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社会見学バスの話・05 クラス担任・清水蓉子 

 高速道路の渋滞に巻き込まれ、前にも後ろにも進む事の出来なくなった2号車の最前列の座席で、しきりに足をさすっている女性の姿がある。
(あーんっ、早くしてえ……)
 ストッキングの太腿を忙しなく擦り合わせ、子供のように落ちつきなく周りを見回しているのは、2年A組担任の清水蓉子だった。
 今年で教員生活3年目の、まだ新人といってもおかしくない若輩の彼女は、生徒達に混じっていてもあまり違和感のないあどけなさを残している。むろん、きちんと成人した社会人ゆえに子供のような振る舞いこそ慎んでいるものの、まだまだ学生気分が抜けきっていない側面がある。
 子供の心を忘れない大人として、生徒達にも親しまれているのは確かだが、教師として少々周囲への配慮に欠ける部分があるのは、彼女の指導に当たる学年主任の教諭の悩みでもあった。
(……ああ、もうっ、まだなの? 早くしてよぉ……!!)
 彼女は帰路のバスに乗り込む前からかなりの尿意を催していた。休憩時間が終わってもなかなか公園を出てこようとしない生徒達を呼び集め、バスに乗るのを確認するのに手間取り、とうとう出発までにトイレに行き損ねてしまったのだ。
 バスの出発前に2-Aの生徒達の動きが鈍かったのは、彼女達の多くが強い尿意を感じていながらも、記念公園の汚い汲み取り式トイレに入るのを躊躇っていたためなのだが――結局そのトイレを使いそびれた蓉子は、そんな事情を知る由もない。
 もともと教師というのはトイレに不自由することの多い職業である。
 まして今年度から担任を持つようになってから蓉子の忙しさはいや増し、オシッコ我慢は日常的なものになりつつあった。
 授業の途中に襲い来る排泄衝動を、教卓の裏でスカートを掴み、ストッキングに包まれた膝を擦り合わせて乗り切り、短い休憩時間に教員用トイレまで廊下を小走りに急ぐ。
 そんな時に限って、授業内容を質問する生徒や、会議の資料を頼んでくる先輩教諭に呼び止められるのだ。今すぐトイレへと駆け込みたいほどの尿意を覚えながら、泣く泣くトイレを後回しにして我慢を続け、そのまま次の授業になだれ込むようなことは日常茶飯事だった。
 それでも、ほぼまる1日、朝から一度もトイレに行かずに過ごすのは、蓉子にとっても教師生活3年目の今日が初めての経験だった。
(うぅ……オシッコ行きたいよう……)
 今年度から初めて受け持つクラスの、初の郊外授業と言うこともあり、蓉子も皆から頼れる『清水先生』として立派に担任を勤めるため、いささか気合いが空回りしていた感も否めない。
(ああん……やっぱり、出発前に素直にお手洗いのこと言うんだったわ……。でも、……あーんっ、こんな事になるなんて、意地悪すぎるわよぉ……!!)
 公園を出る時点で蓉子の尿意はかつてない領域に達していた。その原因は、やはり飲料工場で勧められた美容にも最適というショウガ紅茶だ。デトックスという言葉につられて、ついつい何杯もお代わりしてしまったのが本当に悔やまれてならない。
 日頃からトイレ我慢を繰り返し、相当に訓練されている蓉子の膀胱であっても、バスが学校まで戻る帰路の1時間、本当にオシッコを我慢できるかどうかは、かなり怪しいものだったのである。
 出発直前になって、不安の極致に達した蓉子が、いったいどれほど運転手に言ってバスを止めてもらおうかと深く葛藤したことか。
 しかし、2ーAの生徒達とは違って立派なオトナであり、担任の先生でもあるが蓉子が、出発準備を完全に終えたバスの中で、まさかいまさら『お手洗いに行きたいからちょっと待っててください』なんて言い出せる雰囲気ではなかったのだ。
 そもそも学年の集団行動の中、スケジュール管理をしなければならない立場のクラス担任の立場で、そんな個人的な理由でバスの出発を遅らせることができるはずもない。蓉子は後ろ髪を引かれる思いを振り切って、涙を飲んでバスに乗りこんだのだった。
 生徒達のトイレを心配しすぎた結果が、自分自身のピンチであるという皮肉。それは3時間という未曽有の長時間の我慢延長戦を強いられている中で、蓉子の気を逸らせるばかりだった。
(渋滞しないでってあんなにお祈りしたのに……あーんっ…)
 そんな願いもむなしく、バスは1時間も前から渋滞のただ中である。途中にサービスエリアでのトイレ休憩などは、どこにも想定されていない。
 スーツ姿の蓉子の、細めのスカートのおなかは、我慢し続けのオシッコでぷっくりと膨らんで、ベルトに浅く食い込みを作っている。
 運転席のすぐ隣の最前列の座席シートの上、蓉子の両手は既に大事な部分に添えられており、シートの上でははしたなくも腰が自然と左右に揺すられてしまう。いい歳をしてもじもじとオシッコ我慢のしぐさを堪え切れないことに、蓉子は落ち着かない気分でちらちらと運転席を窺う。
 幸いにして、運転手は蓉子のことを気にするでもなく、バスの運転に集中しているようだったが――
(早く…早くしてよお……渋滞なんかふっ飛ばしちゃって、邪魔な車なんか押しのけちゃえばいいのに……!! ああんっ、トイレ、オシッコ行きたい……!! ぃ、急がないと、急がないとぉ、……ぉ、おっ、おも、オモラシ、し、しちゃうのよぉお!! ……あぁあーんっ!!)
 とても生徒達には聞かせることのできない、剥き出しの『オンナ』の欲望を胸の中で叫び、蓉子はじりじりと焦る気持ちで、じっと運転席前方に続く渋滞の列を睨む。
 万が一にも、こんな有様の自分を、生徒達に気付かれる訳にはいかないのだ。先生としてクラス担任として決してあってはならない事態を前に、蓉子の焦燥はなお深まるばかりだった。
[ 2012/08/05 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)

