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満員電車(略)の話。 

 しーむす11で頒布した「事故で停車した満員電車の中でオシッコが我慢できなくなってしまった女の子とその友人の話」の再録です。




 ▼

 藤倉葉子。眉目秀麗、容姿端麗。才色兼備。そんな四字熟語が並ぶ私の親友。
 葉子なんて古風な名前の通り、イマドキ珍しいくらいの良いトコのお嬢様。別段、郊外に大きなお屋敷を構えているとか財閥のご令嬢であるとかそんなマンガみたいなことはないのだけど、お家は古くから続いているところだそうだ。
 葉子のご両親は窮屈な家のしがらみなんかにとらわれないようにと自由にさせてくれているということなんだけど、お箸の上げ下ろしとか、笑う時の仕草とか、授業中に当てられたときにすっと立ち上がる時の姿勢の綺麗さとか。そういうのは真似しようとしてもできない育ちの良さを感じるのである。
 本人も嫌がるから、あまり言わないようにはしているけれど。かくいう私のようにガサツな女子とは雲泥の差。幼稚園のころから砂場で男子と取っ組み合いの喧嘩をし、学校に上がっても運動部で朝から晩まで練習となれば、そりゃ諦めてはいたけれど、内心こっそり女の子らしい姿にだって憧れもあろうというもので。
 クラスが一緒だったという程度のきっかけだったけど、いまは無二の親友である。休日に友達同士でお出かけをするとか、学校帰りにちょっと寄り道して買い食いをするとか、そんなのに憧れていたのだそうで。
 進学した先にちょうどいい部活がなかったというのもあって、いまは帰宅部まっしぐら。長年男子と間違われそうな短さだった髪も伸ばし始めてみたり。……まあ、伸ばしたら伸ばしたでライオンのたてがみみたいにみっともないばっかりで、思うようにならないもんだなあと思ったりもしたけど。
 それでも、お休みには駅で待ち合わせて新都の駅までウインドウショッピングなんて毎日が、私はとてもお気に入りなのである。
「……あー。参った、ちょっと遅刻だ」
 バスが遅れたのは言い訳にもならない。待ち合わせの時間を過ぎた駅前の時計を見上げ、足を速める。全力疾走なんて数か月ぶり。部活レギュラーを勝ち取った足もすっかり錆びついてしまったらしい。
 葉子のことだ。待ち合わせに遅れるなんてことはまずないように行動しているはずだ。ことによったら何十分も待たせてしまっているかもしれない。お昼過ぎの集合だからおなかをすかせてるってことはないと思うけど――
 飲みかけのスポーツドリンクをカバンの中に放り込み、階段を駆け上がり、約束の駅前の噴水へ。
 予想通り、そこにはすでに葉子の姿があった。遠目にもわかる長い絹みたいな黒髪と、すらりとした背筋。同性の自分が言うのもなんだけど、とても清楚で美人だ。うちのガッコにだって可愛い子はたくさんいるけど、美人で綺麗な子となるとそう多くはない。まして、女子たちの間からも認められているとなれば、なおさらだ。
 当然ながら人目を引いてもおかしくないのだけど――
「ありゃ」
 葉子の周りには、あまり柄のよろしくない感じの男どもが数名。困惑した様子の葉子を取り巻くようにして、なにやらしきりに話しかけている。葉子もそれを断ろうとしているのだが、連中がしつこいらしくなかなか引き下がらない。
「まったく……」
 大きくため息をついて、私は葉子と男どもの間に割って入った。 
「はいはい、邪魔邪魔」
「あ、ヒロ」
「んぁ、なんだオイ、お前、何よ」
「その子は私と約束があるの。邪魔しないでくれる? いこ、葉子」
 こういうのは有無を言わせずやるのがコツだ。葉子の手を掴んで引き寄せる。
「オイ、おめー、なんだよ、おら」
「聞こえなかった? 私たちこれから約束があるの。じゃね」
 追いすがる連中を一蹴し、そのまま葉子の手を引っ張って大股で歩きだす。オウだのヨウだの言い続けてるのは無視して、そのまま一気に改札へ。
 ホームへと降る階段の前で、さりげなく背後を確認。追いかけてくる様子はないことをチェックし、そっと息を吐く。ああいう連中は部活やってた頃になんとなく付き合いはあったけど、こうしてその辺から距離が開くと、今更ながらに緊張していた。じっとりと汗をかいた手のひらをひらひらと降る。
「葉子、へいき?」
「う。うん。ありがとう。……ちょっと、困っちゃってて」
「気を付けなよ。葉子は美人さんなんだから、ずっと一人で待ってりゃ目につくって」
「そ、そんなこと……っ」
 とは言え、待ち合わせに遅れてしまった私だってその責任の一端はある。そこについてはしっかり謝った。
 まあしかし、葉子だってこう見えて押しに弱いわけじゃない。薙刀とかも習ってるらしいし、普段はあれくらいの連中、もっと毅然と追い払うくらいできるような気もするんだけど……
「っと、電車来ちゃうわね」
 ホームに快速が到着する旨のアナウンス。最寄りの駅から新都までを結ぶこの私鉄は、やたらに駅が多く、急行を逃すと三十分で済むところが倍近くかかってしまう。
「いこ、葉子」
「え……あっ」
 引いた手がぎゅっと握りしめられ、私は階段の前でつんのめりかけた。何事かと思って葉子を見れば、彼女はちらりと改札の向こうに視線を送る。
「……どうしたの? 電車、乗り遅れちゃうよ」
「え、っと……その」
「さっきの連中? 大丈夫大丈夫。追いかけてこないわよ。なんなら帰りはJRからバスでもいいんだし」
 待ち伏せなんてされてるとも思わないけど、葉子にフォローを入れる。それでもなお葉子は動こうとしないことに、少しばかり私が違和感を覚えたとき――電車が発着を知らせるベルが鳴り、階段を乗降客がせわしなく上り始める。
「あ、まずい! 待って待って、乗りまーすっ」
「ひ、ヒロっ」
 私は葉子の手を引いて、そのまま快速の待つホームへとダッシュしていた。


 ◆ ◆ ◆


 飛び乗った快速は、やけに混雑していた。新都までの近道である快速は普段から利用者が多いけれど、休日の午後というよりは通勤ラッシュに近い人口密度である。どうやらさっきまで踏切故障があったらしく、そのせいでダイヤが大幅に乱れているということだった。振り替え輸送もが行われているようで、一気にホームに乗客が殺到しているらしい。
「わ……っ、ちょ、っちょっとっ」
「っ……」
 こちとら自転車通学の毎日だ。ラッシュなんてほとんど未体験の混雑の中、人並みに押し込まれながら一気に車両の奥へと押し込まれてゆく。
 乗り換えの接続もあってぎゅうぎゅうと乗り込んでくる後続の乗客たちに背中を押し込まれながら、私たちはドアからも奥まった地点に押し込められてしまった。
「んぎゅっ……!?」
「っ……!!」
 ドアの奥に立った葉子のすぐ前に到着し、どうにか足場を確保したと思った瞬間、背中を思い切り押されて思わずつんのめる。顔をこわばらせた葉子がいた。葉子の身体を押しつぶすように押し寄せてくる人の圧力に必死に対抗し、倒れそうになる体を支えるため、片手は手すり、もう片手はカバンを握って壁に押し当てられていた。
 もがいて姿勢を保とうとするが、なおぐいぐい後ろから押し込まれる圧力はまったく弱まる様子がない。
 葉子がびくと背中を震わせ、身を強張らせるのがわかった。
「よ、葉子、へいき?」
「う……うん」
 むぎゅっと押し付けられる身体を、壁に手をついてどうにか押し返す。
 私は壁を背にしてなんとかささやかな自由を手に入れていたものの、葉子の両手は人ごみと大混雑の中、まったく自由の利かない状態になっていた。
 葉子が薄く顔を青ざめさせる。
「大丈夫?」
「次の駅までいけば、空くと思うから……」
 言いながら、葉子はもどかしそうに足踏みをする。足元に置かれた他の人の荷物のせいで前につんのめった体勢を、なんとか手で支えている状態なのだ。
 せめて変わってあげられれば――そう思うが、なんともならない。発車ベルは鳴り響いていたが、ほかの車両でもこんな感じで入り口に人が殺到しているらしく。ドアがなかなか閉まらない。
「無理な乗車はなさらないでください」「後続の各駅停車をご利用ください」「お荷物、お体を強く引いてください」
 途中まで閉じては開きなおし、また閉じては閉まらずアナウンス。そんなことを十回近く繰り返して、いい加減社内の雰囲気がいい感じに苛立ち始めたところで、ようやく快速はホームを出発したのだった。


 ◆ ◆ ◆


 しかし、考えが甘かったことに気づかされるのにはそうかからなかった。まだ復旧して間が開かないためか、あるいは普段の倍以上の乗客を詰め込んだためか、急行の速度は普段の比ではないくらいにのろのろとしている。もどかしいくらいの速度で通過駅のホームを抜け、時折減速しては信号待ちで停車してしまう。先行している各駅停車が線路に詰まっており、思うように進めていないのだ。
 普段なら5分程度で着く隣の停車駅までは、たっぷり10分以上の時間を要した。無論、その間も車内はぎゅうぎゅうのすし詰めである。同じ姿勢を保つのに足首が悲鳴を上げ、痺れにつま先が痛くなる。私はまだ身動きができるからいいけれど、葉子は完全に姿勢が固定されてしまっており、だいぶ辛そうに見えた。
 そうやって辿りついた次の駅でも、ホームには電車遅延で待たされた乗客が詰めかけており、ほとんど降りる人がいないのにさらに乗車率は増大した。私たちの周辺でも降りるお客さんは一人もおらず、むしろそこにさらに外から乗客が押し込んでくる始末。
 とにかく乗り込んでしまおうとぐいぐい中に押し込んでくる人たちがいるせいで、私たちはますます電車の奥の奥に押し込められてしまう。
「んぎゅ……こりゃ、新都まで降りれないなあ」
 どうせ大きな乗り換えのある駅だ、到着さえすれば空くだろうけど、そこまではずっとこの混雑と付き合わねばならないらしい。乗客数の多さに車内は蒸し暑く、天井で動いているファンの送り出す風も生温い。
 じっとりと背中に汗が浮かぶのを感じながら、少しでも気を紛らわせようと、葉子に様々な話を振る。明後日の学校の話。もうすぐはじまる中間試験、そのあとの修学旅行の話。ちょっと早いけど夏休みの予定。
 どこか切羽詰まった面持ちの葉子の緊張を解せればとおもっていたのだけど、肝心の葉子の返事はひどく上の空で、ええ、うん、と小さない相槌を返すばかり。
「ねえ、葉子、だいじょうぶ? ……場所、変わろうか?」
「…………」
 問いかけるも、葉子は顔を赤らめて俯き、無言でふるふると首を横に振るばかり。
 ひょっとして、何か怒らせるようなことをしてしまっただろうかと疑ってみたが、さっきの待ち合わせの遅刻を除けば、いまいち心当たりがなかった。
 発車ベルが鳴り始めると、葉子ははっと顔を上げた。動かせない背中はそのまま、首をひねって視線だけをちらちらと、ホームのほうへと送る。やっぱり辛いのだろうか。
「どうする? 降りる?」
「……う、ううん。へいき……、だよ。新都まで……だいじょうぶだから」
 葉子がそういうものだから、それでいいのかと一瞬納得しかけるが――堪えるように、とぎれとぎれに熱い息をこぼす葉子の様子は、やっぱりちょっと普通ではなかった。
 るるるる、と発車ベルの音を響かせながら、何度も何度も試行錯誤してようやくドアが閉まる。そのあともなおずぐずぐずとアナウンスを繰り返し、がこんがこんとドアを揺らして、ようやく発射準備を終えた急行はよたよたとホームを滑り出した
「たぶん、前の各停もこんな感じだから、遅れてるのね」
「そう……だね。まだ、かかりそう、かな」
「1時間くらいはかかっちゃうかもねー。あーあ、時間余ったら映画でも行こうって思ってたんだけど、お店見て回るだけになっちゃうかな。……あ、それとも新しくできたカフェって言ってみる? 水出しのアイス珈琲がおいしいって聞いたんだけど」
「んっ……そ、そう、ね。いい……かも」
 ゆっくり進みはじめる電車がホームを抜け、がたんがこんとのろのろ運転で踏切を横断していく。こっちも長く遮断機が下りているようで、道路のほうも渋滞が起き、歩行者に自転車を抱えた人たちが不満げに通れるのを待ちわびていた。
「本当、事故とか勘弁してほしいよね……いつ着くかわかんないのが一番困るよ」
「……う、ん……っ」
 上の空の返事。さすがにこのあたりで私もいい加減、葉子の様子がおかしいのには気づいていた。
「ねえ、葉子、本当に平気? さっきからなんか、様子が――」
 いいかけたその時。急に車内の照明が明滅し、列車ががくんと揺れる。
 ぎぃいいいいいいい! 急ブレーキーと共に車体が揺れ、がっくんと傾くようにして停車した。慣性の法則が混み合ったままの車内をぎゅうっと圧迫し、私たちは満員の乗客にむぎゅっと押しつぶされる。
「ひぅ………ッ」
 葉子の、ひきつるような悲鳴が耳元で聞こえる。車内にざわめきが満ちる中、停車した電車に明かりが戻り、車内アナウンスが放送される。
『ただいま、付近の踏切に車が立ち入っており、緊急停止ボタンが押されました。状況を確認しているため、しばらく停車いたします。お急ぎのところ誠に申し訳ありませんが――』
「……なに? また事故……?」
 ぼやいて、私は葉子と密着した体を動かし、押しつぶされた乗客の中でもがく。と、
「っふあ……ッ!?」
 耳元で、切羽詰まったような声。何事かと顔をあげ、私はそのまま言葉を失っていた。
 葉子の顔は血の気が失せ、真っ青に青褪めている。もともと彼女の白い肌はとてもきれいだけれど、これは明らかに普通じゃない。
「ちょ、ちょっと、ホントに平気? 具合悪いの?」
 小さくかぶりを振る葉子。けれどその形のいい唇はきつく噛みしめられ、シャツから覗く首筋には汗がすごい。それなのに、袖から見える腕には鳥肌が浮いていた。
 いままで真面目に注意を払っていなかったことを、今更ながらに後悔した。何が親友だ、こんなことに気づけていないなんで。
「葉子、無理しないで。顔真っ青だよ……次の駅で降りよう」
「っ……」
 ふるふると首が左右に振られる。まったく、強情な奴め。
「電車? すぐに動くって。大丈夫大丈夫。私のことなんか気にしないでいいから。調子悪いんでしょ? ごめんね無理させちゃって。だから、そんなんで我慢しなくてもいいんだってば……」
 まったくこの混雑だ。私だって快適とは言えないのに、混雑の真ん中に押し込まれた葉子にはさすがに国だった。気分が悪くなっても仕方ないかもしれない。こうなる前に位置を代わっておけばよかったのだけど、後の祭りだ。
「無理しちゃだめだよ。途中で降りたっていいし、休むならどの駅だってできるもの。あと少しで……」
「ち……ちがうの……」
 それでも。葉子は堅固に首を振った。ちがうの、ちがうの、と、俯いた顔の、さらりと流れ落ちる長い髪の間から、真っ赤に染まった耳の先端が覗いている。
「……ぉ……、っ」
 掠れるような葉子の声は、最初、言葉になって私の耳には聞こえなかった。だから、思わず耳を澄ませ、首を傾けてしまう。
「……ぉ……ぃ、……の」
 そうして顔を近づけた先、葉子は爆発してしまいそうに真っ赤になった顔を俯かせ、顔全体から蒸気を噴き出させんばかりに俯いて。

