「っ……沙希ちゃん、しずかに!」
 あれだけ秘密よ、と念を押していたのに、秘密を打ち明けられた途端に大きな声を上げた沙希に、星佳はあわてて口の前に指をたて、しーっ、しーっと強くアピール。沙希が、あ、そうかとばかりに両手で口を押さえた。
 おくちチャックのまま、隣の席の沙希は信じられないというよう大きく瞬きをする。それはそうだろう、自分よりもずっと年上の『おねえちゃん』が、おしっこが我慢できないと告白したのだ。つぶらな瞳に見上げられ、星佳は耳の先まで顔が紅潮していくのを感じていた。
(だ、だって、しょうがないじゃないっ!! ……きょ、今日、ずっと……おトイレ、できてないんだもの……っ!!)
 キュロットの上、ぎゅっと白い手が握りしめられる。子供たちの引率のため、活動的に整えた服装は、しかしいまや押し寄せる生理的欲求の前に縮こまり、可憐に小さく震えるばかりだ。
「ねえ、どうしておトイレいかなかったの? おねえちゃん。先生も、バスにのるまえにおトイレにいきなさいって言ってたよ?」
「………っ……」
 当然の疑問。沙希の無邪気な問いかけは、おそらく本人も無自覚のまま叱責も暗に含まれているものだった。無論、星佳だって長い高速の上、おそらく重体になるとわかっているバスの出発前に、トイレのことを考えなかったわけではない。その時点でかなり強い尿意を覚えていたこともあり、なにがなんでもトイレに行っておかねばならないと考えていた。
 それができなかったのは、やんちゃに暴れ回る子供たちに振り回され続けていたためである。
(しかた、ないじゃない……っ!!)
 心の中をぶちまけ、反論したかったが、ここで沙希にあたり散らしたって意味がない。沙希だけが悪いわけではないし(むしろ、彼女はおとなしいほうの部類だった)、そうしたところでこの尿意が消えてなくなるわけがないのだ。
(……おしっこしたい……っ。トイレ、トイレ、行きたい……っ)
 先生たちの確認にも生返事、きちんと言い出すことができないまま、出発するバスの中に乗り込んでしまった事を星佳は深く後悔する。たとえ皆を引き留めてしまうことになっても、あそこで星佳は自分がトイレを済ませてくるまで待っていてもらうべきだった。
 もう、かなりおしっこがしたくて困っているくらいだったのに。どんどんと募る一方の尿意に、『帰るくらいまでなら、だいじょうぶかな……』と、根拠もない自信に安易な決断をしてしまったことを、強く強く悔いていた。
「ふぁ……う……っ」
 バスがゆっくりと道路の継ぎ目に乗り上げ、かすかな振動をもたらした。それに連動してきゅうん、と下腹部でうずくイケナイ感覚が、じいんと恥骨の上に響く。
 艶めかしい喘ぎ声が、少女の唇を震わせた
「……もぉ、やだ……っ」
 自分を苦しめる、おなかの中の悪魔の尿意に、俯いた星佳の目元に涙が浮かぶ。
 引率の子供たちは皆、休憩時間中に、バスに乗る前に、しっかりとトイレを済ませてきている。すやすやと可愛らしい寝息は、お昼寝前のきちんとしたトイレのおかげだ。
 こんな小さな子たちでさえできることが、できないなんて。……そう思うと、下腹部の重みが一段と増すような気さえしてくる。
「おねえちゃん、へいき? 我慢できるの?」
 俯く星佳の顔を覗き込み、沙希がそう聞いてくる。心配すると言うよりは、おトイレのしつけも満足にできていない『おねえちゃん』を、責めているようにすら聞こえた。
 けれど、沙希達よりずっと大人のはずの星佳は、俯いたまま、ぎゅうっとスカートの奥で膝を寄せ合わせ、小刻みに擦りつけながら、ぷるぷると首を横に振ることしかできない。
 いま、まさに星佳は、ふいに押し寄せてきた尿意の大波にさらされ、羞恥と我慢が激しく綱引き合う、せめぎあいの最中にいた。
(っあ……あ、ぁっ、あ、ダメ……が、がまんできない……っ、で、でちゃう……っ、でちゃう、よぉ……お、おトイレ……っ!)
「ねえ、おねえちゃん? おねえちゃん?」
 答えない星佳に、ぐいぐいと袖を引っ張る沙希。騒ぐ彼女に目を覚まし、周りの席の子供たちが目を覚ます。『おねえちゃん』のおしっこ我慢とその限界に、にわかに皆が声を上げ始めた。
「おねえちゃん、おしっこ?」
「えー? おねえちゃん、トイレ行ってないの?」
「いけないんだー! ちゃんと、先生のいってること、まもらなきゃだめだよ! ねえ、おねえちゃん!!」
「おねえちゃんへいき? がまんできる?」
 無邪気な言葉が、次々に星佳を責めたてる。もはや少女のプライドはずたずた。『おねえちゃんは、おしっこがしたいの!』。誰にも秘密のはずの告白はあっというまに、バスの後部座席に広まっていく。
(ぁあ……だめぇ……)
 声にならぬ悲痛な叫びが、星佳の喉を震わせた。こんなことになるなんて。意を決して、覚悟を決めて「おしっこ」の欲求を口にしたはずなのに。どこか予想していたけど、けれどやっぱり覚悟が足りなかった。
 沙希に尿意を告白したのは、なにも彼女に縋るためではない。一緒に座る沙希に席を交換してもらい、バスの座席を立って、車体の前のほうに座る、先生たちに尿意を訴えるつもりだったのだ。
 どこか――近くのサービスエリアの、トイレに寄って。
 おしっこを済ませるための、休憩時間を取ってもらう、ための。
「ちょっと、今井さん、本当? 我慢できないの!?」
 騒然となる車内のさわぎは、やがてバスの前方まで届き。先生たちが次々に立ち上がり、後ろのほうを見る。本当なら、最小限――あと一人。主任の松中先生にだけ知らせるはずの、秘密が――運転手さんや、他の付き添いの子たちも含め、バス全体の公開共有情報へと変わっていってしまう。
「すみません、すぐにサービスエリアに寄ってください。あの子、トイレが我慢できないみたいで――」
 まるで、小さな子のように。トイレのために、バスを止める。そんな相談が堂々とはじまり、子供たちが口々に叫ぶ。
 バスに乗る皆が、星佳のトイレのことを心配し、そのために動き出し始めていた。猛烈な羞恥の中それを感じ、星佳は、けれど――
(だめ、ま、まに、まにあわ、ない……っ、でちゃう、もう、出ちゃうよお……っ)
 バスは高速道路の中、ゆったりと車の列を走り続けている。
 道路標識によれば、次のサービスエリアまでは、少なくとも8キロ。
 子供たちが息を呑んで見守る中、星佳の――『おねえちゃん』の、長い長いオシッコ我慢劇場が、その第一幕の幕を上げた。


 (初出:@kurogiri44 ツイッター投稿より加筆再録)
[ 2015/05/03 14:48 ] 我慢 | トラックバック(-) | コメント(-)
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