社会見学バスの話・04 日向羽衣&雪村乃絵 

「……んっ……。ぁ、っ、ぅ、羽衣ちゃん……っ、あ、ぁ、ぁっ」
「だ、だいじょうぶ。大丈夫だよ……乃絵ちゃん……」
 バスの後部座席、隣り合ったシートに並んで座る日向羽衣と雪村乃絵は、お互いの指を互い違いにきゅっと握り合わせながら、鏡合わせのようなポーズで同じようにスカートの端を握り締めていた。
 どこか外見も似通っている二人の少女は、不安に揺れる視線を交わし、縋りつくように身を寄せ合う。
 2-Aの中でも特に仲の良いことで有名なふたりは、幼稚園の頃からの幼馴染で、家も隣どうし。何をするにも一緒の、10年来の大親友だった。
 苗字が離れているので出席番号こそ遠いものの、教室の席も隣どうし、班も一緒、委員会も同じ飼育委員だった。あまりに仲がいいので、たまに夫婦みたいだなんてからかわれることもあるほどだ。
 今日の社会見学でも、羽衣と乃絵は当然のように一緒に行動していた。
 見学の時もはぐれないように手を繋ぎ、休憩時間はお弁当の食べくらべをして、二人で買ったジュースを半分こして、バスにも隣り合った席に座った。
 大好きな親友と一緒に、同じ時間を同じ時間用にすごせるのが二人にとってのなによりの幸せである。だから二人とも、バスの閉じ込められた長い渋滞の中でまったく同じように、トイレに行きたくなってしまっているのだ。
「羽衣ちゃん、……あと、どれくらい我慢できそう?」
「…………っ」
 しかし、いくら大の仲良しの二人でも、まったく何もかもそっくりお揃いという訳にはいかない。羽衣は辛いのが苦手で、乃絵は怖い話が大嫌い。国語が得意な羽衣に対して、乃絵は数学のほうが成績が良かった。体育の持久走はふたりとも嫌いだが、水泳が苦手な羽衣に対して、乃絵はむしろバスケットボールやソフトボールのような球技が不得手だった。
 いつもの一緒の二人でも、当然のように別々の、違う少女なのだ。
 だから二人のトイレ我慢の様子にも、大きな差があることもまた当然だった。
「羽衣ちゃん……っ」
 乃絵の手を痛いほどに握り締めた羽衣の指が、じっとりと汗をかいている。彼女はさっきからほとんど声も上げることもできないくらいに身体を震わせ、下腹部をうねるように襲う必死になって尿意の波に抗っていた。
 親友を思い遣る乃絵の言葉にも、ほとんど答えることもできずに小さく首を左右に振るばかり。あとどれくらい、と具体的に示すこともできないほど、羽衣の乙女の我慢はとっくにロスタイムに突入していた。
「んぅ、ぁ、あっあ……っ、ぁっ……」
 吐息を交えた熱い喘ぎ声が、羽衣の限界を如実に表している。
「羽衣ちゃん……、しっかりして……、ね? もうすぐだから、きっと、トイレ、間に合うから……」
「っ…………」
 励ます乃絵の声が届いているのか、羽衣はしきりに首を振るばかり。それでも彼女は、本格的なダムの崩壊だけはすまいと、なんとかギリギリのところで踏みとどまっているようだった。
「……羽衣ちゃん」
 二人の間では、どんなことでも隠し事をしないというのが、小さなころからの羽衣と乃絵の約束だった。
 だから、バスが渋滞にはまりこんでまるで動かなくなってしまって1時間、いよいよ本当に尿意が切羽詰まり、トイレに行きたくなった時、乃絵は懸命に恥ずかしさを堪えて、羽衣にそれを訴えた。
 けれど、その時既に、羽衣は我慢の限界に近い状態にあったのだ。
「んぁ……っ」
 切なげに唇を震わせ、息を荒げては身を硬くする親友の横顔を、乃絵は言いようのない胸の高鳴りと共に見つめていた。
 びく、びく、と何度も緊張を繰り返す羽衣の仕草は、そのまま彼女を襲っている強烈な尿意の波に他ならない。ずっと一緒に過ごしてきた大親友だからこそ、彼女を襲う羞恥と苦しみがまるで手に取るようにわかってしまう。
 乃絵は自分の事も忘れて、いつしかその姿に見入っていた。
(羽衣ちゃん、本当に辛そう……)
 お互いの家が隣どうしということもあり、二人は家族ぐるみでの親交もある。
 小学校の入学式から、どんな時も一緒だった親友。小さな頃から何もかもお揃いだった羽衣。辛い時も楽しい時も、悲しいことも嬉しいことも分け合ってきた親友。
 半ば以上、もう一人の自分のように思っていた彼女が、本当は自分とはまったく別の、ひとりの女の子であることを、乃絵はいま、まざまざと思い知らされていた。
 もちろん乃絵だって、バスの中でじっと押し込められたままな事に変わりはなく、トイレを我慢している事に違いはない。が、乃絵にはまだ隣の羽衣のことを心配できるくらいには余裕があった。
(できるなら、代わってあげたいのに……)
 そう思い、ふと羽衣の下腹部へと向かった視線が、まるで張り付いたようにそこから離れなくなってしまう。
 小さな女の子のダムをいっぱいにして、顔を赤く染め、汗を滲ませ、息を荒げながら懸命に耐え続ける親友。
 その姿を目の当たりにし、乃絵はぞわりと脚の付け根に感じる尿意が強まるような錯覚を覚えていた。
 これに勝る猛烈な排泄衝動と、いますぐ隣で親友は戦っているのだ。それを思うと訳もなく頬が熱くなり、乃絵は言いしれぬ罪悪感にぎゅっと目をつぶった。
(がんばれ……羽衣ちゃん、がんばれっ……)
 汗で滑り、小さく震える羽衣の手のひらを、乃絵はきつく握り締めて、心の中で親友にエールを送りつづけた。
[ 2012/08/04 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)