「……お手洗いに、行きたいの……っ!!」

 湯だったみたいに真っ赤な顔で、小さな唇を震わせて。
 切実で、切羽詰まった、女の子の危機を私に告げた。


 ◆ ◆ ◆


「ちょ……え? マジ?」
 訊ねる私に、ぷるぷると顎を震わせて、葉子はこくん、とちいさくうなづいた。
「……も……がまん……できないよぉ……」
「ちょ、ちょちょちょ、待っ!? そんな急にっ……」
 思わず身じろぎした私のほうを、近くの人たちが一斉に振り向く。吊革の上に細くたたんだ新聞を読んでいた(曲芸みたいなポーズで、執念を感じた)おじさんにじろっと睨まれ、私はあわてて口をふさぐ。
 がたん、がたん。ゆっくり進むレールの音を聞きながら、そっと声を潜めて葉子に訊ねる。
「え、い、いつから……?!」
「…………っと……。ずっと、前、から……っ」
 聞いて唖然とした。
 なんでも。葉子は私との約束に待ち合わせる、そのはるか前から、ずっとずっとトイレを我慢していたらしい。家を出る前にもトイレに入ることができず、途中でどこかに寄り道すればいいものを、待ち合わせを優先するためにそれらも諦めてきたらしい。
 約束の時間の30分も前に来ていながら、私が来た時にいないと困ると思って、律儀に噴水の前を離れないようにしていたのだという。
 思い返してみれば、ナンパ男たちに絡まれていた時も、葉子の言動は妙に歯切れがよくなかった。あれも、ずっとトイレに行きそびれていたせいで、それどころじゃなかったからなのだ。
 ようやくそれに思い至り、私は今更のように目の前の靄が晴れたようだった。
「その、じゃあ……朝から、ずっと?」
「…………っ」
 こくん。顎の先が震えるのとほとんど変わらないくらいの、小さな小さな肯定の頷き。
 あまりにも衝撃的な告白だった。いろいろ不都合と妙な間の悪さが重なってしまったためか、葉子は朝から一度もトイレに行けていないらしい。信じられない話である。私なんか、朝寝坊してからもう3回……いや、途中のコンビニへの寄り道も入れれば、4回もトイレを済ませているのに。
「ヒロと……っ、会ったら、行けばいいやって、おもってた、から……っ」
「そんな……気にしなくてよかったのに……!」
「だって……、時間の前にいなかったりしたら、嫌、かなって……」
「…………」
 さすがに呆れた。いくらなんでも真面目すぎる。呆然となる私に、葉子は慌てたように首を振って、違うの、と付け加える。
「それに、その……一度は、もう、どうしようもなくなって……先に、その、っ、お手洗いに……行こうって思ったら」
「あー……あの連中……」
 まるで見透かしたみたいなタイミングで、あのガラの悪い連中に絡まれたということだろう。いや、どこまで気づいてたかわからないけど、ああいう手合いは不安だったり余裕のない感じの女の子を見つけるのが上手いものだ。葉子の内心を見抜かれていた可能性もあるかもしれない。
 トイレに行きたいから邪魔しないで、というのは女子の断りの必殺技の一つだが、どう控えめに見ても男子に免疫のない箱入りお嬢様の葉子にとって、男の前でトイレに行きたいなんて言い出すことはできなかったんだろう。
 あれは恥ずかしい姿なんて絶対に見せていい場面ではなかっただろうし。
 私が着いた時点で、もうずいぶんあいつらは葉子に絡んでいた様子だった。それでなお断り切れないってことは葉子もよっぽど辛かったに違いない。
 電車に乗ったのは2時少し前くらいだが、のろのろ運転とホームでの大混雑の乗り換えのせいで今はもう二時半を回ろうとしている。
 待ち合わせの時間も考えると、私との約束をほっぽり出して(別にそんなのどうでもよかったんだけど)今すぐにトイレに駆け込みたいような状態に陥ってから、葉子はもう1時間以上も限界の我慢を続けていることになる。
 それでようやく今になって音を上げるとか――いったい葉子のおなかのダムはどうなってるんだろうと言いたくなった。
 片方の手は荷物ごと拘束され、もう一方の手は押し寄せる人波に耐えるため手すりを掴んでいる。
 とは言え満員電車の中、ぎゅうぎゅうとすし詰めに押し込まれている状況では満足に足踏みもできないだろう。腰を浮かせるようにして、葉子は懸命に腰をくねらせていた。
 体勢的に、ちょうど友人の痴態をまじまじと見つめる格好だ。なんとも微妙な気分で視線をそらそうとする私を見て、涙声で葉子が声を絞り出す。
「どうしよう……っ」
「どうしようたって……」
 こっちが聞きたい。この車両には少なくともトイレはない。電車をくまなく探せばあるのかもしれないが、普段あまり意識したこともないため確証はなかった。いずれにせと、この満員すし詰め状態をかき分けてほかの車両に移動するのは無茶だろう。大声をあげて通してもらう――にしても、うまくいくとは限らない。
 ちらりと向けた視線の先、涙目になりながら訴える葉子。さっきまでの青白い顔は一気に紅潮し、耳は先まで赤い。同性で友達の私に告白しただけでこんな有様だ。社内全体に聞こえる声で、「すいません、トイレです! 友達がおしっこ漏れちゃいそうなんで!通してください!」なんて言えるわけがない。
 そもそも、仮にトイレがあったとして、そこまでたどり着いたとして、この混雑で都合よく空いているだろうか?
「……ヒロ……ぉっ……」
「ああもう……っ」
 唇を震わせる葉子は、もう5分も持ちそうにないくらいに切羽詰まっていた。はっきりといつからとは分からないけど、限界になってからもう1時間以上も我慢し続けているわけで、そりゃ頼りたくなるのだって分からなくもない。
 代わってあげられるものなら代わってやりたいが、こればっかりはどうしようもない。声にするわけにもいかず、心の中で葉子を応援する。
 しかし。
 白い首筋に汗をうっすらと浮かべ、うつむいて頬を染め、長いまつげの目を伏せてきつく唇を噛み、
(ん、ぅっ……!)
(……ふぁ……ぅっ!)
 そんな声ばかり上げて、息をつめる葉子の姿は、間近で見るとなんだかイケナイものを見ているようでわけもなくドキドキしてしまう。もう本当に限界間近なようだ。そりゃそうだろう、あの葉子が形振り構わず私におしっこを告白してくるくらいだ。もう本当のぎりぎりまで一人で我慢し続け、どうしようもなくなって私に言ってきたのだろう。
「いま、何時くらいなんだろ……」
 電車が停まってもう随分経つような気がする。時計を確認しようにも自由にならず、見慣れない窓の外をじっと眺めて、早く電車が動き、駅のホームまで到着するのを待つしかない。それまで葉子の我慢はもつのだろうか? 冷静に考えて、激しく怪しいと言わざるをえない。一刻も早く電車が復旧して、次の駅まで動いてくれるのを待つしかなかった。
 が、最初のアナウンスから新しい情報はない。ぎゅうぎゅう詰めの車内に、乗客たちの苛立ちがすこしずつ、しかし確実に折り重なっていく。
「ね、ねえ、ヒロ………っ」
「だ、だから頼まれてもどうしようも……」
「ち、違うのっ……!!」
 もじもじと腰をゆすり――たぶん、それでも精一杯、外に見せないように耐えているんだろう――耳まで真っ赤になりながら、葉子はとんでもないことを頼んできた。
「もぅ、ホントに……駄目……だ、だから、お願い……、お、押さえて……っ」
「は?」
「お、おねがい……ぎゅって、して……っ」
 そんな顔でそんなこと言われちゃったら、おそらく世の男どもの9割は勘違いするに違いあるまい。
 だが違う。そういう意味じゃない。ある意味もっときわどくて怪しいことを、この友人は私に頼んできたのである。
 つまり。私に――両手の自由にならない自分の代わりに、丁度具合よく手の空いている私に、代わりに、あそこの前押さえをしてくれ、と言っているのだ。
「い、いいの?」
「いいから、はやく……!!」
 間抜けにもそんな確認をしてしまった(後で考えれば、もっと嫌がるとか困るとか、仮にも少女としてまともな対応があったようにも思う)私だが、葉子は普段の控え目でおしとやかな物腰とは似ても似つかない、切羽詰まった鬼気迫る迫力で言ってくる。それでもなお、可愛らしさがまったく損なわれてないというのはまさに驚嘆というほかない。
 そう。さっきの告白時点で、我慢の状態はもはやぎりぎり。葉子の女の子のダムは、決壊のカウントダウンを始めている緊急事態であるのだ。このまま、その、万一のことがあれば被害をこうむるのは、ほぼ密着状態で押し込まれている私も一緒なのだ。
 ええいままよとばかり、私は覚悟を決めて葉子の脚の方へと手を伸ばした。
 綺麗なフリルとプリーツのついたスカートの上から、適当に見当をつけて手のひらを添える。
 できるだけ刺激を与えないよう、優しくしたつもりだが、葉子はとたんに肩を震わせ小さく声を上げた。
「っ、くぅ……ッ……」
 きれいな形の眉がきゅうっと寄せあわされる。
「っ………ぁ……っ」
 ぶるる、とあごを反らし、背中を震わせる葉子に、私の背筋にも緊張が走る。
「ちょ、ちょっと……?」
「、っ、ち、ちがう、も、もう、ちょっと、上……っ」
「こ、こう?」
「んっ。……っ…ッ」
 言われるまま、私は位置を微調整する。自分がトイレを我慢している時のことを考えて、どこをさすり、どこを押さえれば少しでも楽なるか。それを考えて。慎重に、ゆっくりと。けれど大胆に。
「ち、ちがうの、そこ、押されるとダメ……っ!! ……もっと、下、足のほう、きつく、おさえて……ッ!!」
「わ、わかった……」
 自分を基準に考えてはいたものの、どうもそれでは多少外れていたらしい。女の子の大事なポイントというのは、人によってミリ単位で違う、繊細で敏感なものなのだ。葉子に言われるまま、指を這わせ、そっと手を動かす。
「んっ、ご、ごめん、そっちじゃ、駄目……!!」
「あ、う、うん……」
 スカート越しにも、はっきりとわかるくらいに、葉子の下腹部には猛烈な力が篭められていた。みなぎるくらいに羞恥が詰め込まれた、まるでタイヤでも触ったみたいな硬い手ごたえ。はちきれんばかりにぱんぱんに中身が詰まっていることははっきりわかる。
 葉子さんの「おんなのこ」もよくもまあこんなに耐え続けたものだ。
「はぁ……っ」
 どうにか、丁度いい「前押さえポイント」が見つかったか。葉子が小さく息を吐きながら、ぐりぐりと股間を押し付けてくる。私の手はぎゅっと葉子の太腿の間に挟み込まれ、押し包むように摺り合わされた。熱く篭った熱気がスカートの根本をしっとりと湿らせる。不安定な姿勢でそうなったものだから、つま先立ちになった彼女の体重もぐっとこちらに預けられ、私はあわてて倒れないようにそれを支えこむ。
「っは……くぅ……っ」
 耳元で倒れこむようになった葉子の吐息が、艶めかしく響く。
(すごい……こんなに? どれだけ我慢してんのよ……)
 これ、もし私が男だったら、一発で痴漢犯罪検挙の状態じゃないだろうか。……いや、女の子同士でもちょっと言い訳の聞かない格好してる気がするけど。
「っはああ……ぁ……っ」
 ぎゅうぎゅう、もじもじ、くねくね。目の前で熱っぽく繰り返される友人の吐息。おしっこ我慢の様子を、ゼロ距離の特等席で見せつけられ、私も思わず足をそっと擦り合わせてしまう。
 葉子は全体重をあずけるようにして、股間に挟み込んだ私の手を足の付け根に抑え込んでいた。そうしていないと、もうおそらくダムの『水門』をせき止めていられないのだろう。
 つまり、これ。
 私が……ちょっと気まぐれをして手を離してしまえば、葉子はそのまま――限界を迎えてしまうのだ。
 そう考えると、ぞくぞくと背中を這い上がる、嗜虐心のようなものがあった。
「……っ、いかんいかん」
 思わず首を振る。才色兼備で知られ、校内でも下級生憧れの的である友人が、こうして身を縮こませ、切なげに腰をモジつかせて震える様には、背徳的なものがみえないでもないけれど。もし、ここで葉子が限界を迎えれば、そのまま噴き出したホットレモンティは、密着する私めがけてスプラッシュである。このせっぱつまった状況において、興味本位でやっていいことではない。
「ぁ。あっ、あ……ッ」
 葉子が目を伏せ、ぷるぷると首を震わせた。
 かあっと、そのうなじが朱に染まる。
「ぁ……ッ……」
 ぐうっと抑えこんだ手のひらに、ほんのわずか、熱い湿り気が増えたように感じた。『それ』が何を意味するのかを悟り、思わず手を引きかけるが、途端に切なそうに足をぎゅっと閉じてそれを停めようとする葉子。反射的な行動だったようで、ごめんっと言って震える足を放そうとするが、いま葉子の支えになるのは私の手だけで、これがなくなったらもう葉子は一人じゃ耐えられないはずなのだ。
 ああもう。そんな顔されたら、無視できないじゃないか。
 ぷしゅ、しゅっ、しゅ。ほんの少しずつ、レモネードの瓶の底で炭酸がはじけるような音。スカートの布地の奥で、わずかな湿り気が、ゆっくり、ゆっくりひろがっていく。熱のこもった下着の奥で、葉子の『おんなのこ』がひくっ、ひくっと細かく震えていた。
 あれだけおなかを固く張りつめさせ、パンパンにさせているんだ。どれだけ辛いか。
(……がんばれ、がんばれっ)
 声には出せない。けれどせめて。友人の立たされた苦境に、少しでも力になろうと。私は葉子を心の中で応援する。


 ◆ ◆ ◆


 10分ほど、過ぎたろうか。
 何度となく唇を引き結び、息をつめ、肩を上下させは吐息を殺し。
 耐えに耐え続けた葉子が、私の耳元で、ポツリ、とささやいた。

 ごめん。でちゃう。

 限界を告げるその声を、私は自然と受け入れていた。そうだろう。葉子はもうとっくに限界だった。普通の女の子だったら、最初の電車が止まった瞬間に音を上げていたに違いない。いや、そもそも私に会う前まで我慢して約束待ち合わせなんてできていたかどうか。
 何よりも慎み深く、がまん強い葉子だからこそ、ここまでなんとか、限界を先延ばしにしてきたのだ。
 だから。友人が尿意の限界を訴え、がまんできないことを知らせてきたのは、もう仕方のないことだった。「わかった。……だいじょうぶだよ」
 このまま、あるがまま結果を受け入れよう。どんなにひどいことになっても、絶対に葉子のことを見捨てない。そう決意を込めて。私は友人に微笑みかける。
 けれど。
「ヒロ……っ、か、カバンっ……」
 葉子が要求してきたのは、そうではなかった。
 言われるままカバンを探れば、中身は小さなプラカップとセットになった空っぽのペットボトルが見つかる。最近、健康にいいと有名な特保の健康茶である。
 ……その筋では、飲むとおしっこが近くなってひどい目に合うということで、評判の逸品だ。私も話のタネに、昼休みに一番小さなボトルを試し飲みして、午後の授業は休み時間のたびにトイレに駆け込む羽目になった。6時間目の英語の授業では。小テスト中についに耐えかねて、先生、トイレ行ってきていいですか! と幼稚園みたいな宣言をしてしまったほどだ。
 こんなものを500mlボトル1本も飲んでしまっていたのかと呆れてしまいそうになる。
 聞けば、健康のためお茶を毎日朝晩飲むのが葉子の家での習慣だということらしい。外出時の飲み物も当然のようにお茶で、今日葉子は美味しいからということで、お出かけ先ではじめてこれを試してみたらしかった。いや、けっこう細かいところで世間知らずとは思ってたけど、それにしたってこれはどうなのか。
(こっ、これ、にっ)
 喉を震わせて、ボトルを視線で示す葉子。彼女のことだから、律義にゴミを家まで持ち帰るつもりだったに違いない。
(お、おねがい、おねがいっ……!)
 空のボトルを示すその意図は、私にもわかりすぎるくらいわかっていた。あまりにも大胆で、あまりにもお嬢様らしくない発想。女の子としたって失格当然の発想だ。
 けれども――
「わかった。……動かないでね」
「ぅ、……うん、はや、くっ……!!」
 葉子のためなら何だってすると覚悟した。今更引いたら、乙女がすたるってもんだ。


 ◆ ◆ ◆


 満員電車の車内が、ギシギシと揺れる。人口密度300パーセント。身じろぎも満足にできない状態で、もう30分近くこうして閉じ込められている。冷房は聞いているけど車内温度は徐々に上昇し、不快指数も増してきていた。どこか遠くで、子供の泣き声が聞こえ、それに文句を言う様子も聞き取れる。
 そんななか、葉子は真っ赤になってうつむき、必死に声を殺して、唇を噛んでいた。
 そりゃあ恥ずかしいだろう。これからやろうと思っていることを考えれば、正直私だって頭から蒸気が噴き出しそうだ。
 でも、ぐずぐずしてられない。俯いたままの葉子の足の間。わずかに力を緩めた彼女の股間から手を引き抜き、そのままスカートの前をまくり上げる。反対側の手に掴んだペットボトルを用意しながら、
 スカートの下、手探りで葉子の足の付け根へ手を滑り込ませる。
 すべすべの太腿がほんのりと温かく、女の子としてうらやましくなるくらいにすらりと細い。そんな葉子の足の付け根、下着の股布をひっつかんで脇にずらし、空っぽになったボトルを突っ込んだ。見えない中で小さな飲み口を葉子の「そこ」に押し当てる。
(ぁンっ……)
 足を開かせた葉子の股の付け根に、丸い飲み口がぶつかった瞬間、そんな色っぽい声があった。ぎしっと軋むドアと窓の音がやけに大きく聞こえる。
(も、もうちょっと、前っ)
 いくら付き合いの長い親友のことだって、おしっこの出口の位置なんてわかるはずもない。まあ、そりゃ、すごく小さなころは一緒にお風呂に入ったりしたし、トイレだって一緒に行ったりしたけど。手探りで友人の『おんなのこ』、秘密の場所を探し当てるその状況は、まるで――とんでもなくいやらしいことをしているみたいで。こっちまで頬が熱くなるのを抑えきれない。
 いや、実際、これは友人としての範疇をこえてるのだ。
 ペットボトルの胴を握り、何度か確かめるように、『そこ』を探り当て。うまくいくように、おしっこの出口、水門を邪魔する部分を左右に押し開く。
「ぉ……音、きか、ないでっ」
 最後の懇願はそれだった。
 ぶしゅっ、とサイダーの栓を抜いたみたいな音を皮切りに、透明な容器の中に水流が噴射される。薄いポリ容器の中で跳ね返った水流が、じゃごおおおっっとすごい音を響かせるのを、私は手のひら越しに感じていた。
 ペットボトルの底を直撃するその勢いはとんでもないもので、掴んでいたペットボトルがそのまま水圧で跳ね飛ばされてしまいそうになるくらい。庭の水まきに、ホースの先端をつぶして勢いをつける、あんな感じに違いなかった。
「っ………ぁ……」
 きゅうっと寄せあわされる葉子の眉。おしっこの開放感よりも、こんな異常な状況での排泄の羞恥のほうが勝っているようで、その表情は苦悶に近い。
 葉子が目をつぶっているのをいいことに、私はこっそり彼女のスカートを持ち上げ、その奥に目を凝らした。
(うわ、すご……っ)
 私だって女の子だ。トイレを我慢しなければならない時だってあるし、そういう時、かろうじて間に合った個室の中で、音消ししても完全には消えないくらいものすごい勢いと音で、足元にめがけ恥ずかしい熱湯を噴き出させてしまうことだってある。
 でも。それが実際こんなにもすさまじい迫力であるなんて、知らなかった。そりゃそうだ普通に生きてたら見る機会もないしまじまじ観察するチャンスなんてあるわけもない。
 ましてそれが――自他ともに認めるいかにもな清楚で慎ましやかなお嬢様の、葉子のものだなんて思うと。
 取り落とさないようにつかみなおし、力を込めただボトルの中に、信じられないほど野太い水流が蛇行しながら注ぎ込まれていく。比喩抜きで、蛇口を全開したみたいな量と勢い。

 ぼじゅぅうううううううっ……

 その音も勢いもじゃぼじゃぼ程度ではないのだ。溜まったホットレモンティの黄色い水面を猛烈に泡立てながら、まっすぐに直撃するその様子は黄色いレーザービームめいてすらいた。
 幸いだったのは、ちょうどこの時、電車の隣を急にやってきた快速が通り過ぎ始めたこと。どうやらそろそろ電車が復帰するようだった。揺れる車体が窓越しにも顔をしかめるくらい喧しい轟音に包まれるなか、葉子は私の持つペットボトルの中に、我慢に我慢をし続けた限界おしっこを噴射させてゆく。
 たぶん、これがなければ、容子の排泄音は決して静寂とは言えない電車の中でも十分に周りに響きわたり、周囲の視線を一身に浴びてしまうくらい、ものすごい音だったと思う。
「はぁ……ぁ、ふ、ぁっ……」
 徐々に本当の勢いを取り戻す排泄とともに、葉子はとろけるみたいに気持ちよさそうな顔をして、堪えていた息を解放する。まるで、ひとりでこっそりいやらしいことをした後のよう。
 いや、これはもうそういうのと同じかもしれない。トイレを我慢していた時に感じるむずむずは、一人でえっちなことをしているきっかけになった子だって少なくないはずだから。
 ちらりともう一度、スカートの隙間に視線をやれば、すでに泡立つ水面の位置はペットボト全量の7割近くにも達しておいた。手ごたえもずっしりと重く、油断したらその重さと水圧でとり落としてしまいそうなほど。これだけ我慢してるんだから当然だとは言っても、まったく弱まる様子もない。
(このお茶、たしか500mlサイズのはずなんだけど――)
 いったいどんだけ我慢してたのこの子、可愛い顔して。これもギャップ萌えってやつなのだろうか。
 ○○学院の現役女学生、深窓のお嬢様の絞りたて生お小水……なんていったら、世の変態どもが高い額で買うかもしれない、なんて馬鹿げたことを考えていた、その時。
「っ、ヒロ」
「え!? あ、な、なに?」
 考えていたことを見透かされたのかと思ったが、まさかそんなわけはなかった。むしろその逆。容子は顔を真っ赤にして、余裕なく辛そうに身をよじる。じょぼっ、じゃぼっと押し当てた飲み口の奥に、断続的に水流がぶつかる。
「ま、に、あわないよぉ……っ」
「え?」
 どういうこと? 瞬きをする私のそばで、目に涙をにじませながら。葉子は衝撃の告白。
「まっ、まだっ、まだおしっこいっぱい出そうなの……っでちゃう……っ、こ、これじゃ、溢れちゃう。入りきらないよおっ……!!」
 なんですと。
「ヒロぉ……っ」
 縋り付くような視線。いや、500mlで足りないってそれいったいどういうことよ。思いはするが、目の前の現実がすべてだ。葉子の股間に押し当てたペットボトルはもはや満水。それでもなお、葉子は激しく腰をよじり、ぶしゅっぶしゅっとこらえきれない水流を断続的に噴射させている。
 女の子が、一度はじめちゃったおしっこを停めるなんて無理だ。我慢の限界で、一度トイレを前にしたら、女の子はもう辛抱できない。
 どうすれば――? 一瞬の迷いののち、私は葉子の足の付け根にボトルをあてがったまま、自分のカバンを空けた。奥に突っ込んでいた自分の分のボトルを引っ張り出す。自転車での移動中にのどが渇いたので買った、スポーツ飲料。
 中身はまだ半分くらい残っていた。構うもんか。蓋をあけるのももどかしく、飲み口に口をつけて、残る全部を一息に飲み干す。
「んくっ……」
 飲み終えるころには、葉子の股間のボトルはほぼ限界。飲み口のところまでいっぱいの、本当の意味での満水になりかけていた。見事500mlを一杯にしてなお、葉子のおしっこの出口はなお内側からの圧力に耐えかねるようにぷくぷくっと膨らんで、まだ足りない、もっと出ちゃうとむずがっている。
 瞬間の早業で、私は葉子の股間から中身の一杯になったボトルを遠ざけ、新しく殻にしたボトルを押し当てる。
 ぷしゅっ、ぱたたっ。
 地面に飛び散る小さな飛沫。
「もうちょっとでいいから! ガマンしてっ!」
 短く叫び、ペットボトルの交換を終えた直後。
 新しく押し当てられた飲み口の奥に、ぷじゃあああああっ!! と強烈な水流音。
 すでに500mlペットボトルを一本、一杯にしたとは思えない――あまりにも猛烈な勢い。ふたたびじゃぼじゃぼと音を響かせ、ボトルの中に注ぎ込まれていく友人のおしっこ。さっきにも勝るとも劣らない勢いで、透明な容器がみるみる泡立つ水位を上げていく。
(うぁあ……)
 その迫力に気圧され飲まれて、もう私は唸ることしかできなかった。握りしめたボトル内に注ぎ込まれるオシッコの振動が手のひらを震わせ、ほかほかと温かい、葉子のおなかの中で温められた羞恥の熱水が、黄色い水面をみるみる増していくのを黙って見続けるしかない。
 あっという間に、葉子のオシッコは切り替えたボトルの半分ほどまで水面を上昇させていく。こりゃ、確かにさっきの一本だけじゃ満足できないのは明らかだった。 本当、いったいどれだけ我慢していたんだろう、葉子ってば。
 まさかこれも溢れさせてしまうんじゃないかと思ってひやひやしたが、さすがにそうなる前に葉子のオシッコは見る間に勢いをなくし、じょっ、じょぉっと断続的に吹き付けられていく。
 最終的に、ボトルの8割強あたりのところで、水面の上昇は停止した。とりあえずの避難として、ボトルにキャップをはめる。驚いたことに、葉子はこの状況でもきちんとおしっこをボトルの飲み口の中に注ぎ込み、一滴も外側にはこぼしていなかったのだ。葉子のお行儀のよさは、こんな状態でのおしっこの仕方にすら反映されていたのだ。そういえば、自分と比べて葉子のおしっこはすごくきれいに、まっすぐ前に飛んでいた。あれもひょっとして、日ごろの訓練とか礼儀作法で培ったものなのだろうか。
 思わず妙なことに感心をしてしまう。
「よし、っ……」
 こぼさないように注意して、慎重にキャップを閉めた500mlペットボトル2本ぶんのおしっこ。健康茶とスポーツ飲料、どちらもラベルに偽りあり、だ。ずっしりと重いそれらは、つまり単純計算で約1リットル。こんなにも大量のオシッコを、葉子はあのほっそりしたおなかの中に押し込めていたというのか。
 その圧倒的迫力に魅入られて、黄色く泡立った中身をしげしげと見つめてしまい、葉子は顔を赤くして私の手を掴もうとした。
「ひ、ヒロっ、見ないでっ」
「ごめんごめん……でも、見られるわけにはいかないしね」
 現役学院生の生しぼりしぼりたてオシッコ。なんとも背徳的な響きである。
 空になっていたコンビニの袋を取り出し、二本をまとめて押し込む。半透明の袋に入れて、外から少し透けて見えるようになっているのは、葉子としても激しく抵抗があるみたいだったが――だからと言ってカバンに入れるのはさすがにナシだ。まあ、こういう色合いのお茶だとかスポーツ飲料だと言い切れば、ギリギリ言い逃れができなくもない外見だろう。


