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車の後部座席の話。 


 どこまでも続く終わらない渋滞の中、車内にはけだるい空気が満ちていた。3回目のリピートを繰り返すCDアルバムの歌声は、初めの頃に比べてかなり色あせて聞えてしまう。
 連休最終日の帰郷ラッシュによって、高架の上の3車線を何十キロ先までも続くテールランプの大行列で埋め尽くしている。
 もはや高速道路とは名ばかりになった上り車線の上、ハンドルを握る父親が諦めたように溜息をつく。
「動かないわねー……」
 惰性と共にCDを止め、ラジオをつける母親。無機質なニュース番組が今日の出来事を読み上げてゆく。
 デジタル時計はとっくに8時を過ぎたことを知らせていた。これからどれほど順調に渋滞が進んだとしても、家に帰りつくまでには繭がいつも眠る時間をとっくに超えているだろう。
「繭、もう眠い?」
「う、ううんっ」
「そう? ……眠かったら無理しなくていいわよ。おうちに着いたら起こしてあげるから」
「う、うん……」
 後部座席の娘を案じ、シートから顔を覗かせる母親に、繭は身体を強張らせたまま、曖昧に頷いた。
 たっぷりはしゃいで遊びつかれた少女の身体は確かに休養を欲していて、油断をしているとふいに瞼が落っこちてきそうになる。けれど、繭はそんな頭を一生懸命左右に振って眠気を追い払い、息を殺しながらぐっと座席に腰を押し付けていた。
「……んっ……」
 腰奥にじんじんと響くむず痒さはいや増し、少女の身体を休むことなく侵食してゆく。そおっと伸ばした手のひらの下で、下腹部は硬く膨らみ、閉じた脚の間には一瞬も気の抜けない緊張感が張り詰めている。
(でちゃう……っ、トイレ、はやくおトイレ……っ)
 自分の下半身が執拗に要求する『おトイレ』の誘惑を必死になって振り切りながら、繭は一人孤独に、生理現象との戦いを続けていた。
 助手席の母親と運転席の父親に気付かれないように、すこしずつ身体をくねらせて、脚の付け根を後部座席の中央、軽く盛り上がった部分に押し付ける。できるかぎり音を立てないようにと慎重になればなるほど、些細な衣擦れの音が余計に響くような気がした。
(おトイレ、したいよぉ……っ)
 小さな胸を羞恥と煩悶でいっぱいにしながら、それでも繭はそのことを口に出すことはしない。お気に入りのペンギンのぬいぐるみをきつく抱き締めて、少しでも気分を紛らわせながら、シートの上で小さく腰をよじる。
 繭が必死に我慢を続けているのには理由がある。
 わがままを言って両親を困らせたくないというのがそのひとつだが、なにもそれだけではない。
 去年のことになるだろうか。
 両親の用事で親戚のおじさん夫妻に預けられ、遊園地に遊びに行った帰りのことだ。その時も今日のように車が渋滞に捕まってしまって、遊園地を出るときにトイレを済ませていなかった繭は、車の中でどうしてもおしっこがしたくなってしまったのだった。
 とうとう我慢できなくなった繭は顔を真っ赤にしながら、トイレに行きたいと切り出した。けれど、繭を待っていたのは無常にも、道路の隅っこで済ますようにという無慈悲な言葉だった。
 無論ながら、繭はそれを拒否した。しかしそんな少女の繊細な羞恥心や芽生えかけた乙女心など、まるでただの感傷とばかりに子ども扱いされた繭は、渋滞でずらりと並んだ車の間を引きずられ、道端の側溝におしっこを済ますことを強制されてしまったのである。
 激しく音を立て、乾いた道路に飛沫を散らして大きく拡がる自分のおしっこを、何十人という人に目撃されたことは、繭の心に大きな傷をつくっていた。
 あんな目に合うくらいなら死ぬ方がよっぽどましだと、掛け値なしに繭はそう思っていたのだ。
(ふぁ……っ)
 ぞわり、とおしりを撫で上げ腰を伝い、背中を這い登る感覚に、繭はぎゅっと目を閉じる。ぬいぐるみはますます少女の手にきつく抱きつかれ、繭と共に苦しげに震える。
 いま、ここの近くにトイレなどないことは繭も十分に分かっている。だからこそここでそんな事を口にしても両親を困らせるだけだったし、まして近くの道端で済ますなんて、それこそできることではない。
(……おねがい……でちゃだめ……っ)
 もはや祈ることしかできない無力な少女は、くねくねと腰を座席シートに押し付ける。
 こんな状態で眠れるわけがない。もし仮に眠れたとしても、その時は間違いなく夢の中でトイレに掛けこんで、遠慮なく思い切りおしっこを出してしまうことだろう。目が覚めた頃にはオネショで後部座席が水浸しの大洪水になるのは目に見えているのだ。