社会見学バスの話・03 佐野真彩 

 公園を出発して3時間。もうとっくに学校に戻っていてもおかしくない、どんなに遅くとも、もう高速道路からはおりていていい時間のはずだった。
 バスの中程の窓際席に座る佐野真彩は、次第に落ちつかなくなりはじめた下腹部に手を添え、出来るだけ気を反らすようにカーテンを開けた窓の外を眺めていた。
 高速に入った当時は順調に走っていたバスが、渋滞に飲み込まれ、全く動かなくなってしまってもう1時間以上過ぎている。
「…………はあ……」
 しかし、窓の外も青空や野原が見えるような爽やかな光景の訳もなく、防音のための高いフェンスに、灰色のアスファルト、びっしりと並ぶ大渋滞の車の列。緑と言えば申し訳程度の路側帯の茂みくらいだ。真っ赤なテールランプがどこまでも続き、エンジン音が低く唸る光景は、かえって真彩の気を滅入らせるばかり。
 それもそのはず、この渋滞にはまりこんで動けなくなっているのは2年A組を乗せたバスだけではない。バスを取り囲む渋滞の列の乗用車と、それに乗る人々もまた同じように、数時間も、ほとんど動かない渋滞の中で立ち往生していた。
 時折響く、先を急かすクラクションの音が、神経を逆撫でするように響く。耳を澄ませば文句や苛立ちの怒声すら聞こえてきそうで、陰鬱な雰囲気を敏感に感じ取った真彩は再度吐息をこぼす。
「……ふぅ……」
 窓越しにすら、張り詰めてぴりぴりとした緊張感と苛立ちを孕んだ空気が染み込んでくるようで、お世辞にも気の休まる光景とは言い難い。ざわざわと落ち着かない下腹部に要らぬ緊張を強いる、不安定な気配に、真彩は眉をしかめる。
 映画を流していたモニタも黒地に緑文字のの出力だけを表示するバスの中には、少女達がこぼす小さな喘ぎ、かすかな吐息、ひそやかな呻きだけが響く、不自然な静寂が満ちていた。
 無論、遠出の社会見学の帰途で思わぬ長時間バスに閉じこめられて疲れたことも理由の一つだろう。
 しかし、2年A組の少女達の大半は、より切実で逼迫した生理的欲求という事情を抱えているのである。脚をぎゅっと閉じながら俯いている少女、車内を見回し、運転席のほうを覗くクラスメイトの顔も、どこか青ざめている。脂汗を流している生徒までおり、そんな子は既に辛抱できないようで露骨に前を押さえたり、忙しなく貧乏ゆすりのように落ち着かない様子で腰を揺すったりしながら、顔を見合わせ、周囲の様子を窺っている。
 バスの中はどちらを見ても多かれ少なかれ、オシッコ我慢の真っ最中のクラスメイトの姿があり、見ているだけでも引き込まれるように『催して』しまいいかねない。
 真彩も程度の差こそあれ、他のクラスメイト達と同様に強い尿意に苦しんでいるのは同じだった。
(……やっぱり、外見てる方がマシよね)
 出来るだけ車内の要旨は視界に入れないようにして、真彩は窓の外へと顔を戻す。
 傾いた陽射しを遮るレースカーテンの隙間に視線を向けた時、その向こうの動かない渋滞の列の中で、乗用車の一台が路肩に寄って停車しようとするのが見えた。
 停車したのは銀色のワンボックス。そのドアがスライドし、車の陰から母親に抱えられるようにして伴われる小さな姿が見える。
(あ……っ)
 まだ幼稚園くらいの小さな男の子だった。
 母親に何事かを言い含められた男の子は、足早に路肩のフェンスに向かう。
 真彩はその目的を察して顔を赤くした。