 ◆ ◆ ◆


 葉子がおしっこを終えてから、すぐにアナウンスがあって。あっけないくらいあっという間に、快速は運転を再開した。ほどなく、電車は問題の踏切を越え、駅に入る。
 降りる予定の駅ではなかったけれど、予想外の混雑と満員状態に耐えかねて、私たちはそのまま駅を降りることにした。
 そもそも電車内であんなことになってしまった葉子のショックは大きいだろうし、ほかにいろいろしなければならないこともあったからだ。なにしろ、手にはカバンのほかに葉子さんの絞りたておしっこ入り500mlペットボトルが2本もある。これの『処分』も考えなければならない。降りてすぐ、駅のトイレも探したけれど、さっきの事故のせいで婦人用トイレも混雑していて、しばらく順番待ちに並ばなければならなかった。さすがに今そんな気分にはなれない。
 私も葉子が目の前で見せつけてくれた大迫力のせいで、すこしばかり『催して』いたのだけど――まあ、これは我慢できるはずだ。
 それよりも葉子だ。あんなことになったショックはただ事じゃない。結果的になんとか、最悪の事態は免れたとしても――満員電車の中、乗客に囲まれて立ったままペットボトルにおしっこだなんて、女の子として相当のダメージを受けているに違いなかった。最悪、今日のお出掛けは中止にしなければならないかもしれない。そんなことを考えながら葉子の手を引いて、改札を出る。
「でも、替えの下着とか――ないとだめでしょ? コンビニ行ってくるから、ちょっとここで……」
 と。葉子の様子がおかしいのに、私はここでようやく気付いた。妙に足取りが重く、なお、顔が赤い。
「? どうしたの、葉子」
「ご、ごめんなさいっ!!」
 葉子はばっと身を翻し、駅の出口から外へ駈け出してゆく。走り出す彼女を、私は慌てて追った。ちょっと余計なこと言い過ぎたか。あまり深刻になってほしくなかったのだけど、よく考えてみればちょっとひどい物言いだったかもしれない。でも、それだけ私にとっても衝撃的な出来事だったわけで――
「って! 違う!」
 言い逃れしている場合じゃない。よたよたと走っていく葉子の背中はすぐに見つかった。追う私に距離を詰められながら、葉子の足取りは繁華街を離れるように、駅のそばの路地を曲がり――
「葉子っ」
 そうして、追いかけた先。路地を曲がった彼女を追いかけ、そこで見たものは、あまりにも私の想像を超えていて。
 それが何を意味しているのか、一瞬私には理解できなかった。
 行き止まりの路地裏――ビールケースやゴミ箱の積み上げられた、お世辞にも綺麗とは言いがたい場所。剥き出しのアスファルトに汚れた行き止まりの、その路上で。
 長いスカートを引っ張り上げ、追いかける私に背中を向けるようにして、路地裏の隅に深く腰を落として。
 お尻を突き出し、足を開き、ガニ股になってしゃがみ込み。
 切羽詰まったせいだろうか、下着を下ろすこともできず、股布部分だけを指でつかみ、ぐいいっと真横に引っ張って。
 どう言い逃れのしようもない、完全無欠な『野外おしっこポーズ』100%の体勢で、しゃがみ込み開いた足元に、猛烈な勢いでおしっこを噴き出させる、親友の姿。
「っ……!?」
 なんで、どうして、こんな?
 
 ぶしゅううううじゅぼぼぼぼっじゃばばばばば!!

 路地裏に響くこの猛烈な音は、広がる水たまりの黄色さは、飛び散るしぶきは、立ち込めるにおいは、幻なんかじゃありえない。
 だってついさっき、葉子はあんなにもいっぱい。500mlペットボトルを2本近くも一杯にさせるくらい、とんでもない量と勢いで、おしっこをしていたのに。いくら健康茶の利尿作用がすごいと言ったって、あれからまだ10分も経っていない。いくらなんでも、たった10分でもう我慢できないほど強烈に、急に効いてくるはずが、ない。
 それなのに、なんで葉子はまた――こんなに、オシッコをしてるんだ。
「み、みないで、ヒロ、お願いっ、見ないでよぉ……っ」
「え、だって……さっき……」
 思わず踏み出しかけた手の中、コンビニのビニール袋にずっしりと手の中にかかる重さ。それは夢でも幻でもなく。袋の隙間から500mlペットボトル容器、二本をほぼまるまる一杯にして、泡立つ親友のおしっこ。ほんの10分前にしぼりたて、出されたばかりの羞恥のホットレモンティは、まだほんのりと温かい。
 ああ、それなのに。葉子はまたも、野太い水流を、勢いよく――まるで、トイレでするのとまったく同じように、露天の、路地裏の、だれがいつ通りかかるかもわからないような、行き止まりの道端で、足もとのアスファルトに向けて、盛大に、激しい水流を噴射させている。
 あまりにも非常識な光景に、私は親友の路地裏でのおしっこから目が離せない。
「お、おトイレまで……がまん、しなきゃ、いけないのに……でっ、できなかったからっ」
 消え入るような、親友の告白。
 つまり。
 葉子は。電車の中でこの500mlペットボトルを2本、ほとんどいっぱいにしてなお。
 それで、おなかの中のおしっこを全部、完全に、ありったけ出し切ったというわけではまったくなくて。むしろ、これだけの――約1Lに及ぶおしっこを排泄して、ようやく、電車を降りるまでの一時的な我慢が可能になるレベルまで、尿意を抑えることができた、ということで。
 さっきのボトル内水面への断続噴射も、おしっこを出し切ったときのしぐさではなく、強烈な精神力と鍛えられたお嬢様の括約筋で、羞恥のダムの水門、なお水流を噴出させるおしっこの出口を、塞ぎ、せき止めることに成功した、ということだったのだ。
 でも、一度中断したところでおしっこはあくまで一時しのぎ。どうにか電車が駅までたどりつくまで我慢するので精一杯。中途半端な排泄は、かえって大きな尿意の呼び水になる。それは女の子のトイレの常識だ。
 類まれな精神力と、排泄器官の制御で、どうにか駅までは辛抱したものの。そこでもうなけなしの我慢は品切れで。改札前の婦人用トイレが外にまで並ぶ大行列なのを見たところで、葉子は再び限界を迎えてしまったということらしかった。
 だから、せめて人に見られない場所に逃げ込んで――路地裏で、オシッコを始めようとした。
「……………っ」
「みな、い、で、よぉ……っ、ヒロのばか……ばかあ……っ」
 地面をたたきつける水流は、強く激しく野太く、アスファルトの上の小砂利を押し流すほどに凄まじい。さっきあんなに大量におしっこを出したとはとても思えなかった。
 長い我慢を続けたあとは、ちゃんとトイレを済ませても――、一気に全部出しきれなかったり、キチンとすっきりしたとしても、すぐにまた行きたくなったりすることがある。あんまりにも我慢しすぎて膀胱がパンパンになっていると、腎臓のほうで作られるおしっこは渋滞を起こしてそこにとどまっているらしい。
 それでも、葉子のおしっこの様子は、そんな理屈では説明つかなかった。
「……葉子……」
 ともかく。葉子の三度目のおしっこは、そこからなお1分以上たっぷりかけて、路地裏の中を一面水浸しにするほどの派手さを保ち、ようやく終わった。
 ついさっき、出したばかりの、私が持つ、500mlペットボトル2本分のおしっこに加えて、さらにそこから、私が我慢に我慢しきった時の量と同じくらい、長く、激しく続いた。
 その合計量は、推定で、たぶん……1.5L以上。下手をしたら、2L近いかもしれない。

 ぽた、ぽた、ぷしゅっ、しょろろろろお……

「はああ……っ」
 ようやく全部を出し切ったという、安堵と開放感に震える葉子の、とろけるような吐息。
 両手にずしりと感じる重さに、食い込むコンビニのビニール袋が、指の先を白くする。
 静かに、『おんなのこ』から細い水流と、名残りのしずくを滴らせる友人の姿を、私はただ、じっと、食い入るように見、その姿を一時も忘れぬよう、目に焼き付けていた。


 (了)



 (初出:2015.5.3 しーむす11)
[ 2015/06/03 00:20 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

男子トイレ内の姉弟の話。 


(ああっ……いや……だめ、っ……。はあぁ、はあっ、…あぁ……だめ、こんなの、こんなのっ、やだぁ……っ! わ、わたしも、わたしもっ、オシッコしたいのに……っ)
 焦がれ、求め続けた待望の『おトイレ』を前に、優奈の下半身は敏感に反応してしまう。手のひらがきゅっと押さえた下腹部のなか、募る尿意はなお強まる一方で、少女を窮地へと追い込んでゆく。
 しかし、しかし。だ。
 いくらオシッコが我慢の限界で、もう辛抱できないとはいえ、ここは『男の子用』のトイレである。まさか付き添いの優奈が割り込んで、勇太のトイレの順番を横取りしてしまっていいわけがない。
 優奈が使っていいトイレはその隣。あの、ずらりとホールの外まで順番待ちの列が続く『女の子用』のほうなのだ。
(っ、こっちの……トイレなら、こんなに空いてるのに……っ 、ふこうへい、だよぉ……っ!!)
 がらがらの個室。出入りもまばらな入り口。混雑とは程遠く、順番待ちなど起きやしない。
 すぐ隣にあるというのに、まったく対照的なトイレの中。優奈は激しくその場に足踏みを繰り返す。水色とブルー、寒色系のタイルに、たんっ、たんっと足音が響く。
 体の中の内側から、今にもおしっこにこじ開けられそうな女の子の出口を押さえ、押し寄せる尿意を紛らわせるため、いっときだってじっとしていられない。しかし、そうして激しく身体を動かせば、優奈の張り詰めたおなかの中で、はち切れんばかりに膨らんだ水風船が、たぷんっ、たぷんっと大きく揺れる。
(ぁあ、ぁあっ……だめ、だめえ……っ)
 付き添いの優奈のすぐ目の前。弟の勇太の小さな背中があった。
 壁の際。ずらりと並んだ陶製の白い小用便器に向かう弟は、ショートパンツを足首までおろし、短い男の子のホースから  勢いよく水流を迸らせていた。
「ねえ、おねえちゃんっ さっきの面白かったねっ!」
「ゆ、勇太、よそ見しないで! ちゃんと前見て!」
 陶製の白い便器にぶつかって、激しい音を響かせる『オシッコの音』。個室という閉鎖空間ではなく、壁に向かってトイレの中全てに丸見え丸聞こえ。『女の子用』のトイレの中では絶対ありえない光景に、優奈の羞恥は強く刺激される。
 立ったまま、壁に並んで、パンツを下ろし。『男の子用』で、ホースから勢いよく噴き出しぶつかる水流が響かせる水音は、我慢の真っ最中の優奈にとってまさに禁断の囁きだ。耳を塞いでも聞こえてくる排泄音の誘惑に、優奈の腰は小刻みに揺れ動いてしまう。
(ぁ、ああっ、だめ……そんな音、聞かせないで…っ、今は、いまは、ダメ……っ)
 しゃああ、ぱちゃぱちゃ。こんな時に一番聞いてはいけない雫の音。『イケナイ』響きに誘われて、激しい下腹部の訴えが少女を追い詰める。
 しかし、ここは紳士トイレ、『男の子用』の場所である。入ってくるのは男の人ばかりだ。思春期の最中の少女が、入ってはならない場所である。事実、さっきから出入りする男性たちは、勇太の後ろで付き添いの優奈に、ぎょっとして視線を向ける者ばかりだった。
(お、おしっこ、がまん、できなくなっちゃう…! っぅう、だめ、したいの……っ!! わたしもおしっこ、おしっこしたいの…!! ぁあっ、はぁあっ、おねがい、おトイレに……ああっ、はやく、おトイレに……っ、行かせてぇ…!)
 本当なら、今すぐにでもこの場で、スカートの上から、思い切り『ぎゅうううううっ』とあそこを押さえてしまいたいほどなのに。
 小さな弟を放り出し、この場を後にして、自分のための『おトイレ』に入ることができればどれほど楽だろうか。猛烈な尿意はあり得ない思考に優奈を誘惑し、激しい葛藤に少女の心が揺れる。
 けれど、もしここを飛び出して、隣の『女の子用』に向かったとしても、そちらはずらっと外にまで続く順番待ちの大行列だ。いまからその後ろに並んでも、優奈の番が回ってくる頃には、とっくに休憩時間が終わってしまう。
 ……いや、そもそも優奈は、そこまでちゃんと、最後まで我慢できるのか。
(はぁあ……っく、ぅ、うぅう……っっ……!! おしっこ、おしっこしたい、トイレ、おトイレいきたい……っ!!)
 足踏みと共に、優奈の身体が左右に大きく揺れ動き始める。たんっ、たんとリズミカルに響く足音は、まるで羞恥のメトロノーム。押さえ切れないトイレ我慢が刻む、イケナイ欲望のテンポは、どんどんと早くなる一方。
 その下腹部のダムが大きく波立ち、ぱんぱんに膨らんだ膀胱はたぷんっと揺れ、いまにも少女の身体の外へとせり出してきそうだった。重いおなかを必死に抱え、優奈は思わず口を開く。
「ゆ、勇太、まだ……っ?」
「えー、まだぁー」
 切羽詰まった優奈の声に、勇太は『男の子用』に向かったままのんびりと返事をした。いったん止まった水流の音が、しばらくしてまた再開する。まだ小さい勇太は、一人ではすぐにトイレが終わらない。大勢の観客で混雑する会場で、弟を放っておくわけにはいかないのである。
(う、ぅう……んぁあ……っ、っく、はあ、はあ……っ。ず、ずるいよ、勇太……っ、な、なんで、男の子って、あんな簡単に……おしっこ、できるの……!?)
 弟への羨望が膨らみ、我慢の限界に近い優奈を追い詰めてゆく。こんな状態で、弟のおしっこをずっと見せつけられるなんて、優奈にとってあまりにも刺激が強すぎた。
 たったいま『男の子用』で済まされている勇太のおしっこが、まるでそのまま、自分のおなかの中へじゃぼじゃぼと注ぎ込まれているようにすら感じられる。
(う、くぅっ……んぁ……ッ)
 刻一刻と張り詰める下腹部を懸命にさすり、優奈は大きく前かがみ。はあ、はあと荒く浅い息を繰り返し、きゅっとくちびるを引き結ぶ。
「ね、ねえ、勇太っ、……はやくして……! おばさんたちも待ってるよ? おねがい、勇太、はやくして……!」
(お姉ちゃんもおしっこしたいの……! も、もう、おしっこ、がまんできなくなっちゃうのっ……!!)
 本音を隠した必死の訴えは、けれど小さな弟にはまるでとどかない。優奈がずっとトイレを我慢しているのは、まだ誰にも知られていないのだ。
 きゅうんっ、ひくひくっ。腹部の内圧がぐうっとたかまり、限界まで膨らんだ水風船が、収縮を求めて大きく蠕動した。力を込めた『おんなのこ』の奥。きつく締め付けた細い水路に熱い雫がそそぎこまれ、優奈の足の付け根で、大切な秘密の場所がぷくっと膨らんだ。
(っっ……!! だめ、でちゃう……おしっこでちゃう、でる、でちゃう、もれちゃうぅ……っ!!)
 絞り出すような声が、少女の唇を震わせる。勇太は壁の『男の子用』トイレにむかったまま、『ん?』と首を傾げて後ろを見た。しょろろろろ、となお景気のいい音を響かせている短いホースから、壁の便器の外側へ、ぱちゃぱちゃと飛沫が飛んだ。けれどもう、優奈にはそれを注意する余裕はない。ただただ『自分のこと』、優奈自身の秘密のダムを押さえ込むことだけで精いっぱい。
 トイレ、トイレ! おトイレ!!
 おしっこのできる場所を求め、我慢の限界を訴える水門が、きつく引っ張られた下着の股布に、じゅわあっとイケナイ湿り気を滲ませる。
(……だ、だめ、トイレ……お、トイレぇ……っ!!)
 求める『おトイレ』。おしっこの場所。追い詰められた優奈の視線が、さまようブルーと水色のタイルの中に、ぽかりと開いたドアを見つける。……見つけてしまう。
 これまで、あえて意識の外にシャットアウトしていた、禁忌の場所。
(…………っ!!)
 ついに『そこ』から目を離せなくなり、切羽詰まった少女の表情が大きくひきつる。
 『男の子用』のトイレの中にも設けられた、トイレの個室。『女の子用』とおなじ設備。
 あそこなら。優奈だって。女の子だって、普通におしっこをすることができる。立ったままおしっこを済ませる勇太を羨むこともない。あのドアの中に駆け込んで、内側から鍵をかけてしまえば、中の様子は見られない。

 ――ちゃんと、おしっこが、できる。

(……っ……!! で、でもそんなの……そんなの、だめ……!! だって、ここ、男の人のおトイレなのに……っ!!)
 思春期に特有の、異性への強い忌避感と潔癖感。女の子として当然のプライド。猛烈な羞恥。それらをすべて押し流さんばかりに激しさを増す、尿意。
 さまざまな感情がないまぜになり、優奈の頭の中でぐるぐると渦を巻く。開いたままの男子トイレの個室から目を離せずにいる優奈の下腹部で、ひときわ大きく尿意が揺れる。
「んぅっ、ぁああ……っ!?」
 だだんっ、だんつ。強烈な足踏み、ぎゅうっと押さえつけられる足の付け根。おしっこ限界のカウントダウンが始まった。無情にも、少女の身体のほうが音を上げたのだ。
 限界を告げるシグナルに、優奈はたまらず、その場にしゃがみこんでしまった。
「ふぁ、ぅ、ううう……ッ!!」
 立てたかかとにぐりぐりと股間を押し付けて、押し寄せる尿意の大津波、暴れ回すおしっこの水圧に、懸命に耐える、耐える、耐える。目の前が真っ白になる。きつく抑え閉ざしてなお、優奈の股間では、しゅるしゅると小さな水音が漏れ始めていた。
「――おねえちゃん?」
 ふいに。
 目の前に弟の声を聴いて、優奈ははっと顔を上げた。ようやくトイレを済ませ、ざあざあと水を流しながら、勇太が不思議そうに、しゃがみこんだ優奈を見下ろしている。
「ねえ、おねえちゃん、おしっこ? オシッコ我慢してるの?」
「っ……あ、ちが……っ」
 思わず立ち上がりかけた優奈の足の付け根で、じゅうぅうと激しいおチビリの音。股間を激しく刺激するおチビリの誘惑に、少女はたまらず腰を落とし、ぐりぐりぎゅうぎゅうもじもじと、はげしく足の付け根を押さえつけた。
「ほら、おねえちゃん。おしっこでしょ? ウソついちゃいけないんだよ? ほら、トイレ行かなきゃだめ!!」
「あっ、だめ、まって、まって、勇太っ」
(で、でる、でちゃう、お、押さえてなきゃおしっこでちゃうの!! て、手、放してえ!!)
 幼い弟なりの、思いやりであったのかもしれない。勇太はきつく『おんなのこ』を握りしめる優奈の手を掴み、そのまま無理やり引っ張るようにして、奥の個室のほうへと引っ張り始める。羞恥と尿意の狭間で、なお入ることを葛藤していた、『男の子用』の個室へと。
 支えを失った優奈の足元で、じゅうう、しゅるる、ぱちゃぱちゃと、もはや取り返しのつかない音が響き始める。
「ほらっおねえちゃんはやくっ! ちゃんと立ってよう!!」
「だめ、……勇太、だめ、おねがい、はなしてえ……っ、もれ、ちゃ、おしっこ…っ。おしっこでちゃうぅうう!!!」
 もはやなりふり構わずさけぶ優奈に、周囲の視線が集中する。『男の子用』のトイレにいた、大学生、会社員、白い髪の老人。優奈と同じくらいの男子もいた。
「ぁあっい、あぁあああ………ッ」
「おねえちゃんっ……?」
 ひきつるような、優奈の悲鳴。勇太は目を丸くしていた。勇太よりもずっと年上の、おねえちゃんの優奈が、こんなところでオモラシをしてしまうなんて想像もしていなかったのだろう。
 いちど押し破られた水門は、もうせき止めることは不可能だった。
 じゅううう、びちゃびちゃびちゃ、ぶじゅうぅううううう!! すさまじい水圧で噴き出す下品な噴水は、下着越しでもまったく弱まる様子がない。綺麗に磨かれ、顔が映るくらいぴかぴかの、ブルーのタイルの上。
 しゃがみ込んだ股間から、猛烈な勢いで優奈のおしっこが噴射され、水色のタイルを直撃して、四方に飛び散ってゆく。
なきじゃくる優奈の足元、『男の子用』の床の上、正しい『女の子用』トイレ、『オシッコの場所』にすることのできなかった、優奈の黄色い水流が、激しく噴出を続けていた。