『――情報をお伝えします。現在○○高速、上り方面、××インターチェンジ付近より40kmの渋滞――』

 ニュースの交通情報に、父親がやれやれと頭をかく。
「どうする、次で少し休憩するか?」
「……その方がいいかしら。でも、もっと遅くなっちゃうんじゃない? あなた、明日も早いんでしょ?」
「そうなんだよなぁ……もう少し早く出ればよかったか……」
 次のサービスエリアまで『あと5km』の表示の案内板が、助手席からも見上げるような位置にある。この案内板が見えてから、車が通り過ぎるまでに二十分もかかっているのだ。
 焦っても仕方ないが、この先にどれだけ時間がかかるのかを思うとうんざりするのはどうしようもない。
 そんな両親の会話をはっきりと理解しきっていたわけではないが、少なくともあまりよくない状況だというのは繭も分かっていた。言葉にせずとも分かる焦りが、ちりちりと繭の背中を焦がす。
(……はやく、おトイレっ……)
 きゅん、とスカートの奥、ふわふわの布地に包まれた部分の一番奥が疼く。おなかのおくに閉じ込められた熱い液体が、じわじわとあふれ出してくる予兆に、繭は背筋を緊張させた。
「ぁ、っ……」
 小さく声を上げてしまい、繭は慌てて口を閉じなおした。ぬいぐるみから片方の手を離し、ぎゅっと閉じ合わせた足の間に押し込む。
 おしりの下に何かを押さえつけるように、繭は座席を軋ませ、息を詰めてもじもじと腰を揺すった。
 挟んだ手のひらを、下着の上から股間に擦りつけるたび、じんっ、と響くむず痒い感触と共に、ほんのわずか尿意が和らぐ。

 ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅぅっ。

 少し動いては休み、休んでは動き、少しずつ大胆に、繭は腰を前後左右に座席シートにねじつけては身体を小さく跳ねさせた。抱き寄せたぬいぐるみもぴったりと少女の下腹部にくっついて擦れ、布地越しに切ない尿意に震える股間を慰める。