「…………っ」
 何かイケナイことをしているような気がして、思わず目をつぶりかけるが――それよりも、興味のほうが勝ってしまった。
 あるいは、トイレを訴え続ける落ち着かない下腹部の乙女のダムが、その光景に共鳴してしまったのかもしれない。
 良くないことだと思いながらも、真彩は背中を丸め、咄嗟に顔の前にかざした指の間から、こっそりと窓の向こうを覗く。
 そこでは、母親に背中を向けたさっきの男の子がフェンスに向かって立ち、足首までズボンとパンツを下ろして、可愛いおしりを丸出しにしている姿があった。
 男の子は勢いよく、フェンスに向けて立ちションを始めたのだ。
 真彩にはちょうど背中を向ける格好で立ったその姿に、真彩は頬が熱くなるのを感じてしまう。
(あ……いいなあ……男の子って……)
 まだ幼稚園くらいであろうその後ろ姿に、しかし真彩ははっきりと異性を意識してしまう。
 立ってオシッコ。
 あんなに幼く、小さくても、男の子ならああして、簡単に、立ったままでオシッコを済ませる事ができるのだ。真彩は我知らず、その背中に羨望を抱いてしまう。
 同時に、少女の身体では早く不要な水分を放出しようと急かす切なくも激しいむず痒さが、真彩の下腹部に一気に広がってゆく。
「ん……っ」
 強まってはいても、我慢できないほどではなかった尿意が、ぐんとその勢力を増したような気がした。思わずスカートの上から足の付け根を抑えてしまい、真彩は慌てて周囲を窺う。幸い、クラスメイト達はそれぞれ自分の事に手がいっぱいの様子で、真彩にも、窓の外で繰り広げられている光景にも気付いた様子はない。
 小さな身体の割に、男の子のつくる水流はなかなか立派なものだった。かなり我慢していたのだろう。傍らでそれを見守る母親も、どこか落ち着かない表情を見せている。
(立ちションって、キモチ良さそうだな……)
 ずるいな、私もしたいな、と。
 はしたなくも真彩は思わずそんなことまで考えてしまう。
 もう長い間、尿意を抱え続けている真彩には、少々目に毒な光景であったのは確かだ。
 こと、オシッコという面では不自由な女の子の事情など、あの男の子には知る由もないことだろう。バスの中に閉じ込められて3時間、知らずもじもじと腰の動きも多くなり始めた今の真彩には、特にそう感じられた。
 けれど、女の子にはあんな風にはいかない。
 我慢できないからと言って、バスの外に駆け出して済むような問題ではないのだ。
 そうこうしているうちに、男の子の放水は終わっていた。お尻を揺らすようにぷるぷると雫を切って、ズボンを上げ、男の子は母親に伴われ、ほっとした表情で車内へ戻ってゆく。
(……羨ましいかも……いいなあ、あんな風にオシッコできて……)
 男の子ってずるい。
 あんなにも簡単にオシッコを済ませる事ができるなんて――真彩はそう思いながら、なお収まらない下腹部の切なさをなだめるようにそっと股間に手を這わせる。
「で、でも、いくら小さな子だからって、良くないわよね」
 羨望がはっきりと覗くつぶやきを小さく口の中で転がして、なお、車の中に戻った男の子に恨めしげな視線を向けることは止められずに、真彩は諦めと共に吐息をこぼすのだった。
[ 2012/08/03 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)