 (初出:@kurogiri44 ツイッター投稿の加筆再録)

[ 2015/05/03 13:30 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

授業中の我慢 

 基本タイプの我慢の習作。
 もう何度も似たような話やってきた気はするけども。




 4時間目の授業は続いていた。
(……おトイレ、行っとけばよかった……)
 教室窓際の後ろから三番目。退屈な授業からこっそり逃れ、居眠りをするのに最適な席で、樫野瑠璃は張り詰めた下腹部をさすりながら30分前の愚かな自分の判断をしきりに後悔していた。3時間目の体育の授業で普段の倍もお茶をがぶ飲みしたお昼ご飯のあと、友達とのお喋りに夢中になって予鈴にも気付かなかったのは、本当に間抜けとしか言いようがない。
 挙句、授業前に連れ立ってトイレに立つクラスメイトを、付き合い悪いなあとばかり見送っていたりしたのだから目も当てられない。
 思い返すもあの時の自分に文句のひとつもぶつけたくなるが、そんなことをしても、現在瑠璃を追い詰める状況は一向に改善しないのも明らかだった。
 教壇の上、教師が黒板にびっしりと細かい字を書きつけてゆく。午後一番の歴史の授業は、普段なら退屈で、眠気を誘うことこの上ないが、今日に限っては忍び寄る睡魔に抵抗する必要はなさそうだ。より切実な、差し迫った事情が、少女の下腹部に押し寄せてくる。
(……あー……もう、私の馬鹿……っ。なんで、トイレ行かなかったんだろ……)
 募る尿意にすりすりと足を擦り合わせ、瑠璃は教科書も広げず、教師の話も上の空で、教室の時計を睨むように見つめる。
 お昼休みの1時間を挟み、午後最初の授業は50分。終了まではあと20分以上も時間を残していた。時計の文字盤は変わらず、のろのろと針を動かすばかり。
「んっ……」
 一向に進まない時計の針とは対照的に、脚の付け根にじんじんと響くむず痒い感覚はみるみるその存在感を膨らませていた。じれったさのまま落ち着きなく腰を揺すり、膝を重ねるようにして脚を寄せ合わせる。椅子の上でモジモジと左右に揺すられる腰は、典型的なオシッコ我慢の様相を呈していた。
 スカートの奥で、うねるように尿意が波打つ。黄色い濁流を危険水位のはるか上までたたえた乙女のダムには、なお刻一刻と注水が続けられていた。膨らむ水圧に下腹部は張り詰め、太ぷたぷと揺れるオシッコが出口を求めて揺れる。
 床の上で上履きがきゅっきゅと小刻みにリズムを刻み、爪先がぐりぐりと押し付けられる。
 机の上でシャーペンを握る手は頼りなく汗ばみ、肘はきゅっと身体に寄せられて、瑠璃のペン先はノートの上に浮かんでふらふらとさまよう。
 左手はといえばもう15分も前から机の下に潜り込み、下腹部を撫で、脚の付け根を行き来し、スカートの前を押さえこんでいた。
(うぅ……トイレ……トイレ、行きたい…オシッコしたい……っ)
 切なる欲求は、ストレートな要求を少女に突き付ける。この尿意からの解放。しかしそれは現状、不可能に近い無茶な提案である。
 縮こまるように身体を丸め、不安定に細めた肩が左右に揺れる。瑠璃の視線はあたりを落ち着きなく戸惑い、さまよい、10秒に一度は教卓上の時計に向けられていた。しかしいくら時間を確認する頻度を増やしたところで、時計の針の動きは変わらない。
 むしろ、注視すればするほど、気にすればするほど、もどかしいほどに遅くなっているかのように感じられる。
(オシッコしたい……!!)
 思春期の少女の心を占めるのは実に切実な欲望。切羽詰まった生理現象はいよいよ少女の下腹部で牙を剥く。口から摂取され、吸収されて健康な少女の身体を潤した水分は、やがて少女の身体を巡る長い旅の果てに、再び下腹部の一カ所に集まってゆくのだ。朝、家を出る時にトイレに行ってから、瑠璃の身体は新鮮なオシッコをたっぷりと作って、次々に膀胱に流し込んできているのだろう。
 もういい、もう十分たと叫ぼうとも、一方的に乙女のダムに注ぎ込まれ続ける。行き場を失くして激しく暴れる尿意はいよいよ膨らみ、少女の余裕を失わせていた。
「は、んっ……」
 唇を噛み、漏れそうになった息を飲み込む。隣に座る生徒が不思議そうに顔を上げるが――すぐに授業に集中しようと顔を戻した。歴史の授業は板書も多く、聞き逃すとあっという間に先に進んでしまうのだ。
 それどころではない瑠璃は教科書にしてもう3ページも前から置いてきぼりだった。
 歴史の授業を担当する教師はどのクラスでも厳しくて有名である。理不尽に生徒を怒鳴ることはないが、宿題を忘れたりするのはご法度だった。質問に答えるか発表の時以外は私語も許されず、言うことを利かない生徒は厳しいおしかりを受ける。
 先週の授業では、ついふざけていた男子達が厳しく叱られ、授業の終りまで立たされていたくらいだ。とてもではないが淡々と板書をし、渋く低い声で授業をする教師を遮って手を上げ、『先生、おトイレ行きたいです』なんて言えそうな雰囲気ではない。
 できそうにない、と考えただけで、きゅんと瑠璃の下腹部が疼く。おなかの中で、恥ずかしいオシッコをなみなみとたたえて揺れるダムの重みが一段と増したように思えた。なお下腹部を硬く張り詰めるさせて募る尿意に、瑠璃は覚悟を新たにする。
(やっぱり、がまんしなきゃ……)
 そもそも、女の子が4年生にもなって授業の最中に皆の前でトイレに行くなんて、普通はあってはならないことだ。きちんと休み時間もお昼の休憩もあったのに、トイレに行かなかったのは瑠璃の責任なのである。
 ちゃんとトイレのしつけが出来ていないのだと言っているのと同じことだった。
(あと20分……えっと、1分60秒だから、1200秒……だから、っ、百まで、12回数えれば、おしまい……っ)
 拙い計算をして、いち、にい、と数を数え始めるが、余裕のない頭の中ではただ数を数えるくらいの簡単なことも上手くいかない。一年生だってできるだろうに、三十くらいまで数えたところで思考が息切れし、ぐうっと押し寄せてきた尿意の波に身体を硬くしている間に、どこまで数えたかも分からなくなってしまった。
 仕方なく、適当に数字を切りあげて続きを始めるが、それもすぐに込み上げてくる衝動を堪えて、途切れてしまう。
(ごじゅう、なな、ご、ごじゅう、ごじゅうはち、っ……)
 飛び飛びになる数字を数え、焦る気分のままに教卓の上の時計を睨む。もう60まで数えたのだから、1分くらいは進んでいなければおかしいはずだが、長針の位置はまるで変わっていないように思えた。本当にこの教室は時間が流れているのだろうか。そんなことまで疑いたくなる。
(は、はやく、早く授業、終わってよぉ……っ)
 ペンを握っていた手が、そのまま机の板を握り締めた。
 いまや下半身に留まらず、瑠璃の身体は全身でトイレをねだっている。小さな椅子の上に身体を縮こまらせ、身体の中心をきつく押さえて、足を寄せ、おしりをモジ付かせる。ぎしぎしと軋む椅子が立てる音が切なげな吐息に混じる。
(オシッコ、オシッコ、オシッコしたい……オシッコ、でちゃう…!!)
 ひとたび心が我慢の限界の警告をしてからは、それまでとは違い加速度的に尿意が高まり始めていた。瑠璃の脳裏を清潔な女子トイレの、綺麗な個室、白い便器がよぎる。それだけできゅうんと下腹部の水風船が握り絞られるような錯覚すらあった。
 オシッコでちゃう……限界を叫び傾いてしまった心は、みるみる想像の中のトイレに縛り付けられてしまう。たとえ頭の中でさえ、一度トイレを前にした女の子の身体はみるみる我慢がきかなくなっていた。
 トイレに行きたい。オシッコがしたい。背筋がぴくんと震え、脚の付け根がじわっと熱くなる。見る間にオモラシの予兆が押し寄せ、瑠璃は戦慄した。遠浅だったはずの尿意があっという間に高潮に襲われ、水位を増してゆく。
 ほんの10分くらい前までは、精々『トイレに行きたい』くらいだったのが、いまや瑠璃の頭の中を占めるのは途中を全てすっ飛ばして『オシッコ出る』『オシッコ漏れちゃう』である。
 もはやペンすら手にする余裕も無く、瑠璃は両手で足の付け根を握り締める。ぎゅうぎゅうと体重を乗せてあそこを握り締めていなければ、いまにもダムが崩れ、水門が開いてしまいそうだった。
 敗色濃厚、全面降伏も時間の問題――すでに授業もそっちのけで、瑠璃は教室の片隅、ひとり孤独に激しい尿意との戦いを繰り広げていた。
 そんな時だ。
「――以上だ。では、これから小テストを行う」
 言うが早いか黒板を消し始めた教師の発言に、クラスのあちこちからええーーっと非難の声が上がる。授業終了まであと10分と少しという残り時間で、突如振って湧いたテスト発言に、横暴だと生徒達たちがにわかに騒がしくなる。
「教科書とノートを机からしまうように。問題用紙を配る」
 しかし、些細な抗議など時間稼ぎにすらならなかった。問答無用とばかりにテスト用紙を配り始める教師の有無を言わせぬ姿勢に、クラスの皆も渋々ながら従っていく。
 一転、静まり返る教室の中で――瑠璃だけがそれどころではない。
(あ、あっ、あ……で、出る、でちゃう…だめえ…っ)
「――え、……ちゃん」
(が、我慢しなきゃ……がまん、しなきゃっ……あと、あと12分っ……)
「ねえ、瑠璃ちゃん、前、前」
「っ、え……!?」
 後ろから背中をつつく声にはっと顔を上げれば、テスト用紙を手に前の席のクラスメイトが少し不満げに瑠璃を見ていた。
 今まさに尿意のビッグウェーブとの戦いの真っ最中で、瑠璃は周囲の事など全く耳に入っていなかったのだ。教師の言葉すらほとんど聞き流していたが――気付けば瑠璃を除くクラスの全員がテストの準備を終え、机の上に筆箱と問題用紙だけを並べ、緊張の面持ちを浮かべている。何もしていないのは瑠璃だけだ。
「ご、ごめんっ」
 ほとんど反射的にテスト用紙を受け取り、自分の分を取って後ろに回す。ほぼ白紙のノートと、開いてもいなかった教科書を乱暴に机の中に突っ込んだ。
「よし、では始め」
 瑠璃が準備を終えたのを見て、教師がテストの開始を宣言した。クラスの机の上で一斉にテスト用紙が翻り、ペン先の音が踊る。
 いつしか本物のテストと何ら変わりない、ピリピリとした緊張が教室を支配していた。授業終わりの小テストと言いながらも、成績にはちゃんと関係する大事なテストなのである。お調子者の男子までが、真剣な顔で答案に向かう。
 そんな雰囲気の中――瑠璃だけがまるで、それどころではない。
(だ、だめ……、っ、も、もう、ガマン、できな、っ……ぁあっ)
 まさにいまこの時が、一瞬たりとて気が抜けない我慢のまっ最中だったのだ。全身全霊をかけて、襲い来る尿意とせめぎ合っていたその最中に、無理して動いてしまったのが、一気に瑠璃の形勢を不利にした。
 ぐるぐると下腹部で蠢く熱い衝撃が、股間の先端、脚の付け根の中央へと集まっていく。限界まで伸び切った膀胱が、反動のようにぎゅうと身をよじり、ぱんぱんに詰まった中身を絞り出さんと収縮を始める。
「ぅあ、……っ」
 必死に、必死に我慢をしてきた。窮地に陥ってから、たった20分――授業が終わるまでのほんのわずかな時間。けれど瑠璃にとってそれはまるで永遠にも感じられた。挫けそうな心を支え、女の子の大事な部分に両手を援軍として送り込み、必死になって残り時間を、解放までの瞬間を数えて、なんとかここまで耐えてきたのだ。
 まさに、奇跡といってもいい10分間だった。
 しかし、授業の終了まではまだあと10分もの時間がある。これまで耐えてきたのと同じだけの時間を、ますます強くなる尿意に耐えて我慢し切る――そんなことはどう考えても不可能だった。
 たかだか10分、600秒。けれどその10分が、もはや耐え切れない。
(漏れ、ちゃう…っ)
 4年生にもなって教室でオモラシなんて――必死にそう自分に言い聞かせようとするが、瑠璃の身体はそんな事お構いなしにオシッコの準備を始めていた。脚の付け根の奥がじわりと湿り、オシッコの出口がぷくりと膨らむ。押さえ込んだスカートの奥、下着を突き抜けて噴き出す熱い水流が、椅子の上にぶつかり、天板を伝ってばちゃばちゃと盛大に床に飛び散る――
 最悪の形での終局が瑠璃の頭をよぎる。
 ここまで我慢したのに――悔しさに、情けなさに、恥ずかしさに涙が滲む。辛うじて瑠璃が縋りつく女の子としてのなけなしのプライドも、なお激しく荒れ狂う尿意の前には無力だった。高まる水圧に負け、耐えかねたように水門が押し開けられる。我慢の限界、想像の中のトイレに、瑠璃の意識が吸い寄せられる。
 瑠璃がいよいよ屈辱の中、女の子の生理現象に屈しそうになったその時。
「――終わった者から休憩とする。用紙を前に提出し、他のクラスの迷惑にならないように」
 まるで、天啓のように。教師の言葉があった。
 薄れかけた意識を覚醒させる、頭に突き刺さるようなその一言に、瑠璃は瞬時に我を取り戻した。
 終わった者から、休憩。
 他のクラスの迷惑にならないように。
 二つの言葉が意味することは単純。テストが終わったら、休み時間にしても良いということだ。つまり、
(――終われば、トイレに行ける!!)
 オモラシ寸前の瑠璃にとって、単純なその事実だけが稲妻のように閃き、脳裏に焼き付いた。まさに天啓のごとく、少女の心はその恩寵にひれ伏し縋りつく。
 瑠璃は飛び付くように、机の上に裏返していたままのテスト用紙をひっくり返した。
 小テストというにはいささか重すぎる、びっしりと文字の並ぶ文章題の問題が5つ。10分で解くための全5問のテストだというには随分難易度が高そうにも思えた。
 けれどもう瑠璃にはそんなものはどうでもいい。教師の思惑も、成績も、何も関係ない。
 これに全部答えれば、トイレに行ける。その事実だけで十分だった。
 瑠璃はスカートの付け根を握る手を左手だけに減らし、震える手でペンを持った。恥ずかしい水門を外から押さえる力が半分になり、一気に尿意が激しさを増す。それを誤魔化すように、瑠璃は左手で激しく股間を押し揉んだ。背中が揺れ、大きく椅子が軋む。後ろで友人が不審げに顔を上げる。
 けれど瑠璃は気付かない。背中に目は無いし、なによりも今はテストだ。
 震えるペン先で名前を書き込む。慌てて書いたせいでひどく歪んだ「かしのるり」の五文字の下に、出席番号を書きなぐる。
「つ――」
 問題文に目を通しても、全然頭に入って来ない。あてずっぽうで回答欄を埋めていく。この際間違っていようが、全然見当違いだって構わなかった。
(全部、答えだけ書いちゃえば――)
 問3の選択問題を全部『ア』で埋め、問4の文章題に差し掛かったその時。
「んぁあっ……!?」
 猛烈な尿意の波が瑠璃を襲った。びくとペン先が跳ね、回答欄に歪んだ線をなぞる。宙に浮いたペン先が虚空にふらふらと文字を刻み、咄嗟に引き寄せた肘で下腹部を押さえる。おヘソの上近くまで、触れるだけでジンと尿意が腰骨に響いた。
 机の下でぎゅうっと左手が足の付け根を固く握り締め、もじもじと忙しなく激しく太腿が擦り合わされる。はあはあと熱い吐息が少女の唇を震わせた。
(で、でちゃ、っ……!?)
「んぅ、んんんっ、んーーっ……」
 ぴったりと寄せ合わせた太腿を激しくすりすりと擦り合わせ、瑠璃は噴水のように弾けんとする熱い濁流を、すんでのところで堰き止めた。無理に出口を押さえこまれ、行き場を失くしたオシッコがびく、びくと少女の下腹部を激しく震わせる。
(で、でる、でるぅ……んっ、ダメ、我慢、ガマン、して…っ、これ、終われば、トイレ、行けるの……っ!!)
 問題用紙に齧りつくように背中を丸め、瑠璃はペンを取った。
 五十文字以内で答えよ――ほとんど判別不能の文字で回答欄を埋める。無意識のうちに瑠璃がなぞった文字は、『オシッコが出ます』だった。
 最後の問5の問題は回答欄に辛うじて丸だけを書き入れ、瑠璃はテスト用紙を握り締めるようにして席を立った。スカートの前を押さえ、前屈み、おしりを突きだしたみっともない姿で、並ぶ机にぶつかりながら、ふらふらと覚束ない足取りで教卓へと歩み寄る。
 教室内を見回っていた教師が顔を上げた。テスト開始から2分も過ぎていない。あまりにも早い回答者に、彼も不審に思ったのだ。
 瑠璃はそんな教師の疑念にも構わず、くしゃくしゃのテスト用紙を卓上に叩きつけるようにして置き、教室のドアへ向けて一目散に走り寄ろうとする。
 しかしそれとほぼ同時、
「んぁああ……っ!?」 
 まるで瑠璃の行く手を阻むかのように。させんとばかりに再びの尿意の大波。否、それはあと少しというところで瑠璃がわずかに気を緩めてしまったがゆえの必然だった。押さえ込んでいた尿意が一気に膨らみ、瑠璃は声を上げてしまう。
 教卓の前での突如の悲鳴に、クラスメイト達は何事かと視線を向けた。
 しかし瑠璃はそんなもの見えていない。テストは終えた。もうおしまい。授業はおしまいで、瑠璃はトイレに行っても良いのだ。
 はやく、はやく、早くしないと間に合わない。一秒でも早くトイレ。けれど押し寄せる尿意は容赦がなかった。瑠璃は教卓にしがみ付くようにして、懸命にオシッコを押しとどめる。
 ちょうど、授業で指されて黒板に向かい、クラス全員に背中を向けて見せつけるかのような姿勢になった。教卓にしがみ付くようにして、激しく内股になり、ぎゅっと左手で股間を押さえたスカートのおしりを左右に振り立ててしまう。
「ぁ、あっあ。あ、だめ、でる、でるぅ…っ!!」
 我知らず恥ずかしい尿意を口にし、ぎゅうぎゅうとスカートの前を押さえ、必死に膝を擦り合わせ、行進のようにその場足踏みを繰り返すような有様で、一歩もその場から動けない。
 もじもじと腰を揺すり激しくスカートの前を握り締める様は、全身で『おトイレしたいです』と叫んでいるに等しかった。呆気にとられる教室の一同を前に、瑠璃は全身でオシッコ我慢ダンスを披露してしまう。
「あ、あっあ、あぁっ」
 それでもなお、瑠璃は諦めず教室のドアへ進もうとする。しかしもう歩くのも難しい。がくがくと膝が震え、教壇の上でとうとうしゃがみ込んでしまう。
 スカートがめくれ、白い下着が覗く。同時、瑠璃の女の子の部分から、じゅじゅじゅぅうと恥ずかしい音と共に、強い水流が噴き出した。
「はぁあああ……っ」
 水門をこじ開けた恥ずかしい水流が一気に少女の体の外へと迸った。下着の股布に勢いよくぶつかり、弾ける熱い水流が、瑠璃の脚の内側にばじゃあと撒き散らされる。
 股間の先端に火が弾けたようだった。ぶるぶると背中が震える。背筋を黄色い稲妻が走りぬけ、頭の中で白く閃光が輝く。
 耐えに耐え、我慢し続けていた女の子のオシッコが、激しく噴き出して教壇を打った。脚の付け根を突き抜け恥骨に響く途方も無い解放感。足元がもつれ、身体が傾ぐ。同時に仰け反った背中から、大きく前へ――下着を突き抜け、噴射する猛烈な水流。白い下着が黄色く染まり、スカートまでが色を変える。
 御開帳――そんな言葉が浮かぶほど大胆に、見せつけるように瑠璃はオモラシをクラスの皆に披露してしまう。
 それでも、我慢に我慢を重ねた待望のオシッコを、足元に噴き出させる快感に、瑠璃は思わず嬌声すら上げてしまっていた。教卓の上、皆にも見えるようにしゃがみ込んで、オモラシを始めた瑠璃の唇が甘く喘ぎをこぼし、白い喉が上下する。上気した頬はほんのりと紅く、激しくオシッコを迸らせながら腰をクネらせる様は艶めかしくすらあった。圧倒的なオモラシの迫力に、もはやクラスメイトはおろか教師まではテストもそっちのけ、視線を離せない。
 便器どころか、教壇を、教卓を、教室の床をトイレにしてしまいながらも、瑠璃のオモラシは終わらない。我慢していた時間と同じだけ、ずっといつまでも続くのだと言わんばかりに、瑠璃のオシッコはテストの沈黙の中に沈む教室の中に広がってゆく。