 じゅ、じゅぅっ……

 熱い水音が、下着の奥で響く。じんわりと拡がる暖かな湿り気が、少女の脚の間の布地をたっぷりと濡らしてゆく。漏れ出したおしっこは、腰をびりびりと痺れさせるほどに鋭い、刺激的な解放感をもたらす。
「……だめ……っ!!」
(おしっこ、がまんっ、おしっこがまんっ……)
 小声で呟き、がまんの文字を呪文のように何度も繰り返す。
 必死になってダムの決壊を塞き止めようとする頭とは裏腹に、下半身は勝手に動き、繭の言うことを聞いてくれない。またもほんの少し、おチビりが発生してしまう。
 じゅわぁ、と吹き出した滴は、今度は股布に吸収しきれず、おしりのほうへと溢れてしまった。
(ま、また……だめなのにっ……がまんしなきゃっ……)
 脚をきつく交差させ、おしりをもじつかせ、繭は何度も何度もおチビりを押さえ込もうとする。
 効果的におしっこの出口を押さえるには、ただぐっと体重をかけるだけではなくて、リズムを刻むようにその上で体重を乗せる必要があった。ぎゅ、ぎゅっと座席シートのでっぱりに脚の付け根を擦りつけているうち、徐々に繭の様子に変化が訪れる。
(あ、ぁっ、あっぁっ)
 じわあ、と漏れたオシッコが、下着の上に染み出してゆく。
 力の抜けた手はもう意思を持って股間を押さえることができなくなり、力なく垂れ下がる。同時に、抱き締めていたぬいぐるみも脚の付け根まで降りて、その丸っこい脚が湿ったスカートのうえからあそこに擦り付けられてゆく。
 もどかしい刺激と、びりびりと痺れるような甘い電流が腰を浸し、いつしか繭を支配していた。頭の芯がぼうっとした熱に侵され、小さな唇がこくんと口の中のつばを飲み込む。
「ぁ、……ぅ、ぁう、っ」
 もどかしさにたまらず、繭はぬいぐるみを脚の上に押し付ける。ぎゅうっと引き寄せられたペンギンは、少女の小さく膨らんだ下腹部にぎゅうっと押し当てられ、たっぷりと湿った下着の上から布地を擦り合わせる。
(っ、だ、だめ……こ、こんなことしたら、でちゃう……っ)
 腰を痺れさせるイケナイ刺激に、かろうじて残った繭の理性は行為の中断を要求するが、身体はもはやそれを止められない。ぐっとあそこをおさえると確かに一旦は尿意が遠のくが、そのあとに勝手に脚の付け根が緩み、熱い奔流が吹き出しそうになるのだ。こんなことを続けていたら本当にオモラシをしてしまうと、繭の頭のどこかに残った理性はそんな警鐘を鳴らしていた。
(だ、だめぇ……っ、おしっこでちゃうっ……!!)
 けれどもう止まらない。おしっこを我慢するため――そんな言い訳をつかって、繭は座席の上に押し付けたぬいぐるみの上、ちょうどペンギンのおなかの上あたりに脚の付け根を押し付けるようにして、大きく跨った。
 それはちょうど、ずっと小さき時に使っていたおまるのように。そんな事を思い出して繭は真っ赤になってしまう。
 しかしもう抑えきれない。
(ごめんね……ペンギー…っ)
 大切なぬいぐるみに何度も謝りながら、ついに繭はまたがったぬいぐるみの上に、股間をきつく押し当てる。
 擦れる布地の感覚がぴりぴりと脚の付け根の奥深くまで浸透し、少女の未発達の感覚を激しくえぐる。
 同時に繭はぎゅっと締め付けていた股間の力を抜いた。布地の奥ではちきれそうに膨らんでいたおしっこの孔がぷくりと緩んで、下着の奥に激しい水流を撒き散らす。たちまちに水浸しになった下着から溢れ出した熱い奔流は、ぎゅうっとくっついたぬいぐるみに受けとめられてゆく。
「ぁ……はぅぅ……っ」
 真っ赤になった耳たぶが小さく震え、繭はぎゅっと目を閉じたまま背中を突き上げる熱い衝撃に耐えていた。脚の付け根で花火がはじけて、ぱちぱちと頭を焦がしているようだ。

 じょわじょわじゅうう、じゅるじゅじゅじゅぅうううう……
 
 まるで焼けた鉄に水をかけたときのような激しい放水音は、けれど繭だけに聞えているらしかった。両親は渋滞にぼんやりと視線を向けたまま、繭がたったいま、ぬいぐるみにまたがってオモラシをしていることにも気付かない。
 繭に組み敷かれたペンギンのぬいぐるみは、まるで本来そんな用途があるかのように、少女の股間が吹き上げる熱い水流を受け止め、たっぷりと染み込ませてゆく。
「んん、っ、…っ、ふぅぅ……っ」
 おなかを張り詰めさせていたものが抜けてゆくにつれ、繭の全身がほぐれ、弛緩してゆく。緊張が薄れる下半身からは、ますます本当の勢いで我慢し続けていたおしっこが迸り、ぬいぐるみに染み込まされていくのだった。
 そうして、たっぷり一分近くをかけてありったけのおしっこを絞りだした時、ペンギンのぬいぐるみの下半身はすっかり色を変えていた。
 ぼんやりと熱に霞む頭でしばらく呆然となっていた繭だが、やがて我に返って、こっそりと座席シートの上から降りた。
「どうしたの、繭?」
「あ、うん、あ、暑いかなって……」
 さりげなく窓を開けながら、篭った匂いを逃がし、繭はあわてて振り向いた母親に取り繕う。
(……ごめんね、ペンギー……)
 言葉にはせず、心の中でそういうと、ずっしりと重くなるまで自分のおしっこを受けとめてくれた大切な友達をぎゅっと抱き締め、繭は今度こそ深い眠りに落ちた。



 (書き下ろし)
[ 2009/06/13 23:24 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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