社会見学バスの話・02 木崎由梨 

 木崎由梨は、よく手入れの整った、プリーツスカートの下できゅっと閉じ合わせた膝を押し付け合いながら、いらいらと座席の手摺を叩いていた。
(どうしてよ、なんで進まないのっ……!?)
 整った顔立ちは焦りの色が濃く、細い眉は眉間に寄せられた皺できゅうっと吊り上がっている。そのせいでもともときつめの目線が、もはや怒っているかのように鋭いものとなっており、友人でも声をかけることも躊躇われるほどだった。
 綺麗に手入れされた爪が手摺にぎゅうっと押し付けられ、細い指は白くなるほどにきつく力をこめられている。
 社会的にも成功を収めた両親を見習うように、幼い頃からいつも級長、クラス委員に立候補をしてきた由梨は、いつも他の生徒達の規範となるべきよう心がけてきた。
 クラスの代表として、その模範として、普通の少女のように人前ではしたない姿を晒す事などできない。他のクラスメイトのようにスカートの前を抑えることなどせずに、表面上はあくまでも上品な姿勢を保ちつつも、その内心は強い焦りと緊張、それによる苛立ちをの募らせていた。
 その原因が、いよいよ激しさを増す尿意であることは今更述べるまでもない。
 由梨が尿意を催したのは、見学の休憩時間にお昼を食べた頃からだ。午後の見学時間ではすでにはっきりとトイレに行きたい程の尿意を覚えていたのだが、見学コースの途中でトイレを申し出るような無礼な事は当然出来ないまま、しっかりと我慢を続けていた。
 そしてまた、休憩時間も、昼食の時も、普段使っている清潔なトイレとは似ても似つかない公園の汲み取り式トイレを使うことは、由梨にはとうてい許容できるようなものではなかったのである。
(いいから急ぎなさいよ…!! いつまで待たなきゃいけないの……!?)
 その結果が、いまの由梨だった。
 工場見学では新製品の紅茶の試飲会があり、由梨はたまたま近くに居た見学の案内担当者に勧められるまま、カップに3杯も特性のショウガ紅茶をお代わりしていた。せっかくの好意を断るなんては失礼に値すると考えての行為だが、それらは全く軽率なものだったのである。
 趣味で紅茶を常飲する由梨の厳しい評価にも十分に耐えうるほどの新製品の紅茶は、由梨とクラスメイト達の喉を十分にうるおし、舌を楽しませてくれた。その紅茶が今、全て尿意へと変貌して、急速にその勢いを増し、由梨の下腹部へと襲いかかっていた、
 美容と健康を売りにする目的で、新製品の紅茶には利尿作用を促す成分があったことも災いした。クラスメイトの倍以上の水分の摂取だけではなく、紅茶とショウガの利尿作用が、いままさに、相乗効果で由梨の下腹部に急激な貯水を行っているのである。
(……もう5時じゃない……どうなってるのよ、この渋滞っ……!!)
 公園を出発してはや3時間。紅茶を飲んでから4時間近く。本来であれば、十分に余裕を持って学校の、あるいは自宅のトイレに行けていたはずの時間。
 摂取した水分が全て尿意に変わるには、十分すぎるほどの時間である。仮に工場を出る時に一滴残らずオシッコを絞り出していたとしても、再び強烈な尿意に見舞われるのは確実だった。由梨はそんな苦痛に、見学中に一度もトイレに行かずに耐え続けていた。