 (初出:書き下ろし)

[ 2013/06/14 18:41 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

姉イジメの話。 

 明日開催のしーむす8に参加しようと思って用意した話。
 もろもろの事情で申込みできなくなったのでこちらに。





「ま、待って……お願い、待って、茜…っ」
 おぼつかない足元、ほんのりと赤くなった頬。
 荒くなった息に交えながら、途切れ途切れに少女が切なげな声を振り絞って懇願する。
 あたりは夕闇。人気のすくない公園の中を、少女は哀れなかすれ声を振り絞り、ふらふらと頼りない歩みで、先を行く影に追い縋っていた。
「そんなに、先、行かないで……っ、お願いぃ……」
 そんな少女の姿は、この季節にはあまりにも似合わないものだった。
 まず目を引くのが、下半身を覆う衣服は見えないこと。そして、上半身に纏っているのも、飾り気のない白い半袖のシャツ一枚だけという事実だ。
 真夏の公園の水辺で、幼児がしているならともかくも、思春期のただ中にあると思われる少女が、往来を歩く姿としてはあまりにも相応しくない。
 少女は少しでも肌を隠そうと精一杯シャツの裾を引っ張っているのだが、シャツの丈はあまりに短く、ギリギリのところで足の付け根を隠す程度。そんなきわどい丈のシャツの裾から、剥き出しの太腿が伸びている様は、嫌でも注目を集めるものだ。
 ただでさえ肌寒いこの季節だ。夕暮れの公園にはひゅうひゅうと風が容赦なく吹き付け、そのたびに少女の身体は小刻みに震える。
「……お願い、許して……っ、だ、誰か来たら、み、見られちゃうよぉ……っ!!」
 掠れた声で、先を行く影に訴え続け、少女はぎゅうっとシャツの前を握り締める。しかしぎりぎりの長さの裾でそんな事をすれば、身体の後ろ側、お尻のほうの裾が大きくめくれ上がってしまう。
 そこに覗くものも、また少女の年齢には見合わないものだった。
 はしたなく見えた少女の形の良いお尻――その下半身を辛うじて『お情け』のように覆い隠すのは、どうみても少女の年齢には見あわない、幼稚園の子供が身に付けるような『おこさまぱんつ』である。
 もこもこのコットンの布地には、ご丁寧にデフォルメされたクマの絵までプリントされている。少女の両手がぎゅっと重ねられ、震えるようにシャツの前を引き絞っているため、短いシャツの裾は大きく背中まで捲れ上がり、クマのバックプリントが完全に丸見えになってしまっている。
 そのことに少女自身も気づいているのだろう、しかしだからと言ってどうすることもできず、羞恥も露わに腰を激しくくねらせながら、少女は必死に脚を動かし、声を振り絞る。
「あ、…茜、おねがいっ……」
 少女――野上秋穂は耐えがたい羞恥に耳まで赤くなりながら懸命に、先をゆく相手に呼びかける。
 しかし、対する反応は冷ややかなものだ。
「お姉ちゃんが遅いだけじゃん。嫌なら早くきなよ」
「そ、そんな……だって……っ」
「ホントのことでしょ? それに、そんなカッコしてるお姉ちゃんと一緒に歩いてたりしたら恥ずかしいし」
 そう言って、秋穂の1歳違いの妹、茜は目蓋を半分引き下ろした軽蔑の視線で、姉の醜態をじろじろと見回す。口元を嗜虐的な笑みに歪めながらの無遠慮な視線は、同性の――しかも妹のものであるにも関わらず、秋穂の羞恥心を激しくかきたてる類のものだった。
「っ、違うもん……ぜ、全部、茜がさせてるんじゃない……!!」
「えー? なになに? わたしのせいにするんだ? お姉ちゃんってばひどいなぁ。泣いちゃうよー?」
 必死になって訴える秋穂をからかうように、茜は目に手を当て、あからさまな泣きまねをしてみせる。くすくす、と忍び笑いまで漏らす妹に耐えきれなくなって、秋穂は思わず涙ぐみ、鼻を詰まらせて俯いてしまった。
「っ、もう…やめてよ……こ、こんなの、知ってる人に見られたら……明日から、外、歩けないっ……」
「えー? なーに言ってるのかなぁお姉ちゃんてば。だ・か・らぁ、わざわざこぉんな遠くの公園まで来たんじゃない。お姉ちゃんがそうしたいって言うからさぁ。お姉ちゃんが恥ずかしいカッコしてるとこ、知らない人たちにいっぱい見てもらいたいんでしょ?」
「ちがうっ、そんなこと、言ってないよっ……」
 秋穂はただ、家の近所でそんなことができるわけないと言っただけだ。
 だがその言葉をわざと曲解した茜は、姉をわざわざ駅まで呼び出し、電車に乗って20分の駅まで無理矢理連れて来たのである。
 降車駅のトイレでこの格好に着替えさせられたのもその時だ。それから午後いっぱい、ブラを付けることも許されず、Tシャツにパンツ一枚、あとは素足にスニーカーという破廉恥な姿で、秋穂はずっと見知らぬ街のあちこちを連れ回されていた。
 知らない街とはいえ――いや、知らない街だからこそ、季節を無視したTシャツ一枚に下着だけというあられもない姿で歩かされる秋穂には、すれ違う人々の奇異の視線がざくざくと突き刺さり、少女の繊細な心はもう再起不能に近いほどに痛めつけられている。
「ふふ。でもさっきから通りかかった人みんーな、ヘンな顔してお姉ちゃんのこと見てたよねー。あれ、絶っっ対気付かれちゃってるよ? お姉ちゃんがいま『ナニ』したいのか。ねー? あはっ♪」
「っ……やめて……よぉ。ち、違う、違うんだからっ……」
 ぶり返す羞恥に耐えかねるように、シャツの前を強く引き絞り秋穂はいやいやと首を振る。
 出来れば二度と思い出したくない光景だった。もう何年も前の事にすら思えるが、あれはほんの1時間前の出来事なのである。
「あはっ、バレバレだってばお姉ちゃん。……ほぉら」
 くすり、と笑みを浮かべ、茜はそんな姉のもとに歩み寄る。シャツの後ろから飛び出した、クマのバックプリントを覗かせる下着をさげすむように見下ろして、震えるその腰の後ろをぺしん、と軽くはたく。
「ぁは、あぁああ……ッ や、やだっ、やだぁ!!!」
 途端、びく、と全身を硬直させた秋穂は、掠れた叫びを上げ、恥も外聞もかなぐり捨てて足の付け根に両手をあてがった。くしゃくしゃになったシャツの上から、女児用パンツの股間部分を思い切り握り締め、前屈みになって腰を左右にくねらせ始める。
「や、ぁあ、あっ……で、でちゃ……ぅぅぅ……ッ!!」
 膝を交差させ、ぎゅうぎゅうと身をよじり、足を踏み鳴らす。まるで幼稚園の子がするような、人目もはばからぬ猛烈な羞恥のダンスをはじめてしまう。
 前押さえだけでは飽きたらず、秋穂の手のひらはTシャツの裾から覗く下着の股布を押さえ込み、太腿に挟まれた指がぎゅうぎゅうと脚の付け根を揉みしだく。突き出されたお尻ではクマのバックプリントが引っ張られて皺になり、無残に姿を変えてゆく。
「んんっ……、ぁ、あっ、はぁ、ぁっ」
 スニーカーの爪先がぐりぐりと地面をねじり、鳥肌の浮いたふくらはぎが交互に擦り合わされる。ぴったりと寄せ合わされた太腿は激しく上下し、秋穂の荒い吐息に合わせて腰が激しく揺り動かされる。
 短いシャツを引き千切らんばかりに絞り、もこもことした布地の『おこさまぱんつ』の股間を激しく握り締めるみっともない姿で、秋穂は吐息の合間に、茜に抗議の声を上げた。
「あ、茜、やめて、……やめてよぉ…ッ」
「えー? どうして?」
 苦しげな息を吐く姉の下腹部に手を添えたまま、茜がくすくすと笑う。
 やめるどころか、茜はさらに秋穂のそばにぴたりと身体を寄せると、無防備なシャツの上から姉の下腹部に手を伸ばした。
 下腹部からおヘソの下へと、巧みな指使いで妹の手のひらが茜の敏感な部分をなぞりあげてゆく。硬く張りつめた『そこ』を確かめるように撫でさすられ、茜は再び悲鳴を上げてしまった。
「んふぁあああ……っ!? …だめッ、だめやめてぇ!! や、やだっ、やだぁ!! そこ、そこダメぇ!! やめて茜ぃっ…!!」
「ほらぁお姉ちゃん、どうしたの? そんなクネクネしちゃって、恥ずかしいなぁ」
「っ、いや、いやあぁ……ッ」
 茜はなおもとぼけながら、身悶えする姉の耳元に囁きかける。今度は撫でるように優しく、シャツの上から秋穂の腰骨に指を這わせ、子供ぱんつに包まれた丸みを帯びたお尻から背筋にかけてを、たっぷりと時間をかけて愛撫する。
 がくがくと腰を上下させながら、秋穂は堪え切れないというように、脚の付け根に押し付けた指を深く、乙女の中心へと食い込ませた。
 じん、と甘く痺れる誘惑が、腰骨から背筋へと走り、少女の喉が反り返る。
「あは……恥ずかしいなあ、お姉ちゃん。こんなに、ここ膨らませちゃって」
 薄いシャツ一枚の布地の上、下着のゴムを食い込ませてせり出す下腹部の膨らみを、探り当てるように優しく撫でて。耐え難い感覚を与えながらも、決して絶頂は迎えぬように絶妙な力加減で、茜は姉の身体を弄んだ。
「だ、だめ……ぇ!! やめ、て……やめてっ!! お願い、お願い茜、もうやめて……っ、でちゃう、でちゃうよぉ……ッ!!」
 もはやまっすぐ立っている事もできない秋穂は、妹の肩に寄り掛かるように体重を預け、きつく目をつぶって喉を震わせた。
「ぉ、おしっこ、おしっこ出ちゃうぅ……っ!!」
 とうとう堪えきれず、秋穂ははっきりと、己を苛む尿意を口にしてしまった。
 少女の限界を訴えるように、秋穂の下半身が強張り、内腿がびくっと張り詰める。きつく交叉された膝がぐいぐいとねじられ、スニーカーのかかとが地面をえぐる。
 秋穂はもう何時間も前から、ずっとトイレを我慢させられていた。
 着替えてから一度もトイレに行くことも許されず、耐え続けてきた尿意はすでに限界に近い。わずかな刺激ですら猛烈な大波となって脚の付け根へと押し寄せ、懸命に閉じている乙女の水門を、凄まじい水圧で打ち破ろうとしてくる。
「ぁ、あっあ、あっ、あッ……」
 空腰を使うように腰をくねらせ、秋穂は下半身を激しく揺り動かした。少女の身体を覆うのは、ちいさな布地一枚のみ。秋も深まったこの季節の寒さをしのぐにはあまりにも頼りない。
 長い我慢を強いられた膀胱は、羞恥の熱水を限界まで詰め込まれ、はち切れんばかりに膨らんでいる。薄いシャツ一枚の下、貯水量の限界に達しつつある乙女のダムは、秋穂の下腹部を緩やかな球形に膨らませ、身体の外へとせり出しているのだ。
「っ……お願い、茜……もう許してぇ……っ!!」
 きつく寄せ合わせた太腿の奥に、じわりと熱い感覚。渾身の力を込めて締め付ける排泄孔が、内側からの水圧に耐えかねてひくひくと震える。いまにも『ぷくっ』と膨らみそうになる排泄孔を、両の手指で押しこねながら、秋穂は必死に妹に訴えた。
「茜、お願いっ……もう、ホントに、本当に……が、がまん、できないのっ……!! 出ちゃう、から……お願いっ、トイレ……っ、おトイレ、いかせて…ぇ!!」
 クマさんのバックプリントぱんつを左右に振り立て、何度も何度も限界を叫ぶ。
 まるで幼児のような、思春期の少女が口にするには、あまりにもはしたない懇願。しかもそれは実の妹に対するものだ。
 もはやそこに年長者――姉の威厳などと言うものは残されていない。
「んもぅ、情けないなぁ。……ちゃんと我慢しなよ、お姉ちゃんなんだからさぁ」
「っ、だ、だって、きょ、今日、っ朝から一度も、トイレ……行って、ないのにっ……!! も、もう無理、っ、もう…が、ガマンできないっ……!!」
「だーめ。朝ちゃんと行かせてあげたじゃない。その時にちゃんと約束したでしょ? トイレは1日1回までって。忘れたの、お姉ちゃん?」
「だ、だって、だってぇ……!!」
 いやいやをするように秋穂は首を振った。
 茜の言葉は真実だ。しかし、そもそも朝のトイレだって、昨晩からずっと我慢させられていたオシッコを許されただけなのだ。
 トイレは一日一回。秋穂が妹に強いられている、あまりにも理不尽なルールの一つ。
 秋穂は昨日も同じように妹にトイレを禁じられ、夕食の時から延々と尿意を弄ばれ続けた。我慢に我慢を重ね、耐え抜いて、どうにかトイレに駆け込んだのが日付を越えたばかりの午前1時少し前。
 確かにその時も、茜はからかうように、秋穂に言った。
『ホントにいいのかなあ? 今日、もうこの後、オシッコできないよ?』
 それを突き飛ばすように頷き、妹の腕を振り切って、秋穂はトイレに突進していた。
 一日にたった一回だけ許された権利を、日を越えてすぐに使いきってしまうことへの躊躇いなどは、まったくなかった。まる一日分のオシッコを、猛烈な勢いで陶器の中へと叩きつける解放感のなかでは、それから先の事なんて考えている余裕はまったくなかったのだ。
 その結果が、今の秋穂の醜態なのである。
「言っとくけど、オモラシしちゃっても着替えなんかないからねー、お姉ちゃん? そのまま電車乗ってお家まで帰るんだから。くすくす。オモラシクマさんぱんつ、みんなに見られたいんなら勝手にすれば?」
「っ、やだ、ぁ!! 茜、お願い、お願いぃ!! と、トイレぇ……!!」
 言いながらも、茜は秋穂の腕に手を絡め、まるで恋人が抱きつくように胸元に引き寄せる。とうとう自由に我慢する事すら遮られて、秋穂は悲痛な呻きを喉奥で唸らせる。
 『今日』はまだあと6時間以上も残っている。もはや一刻の猶予もない秋穂の下半身が、それだけの時間我慢を続けていられるわけがないのは、誰の目にも明白だった。
「もう、だらしないなぁお姉ちゃん。ちゃんとトイレのしつけもできてないんだから。妹として恥ずかしいよ。ホント、わたしの身にもなって欲しいなあ。あはは♪」
「っ、ぁ、ああっ」
 妹の嘲りにも、思うように答える事ができない。限界寸前の尿意は、鈍い痛みを伴ってずきずきと膀胱を疼かせ、執拗に秋穂の排泄器官をなぶり続ける。
 薄い布地の内側で長時間のガマンを強いられた排泄孔は、酷使された括約筋と共にうっすらと熱を帯び、じんじんと脈動を始めていた。





 社交的で良く出来た妹と、大人しい性格の引っ込み思案な姉。
 理不尽を受けても引っ込んでしまう姉を庇うように、前に出る強気な妹――年が離れていないことと、秋穂が年齢の割に小柄であるせいもあって、秋穂と茜は幼いころから姉と妹を取り違えられるとこも少なくなかった。
 それでも多少のアンバランスさはあれども、長年続いていた良好な姉妹関係が崩壊したのは、今年の夏休みに入る前のことだ
 進学に伴い、春から秋穂と同じ学校に通うようになった茜は、社交的な性格と整った顔立ちで、すぐに学年でも人気者となった。部活や委員会からも勧誘がくるほどの引く手数多で、教師からも覚えがいいらしい。秋穂も決してそんな茜を羨むことなく、自分には似合わないくらいに良く出来た妹だと、そう思っていた。
 しかし。中間試験も終わってすぐ、秋穂が3年の生徒会長から告白されたことで、事態は急変する。
 入学から数カ月で既に10回近くも告白を受けていたという茜は、同学年の男子達をことごとく袖にしながら、その実ひっそりと生徒会長の事を狙っていたのだ。茜が1年にして生徒会に顔を出し、雑用を積極的に手伝うなどして役員とも顔馴染みになっていたのもそれが理由だったと秋穂が知ったのは、随分後になってからのことだ。
 実際、秋穂にしても会長からの告白はあまりにも寝耳に水の出来事だった。間違いなく夢か性質の悪い悪戯だと疑い、信じるまでに1週間近くかかったほどである。
 なんでも、いつも図書室に篭って本を読んでいる秋穂に、生徒会長はずっと想いを募らせていたのだそうで。一体どこが気に入られたのかも、実のところ秋穂にはよく解らない。
 ただ、不幸なのは、茜の告白と、会長が秋穂に当てて送った恋文の時期がほとんど重なってしまったこと。
 いくつかの擦れ違いが決定的な誤解となり、姉妹の間には修復不可能な亀裂が入ってしまった。
 茜は、姉を理由に自分が振られたと思い込み、秋穂に対して深い憎しみを抱いたのである。 それまでも、姉妹二人だけの時には我が儘を言う事もあった茜だが、この事件以来その態度は決定的に変わってしまった。言葉の端々に生徒会長との関係を持ち出し、秋穂に理不尽な要求を繰り返すようになったのだ。
『いいなあ、お姉ちゃんは。先に生まれたからってだけで、わたしの分まで横取りしちゃうんだもんね』
 事情を知るに至って秋穂も罪悪感を覚えていたこともあり、最初の内はつい妹の要求を受け入れてしまったことで、事態に更なる拍車をかけた。茜の要求は日々エスカレートし、ついには理由なく、姉にイジメ同然の理不尽な行為を繰り返すようになったのである。
 そうなってからは、もう秋穂の抗議など受け入れられない。茜は姉が自分より優れているところがないのを確認するかのように、殊更に秋穂を貶めるような物言いを繰り返すようになった。
 そんな事が続いて、秋穂の心は知らず疲れきって、摩耗してしまっていたのかもしれない。
 ある日、秋穂は家のトイレの眼の前で間に合わずに『失敗』してしまうという事件が起きた。
 なんとも運の巡り合わせが悪かったとしか言いようがない。その日に限ってまるで図ったように様々な邪魔が入り、秋穂は放課後になってもトイレに入ることができないまま、家路につくことになった。途中のコンビニにも入りそこね、公園の公衆トイレはあろうことか故障中。家までもたないと、遠回りになるのを承知で飛び込んだデパートは、大売り出しで大行列。
 4時間以上も下腹部で暴れまわった尿意を必死になだめ、だましだましなんとか帰り着いた家で――悲劇は起きた。
 玄関に靴を脱ぎ棄て駆け込もうとしたトイレから、ちょうど茜が出てきたところだった。廊下で妹とはち合わせ、すれ違う――時間にしてもほんの数秒にも満たないわずかなロス。けれど、秒刻みのスケジュールで解放のカウントダウンを刻んでいた秋穂の下半身は突如の予定変更に対応しきれなかった。
 あとほんの数歩。トイレの目前、ドアノブを握りスカートの上から下着を押さえ込んだ状態、秋穂は我慢の限界を迎え、そのまま盛大に廊下を水浸しにしてしまったのである。
 茜はとても信じられないというように、冷たい目で秋穂を蔑み、後始末をしている姉を散々に罵った。いい歳をしての『おもらし』は、出来の悪い姉を疎む妹にとって、格好の攻撃材料だったのだ。
 そして目下、茜は秋穂の『トイレのしつけ』と称して、秋穂にトイレに行く事を禁止し、嫌がる姉をあちこち引き回す事を繰り返していた。





「ねえお姉ちゃん、せっかくお散歩にきたんだから、ぐずぐずしてないでちゃんと歩きなよ?」
「っ、あ、やだ、ひ、引っ張らないでっ……!! が、我慢できなくなっちゃうぅ…!!」
「あは。だから言ったじゃん。ねえ? そんなんで本当に夜まで我慢できるのって。これじゃ心配だなあ。明日から学校だよ? ちゃんと授業中も我慢できるのかなあ?」
 くすくすと、口の端を歪めて笑い、茜は秋穂を引きずるように歩き始める。もはや立っている事も難しい秋穂は、脚を動かすこともできず、ずりずりと地面を引きずられ、公園の土の上にはスニーカーの痕が延びてゆくばかりだ。
 茜は、明日からもこの『訓練』を続けるつもりらしい。いったいどうやって? どんな格好で? どんな無茶な事を? そんな想像は既に秋穂の思考の及ぶ範囲ではない。たった二日でもう憔悴しきってしまった秋穂は、なお高まり続ける尿意に耐えることで身体のほとんどの機能を使い果たし、既に力なく首を振るので精いっぱいだ。
「お姉ちゃん、会長さんの前でもそんなカッコでいるつもり? お姉ちゃんが恥ずかしい女の子なのは今に始まったことじゃないけどさ、そんなんじゃわたしまで恥かくんだよ? なんだったら会長さんにこのカッコ、写メっちゃおうか? うちのお姉ちゃんはこんなカッコでお外歩くのが大好きです♪ ってさ」
「…………っ」
 秋穂から取り上げた携帯をちらつかせ、囁く茜。
 そんなことできるわけがない、と思う一方で、茜ならやるかもしれないという恐怖はぬぐえない。妹が本気になった時、自分が抵抗する事など出来ないのを、秋穂は痛いほどに身をもって知っている。
 トイレの前でスカートの前を押さえて足踏みをしている写真(顔だけは写されずに済んだ)を送られた時には心臓が止まるかと思ったし、その後の弁解は生きた心地もしなかった。
「ねえ、聞いてる? お姉ちゃん。ちゃんとおうちまで我慢しなきゃ。……できないんなら『罰ゲーム』だよ?」
「んっ、んぅっ、くぅぅっ……」
 妹に囁かれ、秋穂は顔を赤くしながらばたばたと脚踏みを繰り返し、膝を交差させてなんとか崩壊寸前のダムを押しとどめようとする。
 しかしそんな行為すら、茜にしてみればルール違反だと言うのだった。
「ほらあ、クネクネするの禁止って言ったじゃない!! ちゃんとまっすぐ背伸ばして! 恥ずかしいトコ押さえるのもダメだからね!! ……はい、あと十秒ね! やめなかったら『罰ゲーム』追加だからね!」
「んっ、ぁ、ま、待って、っ、茜っ……」
「ふふっ……じゅう、きゅう、はーち、なーな、」
 理不尽にルールが変更される。慌てて反駁しようとする秋穂だが、無常にもカウントダウンは始まっていた。もはや二人の姉妹の間に対等な会話などない。秋穂は小さな暴君に振り回される、哀れな奴隷だった。
 ――『罰ゲーム』。
 その言葉に茜はおなかの奥に冷たいものを飲み込んだような怖気を感じる。
(っ……も、もう嫌!! い、今、あんなコトさせられたら……ほ、っ、本当に……あ、あれだけは、もう絶対に嫌っ……!!)
 いじらしくも妹の命令に従い、秋穂は茜の言う『ちゃんとした我慢』を実行しようと試みる。しかし、どれだけ頑張ったところで、秋穂の下腹部をぱんぱんに張り詰めさせた恥ずかしい液体がそれを許さない。すでに全身を使って我慢しなければ、耐える事も難しいほどの尿意なのだ。ゆっくりと様子を見ながら脚の付け根から手を離し、足踏みを止め、腰を伸ばしてまっすぐ立つ――それだけのことが、絶望的に難しい。
 はち切れんばかりに膨らんだ膀胱は、熱く焼けた砂を詰め込まれたようにずしりと重く、重力に引かれるままに乙女のダムの底に空いた穴から噴き出しそうになっている。圧迫された下腹部では猛烈な水圧が激しく渦巻き、絶えず波のように秋穂の『女の子』に襲いかかる。
 尿意の波を堪えようとオシッコの出口に力を籠めるたび、そこは鈍い痛みすら伴ってじんじんと痺れるほどだ。
「んぁあ……っ」
 我慢の辛さに一瞬気が緩み、それと同時に排泄孔が緩みかける。じゅじゅっ、と恥ずかしい音を響かせそうになる股間を思わず押さえてしまい、秋穂はさらに激しく身体をよじり合わせた。こんな有様で、動かずにじっと立っているなんてことができるはずもない。
「ろーく、ごーぉ、よーん……」
「ぁ、っあ、っ……ふ…ぁッ」
 手を離すどころか、脚の付け根に突っ込んだ両手の力を借りて、おしっこの出口を塞ぎ続けていなければならない。淡い色合いの下着はますます無残に引き延ばされ、クマのバックプリントは大きく皺を寄せて秋穂の太腿に食い込む。
「さぁーん、にぃーーーい、いぃーーーーーーち、」
 姉の様子を楽しむようにカウントダウンを引き伸ばし、茜は最後に、ぱん、と両手を打ち合わせた。
 まるで手品の掛け声のよう。しかし、マジックのようにその一言で、秋穂の尿意が嘘のように消え去るなんて事は、勿論ない。
「……ぜろ。あーあ、ダメじゃんお姉ちゃん。全然ちゃんとできてないよぉー? みっともないなあ、ちゃんとトイレのしつけもできてないお姉ちゃんがいて、恥ずかしーの私なんだからね?」
 滑稽な姉の姿を前に、茜は苦笑を隠そうともしなかった。そもそもわずか10回のカウントで、限界寸前の尿意の波を押さえ込むことなど出来る筈がないのだ。慎重に慎重に時間を費やし、タイミングを見極めて、数秒じっとしているのだけが精一杯。ましてこの寒空の下、シャツ1枚と下着だけの薄着では不可能でしかない。
「ふふっ」
「や、やだ、やめて!! 撮らないでぇっ」
 携帯のカメラを向けてシャッターを切る茜に、秋穂はかぼそい悲鳴を絞り出す。
 動揺は更なる尿意を誘う。カウントダウンが始まった時よりも激しく腰をくねらせ、足踏みを繰り返す秋穂の顔を、茜は口元を緩ませて覗き込む。
「あっれー? お姉ちゃん、ひょっとしてもうチビっちゃった? うふふっ」
「っ、そんな、こと、ないっ……」
「そぉかなー? さっきからすっごくオシッコしたそうだけど? 言ったよね? 漏らしちゃったらその格好で家まで帰るからね? あ、罰ゲームももちろんだよ?」
「で、出て、っ、でてないっ、ないから、ぁっ!! ちゃ、ちゃんと、我慢できてるもんっ」
 万が一にも、そんな事はあってはならなかった。ぶるぶると強く首を振り、秋穂は答える。少しでも気を抜いたら妹の言葉が真実になってしまう事は明白で、だからこそ、秋穂はそれだけは全力で回避しなければならない。
 唇をきつくかみしめ、秋穂は再度、妹にアピールする。
 まだ、漏らしていないから――トイレに行きたい、と。
「えー? ホント? お姉ちゃん嘘つきだもんなあ。信用できないなー」
「っ……そんな、嘘、なんか、じゃっ…」
「ふふっ、じゃあお姉ちゃん、見せて? いつもの確認ポーズ!!」
「ぁ、っ……」
 かあ、と秋穂の顔が赤くなる。こんな往来でそんな事を要求するなんて――妹の悪意に背筋が震える。が、ここで茜の了解を得なければ、遠からず押し寄せる尿意の前に屈してしまうのは明らかである。それはもはや時間の問題だった。
「……っ」
 羞恥を飲み込んで、秋穂は周囲を素早く確認し、シャツを掴んで持ち上げた。薄い布地がおヘソの下が辛うじて覗くくらいの位置になり、小刻みに震える秋穂の白いおなかが覗く。
「た、確かめて、ください、……で、出てないです、ぉ、オシッコして……して、ないです!! ぱ。ぱんつ、真っ白、です……!!」
 心持ち開き気味にしたクマさんパンツの股間を、示すように前に突き出す。
 妹に『オモラシしてないです』と示すための、定番のポーズだった。
 尿意に耐えかねて必死の行為とはいえ、秋穂自身も信じられないほどのみっともない姿だ。少しでも頭の中に冷静な部分が残っていたら、今すぐこの場で舌を噛んで死んでしまいたくなるほどに。
「ふーん……なんかよく見えないなあ。このへん濡れてる気もするし」
「っ……あ、汗だもんっ!! ……お、オモラシなんか、してないっ、ちゃ、ちゃんと、ガマンでき、てるっ……からっ!!」
 いつ誰が通りかかるとも知れない公園で、死にも勝る屈辱を強いられ、秋穂の羞恥心はズタズタだ。それでも一刻も早く許しを得るために。秋穂は茜に、下着を汚していないことを全力でアピールしなければならなかった。
「だ、だから、うく、ぅっ……お願い、お願い茜、お、おしっこさせて……!! ちゃ、ちゃんと、言われた通り、がまん、っ、してる……ううぅ……っ、はあはあ……っ、ちゃんと、茜の言うこと、聞くから、……お、おねがい、もうだめ、出ちゃうの、ぅあ……も、もう我慢できないからぁ……っ!! んぁあっ…・・今度こそ、ちゃ、ちゃんと、おしっこ…くぅ…おしっこ…させてよぉっ!!」
 鬼気迫る形相で訴える秋穂の切実な叫びが響く。
「…………」
「っ…………あ、茜。ッ」
 しかし、茜がしばしの沈黙の後に見せたのは、醜悪に唇を歪めた笑顔だった。
「ぷっ、あっはははは!! ひっどーい!! あっははははは!!」
 おなかを抱えて笑いだす茜に、秋穂はもはや言葉もない。
「あーっ、おっかしい!! ねえ、ねえねえ、お姉ちゃん、やめてよねーもう。お姉ちゃんてば今いくつなの? そんなクマさんパンツ見せてさ、『おしっこさせてー!!』って、本気で言ってるの? ちゃんと我慢もできないんだ? ほんとさあ、幼稚園じゃないんだからさあ……やめてよね、恥ずかしーなぁ」
「あ、茜……うぅっ!!」
 恥を忍んでの必死の訴えすら、茜にとっては姉をいたぶるための材料でしかない。しかしその妹に赦しを請わなければ、秋穂には排泄の自由すらないのだ。
(んぁあっ、でちゃう……でちゃううっ……!!)
 もはや確認ポーズもとっていられなくなり、いまにも限界を迎えそうな下腹部のダムをきつく押さえつけ、腰を揺すって、秋穂は懇願を繰り返す。
「ぉ、お願いっ……茜……ぉ、おし、おしっこ……っ」
「えー? ちょっとー、おうちまで我慢するって約束したでしょ? ホントにだらしないなあ、お姉ちゃんてば」
「っ……」
 脚の付け根から手を離す事もできず、秋穂は前屈みのまま縋りつくような上目遣いで、妹の顔を覗き込む。
 茜は口元を嗜虐的に歪ませると、くすくす微笑んだ。
「そうだなー……ど・う・し・よぉっかなー?」
「あ、あき、ほっ……」
 もったいぶって考え込むふりをする妹の言葉を、秋穂はただじっと待ち続けるほかない。じりじりと時間だけが過ぎてゆく。きゅうんっ、と張り詰めた下腹部が収縮し、ぱんぱんに膨らんだ膀胱の中身がたぷんっと揺れ動く。
「ねえ、お姉ちゃん、もうホントに我慢できないの?」
「っ、う、うんっ……」
「ホントにホント?」
「ほ、本当、っ、んあ……だ、だからっ……は、はやくっ……!!」
 妹の言葉に赦免の気配を感じ取り、秋穂は何度も、勢い込んで頷く。しかし、そんな秋穂を見下ろして、茜はさらに意地の悪い笑みを覗かせた。
「あ、ねえお姉ちゃん? 今さ、ひょっとしてオシッコできるって思った?」
「え……?」
 いきなり尋ねられ、秋穂は目を瞬かせる。
「だからさ、お姉ちゃん、いま、わたしが『オシッコしていいよ』って言ったらどうするつもりだったの?」
「ど、どうするっ、て、……っ、そ、そんなの決まって……」
「あーあー、ほらぁお姉ちゃん、恥ずかしいなあ。ちゃんと周り見なってば? ねえ、わかってる? この近くに、どっこにもトイレなんかないんだよ? それなのにさ、なんでこんなところでオシッコさせて欲しいなんて言っちゃうのかなぁー?」
「…………っ、そ、それ、は……っ」
 ようやく気付いた秋穂の顔は、耳まで朱に染まる。
 そう。茜の言葉の通り、この付近には一切、トイレ――オシッコのための設備など存在しないのだ。
 しかし暴虐に暴れ回る尿意に振り回され続け、『おしっこができる』という誘惑に支配されていた秋穂に、そんなことまで考えている余裕は残されていなかったのだ。茜が意図して、会話の流れをずらし、秋穂の要求を『トイレに行きたい』から『オシッコさせてほしい』にすり替えていたことにも、秋穂は気付けていなかった。
「ほら、教えてよ? お姉ちゃん、『どう』するつもりだったのかなー?」
 答えなど決まっている。が、とても思春期の少女が口にできるわけがなかった。秋穂は答えられずに、ますます顔を赤くして俯いてしまう。
「なに? ひょっとして考えてなかったのー? お姉ちゃんってば、そんなにオシッコしたかったんだ? ねえ? それともさ、オシッコできればどこでもよかったのかなあ? こんな誰かに見られちゃうようなトコロでも関係なかったの? お姉ちゃんだって、女の子でしょ? ひょっとしてさ、わたしがオッケーって言ったら、ここで、そのままパンツ脱いでオシッコ始めちゃう気だったの?」
「っ……やめっ、違うのっ……」
「えー? 違うの? 本当に? じゃあじゃあ、どうするつもりだったの? 教えてよぉ」
「っっ……」
 これが妹の手管なのだ。
 秋穂だって具体的にこの場で野外排泄を――野ションを始めてしまうつもりだった訳ではない。意識がわずかでも無かったかと言えば嘘になるかもしれないが、そんな事を考える余裕すらなかったというのが実際のところだ。
 その、わずかな罪悪感を茜は見逃さない。言葉尻を捕え、羞恥を煽り、あらゆる言葉に悪意をたっぷり塗して歪めてしまう。
 茜の容赦ない言葉に突き刺されるかのように、秋穂の下腹部は苦悶を叫ぶ。天性の素質とも言える嗜虐的な言葉が、膀胱を直接刺激されるような羞恥を呼び起こし、ますます秋穂の羞恥の源たる激しい尿意をなお一層沸騰させる。
 言いかえすこともできず、溢れ出しそうなオシッコを懸命に堪え、小刻みに脚を震わせながら身悶えする秋穂を、茜は嗜虐的な笑顔で見下ろしていた。
「ふふっ、黙ってるってことは図星なんだ? 一応言っておくけどさ、ダメだよぉ。お姉ちゃん。お姉ちゃんは分からないかもしれないけどさ、普通に考えて、女の子がこんな道端でおしっこなんて、許されるわけないじゃない? ……犬とか猫じゃないんだからさぁ。そんなこと、考えちゃうだけでもヘンタイだよね? ねえ、それくらい分かってよね? お姉ちゃんは私より『お姉ちゃん』なんだから。……せっかくわたしがお姉ちゃんの『トイレのしつけ』してあげてるんだからさあ」
 そうだ。秋穂は茜に隠し事などできるわけないのだ。
 姉妹ゆえか、秋穂の浅はかな考えなどなにもかも茜にはお見通しだった。一方の秋穂には、妹がその笑顔の奥でなにを企んでいるのかなどまるで見当もつかない。不公平極まる差別を産まれながらに強いた神様を秋穂は恨む。
「ねえ、それとも、お姉ちゃんはこんな誰かに見られちゃうようなトコロでオシッコしたいの? ひょっとして、シてるところいろんな人に見られたかったんだぁ? そう言えば、前に路地裏でオモラシした時も、すっごいいっぱいオシッコ出してたよねえ? 音で気づかれちゃうよって言ったのに全然止められないしさ。……あははっ、そっかぁ、お姉ちゃんってホントにヘンタイなんだねぇ」
「ち、違うわ、そんなのちがうっ……!!」
 そう言わなければ、この妹は本気で、雑踏溢れる往来、公衆の面前で秋穂に放尿を命じかねない。恐ろしい想像はなまじ杞憂とも言いきれず、秋穂は背筋に怖気を感じながら、声を荒げて言い返した。
「ふうぅん……じゃあさ、お姉ちゃん、別にいまここでオシッコしなくても平気なら、ちゃんと我慢できるよね? そんな、みっともない格好でモジモジしなくてもさ?」
「っ、で、でも、そ、それ、ぁ、あぁ、っ……」
 途切れることのない尿意はもはや全身を使った我慢でなければ耐えきれないほどに高まり続けている。いつ下着の奥に漏れ出した熱い雫がはしたない水音を響かせてもおかしくないほどだ。何かで股間を押さえておかなければダムの崩壊は確実で、何でもない風を装うことなど出来る筈がない。
「ほら、どうしたの? お姉ちゃん、できるよね?」
「っ…………」
「うふふ。ねえお姉ちゃん、知ってる? お姉ちゃんって実はひそかに人気あるんだよ? 会長さんのほかにも、わたしのクラスにも、お姉ちゃんのこと好きだって子、けっこうたくさん居るんだから。それなのに、実はお姉ちゃんって『トイレのしつけ』もできてない恥ずかしい子なんだよね」
「っ、や、やめ、……もうやめて、もう、赦して……っ」
 涙を滲ませ、首を振る秋穂。もはや全身に力が入らず、襲い来る尿意の前に身を丸めて息を殺すことしか出来ない。
 しかし茜は容赦なく、そんな姉に処刑の決定を下したのだった。
「はーい、じゃあそんな恥ずかしいお姉ちゃんには追加で『罰ゲーム』けってーい」
「っ、そんな、嫌……やめてぇ……」
 茜の言う『罰ゲーム』とは、秋穂が我慢を続けているこの状況で、さらなる水分の摂取を強制さられせることだった。しかも、飲まされるのは特に利尿効果の強いお茶やコーヒーに限られる。
 その量は茜の気紛れで変わるが、500mlよりも少なくなることはまずなかった。
 秋穂はお茶やコーヒーに含まれるカフェインにことさら敏感な体質だった。元々利尿作用のある物質だが、秋穂の場合はひとくち口にするだけで10分後には途端にトイレに行きたくなるような有様である。すでに我慢の限界に達しつつある状況で、秋穂にとってはほとんど利尿剤に等しいようなものを無理矢理、大量に飲まされるのだから、その効果は想像を絶する。
 今、まさに現在進行形で、すでに女の子のプライドをなかば犠牲にして激しい尿意を我慢し続けている秋穂にとって、猛烈な利尿作用と水分の摂取を命じる『罰ゲーム』は何よりも避けなければならないことだった。
「だーめ。あんまり聞き分けのないお姉ちゃんには、追加でもう1回『罰ゲーム』してもらうよ?」
「や、やだ……やだよぉ…っ」
 シャツの前を絞るように握り締め、秋穂は懇願する。2時間前にスポーツドリンクを飲まされただけでこの有様なのだ。この状況で紅茶やコーヒーなんか飲まされてしまったら、身体がそのままその場にしゃがみ込んでオシッコを始めてしまうかもしれない。
 茜に縋り付こうとする秋穂だが、おしっこを堪えたまま、太腿をくっつけ脚を交差させたへっぴり腰のよちよち歩きでは茜に付いてゆくのがやっとだ。
 その間にも腕組みをした茜はきょろきょろと周囲を確認し、思案を巡らせる。
 前回は、学校の水飲み場まで連れていかれて、無理やり蛇口に顔を押し付けられた。着せられていた体操服がびしょ濡れになるまで水を飲まされ、そのまま校内を歩きまわらされたのだ。肌寒い季節に濡れた服のままでの引き回しは、凄まじい速度で秋穂の膀胱に追加分のオシッコを注ぎ込んでいった。
 また今回も同じようなことをさせられるのか――もはや恐怖に声も出ない。
 やがて公園の一角に目を止めた茜は、これだとばかりに目を輝かせた。
「じゃあ、これにしよう、お姉ちゃん」
「え……?」
 茜が足を止めて指差したのは、路上の自動販売機だった。商品の入れ替えが進んでいないのか、もう回りは冬と言っていい季節だというのに、いまだに半分近くが「COLD」表示のドリンクが並んでいる。
「ほら。今日の『罰ゲーム』だよ。でも今回は特別にどれでもいいから好きなの選ばせてあげる」
「い、いいの……?」
「うんっ」
 予想外の言葉に、秋穂は恐る恐る聞き返してしまう。いつもなら茜は間違いなく一番量が多く、利尿作用の強い500mlの緑茶か紅茶、コーヒー飲料のペットボトルを問答無用で指定してくるのだ。
 だが、今日はそれを秋穂自身が選んでいいという。
 秋穂は思わぬ采配に胸中で喝采を上げていた。一番小さな缶飲料なら、容量はペットボトルの半分以下だ。しかも直接おなかを冷やす原因となって響かないだろう『HOT』を選べば、いくらか尿意を和らげることができるかもしれない。可能なら、水分も少なそうな――ココアかポタージュのような食品に近いものであれば――
「はい! 今日はさらに大サービス!! 特典で、全部飲んだらおしっこしてもいいよ?」
「ほ、本当っ!?」
「あはっ。……なぁにその嬉しそうな顔? やっぱりそんなにオシッコ出したかったんだ? もぉ、さっきからオシッコのことだけしか考えてないんだね? ヘンタイお・ね・え・ちゃ・ん?」
 一瞬の油断に緩んだ秋穂の警戒を潜って、茜の言葉が深々と心に突き刺さる。
 ことさら年上であることを強調するように呼びかける茜に、秋穂は繊細な羞恥心を踏みにじられてゆく。だが、それでも今は、『罰ゲーム』の恐怖から逃れられたことへの安堵の方が大きかった。
 茜の煽りに耐えながらも、秋穂の視線は自販機の右下、『HOT』表示のココアに釘付けになっていた。
「ふふっ……もぉ、しょーがないなぁ、お姉ちゃんは。おトイレのしつけもできてないんだから。……でもいいよ、わたしとっても優しいから、許してあげる。ほらお姉ちゃん、『罰ゲーム』選んだらオシッコしてもいいよ?」
「っ……じゃ、じゃあ……っ」
「た・だ・し!」
 赦免の気配に自販機に飛び付きそうになった秋穂の鼻先に、茜はピンと立てた指を押し付けた。
「ご褒美のオシッコも、それにするコト。いい?」
「え……?」
 妹の言葉の意味が分からず、秋穂はぽかんと口をあけ、思わず聞き返してしまう。
「え、っと……そ、それって……」
 茜はそんな姉の呆けた表情がたまらなく可笑しいようで、くすくすと笑って、自販機を軽く叩いた。