 それでも。公園を出発する直前に、由梨はやはりクラスの模範となるべく、清水先生の注意を聞いて、一度は気が進まないながら公園のトイレに向かいかけていた。
 しかし、建物外まで悪臭を撒き散らす汚い汲み取り式トイレには、既に他のクラスや同級生たちの3,4人の順番待ちの列ができており、由梨はそこで並ぶのも馬鹿馬鹿しくなってバスに戻ってきてしまったのだった。
(――いくら渋滞って言ったって、高速道路なんだし、遅れても30分くらいよね。それくらいなら全然平気よ)
 もう2年生なんだし、クラス委員長でもある自分が我慢できないはずがない――そんな甘いことを考えていた自分を叱ってやりたくて仕方がない。
 我慢を始めてから3時間。じわりじわりと由梨の女の子のダムは水位を増し、バスは渋滞の車の中でピクリとも動かない。
 高速道路とは名ばかりの、のろのろ運転は由梨の苛立ちをいっそう高まらせるのに十分だった。
(はやく、はやくしなさいよぉ…っ)
 焦りと共に何度も軽く腰を浮かし、座席の背もたれの間から車内の前方を見る。運転席と、その隣に座る清水先生は、由梨のことなど気にもかけずに、何かを話しこんでいるようだった。
(んもうっ……そんなことしてる暇あったら、急ぎなさいよっ…!!)
 憤ったところで筋違いであるのだが、それを冷静に分析している余裕が、由梨にはもうない。ショウガ紅茶の利尿作用は、摂取した水分の多さも相まって、いよいよ急激にその勢いを増しながら、由梨の下腹部のダムに注ぎ込まれている。
 下腹部は硬く張りつめて制服のベルトを圧迫するほどで、その強烈な尿意は、おそらく由梨でなければはしたなく腰を揺すり、恥も外聞も捨ててトイレを訴えてしまうほどの強烈なものなのだ。
 だが、ゴールとなる学校までの距離ははるか先で、このままバスがのろのろ運転を続けていれば、高まる尿意がダムの貯水量を追い越してしまう方が先であろうことは、もはや明らかだった。
「くぅん…っ…」
 じんっ、と膨らむ尿意の波に思わず声を漏らし、由梨は唇を噛む、
(あっ、あっ、あっ………お、おしっこ…おしっこが…もれちゃう…)
 自他共に認める『クラス委員長』としての体面を押しのけ、声を大にして叫びたい、女の子の欲求を胸の内に押し込めて、由梨はぎゅっとスカートの前を押さえていた。
[ 2012/08/02 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)

社会見学バスの話・01 井澤佳奈 

 一度やってみたかったシチュエーション。
 ……影響を受けたり参考にさせて頂いた作品が多数あります。

#2013/7/10追記

 おもらし特区 イエローフィッシュ様作品 「帰りのバスの中で・・・・・」シリーズ
 おもらし特区 printfu様作品 「飲料工場見学後の大渋滞」
 おもらし特区 セブンスウェル様作品 「遠足のバスで…」
 くすぐり失禁キャットハウス HIROSHI様作品 「子供の目の前で」「生徒の目の前で」