「だからあ、お姉ちゃんが飲んで空っぽにしたジュースの入れ物が、お姉ちゃんの『専用トイレ』ってこと!! ちゃんと飲んだ分だけおしっこ出していいよって言ってるの!! ふふ、簡単だよね? まさか、お姉ちゃんって、飲んだジュースの分よりもいっぱいオシッコ出しちゃうなんてこと、ないもんねえ?」
 悪魔のような宣言だった。
「あ、もちろん私の見てる前でおしっこするんだよ? わたしがちゃんと見張ってないと、お姉ちゃんズルするかもしれないからね♪」
「っ………」
 喉が嫌な音を立てて引きつるのを、秋穂は自覚していた。もはや言葉も出てこない。妹の底知れない悪意は、すでに秋穂の想像をはるかに超えていた。
「それと、今特別におしっこさせてあげるんだから、これが済んだらもう明日までトイレは禁止だよ? お姉ちゃんのおトイレって一日一回って決まってるもんね。2回目なんだから当然だよね? あー、私ってば優しいなあ」
 残酷な言葉で、茜は巧みに、姉の逃げ場を封じてゆく。
 動けなくなってしまった秋穂を見下ろし、茜はくすりと口元を歪め、
「ほら、どれがイイの? お姉ちゃん? はやく選んで?」
「っ……」
「ほらあ、どうしたの? はやくトイレしたいんでしょ? あはははっ」
 自販機に並ぶ飲料を前に、茜は黙りこくってしまった姉に意地悪く問いかける。ずき、と鈍く下腹部が重い痛みを繰り返し、硬く閉ざした出口がひくひくと収縮を始める。
(っ、あ、あっあ……っ)
 乙女のダムの崩壊の予兆が始まっていた。もう一歩も動けないまま、秋穂は自販機を睨み付ける。
 ――飲んでしまったあとのことを考えれば、一番小さな150ml缶を選ぶのが一番だ。まだ今日は6時間以上残っている上、明日も同じように、トイレを自由にさせてはもらえないことは確実だった。
 だからこれ以上下腹部に負担を駆けるわけにはいかず、少しでも摂取する水分は少ない方がいい。それは秋穂も理解している。
 しかし、同時に秋穂が選んだ『罰ゲーム』の飲料は、そのまま秋穂の出せるおしっこの量に繋がるのだ。
 本来、普通に考えて、茜の迫っているのは選択肢になりえない選択だ。どんなことがあろうと、こんな場所で――飲料の入れ物にオシッコを済ませるなんて、女の子としてあり得ない。一番小さな缶飲料を選んで飲み、あとはなんとか、トイレを我慢するしかない。
 だが、半日以上にも及ぶ言葉責めと羞恥の中で限界まで追い込まれた少女は、乙女の羞恥などを度外視して、荒れ狂う排泄欲求のままに従う選択を強いられていた。今すぐ出したい。おしっこがしたい。本能のもたらす欲求が、少女の決断を躊躇わせ、目の前の誘惑を振りきれない。
(んぁあ……っ)
 秋穂はそっと下腹に手をやって、おなかの張り具合を確かめる。
 少女としてのプライドは否定するものの、常識的に考えれば朝からずっとガマンさせられ続けたおしっこが、あのHOTの小さな缶に全部おさまるとはとても思えない。
「…っ……こ、これ……っ」
 長い、長い、長い逡巡の末、秋穂はずらっと並ぶペットボトルの一番右上、夏の名残りのままであろう「増量中・600ml」と書かれたペットボトルのミネラルウォーターを指差した。
 指差さずには、居られなかったのだ。
「へぇ……お姉ちゃん、これでいいの? こんなに?」
「っ……ち、違うの、言わないでっ」
 赤くなった顔を伏せ、必死にかぶりを振る秋穂に、茜はぴたりと身体を寄せてくる。
「あは。ねえ? お姉ちゃん、こんなにいっぱいおしっこ出したいの? 600mlだよ? ろっぴゃくみりりっとる。1Lの半分よりも多いんだよ? そんなにおしっこしたいの? ねえ、そんなにいっぱい、おしっこおなかのナカに溜めちゃって、恥ずかしくないの?」
「や、やめ、触っちゃダメぇ!!!」
 やわやわと、妹の手が秋穂の下腹部へと伸びた。必死にシャツの上から股間を押さえる秋穂の腕の隙間を抜け、妹の手のひらがか細い抵抗の上から秋穂の下腹部を押し込む。
「ふぁああ!?」
 やわやわと、絶妙な力加減で下腹部を揉みほぐされ、秋穂は悲鳴を上げてしまった。緊張と水分で張り詰め、伸び切った膀胱を直接刺激され、身体の一番底の水門が高まる水圧に押し開かれようとしてしまう。
「ぅあ……っあくっ、あ、っ、あッ……」
 だらしなく開いた口ではあはあと息を荒げ、背中を丸め、脚の付け根に挟んだ両の掌を思い切り持ち上げて、股間の前からお尻の後ろまでを引っ張り上げる。シャツが引き伸ばされ、お尻は丸見え、引き伸ばされた下着の股布が少女の股間に食い込んで、きわどい位置まで見えそうになる。
 何を選んだところで――こんな風に羞恥をえぐられる言葉をぶつけられるのは決まっていたのだ。もし小さなコーヒー缶を選択していても、利尿作用のある物を飲んで、すぐにお漏らししたいのかなどと無茶苦茶な理屈をぶつけられていたに違いない。
 しかし、更なる理不尽を強いられることを承知で、秋穂は懇願を繰り返すしかなかった。
「お、おねがい、はや、く……っ」
「はやく? 『はやく』どうしたいの? ねえ、お姉ちゃん、はやく『ナニを』したいの? ねえ、わたし馬鹿だから、ちゃんと言ってくれないとわかんないなぁ♪」
「っ……おね、がい……茜……!! オシッコ、したいの、は、はやく、それ……飲ませて……っ」
「あはははっ……お姉ちゃん、サイッテーだね。オシッコしたいからこれ買うんだ? これに、600mlもオシッコしたいから、このミネラルウォーター買っちゃうんだ? ふふ、ジュース会社の人とか聞いたら怒るだろうなあ♪」
「あ、茜ぇッ……」
「うふふっ、わかったよぉ」
 茜はちろと舌を出して見せると、ポケットの財布から硬貨を取り出し、自販機のボタンを押しこむ。
 がこん、と重い音を立てて落ちてきたペットボトル。内容量600ml、この時期にありえないくらいにきんきんに冷えたミネラルウォーターを、秋穂はひったくるようにして奪い取り、蓋をあけると一気に口を付けて飲み始めた。
「んんっ、んぅ、っっ………」
 がぼがぼと、まるで水責めにあっているかのように――飲み口を咥えこんだ唇から、ミネラルウォーターがこぼれおちる。Tシャツの胸元にジワリと染みが広がり、少女の肌を濡れ透けさせる。
 それでも、恐ろしいまでの勢いで大量の水分があっというまに秋穂の喉奥に流し込まれてゆく。
 喉が渇いているのは嘘ではない。延々責め嬲られていたせいで、口の中はカラカラだった。冷たいミネラルウォーターが、火照った喉を胃の奥を冷やしてゆく。
 飲料ではなくミネラルウォーターを指定したのは、少しでも利尿作用のないものを選ぶことで、飲んだ分がおしっこに変わらないようにという、いじましい考えだ。たとえ飲む量が同じだとしても、膀胱に負担がかからないほうを選ばなければいけなかった。
「っ……は、っ、はぁ、はあっ」
「わー……すごーい」
 秋穂の形相にしばらく呆気にとられていた茜が、目を丸くして賞賛の声を上げる。
 それも道理で、夏にマラソンをした直後でも、こんな勢いでは飲めないかもしれない。咳き込みながらもあっという間にペットボトルを空にした秋穂を、ぱちぱち、と妹が拍手で出迎えてくれた。
「お姉ちゃんそんなに喉渇いてたんだ? ふふ、じゃあもう一本くらい飲めちゃうよね?」
「ま、待って!! いいから、だ、大丈夫、だからっ!!」
 茜が自販機のボタンに手を伸ばそうとするのを、秋穂は慌てて制止した。
 妹はえぇーーっと口を尖らせる。
 じんじんと鈍いほどに痛む下腹部の尿意が、これ以上水分を口に入れてはならないと警告している。必死になって食い下がる秋穂に、茜はなおにやにやと意地の悪い笑顔を崩さない。
 そう。本番は、これからなのだ。
「うふふ、お姉ちゃん凄いなあ。こんなにいっぱい、これからオシッコ出しちゃうんでしょ?」
 空っぽになったペットボトルを示し、茜がくすくすと笑みをこぼす。600mlの内容量は、普通に考えて十分すぎるほどの『大容量』だ。しかし――本当にこれに全部、秋穂が我慢しているオシッコが納まるのか。
 いくら否定しようと不安になってしまうほど、秋穂の尿意は壮絶だ。
(ち、違うもん、い、いくらなんでも、こんなにいっぱい、オシッコなんかしない……っ)
 精一杯の否定も、どこか空々しいものだ。
 ペットボトルにオシッコを済ませる――およそ、思春期の少女に許されるような行いではない。秋穂も携帯トイレというものの存在こそ知っていたが、これまでに使った経験などないし、これからもまず使うことはないだろうと思っていた。
 多くの少女がそうと認めるように、秋穂にとっても、オシッコというのはきちんと整備されたトイレ――オシッコのための便器と、トイレットペーパーと、周囲の視線を隠す個室の壁や、鍵のかかるドア。その他もろもろの設備をひっくるめて、オシッコのための設備でこそ、なされるべきであり。
 断じて、こんなものに済ませるようなものではないのである。
「あははっ、お姉ちゃん、ほら、おなかぱんぱんだね? これ全部オシッコなの? 恥ずかしーなあ、こんなにオシッコ我慢しちゃってさあ」
 自分でさせておきながら、茜はそれがまるで女の子失格であるかのように秋穂をなじる。理不尽極まりないいちゃもんだが、秋穂にはそれに抗う余裕がないのだ。
 秋穂が身につけているのは、上は薄いTシャツ1枚、下はクマさんプリントの子供ぱんつである。ただ下着を下ろすだけで、排泄の準備は全て整う。
 そのギリギリの状況で、薄いたった1枚の布地が、秋穂の少女としてプライドを辛うじて繋ぎ止める命綱だった。秋穂のオシッコはこの薄い股布一枚で塞き止められていると言っても過言ではない。
「うふふっ、ほら……お姉ちゃん、我慢しないでいっぱい出してイイんだよ?」
「あっ、ダメ、ダメぇえ……!!」
「なんで? オシッコしたいんでしょ? ほら、出していいよ? 私、ちゃんといいって言ったもんね。私はさ、お姉ちゃんとし違ってちゃんと約束は守るよ? ね? ほらあ、お姉ちゃん?」
「だっ、だめ!! やめてえ!! っああ、こ、こんなトコでっ……で、できなっ……はあはあ……ちゃ、ちゃんと、おトイレ……トイレっ、ここじゃ、嫌なのぉ」
「うふふ。もうとっくに漏れてると思うけどなぁ?」
 既に秋穂の心は擦り切れる寸前で、冷静な判断力など残っていない。まともに歩くこともできないのは十分すぎるくらいに理解していた。けれども。
 どんなに許可をされたからって、どれだけ余裕がなくたって、身を隠す物陰すらない、公園のど真ん中で――こんな四方八方から丸見えの場所で、脚の付け根に直接、ペットボトルの飲み口を当てがってオシッコをするなんて、できるわけがない。
「お、おねがい、……秋穂っ、と、トイレ……おトイレ……!!」
「えー? さっきここでもいいって言ってたじゃない? ほら、おねえちゃんだってそんな所にしゃがんじゃってさ、そこでしちゃいなよ? お姉ちゃんが公園の真ん中でオシッコするとこ、いーーーっぱい撮ってあげるから」
「言ってな……ぁあああっ……んぅ、ぁあっ……やめ、ひゃめて、ぇ……ッ、」
 否定の言葉も喘ぎにまみれ、体を成さなかった。一時も収まらない猛烈な排泄衝動に屈しかけた膝は折れ、欲望に正直な少女の身体は、立てた靴のかかとに下着の股間を直接押し付け、体重をかけぐりぐりと水門を押し当てて、必死の抵抗を繰り返す。しかしそんな秋穂の涙ぐましい努力も虚しく、既に下着の股布部分には、じわりじわりと湿り気が滲みだしているようだった。
 そんな秋穂を見降ろして、茜は唇に指を添え、くすくすと笑う。
「ふふっ、ずーっとオアズケされちゃって、すっごい辛そうだね……ねえ、お姉ちゃん?」
「っ、おねがい、お願いっ、あ、茜、っ、はやく、はやく、トイレぇ……っ」
「あっははは。ふふ、……そうだよねえ、いいかげん我慢させつづけてかわいそうだし」
 くすり。茜は秋穂の手を掴むと強引に引っ張り上げた。全身全霊で尿意我慢の体勢に入り、オシッコを堰きとめていた状態を崩されて秋穂はあああっと悲鳴を上げるが、茜はまるで意に介さない。
「あ、茜っ……も、もっとゆっくりっ」
「うるさいなあ。ちゃんと付いてきなよ」
 姉妹とは思えぬ力で秋穂の手を引っ張り、茜はどんどん歩きはじめる。覚束ない足取りの秋穂ではそれについていくことは不可能だった。残ったもう一方の手で下着の前を掴み、ぐいいいいっと思い切り引っ張り上げ、引きずられるようにしながら後を付いてゆく。もはやオシッコを我慢する以外に役に立たない脚、ぴったりと隙間なく寄せ合わされた太腿の奥に、靴底が地面を滑る衝撃が走る。
 じゅっ、じゅぅっ、と麻痺しかけた脚の付け根の水門で断続的に恥ずかしい水音が繰り返され、きつく引っ張り上げた股布にじわりじわりと染みが拡がってゆく。
「ぅあ、くぅあうぅっっ。……ッ」
 水門が緩むたびに途方もない解放感が背筋をはいのぼり、じんじんと甘い痺れが恥骨の上を走り抜ける。長時間の我慢で酷使された括約筋が、果てしない労役からの解放に完成を上げ、内部からの水圧にぷくりぷくりと膨らみ押しあがる排泄孔が激しくヒク付いた。
 もはや理性でもプライドでもなく、少女の本能で、秋穂はまなじりを下げ、歯を食いしばって耐える。最後の崩壊だけは少しでも先延ばししようと、健気に無謀な我慢を続ける姉に、時折振り返る茜は、秋穂の醜態を見て満足そうに口の端を持ち上げていた。
「はい、到着っ」
 永遠にも思える時間の後、不意に手を引く秋穂の足が止まる。
 ――脚が痺れ、指先の感覚が無くなり、頭が白く、思考が飛び飛びに――太腿に伝う水流は幾筋にも増え、下着の大半、お尻のクマさんバックプリントまで黄色く染まり始めたあられもない姿。
 気付けば秋穂の前には、小さなレンガ造りの建物があった。
 見間違えようはずもない。二つ並んだ入り口には、赤と青で女性と男性を示すマークが配置されている。
 公衆トイレ――
 秋穂が切望し、訴え続けた場所、地獄の責め苦のような尿意から解放を許される楽園が、目の前にあった。
「あ、茜……っ」
「もお、お姉ちゃんがトイレトイレってうるさいから、連れてきてあげたんだよ? 感謝して欲しいなあ。……あのままじゃあそこで動けなくなって、オモラシしちゃってたでしょ?」
 少し拗ねたような茜の声。妹がついに絆されて、許してくれたのだ――秋穂はそう思い、茜の方を振り返る。
 しかし、茜の顔には、これまで見たこともないような、極上の笑顔が貼り付けられていた。
「はい、じゃあお姉ちゃん、いってらっしゃい」
 茜は秋穂の背中に回り込み、レンガ造りの入り口へとぐいぐいとその身体を押してゆく。しかし――
「え、あ、茜、っ、ちが――っ」
「違わないよ、お姉ちゃん」
 茜が秋穂の背中を押し向かう先は、女性用のトイレの隣。青いマークを記された入り口だ。
「このトイレなら使ってもいいって言ってるんだよ♪」
「え……」
 あまりの事に一瞬、思考が理解を拒む。
 男性用トイレ――茜は、秋穂をそこへ押し込めようとしているのだった。事情を察知し、秋穂は悲鳴を上げた。
「や、やだっ、ち、ちがう!! わ、私は隣……っ」
「ほらあ、おねえちゃん、トイレ行ってイイんだよ? スキなだけオシッコしてきて?」
「んぅ、ふぁぁあああ!?」
 踏ん張ろうとした脚が、思わずもつれる。茜が背中から回した手でぐいぐいと秋穂の下腹部を押し揉んだのだ。猛烈な尿意の波が押し寄せ、秋穂は抵抗すらできなくなった。じゅじゅじゅうっ、とこれまでにない激しい水漏れが起き、少女のクマさんパンツが無惨に色を変えてゆく。
「どうしたの? せっかく私がトイレ行ってイイよって言ってるのに。お姉ちゃん、オシッコしたくなくなったの?」
「っあ、ち、ちが、っや、やだ、こっち、男のヒトのッ……!! み、見られちゃ、ッ……、そ、それに、あんなところで、ぉ、オシッコなんか、できなぃよぉ……!!」
 男性用トイレの入り口が迫る。幸いにしてまだ人影は見当たらなかったが――壁に並んだ小用便器が眼に入り、秋穂は反射的に拒絶を叫んでいた。
 意地悪く微笑む茜に、秋穂は混乱の中、腰をくねらせ激しく暴れた。だが秋穂が必死に足掻こうとも、疲労困憊の少女の身体では全ての動作は弱々しく、茜の前では成す術をもたない。
「えー? うっそだあ。お姉ちゃん、あっちだってちゃんとオシッコできるでしょお? ほら、この前だってちゃんと、立ったままオシッコ出来たじゃない。うふふっ」
 残酷な茜の宣言と共に、市民温水プールのシャワールームに連れ込まれて立ったまま放尿を強制されたトラウマが蘇る。水着を裸に剥かれ、左右に利用者が居るにもかかわらず、茜に下腹部をいじくられ、排水口のある壁めがけ猛烈な羞恥の噴水を噴射させてしまったのは、秋穂にとって深層心理まで刻まれた悪夢のような現実だった。
「や、やだああ!! やだ、っやだあ!!」
 男子トイレの入り口に捕まって、秋穂は最後の抵抗をする。Tシャツに下着一枚で、異性のトイレの入り口で暴れること自体が、即座に注視の的となり、場合によっては人を呼ばれてしまいかねない異様なものであったが――それはもはや、絶体絶命の秋穂にとってどうでもいいことだった。秋穂の望みはただただ、ちゃんとオシッコがしたい、それだけだ。
 その必死の足掻きにぐいと押し戻され、茜ははあーと大げさに溜息をついてみせた。
「ホンっトーに我がままばっかりだよねえ、お姉ちゃんはさ。アレも嫌これも嫌って、じゃあどうするの? もういいからそこでそのままオモラシしなよ」
「っ、やあ、やああ!! やめて!! やめてお願い、撮らないでっ、おねがいい!!」
 男性用トイレの前でしゃがみ込んでしまった秋穂に、無情にも携帯のレンズが向けられる。フラッシュと共に数枚シャッターが切られた。
 生徒会長へのメールアドレスは短縮に登録済みだ。いつこの姿が転送されてしまってもおかしくない。じゅっ。じゅううぅと脚の付け根に新しく水流が溢れ、駄々っ子のように首を振り、秋穂は声を絞り出した。茜はなおも携帯を操作し、秋穂の痴態を携帯のカメラに収めてゆく。
「あっあ……っ」
 脚は力を失い、がくがくと震え、立ち上がることもままならない。身体の内外から激しい尿意と羞恥に延々と嬲られ続け、すぐ隣にあるはずの女性用トイレの個室まで駆け込む余裕もなく、秋穂は身動き一つ取れない状態だった。
 もはや希望の欠片すら残されていないそんな彼女の手に、ぐい、と空のペットボトルが押し付けられる。見ればさっき中身を飲みほしたばかりの600mlのボトルだ。
「じゃ、ちゃんと『罰ゲーム』ね。いい?」
「っ……」
「分かったの、お姉ちゃん?」
 出来の悪い小さな子に言い聞かせるかのように、強く叱責され――秋穂はがくがくと首肯した。
「わ、わかっ、わかりましたっ……だ、だから、お願い、撮らないで、っ、お願いっ」
「ふふ。どうしよっかなあ? 会長さんだってコイビトに隠し事されちゃうの、嫌だよねえ。それに、お姉ちゃんがこんなカッコしてるの見たら、興奮しちゃうかもよ?」
「あ、茜えっ!!」
 この期に及んで絶妙に乙女の羞恥を探り出し、辛辣な言葉で嬲ろうとする妹に、秋穂は涙を滲ませて哀れに懇願する。姉の威厳どころか、少女としての尊厳すら許されない姿だった。
「わかったよ。写真は止めてあげる。……ちゃんとココにオシッコ、するんだよ? これがお姉ちゃんの専用のおトイレなんだから。お粗相しちゃったらまた『罰ゲーム』だからね?」
「っ……」
 茜は念入りに言い聞かせるように囁き、秋穂の手に握らせたペットボトルの飲み口を握り、次いで湿った下着の股布に指を引っ掛け、『ぐいっ』と真横にずらす。
 秘めやかに隠されているべき乙女の秘所と共に、秋穂の排泄孔があらわになった。長い長いガマンを強いられ、さらになんどもなんどもおチビリを強いられて、秋穂のそこはお世辞にも慎ましやかとは呼べない有様になっていた。
 これまで辛うじて、脚の付け根を覆ってくれていた布を失い、もはや秋穂の排泄孔を何も遮るものは無くなった。わずかな布一枚、けれど頑強で強靭な堰を失って、少女の身体は瞬く間に激しい水圧を湧き上がらせる。
「ぉ、お願いッ、ぁ、あっはやく、早くそれ、それにさせて、オシッコさせてぇ!!」
 さっきの『罰ゲーム』からおおよそ10分余り。限界寸前の尿意と、鋭敏に高められた排泄器官は摂取した水分に過剰反応し、少女の下腹部でぱんぱんに伸び切った膀胱が激しく震え、収縮をぜんと脈動した。おなかの中を直接絞り上げられるような猛烈な尿意が一気に押し寄せる。
 少女の股はぷちゅ、ぷちゅる、と断続的にオシッコを滴らせ、剥き出しになった排泄孔がぷくりと大きくヒク付く。脚の付け根をねじ込むように抑え腰を振りたてながら、秋穂は茜にねだった。
「ふふ、じゃあどうぞ、お姉ちゃん」
 茜はぱっと手を離し、秋穂の手を解放した。秋穂はもはや躊躇うことなく、ペットボトルの口をそっと秋穂の股間に押し当てる。
 丸い小さな飲み口が、排泄孔にぴったりと押し当てられるのとほぼ同時途端、少女の股間が爆発したように凄まじい水流を噴き上げた。水を詰め込んだ風船を破裂させたかのように、激しい水音が弾け、秋穂のオシッコが始まる。
 小さな飲み口には収まりきるとも思えない、野太く猛烈な噴出――ペットボトルの内側を直撃する黄色い水流が、激しい泡をたてて透明な容器の底に溜まってゆく――

 その、直後。

「――あ、お姉ちゃん。トイレ、誰か出てくるよ?」
 あっけらかんと、茜が背後を指差して告げた致命的な一言に、秋穂は背筋を凍りつかせた。全身に緊張を漲らせ、泡立つ背中がびきりと硬直する。慌てて後ろを見ようとするが、足がもつれ上手くいかない。
「う、嘘っ、だ、誰も居ないって言ってっ……」
「ごめーん、見落としちゃったのかなあ」
 くすくすと笑う茜。目の前で痴態を繰り広げているのは実の姉だというのに、まるで関係なしとばかりの他人事だ。
「あは。見られちゃうねえ。お姉ちゃんこんな所で、ペットボトルにオシッコしてるトコ」
 秋穂のすぐ背後で、物音が響いた。個室のドアを開け、水を流し、洗面台に寄って外に出てこようとする、大きな革靴の足音。
 或いは――それはすべて、限界寸前からの尿意から解放され、耳鳴り激しい秋穂の幻聴だったかもしれない。だがそれらの真偽を確認している事などできなかった。
(み、見ら、れ、ちゃ)
 逃げなければ。秋穂は反射的に行動を起こしていた。しゃがみ込んだ姿勢のまま、ずりずりと脚を引きずって、懸命に公衆トイレの建物を回り込み、入り口から視覚になる場所へ――身体を引っ張り込む。クマさんパンツの股布を真横にずらし、そこに600mlのペットボトルを押し当てて、ガニ股姿勢で必死に急ぐ秋穂の股間から、ぶじゅじゅじゅううっと猛烈なオシッコは噴き出し続けていた。無理な体制でそれらが全部ペットボトルの小さな飲み口に納まる筈もなく、あふれたオシッコは秋穂の手にぶつかり、地面に飛び散り、撒き散らされ、公衆トイレ前の床のコンクリートを、むき出しの地面を激しく濡らす。
「っ、は、はあっ、はあっ」
 オシッコをペットボトルに排泄しながらの旅路はおおよそ10m弱ほど。がくがくと腰を震わせ、回り込んだ公衆トイレの壁に背中を預け、秋穂は激しく息を荒げた。
 もはや手指に感覚は無く、透明な容器の飲み口に押し当てられた排泄孔が噴き上げる猛烈な水流がボトルの中に注ぎ込まれる。たった10分前までは清涼なミネラルウォーターに満たされていたペットボトルは、泡立つ黄色いオシッコでみるみる一杯になってゆく。
 秋穂の意識は薄れ、周りの何もかもがぼんやりと遠い。何もかも忘れて思いっきりオシッコをしたい――その望みのまま、乙女のダムは水門を全開にして放水を続ける。トイレのすぐ横で、本来はちゃんと個室の、白い陶器の中へと注がれるべきはずの乙女の恥水は、600mlの妖忌の中へと噴き出し、水面を激しく叩いて暴れ、少女の指にずしりと重く圧し掛かる。
 恥ずかしいオシッコがペットボトルの壁に跳ね、自分自身の作りだした水面を叩いて響かせる音だけが秋穂の意識を埋め尽くしてゆく。
「あははっ、…ほら、もういっぱいになっちゃうよ?」
 くすり、茜の声に秋穂は顔を上げ――凍りついた。
 茜はじっと、携帯カメラを構え、こちらに――ペットボトルにオシッコをしている自分を余すところなく捕えんばかりに、レンズを向けているのだ。
「お姉ちゃん、さっき飲んじゃった分までぜんぶおしっこにしちゃってるんじゃない? お姉ちゃんってば恥ずかしいなぁ。こんなにいっぱいオシッコ出しちゃうなんて、みっともないカラダしてるんだねえ♪」
「や、あ、茜っ、しゃ、写真、とらないってっ……、や、約束した、のにッ!!」
「えー?」
 惚ける茜に、秋穂はせめて視界だけは遮ろうとシャツを引っ張ろうとした。しゅうしゅうと激しく止まらないおしっこは小さな口にはおさまりきらず、秋穂のおしりを回ってぽたぽたとこぼれる。飛沫は容赦なく秋穂の肌を、白いシャツをも汚してゆく。
 そんな中。茜はくすりと微笑む。
「やだなあお姉ちゃん、嘘なんかついてないよ。これ、動画だから」
「――――ッッ!?」
 慌てて身をよじろうとする秋穂だが、茜は巧みのその先を回り込み、秋穂が飲み口に押し付けたオシッコの出口を、ほんのりと色付いた女の子の大事な場所を、慎ましやかな秋穂の肢体とは対照的に、豪快に猛烈なオシッコを噴き出させるその瞬間をレンズに収めていた。
 絶対に露わにしてはならないはずの乙女の部位を、カメラに収められる恐怖に、羞恥に、秋穂は気が遠くなる。
「や、やだっ、やだあ!! だ、め、撮らないで、撮らないでええ!!」
 身悶えしながらわめく秋穂だが、茜のレンズから逃れることはできない。カメラ越しにじっと姉の痴態を見降ろし、「いいよいいよー」と監督気取りだ。無機質な携帯のレンズが、得体の知れない大勢の視線に見え、秋穂は強張った顎で歯を軋らせる。
 妹の手で羞恥の姿を暴かれ、秋穂は絶望の中、最後に残された、たったひとつだけ出来る抵抗を試みる。
「ふぅぅ、ぅ、くあぁあっあ……んぁう……ッ」
 苦悶の声。激しい喘ぎ。ぶしゅぶしゅと吹き上がる水流に躊躇い無く手を押し当て、ぐいっと握り締め――太腿を震わせ、腰をくねらせ、ありったけの力を振り絞って、女の子の部位に力を込め、括約筋を引き絞る。
 そう。
 出始めたオシッコを、途中で止めたのだ。
「ぅ、く、あぁああ……っ」
 尋常ではない精神力で、秋穂はそれを実行した。
 排泄は、不随意筋である腹筋の一部に起因する膀胱の収縮による圧力で行われる。要するにぱんぱんに膨らんだ風船と同じだ。出口を離せば、中身は空になるまで出続ける。
 通常、一度排泄を始めてしまったオシッコは、中身を全部絞り出すまで収まらないそれは尿道が短く、排泄孔と膀胱までの距離が短く、括約筋も男性に比べれば未発達なことが多い少女であればなお顕著であった。
 女の子が、限界まで膨らんだ尿意の中、出し始めたオシッコを途中で止めるなど、奇跡に近いのである。
 しかし、秋穂は、まさに排泄が本格的に始まった、本当の勢いで噴き出し続けている奔流のごときオシッコを堰き止めるという荒業を、本当に実行したのだった。
「はあ、はあっ、はああっ……うぅうっ……」
 ぜいぜいと肩を荒げ、大きく下腹部をうねらせる。ひく、ひくと赤く充血した乙女の部位が震え、排泄孔がヒク付く。股間はまだ小刻みに震え、ぐっしょりと湿ったクマさんパンツからは身動ぎのたびに新鮮なオシッコの雫が垂れ落ちる。
 しかし。ぶじゅ、じゅうじゅっ、と断続的な噴出は続いているものの、先程までペットボトルの中にぶちまけられていた野太い水流は停まっていた。ダムの放水を力づくで押さえ込んだようなものだ。秋穂の下半身には凄まじい負担がかかり、力を使い果たしてがっくりとその場に膝をつく。
「ぅあ……はぅっ、くうぅ……ッ」
 わずかな――ほんの十数秒といった時間で、秋穂の握り締めるペットボトルの内部は、6割方が少女のオシッコに占領されていた。単純計算で360ml。外にこぼしたり溢れた分を考えれば400ml強のオシッコがほんの10秒余りで噴射されたはずだが、なお秋穂の膀胱は硬く張りつめ、激しい排泄欲求を訴えていた。
 むしろ、中途半端にオシッコをしてしまった分だけ、収縮を始めた膀胱は秋穂の状態などお構いなしにオシッコを出そうと激しく暴れ、身をよじって恥ずかしい熱湯を噴きだそうとする。
「ぁ、ああっあ……」
 半分だけ膀胱が縮んだことで、中途半端な排泄欲求は最後まで欲望を吐き出させろとわめき、閉じ込められたオシッコはぐつぐつと濃い尿意を煮詰め、激しく沸騰する。今度こそ完全に行き場のなくなった尿意を抱え、秋穂は口をパクパクと開閉させ、熱い喘ぎを漏らした。
 はしたなくも脚を擦り合わせる様子で一目瞭然。猛烈な尿意はほとんど収まっていないことは丸分かりだった。「わー、おねえちゃん、凄いのが撮れたよお? ほら、見てみて?」
 ぱちぱちと手を叩き合わせ、秋穂が携帯の画面を示す。
 小さな四角い画面の奥に、哀れで淫らな自分の姿があった。尿意に苦しみもだえ、悲鳴を上げて下半身を震わせ、恥ずかしいところに押し当てたペットボトルにオシッコを注ぎ込み――やめてやめてと懇願しながら、それを途中で止める。
 もはや言い逃れのしようのない、自分自身の痴態だった。
 茜はポケットからハンカチを(当然、秋穂から取り上げたものだ)取り出し、地面に置かれたペットボトルをひょいと持ち上げたきらきらと輝く黄金色の中身をうわあと声を上げながら眺め、取り出した蓋をしてちゃぽちゃぽと揺すって見せる。
「うふふ、お姉ちゃん特製のおしっこ入りペットボトル600ml……あは。おカネ出しても欲しいって言う人いるかなぁ? ひょっとして。オークションに動画付きで出したりしたら売れたりしてね」
「や、やめてっ!!」
 あまりの恥ずかしい提案に、金切り声を上げてしまう秋穂。しかし奪い返そうにも、なお募る猛烈な尿意はそれ以上の自由を秋穂に許さない。
「ふふ、冗談だよお。それとも本当に売って欲しいの? お姉ちゃん、まだまだおしっこ出せそうだもんね」
「っ……」
「さ、じゃあオシッコも終わったし、帰ろっか、お姉ちゃん」
「え……、だ、だって……わ、わたし、まだっ……」
 一秒ごとにじりじりとせりあがるような尿意の波。下腹部を占領していた膀胱が幾分縮んだせいで、これまで身体のなかに留まっていた水分が、一気に膀胱へと流れ込んでいるのだ。
 乙女の健康な循環器を通り、作り立てほやほやの新鮮なオシッコがじゃぼじゃぼと膀胱に注がれているのが、秋穂にははっきりと感じられた。
 見る間にぱんぱんに膨らみ直した膀胱が内臓を押し上げ、圧迫し、胃の法までせまっているような、身体の中で風船のように大きくなっているような感覚。さっき飲んだばかりのミネラルウォーターで膨らんだ胃もちゃぽちゃぽと動き、その反応が膀胱を刺激する。
「それっておかしいよね? お姉ちゃん、オシッコ終わったんでしょ? ちゃんと私、約束通りお姉ちゃんにオシッコさせてあげたのに、約束破るの?」
「っ……」
 茜の指が、携帯のメール送信ボタンの上を滑る。あの動画を送ると言っているのだ。脅迫をちらつかされ、秋穂はそれ以上の抗弁を遮られてしまった。
「あ、茜ぇ……っ」
 脚の付け根は酷使され続けてじんじんと熱く、オシッコの出口がなおぴくぴくと痙攣する。都合半リットル以上にもなる熱湯を塞き止めるには、オシッコの出口の括約筋だけではとても間に合わず、秋穂は汚れた下着を押さえこんでぎゅうぎゅうと腰をよじる。
 ちょうど、両手を使ってたぷたぷに膨らんだ破裂寸前の水風船を持ち上げているようなもの。重さにこらえきれなくなると、水風船がすとんと落っこちて、そのまま中身の量に耐えきれずに破裂してしまうのだ。
 せめて。
 最後まで、あのペットボトルを一杯にしきるまで、オシッコを出せていれば――悔やむがもう遅い。今日最後のトイレは終わってしまった。もう、秋穂は明日まで、オシッコをすることを許されない。
「ねえ、ところでお姉ちゃん、言ったよねえ。こぼしたらもう一回『罰ゲーム』だって」
 飛び散った雫で、黒く染まった地面を指差し、くすりと微笑む茜の言葉に――秋穂はもはや抗う術を持たなかった。




 (初出:書き下ろし)
[ 2013/06/01 14:30 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)

dans la prairie 05 


 家から交差点の横断歩道をみっつと、歩道橋をひとつ。
 背の高い塀とそこから伸びた高い木の梢に囲まれたT字路は、見通しが悪い割にカーブミラーもなく、向こうから誰かがやってきてもすぐには気付けない。交通量があまりないことから放置されているが、色褪せた飛び出し注意の看板もここが危険な場所であることを訴えていた。
 このT字路に立つ電柱の根元が、志穂の散歩コース最初の『お花畑』であった。
 普段から友達にも犬みたいだと呼ばれる志穂だが、志穂はときどき、こうやって本当に自分の決めたお散歩コースを歩く、遊びをしている。耳の付いたフード付きのパーカーを羽織り、お小遣いで買ったチョーカーが首輪の代わりだ。
 ご主人様は居ないけれど、志穂はお利口なお犬さんなので、ちゃんと一人で『お散歩』ができる。目印になるのは人通りの少ない場所にある4か所の電柱。志穂が胸を高鳴らせながら、自分の『縄張り』を主張する場所である。
 そう。誰も居ない隙を見計らって、この4か所の『お花畑』である電柱の根元にたっぷりと我慢したオシッコを噴き付けてゆくのが、志穂のイケナイお犬さんごっこである。

 この遊びを思い付いた時、志穂の胸はそれを想像するだけでドキドキして、顔が真っ赤になってしまうくらいだった。過去に何度か我慢できなくて、道端でオシッコをしたことはあったけれど――自分でそれをしようと考えた時、志穂はまるで頭が沸騰してしまいそうに興奮する自分に気付いていた。
 最初の頃は、我慢したオシッコを途中で止めて次の縄張りである電柱――『お花畑』へ移動するのが大変で、途中の横断歩道の信号待ちなんかの間に思わずチビってしまったりしたものだが、今では一か所目の電柱ですっきりしてしまっても、次の電柱に来る事には自然に、おなかの奥からこぽこぽと尿意が湧き上がってくるほどだ。
 それどころか、志穂は学校でトイレに行きたいのをわざと我慢して、一度家まで帰って来てから着替えて、こうして『お散歩』に出ていくことすらあった。
 いつしか道ばたの電柱を、本当におトイレ代わりにしてしまっているという、とても恥ずかしい身体になってしまったことを実感し、志穂は顔を赤くする。
 けれど、イケナイことだと分かっていても、志穂はこのお犬さん遊びをなかなか止められずにいた。しゃがもうとしたところで見つかりそうになって慌てて逃げ出したり、パンツをおろしているところで友達に偶然会って不審がられたり、何度も危ないところを間一髪で助かって来たのだ。
 もっとも、冬になって雪が降ってからはすっかり余裕がなくなって――寒いのが苦手な志穂はお散歩を止めてしまっていたのだが――


 お母さんのお手伝いで、買い物がえりの途中。牛乳パックが2本入った重いスーパーの袋を抱えた志穂は、たまたまお散歩コースの途中にある電柱のひとつを通りがかったのだ。
「…………」
 志穂の『お花畑』――電柱の根元には、おそらく誰かが作ったのであろう可愛らしい雪ウサギがちょこんと二匹、並んでいた。誰かがこの雪を勿体なく思って、作ったのだろう。並ぶ雪ウサギはまるで兄弟みたいに身を寄り添わせている。
 心が温まるような微笑ましい光景――けれど。志穂には違っていた。
「…………………」
 じっと、電柱の足元の雪ウサギを見降ろし、志穂は頬を膨らませる。
 ここは志穂の場所だ。志穂の『お花畑』なのだ。いつも志穂がお散歩の旅に縄張りを主張しているはずのそこが、まるで誰かに奪われてしまったみたいだった。
 これを作った誰かは、間違いなくここが志穂の『お花畑』であることを知らないはずだった。もちろん知られちゃったりしても困るのだが……けど、けれど、それでも。
 志穂だけの秘密の場所が、誰かに占領されてしまったみたいで、なんだかすごく――イライラした。
(私がいけないんだ)
 寒いからって、お散歩を止めてしまっていたから。ちゃんと、ここが自分の場所であると、志穂の『縄張り』だと宣言するのをサボっていたから。誰かに、ここが勝手に使われてしまったのだ。
 ――そんな身勝手は、許されない。
 志穂の胸の中に、強くイジワルな感情が込み上げてきた。ここは自分の場所だ。志穂だけの場所だ。恐らく、志穂よりも小さな子が、寒い中小さな手を赤くして、一生懸命頑張って作ったのだろう雪ウサギ。
 それを、思い切り――滅茶苦茶にしてしまいたいという、嗜虐的な誘惑。
 一度思いついた想像は、どんどんと膨らんで志穂自身にも押さえきれなくなってしまっていた。
 或いは。
 昨日、クラスの女子達と頑張って作り上げたかまくらを、笑いながら踏み潰していった男子達の横暴が、志穂の胸に暗い影を落としているのは間違いない。
 これ以上、自分の場所を奪われるなんて、ごめんだった。
(…………)
 こくり、と硬い唾を飲み込んで、志穂は慎重に周囲を窺う。積もった雪の中、普段は頻繁に走りぬけてゆく車の影もなく、遠くを歩く人たちも雪の中で傘を深く傾け、周りを気にしている様子はない。
 志穂は少し離れた場所に買い物袋を放り投げ、ひんやりと足に触れる冷たさの中、志穂は防寒のタイツを膝まで引き下ろしてしゃがみ込んだ。高鳴る胸と共に、寒さでつんと高まった下腹部の衝動を、解き放つ。
 電柱の前ですっかり準備が出来ていたみたいに、志穂のオシッコは脱ぐと同時に脚の付け根から強く迸った。寒い中でじっと我慢していた水流は色も匂いも濃く、勢いよく迸り、雪ウサギを直撃する。黄色い水流がみるみる雪うさぎを直撃し、もうもうと湯気を立ち上らせながらその身体を溶かしてゆく。
 まるでレーザービームのように、志穂は隣のウサギにも照準を定め、オシッコを噴射した。二匹目のウサギも志穂のオシッコによって融け、じゃばじゃばと降り注ぐ黄色い海の中に沈んでゆく。
(あは……っ)
 無邪気な残酷さを見せる、志穂の表情に笑顔がのぞく。
 ぞくぞくと身体の奥に熱い衝動が高まってくる。いつものお散歩コースのように、身体の次の『お花畑』を求めて動き出していた。
 志穂はゆっくりと腰を振って雫を斬ると立ち上がり、買い物の途中なのも忘れて、次の『縄張り』へと向かって走り出した。




 (初出:書き下ろし)

 
[ 2013/04/19 21:23 ] 小説 | トラックバック(-) | コメント(-)
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