 特にこちらの4作はシチュエーション、展開、キャラ造形その他まで多く参考にさせて頂きました。
 曖昧な記述で済ませてしまっていたことをお詫びいたします。



(うぅ……あんな事しなきゃよかった……)
 高速道路を進むバスの中で、井澤佳奈は深く後悔していた。
 見学場所を出てからすでに3時間近く。時間つぶしにと流されていた映画もとっくにスタッフロールを終え、車内には気だるい雰囲気が満ちている。時計は間もなく午後5時を過ぎようとしているが、窓の外に落ちる陽射しは初夏という季節もあって、夕日というにはまだまだ早い。
 だが、長時間に渡ってバスの中に閉じ込められた生徒達は、皆すっかり疲れた様子で言葉少なだった。
(……んぅ……っ)
 冷房の音だけが聞こえる静寂のバスの中、窓側の席の上で、佳奈は小さく身をよじる。
 先程から落ち着きなくもぞもぞと座る位置を直し、遮光用のカーテンの隙間からちらちらと外の様子を覗き込む。その表情は余裕なく強張り、小柄な全身にはかすかな緊張も見て取れる。
「っ……」
 形の良い唇が小さく噛み締められ、小さな吐息が漏れ聞こえる。少女の手のひらが紺の夏服のスカートをきつく掴んだ。
 窓の外には延々と続く、車道を埋め尽くす赤いテールランプの行列。びっしりと並ぶ車が、片側三車線の高速道路をどこまでも占領し、長い長い列を作っていた。
 佳奈を含む2年A組の28人をを乗せた専用バスは、社会見学の帰りの高速の中で、後ろへも前へも進むこの出来ない渋滞の中に閉じ込められていたのである。
(……ぅう……っ)
 1時間近く前から全く変わることのない窓の外の光景に、否が応でも佳奈の気は逸り、苛立ちと困惑はその密度を増してゆく。じりじりと焦燥を覚えながら見上げるバスのデジタル時計は、本来ならもうとっくに学校についているであろう時刻を過ぎていた。
(こんななら、出発前にトイレ行っておけばよかったよぉ……っ)
 縋るような少女の願いは、下腹部を占領する切実な生理的欲求に起因していた。
 制服のスカートの上からそっと下腹部をさする手のひらにも、強張った感触がはっきりと感じられる。硬く張りつめた乙女の下腹部は、佳奈の尿意がいよいよ切羽詰まってきていることを知らせていた。
 もう1時間も前から、佳奈はずっと、トイレを我慢し続けているのである。
 椅子の上で揃えた太腿をぴったりと閉じ、膝下のソックスを交互に擦り合わせる。しかし乙女の貯水池になみなみと蓄えられた恥ずかしい熱湯は、そろそろそんなささやかな行為では堪え切れない状態になりつつあった。
(うぅぅ……、まだ着かないの?)
 焦れば焦るほど、佳奈の尿意は強まってゆく。
 午前中に走ったのと同じ高速道路とは思えないほどのノロノロ運転で、バスはびっしりと並んだ車の列の中に囲まれている。1時間ほど前にはそれでも、休み休みではあれど少しずつ前に進んでいたが、もう三十分近く、バスはほとんど動いていない。
 なにしろ、往路はわずか1時間ほどで到着した道程なのだ。まさか、こんなにも長時間バスの中に閉じ込められることになるとは思っていなかった。
 かなり前に通過した道路標識が正しければ、恐ろしいことにまだ帰途のうち半分も進んでいないことになる。
(……どうしよう……我慢…、できるかな……)
 言いしれぬ不安が胸をよぎる。
 渋滞についてはかなり前に一度、担任の清水先生からアナウンスがあっただけで、一体何が原因で、どれくらい続いているのかは全く分からない。ほんの5分もしたらあっという間に解消して、元通りの速さで高速道路を走れるようになるかもしれない。
 それなら良いが、もし――このまままだしばらく、バスが動かないままだったら。
(トイレ……っ)
 自分の想像で、強い尿意の波を呼び起こしてしまい、佳奈はぶるるっ、と強く身を震わせる。足の付け根の大事な部分を守るようにきつく脚を閉じ合わせ、小刻みに息を整える。
 おそらく、後者のほうの可能性がずっと高いことは、佳奈もなんとなく予想できていた。
 佳奈の尿意はすでにかなりのものに達しつつある。三十分も前から、脚を何度もすり合わせたり、おしりをモジモジと揺すったり、スカートの間に手を差し入れて大事な部分に添えたりといった動作を繰り返しており、じっとしていることは出来なくなっていた。
(はやく……早く……)
 少女の切実な願いに反して、しかしバスの窓外の光景はまるで変わる気配がない。
 まるでタイヤに根が生えてしまったように、バスの動きは停まっていた。
[ 2012/08/01 09:00 ] 長編連載 | トラックバック(-) | コメント(-)